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02 漁業資源の変動と資源評価について



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漁業資源を適切に利用するためには、海の中の魚の量(資源量)がどのように変動し、現在どのような状態にあるのかを知る必要がある。資源評価とは、資源量とその増減トレンドや漁獲が資源に与える影響を推定し、資源が持続可能な状態にあり適切に利用されているかを評価することである。

しかし、資源量を推定することは容易ではない。特に、本書で扱うような分布域が広く、大洋レベルの回遊が見られる資源の場合はなおさらである。また、環境の変化等の漁業以外の理由により資源の量や分布が変動することもあるため、漁獲で生じる変動との区別も必要である。ここでは、どのような情報を用い、どのような方法で資源評価が行われているのか、そして、どのように資源管理に生かされているのかを概説する。本書で扱う国際的な資源については、各地域漁業管理機関(RFMO)に附属する科学委員会等で、漁業データや資源量指数、科学調査結果等が分析され、それらの情報を統合して資源評価を行い、今後の漁獲枠等の管理措置が勧告されるのが通例である。


図1

図1. 1634年から1960年までの地中海の定置網による大西洋クロマグロの漁獲量の変遷(Ravier and Fromentin 2001)

ほぼ100年周期の自然変動があることを示している。


図2

図2. プロダクションモデルにおける資源量の時間変化(左)及び資源量と持続生産量との関係(右)

資源量が環境収容力Kの半分の時にMSY(最大持続生産量)が達成される。


図3

図3. VPAによる資源量推定の基本概念(魚住 2011)

コホート毎に1歳ずつ遡りながら死亡数を足し合わせることで各年齢での個体数を推定する。


図4

図4. 統合型資源評価モデル(Stock Synthesis 3)での太平洋クロマグロ資源評価の概要

漁業に基づく情報と生物学的情報をもとにモデルの構築を行っている。漁具漁法や魚の回遊とその年変化についても考慮されている。結果を各種のモデル診断にかけ、妥当であると判断されたモデルを用いて資源状態を評価する。


図5

図5. 神戸プロットの一例。東部太平洋メバチの資源量と漁獲水準の経年変化を示す(佐藤 2019b)

右下の領域(緑)では、資源量がSBMSYより多く、漁獲水準がFMSYより低い状態である。一方、左上の領域(赤)では、資源量がSBMSYより少なく、漁獲水準がFMSYより高い状態である。

1. 漁業資源の変動とその要因

(1)自然変動

ここでいう自然変動とは、水温等の自然環境の変化に伴う資源変動のことである。例えば、地中海の定置網の漁獲量から、大西洋クロマグロは過去400年間大きな自然変動を繰り返してきたことが知られている(Ravier and Fromentin 2001、図1)。また、カラフトマスの資源量と降水量や気温の関係(森田 2019)、クロマグロの加入量(新しく生まれて漁獲対象サイズまで成長した魚)と水温の関係(Muhling et al. 2018、Nakayama et al. 2019)等、資源変動と海洋環境の相関を示した研究例は多い。自然変動の具体的なメカニズムまで明らかにした研究はあまりないが、水温等の変化が産卵量や卵質、稚仔の生き残り等に直接影響するほか、稚魚が食するプランクトンの発生量等を介して稚魚の生き残りに影響を及ぼしていると考えられる。太平洋クロマグロの仔稚魚では、餌料環境(餌の種類や密度)の違いによって成長速度は大きく変化する。好適な餌料環境下では成長速度が速まり、被食のリスクが下がることが飼育実験や野外観察により示されている(Tanaka et al. 2008、2014、佐藤 2013)。

また、南極海のシロナガスクジラとクロミンククジラの関係のように、生態系の中で競合する他種の資源変動に影響される場合もある。シロナガスクジラの資源量は乱獲により極めて低水準になったため、1964年以降全面禁漁とされているが、現在でも資源回復の速度は極めて遅い。これは生息環境や餌を同じくするクロミンククジラがそのニッチ(生態的地位)を奪い、資源量を急速に増大させたためと推測されている(佐々木・村瀬 2019)。


