--- 総説 ---

58 さけ・ます類の漁業と資源調査(総説)


Fig1

図1. 生産量の多いさけ・ます類


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図2

図2. 世界のさけ・ます類魚種別漁獲量(1950〜2016年)(データ:FAO 2018b)


図3

図3. 世界のさけ・ます類魚種別養殖生産量(1950〜2016年)(データ:FAO 2018c)


図4

図4. 世界のさけ・ます類国別生産量(1950〜2016年)(データ:FAO 2018d)


図5

図5. さけ・ます類の国別輸出量(上)および輸入量(下)(1976〜2016年)(データ:FAO 2018e)


図6

図6. 日本の種別水域別さけ・ます漁獲数(1870〜2017年)


図7

図7. ロシア沿岸におけるサケ漁獲量(1952〜2017年)


図8

図8. ロシア沿岸におけるベニザケ漁獲量(1952〜2017年)


図9

図9. ロシア沿岸におけるカラフトマス漁獲量(1952〜2017年)


付表1. 世界のさけ・ます魚種別漁業・養殖業生産量(1950〜2016年)(単位:千トン)

付表1

世界のさけ・ます漁業

さけ・ます類(サケ属およびタイセイヨウサケ属)のうち、北大西洋沿岸に天然分布するのはタイセイヨウサケおよびブラウントラウトの2 種であり、北太平洋沿岸に天然分布する種は、ベニザケ、カラフトマス、サケ(シロザケ)、ギンザケ、マスノスケ、ニジマス(スチールヘッドトラウト)、サクラマスおよびカットスロートトラウトの8 種である。これら10種のうち、カットスロートトラウトを除く9 種が海面でも漁獲対象となっている。世界の主要さけ・ます類漁獲量の経年変化を見ると、1980年代以降高い水準で推移している。2016年の漁業生産量は、北太平洋全体として見た場合のカラフトマスが不漁年にあたることから2015年よりも少ない86万トンであった。過去5回の偶数年の漁業生産量は2008年の77万トンを除きいずれも86?92万トンと高水準で推移している。カラフトマス、サケおよびベニザケの太平洋さけ・ます類の主要3 種が漁獲の9割以上を占めている(図2)。

さけ・ます類を代表とする溯河性魚類に関しては、1993年に発効した「北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約(NPAFC条約)」により、原則として北緯33度以北の北太平洋公海におけるさけ・ます類の漁獲が禁止されている。さらに、北大西洋では「北大西洋におけるさけの保存のための条約(NASCO条約)」により、原則として領海基線から12海里以遠の水域ではタイセイヨウサケの漁獲が禁止されている。また、国連海洋法条約では、溯河性魚類資源の母川の所在する国は、当該資源について第一義的利益および責任を有することが規定されている。

さけ・ます類の漁業漁獲量は1970年代半ばから増加し、2000年代半ば以降は歴史的に見ても高い水準を維持しているものの(図2)、近年では養殖によるさけ・ます類の生産量が著しく増加している。2016年の世界のさけ・ます類の養殖生産量(淡水を含む)は2014年および2015年をやや下回る320万トンであったが、引き続き漁業生産量の3倍以上になっている。養殖生産量が多いのはタイセイヨウサケ、ニジマス(サーモントラウト)およびギンザケの3 種で、特にタイセイヨウサケの海面養殖生産量は1980〜1990年代に急速に増大し、2001年以降100万トン台となり、2012年以降は200万トンを超えている(図3)。

世界のさけ・ます類の国別生産量(漁業生産+養殖生産)を見ると、1990年以前は北太平洋沿岸の漁業生産国である日本、米国、ソ連(ロシア)、カナダなどが主体であったが、それ以降は急激に養殖生産を増やしたノルウェー、チリなどが大きな割合を占めている(図4)。また、さけ・ます類の国別輸出入量は、米国、カナダといった漁業生産国からの輸出量が微増もしくは横ばいであるのに対して、ノルウェー、チリなどの養殖生産国からの輸出は1990年代以降ほぼ右肩上がりで年々増加している(図5)。ただし、漁業生産国のなかでもロシアからの輸出は2000年代半ば以降増加しており、近年では米国の輸出量に匹敵する規模になっている。輸入は従来より日本、ヨーロッパ、北米などの先進国で多く、流通や冷蔵・冷凍技術の発達に伴って貿易量が増加してきた。また、近年では中国を含むその他の国の輸入量も増加傾向にあり、東アジアや東南アジアといった新興市場における所得向上と都市化を背景として世界的な市場規模の拡大と多様化が進んでいる(FAO 2018a)。1976年以降のさけ・ます類の貿易は価格ベースで年平均10%増加しており、2013年からは水産物のなかで最も取引額の大きな商材(魚種グループ)になっている(FAO 2018a)。さけ・ます類の流通は国際化が急速に進展すると同時に中身も変化し、1970年代にはウエイトの高かった缶詰の比率が低下する一方で、冷凍製品の割合が増加し、さらに近年では生鮮・冷蔵などが主体となってきた。需給の伸びが著しい養殖さけ・ます類は今や世界中の市場で人気商材となったが、養殖場の立地的制限や規制上の制約などもあって供給が需要に対応できない状態が続いている。さらに2014年のロシアによる禁輸措置の影響で輸出先を失ったノルウェー産ニジマスが輸出先を多様化させた結果、さらなる需要の開拓と供給の不足が生じることになった。その結果、2016年から2017年上半期にかけて国際市場では価格が急上昇した(FAO 2018a)。


