--- 詳細版 ---

71 ナンキョクオキアミ 南極海

Antarctic Krill, Euphausia superba

                                                           
PIC

[HOME] [詳細版PDF] [要約版PDF] [要約版html] [戻る]

最近の動き

2015/16漁期(12月1日から翌年11月末日まで)及び2016/17漁期のナンキョクオキアミ総漁獲量は、世界合計でそれぞれ260,150トン及び237,342トン(暫定値)であった。なお、日本は2011/12漁期を最後に約40年間に及ぶナンキョクオキアミ漁業から撤退した。2015/16漁期は前漁期に引き続き、操業がサウスシェトランド水域(FAO統計海区48.1小海区)に集中し、同小海区は漁獲量が漁期半ばの5月に早々とトリガーレベル(新たな管理措置への移行基準となる漁獲量上限:同小海区の場合は155,000トン)に達し、閉鎖された。同小海区の漁獲量は全漁獲量の59%を占めた(図1)。2016/17漁期も、操業が同小海区に集中し、7月には漁獲量がトリガーレベルに達し、閉鎖された。同小海区の漁獲量は全漁獲量の63%を占めた(図1)。なお、2016/17漁期にインド洋区(58海区)で21年振りの操業が中国により行われたが、漁獲量は513トンであった。


利用・用途

冷凍品や乾燥粉末(ミール)は釣餌や飼料とされる。むき身やボイルは加工食品の原料となるが、風味が強いため単独で食材として使われることは少ない。ミールや頭部から抽出されるオイルは、薬用もしくは機能性食品(栄養補助食品)として期待されており、欧米では市場を拡大しつつある。


   表1

表1. 48海区における過去10年間の国別ナンキョクオキアミ漁獲量(2007〜2016年)


図1

図1. 48海区における過去10年間の小海区別ナンキョクオキアミ漁獲量(2007〜2016年)


図2

図2. ナンキョクオキアミの海区別漁獲量の経年変化(1972〜2016年)


図3

図3. 南極海全体におけるナンキョクオキアミ漁場の位置
現在の漁場は南極半島周辺のサウスシェトランド、サウスオークニー、サウスジョージア水域に限られている。


図4

図4. ナンキョクオキアミの季節及び成熟段階における地理分布と生存量(目盛は相対値)


図5

図5. CCAMLR-2000一斉音響調査から推定されたナンキョクオキアミ分布密度


図6

図6. CCAMLRの統計海区


漁業の概要

世界のナンキョクオキアミ漁業は、1972/73漁期に旧ソ連が7,400トンを漁獲したことに始まる。その後日本、ポーランド等が参入し、1976/77漁期に漁獲量は10万トンを超え、1978/79年には30万トン強、1981/82漁期に50万トンを超えて最大漁獲量に達した。その一方で商品開発は進まず、南極海における漁業の主対象が魚類へ移行したことから、その後数年間で漁獲量は大幅に減少した。1986/87漁期から1990/91漁期までの年間総漁獲量は35万〜40万トンで安定していたが、1992/93漁期には8万トン台へ急落した。これは、旧ソ連体制の崩壊によってロシア漁船の採算が取れなくなり、操業を中止したためである。1992/93漁期以降から現在までの年間漁獲量は13万トン前後で推移していたが、2009/10漁期には21.3万トンに若干増加した(図2)。

開発当初の操業は、インド洋(58海区)や太平洋(88海区)の沿岸部でも行われていたが、近年は南極半島周辺(48海区)のサウスシェトランド水域、サウスオークニー水域及びサウスジョージア水域が主な漁場となっている(図3)。サウスシェトランド水域及びサウスオークニー水域での操業は、通常夏季に行われ、冬季には海氷を避けて比較的低緯度のサウスジョージア水域で操業が行われていた。しかし、近年、サウスシェトランド水域及びサウスオークニー水域でも冬季に海氷に覆われないため、冬季を中心とした操業に変わった。

