--- 詳細版 ---

54 イワシクジラ 北西太平洋

Sei Whale, Balaenoptera borealis


PIC

浮上直後のイワシクジラ


[HOME] [詳細版PDF] [要約版PDF] [要約版html] [戻る]

最近の動き

本種の未調査域における分布密度の情報収集を目的として、2010年に開始した国際捕鯨委員会(IWC:International Whaling Commission)と日本共同の北太平洋鯨類目視調査(POWER:Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research)が2018年も行われた。IWC科学委員会(IWC/SC:IWC Scientific Committee)において、本系群の資源評価に向けた準備が進められている。

2017年から、本種の妥当な捕獲枠算出を目的として、新北西太平洋鯨類科学調査(NEWREP-NP:New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific)が実施されている。


利用・用途

鯨肉は、刺身、大和煮(缶詰)、鯨かつ、鍋物材料、内臓は、ゆで物として利用している。ヒゲ板は工芸品の材料として利用される。鯨油はかつて工業原料などに用いられた。


表1. 北西太平洋鯨類捕獲調査におけるイワシクジラ捕獲頭数(2002〜2018年)

表1

 

図1

図1. 北太平洋におけるイワシクジラの捕獲頭数の推移(1910〜2018年)


図2

図2. 北西太平洋におけるイワシクジラの夏季の分布域(青)

漁業の概要

本種の捕獲は、1890年代末に基地式の近代捕鯨により開始した。その後、1940年には母船式捕鯨が開始し、本種も捕獲された。1940年代末にニタリクジラが識別されるまではイワシクジラとニタリクジラはイワシクジラとして同種として扱われていた(Omura and Fujino 1954)。日本捕鯨協会が取りまとめた沿岸捕鯨統計では両種は1955年以降、区別されて記録されていたが、IWCによる国際捕鯨統計で区別されて記録されるようになったのは、それらが公式に判別されるようになった1968年以降である。北太平洋では日本の他に、旧ソ連、米国およびカナダが本種を捕獲した(図1)。

1910年代から1955年まで年間500頭が継続して捕獲されたが、1967年から捕獲が急増し、1968年には6,000頭を超えた。1968年以後、日米加ソ4か国による北太平洋捕鯨規則によって捕獲割当量が定められるようになり、1970年からIWCにより北太平洋の本種の捕獲枠が設定されるようになった。その後IWCの規制が厳しくなり、1976年から北太平洋全域で本種の商業捕獲を停止している。

商業捕鯨以外では、第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II:Japanese Whale Research Program under Special Permit in the western North Pacific Phase-II)において食性解明を主目的に、2002〜2003年は年間50頭、2004年以降は毎年標本数100頭を上限に生物学的情報を収集していたが、2014年からは、国際司法裁判所の「南極における捕鯨」訴訟判決の趣旨を踏まえ、調査目的を限定するなど規模を縮小して実施することとなり、目標捕獲頭数は90頭となった(実際の捕獲頭数については表1参照)。2017年から開始されたNEWREP-NPにおいては、改訂管理方式(RMP:Revised Management Procedure)の適用に必要な生物学的情報収集を目的に、目標捕獲頭数が134頭に設定されている。


生物学的特性

本種はナガスクジラ科ではシロナガスクジラ、ナガスクジラに次いで3番目に大きく、2002年と2003年のJARPN IIにおける最大体長は雄14.8 m、雌15.9 m、最大体重は雄24.4トン、雌31.0トンであった(藤瀬ら 2004)。

性成熟年齢は、1925年に10歳、1960年には7歳と報告されている。記録にある最高年齢は60歳である。出産時期は11月とされ、出産海域は亜熱帯・温帯の外洋海域と想定されるが、特定できていない。夏季には摂餌のため、より高緯度の亜寒帯水域へ回遊する(図2、Sasaki et al. 2013、Murase et al. 2014)。

本種は魚類(カタクチイワシ、マイワシ、キュウリエソ、サンマ、マサバ、ハダカイワシ類など)、いか類(スルメイカ、テカギイカなど)、動物プランクトン(オキアミ、カイアシ類)など、さまざまな種類の餌生物を捕食する(根本 1962、Konishi et al. 2009)。本種の摂餌深度は60 m以浅との観察結果が報告されている(Ishii et al. 2017)。本種を捕食する可能性があるものとしてはシャチがあるほか、繁殖場ではさめ類が仔鯨を襲う可能性もある。


資源状態

北太平洋に分布する本種の資源評価はIWCで1975年に初めて行われた。資源評価に用いた手法は、CPUEと発見率指数(目視調査)を統合したDe Lury法であった(Ohsumi and Wada 1974、Tillman 1977)。資源評価の結果、初期資源量は42,000頭、1975年時点の資源量は9,000頭であるとされ、当時の管理方式ではMSYレベル(23,000頭)の40%であったため保護資源に分類された。このため、1976年から北太平洋全域で本種の捕獲を停止し、現在に至っている。

その後、北太平洋に分布する本種の系群構造について、近年の目視調査と遺伝解析の結果に加え過去の捕獲・標識再捕情報も用いた総合的な解析が行われ、北太平洋に広く分布する本種は同一系群であることが示されている(Kanda et al. 2015)。