日本のさけ・ます漁業

日本では、主にサケ、カラフトマス、サクラマスおよびベニザケ(ヒメマス)が河川、湖沼および沿岸で先史時代から漁獲されてきた。1870年以降の日本によるさけ・ます漁獲数(1993年以降のロシア200海里水域内漁業を除く)を図6に示す。1929年にカムチャツカの沖合域において母船式漁業が開始されると、さけ・ます流し網による沖合域での漁獲が可能となった(田口 1966)。第二次大戦中には沖合漁業は休止となり、戦後しばらくはマッカーサーラインにより制限されていたが、1952年の同ライン撤廃に伴い、沖合さけ・ます漁業が再開された。ほぼ時を同じくして、沖合さけ・ます漁業について、1953年に「北太平洋の公海漁業に関する国際条約(INPFC条約)」が、1956年に「北西太平洋の公海における漁業に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約」が発効し、操業規制の強化が始まった。1970年代以降、沖合域における漁獲量は徐々に減少したが、沿岸域における定置網の漁獲量が増加した。その後、1989年の国連での大規模公海流し網禁止決議の採択および1993年のNPAFC条約の発効に伴い、北太平洋における沖合さけ・ます漁業は公海域での操業が完全に禁止されることになり、その結果、日本漁船に残された漁場は、日本およびロシア200海里水域内のみとなった。さらに、2015年6月にロシアにおける「漁業及び水棲生物資源の保存に関する連邦法」が改定され、2016年1月よりロシア200海里水域内で行われてきたロシアおよび日本のさけ・ます流し網漁業が全面的に禁止された。現在日本系サケ、カラフトマスおよびサクラマスは主に日本沿岸域で漁獲されている。2017年の日本におけるさけ・ます類の海面漁獲量は前年よりも4万トン少ない7.2万トン(海面漁業全体の2.2%)であった。海面漁獲量は2010年以降20万トンを下回っていたが、2013年からは年を追うごとに減少し2017年には遂に10万トンを割り込んだ(農林水産省統計部 2018)。

太平洋側の日本200海里水域内でサケとカラフトマスを対象とする小型流し網漁業は、ロシアとの政府間交渉に基づき毎年の漁獲量を決定している(永沢 2011)。2018年漁期はサケとカラフトマスを中心としたその他のさけ・ます類に分けて上限枠を設定し、サケ185トン(上限500トン)、その他のさけ・ます類629トン(同1,550トン。なお、ベニザケ、ギンザケ、マスノスケについては、3種合わせて1隻当たり1トン以内)を漁獲した。また、ロシア200海里水域内における漁獲割当量はロシアとの政府間協議によって決定されている。2016年1月よりロシア200海里水域内におけるさけ・ます流し網漁業が全面的に禁止されたことを受け、2018年も引き続き代替漁法を検討するため、ロシア200海里水域でひき網によるさけ・ます類の試験的操業を実施することで妥結し(漁獲割当量 95トン)、同年6月から7月にサケ7.813トン、ベニザケ3.056トン、マスノスケ0.004トンおよびカラフトマス36.832トンの合計47.705トンを漁獲した。

日本のさけ・ます養殖業は、海面では主にギンザケを対象にしており、2005〜2010年の生産量は1万トンを超えて推移していた。東日本大震災により主要産地である東北地方太平洋沿岸の養殖施設が大きな被害を受け、2011年に計上された生産量は僅か116トンとされているが(農林水産省統計部 2018)、データの消失などもあり正確な値は不明である。その後多大な努力により養殖施設はめざましい復旧をとげ生産量が回復し、2013〜2017年の生産量は1.2万トンから1.6万トンで推移している(農林水産省統計部 2018)。また、内水面の養殖ではニジマスが主対象となっているが、生産量は1982年の1.8万トンから年々減少して2012年以降は年間5,000トン前後となっており、2017年は4,797トンであった。その他のます類を含む2017年の内水面における養殖生産量は7,717トンであった(農林水産省統計部 2018)。


