--- 総説 ---

48 大型鯨類(総説)



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はじめに

国際捕鯨委員会(IWC:International Whaling Commission)の管理対象種は、14種(シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラ、クロミンククジラ、ザトウクジラ、コククジラ、ホッキョククジラ、セミクジラ、コセミクジラ、マッコウクジラ、ミナミトックリクジラ、トックリクジラ)であり、ここではこれらの種を大型鯨類と定義する。

IWCは、鯨類資源の適切な保存を図り捕鯨産業の秩序ある発展を目指すことを目的に締結された国際捕鯨取締条約(ICRW:International Convention for the Regulation of Whaling)の執行機関として、1948年に設立された。我が国は、科学的根拠に基づき鯨類資源を持続的に利用するとの基本姿勢の下、1951年に同条約に加盟した。1982年、IWCはいわゆる商業捕鯨モラトリアムを採択した。我が国は当初、この決定に異議申し立てをしたものの、1986年にこれを取り下げ、1987年漁期を最後に大型鯨類に対する商業捕鯨が一時的に停止されることとなった(図1)。モラトリアム採択以降、IWC科学委員会は、情報の不確実性に頑健な改訂管理方式(RMP)の開発を続け、1994年のIWC総会において、RMPを鯨類資源管理措置とすることに合意した。しかしながら、その後も、保護のみを重視し持続的利用を認めようとしない国々からの歩み寄りは見られずモラトリアムの撤廃は実現しなかった。このようにIWCが長年にわたり機能不全に陥る中、我が国は、IWCの正常化を目指しさまざまな努力を行ってきた。しかしながら、状況は変わらず2018年のIWC総会において鯨及び捕鯨に対する異なる意見や立場が共存する余地すらないことが明確になったことから、我が国は2019年6月30日をもってIWCから脱退した。翌7月1日から、北西太平洋で3種(ニタリクジラ、イワシクジラ、ミンククジラ)を対象とする商業捕鯨が再開された一方、1987年から南極海と北西太平洋で実施されてきた鯨類捕獲調査は中止されることとなった。


表1. 主要な大型鯨類の資源推定量推定値(IWCホームページより改変)

表1

 

図1

図1. 1928年から1986/87年までの南極海母船式捕鯨による鯨種別捕獲頭数の変遷、1987/88年から2018/19年までは調査による標本採集数の変遷

データ出典:Allison 2016、水産庁HP(https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/w_ document/index.html:最終アクセス日2020年2月4日)。


図2

図2. 北太平洋鯨類目視調査航跡図(1983〜2006年)(Kanaji et al. 2015を改変)

再開された大型鯨類を対象とする捕鯨と資源管理への取り組み

IWCからの脱退により、我が国は十分な資源量が確認されている北西太平洋の3種(ニタリクジラ、イワシクジラ、ミンククジラ)に対する商業捕鯨を再開した。再開された商業捕鯨では、大臣許可漁業である母船式捕鯨業と沿岸(小型)捕鯨業に、2019年の捕獲枠として、ニタリクジラ187頭(母船式)、イワシクジラ25頭(母船式)、ミンククジラ53頭(母船式・沿岸捕鯨)が配分された。下関を母港とする日新丸船団ならびに、網走や釧路、三陸沿岸を基地とする全国5隻の小型捕鯨船による操業が、我が国の領海とEEZ内で実施され、ニタリクジラ187頭、イワシクジラ25頭、ミンククジラ44頭が捕獲された。上述の捕獲枠は、IWCが開発し100年間捕獲を継続しても資源に悪影響を与えないと認めた極めて保守的なRMPの運用のもと、多数のシミュレーションを通して算出され、海外有識者によるレビューを受けて定められた捕獲可能量から、定置網等による混獲頭数や2019年に実施された鯨類捕獲調査での捕獲頭数を差し引いた値となっている(水産庁 2019)。操業監視と資源状態のモニタリングに資する資試料を収集するため、操業期間を通して水産庁から母船に監督員と調査員が、鯨体処理場に同じく監督員と調査員(もしくは監督員兼調査員)が派遣され、操業の監視と全ての捕獲個体に対する漁獲物調査が行われた。対象種の資源評価と捕獲可能量の定期的な見直しのため、目視調査等による資源量推定値の更新、漁獲物資試料の収集と解析による系群構造の解明等を行い、科学的根拠に基づく資源管理が行われるよう、継続的にモニタリングを行っていく必要がある。また、上述のように、我が国が国際捕鯨取締条約第8条に基づき、科学的研究を目的に南極海及び北西太平洋で実施してきた捕獲をともなう鯨類科学調査は、IWC脱退にともない中止されることとなったが、これら調査で収集した資試料の分析は継続されるとともに、非致死的調査と捕鯨業からの科学的データの収集を行い、得られた知見を商業捕鯨対象種をはじめとする重要鯨類の資源管理研究に活用していく必要がある。我が国はIWCを脱退したものの、国連海洋法条約のもと、国際的な鯨類資源の管理に協力していくとの方針に従い、今後もIWC科学委員会にオブザーバーとして引き続き参加するとともに、北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)等、他の国際機関との連携強化を図っていくこととしている。これら大型鯨類に対する資源研究については、水産研究・教育機構国際水産資源研究所(以下国際水研)の鯨類資源グループが、水産庁や一般財団法人日本鯨類研究所をはじめとする鯨類研究機関と連携し取り組んでいる。