このうち2005/06漁期に新規参入したノルウェーは、コッドエンドにフィッシュポンプを取り付けた連続操業可能なトロール漁具を装備した大型船を導入するなどして、急速に漁獲量を拡大している。また、中国は2009/10漁期に初めて1隻が操業し0.2万トンを漁獲したが、2010/11漁期には5隻が操業し1.6万トンを漁獲した。日本の漁獲量は2003/04漁期以降約2万〜4万トンで安定していたが、2011/12漁期は1.6万トンとなり、同漁期終了後ナンキョクオキアミ漁業から撤退した。2016/17漁期の漁業国は、ノルウェー(15.7万トン)、中国(3.8万トン)、韓国(3.4万トン)、ウクライナ(0.8万トン)である(表1)。


生物学的特性

ナンキョクオキアミは、南極海に生息するオキアミ目甲殻類であり、体長(眼前端から尾節まで)は60 mm以上に達し、寿命は5〜7歳と考えられている。夏季には、爆発的に増殖する植物プランクトンを摂食し、植物プランクトン量の少ない冬季には、動物プランクトンや海氷中の植物プランクトン(アイスアルジー)等も摂食すると考えられている。ナンキョクオキアミの分布域は、南極前線以南の南極表層水全域に及ぶが、群れ(パッチ)の出現状況は季節や成熟段階によって大きく異なる。南極半島周辺では初夏(12月)から盛夏(2月)にかけて成熟個体が陸棚斜面域に分布するのに対し、未成熟個体は主に陸棚縁辺部に分布する(図4)。いずれも表層200 m以浅に群れを形成するが、海域によって群れに濃淡がある。成熟した個体は、夏季に繁殖期を迎える。1シーズンに複数回産卵すると考えられており、1回の産卵数は雌1個体あたり2,000〜10,000個程度で1,000 m以深まで沈降しながら卵内発生を行い、1週間ほどで孵化する。

その後、幼生期は脱皮と変態(ノープリウス→メタノープリウス→カリプトピス→ファーシリア)を繰り返し、徐々に表層近くに分布するようになり、春季には体長10〜20 mmの未成体(外見は成体と同じだが第二次性徴が現れていない)になる。未成体・成体ともに秋季、冬季には沿岸域に移動し、海氷直下や海底付近等に生息すると考えられている。孵化後2年目以降に成熟する。

ナンキョクオキアミは通常、幼生期には脱皮間隔(日数)が短く成長率が高いが、成体になるにつれて脱皮間隔が長くなり、成長率が低くなる。さらに、極寒の南極海に適応するために、餌環境の悪い冬季には、体長を脱皮により収縮させ、さらには性徴も退縮させることでエネルギー消費を低く抑えることが実験により確認されている。

本種は、海産哺乳類、海鳥類、魚類、いか類等多くの捕食者の餌となっており、南極海生態系の鍵種である。


資源状態

1972年に本格的に漁業が開始される以前には、南極海全体の資源量は莫大で10億〜20億トンと考えられていた。1981年に国際共同バイオマス調査計画(FIBEX計画、調査面積396.1×103 km2)が実施され、スコシア海(48海区)のナンキョクオキアミ資源量は1,510万トンと推定された。この資源量は後に3,540万トンと修正された。

1982年の南極海洋生物資源保存条約の発効以降、新たな調査を求める要望が強まり、2000年1〜2月に日本(開洋丸)、英国、米国及びロシアの4か国の調査船が、スコシア海で、同一規格の音響装置、採集器具及び海洋観測機器(CTD)を用いて、CCAMLR-2000一斉調査(調査面積2065.2×103 km2)を実施した(図5、Watkins et al. 2004)。この調査の結果、調査面積の拡大に伴い資源量推定値はFIBEX調査結果より増大し、48海区のナンキョクオキアミ資源量は4,429万トン(変動係数11.4%)と算定された。その後CCAMLR音響調査解析作業部会の専門家が再解析を重ね、2007年には3,729万トン(変動係数20.9%)、2010年には6,030万トン(変動係数12.8%)に修正された。これに伴い、漁獲制限量は347万トンから561万トンに上方修正された。

