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61 サクラマス 日本系

Masu Salmon, Onchorhynchus masou masou


PIC

北海道寿都町で水揚げされたサクラマス(約5 kg)

右下はヤマメ。サクラマスとヤマメの区別は「生物学的特性」を参照。


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最近の動き

2017年の日本での沿岸におけるサクラマスの漁獲は593トン、前年(2016年)比49.9%で、直近5年では最低水準であった。漁獲動向は道県によって異なる年が多いが、2017年の前年比は岩手県の微増(前年比105%:59→62トン)を除いて、富山(同25%:4.0→1.0トン)、山形(同26%:6.2→1.6トン)、秋田(同23%:42→9.7トン)、青森(同36%:181→65トン)、北海道(同52%:908→473トン)と一致して低い値を示した。


利用・用途

生鮮での流通が中心である。サクラマスは、身に脂肪分が多く、かつては市場価値も高かったが、近年は魚価が下がり、逆に海外の養殖さけます類が値上がりしていることから、サクラマスの市場での位置づけが見直される傾向もある(大串 2014)。海面で大きく成長し、太って体高が高くなった「イタマス」と呼ばれる魚体は、特に美味とされる。主に、ルイベや塩焼き、フライ、ムニエルなどにして賞味される。魚卵の利用は、サケやカラフトマスと異なり、ほとんど見られない。郷土料理として有名な富山県のます寿司は、本来は県内で獲れたサクラマスが使用される。ヤマメも食用であり、養殖も行われている。

また、サクラマスとヤマメはともに遊漁対象でもあり、本州では漁業権魚種に指定されている河川も多い(中村 2011)。


表1. 日本とロシアのサクラマス漁獲量(トン)(データ出典:NPAFC 2018)

表1

 

図1

図1. サクラマスとその近縁種の自然分布域(Morita 2018を改変)


図2

図2. 産卵遡上するサクラマス雌雄の平均体サイズ緯度クライン(Tamate and Maekawa 2006改変)


図3

図3. 日本海沖合で獲れたサクラマスから描かれた成長曲線(Machidori and Kato 1984改変)

1962年から1972年にかけて行われた日本海沖合調査で、3月上旬から6月中旬にかけてのサクラマスの平均体重(垂直線は95%信頼区間)の推移が明らかにされた。これにより示された海洋でのサクラマスの成長曲線はオスy = 715.69e0.0989x、メスy = 714.99e0.0832x(Machidori and Kato 1984)。


図4a

図4a. 富山県におけるサクラマス漁獲量と放流数の推移


図4b

図4b. 山形県におけるサクラマス漁獲量と放流数の推移


図4c

図4c. 秋田県におけるサクラマス漁獲量と放流数の推移


図4d

図4d. 岩手県におけるサクラマス漁獲量と放流数の推移


図4e

図4e. 青森県におけるサクラマス漁獲量と放流数の推移


図4f

図4f. 北海道におけるサクラマス漁獲量と放流数の推移

漁業の概要

降海したサクラマスは主に日本とロシアの沿岸で漁獲されている。ただし、ロシアでは、ハバロフスク地方や沿海地方でのサクラマスの商業漁獲は現在禁漁で、主たる漁獲はサハリン州でのカラフトマス漁業における混獲である。過去の両国の漁獲量を表1に示す(日本1992年、ロシア2002年以降)。漁獲のほとんどは日本であり、2017年から直近5年の日本の漁獲量は593〜1,357トンの範囲にある。

