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04 クロマグロ 太平洋

Pacific Bluefin Tuna, Thunnus orientalis

                                                         
PIC
左から順に成魚、未成魚(尾叉長60 cm、20 cm)

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最近の動き

2016年2〜3月に開催された北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)太平洋くろまぐろ作業部会により資源評価が更新された。資源評価期間(1952〜2014漁期年)の親魚資源量は、現在も歴史的低水準にあるものの減少傾向には歯止めがかかっていることが示され、2014年の親魚資源量は約1.7万トンと推定された。加入量については資源評価期間を通じて大きく変動し、明瞭な傾向を示していない。今後低加入(1980年代の10年間の平均加入尾数の約820万尾)が続くとの仮定の元で現行の管理措置を継続した場合、親魚資源量を2024年までに歴史的中間値(約4.1万トン)以上に回復させるとする「暫定回復目標」を達成する確率は62%であるとの将来予測結果が示された。

2017年4月には、東京で太平洋クロマグロの関係者会合(ステークホルダー会合)がISCにより開催され、次期中間目標について議論が行われた。ISCより、異なる管理措置を導入した場合の様々な回復目標の達成確率が示され、次期回復目標をどのように設定すべきかの議論がステークホルダーの参加を得て行われた。さらに、2017年8月に韓国で開催されたWCPFC第13回北小委員会においては、次期回復目標や長期管理方策についての議論が行われ、「次期回復目標」として現在の目標である「暫定回復目標」を達成した後、10年以内に60%以上の確率で「初期資源量の20%(約13万トン)」まで資源を回復させることが合意されるとともに、漁獲制御ルールとして、資源評価の結果、「暫定回復目標」の達成確率が、(ア)60%を下回った場合、60%に戻るよう、管理措置を強化、(イ)75%を上回った場合、(a)「暫定回復目標」の70%以上を維持、かつ(b)「次期回復目標」の60%以上を維持する範囲で増枠の検討が可能となることも合意された。これを踏まえ、2017年12月に開催されたWCPFC第14回年次会合では、北小 委員会が勧告した太平洋クロマグロの管理戦略と、それを実施するために修正された保存管理措置案が、多くの国から評価する旨の発言とともに、全会一致で採択された。

採択された管理戦略を踏まえた現行の保存管理措置の主な内容は以下のとおり。(ア)30 kg未満の小型魚の漁獲量を2002-2004年平均水準から半分以下に制限(WCPFC全体で9,450トンから4,725トン、うち我が国が8,015トンから4,007トンに削減)。(イ)30 kg以上の大型魚の漁獲量を2002〜2004年平均水準から増加させない(WCPFC全体で6,591トン、うち我が国は4,882トン)。

日本国内では、2010年に水産庁が公表した「太平洋クロマグロの管理強化についての対応」及びWCPFCでの国際合意に基づき、2015年1月からは30 kg未満小型魚漁獲量を2002年から2004年までの年間平均漁獲実績の半分以下に制限(8,015トン→4,007トン)する措置が導入されている。なお、2016年の小型魚の漁獲量がWCPFCで規定されている漁獲量を超過したため、WCPFCの措置に従い2017年漁期(2017年7月〜2018年6月)の日本国内の漁獲上限からこの超過分が削減された(334トン削減され、上限は3,424トン)。

また、水産庁は2014年より、その年に生まれた太平洋クロマグロの加入量水準について、概ね10月、12月、翌年5月、及び翌年10月頃の計4回、モニタリングの結果の公表を行っている。


利用・用途

クロマグロは「本まぐろ」とも呼ばれ、成魚は寿司や刺身用の高級食材として利用される。また、0〜1歳の若齢魚は「めじ」または「よこわ」と呼ばれ、主に刺身用食材として安価に流通している他、養殖用種苗として利用されている。東部太平洋における漁獲(主にメキシコによる)の多くは数か月から1年の蓄養の後、日本向けに食材として輸出されている。一方、東シナ海付近における韓国による漁獲物の多くは生鮮で日本に輸出され、台湾による漁獲物(主に大型魚)は台湾国内で消費されている。


