--- 総説 ---

49 小型鯨類の漁業と資源調査(総説)



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はじめに

ここでは国際捕鯨委員会(IWC)の分類に従い、小型鯨類をマッコウクジラ、ミナミトックリクジラ及びトックリクジラを除いた歯鯨類と規定する。小型鯨類は、我が国政府の管理の下に漁業が実施され、我が国の方針である鯨類を含む海洋生物資源の持続的利用を推進していく上で、資源を慎重かつ適切に管理していくことが重要である。


表1. 漁業形態及び根拠地別の小型鯨類捕獲頭数(2008〜2018年)

捕獲頭数は暦年、小型捕鯨・追い込み漁業は属地統計、突棒漁業は俗人統計。いるか漁業の捕獲枠の年度は、イシイルカ・リクゼンイルカは8月から翌年7月まで。和歌山県では2006年から9月から翌年8月まで。他は10月から翌年9月まで。表中の捕獲枠は、2017年度(17/18年漁期)/2018年度(18/19年漁期)。

表1

* 小型捕鯨業のマゴンドウの残枠31頭の再配分を含む。


表2. 主な小型鯨類の資源量推定値

表2

 

図1

図1. 網走港に接岸中の小型捕鯨船


図2

図2. 沖縄県の突棒(石弓)漁船


図3

図3. 和歌山県の追い込み漁業操業風景


図4

図4. 鯨類を探索中の調査員(目視調査航海)


図5

図5. 太地における漁獲物調査

1. 小型捕鯨業及びいるか漁業の現状

我が国の小型鯨類漁業は、農林水産大臣が許可する小型捕鯨業と、都道府県知事が許可する(知事許可漁業)いるか漁業に分かれる。後者はさらに漁法によって二分される(後述)。

小型捕鯨業は、6事業体(2008年に一部合併、2014年に1事業体の撤退等があった)5隻の捕鯨船(図1)で操業が行われている。総トン数40トン(新トン数)未満で捕鯨砲を装備した小型捕鯨船に3〜7名の乗組員が乗り込み、主に距岸約50海里以内で操業している。捕獲個体は、農林水産大臣から許可を受けた鯨体処理場にて解体処理される(それまでは鮮度保持以外の処理はされない)。現在許可されている鯨体処理場は、北海道網走市、北海道釧路市、青森県八戸市、宮城県石巻市、千葉県南房総市、和歌山県太地町の6か所である。2018年の小型捕鯨業の捕獲枠は、ツチクジラ76頭(オホーツク海系群4頭、日本海系群10頭、太平洋系群62頭)、タッパナガ36頭、マゴンドウ33頭、オキゴンドウ20頭である。このうちツチクジラ(太平洋系群)については、前年捕り残し分の繰越しが最大で10頭まで認められている。捕獲実績を表1に示す。対象種のうちツチクジラについては、詳しくは魚種別解説を参照されたい。小型捕鯨業に従事する捕鯨船は、2002年よりミンククジラを対象とした沿岸域の鯨類科学調査に参加するようになり、2017年から2018年は春から秋季にかけての年間約5か月間、4から5隻が同調査に専従している。2017年は、操業努力量は同時期に操業していた1990年代以前に比して少なく、捕獲実績も低くなったが、2018年は科学調査が順調に推移し、操業期間が実質的に延びたことから、捕獲実績は回復した。2019年は4月から6月までの間、鯨類科学調査に参加したが、7月に、大型鯨類に対する商業捕鯨が再開されたことにともない、沿岸(小型)捕鯨業にもミンククジラの捕獲枠が配分された(詳細は、水産庁 2019)ため、7月1日から北海道釧路沖においてミンククジラを対象とした操業を行った。10月までの操業においては、小型鯨類とミンククジラに対する操業は分けて実施されていたが、11月からは併漁が行われた。なお、操業監視と資源状態のモニタリングに資する資試料を収集するため、操業期間を通して、鯨体処理場に水産庁から監督員及び調査員(又は監督員兼調査員)が派遣され、操業の監視と全ての捕獲個体に対する漁獲物調査が行われた。