(2)漁獲の影響

資源変動の他の原因として人間活動の影響が挙げられる。環境破壊や地球温暖化等は局所的または長期的な影響をもたらしていると思われるが、本書で扱う主に沖合に分布する資源の場合、漁獲による直接的な影響が大きいと考えられる。一般に、いか類等のように寿命が短く自然死亡率(自然の要因で死亡する割合)の高い資源は、資源量の自然変動も大きい。一方、まぐろ類のように、寿命が長くある程度成長すると自然死亡率が低くなる種では、漁獲による死亡率が相対的に高くなるため、漁獲の影響が現れやすくなると考えられる。また、鯨類やさめ類に代表されるような、産仔(卵)数が少ない種についても、漁獲の影響が資源変動に現れやすい。

漁獲が資源に与える影響は、漁獲量の多寡のみでなく漁獲時のサイズによっても異なる。特に、漁業対象となるサイズが小型から大型まで幅広い場合には、同じ漁獲量であっても小型魚を獲った場合の影響が大型魚のそれを上回ることが多く見られる(Wang et al. 2009)。一部のメバチ・キハダや太平洋クロマグロでは、小型魚を多獲することによる資源へのインパクトの強さが指摘されている(佐藤 2019a、2019b、中塚ほか 2019)。

通常の資源評価ではこれらの漁獲の影響を評価することに重きが置かれる。


2. 資源評価のために必要な情報

どのような方法で資源評価を行うかは、対象となる資源や漁業の特性にもよるが、どのような情報(データ)が使えるかにも依存する。情報は、「漁業からの情報」、「漁業から独立した情報」及び「対象魚の生物学的情報」に分類できる。


(1)漁業からの情報

漁獲量:1年間の総漁獲重量等、漁業によって海域から間引かれた資源の量を知るための最も基礎的な情報である。しかし、漁獲報告のシステムが未整備の国では漁獲量さえ定かでない場合も多い。魚種ごと、漁業種類ごとの漁獲量、さらに漁獲尾数まで把握できると、より有用な情報となる。


漁獲努力量:魚を獲るために投じた努力の大きさを定量化したものである。単に「努力量」とも呼ばれる。はえ縄漁業では操業で使った釣鉤の数、まき網漁業では揚網回数や操業日数、魚群探索時間、底びき網漁業では曳網回数や曳網時間等が努力量として用いられる。ただし、例えば、はえ縄漁業の場合、釣鉤の設置水深や漁場等によって魚の獲れ方が異なることがあるため、実質的に有効な努力量を把握するのは簡単ではない。


漁獲物のサイズ(年齢)組成:個々の魚の体長や体重から後述の成長式を用いて漁獲物の年齢組成を推定できる。このサイズ(年齢)組成と漁獲量から、何年に何才の魚が何匹漁獲されたかがわかり、加入量の増減や、親魚が十分に確保されているかを知るための重要な情報になる。しかし、漁獲物の年齢組成を正確に知るためには、体長組成や年齢査定のデータを大量かつ継続的に集める必要があり、体系的なサンプリング体制の整備が不可欠である。例えば、ミナミマグロでは、日本のはえ縄船が漁獲した全個体の体長データが即時的に収集される体制が整っている。


