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54 イワシクジラ 北西太平洋

Sei Whale, Balaenoptera borealis

                                                  
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図1. 浮上直後のイワシクジラ

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最近の動き

本種の未調査域における分布密度の情報収集を目的に2010年に開始したIWCと日本共同の北太平洋鯨類目視調査が2017年も行われた。IWC科学委員会において、本系統の資源評価に向けた準備が進められている。


利用・用途

鯨肉は、刺身、大和煮(缶詰)、鯨かつ、鍋物材料、内蔵は、ゆで物として利用している。ヒゲ板は工芸品の材料として利用される。鯨油はかつて工業原料などに用いられた。


表1

表1. 北西太平洋鯨類捕獲調査におけるイワシクジラ捕獲頭数(2002〜2016年)


図2

図2. 北西太平洋におけるイワシクジラの捕獲頭数の推移(1910〜2016年)


図3

図3. 北西太平洋におけるイワシクジラの夏季の分布域(青)


漁業の概要

本種の捕獲は、1890年代末に基地式の近代捕鯨により開始した。その後、1940年には母船式捕鯨が開始し、本種も捕獲された。1940年代末にニタリクジラが識別されるまではイワシクジラとニタリクジラはイワシクジラとして同種として扱われていた(Omura and Fujino 1954)。日本捕鯨協会が取りまとめた沿岸捕鯨統計では両種は1955年以降は区別されて記録されていたが、国際捕鯨統計で区別されて記録されるようになったのは、それらが公式に判別されるようになった1968年以降である。北太平洋では日本の他に、旧ソ連、米国及びカナダが本種を捕獲した(図2)。

1910年代から1955年まで年間500頭が継続して捕獲されたが、1967年から捕獲が急増し、1968年には6,000頭を超えた。1968年以後、日米加ソ4か国による北太平洋捕鯨規則によって捕獲割当量が定められるようになり、1970年からIWCにより北太平洋の本種の捕獲枠が設定されるようになった。その後IWCの規制が厳しくなり、1976年から北太平洋全域で本種の商業捕獲を停止している。商業捕鯨以外では、第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II)において2002〜2003年は年間50頭、2004年以降は毎年100頭を上限に捕獲していたが、2014年からは、国際司法裁判所の「南極における調査捕鯨」訴訟判決に照らし、調査目的を限定するなど規模を縮小して実施することとなり、捕獲上限は90頭となった(実際の捕獲頭数については表1参照)。2017年から開始された新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEWREP - NP)においても本種は対象鯨種となっており、目標捕獲頭数は134頭である。


生物学的特性

本種はナガスクジラ科ではシロナガスクジラ、ナガスクジラに次いで3番目に大きく、北半球産で雄14.0 m、雌14.8 mに達し、体重は雄15.9トン、雌17.8トンである(Masaki 1976、Horwood 1987)。

性成熟年齢は、1925年に10歳、1960年には7歳と報告されている。記録にある最高年齢は60歳である。出産時期は11月とされ、出産海域は亜熱帯・温帯の外洋海域と想定されるが、特定できていない。夏季には摂餌のため、より高緯度の亜寒帯水域へ回遊する(図3)。

本種は魚類(カタクチイワシ、マイワシ、キュウリエソ、サンマ、マサバ、ハダカイワシ類など)、いか類(スルメイカ、テカギイカなど)、動物プランクトン(オキアミ、カイアシ類)など、さまざまな種類の餌生物を捕食する(根本 1962)。本種を捕食する可能性があるものとしてはシャチがあるほか、繁殖場ではさめ類が仔鯨を襲う可能性もある。


資源状態

系群構造について、目視調査と遺伝解析の結果に、過去の捕獲・標識再捕情報も加えた総合的な解析が行われ、北太平洋に広く分布する本種は同一系統であることが示されている(Kanda et al. 2015)。

本系群の資源評価はIWCで1975年に初めて行われた。資源評価に用いた手法は、CPUEと発見率指数(目視調査)を統合したDe Lury法であった(Ohsumi and Wada 1974、Tillman 1977)。資源評価の結果、初期資源量は42,000頭、1975年時点の資源量は9,000頭であるとされ、当時の管理方式ではMSYレベル(23,000頭)の40%であったため保護資源に分類された。それにより、1976年から北太平洋全域で本種の捕獲を停止し、現在に至っている。日本の目視調査の結果では、1980年代始めから1990年代中頃にかけて北西太平洋海域で増加傾向が見られ、資源は回復しつつあるものと思われる(藤瀬ほか 2004)。