表1

表1. 北太平洋における太平洋クロマグロの国別漁獲量(単位:トン、ISC による公表値に基づく)


図1

図1. 太平洋クロマグロの国別漁獲量の推移(1952〜2016年)(ISCによる公表値に基づく)


図2

図2. 太平洋クロマグロの漁法別漁獲量の推移(1952〜2016年) (ISCによる公表値に基づく)


図3

図3. 日本周辺における太平洋クロマグロの主な漁場分布


図4

図4. 太平洋クロマグロの分布と回遊の概念図


図5

図5. 太平洋クロマグロの産卵場の概念図


図6

図6. 太平洋クロマグロの尾叉長・体重と年齢との関係


図7

図7. 資源評価で仮定した年齢別の自然死亡係数と成熟率


図8

図8. 日本の春期の南西諸島海域の近海・沿岸まぐろはえ縄の太平洋クロマグロのCPUE(上図)、日本の冬期の対馬・五島海域のひき縄のCPUE(下図)
各CPUEは標準化した後、比較のためデータ期間の平均値で除して正規化し重ね描きした。日本の沿岸・近海と台湾のはえ縄のCPUE(上図)は高齢魚、五島周辺・対馬海峡のひき縄CPUE(下図)は0歳魚を中心とする若齢魚の資源量指数として用いられている。(ISCによる公表値に基づく)。


図9

図9. 太平洋クロマグロの親魚資源量(1952〜2014年)(上図)と加入量(1952〜2014年)(下図)のトレンド
赤色の実線は最尤法による点推定値、上下の点線はパラメトリックブートストラップ法により計算した90%信頼区間の端点。(ISCによる公表値に基づく)。


図10

図10. 資源評価で推定された太平洋クロマグロの親魚資源量と加入量の関係
近年5年(2010〜2014年)は赤で強調している。(ISCによる公表値に基づく)。


図11

図11. 資源評価モデルで推定された年齢別漁獲尾数の経年変化(上図)、1990年以前と1991年以降の年齢別漁獲尾数の平均の違い(下図)(ISCによる公表値に基づく)


図12

図12. 加入水準の仮定(上図)及び漁獲管理措置(下図)の違いによる親魚資源量の将来予測結果の比較
グラフはシナリオごとの6,000回のシミュレーション結果の中央値であり、計算結果の半数はこれよりも低い。両図中の破線は、資源評価期間(1952〜2014年)における歴史的中間値(約4.1万トン)。下図における加入水準は、1980年代の低レベルを仮定。(図はISC評価結果に基づき水産庁監修の下編集)。


漁業の概要

本種の利用の歴史は古く、日本沿岸では縄文時代から利用されてきた(Kishinouye 1911、1923、渡辺 1973)。公式な統計としては、「まぐろ類」の漁獲量として水産事項特別調査(1891年)や農商務統計表(1894年)に報告があり(岡本 2004、Muto et al. 2008)、漁獲の大半が沿岸漁業であることからその多くが本種であると推測される。1920年代からは、北海道南東沖で流し網による漁獲が盛んになり、多い年で1万トン以上の漁獲を記録している(川名 1934、Muto et al. 2008)。東部太平洋では1918年から記録があり、1935年には1万トンを超えたが、その後は急速に衰退した(Bayliff 1991)。台湾沖では1930年代から第二次大戦中まで本種を対象としたはえ縄漁業があり、3,000トンを超える漁獲があった(中村 1939、矢崎 1943、台湾総督府農商局水産課 1945、Muto et al. 2008)。

本種の年間漁獲量は0.9万〜4万トンの間で変動している(表1、図1)。1981年に3.5万トンを記録した後、1988年に0.9万トンまで落ち込んだ。漁獲の多くがまき網やひき縄で漁獲される未成魚であるため、加入変動が漁獲量変動の要因の一つと考えられている。