いるか漁業は、漁法によって突棒漁業(沖縄県の石弓(パチンコ)漁法は行政上突棒漁業に分類)と追い込み漁業に分類される。突棒漁業は手投げ銛で突き取る漁法である。現在、北海道、岩手県、宮城県、和歌山県及び沖縄県は、いるか漁業者が捕獲可能な上限頭数(捕獲枠)を設定している。岩手県、北海道、宮城県の突棒漁業については、魚種別解説のイシイルカの項を参照されたい。沖縄県(名護市)の突棒漁業は、他のいるか漁業とは異なる独特なもので、石弓を船首に取り付けて銛を飛ばし、別名パチンコとも呼ばれる(図2)。和歌山県の突棒漁業は、かつては操業隻数が15隻と小規模な漁業であったが、1990年代には100隻ほどにまで拡大した。追い込み漁業は、鯨群を湾内に誘導し、網で仕切ってから水揚げするものである。本漁業は、和歌山県(太地町、図3)及び静岡県(伊東市富戸)が漁業者に許可を与えている。静岡県では近年捕獲実績はないが、2019年10月から15年ぶりに操業を再開した。漁獲物の大部分は食用となるが、オキゴンドウ、ハンドウイルカ、ハナゴンドウ、マゴンドウ、マダライルカ、カマイルカ、シワハイルカ及びカズハゴンドウの一部は、水族館の飼育展示用として生きたまま販売される。本漁業は、飼育個体の重要な供給源となっている。

いるか漁業の捕獲枠及び捕獲実績を表1に示す。水産庁は2006年12月に、カマイルカを新たにいるか漁業対象種に追加し、2007年に各都道府県に対して捕獲枠の配分を行った。2008/09年漁期では、千葉県及び静岡県において活用されていなかったスジイルカの捕獲枠がこの漁期に限って和歌山県及び沖縄県に割り当てられた。また、2010年から宮城県の漁業者によるリクゼンイルカの捕獲には、県間の調整によって隣接する岩手県の枠も利用されている。2017/18年漁期には、シワハイルカ及びカズハゴンドウを新たにいるか漁業対象種に追加し、和歌山県及び沖縄県に捕獲枠が割り当てられ漁獲が行われた。

上述した漁業の動向に混獲、座礁・漂着に関する情報を加えた小型鯨類の統計は、1999年(暦年)分まではIWCへの提出文書(Japan Progress Report on Cetacean Researches)に含めて報告され、2000年分からは水産庁のウェブサイト(捕鯨の部屋)において公表されている。


2. 鯨類資源調査のニーズ・現状

鯨類資源調査のニーズは、まず対象資源の適切な保存と管理を行うための科学的根拠を構築することにある。このために、対象資源の系群構造を明確にし、資源量を正しく把握し、再生産率を求め、資源管理モデルを開発して、資源の持続的利用を図っていく。しかし、小型鯨類資源調査のニーズはこれらにとどまらない。かつて公海流し網の操業停止に至るほどに深刻化した鯨類の混獲問題への対処、漁業資源を巡る人間と鯨類の競合問題への対処にも鯨類資源研究の明確なニーズがある。また、近年では、水族館での展示生体の適切な利用、ドルフィン・ウォッチング、ドルフィン・スイム等の管理にも対象種の資源調査が必要と考えられる。さらに、潜在的ニーズとして、海洋における生物多様性の保持と将来への継承のためにも希少種を含めた鯨類資源研究が必要であることは言うまでもない。

鯨類の資源調査では、漁業と独立した目視調査による資源量推定法が確立されている。国際水産資源研究所(国際水研)が主体となり年間延べ50〜100日に及ぶ船舶を用いた目視調査航海を行い、主要鯨類の資源量を分析している。これらの航海の多くは、予め定められたコース及び速度で航走しながら、調査員が双眼鏡あるいは肉眼によって船上から探索を行うものである(図4)。大型鯨類の資源量データ取得を目的とする航海においても、小型鯨類の分布及び資源量についての情報を並行して収集している。これら調査航海では各種の実験等も行っており、系群研究のための皮膚組織のバイオプシー(1993年より)、行動解析のためのダートタグ装着(1998年より)やポップアップタグ装着(2002年より)も実施している。これらは遊泳中の小型鯨類を捕獲することなく、船上から実施できる調査手法である。また、目視調査中に撮影された写真を用いた個体識別による個体の消長や移動等の解析を目的としたデータも収集されている。さらに、対象資源の特性に応じて航空機による目視調査が実施されている(適用例:スナメリ。魚種別解説に詳しい)。