2008年のJARPN IIにおける目視調査データを用いた解析より、北緯35度以北、東経170度以西の北西太平洋での資源量は5,086頭(CV=0.378)と推定された(Hakamada and Matsuoka 2016)。ただし、JARPN IIの調査海域は北西太平洋全域ではないため、この推定値は過小となっている可能性がある。また、2010年から2012年に実施したPOWERの目視調査データを用いた解析により、北緯40度以北、東経170度以東、西経135度以西の中央および東部北太平洋での資源量は、29,632頭(CV=0.242)と推定された(Hakamada et al. 2017)。両調査海域は重複していないことから、合算すると北太平洋全域における資源量推定値は少なくとも34,718頭(CV=0.214)となる(Government of Japan 2017)。推定方法が異なるため過去の推定値との直接比較はできないが、これら最新の資源量推定に基づくと現在の本系群の資源状態は中位、資源動向は増加にあるものと考えられる。

1975年以降、IWC/SCでは本系群に関する詳細な資源評価は行われていなかったが、同委員会において、本系群の資源解析を将来の優先課題とすることが2006年に合意され、その作業が2015年の年次会合より開始されている。


管理方策

IWCでは、資源状態にかかわらず全ての商業捕獲を停止している。我が国はJARPN IIおよびNEWREP-NPにおいて本系群の生物学的情報の収集を行っている。また、本系群を対象とした目視調査を北西太平洋において継続して実施している。さらにこれまで未調査海域であった中央および東部北太平洋において、POWERの下で2010年から継続して目視調査を実施している。鯨類資源の持続的利用を推進している我が国としては、今後も本系群を対象とした調査・研究を積極的に行い、科学的根拠に基づき本系群の管理が行われるよう、関係国と協調しながら継続的モニタリングを行っていく必要がある。


イワシクジラ(北西太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 中位
資源動向 増加
世界の捕獲量
(最近5年間)
なし(商業捕鯨モラトリアムが継続中)
我が国の捕獲量
(最近5年間)
捕獲調査により90〜134頭
最近(2018)年:134頭
管理目標 商業捕鯨モラトリアムが継続中であり、未設定
資源評価の方法 船舶による目視調査から推定した資源量推定値
資源の状態 北太平洋全域における資源量
34,718頭(CV=0.214)
管理措置 商業捕鯨モラトリアムが継続中
管理機関・関係機関 IWC
最新の資源評価年
次回の資源評価年

執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

村瀬 弘人


参考文献

  1. 藤瀬良弘・田村 力・板東武治・小西健志・安永玄太. 2004. イワシクジラとニタリクジラ. 鯨研叢書 No. 11. 日本鯨類研究所, 東京. 168 pp.
  2. Government of Japan. 2017. Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP). http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/index.html(2018年2月22日)
  3. Hakamada, T., and Matsuoka, K. 2016. The number of western North Pacific common minke, Bryde's and sei whales distributed in JARPN II offshore survey area. Paper SC/F16/JR12 presented to the IWC SC JARPNII Review Workshop, February 2016 (unpublished). 13 pp.
  4. Hakamada, T., Matsuoka, K., Murase, H., and Kitakado, T. 2017. Estimation of the abundance of the sei whale Balaenoptera borealis in the central and eastern North Pacifc in summer using sighting data from 2010 to 2012. Fish. Sci., 83: 887-895.
  5. Horwood, J. 1987. The sei whale: population biology, ecology and management. Croom Helm, New York, USA. 375 pp.
  6. Ishii, M., Murase, H., Fukuda, Y., Sawada, K., Sasakura, T., Tamura, T., Bando, T., Matsuoka, K., Shinohara, A., Nakatsuka, S., Katsumata, N., Okazaki, M., Miyashita, K., and Mitani, Y. 2017. Diving behavior of sei whales Balaenoptera borealis relative to the vertical distribution of their potential prey. Mamm. Study, 42: 191-199.
  7. Kanda, N., Bando, T., Matsuoka, K., Murase, H., Kishiro, T., Pastene, L.A., and Ohsumi, S. 2015. A review of the genetic and non-genetic information provides support for a hypothesis of a single stock of sei whales in the North Pacific. Document SC/66a/IA9 submitted to 66a IWC. 17 pp.
  8. Konishi, K., Tamura, T., Isoda, T., Okamoto, R., Hakamada, T., Kiwada, H., and Matsuoka, K. 2009. Feeding strategies and prey consumption of three baleen whale species within the Kuroshio-Current Extension. J. North. Atl. Fish. Sci., 42: 27-40.
  9. Masaki, Y. 1976. Biological studies on the North Pacific sei whales. Bull. Far Seas Fish. Res. Lab., 14: 1-104.
  10. Murase, H., Hakamada, T., Matsuoka, K., Nishiwaki, S., Inagake, D., Okazaki, M., Tojo, N., and Kitakado, T. 2014. Distribution of sei whales (Balaenoptera borealis) in the subarctic - subtropical transition area of the western North Pacific in relation to oceanic fronts. Deep Sea Res. II., 107: 22-28.
  11. 根本敬久. 1962. ひげ鯨類の餌料. 鯨研叢書 No. 4. 日本鯨類研究所, 東京. 136 pp.
  12. Ohsumi, S., and Wada, S. 1974. Status of whale stocks in the North Pacific, 1972. Rep. Int. Whal. Commn., 24: 114-126.
  13. Omura, H., and Fujino, K. 1954. Sei whales in the adjacent waters of Japan. II. Further studies on the external characters. Sci. Rep. Whales Res., 9: 89-103.
  14. Sasaki, H., Murase, H., Kiwada, H., Matsuoka, K., Mitani, Y., and Saitoh, S. 2013. Habitat differentiation between sei (Balaenoptera borealis) and Bryde's whales (B. brydei) in the western North Pacific. Fish. Oceanogr., 22: 496-508.
  15. Tillman, M.F. 1977. Estimates of population size for the North Pacific sei whales. Rep. Int. Whal. Commn. (Special issue), 1: 98-106.