AMSY
(Average Maximum Sustainable Yield)
平均最大持続生産量
平均的な加入量において持続的に利用可能な最大の漁獲量。平均的な加入量が維持されFmax(下項参照)で漁獲を続けたときに達成される。IATTCで用いられている。→SSBAMSY
ABC
(Allowable Biological Catch)
生物学的漁獲可能量、生物学的許容漁獲量
水産資源を持続的に利用するために生物学的に推奨できる(許容される)漁獲量。漁獲割当量(漁獲枠)を決定するための科学的な根拠となる。
Abundance index 資源量指数
資源豊度の指標となる情報。調査船による魚の密度や現存量の推定値、漁業の標準化CPUE(下項参照)、等が用いられる。
ADAPT-VPA (アダプト・ブイピーエイ)
年齢別漁獲尾数とCPUE等の資源量指数を用いて年齢別資源尾数を推定するVPA(下項参照)の一種。北米東海岸の資源評価、及びICCAT、NAFOにおいて年齢別漁獲尾数データが得られる場合の標準的な資源評価手法となっている。
Age at sexual maturity 性成熟年齢
性成熟に達する年齢。本報告では50%の個体が性成熟する年齢で示すことが多いが、出典によっては平均性成熟年齢等を提示する場合もある。→本資料の「生物学的特性」も参照
AIS
(Automatic Identification System)
自動船舶識別装置
国際VHF無線を用いて、船舶の識別信号(コールサイン)、船名、位置、針路、速力、目的地等のデータを船舶局同士や陸上局との間で自動的に交換、表示し、船舶を識別する装置。我が国の電波法令では「船舶自動識別装置」と呼ばれる。
Anadromous fish species 溯河性(さくかせい)魚種
淡水で生まれて降海して成長し、産卵のために海から川へ遡上(そじょう)する回遊・生活史を持つサケ・マス類等の魚種。NPAFC(North Pacific Anadromous Fish Commission)の和訳名を北太平洋溯河性(さくかせい)魚類委員会としており、本報告も倣っている。遡河(さっか、そか)性魚種という場合もある。
Antarctic front
(Antarctic convergence line)
南極前線、南極収束線、南極収斂(しゅうれん)線
南極の周囲の南緯約45度から60度にある、暖流(亜熱帯海流)と寒流(南極海流)の境界。位置は一定していない。この境界では水温、塩分等の海洋環境が大きく変化し、気象上の前線も形成される。また、海洋生物の分布の境界としても重要。
Archival tag
(data storage tag)
アーカイバルタグ
データ記録式(型)電子標識。調査対象の生物に装着して放流し、各種センサーによる生息環境の水温・圧力(深度)・照度や体温等の計測値、演算処理した情報(緯度・経度等)を連続的にメモリーに記録する。記録されたデータを取得するためには再捕獲されて標識が回収される必要がある。
ASAP
(Age Structured Assessment Program)
(エイサップ)
統合資源評価モデルの一種で、統計的年齢別漁獲尾数モデル(Statistical Catch at Age Model)の一つ。ADAPT-VPAの様々な仮定(年齢別漁獲尾数は正確、漁具能率一定、等)を緩めた資源評価モデル。
A-SCALA
(Aged-structured Statistical Catch-At-Length Analysis)
(エイ・スカラ)
IATTCで資源評価に用いられていた、漁獲量、努力量及び体長組成データを用いた統合資源評価モデル。モデル内で漁獲物の体長組成を年齢組成に変換するのが特徴。複数の(年齢別選択性が異なる)漁法に対応し、努力量とF(下項参照)の関係に誤差があること、漁具効率に経年変化があること、加入量に変動があること、環境要因と加入量、漁具効率に何らかの関係が予想されること、等を考慮できるのが特徴。Multifan-CL(下項参照)との違いは、海域間の移動を考慮しない点。
ASPIC
(A Stock Production Model Incorporating Covariates)
(アスピック)
非平衡プロダクションモデル(下項参照)の一種。年齢別漁獲尾数データが得られない場合の資源評価に使われることが多い。最新のASPICでは、推定する各パラメータに事前分布を設定することもできる。
ASPM
(Age Structured Production Model)
年齢構成プロダクションモデル
プロダクションモデルとVPAの中間的な資源評価モデルであり、資源の年齢構成は考慮するが年齢別漁獲尾数あるいは年齢組成データを使用しない。→プロダクションモデル、VPA
Associated set
付き物操業
素群れ(すむれ)操業(free swimming school set(下項参照))と異なり、自然物の流木・竹や人工物の漂流物、人工集魚装置(FAD(下項参照))等に蝟集(いしゅう:群がり集まること)する魚群に対する操業(流れもの操業)。海面付近を遊泳する大型のサメ類や鯨類に付く魚群を対象とする操業もある(サメ付き操業、イルカ付き操業)。
B
(Biomass)
資源量
本報告では、漁業の対象となる生物の個体群(stock(下項参照))における漁獲対象となり得る生物総重量のこと。親魚量(下項参照)の意味で使われる場合もある。
B0 初期資源量(処女資源量)
漁業開始前の資源量(親魚量の場合もある)。漁業開始時点のデータがない場合は推定困難であり、平均的な加入量と死亡率から外挿して計算することもある。漁獲がないと仮定した場合の推定資源量(親魚量)を意味する場合もある。→SB0
Baveg (ビー・アベレージ)
平均加入量Ravegに対応する資源量(親魚量)。BMSYの代用値とされる。→加入量R
Blimit (ビー・リミット)
望ましくない資源状態(親がごく少なく加入量が大幅に減少、等)になる確率を最小にすることが見込まれるBの下限値であり、これを下回るとより厳しい資源管理(漁獲制限)や回復措置を発動する閾値とされることが多い。
BMSY (ビー・エムエスワイ)
MSY(下項参照)を達成可能な資源量(親魚量)。
Bait boat, Pole and Line 竿釣り
海の表層に分布するカツオ、ビンナガ、キハダ等を、漁船から散水(シャワー)しながらカタクチイワシ等の生き餌を撒いて集群させ、擬餌鈎または餌鈎の付いた竿で一尾ずつ釣り上げる漁法。カツオの一本釣りが有名。
Barotrauma 気圧障害
高い水圧のかかる深海に生息するアカウオ類等の魚を漁獲して海面まで引き上げた際に急激な減圧によって、鰾が膨張して口から飛び出したり、眼球が飛び出たりする等、魚体がダメージを受けること。
Bayesian Statistics ベイズ統計
ベイズの定理に基づいて構築された統計学の流派。近年の計算機の発達によって現実的なモデルが取り扱えるようになったので急速に水産の分野にも普及してきた。
Beverton-Holt stock-recruitment model ベバートン・ホルト型再生産曲線(式、モデル)