日本漁業に関連するロシアのさけ・ます類資源

ロシア系のさけ・ます類は、主にロシア沿岸で定置網、ひき網、刺網などにより漁獲されるが、その一部は前述のようにロシア200海里水域内や日本200海里水域内での流し網漁業の対象としても利用されてきた。ロシアでのサケ沿岸漁獲量は1960 年代から1970 年代にかけて大きく減少したが、1975年以降増加に転じて1980年以降は2万トン以上、2006年以降は4万トン以上と増加を続け、2015年には1952年以降の最高となる14.2万トンを記録した。その後減少に転じて2017年のサケ漁獲量は9.8万トンと5年ぶりに10万トンを下回った(図7)。また、2018年は9月下旬の情報で9.5万トンが漁獲されており、多くの地域で引き続き高い水準にある。地域別に見ると、1960年代はオホーツク海北部およびアムール地方の漁獲が多かったが、近年ではサハリン・千島および東カムチャツカでの漁獲増に加え、かつて低迷していたアムール系の漁獲量の増加が顕著である。アムール系の漁獲量は2012年以降に2万トンを超える漁獲となり、2016年は4.2万トンと1952年以降の最高値を記録したが、2017年は2.6万トン、2018年は9月下旬までに2万トンとやや減少に転じている。ロシア系ベニザケの沿岸漁獲量は、1970年代には0.5万トン未満の低水準であったが、その後増加に転じた。2006年以降は、2万トン以上の漁獲量で変動しながらも高位水準・増加傾向を維持している。2013年の漁獲量は約5.1万トンで1952年以降の最高値を記録した(図8)。2017年には4.2万トン、2018年も9月下旬までに4.3万トンが漁獲されており、引き続き高い水準で推移している。地域別に見ると、アジア側最大規模の産卵場があるオゼルナヤ川水系(クリル湖)やボルシャヤ川水系を含む西カムチャツカの沿岸漁獲量が多いが、2016年にはカムチャツカ川水系を中心とする東カムチャツカ沿岸およびアナディールで、また2017年にはオホーツク海北部でそれぞれ1952年以降の最高値を記録するなど、ベニザケの漁獲量はロシア各地で近年豊漁となっている。ロシア沿岸のカラフトマスは、1960年以降、奇数年と偶数年間の変動はあるものの、一貫して増加傾向を示し、2009年には東サハリン沿岸のみで22万トンを超え、史上最高の42万トンの漁獲量となった(図9)。2017年の漁獲量は20.4万トンであり、前回奇数年である2015年の漁獲量(16.3万トン)を上回ったものの2007年から2013年までの奇数年の漁獲量(24.1万?42.2万トン)を下回った。2018年9月下旬時点の漁獲量は51.1万トンと2009年の史上最高記録(42万トン)を9万トンあまり上回って大豊漁となっている。地域別に見ると、多獲地域である東西カムチャツカ、サハリンおよび千島地方において、2013年以降、豊漁年に相当する年の漁獲量が不漁年並み、または不漁年を下回る水準まで減少することがあったが、2015〜2017年の漁獲量を見ると東西カムチャツカでは回復傾向が認められる。2018年9月下旬の漁獲量を見ると、東カムチャツカでは1952年以降で4番目に多い漁獲量となっており、同地域の不漁年に相当する偶数年のなかでは1952年以降の最高値を記録した。なお、東カムチャツカでは2010年以降の偶数年の漁獲量が右肩上がりで増加している。西カムチャツカでは1980年代半ばから偶数年が豊漁年となって推移しているが、2018年9月下旬までの漁獲量はこれまでの最高であった2012年の15.7万トンの2倍あまりの漁獲量に達しており最高記録を大幅に更新した。一方、これまで奇数年が豊漁年になっていたサハリンおよび千島地方では、2015年および2017年の奇数年の漁獲量が2016年および2018年の偶数年を下回っている。このように、これまで好調だったロシア系のカラフトマスの資源は東西カムチャツカを中心に依然として高水準にあるものの、2013年以降に漁獲量が大きく減少した地域も認められることから、資源量の動向には引き続き気を配る必要がある。なお、カラフトマスは成熟年齢が2年であるため、同じ河川の個体群であっても奇数年と偶数年の集団では遺伝的な混合がなく、その結果、奇数年あるいは偶数年の一方の集団が他方の集団よりも資源量が卓越することがあり、極端な場合、河川によっては不漁年の集団がほとんど存在しなかったり、時として相対的な資源量が逆転したりすることがある(Heard 1991)。このような隔年変動は、奇数年集団と偶数年集団の相互作用によって生じる密度依存的死亡に端を発する、減衰振動の確率論的撹乱によって起こると考えられているが、具体的なメカニズムはよくわかっていない(Krkošek et al. 2011)。


