--- 総説 ---

04 まぐろ類RFMOにおける管理方策(総説)


−漁業資源の「管理戦略」とは。そしてその評価方法であるMSEについて−



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表1. 地域漁業管理機関(RFMO)において採択されている管理基準値

CCSBTで採用されている管理方式では管理基準値は用いられない。

表1

* B0.1はF0.1で長期的に期待される資源量。


図1

図1. MSE、OM(後述参照)、管理戦略の概念図


図2

図2. HCRの一例

資源量がBThresholdを上回っている場合は漁獲圧力をFtargetで維持するが、BThresholdを下回った場合には漁獲圧力を削減していき、資源量がBlimitを下回る場合には漁獲圧力をFminにする。


図3

図3. MSEの進め方に関する概念図

色の付いたボックスは主に科学者が策定し、白いボックスは主にステークホルダー(行政官を含む)が策定する(Punt et al. 2016)。斜線の矢印はアドバイスを示す。


図4

図4. 北太平洋ビンナガのMSEで用いられている5つのOMによる過去の資源量の推定値の推移

現在の資源評価モデルは赤のラインだが、不確実性を取り込むため設定を変えた他の4つのモデル(赤以外)も用いている(Tommasi and Teo 2019)。


図5

図5. 管理戦略の候補を比較するためのMSEのアウトプットの一例

ここでは4つの管理戦略の候補ごとに4つの評価軸についてのパフォーマンスが示されている(ICCAT 2019)。このような結果をもとにステークホルダー間で望ましい管理戦略を議論する。

管理戦略とは

水産資源の管理は、科学者から提供された資源評価や将来予測の結果をもとに、管理者(行政官)が漁獲可能量等の具体的な管理措置を決定するのが昔からの手法である。その場合、資源評価のたびに漁獲可能量等が見直されることとなるが、そこで問題となるのは、資源評価が新たに実施されたところ結果が前回と大きく変わり、管理措置に大きな変更が求められたり、特に国際的な管理では資源評価のたびに各国の漁獲可能量の割当についての交渉に膨大な時間と労力が費やされ、場合によっては新しい措置に合意できないことがあったりすることである。さらに、より大きな問題として、そのようなアプローチでは、決定されるのはわずか数年後までの漁獲可能量であることが多いため、資源管理のあり方や長期的なビジョン等について考慮することができず、ひいては短期的な利益ばかりが追及され、長期的に望ましい資源管理が達成できない恐れがある。

このような古典的な資源管理の課題に対応するため、1990年代から盛んになってきた資源管理に関する予防的アプローチにおいては、資源管理において「管理戦略」を導入することが推奨されている(FAO 1995)。管理戦略という言葉は複数の意味で用いられることがあるが、ここでは、@漁獲を管理するための漁獲管理ルール(HCR)、A資源状態を推定するための資源評価手法(資源評価に用いられるデータ準備のルールを含む)、の2つの要素のパッケージを指すこととする*1(図1右)。これらの要素をカバーする管理戦略があらかじめ合意されていれば、年ごとの決定事項については、あらかじめ決定されたルールに基づいて、データを収集し、資源評価モデルに取り込んで資源評価を行い、漁獲管理ルールに基づいて具体的な管理措置(例えば漁獲可能量)が導き出される。すなわち、毎年の漁獲可能量が、資源評価の見直しや複雑な交渉を経ることなく、あらかじめ合意されたプロセスに基づいてほぼ自動的に計算されることとなるのである。そして、このような長期間適用される管理戦略を議論していくためには、必然的に「資源をどのように管理していきたいか」という長期的なビジョンを明らかにする必要が生じてくる。このような長期的な資源管理のビジョンは「管理目標」と呼ばれ、管理者を含む利害関係者(ステークホルダー)は、管理戦略の検討に当たってまずこれを定める必要がある。これはその漁業あるいは資源をどのように管理していきたいか、そのあるべき姿を規定するものである。

次に、管理戦略の要素について詳しく説明する(図1右)。まず、漁獲を管理するための漁獲管理ルール(HCR:Harvest Control Rule)であるが、これは資源の状態に応じて漁獲をどのように管理するかについての約束事である。例えば、資源状態が良い時はそれを維持できるような漁獲を行い、資源が低下した場合には資源が回復するように漁獲量を削減するというようなルールを、資源状態全体に対してあらかじめ定めておく。それを具体的に示すと例えば図2のようになる。この例では横軸に資源量、縦軸に漁獲圧力が示されているが、このHCRに従えば、資源量がBThreshold(漁獲圧力が削減され始める資源量。 この場合はBMSY)を上回っている場合は漁獲圧力をFtargetで維持するが、BThresholdを下回った場合には漁獲圧力を削減していき、資源量がBlimitを下回る場合には漁獲圧力をFminにすることになる。