資源評価で用いられる親魚量と加入量の関係式の一つ。親魚量が低い水準では親魚量の増加とほぼ正比例して加入量が増加するが、親魚量が増大するにつれて密度効果によって加入量の増加が頭打ちとなる関係。→リッカー型再生産曲線、ホッケースティック型再生産モデル
Biological minimum size 生物学的最小形
性的に成熟する最小の体サイズ。体長で表されることが多い。
Body length 体長
水産の現場での魚類等の体長(体サイズ)の表し方(測定部位)は、種類(体型)や目的によって様々なものが用いられる。カツオ・マグロ類やサケ・マス類、キンメダイ等では尾叉長(下項参照)、アカウオ類等では全長(下項参照)、サンマでは肉体長(下顎端―尾柄肉質部末端)、カジキ類では下顎叉長や眼後叉長、サメ類では全長や尾叉長、尾鰭前長(下項参照)が用いられることが多い。また、鯨類では上顎先端から尾鰭切れこみまで、トドでは吻端から尾端までの直線距離、イカ類では外套長(外套膜(筒)の背側の長さ)、オキアミ類では額角先端から尾節末端までの長さ、海亀類では甲長(直、曲)等が用いられる。→全長
(nonparametric) Bootstrapping (ノンパラメトリック)ブートストラップ法
無作為にリサンプリングするシミュレーションを繰り返すことにより仮想のデータを大量に作成して、その分散や平均を計算することによって推定値の精度や偏りを検討する方法。一般に、ブートストラップ法(Bootstrapping)という場合にはノンパラメトリックなブートストラップ法を指すことが多い。→パラメトリックブートストラップ法
Bottom trawl 底びき網(底曳網、着底トロール)
袋状の網で海底上を曳き回し海底付近の魚類等を漁獲する漁具あるいは漁法。対象種、形状・構造、海域等で様々な種類に分類される。網を着底させずに海面付近や中層を曳くものは表層トロール(surface trawl)や中層トロール(midwater trawl)。
BRP
(Biological Reference Point)
生物学的管理基準値
資源状態を表すのに用いられる資源量や漁獲レベルの基準値であり、多くの場合、単にReference point(管理基準値)と書かれる。直接的に資源量や親魚量等を基準とする場合もあるが、F(下項参照)に基づくことも多い(例:FMSY、Fmed、Fmax等。資源管理を行う際に、乱獲状態・乱獲行為(下項参照)の発生の有無等を判断するための基準として用いられる。漁獲管理ルールにおいては目標管理基準値(Target reference point)や限界管理基準値(Limit reference point)、閾管理基準値(Threshold reference point)、トリガー管理基準値(Trigger reference point) 等が設定される(下項参照)。
BSP, BSPM, BSP2
(Bayesian Surplus Production Model)
SS-BSP, BSSPM
(Bayesian State-Space Surplus Production Model)
ベイズ型プロダクションモデル
プロダクションモデルの各パラメータに事前分布を導入してベイズ的なアプローチを取り込んだプロダクションモデル。近年、ICCATでは、標準的な資源評価手法の一つとして使われている。
BSP2は、資源量のプロセス誤差をモデル化できるようにしたBSPの拡張版。SS-BSPないしBSSPMは、状態空間モデルを導入したBSPの拡張版。
(Fishing) Capacity 漁獲能力
本報告では、漁船の大きさや漁具だけでなく、船速や魚群の探索能力、稼働率等も加味した当該漁業による潜在的な漁獲する能力を意味する。(水産、船舶の分野で用いられる魚艙容積、あるいは個体群生態学等で用いられる環境収容力を意味するCarrying Capacityとは異なる。)
CASAL
(C++ Algorithmic Stock Assessment Laboratory)
(キャサル)
ニュージーランドで広く使われている資源評価モデル。統合資源評価モデルの一種で複数種、系群、回遊をモデル化することができる。
CITES
(Conservation on International Trade in Endangered Species of wild Fauna and Flora)
ワシントン条約(サイテス:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)
絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引がある輸出国と輸入国が協力して規制を実施することにより、それらの採取・捕獲を抑制し保護を図ることを目的とする条約。IUCNが中心となり条約作成準備が行われ、1973年に米国のワシントンで採択、日本は1980年に締約国となった。対象となる動植物種の絶滅のおそれの度合いにより同条約附属書I−IIIのいずれかに記載され、国際取引の規制が実施される。
Close-kin analysis 近親遺伝解析(クロスキン法)
親と子のような近親関係をもつ個体のペアでは遺伝子を共有していることを利用して、例えば親魚と幼魚から遺伝子標本を統計的にサンプリングした際の近親関係のペアの頻度から親魚の個体数を推定する手法。ミナミマグロで初めて実用化された。
CMSY (シーエムエスワイ)
ベイズ的なアプローチを取り込んだプロダクションモデル(BSP(上項参照))の一種。CPUEを使わずに漁獲量及び生産力からMSY管理基準値を計算する手法。→MSY
CPC
(Contracting Party and Cooperating Non-Contracting Party)
締約国及び協力的な非締約国
国際条約を締結し条約を実施する義務のある国・地域(締約国)と、条約を締結していないが条約の目的、内容を遵守する国・地域。
CPUE
(Catch Per Unit Effort)
単位努力量当たり漁獲量
漁船1隻1操業(日)当たり、あるいは、底びき網では1曳網当たり、流し網では1反当たり、はえ縄では(1,000)鈎当たり、といった単位化した漁獲努力量当たりの漁獲尾数(重量)。漁獲対象種の密度の指標となり、資源豊度と比例すると考えられ、資源量指数として用いられる。まき網のように指数としての努力量の単位化が自明でない漁業もある。統計的に標準化処理等を行った上で資源量指数として用いられることが多い。→ノミナルCPUE、標準化CPUE、プロダクションモデル
Critical Weight   ----
理論的に加入量当たり漁獲量(YPR(下項参照))を最大にできる体重。漁獲物の平均体重がこの値に近ければ近いほど最大の漁獲が得られる。
CV
(Coefficient of Variation)
変動係数
データのばらつきを表す統計値である標準偏差を平均値で除した値。100を乗じて(%で)示すことも多い。スケールの異なるデータのばらつきを直接比較することができる。
Deep set 深縄(ふかなわ)