さけ・ます類の流通

日本ではかつて塩蔵物を主流としてさけ・ます類が流通・消費されて定着していたが、1970年代の日本経済の急成長に伴う核家族化、嗜好の変化、流通や冷蔵冷凍技術の発達、さらには外食産業の発展により、さけ・ますの利用形態は塩蔵物から生鮮・冷凍物主体へと変化した。国際的な資源管理が進み、日本の北洋漁業が衰退した時期に、ふ化放流技術が確立して日本沿岸でのサケ漁獲量が増加した。同じ時期に北洋漁業の代替としてアラスカの天然さけ・ます(特にベニザケなど)が輸入されたため、これらの量的増加の影響を受け国産さけ・ます価格が低下した。1990年代になるとさけ・ますの海面養殖技術が確立され、チリやノルウェーから養殖さけ・ます(ギンザケ、タイセイヨウサケ、ニジマスなど)が輸入された。これらの養殖さけ・ますは高脂質食品への嗜好の変化、外食産業の発展による流通段階での規格製品の需要増大と周年化によって日本に受け入れられた。養殖さけ・ますの輸入増加によって、国産さけ・ますは一部の塩蔵熟成さけ・ますといくらなどを除く需要が減少し、価格がさらに低下した。また、1980年代半ばより、国産さけ・ます類の仕向けも塩蔵から生鮮・冷凍への変遷が顕著で、例えば北海道の秋サケでは1988年以前には70%以上であった塩蔵向けの比率が近年では10%未満に低下しており(北海道定置漁業協会 2018)、日本における漁獲の主体である秋サケは通年食材から漁期中の旬の生鮮販売を中心とした季節食材に変化してきた。一方、特にチリ産の定塩・冷凍の養殖ギンザケおよびニジマス(トラウトサーモン)がスーパーマーケットなどの量販店を中心として周年多量に流通し、近年ではチリ産が我が国に輸入される養殖さけ・ます類で最も大きなシェアを占めている。その結果、国内の消費地卸売価格は輸入単価に連動するようになってきたが、2016年、2017年と続いた国産秋サケの不漁を背景に、2017年の輸入平均単価はkgあたり約1,000円まで上昇した(北海道定置漁業協会 2018)。ノルウェーからは生鮮タイセイヨウサケを主体に輸入されており、2012年以降は2013年を除いて年間3万トン前後の生鮮フィレを含めた輸入となっており、2017年の輸入も3万トンであった(北海道定置漁業協会 2018)。

日本でのさけ・ます需要は既に飽和に達していると見られるが、2016年および2017年の秋サケ不漁のときの価格推移からも明らかなようにサケの価格はいまだに沿岸漁獲量の増減によって変動する。その一方で取引のグローバル化により国際価格の影響も強く受けるようになった(佐野 2003)。BSEや鳥インフルエンザ問題で水産物への需要が国際的に高まり、特に食品に対する安全・安心や天然物への関心の高まりを受けて天然さけ・ますの需要が欧米で増加してきた。また、日本のサケを原料として中国の安い労働力で加工した製品を欧米に輸出するビジネスが始まったことにより、1990年代以降国産サケの輸出が増加した。日本のサケが輸出されるきっかけとなった要因には、輸出可能な低価格になっていたこと、国内向けの供給量を減少させて価格低下に歯止めを掛けようとした動きがあったことも背景にあった。2003年から2010年までは、北海道の秋サケ漁獲量が落ち込んだ2008年を除き、毎年6万トン前後(冷凍ドレスが中心)が輸出されるようになり、これらのサケの多くは中国やベトナム、タイなどで加工された後に欧米や中東など、そして一部は日本に輸出されており、日本産サケも国際商品として海外に広く出回っている。しかし、近年は秋サケ漁獲量の減少を反映し、2015年からは輸出量が2万トンを割り込み、2017年には1.2万トンまで減少している。輸出量が減少した理由として秋サケの漁獲不振に加え、中国における加工コストの上昇(経営悪化)と金融引締め、EUなどマーケットの景気後退、アラスカやロシアからの天然さけ・ます類の安値供給などによる影響が指摘されている(北海道定置漁業協会 2018)。