大型鯨類資源研究の個別テーマと概要

(1)IWCとの国際共同調査プロジェクト(IDCR国際鯨類調査10か年計画/SOWER南大洋鯨類生態総合調査、POWER北太平洋鯨類生態総合調査)

(a)南極海

国際鯨類調査10か年計画(IDCR:International Decade of Cetacean Research)は、実質的にはIWCが1978/79年度に各国の捕鯨船団と独立した目視調査船団を組織し、クロミンククジラを対象とした資源調査を行うために開始された。初期には6年間で南極を一周するペースで調査が実施され、2003/04年度で3周目の調査が終了した。1996/97年度からは南大洋鯨類生態総合調査(SOWER:Southern Ocean Whale and Ecosystem Research)に移行し、2009/10年度まで調査が実施された。日本政府は、1978年の第1回調査航海より調査船及び乗組員を拠出する等、積極的にこの計画を支援した(松岡 2002)。これらIDCRとSOWERの目視調査結果に基づくクロミンククジラ資源量推定については、第2周目と第3周目の資源量推定値(95%信頼区間)がそれぞれ720,000頭(95%信頼区間=512,000-1,012,000)(1985/86-1990/91年)と515,000頭(361,000-733,000)(1992/93-2003/04年)とIWC科学委員会で合意され、本種の資源評価に用いられた。


(b)北太平洋

2010年から北太平洋において、IWCと日本による国際共同目視調査(POWER:Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research program)が実施されてきた。POWERは、主にイワシクジラとニタリクジラの資源量推定と系群構造解明を目的に開始され、2016年にこれら鯨種の主要分布域の1つである北太平洋中部及び東部の沖合域における調査を一旦終了した。本調査のデータを用い、イワシクジラの資源量推定(Hakamada et al. 2017)やニタリクジラの資源量推定値の補正(Hakamada et al. 2018)が行われるなど、本調査の結果は、捕鯨対象種の資源管理に大きく貢献している。2017年以降は、これまで大規模な目視調査が実施されていなかったベーリング海での調査計画が立てられ、2017年にはベーリング海東部で、2018年には同中央部において、それぞれ調査が行われた。我が国がIWCを脱退した後も調査は継続され、2019年にはアラスカ沖の米国EEZ内で調査が実施された。国際的な鯨類資源の管理に貢献していくとの我が国の方針のもと、今後も北太平洋において、同様の国際調査を継続していく予定である。


(2)我が国の鯨類科学調査

我が国は、ICRW条約第8条に基づき、科学的研究を目的とした捕獲をともなう鯨類科学調査を南極海(NEWREP-A)及び北西太平洋(NEWREP-NP)で行ってきたが、我が国のIWC脱退に伴い、これらは中止されることとなった。


(a)南極海

南極海では、1987/88年度からクロミンククジラの生物学的特性値の取得を主目的とした南極海鯨類捕獲調査(JARPA:Japanese Whale Research Program under Special Permit in the Antarctic)を実施してきた(年間捕獲目標数はクロミンククジラを400±10%頭(1994年度までは同300±10%頭))。JARPAは2005年3月に18年間の計画を終了したが、18年間の調査により得られた情報の解析を通して、鯨類を中心とする南極海生態系の構造が現在もなお変化し続けていることが示唆された。そのため、このような変化を検証するために、第2期調査(JARPA II)が2005/06年度より開始された。JARPA IIでは、クロミンククジラ(同850頭±10%頭)に加えて資源が大幅に回復しつつあるナガスクジラやザトウクジラも調査の捕獲対象に加えるなど(それぞれ50頭ずつ。ただし、当初2年間はナガスクジラのみ10頭捕獲)、調査の内容を拡充した。しかし、特に反捕鯨国の関心の高いザトウクジラについてはJARPA IIでは捕獲されることはなかった。JARPA IIの成果は2014年に科学委員会によりレビューされ、系群構造や生物学的特性値等の資源管理に資する重要な情報が得られたことが評価されるとともに、鯨類を中心とする南極海生態系の変化が継続していることが認識されることとなった(IWC 2015)。