まぐろはえ縄において、深い水深にいるメバチ等を狙って釣り鈎を深く設置する操業方式。通常は一鉢(ひとはち:縄の浮き玉と浮き玉の間)当たりの釣り鈎数(枝縄)を多く(10本以上)して、到達水深を深く(200〜350 m)する。→はえ縄
Downlist, Downlisting ダウンリスト、ダウンリスティング
CITESにおいて、ある生物種の位置付けを付属書I→II等、より制限の緩い範疇に修正すること。逆に制限の強い範疇への修正はUplist、Uplisting(アップリスト、アップリスティング)。
Drift gill net, Driftnet 流し網(ながしあみ)
刺網を錨、錘等で海底等に固定せずに表層を潮流や風で流して使う漁法あるいは漁業。→刺網、大目流し網
EEZ
(Exclusive Economic Zone)
排他的経済水域
沿岸国の領海基線から200海里(約370 km)までの海域(領海部分を除く)であって、この海域における生物資源、海底資源の採取や管理等に関して、当該沿岸国の主権的権利が及ぶとされる海域。
Effective effort 有効努力量
単位当たりの漁獲努力量がFと比例するように操業海域の面積や鈎数等の単位で補正した努力量。
Ekman transport エクマン輸送
洋上を吹く風の応力によって直接起こされる流れをエクマンの吹送流といい、エクマン吹送流によって生じる正味の水の輸送をエクマン輸送という。水は、北(南)半球では風向に対して90度右向き(南半球では左向き)に運ばれ、その大きさは、τを水面に働く風の応力、fをコリオリの因数として、τ/fであたえられる。
Exploitation Rate 資源の漁獲利用率
漁獲量を資源量で除した値(割合)
F
(fishing mortality)
漁獲(死亡)係数
漁獲圧(力)
漁獲での死亡による資源の減少率の大きさ(漁獲の強さ)を表す係数。人為的に管理可能。通常、ある年(t)の資源尾数をNt、翌年をNt+1とするとNt+1 = Nt・exp(-F-M)と表される(M:自然死亡係数(下項参照))。
漁獲圧(力)の意味でも使われる。
F0.1 (エフ・ゼロポイントワン)
YPR(下項参照)とFの関係を表す曲線において原点における傾きの10分の1の傾きに相当するF(右図)。経験的に安全な管理基準として資源管理に用いられる。 fig1
Fcurrent (エフ・カレント)
現在または現状のF。資源評価を実施した時点の直近年もしくは最近数年間平均のF。通常、資源評価の最終年のFの推定精度は低く、Fは年変動も大きいことから、最終年を含めた数年分のFは使わずに数年程度遡った3年程度の算術平均もしくは幾何平均をとることも多い。また、統合資源評価モデルやVPAでは、年齢によってFの値も異なるので、特定の年齢(例:最高齢)のF、年齢別Fの最大値、ある管理基準(例:FMSY)に対する相対値等を使用する。どの年を使用するか、どの求め方で出すかは各RFMOあるいは魚種によって異なる。
Flimit (エフ・リミット)
望ましくない資源状態(親魚量がごく低い水準、等)になる確率を最小にすることが見込まれる、資源生物学的に推奨されるFの上限値。
Fmax (エフ・マックス)
年齢別選択率を固定したときにYPR(下項参照)を最大にするF(右図)。年齢別選択率は変わらないで漁獲の強さが変わるとして考えるが、実態にはあまりそぐわない。 fig1
Fmed (エフ・メディアン、エフ・メド)
親魚量と加入量の関係(毎年のデータ点のプロット)で中央値(メディアン)に対応するFであり(右図)、Fmedで漁獲すると資源量は一定の水準で維持されることが期待される。 fig2
FMSY (エフ・エムエスワイ)
MSY(下項参照)を達成するF。
Fmultiplier (エフ・マルチプライヤー)
対象とするFを何倍すればFMSYとなるかを示す比率。
FSSBx% (エフ・エスエスビー x パーセント)
将来の親魚量が、過去の歴史的な親魚量の変動の下限(最小値)からx%の親魚量(例えば過去100年間の親魚量の変動のデータがあるときに最小値から順番に過去の親魚量の値を並べたときのx番目の親魚量)を一度も下回らないようにするF。
Ftarget (エフ・ターゲット)
確実な資源の維持・回復を期待する場合の目標となるF。Flimitよりも予防的な管理措置となる。
F%SPR (エフ・パーセントエスピーアール)
%SPR(下項参照)に対応するF。
FAD, FADs
(Fish Aggregating Devices)
人工浮き魚礁、人工集魚装置(ファッド、ファッズ)
漁獲対象となるカツオ・マグロ類等の魚群を人為的に蝟集させる目的で作られる人工筏、ブイ等。RFMOの管理上は集魚効果のある浮遊物全てが含まれる場合がある。錨等で固定せずに漂流させて使用するものはDFAD(Drifting FAD)、錨等で海底に固定するものはAFAD(Anchored FAD)という。→付き物操業
(tuna) Farming/Fattening (マグロ)養殖・蓄養
一般的に、畜養(fattening)は比較的短期間(数か月)の給餌養殖を指し、養殖(farming)は稚魚もしくは幼魚から比較的長期間(数年)の給餌養殖を指すことが多い。一方、農林水産省の定義では、短期、長期の給餌養殖のどちらも養殖となる。また、数か月の養殖をfarmingと記載することもあり、日本語での養殖・畜養、英語でのfarming/fatteningは厳密に区別されていない。本報告の中では基本的に、比較的短期間の養殖については“畜養(養殖)”、長期間の養殖は“養殖”と記載する。
Flag of Convenience Vessels 便宜置籍船
税制上の優遇措置を得るため、便宜的に船籍を他国籍へ置籍した船。近年では漁獲規制から逃れるために行われることもある。
Fork length 尾叉長
上顎前端から尾鰭中央部の切れ込み(尾叉)までの長さ。カツオ・マグロ類をはじめとする叉状の尾鰭を持つ魚類の体長を表すのに多く用いられる。上顎吻が伸長するカジキ類では測定部位が少し異なり、眼後叉長(眼の後縁―尾叉)や下顎叉長(下顎前端―尾叉)が用いられる。
Fratio (エフ・レシオ)
VPAにおけるプラスグループ(下項参照)のFと、プラスグループを除いた最高年齢のFとの比。
Free swimming school set 素群れ(すむれ)操業
付き物操業(上項参照)と異なり、蝟集する対象が無く遊泳している魚群に対する操業。海鳥の群れや魚群の摂餌行動(白湧きや跳ね群等)を目印として魚群を発見して漁獲する。
GAM
(Generalized Additive Model)
一般化加法モデル
一般化線形モデル(GLM(下項参照))の線形予測子を、非線形な関数の和としたモデル。これにより1つの説明変数だけでなく2種類以上の説明変数に対しても適用できるように拡張したもの。この時の非線形な関数には、局所回帰関数、平滑化スプライン、Bスプライン、自然スプライン等が用いられる。
Generalized Production Model 一般化プロダクションモデル
プロダクションモデルで資源量と余剰生産量(漁獲)の関係を表す曲線(下のMSYの項の図を参照)がMSY(上に凸となる曲線の頂点)を中心に対称、非対称となっているどちらの関係にも対応するモデル。資源の増加量の密度効果による変化をべき乗式で表す。Pella-Tomlinsonモデルと呼ばれる。→一般化加法モデル(GAM)