我が国の沿岸域では、オホーツク海で越夏した小型個体が10月頃からオホーツク海や根室海峡沿岸で漁獲され始める。その後、日本海と太平洋沿岸を回遊し、越冬・成長した個体が、北海道や本州沿岸で漁獲される。冬季以前は回遊ルートや越冬場所にあたる海域で広く漁獲されるが、春季以降は主に母川周辺の海域で漁獲される(Miyakoshi et al. 2001)。また、漁獲量も母川周辺の海域に回帰する春から初夏かけて増加する傾向が見られる(Miyakoshi et al. 2001)。沿岸域での漁獲は、本種の降海型個体出現域(図1)全域でみられるが、漁獲の中心は北海道と青森、岩手である。沿岸域では、定置網やます曳釣り、一本釣り、刺網、底びき網など様々な漁法によって漁獲される。沿岸域の遊漁も盛んに行われており、北海道では少なくとも沿岸漁業による漁獲尾数の12-13%に相当する魚が遊漁によって釣獲されている(Miyakoshi et al. 2004)。

沖合域では、1950年代に実施された「対馬暖流開発調査」において商業漁獲の対象となる密度のカラフトマスとサクラマスの魚群が発見されたため(永沢 2011)、流し網やはえ縄を用いた漁業が春季の日本海沖合で開始された。また、この日本海ます漁業に関連した資源量調査や研究が進められたことによって、サクラマスの沖合での分布や回遊経路、食性などが明らかになった(例えば、Machidori and Kato 1984)。しかし、1970年代の200海里経済水域の設定により、沖合域の漁場は徐々に狭まっていった。また、主たる漁獲対象であったカラフトマスには旧ソ連の河川起源の資源が含まれていたことから、1978年以降は漁業協力金の支払いに伴う経費の増加が生じるとともに、魚価の低迷が続いた(永沢 2011)。そのため、2000年代には沖合域でのサクラマス漁業は消滅した。なお、この沖合域での漁業では日本系サクラマスに加え、ロシア系も漁獲していたと考えられるが、両系群の比率は不明である。そのため、当時の沖合域における日本系サクラマスの漁獲量の確定はできない。

本州では、遡上したサクラマスが漁獲されている河川もある(中村 2011)。また、ヤマメも遊漁や養殖の対象として内水面漁業における重要種である(加藤 1990)。


生物学的特性

本種には、一生を河川で過ごす陸封型個体群と沿岸漁業の対象となる降海型個体群(降湖型個体群も存在する)がある。降海型個体群の中には一生を河川で過ごす個体もいる。一般には海洋生活期を経て河川に遡上し産卵後斃死するまでの個体をサクラマス、それ以外の個体をヤマメと呼ぶ。河川での分布は、亜種であるサツキマス(アマゴ)も含めると日本のほぼ全域で、国外では朝鮮半島の日本海側、ロシアの日本海側、サハリン全域、カムチャッカ半島西部などに及ぶ(図1)。また、台湾には近縁種のサラマオマスが分布する。本種は冷水性であるため、本州以南では河川上流域に陸封型個体群が分布することが多い。北日本では、下流域から上流域にかけてごく普通にみられる。海洋では日本海、オホーツク海周辺に分布し、サケのようにベーリング海まで回遊することはない(Nagasawa 2018)。

サクラマスの産卵はサハリンでは7月上旬から始まる(セメンチェンコ 1989)。それよりも南に位置する北海道では、8月に産卵期を迎える河川もあるが(例えば斜里川)、概ね9月から10月にかけて産卵が行われる(真山 1990)。東北地方の北上川では産卵期は9月から11月である(木曾 1995)。このように産卵期は北から早く始まる傾向にある。その期間は1ヶ月未満でサケと比べると短い。サケと同様にサクラマスも産卵のために河川を遡上するが(産卵遡上)、遡上能力は明らかにサケよりも高く、河川の水位次第では3 m以上の落差も飛び越える。また、サケよりも上流域や川幅の狭い支流に入り込むことも多い。自身が生まれた河川に産卵遡上する母川回帰性を示し、支流単位で母川を識別すると考えられている(宮腰ほか 2012、Kitanishi et al. 2017)。産卵の際は、他のサケ科魚類と同様にメスが河床の礫を掘り返し産卵床を造る。そして、サクラマスのメス1尾に対してオスのサクラマスやヤマメが複数(時折1尾)混在する集団が形成され産卵が行われる。