(2)漁業から独立した情報

漁業から得られる情報は、漁獲対象種とその混獲種の情報に限られる。また、商業漁業は対象種を効率よく漁獲できる漁場に集中するため、得られる情報にも偏りが生じる可能性がある。そこで、資源量やその動向に関する偏りの少ない情報を調べるために、科学的にデザインされた調査が行われる。鯨類で行われている目視調査はその一例である。これは鯨が呼吸のため水面に浮上する際、目視で存在を確認できることを利用した調査である。サンマでは表層トロールを用いた漁獲調査(巣山ほか 2019)が、スケトウダラや南極海のオキアミでは魚群探知機を用いた調査が行われ、資源量推定に用いられている。また、まぐろ類の一部では、ひき縄調査や航空機からの目視調査で加入量や親魚量の動向が調べられている。さらに、近年では、近親遺伝分析(Close-kin analysis)という遺伝的手法により、親魚資源量の推定が可能になりつつある。ミナミマグロでは親魚産卵場で漁獲された親魚とオーストラリア大湾で漁獲された若齢魚の親子関係を遺伝子型解析によって特定し、得られた親子のペア数や兄弟姉妹関係のペア数から標識再捕法の考え方に基づき親魚資源量を推定している(Bravington et al. 2016、津田ほか 2019)。これらの科学調査は、データ量の制限により推定値のばらつきが大きくなる場合があるものの、調査デザインが適切であれば、推定値の偏りは少ないと一般に考えられている。そのため、資源評価を行う上で貴重な情報源となる。


(3)対象魚の生物学的情報

後述の資源評価モデルによる資源評価では、漁業による漁獲とともに魚の生残、成長と死亡等をモデル化するために、対象種の生物学的な情報が必要となる。特に、成長、年齢、成熟、自然死亡率、及び再生産関係等は資源評価及び管理に直接使われるため非常に重要な情報となる。また、まぐろ類の一部では、対象魚の回遊に関する研究成果をもとに、海域間の移動を考慮した資源評価も実施されている(清藤 2019)。多くの場合、これらの情報は調査によって得られたデータやサンプルを、研究機関で分析することによって集積されるが、年や地域によるこれらの情報の変動を正確に把握するためには、体系的な調査・サンプリング体制の整備が不可欠となる。


成長・年齢・成熟:漁獲された資源の年齢を知るとともに、海にいる資源が1年でどれだけ大きくなり、何歳から再生産が可能になるかを知るための情報として重要である。一般に年齢については、魚類では耳石や脊椎骨、鰭棘条等、いか類では平衡石、鯨類では歯や耳垢栓に表れる輪紋等の齢形質から査定する。また、まぐろ・かつお類を中心に、標識放流調査によって得られる放流期間中の成長量や漁獲物の体長組成データと、耳石の分析結果とを併せて解析した成長式が資源評価に用いられる例もある(Aires-da-Silva et al. 2015)。

成熟については、生殖腺の分析等によって、ある年齢における成熟個体の割合が調べられる。特に魚類の資源評価では、成熟した個体の資源重量(産卵資源量)を指標に資源状態を診断することが多い。


自然死亡率:資源評価では、対象種の全ての死亡要因の中で、漁業及びそれに関係する死亡以外の要因(飢餓や被食、寿命)による死亡を一括して自然死亡として扱う。自然死亡を直接観測することは難しいが、まぐろ類のいくつかでは、標識放流調査で得られたデータからある年齢範囲の自然死亡率を推定し、資源評価に用いられている(Polacheck et al. 1997、Takeuchi and Takahashi 2006)。また、回遊経路や遊泳深度等を記録できる記録型標識を利用して、年齢ごとの自然死亡率を推定する研究も進められている(Kurota et al. 2009、Whitlock et al. 2015)。一方で、直接観測したデータが利用可能でない場合には、対象種のサイズや成長、成熟、寿命等の他の情報をもとに自然死亡率を推定する手法が用いられている(Pauly 1980、Hoenig 1983、Lorenzen 1996)。


再生産関係:ある資源の加入量を親の量の関数式で表したものを、再生産関係式と呼び、どの程度の親の量があればどの程度の加入量が見込めるか知るための非常に重要な情報となる。資源評価モデルによる資源評価では、再生産関係を内部に組み込んだモデル(プロダクションモデル、統合型資源評価モデル等)と、組み込まないモデル(VPA等)があり、前者では利用可能なデータをもとに再生産関係式を推定することが可能である。後者では、資源評価の結果として出力される親の量と加入量から事後的に再生産関係を推定することが可能である。


