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74 キンメダイ 天皇海山海域

Splendid Alfonsino, Beryx splendens

                                               
PIC
キンメダイ(左:成魚、右:“イトヒキキンメ”と呼ばれる当歳魚)

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最近の動き

天皇海山海域においてキンメダイは、クサカリツボダイ不漁時の代替漁業資源として1970年代後半から本格的に漁獲され始め、1980年台前半の漁獲量は年間1万トンに達した。それ以降の年間漁獲量は700 トンから5,700 トンの間で推移している。大きな卓越加入によりクサカリツボダイの漁獲量が2 万トンを越えた2012年には、キンメダイは773 トンしか漁獲されなかったが、2013年以降はクサカリツボダイの不漁が続いていることからキンメダイの漁獲量が増大し、2016年には10年ぶりに3,500 トンを超えた。ここ数年の漁獲量の増大に伴う傾向として、底びき網の漁獲物は小型魚の割合が増加している。北太平洋漁業委員会(NPFC)では、2019年に本種の資源評価を予定しており、2018年には過去の資源評価結果、資源生物情報や漁獲状況をレビューすることが決まっている。


利用・用途

冷凍ラウンドの形状で主に加工材料として水揚げされ、青森県産、宮城県産、ミッドウェー海域産の原産地表示のもと、干物、煮付け等として販売されている。丸のまま、もしくは切り身の解凍鮮魚が販売されることもある。小型魚の干物(開き)は比較的廉価で販売されており、高級生鮮魚としての流通を主体とする日本近海産キンメダイとは異なる販売戦略がとられている。


表1

表1. 日本、韓国、ロシアによる漁業種類別キンメダイ漁獲量


表2

表2. 天皇海山とその他海域におけるキンメダイの年齢−体長関係


図1

図1. 天皇海山列の地図
(コラハン海山から推古海山南バンクまでが底魚漁場として利用されているが、キンメダイが漁獲されるのは仁徳海山以南である。)


図2

図2. 天皇海山海域におけるキンメダイの国別漁獲量およびクサカリツボダイの総漁獲量の経年変化


図3

図3. 底びき網、底刺し網で漁獲されるキンメダイの尾叉長組成の経年変化


図4

図4. 自然死亡係数M=0.10と0.19の場合のYPR曲線
現在の底びき網漁業は1歳(黒線)より手前から漁獲対象としており、漁獲開始年齢を引き上げることにより加入量あたり漁獲量を大幅に改善できる。


漁業の概要

天皇海山はハワイ諸島北西からアリューシャン列島まで約3,000 kmにわたり連なる海山列である(図1)。南方の海山ほど形成年代が新しく、頂上までの水深が小さい。北緯45度以南の公海上にあり、頂上水深が300〜500 mの平坦な海山が底びき網漁場として(Sasaki 1986、水産庁 2008a)、海山斜面や水深が比較的大きい海山が底刺し網漁場として利用されている(水産庁 2008b)。主な漁獲対象種はクサカリツボダイであるが、卓越加入の有無により漁獲量の年変動が極端に大きいため、キンメダイ、オオメマトウダイ、ハゲヤセムツ、カガミダイ、メダイ、オキカサゴなどが代替魚種として利用されている。キンメダイはこれら代替魚種の中で最も漁獲量が多く、水揚げ単価も高く、クサカリツボダイに次ぐ重要魚種となっている。

キンメダイを狙った操業は、天皇海山漁場の開発から10年を経てクサカリツボダイの漁獲量が激減した1970年代後半から始まった。1975年以前には最大でも600 トンであった年間漁獲量は徐々に増加し、1980〜1982年には年間8,585〜11,831 トンに達した(図2)。一方、1985年以降の漁獲量は、1991年を除けば年間5,000 トンを下回っている(表1)。最近ではクサカリツボダイの卓越加入年であった2010年、2012年の漁獲量がそれぞれ1,001 トン、773 トンと少なかったのに対し、クサカリツボダイの加入量が極めて少なく漁獲量が低迷している2013年以降は、年間漁獲量が2,284〜3,783 トンと増加傾向にある。