稚魚は産卵の翌春に産卵床から浮上し、少なくとも1年間河川生活を送る。河川生活期の個体は、流水中に採餌のための縄張りを造り、主に流れてくる無脊椎動物を捕食する。陸生昆虫の活動が活発になる春から秋にかけてはそれらが胃内容物中に占める割合が高くなる(真山 1992、柳井ほか 1996、Hasegawa et al. 2012a)。同種小型個体やサケの稚魚など、小型魚類も捕食する(真山 1999、田子 2004、Hasegawa et al. 2012a)。縄張りを形成する場所は成長に伴い流れが緩い岸際から流心に移行する(長谷川ほか 2011、Hasegawa et al. 2012b)。また、同種個体密度に依存して採餌量は低下し、それと同調するように成長も低下する(Hasegawa et al. 2014)。特に、ブラウントラウトやニジマスなど侵略的外来種も含めた他魚種よりも同種の人工ふ化放流魚の影響を受けやすい(Hasegawa et al. 2014、Hasegawa and Nakashima 2018)。

サクラマスとなる個体は1年あるいはそれ以上の河川生活期の後、スモルト(銀毛)と呼ばれる銀白色の体に尾鰭などの先が黒くなった独特の外見をした状態となり降海する。降海を行う時期は概ね4〜6月であり、産卵期とは逆に南から降海行動は始まる傾向にある(河村 2012)。降海行動は夜間に活発になる(太田ほか 1986、隼野ほか 1997)。スモルトとなるための条件として、遺伝的背景の他、降海時期に体サイズがある範囲内であること、すなわち成長が寄与していることが知られている(Tamate and Maekawa 2002)。また、分布域北部では全てのメスと一部のオスがスモルトとなるが、スモルトの割合は雌雄ともに南へいくほど低下する(真山 1990)。

サクラマスの海洋生活期間は1年である。標識個体を追跡した結果などから、日本系サクラマスは海水温の上昇とともに沿岸を離れ、オホーツク海で越夏、北海道渡島半島東側から青森県下北半島北側付近の海域で越冬し、春に母川へ回帰すると考えられている(Nagasawa 2018)。ただし、同一河川由来のサクラマスの海産寄生虫相に個体間変異がみられたことから、海洋での回遊ルートの個体群内変異が示唆されている(粟倉・野村 1983)。海洋でのサクラマスは、季節を問わずイカナゴなどの魚類を主に捕食し、春季にはクラゲノミ類やオキアミ類といった大型の動物プランクトンも利用する(佐々木ほか 1988、木曾・竹内 1994)。また、大型のサクラマスほど大型の餌を利用するようになり、魚類への依存度も高くなる(木曾 1994)。降海後の幼魚や海洋で一冬過ごした未成魚はサケ幼稚魚の捕食者でもあり、サクラマスによる捕食がサケ資源に与える影響を把握すべきという指摘もある(長澤・真山 1997)。

河川でのヤマメの主な捕食者は、サケ科魚類などの魚食性を示す魚類(真山 1999、Taniguchi et al. 2002、Hasegawa et al. 2012a)、サギ類といった鳥類である(例えばMiyamoto et al. 2018)。また、産卵後死亡する直前や死亡後の個体は、他のサケ属であるサケやカラフトマス同様、わし、かもめ、からすといった鳥類、くまやきつねといった哺乳類などに利用される(虎尾 2003、菊池 2013)。一方、海洋では、トドやアザラシといった海産哺乳類による捕食が指摘されているが(新妻 1986)、サケやカラフトマスほどには被食実態について明らかでない。