HCRにおいて具体的なアクションの基準となる値を「管理基準値(リファレンスポイント)」と呼ぶ。図2におけるBThreshold(この図ではBMSYとなる)や、漁獲圧力がFminとなる資源量(Blimit)等がこれに該当する。漁獲圧力がFminとなる資源量(Fminがゼロに設定される場合も多いが、必ずしもゼロにしなければならないわけではない)は限界管理基準値と呼ばれ、LRP:limit reference pointやBlimitと表記される(我が国の新しい資源管理ではBbanに相当。なお日本のBbanでは漁獲圧力はゼロとなる)*2。限界管理基準値は生物学的な情報に基づいて定められるもので、それを下回ると資源の持続性にとって望ましくないと考えられるレベルであり、管理戦略が実施された場合にこれを下回る確率は「非常に低い」ことが望ましいとされる。また、限界管理基準値を下回った場合には資源を速やかに回復させる措置が導入される必要がある。

一方で、資源の望ましい状態を規定するのが目標管理基準値である。こちらはTRP:target reference pointやBtarと表記される。限界管理基準値が基本的に生物学的に定められるのに対し、目標管理基準値は社会経済的な視点も考慮した上で望ましい資源のありようを規定するものであり、例えば「望ましい漁獲効率が得られる資源レベル」や「資源の持続性に懸念が生じないレベル」等に定めることができる。図2では、資源状態が高い時には漁獲圧力をFtargetに設定することにより、資源を長期的に望ましい状態に保つことが意図されている。FtargetがFMSYより低く設定されれば、長期的に資源は平均でBMSY以上に維持されることが期待される。

これらの具体的な管理基準値は、魚種ごとに科学的情報をもとに関係者で議論して決定する(MSEの項参照)。目標管理基準値も限界管理基準値も、資源量(図2の横軸)で定めることも漁獲圧力(図2の縦軸)で定めることも可能であるし、違う指標、例えばCPUE(漁獲効率)等に基づいたHCRを規定することも可能である。すなわち、さまざまな形態のHCRが可能である。現在地域漁業管理機関(RFMO)においてまぐろ類で採用されている管理基準値には以下のようなものがある(表1)。RFMOによってアプローチが違うことが見て取れる。WCPFC以外のRFMOでは、基本的にBMSY目標管理基準値としている一方、WCPFCではBMSYの近似値として初期資源の20%を限界管理基準値としている。

次に管理戦略に組み込まれる資源評価とそこで用いられるデータ準備の手法である。管理戦略によって具体的な管理措置を定めるに当たっては当然資源の状態に関する情報が用いられるが、資源評価が管理戦略の一部として含まれているのは資源評価の手法をあらかじめ固定するためである。通常、資源評価を実施するにあたっては、多くの場合、その都度改善の可能性が模索されるため、結果的に資源評価の手法が変わりその結果も変動することがある。しかしながら、長期的な管理を定める管理戦略においては、資源評価手法の定期的な改善を前提とすると長期的なルールが確立できないため、策定に当たって資源評価の手法についてもあらかじめ合意する必要がある。また、管理戦略を動かすために用いられるデータについても同様に、集め方、及び分析手法について合意する必要がある(あるいはCCSBTで採用されている管理方式のように、収集したデータから資源評価を経ずに簡単な計算ルールに基づいて漁獲可能量を計算する手法もある)。こうすることによって、将来のデータについても決まったルールに基づいて収集され、分析され、資源評価に提供されることとなる。管理戦略がきちんと機能するためには、これらの3つの要素(HCR、資源評価手法、データ収集手法)があらかじめ明確に規定され、合意されていることが不可欠である。


*1 管理戦略に関する用語の統一は国際的にも必ずしもきちんとなされていない。ここでは、管理戦略(management strategy)をharvest strategyやmanagement procedure(管理方式)と同義として扱うが、management strategyやharvest strategyは管理の方針やモニタリング戦略等も含んだ、management procedureよりも包括的な概念として扱われる場合もある(例:WCPFC)。