Genetic markers 遺伝子マーカー、遺伝マーカー、DNAマーカー
ある性質をもつ個体に特有のDNA配列。一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)、制限断片長多型(Restrition Fragment Length Polymorphism:RFLP)、単純反復配列(Microsatellite)等が用いられる。
Gill net 刺網(さしあみ)
上側に浮子(あば、うき)、下側に沈子(ちんし、おもり)を付けて水中に張った網の網目に魚体がからまったり、刺さったり、エラ(gill)ぶたが引っ掛かったりして漁獲される漁具、漁法あるいは漁業。海底等への固定の有無や形状等で様々に分類される。→流し網、大目流し網、反(たん)
GLM
(Generalized Linear Model)
一般化線形モデル
魚の成熟率のように0から1の間の値しかとらない量や、漁獲尾数のように非負の整数値しかとらない量を正規分布の場合の線形モデルと同様に解析するのに用いる。扱える確率分布はポアソン分布やガンマ分布、二項分布等指数分布族と呼ばれる確率分布の種類で、実用上重要な確率分布の多くがこの範疇に属する。この手法は、ノミナルCPUEから資源の変動要素のみを抽出するCPUEの標準化に用いられる。→標準化CPUE
Growth Curve 成長曲線
年(日)齢と体長(体重)の関係を表す関数であり、魚類においてはvon Bertalanffy、Gompertz、Logisticの成長式らがよく用いられ、特にvon Bertalanffyの成長式が最も一般的である。Richardsの成長式はこれらの式を統一的に記述したもの。
Growth Overfishing 成長乱獲
資源に対する漁獲圧が高すぎて、個体が十分に成長する前に漁獲されてしまい、大きい個体が非常に少なくなってしまうこと。加入量当たり漁獲量(YPR、下項参照)が低くなってしまう。
Habitat model ハビタットモデル
魚の分布情報から得られる好適生息環境指数(HSI: Habitat Suitability Index)と漁具の分布を考慮して漁具の有効努力量を求め、CPUEを標準化するモデル。HSIには記録式標識等で収集した遊泳水深や水温等のデータが用いられ、例えば鉛直方向の分布が非常に浅いカジキ類等、分布に偏りがある場合に有効な手法。主に南西太平洋と東部太平洋のマグロ類、カジキ類で用いられている。ヒントン・中野モデルとも呼ばれる。
Hand harpoon 突きん棒
通常、船首に突き台を備える小型漁船を用い、海面付近にいるカジキ類等の漁獲対象となる動物を視認して突き台から手投げで銛(もり)を打ち込んで漁獲する漁法。
Harvest Control Rule
(HCR)
漁獲管理ルール(規則)、ハーベストコントロールルール
資源状態に応じた漁獲率等の管理方策を予めルールとして合意し決めておくもの。
Highly migratory species 高度回遊性魚種
排他的経済水域(EEZ(上項参照))の内外を問わず広く回遊する魚種。
HITTER-FITTER ヒッター・フィッター法
過去の捕獲頭数と資源量推定値ならびに年齢別死亡率等の生物学的特性値等の入力データを用いて、資源動態モデルにより初期資源量や捕獲開始以降の毎年の資源量を推定するプログラムで、IWCでひげ鯨類の資源変動推定に用いられている。
Hockey stick stock-recruit model ホッケースティック型再生産モデル
資源評価で用いられる親魚量と加入量の関係式の一つ。ある親魚量の水準までは加入量が親魚量の増加と線形関係で増加するが、親魚量がその水準以上になると加入量が一定となる関係。
Indian Ocean dipole (インド洋)ダイポール(モード)現象
太平洋におけるエルニーニョ現象に類似した現象であり、インド洋熱帯域において夏から秋にかけて東部で海水温が低くなり、西部で海水温が高くなる現象。正のダイポール現象が発生すると、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より低く、西部で海面水温が高くなり、負のダイポール現象では、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなる。
Integrated analysis, integrated stock assessment model 統合モデル、統合(型)資源評価モデル
年級群(コホート)を単位として資源の動態を考え、漁獲量や努力量、資源量指数、漁獲物のサイズ・年齢組成、標識放流データ、等の様々な情報を元の生データに近い形でまとめて入力し、資源量やF等を一括して推定するようなモデルのこと。
Intrinsic natural growth rate 内的自然増加率
個体群生態学において、その生物が潜在的にもっている最大の繁殖増加率。
IQ,ITQ
(Individual <Transferable> Quota)
個別漁獲割当量、譲渡可能個別漁獲割当量
IQは、漁獲割当量(漁獲枠)を漁業者、漁業団体または漁船ごとに配分する方式。ITQは、IQの割当量を他者と取引することが認められた方式。
Isolated (epi) pelagic egg 分離浮性卵
卵のタイプの一つで、産出された後に海中を浮遊し、かつ何かに付着したり塊になったりするための粘着性を持たない卵。(反対の性質のものは沈性卵、粘着卵)
Iteroparous spawning 多回産卵
産卵期に何回も繰り返し産卵すること。マグロ類では産卵期にはほぼ毎日産卵するものが多い。これとは異なり、遡河性のサケ類は一生に一度だけ産卵する一回産卵である。
IUCN
(International Union for Conservation of Nature)
国際自然保護連合
1948年に設立された国家、政府機関、非政府機関で構成された国際的な自然保護機関。世界中の生物多様性保護に取り組む専門家からなる6つの専門委員会(種の保存委員会、世界保護地域委員会、生態系管理委員会、教育コミュニケーション委員会、環境経済社会政策委員会、環境法委員会)を有する。
IUU fisheries
(Illegal, Unreported and Unregulated Fisheries)
違法・無報告・無規制漁業
違法で管理されておらず、規制を遵守せず無秩序な操業を行い、その漁獲をどこにも報告しない漁業。水産資源に悪影響を及ぼし、適切な資源管理を損なうおそれがある。→ポジティブリスト
JABBA
(Just Another Bayesian Biomass Assessment)
(ジャバ、ジャッバ)
ベイズ的なアプローチを取り込んだベイズ型プロダクションモデルの一種。BSP2(上項参照)よりもプロセス誤差や観測誤差に対して柔軟で、自動的に複数の資源量指数データにあてはめることが可能な手法。
Kobe chart (plot) 神戸チャート(プロット)