1975年以降、本系群に関する資源評価は行われていなかったが、IWCにおいて、本系群資源解析を将来の優先課題とすることが2006年に合意され、2015年の年次会合より開始されている。本系群の資源量推定は、2002年と2003年の調査捕獲時の目視調査に基づいて行われ、調査海域内で4,100頭(CV= 0.281)、非調査海域については過去の目視調査結果から引き延ばし、北西太平洋で68,000頭(CV=0.418)と推定された(Hakamada et al. 2004)。その後、2008年のJARPN IIにおける目視調査結果を用いた資源量推定では、調査海域内で5,086頭(CV=0.378)とされた(Hakamada and Matsuoka 2016)。また、2010年から2012年に実施したIWCと日本共同の北太平洋鯨類目視調査プログラムの結果から、北緯40度以北、東経170度以東、西経135度以西の中央及び東部北太平洋の調査海域内の資源量は、29,632頭(CV=0.242)と推定された(Hakamada et al. 2017)。両調査海域は重複していないことから、合算すると北太平洋全域における資源量推定値は34,718頭(CV=0.214)となる(Government of Japan 2017)。


管理方策

IWCでは、資源状態にかかわらず全ての商業捕獲を停止している。我が国は2002年から捕獲調査を実施する一方、本種を対象とした目視調査を継続して実施しており、西経海域を中心とした未調査海域において、2010年に開始したIWCと日本共同の北太平洋鯨類目視調査が、IWC太平洋鯨類生態系調査(IWC-POWER)プログラムの下で2017年にも実施された。


イワシクジラ(北西太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 (おそらく)中位
資源動向 増加
世界の捕獲量
(最近5年間)
なし(商業捕鯨モラトリアムが継続中)
我が国の捕獲量
(最近5年間)
捕獲調査により90〜100頭
最近(2016)年:90頭
平均:94頭(2012〜2016年)
管理目標 商業捕鯨モラトリアムが継続中であり、未設定
資源評価の方法 船舶による目視調査から推定した資源量推定値に基づく
資源の状態 北西太平洋では目視調査により増加傾向と判断
管理措置 商業捕鯨モラトリアムが継続中
管理機関・関係機関 IWC
最新の資源評価年
次回の資源評価年

執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

南川 真吾・吉田 英可


参考文献

  1. 藤瀬良弘・田村 力・板東武治・小西健志・安永玄太. 2004. イワシクジラとニタリクジラ. 鯨研叢書 No. 11. 日本鯨類研究所, 東京. 168 pp.
  2. Government of Japan. 2017. Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP). http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/index.html(2018年2月22日)
  3. Hakamada, T., and Matsuoka, K. 2016. The number of western North Pacific common minke, Bryde's and sei whales distributed in JARPN II offshore survey area. Paper SC/F16/JR12 presented to the IWC SC JARPNII Review Workshop, February 2016 (unpublished). 13 pp.
  4. Hakamada, T., Matsuoka, K., Murase, H., and Kitakado, T. 2017. Estimation of the abundance of the sei whale Balaenoptera borealis in the central and eastern North Paci c in summer using sighting data from 2010 to 2012. Fisheries Science. https://doi.org/10.1007/s12562-017-1121-1(2018年2月22日)
  5. Hakamada, T., Matsuoka, K., and Nishiwaki, S. 2004. Increase trend and abundance estimate of sei whales in the western North Pacific. Document SC/56/O19 submitted to 56th IWC. 9 pp.
  6. Horwood, J. 1987. The sei whale: population biology, ecology and management. Croom Helm, New York, USA. 375 pp.
  7. Kanda, N., Bando, T., Matsuoka, K., Murase, H., Kishiro, T., Pastene, L.A., and Ohsumi, S. 2015. A review of the genetic and non-genetic information provides support for a hypothesis of a single stock of sei whales in the North Pacific. Document SC/66a/IA9 submitted to 66a IWC. 17 pp.
  8. Masaki, Y. 1976. Biological studies on the North Pacific sei whales. Bull. Far Seas Fish. Res. Lab., 14: 1-104.
  9. 根本敬久. 1962. ひげ鯨類の餌料. 鯨研叢書 No. 4. 日本鯨類研究所, 東京. 136 pp.
  10. Ohsumi, S., and Wada, S. 1974. Status of whale stocks in the North Pacific, 1972. Rep. Int. Whal. Commn., 24: 114-126.
  11. Omura, H., and Fujino, K. 1954. Sei whales in the adjacent waters of Japan. II. Further studies on the external characters. Sci. Rep. Whales Res. Inst. Tokyo, 9: 89-103.
  12. Tillman, M.F. 1977. Estimates of population size for the North Pacific sei whales. Rep. Int. Whal. Commn., (Sp. Is.), 1: 98-106.