*2 管理基準値の定義も国際的に統一されていない。例えば、漁獲圧力の減少がLRPを下回った時点から導入される場合もある。したがって、管理基準値の値だけでなく、HCRの中でどのように位置づけられているのかを確認することが重要である。


管理戦略の評価(MSE)

しかしながら、管理戦略はある程度長期的に漁業の管理を規定するものであり、それに合意するということは、例えれば漁獲可能量がほぼ自動的に計算される「自動操縦システム」に合意することである。当然のことながら、そのような長期間使用することが想定される自動操縦システムについては、そのシステムがきちんと機能することが確認できている必要がある。この管理戦略の性能を評価するためのプロセスが「管理戦略評価(MSE:management strategy evaluation)」と呼ばれている(図1)。自動車の自動操縦システムであれば、直線道路で機能するだけでなく、様々な交通事情や不測の事態にも対応できることが重要であるのと同様に、MSEにおいて、管理戦略が対象資源の想定される様々な状況(不確実性)の下でもきちんと機能することをあらかじめ確認することが重要である。具体的には、様々な管理戦略の候補を様々な状況のシミュレーションでテストして、より性能の良い管理戦略を選ぶことになる。加えて、MSEのもう一つの重要な目的は、そのプロセスに科学者だけでなくステークホルダー(行政官を含む)も参加してもらい、全ての関係者の議論を踏まえて長期的な管理戦略に合意するという「合意の場」を提供することである(Punt et al. 2016)。ステークホルダーには漁業者や、環境保護団体等が含まれる。

MSEは複雑かつ時間のかかるプロセスであり(長い場合には5年あまり)、それに参加する科学者及びステークホルダー(行政官を含む)のそれぞれに重要な役割がある(図3)。ステークホルダーは、まず管理の長期的なビジョンとして管理目標を定める必要がある。この段階では、例えば「将来にわたって最大持続生産を維持する」、「漁獲量を最大化する」というような漠然としたもので構わない。次に、この管理目標を達成する管理戦略を選ぶために、より具体的な評価のための指標を設定し、その達成具合をシミュレーションを通じて比較することになる。この様な管理戦略の評価指標をperformance indicatorと呼んでおり、通常、持続性(例:資源状態)、安全性(例:限界管理基準値を下回る確率)、生産性(例:漁獲量)、安定性(例:漁獲量の変動)についての指標が検討されるが、必要に応じてさらなる指標が追加される(以下に詳細)。管理戦略を比較する際にどのような指標を見て管理戦略を選択したいかを決定するのはステークホルダーである。

一方で科学者は、管理戦略の候補を評価するための仮想現実として、オペレーティングモデル(Operating Model:OM)と呼ばれる資源動態モデルを準備する(図1及び3)。これは実際の漁業データ等を用いてモデルを構築するという点で構造的には資源評価モデルと同様であるが、データに最も合致する「正解」を探そうとする資源評価モデルと異なり、不確実な情報についてはあえて幅、選択肢を持たせることにより、「正解」ではなく、可能性のある複数の設定のモデルを構築する点が異なっている(例:図4)。これをOMの条件付け(Conditioning)と言う。つまり、一つの資源評価モデルに依存すると、そのモデルが間違っていた際にそれで評価されていた管理戦略も失敗する恐れがあるが、可能性のある複数のモデルによって評価することによって、不確実な状況にも対応できる頑健な管理戦略を選び出すことができるという考え方である。従って、OMを構築する際には、想定される不確実性をきちんと取り込んだ複数のモデル設定を構築することが重要である。例えばCCSBTでは、不確実性を取り込むために432通りにも設定されたOMを用いて管理戦略が評価されている。

科学者によって現実の資源動態の可能性を十分に再現できる性能の良いOMが構築され、performance indicatorがステークホルダーによって合意されたら、管理戦略の候補をOMにおけるシミュレーションでテストしていくこととなる(図1及び3)。OMは仮想の漁獲データを吐き出し、その仮想データを使って管理戦略のルールに従って資源評価が行われ、それ以降の漁獲ルールが決定され、それによる漁獲がOMに反映される、というシミュレーションのループが数十年分繰り返される(図1)。そしてその結果がperformance indicatorとして出てくるので、複数の管理戦略候補のperformance indicatorを比較して、望ましい管理戦略を選んでいくこととなる。