3. 資源量指数による資源評価

資源状態を知る簡便な手法として、資源量指数を利用する方法がある。資源量指数とは資源量の変化を相対的に示す指標のことであり、資源量が半分になれば、資源量指数も半分になると想定される。科学調査により何らかの資源量指数が得られることもあるが、多くの資源では漁獲量と努力量から計算されるCPUE(Catch Per Unit Effort:単位努力量当たりの漁獲量)を資源量指数として用いる。まぐろはえ縄漁業では釣鉤1,000本当たりの漁獲尾数(もしくは漁獲量)で表されるのが慣例である。

CPUEは算出が容易である点で便利な指数であるが、CPUEの時系列が資源量の時間変化を正しく表しているか十分に検討する必要がある。なぜなら、CPUEは実際の資源量の変化ばかりでなく、漁場や漁期、漁具等の変化にも影響されるからである。例えば、新たな漁具や機器の開発により、魚を捕る効率が年々上がっている場合、資源量は変化しなくても見かけ上のCPUEは上がるだろう。また、漁獲の主対象が変わった場合、元々の主対象種のCPUEは見かけ上は低下することも考えられる。これらの影響を排除し、資源量の本当の変動(主に年変動)のみを抽出する統計解析を標準化と呼ぶ(庄野 2008)。実際の資源評価ではGLM(一般化線形モデル)をはじめ様々な統計手法により漁場や漁期等の効果を取り除き、CPUEの標準化が行われる(Maunder and Punt 2004)。また、電子型標識等の情報から魚の分布(例えば鉛直分布)と漁具の分布の偏りを補正するハビタットモデルのような手法が標準化に使われることもある。標準化の手法は年々高度化しているが、手法や考慮する要因の違いにより、異なるCPUEの年変化が推定される場合もあり、このような時は慎重な解釈が求められる。


4. 資源評価モデルによる資源評価

現在、国際資源を対象に使われている資源評価モデルは、(1)プロダクションモデル、(2)VPA、(3)統合型資源評価モデル、と大きく3つに分類できる。歴史的にこの順序で理論が発展してきた。現在、特にまぐろ類では統合型資源評価モデルが広く使われているが、いくつかの資源ではプロダクションモデルやVPAも使われ続けている(黒田 2014)。


(1)プロダクションモデル

余剰生産モデルとも呼ばれるこの方法は、個体数ではなく資源量(重量)の変化をモデル化したもので、資源量の増減は、成長と加入による増加分と自然死亡と漁獲による減少分とのバランスにより決まるとみなす(Russell 1931)。基本的に漁獲量と資源量指数(もしくは努力量)という2つの情報から資源量を推定する(谷津 2001)。漁獲物の年齢情報を扱わないため、成長式や成熟率、漁獲物のサイズ組成等の情報が不要である等、他の手法に比べて必要となる情報が少ないため、多くの魚種に適用されてきた。

最も単純なプロダクションモデル(シェーファーモデルまたはロジスティックモデルと呼ばれる)における資源の変化を図2に示した。左図のように、資源量が何らかの原因で減少した場合、S字状の回復経過を示し、最終的に飽和状態(この資源量を環境収容力Kと呼ぶ)に至る。右図は、各資源水準における単位時間(例えば1年)当たりの生産量で、この量と同じだけ漁獲すれば、資源量は変化しないという意味で、持続生産量もしくは余剰生産量と呼ぶ。最大持続生産量(MSY:Maximum Sustainable Yield)とは、その最大値のことで、この例では、資源量が環境収容力の半分のときにMSYが得られる。このMSYの概念は、資源の自然変動を考慮していないという非現実的な仮定のもとでの概念だが(Haddon 2011)、MSYを達成するための漁獲係数(FMSY;後述)やMSY達成下での資源量(BMSY)は、資源管理がうまくいっているかどうかの判定基準としてよく用いられている。ちなみに、右図の関係は資源の生物学的特性によって異なるため、シェーファーモデルを一般化したペラ・トムリンソンモデルが使われることもある(谷津 2001)。


