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52 ミンククジラ オホーツク海・北西太平洋

Common Minke Whale, Balaenoptera acutorostrata


PIC

ミンククジラの親子連れ

胸びれの白斑と細く尖った頭部が特徴(野路滋撮影)


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最近の動き

我が国は、国際捕鯨委員会(IWC:International Whaling Commission)を2019年6月30日に脱退し、翌7月1日から、本種を含む3種を対象として商業捕鯨を再開した。一方、国際捕鯨取締条約(ICRW:International Convention for the Regulation of Whaling)第8条のもと、2017年から実施されていた新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEWREP-NP)は、2019年6月末をもって終了した。オホーツク海において、ミンククジラの資源量推定値の更新を主目的に、ロシアと共同で2015年から実施されてきた鯨類目視調査は、2019年夏季にも行われた。再開された商業捕鯨では、農林水産大臣許可漁業である母船式捕鯨業および沿岸(小型)捕鯨業に対し、2019年7月1日から12月31日まで53頭の捕獲枠が設定され、我が国の領海・EEZ内で操業が行われ、44頭が捕獲された。脱退前に開催されたIWC科学委員会において、改訂管理方式(RMP)の第3回目となる適用試験が開始された。


利用・用途

鯨肉は、刺身、大和煮(缶詰)、鍋物材料、ベーコン等、ヒゲ板は工芸品の材料として利用される。かつては鯨油を工業原料として利用していたが、現在は需要がない。


図1

図1. 北太平洋におけるミンククジラの捕鯨頭数の推移(1930〜2019年)(定置網等による混獲を含まない)


図2

図2. 浮上したミンククジラ


図3

図3. ミンククジラ(オホーツク海・西太平洋系群)の分布図


図4

図4. ミンククジラ(オホーツク海・西太平洋系群)の春から夏の回遊経路(Hatanaka and Miyashita 1997を改変)


付表. 北西太平洋でのミンククジラの捕獲頭数(1930〜2019年)(定置網等による混獲を含まない)

付表

漁業の概要

本種は、17世紀に隆盛を迎えた古式捕鯨でも捕獲していたとされるが、記録に残されていない(Ohsumi 1991)。これは、当時ナガスクジラ等ほかの鯨類と区別されていなかったためと推測される。本種についての捕獲の記録があるのは近代捕鯨になってからで、1920年代末に盛んになった沿岸の基地式捕鯨業の一種である小型捕鯨業によるものである(Omura and Sakiura 1956)。本種は1987年まで小型捕鯨業で商業的に捕獲されていた。主な漁場は、三陸、道東沖及び北海道オホーツク海沿岸であった。三陸及び道東沖では、オホーツク海・西太平洋系群(O系群)が捕獲され、オホーツク海沿岸では、この系群の他、春から夏には東シナ海・黄海・日本海系群(J系群)が混じっていることが知られている。

1988年以降は国際捕鯨委員会(IWC)が採択したいわゆる「商業捕鯨モラトリアム」により、商業捕鯨は停止状態にあったが、上述のように我が国のICRW脱退に伴い再開された。一方、モラトリアムの間、我が国は、ICRW第8条のもとRMPの適用試験で想定された系群構造仮説(北西太平洋には、O系群とJ系群の2系群が存在)を検証することを目的に、北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)を1994〜1999年に実施し、十分な精度で系群を識別できる標本数として毎年100頭を上限に捕獲した。2000年と2001年には、北西太平洋における鯨類と餌生物を巡る生態系の解明を主目的とした第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II)の予備調査が行われ、沖合域で計140頭を捕獲した。2002年からは本格調査が開始され、2004年までは沿岸域の50頭を加え計150頭、2005年以降は沿岸域の120頭を加え計220頭を上限に、捕獲が行われた。これら目標とする捕獲標本数は、胃内容物から餌生物組成を十分な精度で推定することを目的に設定され、情報の蓄積に伴い変化してきた。しかし、2014年からJARPN IIの最終年である2016年までは、国際司法裁判所の「南極における捕鯨」訴訟判決の趣旨を踏まえ、調査目的を鯨類と餌生物を巡る生態系の解明に限定し、その目的達成のために非致死的手法で得られたサンプルで捕獲標本数の一部を代替可能か沿岸域において検証することとなった。その結果、捕獲の規模は縮小され、目標とする捕獲標本数は沿岸域で102頭、沖合域で0頭となった。2017年からは、日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲可能量算出を目的とした、新北西太平洋鯨類科学調査(NEWREP-NP)が開始され、オホーツク海沿岸域(網走沖)で47頭、太平洋沿岸域で80頭、太平洋沖合域で43頭の目標捕獲頭数が新たに設定された。非致死的手法については、バイオプシーによる表皮採集や脱糞行動の観察と糞採集の実行可能性・代替可能性について検討するための実証試験が行われた。しかし、我が国のIWC脱退に伴い、NEWREP-NPは2019年6月をもって終了となり、翌7月から、本種に対する商業捕鯨が再開された。