現在のナンキョクオキアミ漁獲量は、資源量に比べ極めて小さいため(総資源量の0.3%、予防的漁獲制限量の3.6%)、音響調査に基づく推定総資源量は初期資源量(B0)と同等と見なされている。したがって、MSY資源管理基準に従うと資源水準は高位、資源動向は横ばいと判断される。このように、現在の漁業がナンキョクオキアミ資源自体に及ぼす影響は小さく、資源枯渇の心配は少ない。ナンキョクオキアミ資源は環境変動に応じて増減している可能性が高い。調査資料が存在する1920年代以降の資源の長期傾向は、大気・海氷などの環境変動と関連して1970年代〜1980年代頃に減少傾向を示し、1990年代に入るとやや横ばいとなる(Siegel and Loeb 1995、Loeb et al. 1997、Naganobu et al. 1999、Atkinson et al. 2004)。近年、地球温暖化が進む中で、ナンキョクオキアミの分布パターンや資源量が従来とは異なる変動を示す可能性も考えられる。曳網時間あたり漁獲量等の漁業情報からナンキョクオキアミの資源状態を把握することは困難であり、新たなモニタリング手法として漁船による音響データの収集・解析 手法の開発が進められている。


管理方策

【CCAMLRによる資源管理】

南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)は南極の海洋生物資源の保存を目的としており、この「保存」には合理的利用も含まれる。この目的を達成するための原則として、条約の第2条には、(a) 対象資源の安定した加入を確保し、資源量を、最大年間純加入量を確保する水準以下に減少させないこと、(b) 対象資源、これに依存する資源及び対象資源と関係ある資源との間の生態的関係を維持し、枯渇した資源についてはその資源量を安定した加入水準まで回復させること、(c) 海洋生態系の復元が20年または30年にわたり不可能になる恐れのある生態系の変化が生じることを防ぎ、その変化が生じる危険性を最小限にすること等が掲げられている。このようにCCAMLRは漁業資源だけでなく生態系の保存を条約理念として掲げていることが特徴である。この原則に基づき、CCAMLRは条約水域の海区ごと(図6)、種ごとに保存管理措置を定めている。ナンキョクオキアミ資源に関する保存管理措置は、48海区と58海区の2海区のみに設定されている。

総資源量に対する漁獲のレベルは低いが、ナンキョクオキアミは南極海生態系全体を支える鍵種であることから、漁業が生態系へ及ぼす悪影響を回避するための管理の枠組みが検討されている。具体的には、ナンキョクオキアミを主要な餌生物とするペンギンやおっとせいなどの高次捕食者の摂餌水域に操業が集中することによって、資源が局所的に枯渇し、高次捕食者の摂餌成功率や再生産率が低下する可能性が懸念されている。そのような事態を避けるために、48海区全体の漁獲量が62万トンを超えた場合には、生態系を考慮した新たな管理措置へ移行することが決まっている。62万トンという移行基準(トリガーレベル)は、小海区ごとの過去最大漁獲量に基づき算定されたものである。2009年のCCAMLR年次会合では、48海区全体で62万トンに設定されていたトリガーレベルを、小海区ごとに分割した。

48海区の小海区別トリガーレベルは、48.1小海区15.5万トン、48.2及び48.3小海区27.9万トン、48.4小海区9.3万トンである。トリガーレベルを分割した初年度である2009/10漁期に、48.1小海区の漁獲量がトリガーレベルに達し、その小海区は閉鎖された。48.3小海区に好漁場が形成されず、48.2小海区に海氷が卓越したのに対し、48.1小海区は冬季も海氷に閉ざされることなく操業可能であったことが原因である。2009/10漁期の漁場形成パターンは平年の平均的状況とは異なっていたが、その中で分割されたトリガーレベルが有効に作動したことになる。そこで、2011年のCCAMLR年次会合においてトリガーレベル分割を2013/14漁期まで継続することが合意された。その後も、2012/13漁期以降は、2014/15漁期を除き48.1小海区に操業が集中し、その結果、同小海区の漁獲量は漁期半ばに早々とトリガーレベルに達し、閉鎖されている。