近年、天皇海山海域において我が国以外にキンメダイの漁獲実績があるのは、韓国の底びき網漁業であるが、2004年以降の漁獲量は年間16〜513 トンに留まっている。また、ロシアは1982〜2009年の間、底びき網および底はえ縄によって年間6〜926 トン漁獲していたが、近年はめぬけ類やアブラボウズを主対象とする底はえ縄操業のみを行っており、キンメダイの漁獲量は0 トンと報告されている。


生物学的特性

【分類】

キンメダイBeryx splendensは、キンメダイ目キンメダイ科キンメダイ属の一種である。キンメダイ属には他にナンヨウキンメB. decadactylusとフウセンキンメB. mollisが含まれる。ナンヨウキンメは天皇海山海域に同所的に生息するが、キンメダイと比べ漁獲量は少なく、フウセンキンメについては記録がない。フウセンキンメはかつて、キンメダイの新参異名として扱われることもあったが、形態的(Yoshino et al. 1999、2001)、遺伝的(Akimoto et al. 2006)な相違が明らかになり、現在では別種とされている。

ナンヨウキンメは体高や背鰭軟条数により他2種と容易に区別できる。フウセンキンメは後鼻孔と鱗の形状、幽門垂や鰭条の計数形質によりキンメダイと識別可能とされているが(Yoshino et al. 1999、2001、林 2013、池田・中坊 2015)、この近縁2種を外見から区別することは容易ではない。


【分布と回遊】

キンメダイは大西洋、インド洋、太平洋の温帯から熱帯域に分布し、大陸棚外縁、陸棚斜面や海山に生息する(水産庁 2008c、Shotton 2016)。本種の分布域はナンヨウキンメとほぼ重なり(Shotton 2016)、フウセンキンメの分布域よりも高緯度まで広がる(Yoshino and Kotlyar 2001)。

本種は卵〜幼魚期に表中層で浮遊生活を送る。秋元(2007a)はいくつかの海域での漁獲物の最小尾叉長を元に、本種は尾叉長12〜18 cmの間に着底すると推察した。さらに耳石の微細輪紋が日輪であると仮定して、前述の尾叉長と微細輪紋数の関係から浮遊期の長さは150〜300日間と推定した(秋元 2007a)。着底後は水深200〜800 mに多く生息し(Busakhin 1982)、日没から日出の間に中層に鉛直移動して採餌すると考えられている(Galaktionov 1984)。同様の日周鉛直移動の可能性は、天皇海山海域でも指摘されている(柳本 2004)。日本近海では着底後に大規模な移動はしないと考えられていたが、一部個体が関東沿岸から伊豆諸島や南西諸島へ移動する例が報告されている(亘ほか 2017)。ニューカレドニア海域では成長に伴い、浅い海山から深い海山へ移動する可能性が指摘されている(Lehodey et al. 1994、1997)。

1970年代の漁場開発調査(井口 1973、黒岩 1973)および近年の科学オブザーバー報告によると、天皇海山海域では北緯41度付近の仁徳海山から北緯30度のハンコック海山の範囲で漁獲報告がある。本種を狙った操業は、底びき網で水深300〜500 m、底刺し網で水深300〜1000 mで行われている(柳本 2004)。天皇海山海域のキンメダイの浮遊期の長さや分布域、海山への着底時期については十分な情報が得られていない。