横軸に資源量(親魚量)、縦軸にFをとって、各年の値をプロットしたグラフ。通常、管理基準(例:BMSY、FMSY)に対する相対値を使い、基準値で区切られた各象限をそれぞれ赤(SSB > BMSYかつF > FMSY(乱獲状態かつ過剰漁獲))、黄(SSB < BMSYまたはF > FMSY)、緑(SSB > BMSYかつF < FMSY)に塗り分けることが多い。名称は神戸で開催されたRFMOの会合に由来する。
Large mesh drift gill net 大目(おおめ)流し網
海の表層に分布するマグロ類、カジキ類を対象に網目が15-20 cm程度とやや大きい流し網を用いる漁法あるいは漁業。主に夜間に網を6時間程度流す。→流し網、刺網
Limit Reference Point
(LRP)
限界管理基準値
各RFMOで定めた管理目標に基づき、逸脱する確率を最小にとどめるべき資源の水準(B:資源量あるいは親魚量)もしくは漁獲の強さ(F)、あるいは両方。Bの場合は下限値となり、Fの場合は上限値となる。
Lognormal (Distribution) 対数正規分布
自然対数をとると正規分布となる分布。正の値のみをとり、右に裾の長い分布となる。生物現象を説明するのに用いられることが多い。
Longline はえ縄(延縄)
釣り鈎の付いた枝縄を多数付けた長い幹縄を設置して魚を釣獲する漁法。海の中層を遊泳する中・大型のマグロ類を主に狙うまぐろはえ縄では、幹縄を浮き玉(ボンデン)に付けた浮縄で吊る形で海中に水平方向に設置する。大型船では1回の操業で100 km以上の幹縄に2,500〜3,000本程度の枝縄が使用される。餌としてイカ、アジ、サバ、イワシ、サンマ等が用いられる。底魚のタラ類等を狙う底はえ縄では幹縄を海底に設置し、キンメダイ等を狙う底立てはえ縄では幹縄を海底から立ち上げるように設置する。
M 自然死亡係数
漁獲以外の要因(被食、病気等)での死亡による資源の減少率の大きさを表す係数。通常、人為的に管理できない。→漁獲(死亡)係数F
Management Objectives 管理目標
資源管理で達成すべき目標(例:MSYの達成、等)。
Mixed Layer Depth
(MLD)
表層混合層深度
鉛直混合により海水温が海面付近からほぼ一定となっている層の海面からの深さ(厚さ)。
MP
(Management Procedure)
管理方式
資源や漁業が変化した際の管理措置(例:TAC)を決めるための一連の手順を事前に決定しておく仕組み。代表例はIWCの改訂管理方式やミナミマグロのバリ方式。→オペレーティングモデルOM
MSE
(Management Strategy Evaluation)
管理戦略評価
漁獲管理ルールや管理方式により期待される性能(管理効果)を、資源の個体群動態、漁業データ等の仮想データ上でのシミュレーションで評価する仕組み。
MSY
(Maximum Sustainable Yield)
最大持続生産量
古典的な定義は、資源を持続的に利用可能な最大の毎年一定の漁獲量を指す。プロダクションモデル等に基づく管理目標(右図)として広く認知されている。現代的な定義は、資源が変動する状況において、ある特定の管理方策(一定の漁獲率(割合)、一定の獲り残し量、等)で長期的・持続的に実現可能な最大の漁獲量の平均を指すことが多い。 fig3
Multifan-CL (マルチファン・シーエル)
統合資源評価モデルの一種。WCPFCでの資源評価で主に使用されている。漁獲量、努力量、体長データ、標識放流データ等の多くの情報を取り込み、体長データを積極的に活用する。海域間の移動もモデル化しており、海域毎の資源量の計算も可能である。
NEI
(Not Elsewhere Included)
(エヌイーアイ、ネイ)
漁獲国を特定できない漁獲量を示す。ICCAT、FAO等で使用している。
Nominal CPUE ノミナルCPUE
漁船や調査船の漁獲量と努力量の元データからそのまま計算し、標準化処理等を行っていないCPUE。標準化CPUE(下項参照)と区別する形で使われる。資源の変動以外の様々な要因の影響を大きく含む場合も多いため、資源評価の解析には標準化CPUEが用いられることが多い。
Non-equilibrium surplus production model 非平衡プロダクションモデル
資源が平衡状態にあることを仮定して推定する通常のプロダクションモデルに対し、その仮定を用いず非平衡状態でも適用可能なプロダクションモデル。現在は、こちらの方を用いるのが一般的。
Ocean age 海洋年齢
サケ・マス類における降海後の越冬回数。
Olympic style
(fisheries management)
オリンピック方式
全体の漁獲枠(漁獲してよい量)を決めて個別の漁業者等の割当量は決めず、各漁業者等が早い者勝ちで漁獲枠を消化していく管理方式。
Operating Model
(OM)
オペレーティングモデル
個体群動態、漁獲、資源評価、管理も含めたシミュレーションモデル。資源評価モデルにオペレーティングモデル(仮想の現実)で作られたシミュレーションデータを解かせて、オペレーティングモデルの結果(答え)と比較することで資源評価モデルの問題点を検討することが出来る。また、MP(上項参照)のような管理方策の検討を行うことも可能である。ケープタウン大学のバタワース教授が名付け親。→管理方策MP
Otolith 耳石
カルシウムを主成分とし、魚の内耳の三半規管内の有毛細胞の上にあって加速度を検出して平衡感覚をつかさどる。魚類の耳石には扁平石(sagitta)、礫石(lapillus)、星状石(asteriscus)の3種類が左右一対ずつあり、通常、耳石といえば最も大きい扁平石を指し、齢査定にも多く用いられる。耳石の成長には季節や生活史による変化があり、それにより透明帯と不透明帯が形成されることを利用して年齢を読み取る。また、1日1本の微細な輪紋が形成される種もあり、これを計数することで日齢を推定する。
Overfished 乱獲状態
資源量が過剰な漁獲(高過ぎるF等)によって、これ以下では資源状態が適切ではないと考えられる閾値を下回った状態。例えばBMSYを下回れば乱獲状態と判断される場合もある。資源水準で判断するので、判断時のFが低くても乱獲状態とされる場合や、反対にFが高くても乱獲状態ではないと判断される場合もある。
Overfishing 乱獲行為(過剰漁獲)
狭義には、Fが、ある最適な水準(例:FMSY)よりも高くなることをいう。実際の漁獲量が漁獲割当量を上回るような過剰な漁獲が行われるような場合にも使われる。
Parametric bootstrapping パラメトリックブートストラップ法
最尤法等で確率分布を仮定したモデルをデータに当てはめ、推定したモデルから仮想のデータを大量に作成して、その分散や平均を計算することによって推定値の精度や偏りを検討する方法。→ノンパラメトリックブートストラップ法
PBR
(Potential Biological Removal)
(ピービーアール)
最小個体数推定値(信頼範囲の20%下限値)、純増加率、回復係数により算定される個体群の維持・回復を可能とする生物学的な間引き可能量。米国海産哺乳類保護法で採用された混獲等の人為影響を評価する指標(とその算出法)。国内では小型鯨類の捕獲枠やトドの採捕上限頭数の設定に利用されている。