1930〜2019年の我が国による捕獲頭数の推移を図1に示す。本種は、1950〜1980年代半ばまで毎年300頭程度の捕獲が安定して続いていたことがわかる。近年は、我が国沿岸の定置網等により毎年100頭前後の混獲が報告されているほか、韓国においても毎年50頭程度の混獲があるとされている。再開された商業捕鯨では、農林水産大臣許可漁業である母船式捕鯨業および沿岸(小型)捕鯨業に対し、2019年7月1日から12月31日まで53頭の捕獲枠が設定され、我が国の領海・EEZ内で操業が行われ、44頭が捕獲された。


生物学的特性

本種は、胸びれの白斑と細く尖った頭部から識別できる(図2)。オホーツク海・西太平洋系群は、冬季に繁殖のため太平洋の低緯度海域(少なくとも北緯30度以南)に回遊すると想定されるが、冬季の南限は確認できていない。その後、初夏に北部太平洋岸を北上、夏季に大部分がオホーツク海を回遊する。また、夏季には千島列島東方沖合や北海道沿岸にも分布する。遺伝情報や形態情報から、本系群は東経170度まで分布していることがわかっている(図3)。東シナ海・黄海・日本海系群は夏にはオホーツク海南西部まで回遊する。

本種は、初夏の北部太平洋沿岸には未成熟個体が多い。成熟雌は夏季の高緯度海域(オホーツク海)に多く、夏季終わりには東部北海道沖に多いことが知られており、成熟段階による棲み分けをしているとされている。成熟雄は夏季に成熟雌より南方の千島列島東方を中心とした海域に分布する(図4)。

オホーツク海・西太平洋系群は、1〜2月に交尾、10.5〜11か月の妊娠期間を経て、体長(上顎先端から尾鰭切れ込みまでの直線距離)2.6 mの胎仔を出産する。なお、J系群の交尾期は10〜11月で、本系群と異なる(Kato 1992)。JARPN・JARPN IIにおける捕獲個体の最大体長は雄8.6 m、雌8.8 m、最大体重は雄7.1トン、雌8.1トンであった。性成熟体長は、雄6.3 m、雌7.1 mと推定されている(加藤 1990)。性成熟の指標となる耳垢栓変移相の解析から、本種の平均性成熟年齢は、雄・雌ともに7歳程度と考えられている(Maeda et al. 2017)。JARPN・JARPN IIで採取された耳垢栓の成長層計数による本種の最高年齢は49歳であった(Maeda et al. 2016)。また、自然死亡係数は、0.11と推定されている。

本種は、サンマ、スケトウダラ、カタクチイワシ、マイワシ、マサバ、イカナゴの魚類のほか、スルメイカ、オキアミ等を捕食する(Tamura and Kato 2003、Yoshida et al. 2015)。釧路で捕獲されたミンククジラの胃内容物調査によれば、2002〜2011年はカタクチイワシが主要な餌だったが、2012年にはマイワシが主要な餌にかわっており、生息環境に多く生息する生物を餌として捕食していると認められる(Kishiro et al. 2016)。本種を捕食する生物について知見は少ないが、シャチは天敵になり得ることが知られている。