2014年3月、国際司法裁判所(ICJ:International Court of Justice)は、豪州がJARPA IIはICRWに違反しているとして2010年5月に我が国を提訴した事案について、JARPA IIがICRWの規定の範囲に収まらないとして、その中止を命じる判決を出した。しかし、ICJは、捕獲(致死的)調査自体は禁止しておらず、むしろ、将来日本が捕獲を伴う調査を計画する際には判決の指摘事項を考慮することを期待する旨を示した(パラグラフ246)(判決文はhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/shihai/を参照、最終アクセス日2020年2月10日)。この判決の趣旨を踏まえ、日本は、2014年4月、「国際法及び科学的根拠に基づき、鯨類資源管理に不可欠な科学的情報を収集するための鯨類捕獲調査を実施し、商業捕鯨の再開を目指すという基本方針を堅持」することを表明した(水産庁 2014)。この方針に基づき、判決で示された基準を反映させた新たな南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A:New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean)の案をIWC/SCへ提出し(Government of Japan 2015a)、IWC/SCの討議を経て最終化し(Government of Japan 2015b)、2015年冬期より調査が開始された。NEWREP-Aの計画策定にあたって、日本は、ICJ判決の主な指摘事項に具体的に対応し、また、上記のICJ判決で示された期待にも応え、NEWREP-Aは判決に整合したものであった。

NEWREP-Aの調査目的の一つは、将来的なクロミンククジラの商業的捕鯨枠の算出に貢献するため、RMPで用いる生物学的・生態学的情報(例えば、資源の年輪組成、性成熟年齢やそれらの変動)を高精度に把握することにあった。調査では目視による資源量推定、捕獲を通じたクロミンククジラの年齢組成・性成熟・系群などの把握、その他鯨種の皮膚サンプルの収集、衛星標識・データロガーを用いた回遊・接餌行動の観察等が行われ、より高い精度で資源の動態メカニズムを把握することが図られた。もう一つの目的は、鯨に加えてその餌環境を調査することで、鯨類を中心とした南極海生態系モデルを構築し、その構造や動態を研究することにあった。鯨類の栄養状態の解析やオキアミ資源量の把握はその一環である。生態系モデルの構築は、持続可能な捕獲頭数の算出にとどまらず、南極海生態系の理解促進という科学的に重要な課題にも対応することができる。また、調査では、非致死的な調査手法の実行可能性、有用性を検証し、より適切な手法の組み合わせを模索していくことも図られた。

脱退前の2018/19年に実施された最後のNEWREP-Aにおいて、クロミンククジラが333頭、捕獲された。今後は、鯨類科学調査のうち、捕獲をともなわない、目視調査を主体とする非致死的調査が、本項(4)に述べられているように継続される。また、捕獲調査で収集された鯨類資試料の分析も引き続き行われ、得られた知見は重要鯨類の資源管理研究に活用される。


(b)北西太平洋

北西太平洋では、1994〜1999年度にかけて、ミンククジラの系群構造解明を目的とした北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)が行われてきたが、2000年からは漁業と鯨類との競合問題の解明を目指した総合的な生態系調査としての第二期北西太平洋鯨類科学調査(JARPN II)に移行し、2016年度まで実施された。JARPN IIにおける必要標本数は、胃内容物の種組成を一定の精度をもって把握することを目的に、イワシクジラは100頭(2004年以降)、ニタリクジラは50頭(2000年以降)、ミンククジラは鮎川沖の春季調査、釧路沖の秋季調査でそれぞれ60頭ずつ(2005年以降)、沖合調査で100頭(2000年以降)が、2013年まで設定されていた。2014年以降は、ICJ判決の趣旨を踏まえ、調査目的を限定する等して、また、捕獲予定数の一部を非致死的手法に再配分したうえで非致死的手法の実行可能性実験を行うこととし(沿岸捕獲頭数:ミンククジラ102頭、沖合捕獲頭数:イワシクジラ90頭、ニタリクジラ25頭の捕獲標本数)、非致死的方法(バイオプシーを用いた表皮採取、脱糞行動の観察と糞採取)も合わせて実施された。JARPN IIの成果は2016年のIWC/SCでレビューされ、系群構造の知見、鯨類と漁業との餌の競合に関する定量的な評価、海洋生態系における鯨類の役割の評価等の成果について、高い評価を得た(IWC 2016)。