(2)VPA

VPA(Virtual Population Analysis)はコホート解析とも呼ばれ、年齢別の漁獲尾数と自然死亡率から、各年級群(コホート;同じ年に生まれた魚)の資源尾数を推定する方法である。多くの場合、資源量指数の情報も加味される。例えば、ある年級群に関して毎年の漁獲尾数と自然死亡率がわかれば、この年級群が最高齢(例えば5歳)で死に絶えるときから資源尾数を逆算することができる(図3)。すなわち、4歳はじめの資源尾数は4歳時の1年間の自然死亡量(図3では90尾)にその年の漁獲量(180尾)を加えた270尾である。さらに、3歳はじめの個体数は、この270尾と自然死亡の210尾と漁獲死亡の420尾を加え900尾となる。同様に遡って行くことで、1歳時の加入量(10,000尾)を求められる。このように、それぞれの年級群を経年的に追いかけていくのがVPAの基本的な考え方である。

実際の解析では、最近年の各年齢の漁獲係数(単位時間当たりに漁獲によって死亡する度合い;桜本 1998)及び各年の最高齢の漁獲係数を何らかの方法で得る必要がある。これらの漁獲係数(ターミナルFと呼ばれる)を推定するために資源量指数を使う手法をチューニングVPAまたはADAPT-VPAと呼ぶ。実際の資源量指数の変動をうまく説明できるようにターミナルFが調節(チューン)される。この手法は1980年代中頃から開発が進み、それ以降多くの資源に適用されてきた。

VPAでは、一般に寿命が長く、自然死亡率が低く、漁獲割合が高い場合に精度良く資源量が推定できることが知られている。また、若齢の推定値ほど誤差が相対的に小さくなる(平松 2001a)。一方、VPAは年齢別の漁獲尾数に誤差はないという仮定に基づいて資源尾数を推定するため、漁獲物の年齢組成の誤差が大きいと信頼できる結果が得られない。この問題が近年VPAから統合型資源評価モデルへ移行する一因となっている。


(3)統合型資源評価モデル

1990年代後半以降、統合型資源評価モデル(NRC 1998、Maunder and Punt 2013)と呼ばれる解析法がまぐろ類やかじき類を中心に使われている。統合型資源評価モデルは、年級群を単位に資源の動態を考える点ではVPAと同じであるが、再生産関係がモデル内部に組み込まれている点に理論上の大きな違いがある。また、漁獲量や資源量指数及び漁獲物のサイズ組成のそれぞれに誤差があることを仮定し、全てのデータとモデルの推定結果の間の矛盾が最小化されるように、加入量や年齢別資源尾数、年齢別漁獲尾数(漁獲死亡係数)等を一括して推定するという特徴がある(図4)。全ての漁獲物の年齢を正確に分析することは現実的には不可能であるため、年齢別の漁獲尾数の誤差を考慮できる統合型資源評価モデルは、漁業データしか利用できないような場合、VPAより優れているという研究例がある(NRC 1998)。

その反面、統合型資源評価モデルでは必要となる入力データや生物学的情報が多く、それらを扱ったモデル内部での統計処理も複雑になりがちで、モデルがブラックボックス化してしまう危険性もある。2010年代以降、統合型資源評価モデルを用いた資源評価が広まるに従って、モデルの仮定や推定結果の妥当性を診断する手法が多く開発されており(Ichinokawa et al. 2014、Maunder and Piner 2015、Carvalho et al. 2017)、まぐろ類RFMOでの資源評価では、資源評価結果とともにモデルの妥当性の診断結果を示すことが一般化しつつある(図4)。

一般に統合型資源評価プログラムの開発には多大な時間と労力がかかるため、Multifan-CL(Fournier et al. 1998)やStock Synthesis(SS;竹内 2006、Methot and Wetzel 2013)等汎用性を持ったソフトウェアが用いられることが多い。これらのソフトウェアでは、資源の動態や漁業活動の時間的・空間的な違いを考慮した資源評価まで可能になっている。これらの特徴によって、資源や漁業の実態により即した資源評価を1つのモデルで一貫して行える点が支持を集めている。