資源状態

オホーツク海・西太平洋系群の資源量は、我が国が実施した目視調査より、調査船上で見落としがないとの前提のもとライントランセクト法(宮下 1990、岸野 1991、Buckland et al. 1993)により、25,049頭(95%信頼区間、13,700〜36,600頭)と推定されている(Buckland et al. 1992、Miyashita and Shimada 1994、Anon. (IWC) 1997)。しかし、本種の発見の手がかりは、ほとんどがほんの一瞬海面上に現す体(背中)であり、非常に発見しづらいため(図2)、目視調査結果から密度を推定する際の調査線上の発見率:g(0) が100%という仮定が成り立たず、過小推定となっているものと考えられる。そこで、g(0)を推定するため、独立観察者実験を実施した結果、g(0) の値は、トップバレル(海面からの眼高差約20 m)の観察者で0.754、トップバレルとアッパーブリッジ(同約12 m)の観察者全体で0.822と推定された(Okamura et al. 2009)。また、沿岸域に限った資源量ではあるが、2012年の釧路沖では5〜6月で461頭(95%信頼区間、157〜1,352頭)、7〜9月で433頭(95%信頼区間、160〜1,172頭)、三陸沖では5〜6月で124頭(95%信頼区間、61〜251頭)という推定値が得られている(Hakamada et al. 2016)。オホーツク海での本種の資源量推定値を更新するため、2015年から日露共同目視調査が実施されており、2019年夏季にも行われた。

本系群の資源量の初期資源量に対する割合は、1991年当時の解析では、初期資源量(1930年)に対して61〜88%と推定されている(Anon. 1992)。その後、IWCにおいて、Hitter・Fitter法(de la Mare 1989)を用いて資源評価が行われた結果(袴田 1999)、現実的な仮定のもと資源は増加傾向を示した。また、1999年の成熟雌の資源量は初期資源量に比べて70%以上と考えられており、資源は比較的高位にあると判断された。一方、2013年に終了した第2回目のRMP適用試験の結果では、初期資源量に対する資源量の割合は、もっとも保守的(悲観的)な仮説を含む基本的な6つのケースで、RMPのもと捕獲可能量算出が可能となる54%以上にあることが示された。


【系群の問題】

1980年代より、IWC科学委員会においては、北西太平洋には日本海・黄海・東シナ海系群(J系群)とオホーツク海・西太平洋系群(O系群)の2つの系群が存在することが知られていた。一方で、1993年のIWC科学委員会年次会合で、北西太平洋にはJ系群及びO系群だけでなく、沖合海域に別の系群(W系群)及び(繁殖海域は共有しているので系群レベルまでは明瞭に分離していないが、摂餌回遊する経路や場所が異なり一見分離している)亜系群が存在する可能性が指摘された。系群構造の解明を目的に1994年から開始された北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)では、亜系群が存在するとの仮説を否定する結論が得られたが(後藤・上田 2002)、IWC科学委員会で合意を得ることができず、北西太平洋において2系群、3系群、5系群がそれぞれ存在するとの3つの仮説が立てられた。さらに、2010年から実施された第2回目のRMP適用試験では、これら系群に加え黄海系群(Y系群)の存在の可能性が指摘され、系群構造仮説がより複雑なものとなった。夏期にオホーツク海に回遊する本種は、上述のとおりJとO両系群が混在することが知られており、その混合割合を推定するために2009〜2011年にバイオプシー調査によるDNA解析が実施されたが、標本数が少なく結論は得られていない。これらの問題を解決するため、NEWREP-NPによるオホーツク海沿岸域での捕獲調査やDNA解析とあわせ、衛星標識装着による個体の移動追跡も試みられている。我が国の脱退前に開催された第68回IWC科学委員会において、第3回目となる本種のRMP適用試験が2年間の予定で開始された。その際、新たな遺伝解析結果をもとに、我が国周辺にはJとOの2系群、さらにはこれに加え、これら2系群と遺伝的な交流があると想定される第3の系群が存在するとの仮説が立てられた。さまざまな知見は、2系群仮説が最もあり得ることを支持しているものの、これら2つの仮説をもとに作業が進められることとなった。ただし、我が国のIWC脱退により作業は中断となった。