管理戦略の比較に当たっては、performance indicatorがトレードオフの関係になることがあることを認識することも重要である。例えば、漁獲を増やすことと資源状態を高い状態に維持することは当然のことながらトレードオフの関係となる。どの指標がより重要かはステークホルダーの間でも立場によって異なる。従って、同じシミュレーション結果を見てもどの管理戦略を選好するかはステークホルダー間で必ずしも同じではない。そこで、全てのステークホルダーが受け入れられる妥当なレベルの様々なトレードオフのバランスを、様々な管理戦略のシミュレーションの定量的指標の結果の比較を通じて探すのである(例:図5)。MSEの大きな有用性の一つは、ゴールの違う多様なステークホルダーが、MSEを通じて透明性を持った形でコンセンサスで管理戦略を選ぶ、ということにもある。

また、MSEのプロセスは一回限りのものではない。一度科学者が管理戦略のシミュレーションの結果を見せたとしても、最終的な合意に至るまでにそれを踏まえて様々な修正を加えたうえで再度シミュレーションを実施し結果を評価する、ということが繰り返されることも多い。そして、このようなMSEのプロセスでは、ステークホルダーをきちんと関与させ、関係者すべての了解のもとで長期的な「自動操縦」ルールに合意する、というのが核心的に重要である。なお、MSEによる管理戦略の検討はいつでもうまくいくというわけではない。例えば、データが資源の実態を全く捉えられていない場合には、データに基づいてOMを構築してそこで管理戦略を評価しても、現実では機能しない管理戦略となってしまう可能性や、不確実性をあまりにも大きくとる場合には、管理戦略が不必要に保守的(算出される漁獲可能量が小さい)になってしまう可能性もある。


MSE後(管理戦略の実施)

MSEを通じて管理戦略が合意されれば、それに基づいて実際の資源管理がなされることとなる。管理戦略に定められたルールに基づいてデータを収集し、漁獲可能量(あるいは努力量)を算出し、それが適用される。ここからは、適用された管理戦略が想定したとおりに適切に機能しているか評価していくことも重要となる。通常、資源量や漁業指標等をモニタリングすることにより、管理戦略が適切に機能しているか、継続的に監視していくこととなる。

モニタリングの結果、何らかの指標が想定から大きく外れた値を示すような場合には、管理戦略の実施あるいは想定に何か問題が生じていないか、さらなる検証が必要になる。そのような予想から外れる事態は「例外的な状況」と呼ばれ、その際に行うべきアクションはMSEを通じた管理戦略の開発の際にあらかじめ定めておく必要がある。例えば、ある指標が想定の範囲から逸脱した場合、あるいは管理戦略に使われるはずだったデータが収集されなくなった場合等、具体的な「例外的な状況」と、その程度に応じた対応まであらかじめ合意を得ておくことが求められる。

さらに、管理戦略が順調に機能していると考えられる場合でも、定期的に管理戦略をレビューすることも必要である(CCSBTの場合は6年に1度)。管理戦略は長期的な資源管理のルールではあるが、完成した後でも、定期的な点検とメンテナンスが重要となる。


まぐろ類における管理戦略の検討状況の概略

まぐろ類の資源管理を行う地域漁業管理機関では、MSEを用いた管理戦略の検討が積極的に進められている(Nakatsuka 2017)。以下に、まぐろ類地域漁業管理機関における管理戦略の検討状況を簡単にまとめる。


CCSBT(みなみまぐろ保存委員会)

  • 資源評価に合意できない等、国際的な資源管理が行き詰り、事態を打開するためにいち早くMSEの開発に取り組んだ。2011年に、MSEによって評価された管理戦略であるBali-procedureが合意され、以降これに基づいて漁獲可能量が3年ごとに決定され、3回の更新を経ている。2019年にBali-procedureが見直され、インプットデータを変えた新たな管理戦略であるCape Town Procedureが採択された。管理戦略の採択により国際交渉の円滑化が図られるとともに、資源の回復傾向が確認されている。

IATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)

  • MSEの実施に関して委員会での合意はない。
  • 一方で、管理措置案を評価する際に、事務局がMSEに近いシミュレーションを自主的に実施している。シミュレーション結果に基づき、熱帯まぐろ類(メバチ、キハダ、カツオ)を対象としたHCRが採択されている(データ収集、資源評価手法まで含めた包括的な管理戦略ではない)。

ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)