【産卵】

生殖腺重量指数(増沢ほか 1975)および卵巣や卵母細胞(芝田 1985、Lehodey et al. 1997)の季節発達状態から、我が国周辺におけるキンメダイの産卵期は一般に夏と考えられている。また、卵巣内に完熟卵が出現する尾叉長は28〜35 cm(大西 1985、芝田 1985、Lehodey et al. 1997、秋元ほか 2005)、50 %の個体が成熟する尾叉長(FL50)は概ね31〜35 cmであるが、カナリア諸島近海のみFL50は23 cmと報告されている(Lehodey et al. 1997、González et al. 2003、秋元ほか 2005)。卵母細胞の発達様式は非同期発達型であることから、一産卵期に多回産卵を行うと考えられている。卵巣内卵数は日本近海の体長40 cm前後の魚で30〜50万粒(増沢ほか 1975)、ニューカレドニア海域の尾叉長34〜40 cmの魚で27万〜38万粒(Lehodey et al. 1997)と推定されている。

これまで天皇海山海域において本種の卵は採集されていないが(柳本 2004)、1984年7月にハンコック海山南東部において標準体長6.0〜27.5 mmの稚魚が採集されていることから(Mundy 1990)、天皇海山でも夏に繁殖している可能性が考えられる。しかし、これ以外には本種の天皇海山における産卵に関する知見は見当たらない。科学オブザーバーが収集したサンプルの生殖腺重量指数は夏に高くなる年がある一方、季節変化が明確ではない年もあり(橋 2016)、当該海域における産卵生態は不明である。


【食性】

一般にキンメダイの主な餌生物は、ハダカイワシ類などの中深層性魚類、いか類、えび類、オキアミ類であり(増沢ほか 1975、Dürr and González 2002、堀井 2007)、成長に伴い魚食傾向が強くなることが指摘されている(Dubochkin and Kotlyar 1989、堀井 2007、Horn et al. 2010)。

天皇海山海域での胃内容分析によれば、空胃率は約1割と低く、胃内容からはオキアミ類、アミ類、よこえび類、カイアシ類、翼足類、ハダカイワシ類、小型いか類、海藻類が検出された(井口 1973、奈須・佐々木 1973、柳本 2004)。また成長に伴い、有殻翼足類、浮遊性えび類などのプランクトン食から魚類、頭足類などのマイクロネクトン食に移行する傾向が示されている(Nishida et al. 2016)。


【系群】

ミトコンドリアDNAの部分塩基配列分析では、大西洋とインド洋・太平洋の間、並びに、北大西洋内の一部海域間に遺伝的分化が認められている。しかし、インド洋と太平洋間における遺伝的分化は認められず、大洋間で共通するハプロタイプが検出されている(Hoarau and Borsa 2000、柳本ほか 2015)。日本近海のキンメダイを対象としたマイクロサテライトDNA分析では、遺伝的分化は認められなかった(大河ほか 2010)。標識放流調査では、関東沿岸で放流された個体の8割以上が関東沿岸か伊豆諸島北海域で再捕された一方、伊豆諸島南部海域や黒潮上流域である高知県沖、さらに1,000 km以上離れた南西諸島で再捕された個体も存在することから(木幡ほか 1992)、本種は黒潮流域において大規模な回遊を行っている可能性がある(亘ほか 2017)。

千国(1971)、柳本(2004)は本種が日本沿岸と天皇海山海域の間を移動回遊するという仮説を提唱している。上述のように本種は150〜300日に亘る浮遊期間を持ち、着底後に1,000 km以上移動する個体もあることから、日本沿岸と天皇海山海域間を移動回遊している可能性も考えられるが、仮説を直接的に支持する研究成果はまだ得られていない。そのため、天皇海山海域におけるキンメダイは独立した系群として取り扱われている。


【年齢と寿命】

本種の年齢は、耳石(扁平石)の輪紋(透明帯・不透明帯)の年周性に基づいて推定されてきた(Massey and Horn 1990、Lehodey and Grandperrin 1996、Adachi et al. 2000、Rico et al. 2001、明神・浦 2003、秋元 2007b)。海域により若干の違いはあるものの、成長式より算出された年齢−尾叉長関係から(表2)、本種は一般に1歳で約16〜22 cm、3歳で24〜28 cm、5歳で28〜32 cm、10歳で37〜41 cm、15歳で41〜46 cm(全て尾叉長)に成長すると考えられる。前述の完熟卵を持つ個体やFL50の情報と照らし合わせると、我が国沿岸における繁殖開始年齢は4〜5歳と推定される(秋元ほか 2005)。日本周辺での耳石の年齢査定による最高齢は26歳(明神・浦 2003)であり、標識放流した個体が18年後に再捕された例があることから、寿命は少なくとも20年を超える(亘ほか 2017)。