本種はサクラマス、ヤマメともに体サイズや成長様式の個体群間変異が大きい。例えば、Tamate and Maekawa(2006)では、産卵遡上するサクラマスの平均尾叉長はオスで46〜71 cm、メスで52〜64 cmであり、オスの体サイズは北ほど大きいことを示している(図2)。また、北海道を網羅するように調査河川を8つ設定し、各河川で放流されたスモルトを沿岸で追跡した研究では、放流時の体サイズを河川間である程度揃えても、翌年1月以降主に定置網で漁獲されるサクラマスの体サイズには個体群間変異が顕著に生じることを示している(真山ほか 2005)。この体サイズ差は、放流後約半年の10〜11月にはすでに生じており、海洋での分布様式は個体群間で重複が大きいことから、生息環境の違いではなく、各個体群がもつ遺伝的特性の違いによると示唆されている(真山ほか 2005)。

海洋でのサクラマスの成長曲線はMachidori and Kato(1984)によって示されている(図3)。また、ヤマメの成長曲線も、三陸海岸南部の河川で収集したデータを用いて示されている(Kiso and Matsumiya 1992、Kiso et al. 1992)。


資源状態

サクラマスは「北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約」の対象種で、その漁獲量や放流数などは北太平洋溯河性魚類委員会(NPAFC)に報告されている。ただし、本種の漁獲量を報告しているのは日本とロシアのみで、しかもロシアの漁獲量は例年、日本の概ね1%程度である(表1)。

サケやカラフトマスと同様、日本沿岸で漁獲されるサクラマスの総量は1990年代以降、時折高水準を示しつつも年々減少している。ただし、漁獲量の年変動は道県によって異なる(図4a-f)。日本国内でサクラマスを漁獲している主な道県で、最も顕著な減少を示しているのは富山県である(図4a)。すなわち、1980年代半ばは20トンを超える漁獲があったが、2006年以降の漁獲量は5トンに満たない。その減少要因として、河川分断化による親魚の産卵遡上阻害など各道県で共通する懸念事項のほか、富山県では、降海性を持たない外来アマゴとの交雑による降海率低下が問題視されている(田子 2002、北西ほか 2017)。また、青森県も富山県ほど顕著ではないが減少傾向を示しており、1990年代前半まではほぼ毎年300トンを超える漁獲があったが、2000年以降は200トン程度あるいはそれを下回る年も目立つ(図4e)。一方、山形県(図4b)、秋田県(図4c)、岩手県(図4d)、北海道(図4f)の4道県では、直近の5年間でこれまでの最大年間漁獲量を更新することはなかったが、1990年代、2000年代と同程度の漁獲量を記録している年も多く、減少傾向とはいえない。ただし、北海道では、1970年代以前は毎年のように推定1500トン以上漁獲されていたため(玉手 2008)、長期的には減少したと考えられる。また、北海道内では年変動に地域差がある。特に2007年以降、種苗放流数の多い日本海側では減少傾向にあるのに対し、放流数の多くない太平洋側やオホーツク海側では増加傾向にある(Morita 2014)。

サクラマスの人工ふ化による種苗放流には、0+春放流、0+秋放流、1+(スモルト)春放流の3手法がある(0+は当歳魚、1+は1歳魚を指す)。放流尾数の推移は道県によって違いが大きいが、総じて0+秋放流や1+春放流よりも0+春放流が主体になってきた。ただし、サケのように種苗放流数の増加に伴い沿岸漁獲量が増加するといった明瞭な関係は見られず、標識再捕調査の結果から沿岸漁獲物に占める放流魚の割合は、14-26%と推定されている(宮腰 2008)。一方、北海道での1970年代前半の沿岸漁獲量の急減の主要因は、産卵遡上を妨げたり、産卵床造成に必要な礫の供給を絶つ河川横断工作物(いわゆるダムや堰堤)の急増にあるという指摘があり(玉手・早尻 2008)、近年は魚道整備やダムのスリット化が進み産卵遡上阻害が解消された河川も多い(例えば、河村 2007、馬谷・奥田 2017)。産卵遡上阻害が漁獲量減少に寄与しているならば、今後は漁獲量が増加することが期待されるため、今後の漁獲量動向を注視する必要がある。加えて、Sahashi et al.(2018)が指摘しているように、河川環境だけでなく海洋環境と漁獲量の関係も考慮する必要がある。