5. 資源診断と将来予測に基づく管理措置の勧告

これらの資源評価モデルにより、過去から現在までの資源量や漁獲係数等が推定される。まぐろ類の資源管理では、現在の資源量SBcur(産卵親魚量で表すことが多い)と漁獲水準Fcurを、各RFMOで定めた資源管理の基準値(例;SBMSYとFMSY)とそれぞれ比較することで、現在の資源水準が乱獲された状態(SBcur<SBMSY)にあるか、また、現在の漁業が乱獲行為(Fcur>FMSY)にあたるかを判断している。また、生物学的な情報の不足によりSBMSYの算出が困難な資源では、SB20-40%(初期資源量の20-40%に当たる資源量)、SBMAX(加入量当たりの漁獲量YPRを最大化したFで達成される資源量)、SB0.1(YPRとFの関係を示す曲線において接線の傾きが原点におけるそれの10分の1になるFで達成される資源量。経験的に安全な管理基準と考えられている。)等の代替の管理基準値に基づき、資源状態が診断されている。資源量と漁獲水準の過去の変化を管理基準値の比にして1枚にまとめた図は、神戸で開かれた第1回まぐろ類地域漁業管理機関合同会合にて作成が推奨されたことから神戸プロット(図5)と呼ばれている。資源管理における予防的アプローチとして、乱獲の基準や乱獲からの回復措置等をあらかじめ定め、不確かな状況下でも資源を枯渇させることなく、安全に管理しようとする考え方がある(魚住 1999)。神戸プロットの作成等に見られるように、その概念はまぐろ類だけでなく、他の国際資源の管理にも浸透しつつある(巣山ほか 2019)。

このような資源診断の他に将来予測の結果を加味することで、今後の漁獲量等の管理措置がまとめられることが多い。将来予測では、将来の加入量の変動等も考慮した上で、現在の漁獲量で漁業を続けた場合やそれを増減させた場合に、資源量がどのように変化するかをシミュレーションにより予測する。太平洋クロマグロでは、現在の漁獲管理措置が将来続いた場合に達成される資源量のシミュレーション結果に応じて、将来の漁獲管理措置を検討する手続きがRFMOで定まっている(WCPFC 2017)。また、ミナミマグロのように管理戦略評価と呼ばれる仮想的な資源動態での管理措置のテスト結果に基づき、管理措置を決定し、将来の漁獲量を算定することもある(黒田ほか 2015、中塚 2017)。いずれの方法にせよ、将来予測の結果を管理目標の達成確率等で定量的に評価することで、管理措置の妥当性は判断されるが、管理目標が明示的に定められていない場合にはその取りまとめは難しく、管理基準値の選択等を巡り、しばしば議論となる(甲斐 2013)。


6. 今後

冒頭に資源の自然変動と漁獲の影響を的確に把握することの重要性に言及した。しかし、現在の資源評価では自然変動の影響に関する取り組みは不十分である。多くの資源評価モデルでは自然死亡率は年に依らず一定と仮定しているのが現状であり、気候や海洋構造の数十年スケールの変動が資源動態に与える影響についても、現象そのものへの関心は高いが、理論的な取り扱いは十分には進んでいない(Punt et al. 2014)。しかし、海洋環境の変化が低次生産を通じて高次捕食者の時空間動態に与える影響を評価するプロジェクト(CLIOTOP;Brill and Hobday 2017)等が実施されている。また、これまでの資源評価モデルは単一種に限定されたものが多かったが、Ecopath等生態系全体の動態を扱うモデルへの関心も高まっている(米崎 2010、清田 2013)。現在の資源評価モデルはすでにかなり複雑であるが、今後はこれらの要因を加えた、さらに高度なモデルが提案される可能性がある。これらのモデルが現実の資源管理にどの程度有用であるか今後検討されるべき課題である。


執筆者

くろまぐろユニット
くろまぐろサブユニット
国際水産資源研究所 くろまぐろ資源部 くろまぐろ資源グループ

福田 漠生


参考文献

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