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56 イワシクジラ 北西太平洋

Sei Whale, Balaenoptera borealis


PIC

浮上直後のイワシクジラ


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最近の動き

我が国が国際捕鯨委員会(IWC)を2019年6月30日に脱退したことにより、翌7月1日からIWC管轄種であるイワシクジラ等3種に対する商業捕鯨が再開された。一方、捕鯨取締条約第8条のもと、本種を含む2種を対象に2017年から北西太平洋で実施されてきた鯨類捕獲調査(NEWREP-NP)は、脱退にともない終了となった。2019年は本種を対象とした調査は実施されなかったため、調査による本種の捕獲はなかった。再開された商業捕鯨では、農林水産大臣許可漁業である母船式捕鯨業に対し、2019年7月1日から12月31日までのイワシクジラ25頭の捕獲枠が設定され、下関を母港とする捕鯨船団により、我が国の領海・EEZ内で操業が行われ、25頭が捕獲された。

本種の分布密度の情報収集を目的として、2010年に開始されたIWCと日本共同の北太平洋鯨類目視調査(POWER:Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research)が2019年も行われた。IWC科学委員会(IWC/SC:IWC Scientific Committee)においては、2015年から本系群の詳細資源評価に向けた作業が進められている。


利用・用途

鯨肉は刺身、大和煮(缶詰)、鯨かつ、鍋物材料、内臓はゆで物として利用される。ヒゲ板は工芸品の材料として利用される。鯨油はかつて工業原料等に用いられた。


表1. 北西太平洋におけるイワシクジラの捕獲頭数(2002〜2019年)

表1

 

図1

図1. 北太平洋におけるイワシクジラの国別捕獲頭数の推移(1910〜2019年)

日本の捕獲には調査によるものも含む。


図2

図2. 北西太平洋におけるイワシクジラの夏季の分布域(青)

漁業の概要

本種の捕獲は、1890年代末に基地式の近代捕鯨により開始された。その後、1940年には母船式捕鯨が開始し、本種も捕獲された。1940年代末にニタリクジラが識別されるまではイワシクジラとニタリクジラはイワシクジラとして一種として扱われていた(Omura and Fujino 1954)。日本捕鯨協会が取りまとめた沿岸捕鯨統計では両種は1955年以降、区別されて記録されていたが、IWCによる国際捕鯨統計で区別されて記録されるようになったのは、それらが公式に判別されるようになった1968年以降である。北太平洋では日本の他に、旧ソ連、米国及びカナダが本種を捕獲した(図1)。

1910年代から1955年まで年間500頭が継続して捕獲されたが、1967年から捕獲が急増し、1968年には6,000頭を超えた。1968年以後、日米加ソ4か国による北太平洋捕鯨規則によって捕獲割当量が定められるようになり、1970年からIWCにより北太平洋の本種の捕獲枠が設定されるようになった。その後IWCの規制が厳しくなり、1976年から北太平洋全域で本種の商業捕獲は停止されたが、我が国では、2019年7月から、我が国の領海・EEZ内での捕鯨が再開され、25頭が捕獲された。

商業捕鯨以外では、第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II:Japanese Whale Research Program under Special Permit in the western North Pacific Phase-II)において食性解明を主目的に、2002〜2003年は年間50頭、2004年以降は年間標本数100頭を上限に生物学的情報が収集されてきたが、2014年からは、国際司法裁判所の「南極における捕鯨」訴訟判決の趣旨を踏まえ、調査目的を限定する等、規模を縮小して実施することとなり、目標捕獲頭数は90頭となった(実際の捕獲頭数については表1参照)。2017年から開始されたNEWREP-NPにおいて、IWCが開発した改訂管理方式(RMP:Revised Management Procedure)の適用に必要な生物学的情報収集を目的に、目標捕獲頭数が134頭に設定され2018年まで調査が行われた。なお、我が国のIWC脱退にともない2019年6月末をもってNEWREP-NPは終了したため、2019年には本調査に基づく捕獲はなかった。


生物学的特性

本種はナガスクジラ科ではシロナガスクジラ、ナガスクジラに次いで3番目に大きく、2002年と2003年のJARPN IIにおける最大体長は雄14.8 m、雌15.9 m、最大体重は雄24.4トン、雌31.0トンであった(藤瀬ほか 2004)。

性成熟年齢は、1925年に10歳、1960年には7歳と報告されている。記録にある最高年齢は60歳である。出産時期は11月とされ、出産海域は亜熱帯・温帯の外洋海域と想定されるが、特定できていない。夏季には摂餌のため、より高緯度の亜寒帯水域へ回遊する(図2、Sasaki et al. 2013、Murase et al. 2014)。