さけ・ます類の資源管理と資源調査

NPAFCには北太平洋の母川国である日本、ロシア、カナダ、米国および韓国の5か国が加盟し、さけ・ます類の調査研究を行っている。NPAFC の資源評価作業部会によると、太平洋さけ・ます類の天然およびふ化場産資源は、1990年代以降全体として高水準にあり、特にサケとカラフトマスは良好な状態にある(Irvine et al. 2012)。しかし、近年10年に着目するとアジア側のさけ・ます類の漁獲量は減少傾向にあり、2017年は2005年以降で最も漁獲量の少ない年となり、この傾向はサケで顕著であった(NPAFC 2018)。このように資源減少が見られるなか、さけ・ます類と人との関わりや未来を見定め、各国が協力してさけ・ます類の保存管理と持続的利用を支える研究や技術開発を推進する国際プロジェクト「国際サーモン年」が制定された(水産庁 2018)。

さけ・ますの再生産は、日本および米国アラスカ南東部では主に人工ふ化放流によって行われているが、その他の地域では天然産卵が主である。さけ・ます人工ふ化技術は1763年にオーストリアのヤコビーにより開発され、日本では1876年に米国から人工ふ化技術を導入した。世界的にみると人工ふ化放流事業は北大西洋よりも北太平洋沿岸で盛んであり、1980年代後半以降の北太平洋沿岸における放流数は毎年ほぼ一定である。2017年に放流された太平洋さけ・ます類の幼稚魚は50.6億尾となっている(NPAFC 2018)。日本で増殖対象となっている溯河性さけ・ます類は、サケ、カラフトマス、ベニザケおよびサクラマスの4種で、2017年には合計で17.6億尾の稚魚が放流された(NPAFC 2018)。そのうちサケが16.3億尾で大部分を占めており、沿岸で漁獲対象となる日本のサケ資源の多くはこの人工ふ化放流事業によって維持されてきた。近年では、日本系のサケについても無視できない量の自然再生産が行われていることが明らかになってきたが(森田ほか 2013)、再生産の場となる河川を中心とした淡水域は人間活動の影響を受けやすいため、人工ふ化放流、自然再生産のいずれにとってもさけ・ます資源の管理には淡水域の産卵・生息環境の保全と修復が不可欠である。

日本のさけ・ます類の北太平洋における調査は、沖合漁業の発展とともに実施され、1953年以降はINPFC条約の下で北太平洋におけるさけ・ます資源調査が行われてきた。この間のさけ・ます資源調査は、公海漁業漁獲物の系群組成を推定するための系群識別、資源を適正に管理するための資源動態などに重点が置かれていた。公海におけるさけ・ます漁業が禁止された現在では、NPAFC 条約の下で、日本を含む加盟国はさけ・ます資源の保存のために北太平洋公海域および各国200海里水域内において系群識別や資源動態解明に焦点を当てた調査を行っている。北太平洋沿岸のさけ・ます資源は、海洋域での成長と分布密度との関連が高いことが報告されているので、海洋域における環境収容力、高次生物生産、種間関係などを明らかにし、索餌域である北太平洋の生物生産を考慮した資源管理方策を開発する必要がある。また、ベーリング海は夏季における日本系サケの主要な索餌・分布海域となっており(Urawa et al. 2005)、2007年から表層トロール網によるさけ・ます類の分布・資源量モニタリングを夏季ベーリング海で実施している。例年モニタリング調査では、海洋で一冬過ごしたサケ未成魚(尾叉長400 mm未満)が漁獲物の主体となっているが、近年この海域においてサケ未成魚の採集尾数の減少、肥満度の低下などが観察されている。特に2014年および2015年には、サケ未成魚の単位漁獲努力量当たりの採集尾数(CPUE)が過去の調査に比べて約半分に減少する事態が観察されていたが、当該年級が主群(4年魚および5年魚)として回帰した2016年および2017年には我が国の秋サケ漁獲量は1980年代初頭頃の水準まで減少した。日本系サケの資源動向を迅速に把握するためにもベーリング海における長期的なモニタリング調査を継続していく必要がある。


執筆者

北西太平洋ユニット
さけ・ますサブユニット
北海道区水産研究所 さけます資源研究部

斎藤 寿彦・本多 健太郎・渡邉 久爾・鈴木 健吾


参考文献

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