天皇海山のキンメダイの耳石輪紋も年周性を示すと考えられ(橋 2016)、これに基づいた年齢査定が行われている(柳本 2004、橋 2016)。柳本(2004)の成長式では他海域に近い成長速度を示すが、この推定では若齢魚(1〜4歳)のみを用いているため、成長速度が過大推定されている可能性がある。より幅広い体長範囲(1〜13歳)を対象とした橋(2016)は、若齢魚の成長速度が他海域と比べて小さい傾向を指摘している。

上記の年齢−尾叉長関係と乗船オブザーバーが報告している体長組成データ(図3)を照合すると、天皇海山海域の底びき網漁業の漁獲開始年齢は1歳未満(尾叉長10 cm前後)、体長モードは概ね1〜2歳(尾叉長18〜24 cm)に相当し、着底直後の未成魚から漁獲対象になっていることがわかる。2009年以前の経年的な漁獲物体長組成は不明だが、底びき網では1974年と1993年にも1歳前後(尾叉長のモードが18〜20 cm)を漁獲していた記録があることから(高橋・佐々木 1977、柳本 2004)、このような小型魚の漁獲は歴史的に行われてきた可能性がある。なお、日本沿岸(千葉県・東京都・神奈川県・静岡県)では小型魚の保護策として、全長22〜30 cm以下(海域により異なる)の再放流が実施されているが(亘ほか 2017)、天皇海山海域の底びき網の漁獲物にはこの基準に該当する小型魚が多く含まれる。また、ここ数年で尾叉長30 cm以上の成魚の割合が経年的に減少しており、漁獲物がさらに小型魚に偏る傾向にある。一方、底刺し網の漁獲開始年齢は1〜2歳(尾叉長20 cm前後)、モードは概ね4〜7歳(尾叉長28〜31 cm)である。


資源状態

【資源の評価方法】

2008年に天皇海山海域のキンメダイを対象とした余剰生産モデルによる資源解析が行われたが(水産庁 2008c、Nishimura and Yatsu 2008)、内的自然増加率rの値が本種のような長寿命・低成長の深海性魚類としては不自然に高く推定されており(r = 0.9〜1.6)、疑問点も多い。キンメダイはクサカリツボダイ不漁時の代替魚種として狙い操業の対象となるため、何も補正を行わない見かけ上の単位努力量あたり漁獲量(ノミナルCPUE)はクサカリツボダイの卓越加入の有無によって大きく変動し(例えば、クサカリツボダイの卓越加入があればゼロに近い値まで落ち込む)、本種の資源動向を反映しない可能性が高い。キンメダイ・クサカリツボダイの漁獲量の対数比を用いて努力量を補正した調整CPUE(adjusted CPUE)も用いられているが、この計算によって狙い努力量の変化を適切に補正できているか検証されていない。漁獲物組成から狙い操業を検出するdirected CPUE法(Biseau 1998)を近年のデータに適用した解析によれば、優先的に漁獲されるクサカリツボダイの卓越加入とその後の減少に応じて、狙い操業の比率は漁獲量の対数比よりもはるかに激しく変動しており、調整CPUEは狙い操業の影響を十分補正できていない可能性が高い(Sawada et al. 2017)。また上述のように、近年はより小型の個体が漁獲されており、漁獲対象年齢範囲が若齢魚まで拡大することで、産卵親魚量の低下に反してノミナルCPUEが高止まりや上昇傾向を示す可能性も考えられる。さらに本種のような集群性魚類は、魚群探知機で群れを探し出して操業することにより、資源量が低下しても直ちにCPUEが低下しない可能性もある。以上のような状況から、本種のCPUEを資源量指数として用いた資源評価は慎重に解釈すべきである。年齢構成や体長組成を考慮した資源解析モデルの利用が望ましいが、漁獲物体長組成データが利用できる期間が短く(NPFC科学オブザーバープログラムが開始した2009年以降に限られる)、20年程度の寿命を持つ本種の資源評価に現時点では適用できない。