2018年春季の沿岸漁獲量は、岩手県は前年並み(2017年:62トン;2018年:58トン)、富山県では前年の2倍(2017年:1トン;2018年:2トン)、青森県では前年の約3倍(2017年:65トン;2018年:207トン)であった。北海道では大型魚の漁獲も目立ち、体重5 kgを超えるものも多かった。ただし、資源が増加傾向とは判断し難く、2018年あるいは2017年からの直近5年間の沿岸漁獲量は変動が大きいが、過去10〜20年程度で生じている年変動の範囲内であり、資源動向は横ばいと判断した。2017年の日本の沿岸漁獲量は1997年以降最低の593トンであったが、他年と比べて極端に低くはない(表1)。また、2018年は2017年よりも漁獲量が増えた県もある。以上より、日本系サクラマスは中位の資源水準を維持していると判断した。


管理方策

現在、沿岸漁業における日本系サクラマスの漁獲管理は行われていない。ただし、2000年頃の北海道では、道内全体における海面遊漁(船釣り)による釣獲尾数が同じく沿岸漁業の漁獲尾数の10%程度に及んだため(Miyakoshi et al. 2004)、現在、北海道の胆振、後志、檜山地域では、サクラマスの船釣りに対してライセンス制を導入し、釣獲時間、釣果尾数などに制限を設けている(大串 2014)。

日本系カラフトマス(森田・鈴木 2018)と同様に、サクラマスは放流魚よりも自然再生産由来の野生魚の方が多く漁獲されている(宮腰 2008)。したがって、その資源管理策を構築するには自然再生産の状況把握が必須である。さらに、サクラマスとヤマメはともに内水面遊漁における重要種であるために、自然再生産管理の一環として遊漁管理が重要となる。本州での遊漁管理は内水面漁協によって実施され、ヤマメや産卵遡上したサクラマスについて、県の内水面漁業調整規則や各漁協が定める遊漁規則によって、禁漁区、禁漁期間、持ち帰り可能な尾数や体長が設定されている(中村・飯田 2009、中村 2011)。一方、我が国で最も漁獲の多い北海道では、内水面漁協による遊漁管理は実施されておらず、道の内水面漁業調整規則によって、河川内でのサクラマスの採捕禁止、保護水面・資源保護水面の指定による遊漁禁止区域の設定、スモルトの釣獲防止を目的とした降海期の禁漁期間の設定が行われているが、持ち帰り可能な尾数や体長に関する制限はない(北海道 2010)。むしろ北海道には、当歳魚を数多く釣って持ち帰り(「新仔釣り」と呼ばれる)、食用にする文化があり、それが当歳魚の大きな減耗要因と指摘されている(安藤ほか 2002、宮本ほか 2014)。例えば、安藤ほか(2002)では、都市近郊の遊漁者が多い河川において6月に放流した当歳魚の65%が同年10月までに釣獲されたと推定している。ただし、文化として根付いた新仔釣りの規制強化を進めることは世論の反発も大きいと予想され、現在のような遊漁可能区域と禁止区域を分ける河川のゾーニング管理(中村・飯田 2009)が現実的である。