資源調査のもう一つの柱は、漁獲物調査である。小型捕鯨業については、国際水研と水産庁国際課捕鯨室と連携して、監督業務を兼ねた調査員を捕鯨基地に派遣し、漁獲物について詳細な生物調査を実施している(性別、体長、年齢(歯牙の計測と採取)、性成熟と繁殖状態(精巣、精巣上体、乳腺、子宮、卵巣、胎児の計測及び採取)、脂皮厚の計測、外部形態計測、DNA試料(表皮組織片)の採取、肋骨、脊椎骨の計数等)。このほか、操業努力量(探鯨時間、追尾時間等)、発見捕獲位置、時刻等の捕鯨船の操業に係る情報についても収集している。

いるか漁業の漁獲物調査については、小型捕鯨業の調査に準じ、各地の状況に応じて調査を実施している。和歌山県の追い込み漁業については、国際水研が詳細な調査を実施している(図5)。追い込み漁業は生体を得られる漁業であるため、国際水研は、衛星標識等の各種の標識を装着して放流し、移動ルートや回遊範囲を把握する調査も実施している。沖縄県の突棒漁業については、漁業管理施策の一環として、同県からの依頼により、国際水研が漁獲物の体長・性別や年齢に関する情報や系群研究用の試料の分析を実施している。


3. これまでの調査結果・推定資源量・資源管理

国際水研では、2014年に実施した目視調査のデータにもとづき、我が国の太平洋岸沖に生息するマゴンドウやハンドウイルカなど6種の資源量推定値を更新した(表2)。調査実施から、間もなく6年が経過することから、再更新を目的に新たな目視調査を実施中である。一方、太平洋岸と日本海東部のツチクジラについては、資源量推定値更新のための目視調査は実施済みであり、現在算出作業を進めている。目視調査に付随した実験からは、データロガーやポップアップタグによるツチクジラ、スジイルカ、カマイルカ、オキゴンドウ等の潜水時系列データが得られている。g(0)(目視調査線上の発見確率)推定や摂餌生態解明のため、さらにデータを蓄積中である。また、資源量推定に関しては、従来の推定法に代わり、海洋環境も考慮した空間モデルを応用した新たな手法による解析にも取り組んでいる。

また、ツチクジラ、マゴンドウ、ハンドウイルカ、イシイルカ、カマイルカ等について、漁獲物調査から得た試料の遺伝解析や、混獲・漁獲個体や目視発見個体への衛星標識装着による移動追跡等にもとづき、系群識別研究が進められており、得られた系群構造に関する知見が資源管理に適用されている。2007年には、イシイルカの魚種別解説に示されたPotential Biological Removal(PBR)(Wade 1998)の考え方が水産庁によって導入され、以降の捕獲枠の設定に活用されている。


執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

吉田 英可


参考文献

  1. IWC (International Whaling Commission). 1992. Report of the Sub-committee on small cetaceans. Rep. Int. Whal. Commn., 42: 178-228.
  2. Kanaji, Y., Miyashita, T., Minamikawa, S., and Yoshida, H. 2018. Abundance estimates of six species of Delphinidae cetaceans off the Pacific coast of Japan between 1985 and 2015. Marine Mammal Science, 34(4): 1034-1058.
  3. 南川真吾・島田裕之・宮下富夫・諸貫秀樹. 2007. 1998-2001年の目視調査データによる鯨類漁業対象6種の資源量推定. 平成19年度日本水産学会秋季大会講演要旨集. 151 p.
  4. Miyashita, T. 1990. Population estimate of Baird's beaked whales off Japan. IWC/SC/42/SM28. 12 pp.
  5. 宮下富夫・岩ア俊秀・諸貫秀樹. 2007a. 北西太平洋におけるイシイルカの資源量推定. 平成19年度日本水産学会秋季大会講演要旨集. 164 p.
  6. 宮下富夫・岩ア俊秀・諸貫秀樹. 2007b. 1992-96年の目視調査データを用いた日本周辺のカマイルカの資源量推定. 日本哺乳類学会2007年度大会プログラム・講演要旨集. 129 p.
  7. Miyashita, T., and Kato, H. 1993. Population estimate of Baird's beaked whales off the Pacific coast of Japan using sighting data collected by R/V SHUNYO MARU in 1991 and 1992. IWC/SC/45/SM6. 12 pp.
  8. 水産庁. 2019. 商業捕鯨の再開について. http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/190701.html(2019年11月29日)
  9. Wade, P.R. 1998. Calculating limits to the allowable human-caused mortality of cetaceans and pinnipeds. Marine Mammal Science, 14(1): 1-37.