一方、成長乱獲抑制を目的とした「加入量あたり漁獲量モデル」(YPRモデル)や加入乱獲抑制に役立つ「加入量あたり産卵資源量モデル」(SPRモデル)は、年齢別漁獲重量・尾数が明らかでなくとも適用可能である。したがって、当面はこれら加入ベースの資源評価に基づき、漁獲開始年齢や漁獲死亡係数を調節するアプローチが有効と考えられる。


【資源の水準・動向】

天皇海山漁場の開発当初は、資源の豊富なクサカリツボダイが主要な対象魚種であり、キンメダイの年間漁獲量はほとんどの年でゼロから数十トン程度であった。しかし、クサカリツボダイ資源の枯渇に伴い1976年頃からキンメダイの漁獲量が急増し(佐々木 1985)、1980年には1万トンを超えた。1980年前後にはノミナル CPUEだけでなく調整CPUEも急増したことから、Nishimura and Yatsu(2008)はこの時期にレジームシフトが生じ、キンメダイ資源が急増したという見解を示した。しかし、これはクサカリツボダイからキンメダイに主対象魚種がシフトした時期と一致しており(佐々木 1985)、上記の通り調整CPUEの狙い操業補正効果には疑問があるため、レジームシフトではなくキンメダイ狙い操業の増加を反映したものである可能性が高い。佐々木(1985)は、1982年ごろからキンメダイのCPUEが頭打ち傾向にあるとして、資源動向に警鐘を鳴らしている。1985年以降の漁獲量はまれに6,000トン弱の年があるものの、1,000〜4,000トン程度の年が多い。

2008年の余剰生産モデルを用いた資源評価では、漁獲死亡率がMSY水準に比べて20〜28%過大であると推定された。底びき網漁業のノミナルCPUEは2012年から2016年にかけて増加傾向にあるが、これは上記のように、クサカリツボダイの資源枯渇に伴うキンメダイ狙い操業の増加、並びに小型魚の漁獲量増大等を反映している可能性があり、親魚資源量の増加と見なすべきではない。実際に、directed CPUEでは同じ期間に明瞭な増減傾向は認められなかった(Sawada et al. 2017)。

Shotton(2014)は南インド洋産キンメダイのYPR診断により、漁獲開始年齢を2.8歳(標準体長22 cm)から 8.4歳(標準体長35 cm)に引き上げれば、漁獲量はおよそ10倍に増加すると試算している。近年天皇海山海域の底びき網漁業は、1歳前から漁獲対象としており、加入量当たり漁獲量や産卵親魚量が望ましくない状態に陥っている可能性がある。天皇海山における本種のベルタランフィー成長式(橋 2016)から年齢−体重関係、田中およびPaulyの経験式(田中 1960、Pauly 1980)から自然死亡係数Mを推定し、漁獲開始年齢が1歳から5歳それぞれの場合のYPR曲線を作成して資源診断した。なおMは田中の方法では0.10、Paulyの方法では0.19と算出されたため、M = 0.10と0.19の2つのケースを検討した。現状の漁獲死亡係数Fは不明であるが、M=0.10の場合には、F > 0.2の範囲では漁獲開始年齢の上昇に伴いYPRは増加する(図4)。また、M=0.19の場合には、漁獲開始年齢を1歳から3歳まで引き上げるとYPRは増加したが、それ以降では大きな改善効果は認められなかった。このように、1歳前から漁獲対象とする現状の天皇海山海域のキンメダイ漁業は、加入量あたり漁獲量の観点から資源を有効利用できていない。本種の成熟開始年齢は4歳〜5歳と考えられており、加入量あたり産卵親魚量の観点からも、漁具規制などにより漁獲開始年齢を引き上げることが望ましい。