漁獲量がトリガーレベルを超えた後の管理措置としては、2009年までは小海区をさらに小規模管理ユニット(SSMU)に分割し、SSMUごとに許容漁獲量を設定する方法が提案され、数理モデルを用いた検討が進められてきた。しかし、SSMUごとの許容漁獲量は2000年の一斉音響調査結果を根拠としており、ナンキョクオキアミの分布や漁業のパターンが毎年一定の平均的傾向を示すことを前提としている。2008/09〜2010/11漁期は、資源の分布や操業のパターンが平年とは異なった変動を示した。このような状況下では十数年に1回の大規模調査を根拠とした管理方策よりも、定期的な小規模調査、捕食者のモニタリングや、漁業を通じた情報収集によって毎年の状況を把握しながら漁業を順応的に管理する方策が有効である。こうした背景から、CCAMLRの科学委員会では漁船を通じた科学データ収集や対照区や実験区の導入を含むフィードバック管理方策の検討が進められている。2016年までを目途に、現行のトリガーレベル(小海区)管理から、ナンキョクオキアミ捕食者モニタリングデータなどの解析に基づき、漁獲制限量をS SMUに分割する管理への移行を検討する予定になっていたが、2016年に現行のトリガーレベルをさらに3年間延長して、フィードバック管理への移行を進めることとなった。将来的には、捕食者モニタリング、漁業データ、生態系モデルに基づいたナンキョクオキアミのフィードバック管理を目指すことになるであろう。


ナンキョクオキアミ(南極海)の資源の現況(要約表)

資源水準 高位
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
21.7万〜29.4万トン
最近(2016)年:23.7万トン
平均:24.7万トン(2012〜2016年)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
2012年(2012/13漁期)より操業なし
管理目標 予防的漁獲制限による資源の維持・捕食者と生態系の保存
目標値:以下のうち、達成の要件が厳しい(許容される漁獲量が少ない)方:
20年間漁獲を続けた場合の産卵親魚量(推定値)が、
@いずれの年も、漁獲を行わない場合の産卵親魚量(推定値)の20%以下とならないこと
A20年後に、漁獲を行わない場合の産卵親魚量(推定値)の75%以上となること
資源評価の方法 オキアミ捕食者モニタリングデータの解析に基づき、オキアミ漁業のオキアミ捕食者への影響を評価する手法を検討中
資源の状態 48海区の推定総資源量は6,030万トン
ただし、局所的な資源枯渇の生態系影響、気候変動による分布量変動が懸念されている。
管理措置 CCAMLR海区毎に予防的漁獲制限量:
・48海区:561万トン
・58.4.1小海区:44万トン
・58.4.2小海区:264万トン
小海区別トリガーレベルが当面の許容漁獲枠となる:
・48.1小海区:15.5万トン
・48.2及び48.3小海区:27.9万トン
・48.4小海区:9.3万トン(全体の合計は62万トン以下)
管理機関・関係機関 CCAMLR
最新の資源評価年 2000年
次回の資源評価年 未定

執筆者

国際水産資源研究所 外洋資源部

一井 太郎


外洋資源ユニット
外洋底魚サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 外洋生態系グループ

奥田 武弘


参考文献

  1. Atkinson, A., Siegel, V., Pakhomov, E., and Rothery, P. 2004. Long-term decline in krill stock and increase in salps within the Southern Ocean. Nature, 432: 100-103.
  2. Loeb, V., Siegel, V., Holm-Hansen, O., Hewitt, R., Fraser, W., Trivelpiece, W., and Trivelpiece, S. 1997. Effects of sea-ice extent and krill or salp dominance on the Antarctic food web. Nature, 387: 897-900.
  3. Naganobu, M., Kutsuwada, K., Sasai, Y., Taguchi, S., and Siegel, V. 1999. Relationships between Antarctic krill (Euphausia superba) variability and westerly fluctuations and ozone depletion in the Antarctic Peninsula area. J. Geo. Res., 104(C9): 20651-20665.
  4. Siegel, V., and Loeb, V. 1995. Recruitment of Antarctic krill (Euphausia superba) and possible causes for its variability. Mar. Ecol. Prog. Ser., 123: 45-56.
  5. Watkins, J.L., Hewitt, R., Naganobu, M., and Sushin, V. (Guest Eds.) 2004. The CCAMLR 2000 Survey: a multinational, multi-ship biological oceanography survey of the Atlantic sector of the Southern Ocean. Deep-Sea Research Part II, 51(12-13): 1205-1456.