Pinger
(ultrasonic tag)
ピンガー(音波標識)
調査対象の生物に装着して用いる超音波パルス信号を発する小型発信機。センサーを備えて水温・圧力(深度)等の計測データの送信が可能なものもあり、行動生態・生息環境に関する情報をリアルタイムで収集できる。超音波信号の伝播距離が限られるため、調査は、通常、ピンガーからの信号を頼りに対象生物を調査船で追跡するか、対象生物の行動範囲にあらかじめ受信装置を配置しておく形で行う。
(Placental) Viviparity 胎盤型胎生
サメ類等にみられる、胎盤を通じて母体から胎仔に栄養を供給する繁殖様式。同じくサメ類等にみられる非胎盤型胎生(卵胎生ovoviviparity)は、母体内で胎盤を介さず胎仔が自身の卵黄を消費して成長する様式。その他にも胎生の繁殖様式には様々な種類がある。詳細については、本報告の「その他外洋性サメ類」の表1参照。
Plus group プラスグループ
VPA、コホート解析において、ある年齢以上をまとめた年齢群。→F-ratio
Polar front 極前線(寒帯前線)
極・高緯度からの寒冷な水塊(寒帯または亜寒帯水)と中緯度の温暖な水塊(亜熱帯水)との境界にできる前線(不連続線)。北太平洋では親潮と黒潮の境界を指す。
Pop up tag ポップアップタグ
浮上式標識。調査対象の動物の体に装着した標識があらかじめ設定した日時に体から切り離され浮上して発信し、人工衛星経由で浮上位置等の情報を送信する。装着した動物の再捕獲、標識の回収がなくても移動情報が収集できる。また、アーカイバルタグ(上項参照)と同様にセンサーによる水温・深度等の情報をメモリーに保存して浮上時に送信するポップアップアーカイバルタグ(Pop-up Satellite Archival Tag:PSAT)も使用されている。
Positive list ポジティブリスト
IUU漁業(上項参照)の台頭をうけ、その防止・抑止・撲滅に向けた国際的な取組として各RFMOが作成する、適正な許可を受けた正規漁船であることを証明する漁船リスト。IUU漁業を行った漁船・運搬船のリストはネガティブリスト(negative list)。
Precaudal length 尾鰭前長
吻端から尾鰭基部上縁までの長さ。サメ類の体長を表すのに用いられる。
Precautionary approach 予防的取り組み
(漁業活動による)資源、環境、人間に対して予測される脅威を、脅威の不確実性と脅威の評価が間違っている可能性も考慮した上で可能な範囲で避けるために(事前に)合意された効率的な(今後の対策も含めた)措置。
(Surplus) Production Model プロダクションモデル(余剰生産モデル)
個体群の増殖曲線(増加量が密度効果(環境収容力)で変化する)を基に、資源量と余剰生産量(加入(個体数増加)+成長(体重増加)−死亡)との関係を表すモデル。データとして漁獲量とCPUE(上項参照)を用いる。関係を表す曲線(上のMSYの項の図を参照)のドームの頂点がMSYとなる。
Purse seine まき網(旋網、巻網)
主に表層性浮魚類を対象として巾着のような形状の深さ数十〜数百m、長さ数百〜数千mに及ぶ大きな網を用いて魚群を囲い込んで網を絞って漁獲する漁法あるいは漁業。米国で発達したことからアメリカ式巾着網と呼ばれた。
R
(Recruitment)
加入量
体サイズの成長(商業サイズ)や回遊(漁場へ来遊)によって初めて漁獲対象となった生物の量。通常、個体数(尾数)で表す。VPA等の資源評価モデルにおいては単にモデルで扱う最小年齢魚(0歳あるいは1歳のことが多い)の尾数を指すこともある。
Random walk ランダムウォーク
ある質点の運動について時系列的にデータをプロットした時、次に現れる位置が確率的に無作為(ランダム)に決定される運動のことを言い、加入量変動を考えるとき、そのばらつきが単に平均の周りでランダムにあるような場合の表現やモデルの計算の設定に用いられることがある。なお、ある年の加入量がその前年の加入量の近辺でばらついていると考えられるような場合については自己相関(過程)と呼ぶ。このような加入量の変動パターンが見られる原因はいくつか考えられるが、長期的な環境変動の加入変動への影響等が考えられる。
Recruitment Overfishing 加入乱獲
資源に対する漁獲圧が高すぎて、加入量の減少をもたらすほど親魚量(産卵量)が少なくなってしまうこと。→成長乱獲
Reference Points 管理基準値
BRP(Biological Reference Point(上項参照))と同義で用いられることが多い。
Replacement Yield
(RY)
  ----
漁獲を続けても資源量をそのまま一定水準に保つことが見込まれる漁獲量。
Reproductive value 繁殖価(繁殖ポテンシャル)
年齢が異なる個体や資源の再生産上の価値を相対的に比較するための概念。ある魚を漁獲しなければ将来どれだけ子孫を残すか(資源の増加(加入)へ貢献するか)を表す。個体の再生産能力の指標として使用される。
Retrospective analysis レトロスペクティブ解析(分析)
VPA、プロダクションモデル等の資源評価モデルでは、最新年のデータを追加して資源評価を更新すると、過去の期間の推定値が傾向をもって変化することが観察されることが多い。このような傾向をもった変化が見られるかどうかを、最新年から1年ずつ数年分(5年から10年程度)のデータを削除して資源評価モデルによる資源量、漁獲死亡率等の推定値を計算してみることで検証すること。→VPA、プロダクションモデル
RFMO
(Regional Fisheries Management Organization)
地域漁業管理機関
大洋のような広い範囲(例:大西洋等)で、漁業資源の持続的利用の実現を目的として、条約に基づいて設置される国際機関のこと。対象資源の保存管理措置を決定及び実施している。カツオ・マグロ類では5つのRFMO(IATTC、ICCAT、IOTC、CCSBT、WCPFC)が世界の海を管理している。→本資料の「国際漁業管理機関・資源評価機関の概要」、「主な漁業管理機関・資源評価機関の管轄海域」も参照
Ricker stock-recruitment model リッカー型再生産曲線(式、モデル)
資源評価で用いられる親魚量と加入量の関係式の一つ。親魚量が低い水準では親魚量の増加とほぼ正比例して加入量が増加するが、親魚量が増大するにつれて強い密度効果によって加入量の増加は頭打ちになり、さらには右下がりとなる関係。→ベバートン・ホルト型再生産曲線、ホッケースティック型再生産モデル
SBF=0, SB0 (エスビー・ゼロ)
ある再生産関係の下で漁獲が無かったときに期待される親魚量。WCPFCで使用されている。再生産関係には、ベバートン・ホルト型再生産式(上項参照)のような理論的なものだけでなく、過去の特定の年代(例:最近10年間)の加入量の観測値からのリサンプリングによるシミュレーションも用いられる。→B0