管理方策

【改定管理方式(RMP)】

本種の商業捕獲は、資源状態にかかわらず1988年より停止状態にあったが、我が国のIWC脱退にともない、本種に対する商業捕鯨が再開された。IWC科学委員会では、いわゆる「商業捕鯨のモラトリアム」の下でも、対象資源の包括的資源評価を実施してきた。また、IWC科学委員会は1992年に新たにRMPを開発し、それが1994年にIWC総会で合意された。RMPにはフィードバック管理の考え方が取り入れられ、徹底したシミュレーションテストを通して様々な不確実性の下でも安全な管理が行える(田中 1996a、1996b)。RMPによる捕獲可能量計算の最終段階において必要な情報は、目視調査から推定される資源量推定値と過去の捕獲実績のみであるが、算定に大きく影響する系群構造仮説については、あらゆる最新の科学的知見が2つの系群しか存在しない仮説を支持しているにもかかわらず、捕鯨再開に反対する一部の科学者が多数の系群が存在するとの可能性を主張し続けてきた(【系群の問題】参照)。IWCは、オホーツク海・西太平洋系群に対するRMPの適用試験をIWC科学委員会に指示し(Anon. (IWC) 2002)、第1回目の結果が2003年にIWC科学委員会に報告された(Anon. 2003)。その後集積された新たな情報も加え、2010年に2回目となるRMP適用試験が開始され、2013年に終了した(Anon. 2014)。我が国が脱退前に開催された第68回IWC科学委員会において、第3回目となる本種のRMP適用試験が2年間の予定で開始されたが、我が国のIWC脱退により作業は中断され今後、本種資源は詳細資源評価分科会で扱われる予定である。

我が国のIWC脱退に伴い、農林水産大臣許可の母船式・沿岸(小型)捕鯨業による捕獲が、2019年7月1日から我が国の領海・EEZ内で再開された。2019年の捕獲枠は、母船式・沿岸(小型)捕鯨合わせて53頭であり、この値はRMPの運用のもと、多数のシミュレーションを通して100年後までの資源リスクを評価し算出した極めて保守的な捕獲可能量(171頭)から、2019年に実施された捕獲調査による捕獲数(79頭)、定置網による混獲数(5か年平均:39頭)を控除した値となっている(水産庁 2019)。操業監視と資源状態のモニタリングに資する資試料採取のため、操業期間を通じて母船及び、各地の鯨体処理場に水産庁の監督員と調査員(又は監督員兼調査員)が派遣され、操業の監視と全ての捕獲個体に対する漁獲物調査が行われた。本種の資源評価と捕獲可能量の定期的な見直しのため、目視調査等による資源量推定値の更新、漁獲物資試料の収集と解析を行い、科学的根拠に基づく資源管理が行われるよう、継続的モニタリングを行っていく必要がある。


ミンククジラ(オホーツク海・北西太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 高位
資源動向 増加
世界の捕獲量
(最近5年間)
なし(IWCによる商業捕鯨モラトリアムが継続中)
我が国の捕獲量
(最近5年間)
37〜170頭 *1
最近(2019)年:123頭 *2
平均:105.6頭(2015〜2019年)
管理目標 100年後の資源水準の目標として、IWC提示の値(初期資源量の60-72%)を維持
資源評価の方法 調査船での目視調査による資源量推定
資源の状態 西部北太平洋では目視調査により増加傾向と判明
管理措置 *3 ・農林水産大臣による許可制(許可隻数:小型捕鯨業5隻、母船式捕鯨業1船団(母船1隻、独航船3隻)
・年間捕獲枠の設定(53頭(2019年))
・監督員による捕獲頭数管理
・洋上解体の禁止と鯨体処理場の指定(北海道網走市、北海道釧路市、青森県八戸市、宮城県石巻市、千葉県南房総市、和歌山県太地町)*4
・衛星を利用した船舶位置の確認
管理機関・関係機関 農林水産省、IWC
最新の資源評価年 2019年
次回の資源評価年 遅くとも2025年までに実施予定

*1 2015-2018年、捕獲調査による。

*2 捕獲調査により79頭、母船式・沿岸(小型)捕鯨業により44頭。

*3 2019年7月からの管理措置を記載。

*4 小型捕鯨業のみの管理措置。


執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

前田 ひかり


参考文献

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