  • 2017年に、MSEに基づき北大西洋ビンナガのHCRが採択された(データ収集、資源評価手法まで含めた包括的な管理戦略ではない)。
  • 他に大西洋クロマグロ、北大西洋メカジキについてMSEの作業が進められている。大西洋クロマグロについては、2系群の混合モデルという非常に複雑なOMの構築に時間がかかっている。熱帯まぐろ漁業についてもMSEを実施することが決定されており、3魚種の資源評価をOMとして用いる方向で検討が進んでいるが、多魚種・多漁法という漁業をどのように管理していくのか、方向性は明確になっていない。
  • MSEの実施や漁獲管理ルールの開発の基本方針に関する保存管理措置を採択済み。

IOTC(インド洋まぐろ類委員会)

  • カツオについては2016年にHCRが採択されているが、これはMSEを完了した管理戦略とは考えられていない。MSEに基づく管理戦略を開発すべく作業が進められている。
  • ビンナガ、メバチ、キハダについてもMSEの作業が進展中。
  • 2016年、管理戦略技術小委員会の設立に合意。

WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)

  • 管理戦略の基本方針に関する保存管理措置を2014年に採択。
  • 熱帯まぐろ類についてはまだ管理戦略やHCRは採択されていない。現在、カツオのMSEを実施するためのOMの開発が進められている。
  • 2017年に太平洋クロマグロ、北太平洋ビンナガについて、管理の方針を定めた「Harvest Strategy」が合意された。これは管理の指針のようなものであり、漁獲可能量の自動的な設定等を含むここでいう管理戦略とは異なる。
  • 北ビンナガについては、MSEによる管理戦略の開発が進められており、これまでに複数回のステークホルダーとの意見交換を行いながら議論が進められている。
  • 太平洋クロマグロについても2024年までにMSEを完了することが求められている。

ここまで見てきたとおり、MSEを通じた管理戦略の策定は複雑で時間のかかるプロセスである。また、どのような資源でもMSEの開発が可能というわけではなく、複雑な科学的作業とステークホルダーからの多様な要求に耐える基礎となる十分なデータの存在が前提となる。このようなMSEを通じた管理戦略の策定を、地域漁業管理機関というそれ自身が国際交渉という複雑さを抱えている国際交渉の場で達成することは簡単ではない(Nakatsuka 2017)。CCSBT等の成功例も存在するが、例えばICCATにおける大西洋クロマグロのMSEでは、開始から5年が経過するもののいまだにOMが合意されず、管理戦略の合意の見通しは立っていない。地域漁業管理機関におけるMSEにおいては、漁業やステークホルダーの複雑さ、意思決定機関(委員会)と科学者との意思疎通の構造的な難しさ、長期的な管理戦略に同意することへの交渉者のためらい、MSEの開発中は通常の資源評価に割ける時間・労力等が削減されること等、MSE自体の難しさに加えて国際交渉特有の課題が上乗せされる。MSEに基づく管理戦略を策定することは、基本的に資源管理にとって望ましいことではあり、今後とも国際的にもそれを求める声は強まるものと予想され、実際に各地域漁業管理機関でも取り組みが進められているが、今後地域漁業管理機関でMSEに基づく管理戦略が継続的に採択されていくか、予断を許さない状況である。


執筆者

くろまぐろユニット
くろまぐろサブユニット
国際水産資源研究所 くろまぐろ資源部

中塚 周哉



参考文献

  1. FAO. 1995. Code of Conduct for Responsible Fisheries. http://www.fao.org/docrep/005/v9878e/v9878e00.htm(2019年12月26日)
  2. ICCAT. 2019. Report of the 2019 Intersessional Meeting of The ICCAT Bluefin Tuna Species Group. https://www.iccat.int/Documents/Meetings/Docs/2019/REPORTS/2019_BFT_ENG.pdf(2019年12月26日)
  3. Nakatsuka, S. 2017. Management strategy evaluation in regional fisheries management organizations - How to promote robust fisheries management in international settings. Fish. Res., 187: 127-138.
  4. Punt, A.E., Butterworth, D.S., de Moor, C.L., de Oliveira, J.A.A., and Haddon, M. 2016. Management strategy evaluation: best practices. Fish Fish., 17: 303-334.
  5. Tommasi, D., and Teo, S.L.H. 2019. Summary of results for the North Pacific albacore tuna (Thunnus alalunga) management strategy evaluation.http://isc.fra.go.jp/pdf/ALB/ISC19_ALB_1/ISC19-ALBWG-01_01.pdf(2019年12月26日)