2000年代以降の漁獲量は1.1万〜2.9万トンの間で推移している。近年は資源の減少に伴い漁獲量も減少傾向にあり、2008年の2.5万トンから2015年には1.1万トンまで減少した(図1)。直近5年(2012〜2016年)の漁獲量は、北西太平洋で0.7万〜1.1万トン、東部太平洋で0.3万〜0.7万トンと推定されている。2000年代前半の好調な漁獲は、加入の水準が比較的高かったことと、メキシコ及び日本での養殖の発展等による需要の増加に支えられ、本種を狙う努力量が増加したことが原因であると推測される。2000年代半ば以降は、はえ縄による高齢の大型成魚(100 kg以上)の漁獲が親魚資源の減少に伴って継続的に減少してきた。また、まき網による30〜50 kg程度の成魚の漁獲も減少し、その後、低加入の影響によりまき網とひき縄を中心とする未成魚の漁獲も減少していたが、近年は30 kg未満の未成魚の漁獲が増加傾向にある。ただし、近年の漁獲量は漁獲上限の影響も受けることに留意が必要である。

2016年の総漁獲量は約1.3万トン(暫定値)で、過去5年間(2011〜2015年)の平均漁獲量1.4万トンを下回った。2016年の各国漁獲量は、日本8,299トン、韓国1,029トン、台湾480トン、米国653トン、メキシコ2,706トンと見積もられている。

現在、本種は様々な漁法及び漁場で漁獲されている。日本周辺の沿岸域ではひき縄で未成魚が、定置網により未成魚と成魚が、また沖合域ではまき網により夏季から秋季に未成魚と成魚が漁獲されており、2016年の日本の漁法別漁獲量は、おおよそひき縄が800トン、まき網が5,100トン、定置網が1,200トンであった(図2)。台湾東沖から奄美諸島周辺域にかけては、春季にはえ縄で成魚が漁獲されている(図3)。東シナ海から日本海南西部にかけては、1990年以降、まき網による未成魚の漁獲が増加したが、近年は漁獲規制により2,000トン以下に管理されている。東部太平洋では、メキシコが5〜10月にまき網で漁獲しており、そのほとんどが養殖種苗となっている。

各国の漁業概要は以下のとおりである。


【日本】

まき網、はえ縄、ひき縄、竿釣り、定置網、一本釣り等により漁獲している。1993年以前には公海域で流し網でも漁獲していた。1952年以降、年間漁獲量は0.6万〜3.4万トンの間を変動しているが、過去10年は0.6万〜1.7万トンであり、その内の約半分はまき網により漁獲されている。まき網の主な漁場は、かつては夏期の三陸沖であったが、1980年代初頭からは日本海南西部でも成魚の漁場が形成され、2000年代後半からはまき網による成魚の漁獲の大半は日本海で行われている。現在、日本海におけるまき網漁業は3〜5歳魚を主に漁獲している。その漁場は6月初旬より日本海北東部に形成され、6月下旬以降になると日本海南西部に移動する。また、まき網は1990年代初頭からは、東シナ海北部から日本海西部の海域にかけて0、1歳魚を中心とした未成魚も漁獲している。2000年以降は、ひき縄による養殖種苗用の0歳魚の漁獲が増加したが、近年は加入量の減少と漁獲上限の導入により漁獲も低水準となっている。


【韓国】

主にまき網により済州島から対馬にかけての海域で漁獲しているが、表中層トロールでもわずかに漁獲している。近年は済州島周辺でひき縄でもわずかに漁獲が報告されている。漁獲量は1982年以降報告されており、2000年以降は600〜2,600トンで推移し、最大漁獲量は2003年の2,600トンである(表1)。過去の漁獲は小型魚にほぼ限定されていたが、2016年には漁獲の半分近くが30 kg以上の個体で占められた。