日本政府は、持続可能な商業捕鯨の再開のために解決すべき科学的課題を改めて検討し、2016年11月、JARPN及びJARPN IIの成果も踏まえ、新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEWREP-NP:New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific)の案を策定し、IWC/SCに提出した(Government of Japan 2017)。本計画については、同科学委員会の手続きを経て最終化され、2017年から調査が開始された。目標捕獲頭数は沿岸域でミンククジラ127頭、沖合域でイワシクジラ134頭、ミンククジラ43頭であった。NEWREP-NPの調査目的は、日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出及び沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出にあった。調査項目には、系群構造仮説の検証や生物学的特性値の収集に加え、非致死的調査(目視調査、バイオプシーによる表皮採取、衛星標識による追跡等)や非致死的手法の検証(DNA分析による年齢査定の実行可能性検証)も含まれていた。

脱退前の2019年に実施された最後のNEWREP-NPでは、ミンククジラが79頭、捕獲された。今後は、鯨類科学調査のうち、捕獲をともなわない、目視調査を主体とする非致死的調査が、本項(3)に述べられているように継続される予定である。また、捕獲調査で収集された資試料の分析は、再開された商業捕鯨の資試料とあわせて引き続き行われ、得られた知見は商業捕鯨対象種をはじめとする重要鯨類の資源管理研究に活用される。


(3)北太平洋鯨類目視調査

北太平洋において、IWC管轄外の小型鯨類も含め(国際漁業資源の現況 小型鯨類(総説)参照)、鯨類漁業対象種の資源状態を把握し適切に資源管理を行うため、国際水研が主体となり目視調査を実施し、主要鯨類の資源量を推定してきた(図2)。実施体制としては、水産研究・教育機構調査船及び用船による調査である。また、ミンククジラの捕獲可能量の見直しに必要となる資源量推定値の更新に向け、2015年からオホーツク海においてロシアと共同目視調査を実施する等、国際的な調査研究協力も行われている。一方、IWC脱退まで北西太平洋で継続されてきた鯨類の捕獲を含む鯨類科学調査(NEWREP-NP)の一環として、目視調査も行われ、バイオプシーによる表皮採取や衛星標識による個体追跡等も実施されてきた。これら調査も引き続き行われ、捕鯨対象種を含む重要鯨類の資源評価に資する情報の収集と解析が継続される。調査で得られた成果は、国際的な鯨類資源管理への貢献のため、IWC科学委員会やNAMMCO等へも提供される予定である。


(4)南極海鯨類目視調査

南極海は、世界で最も鯨類資源が豊富な水域であり、将来、これら資源を国際的に利用する必要性が生じる状況も想定し、科学的根拠に基づく適切な鯨類資源管理を実現するために、鯨類の資源量や生態を継続して把握していく必要がある。このため、我が国は、南極海において1987/88年度から鯨類捕獲調査を開始し、2015年冬期(南半球における夏期)より、新たな南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A:New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean)のもと鯨類の捕獲を含む調査を継続してきた。その一環として、鯨類目視調査のほか、バイオプシーによる表皮採取や衛星標識・データロガーを用いた回遊・接餌行動の観察等も実施されてきた。IWC脱退にともない、捕獲をともなう調査は中止されることとなったが、持続可能な鯨類資源の利用に向けた大型鯨類の資源量とそのトレンド、分布や資源構造等の解明のため、南極海での目視等の調査は引き続き実施されている。


(5)新海洋産業管理及び希少生物管理

小笠原、座間味、土佐湾、笠沙等でのホエールウォッチング、また伊豆諸島や小笠原等でのドルフィンスイム等の新海洋産業が各地で定着しつつある。これら新産業は行政管轄のはざまにあり、必ずしも産業として適切に管理されていない。したがって、これらの管理にも対象資源の管理研究が必要であるばかりでなく、沿岸性鯨類の分布や移動、系群構造等に関するニーズも高く、分布調査や生息数調査を継続していく必要がある。


(6)その他

その他、海洋汚染、混獲問題等への対処に関する調査研究が行われている。また、市場に流通する鯨肉のDNA鑑定による個体識別も引き続き日本鯨類研究所により行われている。


主な大型鯨類の資源量

大型鯨類の資源量推定値については、IWCのウェブサイト(https://iwc.int/estimate)に主要なものがまとめられている(表1)。


執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

吉田 英可


参考文献

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