本種の降海型個体群由来の個体と陸封型個体群由来の個体が交雑すると降海型個体群中のスモルト出現率が低下する(大熊ほか 2016)。本州では、サクラマスを対象とした沿岸漁業が営まれている地域の河川に、内水面漁協が陸封型個体群由来のヤマメを遊漁用に放流する場合があり、交雑によるスモルト出現率低下さらにはサクラマス資源の減少が懸念される。内水面漁協は、漁業法に基づく第五種共同漁業権を免許された場合、漁業権対象生物に対して、種苗放流・産卵床の造成・遡上障害物上流側への個体の持ち上げのいずれかによる増殖義務が生じる。当該漁協やそれらを監督する都道府県庁は、増殖義務を果たすために慣例的に放流を行ってきたが(中村 2007)、サクラマス生息河川では種苗放流以外の手法が推奨される。また、陸封型個体群由来のヤマメは降海型個体群由来のものよりも大型になるため、遊漁者が私的に種苗を入手し放流することがある。あるいは、自治体や慈善団体が環境教育・保全のイベントで陸封型個体群由来のヤマメを降海型個体群生息河川に放流することがある。これらの放流については、実施者の知識不足による場合もあるので、啓蒙活動が必要である(渡辺 2016)。

サクラマスの人工ふ化放流事業は、道県などの増殖計画に従って行われてきた。北海道では、人工ふ化放流は漁獲の大部分を支える水準には達していないが、一定の貢献はしている(宮腰 2008)。ただし、図4のとおり放流による大幅な漁獲量の増加は認められない。むしろ、近年の研究成果では、放流をしても単に河川内の個体が野生魚から放流魚に置き換わるだけで資源増加に寄与している可能性が低いこと(Sahashi et al. 2015)、さらには本種稚魚は密度依存的な成長低下を示しやすいため(Hasegawa et al. 2014)、過剰放流は将来的に漁業対象となるスモルト個体の出現率低下を招くことが明らかにされている(大熊 2019)。一方、近年は非放流河川で新たなサクラマス個体群の定着が確認されている(Sahashi et al. 2018)。あるいは、河川分断化の解消により、一般には在来種の減少要因とされる侵略的外来種(ここではブラウントラウト、ニジマス)が生息する河川にも分布域を拡大している(長谷川 2018)。したがって、サクラマスの資源増殖には人工ふ化放流事業よりも産卵遡上阻害の解消(河川分断化の解消)などによる自然再生産促進の方が有効だと考えられる(さけますセンター 2011)。

本種は、環境省版レッドリスト2018(環境省 2018)では準絶滅危惧種(NT)として「現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては“絶滅危惧”に移行する可能性のある種」とされている。また、都道府県や市町村レベルで作成するレッドリストでも絶滅が懸念されるカテゴリーに分類されている場合もある(例えば、富山県 2012)。しかし、近年は河川での分布域の拡大が確認され、放流効果は不十分であるが種苗生産技術も確立されているため、生物種レベルで本種が絶滅する危険性は低く、むしろ由来の異なる個体間での交配による個体群ごとの生物学的特徴の喪失あるいは無計画な放流による国内外来種としての個体群定着に配慮した資源保全を実施すべきである。


サクラマス(日本系)の資源の現況(要約表)

資源水準 中位
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
596〜1,367トン
最近(2017)年:596トン
平均:1,002トン
(2013〜2017年、日本とロシアの漁獲量合計)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
593〜1,357トン
最近(2017)年:593トン
平均:994トン(2013〜2017年)
管理目標 現在の資源水準の維持
目標値:過去10年の平均沿岸漁獲量1,145トン
資源評価の方法 沿岸漁獲量による水準と動向の評価
再生産実態評価(産卵床数調査)を2018年から開始
資源の状態 2017年の沿岸漁獲量/目標値=0.52
管理措置 0+春・秋、スモルト放流数計2.6億尾
道県の内水面漁業調整規則などによる遊漁の制限(体長・持ち帰り数の制限、禁漁期の設定)
管理機関・関係機関 NPAFC・日ロ漁業合同委員会
最新の資源評価年 行っていない
次回の資源評価年 行っていない

執筆者

北西太平洋ユニット
さけ・ますサブユニット
北海道区水産研究所 さけます資源研究部 資源保全グループ

長谷川 功・佐橋 玄記


参考文献

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