SBlatest 最新年の親魚量
WCPFCで使用されている、資源評価の最新年の時点の親魚量。他のRFMOでのSSBcurrent(下項参照)と同義。
SBR
(Spawning Biomass Ratio)
(エスビーアール)
IATTCが用いている、漁業がなかったと仮定したときに期待される親魚量とある年(t)の親魚量との比(St/SF=0)。資源が定常状態である場合を除いて%SPR(下項参照)とは異なる。
SCAA (Statistical-Catch-At-Age),
SCAS (Statistical-Catch-At-Size) ・ SCAL (Statistical-Catch-At-Length)
統計的年齢別漁獲尾数モデル、統計的体長別漁獲尾数モデル
漁獲量、標準化CPUE、生物情報、及びSCAAでは年齢別漁獲尾数、SCAS、SCALでは体長組成を用いた統合資源評価モデル。SCASの場合、モデル内で漁獲物の体長組成を年齢組成に変換するのが特徴。再生産関係を仮定して、過去の加入から最近年・最高齢までの年齢別個体数を予測し、観測された漁獲量をモデルから得られる年齢別漁獲量の予測値に適合させ再生産関係のパラメータ、漁法別年齢別選択性・資源量及びその他関連パラメータを推定する。他の統合モデル(SS3及びMultifan-CL)との違いは、空間構造(海域間の移動等)を考慮しない点。
SCRS
(Standing Committee on Research and Statistics)
調査統計常設委員会
ICCATの常設委員会。他のRFMOにおける科学委員会と同義。
Sensitivity Analysis 感度解析
資源評価の際に、特定のパラメータの影響を評価するため、そのパラメータを変化させて結果に及ぼす影響を検証すること。
Set net, Trap net 定置網
主に沿岸に回遊する魚類等を対象とし、海中に袋型や箱型の網漁具を設置して待ち受けて漁獲する漁法あるいは漁業。形状や規模等でさまざまに分類されるが、基本的な構造としては、対象生物を、移動経路を遮るように設置した垣網で袋・箱状の身網の中に誘導して漁獲する。
Shallow set 浅縄(あさなわ)
まぐろはえ縄において、深縄(上項参照)と対照的に、夜間に表層に分布するメカジキを狙う際に釣り鈎を浅い水深に設置する操業方式。通常は一鉢当たり枝縄3〜4本を用いて、浮縄の長さも短くする。→はえ縄
Shark line シャークライン
浮きはえ縄操業において、浅い水深に分布するサメ類の漁獲効率を高めるために、浮き玉間の幹縄から垂下する枝縄に加えて、浮き玉の直下に枝縄を垂下する漁法があり、この枝縄がシャークラインと呼ばれる。
SPR
(Spawning Per Recruitment)
(エスピーアール)
ある特定の漁獲の強さのもとで年級群(コホート)が生涯で産み出す産卵量もしくは親魚量(平衡状態・平均的な加入を仮定して算出)と、その漁獲がない場合に産み出す産卵量もしくは親魚量との比率。その資源の再生産に対する漁獲の影響の度合いを表し、クロマグロの資源評価、管理において指標として用いられている。
%SPR (パーセントエスピーアール)
漁獲がないとき(F = 0)のSPRを100としたときに対する、漁獲があるときのSPRの割合。高いFによって加齢とともに漁獲されて大きく減耗していき、親魚になる量が少ない・産卵量が少ない場合は%SPRが小さくなる。
SS
(Stock Synthesis)
(エスエス)
漁獲量、CPUE、体長組成データを組み込んだ年齢構成モデル。Multifan-CLやA-SCALAと同じくいわゆる統合資源評価モデルの一種。米西海岸の底魚資源の標準的な資源評価モデル。IATTC及びISCでのマグロ、カジキ類及びサメの資源評価でも使用されている。最近ではIOTCの資源評価でも使用されている。
SSB
(Spawning Stock Biomass)
(産卵)親魚量
資源における産卵可能な成熟個体の総重量。通常、年齢別資源量、成熟割合から求められる。SB(Spawning biomass)ともいい、特にWCPFCではSBが用いられる。
SSBAMSY (エスエスビー・エイエムエスワイ)
AMSY(上項参照)を達成可能な親魚量。
SSBcurrent (エスエスビー・カレント)
資源評価の最新年や現状における親魚量。WCPFCでは資源評価における最新年をlatestとし、currentはその前年までの数年間の平均として表される。
SST
(Sea Surface Temperature)
海面水温
海の表面の水の温度。海表面水温、あるいは単に表面水温という場合もある。
Standardized CPUE 標準化CPUE
ノミナルCPUE(上項参照)の年々の変動に含まれる、資源豊度の変動以外の様々な要因(例えば、狙い魚種の変更、漁具の改良、操業時期・海域の変化、等)を補正し、資源の変動要素のみを抽出したCPUE。補正を行うことを標準化という。標準化にはGLM(上項参照)の様な統計手法等が用いられる。
Statistical habitat model 統計的ハビタットモデル
ハビタットモデル(上項参照)では、データ記録式標識等から得られた外部情報(例:水深分布)を魚の好適生息環境指数(HSI)として直接用いるが、統計的ハビタットモデルでは、漁具の設置位置と別途得られた環境データからモデル内で統計的にHSIを推定し、CPUEの標準化を行う。→標準化CPUE
Steepness スティープネス
本報告では、資源評価モデルの資源(親魚)量と加入量の関係におけるものを指し、Beverton-HoltもしくはRicker型の再生産モデルにおいて、理論的に定められる初期(処女)資源(親魚)量とそれに対応する加入量に対する、資源(親魚)量が初期資源量の20%のときに再生産モデルから決定論的に期待される加入量の比(割合)。再生産モデルの密度補償効果の程度を示している。0.2から1の間の値を取り、0.2の時は密度補償効果がないことを意味し、1の時は親魚量に関わらず一定の加入量が得られることを意味する。
Stock 資源、系群
漁業の漁獲対象となる、資源評価・管理の対象とする生物個体群の単位、まとまり。概念的には、Biological stock(同じ地理的海域に生息し、繁殖時に互いに交配し混ざり合う遺伝的構造が同一な個体群)とManagement stock(資源(漁業)管理上、便宜的に海域、漁区等で区分した単位)がある。
Stock status 資源水準
資源量の多寡を相対的に表すものであり、BMSY等の基準値に対する位置(上か下か)、過去20年以上程度の長期間の資源量(漁獲量)の推移における区分(高・中・低位)、等で示される。
Stock trend 資源動向
本報告では、通常、資源量や漁獲量の過去5年間の推移から“増加”・“横ばい”・“減少”に区分。
Straddling stock ストラドリングストック、跨がり資源、跨界(こかい)性資源
複数の(漁業管理上の)海域を跨いで分布する漁業資源。ある国の排他的経済水域とそれに接続する水域(隣国の排他的経済水域、または公海)の双方に跨がって分布する資源をいうことが多い。