本種は魚類(カタクチイワシ、マイワシ、キュウリエソ、サンマ、マサバ、ハダカイワシ類等)、いか類(スルメイカ、テカギイカ等)、動物プランクトン(オキアミ、カイアシ類)等、さまざまな種類の餌生物を捕食する(根本 1962、Konishi et al. 2009)。本種の摂餌深度は60 m以浅との観察結果が報告されている(Ishii et al. 2017)。本種を捕食する可能性があるものとしてはシャチがあるほか、繁殖場ではさめ類が仔鯨を襲う可能性もある。


資源状態

北太平洋に分布する本種の資源評価はIWCで1975年に初めて行われた。資源評価に用いた手法は、CPUEと発見率指数(目視調査)を統合したDe Lury法であった(Ohsumi and Wada 1974、Tillman 1977)。資源評価の結果、初期資源量は42,000頭、1975年時点の資源量は9,000頭であるとされ、当時の管理方式ではMSYレベル(23,000頭)の40%であったため保護資源に分類された。このため、1976年から北太平洋全域で本種の捕獲が停止された。

その後、北太平洋に分布する本種の系群構造について、近年の目視調査と遺伝解析の結果に加え過去の捕獲・標識再捕情報も用いた総合的な解析が行われ、北太平洋に広く分布する本種は同一系群であることが報告された(Kanda et al. 2015)。

2008年のJARPN IIにおける目視調査データを用いた解析により、北緯35度以北、東経170度以西の北西太平洋での資源量は5,086頭(CV = 0.378)と推定された(Hakamada and Matsuoka 2016)。ただし、JARPN IIの調査海域は北西太平洋全域ではないため、この推定値は過小となっている可能性がある。また、2010年から2012年に実施したPOWERの目視調査データを用いた解析により、北緯40度以北、東経170度以東、西経135度以西の中央及び東部北太平洋での資源量は、29,632頭(CV = 0.242)と推定された(Hakamada et al. 2017)。両調査海域は重複していないことから、合算すると北太平洋全域における資源量推定値は少なくとも34,718頭(CV = 0.214)となる(Government of Japan 2017)。推定方法が異なるため過去の推定値との直接比較はできないが、これら最新の資源量推定結果に基づくと現在の本系群の資源状態は中位で、増加傾向にあるものと考えられる。

1975年以降、IWC科学委員会では本系群に関する詳細な資源評価は行われていなかったが、同委員会において、本系群の資源解析を優先課題とすることが2006年に合意され、作業が2015年の年次会合から行われている。2019年の会合において、過去の商業捕鯨およびJARPN IIのサンプルをもとにした生物学的パラメータの解析結果が報告され、1976年の商業捕獲停止以降、本種資源が回復傾向にあることが示された(Maeda et al. 2019)。


管理方策

IWCの管轄種である本種について、1976年以降、北太平洋での商業捕獲は停止されていたが、我が国のIWC脱退にともない、農林水産大臣許可の母船式捕鯨業による捕獲が、2019年7月1日から我が国の領海・EEZ内で再開された。2019年の捕獲枠は25頭であり、この値はIWCが開発し100年間捕獲を継続しても資源に悪影響を与えないと認めた極めて保守的な改訂管理方式(RMP)の運用のもと、多数のシミュレーションを通して算出され、海外有識者によるレビューを受けた捕獲可能量にもとづいている(水産庁 2019)。操業監視と資源状態のモニタリングのため、全操業期間を通して水産庁から母船に監督員と調査員が派遣され、操業の監視と全捕獲個体に対する漁獲物調査が行われた。本種の資源評価と捕獲可能量の定期的な見直しのため、目視調査等による資源量推定値の更新、漁獲物資試料の収集と解析を行い、科学的根拠に基づく資源管理が行われるよう、継続的モニタリングを行っていく必要がある。


イワシクジラ(北西太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 中位
資源動向 増加
世界の捕獲量
(最近5年間)
なし(IWCによる商業捕鯨モラトリアムが継続中)
我が国の捕獲量
(最近5年間)
年間90〜134頭 *1
最近(2019)年:25頭 *2
管理目標 100年後の資源水準の目標として、IWC提示の値(初期資源量の60-72%)を維持
資源評価の方法 船舶による目視調査から推定した最新の資源量推定値
資源の状態 北太平洋全域における資源量
34,718頭(CV = 0.214)
管理措置 *3 ・農林水産大臣による許可制(許可隻数:母船式捕鯨業1船団(母船1隻、独航船3隻)
・年間捕獲枠を設定(25頭(2019年))
・監督員による捕獲頭数管理
・衛星を利用した船舶位置の確認
管理機関・関係機関 農林水産省、IWC
最新の資源評価年 2019年
次回の資源評価年 遅くとも2025年までに実施予定

*1 2015-2018年、捕獲調査による。

*2 再開された母船式捕鯨業による。

*3 2019年7月からの管理措置を記載。


執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

吉田 英可


参考文献

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