管理方策

2008年に我が国が行った余剰生産モデル解析(Nishimura and Yatsu 2008)から、2006年当時に過去10年の平均漁獲死亡係数はMSY水準よりも20〜28%過大であると判断され、努力量を抑制する暫定措置がNPFC設立準備国によって2009年に導入された。その具体的内容は、漁船数の凍結、11〜12月(クサカリツボダイの産卵期の一部に相当する)の操業禁止、底びき網曳網時間の20%削減である。また、クサカリツボダイ資源の回復を図るため、C-H海山での操業も停止されている。これら暫定措置は2016年にNPFCの保存管理措置として正式に採択された。日本は底びき網船の合計曳網時間を5,600時間以下に抑える自主措置も導入している。しかし、根拠とされた余剰生産モデル解析は、上に指摘した狙い操業の変化と小型魚を主体とする漁獲への移行によるCPUEのバイアスを含み、資源動向と漁獲の影響を適切に反映していない恐れがある。

このほか我が国では底魚漁業の許可条件として、底びき網のコッドエンドメッシュサイズは100 mm以上、底刺網のメッシュサイズは120 mm以上に制限されており、漁業者団体の自主措置として1ケース16 kg 120尾入り以上となる小型魚(1尾あたり体重130 g、尾叉長180 mm未満に概ね相当)の製品の生産を自粛している。しかし現状の底びき網の目合い規制は、本種の小型魚漁獲削減に有効ではなく、底びき網では当歳から1歳の未成魚が漁獲されている(図4)。

NPFCでは本種をクサカリツボダイと並ぶ底魚資源評価の優先対象種に掲げており、2019年に本種の資源評価を行い必要な保存管理措置を導入することが決まっている。2018年には漁獲の推移ならびに既往の資源評価結果と資源生物情報のレビューが予定されている。


キンメダイ(天皇海山海域)の資源の現況(要約表)

資源水準 2019年NPFC科学委員会で検討予定
資源動向 2019年NPFC科学委員会で検討予定
世界の漁獲量
(最近5年間)
812〜3,861トン
最近(2016)年:3,861トン
平均:2,562トン(2012〜2016年)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
773〜3,783トン
最近(2016)年:3,783トン
平均:2,450トン(2012〜2016年)
管理目標 2019年NPFC科学委員会で検討予定
資源評価の方法 2019年NPFC科学委員会で検討予定
資源の状態 現状は不明だが、クサカリツボダイ資源の枯渇に伴い本種を狙った操業が増え、漁獲量の増大と漁獲物の小型化傾向が認められる
管理措置 NPFC保存管理措置:
・操業許可漁船数の現状維持
・北緯45度以北における操業禁止
・水深1,500 m以深での操業禁止
・C-H海山及び光孝海山南東部の閉鎖
・底刺し網を海底から70 cm以上離して敷設する
・11〜12月(クサカリツボダイ産卵期)の禁漁
・科学オブザーバーの100%乗船
我が国自主措置:
・底びき網のコッドエンドメッシュサイズ100 mm以上
・刺し網のメッシュサイズ120 mm以上
・漁獲努力量上限の設定(底びき網年間総曳網時間5,600時間以内)
・1ケース120尾以上の小型魚製品の生産自粛
管理機関・関係機関 NPFC(北太平洋漁業委員会)
最新の資源評価年 2008年
次回の資源評価年 2019年

執筆者

外洋資源ユニット
外洋底魚サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 外洋生態系グループ

西田 一也・澤田 紘太・米崎 史郎・清田 雅史


参考文献

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