Subtropical Convergence 亜熱帯収斂(しゅうれん)線
中緯度・亜熱帯海域を東西に走る表面流の弱い収束線で亜熱帯収束線とも呼ばれる。南半球では、各大洋の中央水と亜南極海域の水塊との境をなしている。北太平洋では中央水内部での南西流と北赤道海流との間にある収束線を指すのが普通であるが、あまり明確な前線ではない。
Surface fishery 表層漁業
海の表層にいる魚群を対象とする漁法。まき網、竿釣り、ひき縄、流し網、等が該当する。
TAC
(Total Allowable Catch)
総漁獲可能量
管理対象の資源、海域や漁業において、予め定めた漁獲してもよい量(漁獲枠)の上限。
TACC
(Total Allowable Commercial Catch)
総商業漁獲可能量
予め定めた商業目的で漁獲してもよい量の上限。
Tag and release, Tagging 標識放流
対象生物に個体識別のための標識(刻印したプラスチック製標識等やデータ記録式標識(アーカイバルタグ、上項参照)の装着、鰭カットや焼き印、耳石の温度標識やALC標識、等)を行って放流し、放流時と再捕時の情報から分布・回遊、成長、生残率に関する知見を得る。得られた知見は資源量推定や資源評価モデルに用いられるほか、管理方策の根拠とされる場合もある。
Target Reference Point
(TRP)
目標管理基準値
各RFMO等で定義された管理目標(上項参照)に基づき、“平均的に”達成すべき水準(資源水準と漁獲係数の両方あるいは一方(例:BMSY、FMSY))。ただし、“平均的に”というのは各RFMOあるいは魚種毎に特定の何らかの確率的な形で定義されることが多い。
TED
(Turtle Excluding Device)
海亀混獲回避装置
エビ類等を対象とするひき網漁法において、漁獲対象種は逃がさずに海亀だけを選択的に逃がす脱出装置。仕組みとして、網の途中にエビや魚は通るが海亀は通ることができない幅の格子構造と海亀の脱出用通路を設置することによって海亀だけが外部に排出される。
Thermocline 水温躍層(すいおんやくそう)
鉛直方向に水温が急激に変化する層を指し、季節変化を受けにくい主水温躍層と季節躍層に分けられる。赤道域ではそのうち主水温躍層が主に見られ、海面付近では日射により海水温が高い状態にあるが、深度数百mより深い層では1年を通じて水温が低い状態でほとんど変化せず、この温度差によって主水温躍層が生じる。
Tiger net 虎網、虎網漁船
東シナ海等で中国が使用している漁網あるいは漁法の一つ、また、それを用いる漁船のことであり、アジ・サバ類等を主対象に、灯船が集魚灯で魚を集め、網船が旋回しながら袋状の網(虎網)をめぐらして取り囲み、これを船尾から巻き上げて漁獲するもの。
Tori-line トリライン
まぐろはえ縄船において海鳥の混獲を防ぐ方法の一つ。船尾付近に立てたポール先端からロープを後方に流し、ロープに取り付けた多くの目立つビニールテープ等の吹き流しによって海鳥を脅すことで船尾から投入するはえ縄漁具に掛かるのを防ぐ。→本報告の「海鳥類の混獲とその管理(総説)」を参照
Total length 全長
生物の体長を表すのに用いられる体の端から端までの長さであり、魚類では吻端から尾鰭後端までの長さ。→体長
Troll fishery ひき縄(曳縄)
海の表層に分布するカツオ・マグロ類や、時にはカジキ類を対象としてルアー(擬餌鈎)や生餌の鈎を船で曳きながら航走して釣獲する漁法。主としてカツオ・マグロ類の小型魚が漁獲される。
Unagi uke
(Trap to catch eels in Japan)
うなぎうけ(鰻筌)
ウナギを獲るための道具。竹を編んで作った細長い籠であり、ウケ(クビ)と呼ばれる魚の入り口はウナギが一度入ったら出られない構造になっており、中に餌となるミミズ等を入れて水中に沈め、ウナギを誘い込んで漁獲する。
UNCLOS
(United Nations Convention on the Law of the Sea)
国連海洋法条約(アンクロス)
海洋法秩序に関する包括的な条約として、1982年に第三次国連海洋法会議において採択され、1994年11月に発効。
Uplist, Uplisting アップリスト、アップリスティング
Downlist(ダウンリスト)を参照のこと。
VME
(Vulnerable Marine Ecosystem)
脆弱な海洋生態系
特殊で希少な種や成長が遅く長寿命な種、等が生息するような、損傷を受けやすく損傷後の回復も難しい海洋生態系であり、主に冷水性サンゴ類等の底生生物群集がこれに当たる。
VMS
(Vessel Monitoring System)
漁船位置通報監視システム
通信衛星を利用して、漁船の位置情報が常時、自動的に報告され、監視するシステム。
VPA
(Virtual Population Analysis),
Cohort Analysis
コホート解析
魚類等の各年級群(同じ年生まれ(コホート))の資源尾数を、データとして年齢別漁獲尾数を用いてMを仮定してFを求めて計算する方法。年齢別漁獲尾数は正確であることを前提とする。→M、F
VPA-2 Box (ブイピーエイ・ツーボックス)
ADAPT-VPA(上項参照)の一種でICCATや米国メキシコ湾岸の資源評価で用いられている。空間構造、性別を考えない通常のADAPT-VPAの他に雌雄を区別したり、2海域までの空間構造、2系群が混合している状況に用いたりすることができる。
Westerly wind drifts 西風皮流(せいふうひりゅう)
偏西風によって生じるごく表層の海流。
Wire Leader ワイヤーリーダー
浮きはえ縄漁具において、枝縄の釣り鈎直前に用いる補強用の釣り糸部分をリーダーといい、金属製のワイヤーを使用したリーダーのことをいう。主に、サメ等が釣り糸をかみ切って逃避することを防ぐために用いられる。
Extended Survivor Analysis XSAモデル
従来の豊度指標を用いたVPAベースの齢構成モデルを改良したもので、複数の豊度指標の同時解析を可能とし、加入年齢群の漁獲効率の年変動を考慮した頑健性を有する最適化手法。
YPR, Y/R
(Yield Per Recruitment)
加入量当たり漁獲量
データとして年齢別体重、自然死亡係数、年齢別選択率(各年齢のFの比)を用いて、一定の加入がある場合において、ある年齢別選択率と漁獲の強さによって得られる漁獲量を加入(1尾)当たりで表したもの。値が大きいほど得られる漁獲量は大きくなる。
  ---- 反(たん)
流し網や底刺網等は、長さ数十m程度の仕立て網を多数連結して操業用の一式の網として使用するが、この一式の網を構成する仕立て網の(枚)数の単位。流し網漁業の努力量の単位として用いられている。→流し網
  ---- 統(とう)、ヵ統(かとう)
定置網は様々な網、浮子や綱、錨・錘、等により構成されており、この定置網一式の単位。定置網漁業の努力量の単位として用いられている。→定置網
また、我が国近海のまき網は、通常、網船、灯船・探索船、運搬船で構成される船団で操業しており、この船団の単位(fleet)。→まき網