【台湾】

台湾東沖に広がる産卵場ではえ縄が200 cm以上の産卵親魚を漁獲している。過去にはまき網でも稀に混獲されていた。近年の漁獲量は減少傾向で、1999年の3,100トンから2008年には1,000トンを下回り、2012年には210トンまで減少したが、2015年には578トンまで持ち直した。以前は日本へも輸出していたが、近年はほとんどが台湾で消費されている(表1)。


【米国】

近年はまき網による漁獲量が大きく落ち込む一方、遊漁による漁獲の増加が目立っている。まき網漁獲量の減少は、1980年代にメキシコが排他的経済水域を導入したことで、米国のまき網船がカリフォルニア半島沿岸から閉め出されたことが大きい。近年の漁獲量は、1994年級群に支えられた1996年のピーク(4,700トン)以来減少し、2007年には約60トンになった。しかしその後はカリフォルニア南部からカリフォルニア半島の沿岸水域にかけて、まき網による散発的な漁獲が報告されている。2011年以降、メキシコの排他的経済水域に入域できる遊漁で年間3〜800トン程度の漁獲が続いていており、2016年の漁獲量は653トンとなっている。


【メキシコ】

キハダ、カツオを対象としたまき網がカリフォルニア半島沿岸で本種も漁獲している。まき網の全漁獲量に占める本種の割合は非常に小さいが、蓄養向けの需要が増加しており相対的に重要度が増している。また、本種の総漁獲量に対するメキシコの割合は近年大きくなっている。漁獲量は1980年代に120〜680トンであったが、1989年以降0〜9,800トンと大きく変動している(図1)。2000年以降は、養殖用種苗向けに本種を対象とする操業が増加している。メキシコの漁獲量は東部太平洋への来遊量に左右されるが、近年は漁獲量規制により管理されている。2016年には、3,300トンの漁獲枠に対し2,706トンを漁獲した(表1)。


生物学的特性

【分布と回遊】

太平洋に分布するクロマグロThunnus orientalisは、かつては大西洋に分布する大西洋クロマグロThunnus thynnusの地理的亜種とされていたが、現在では分子遺伝学的研究等により別種として扱われている。

本種は主に北緯20〜40度の温帯域に分布するが、熱帯域や南半球にもわずかながら分布がみられる(Fujioka et al. 2015)(図4)。産卵期及び産卵場は、4〜7月に南西諸島周辺海域を中心とした日本の南方〜台湾の東沖、7〜8月に日本海南西部と考えられている(米盛 1989、Ohshimo et al. 2017)(図5)。0〜1歳魚は、夏季に日本沿岸を北上し、冬季に南下して(Itoh et al. 2003)北緯32〜35度の比較的暖かい東シナ海や太平洋側沿岸域で越冬する(Fujioka et al. 2018)。また、尾叉長20 cm程度の0歳魚は夏季には主に表層混合層内を遊泳し、冬季の黒潮離岸をきっかけに東方沖合域への回遊を開始することがアーカイバルタグ調査から明らかとなった(Furukawa et al. 2016、Fujioka et al. 2018)。2〜3歳魚は北西太平洋を主な分布域とし、春季に黒潮続流域を西進、夏季に三陸沖を黒潮分派に沿って北上、秋季に親潮前線に沿って東進、冬季に日付変更線付近で黒潮続流域に向かって南下、という海洋構造に応じた時計回りの回遊パターンを示している(Inagake et al. 2001)。

しかし、個体によっては日付変更線付近まで移動しない場合や、半年〜数年間沿岸の同一箇所に滞在し続ける場合もあり、個体ごとの回遊パターンに大きな違いが認められる。未成熟魚の一部には、太平洋を横断して東部太平洋に渡り、北米西岸を南北に回遊をしながら数年滞在した後、産卵のために西部太平洋へ回帰するものがあることも知られており(Fujioka et al. 2015)、最近の窒素安定同位体比分析により、太平洋東西間の回遊パターンが明らかにされつつある(Madigan et al. 2017、Tawa et al. 2017)。産卵後、親魚の多くは北太平洋北部の沖合に索餌回遊すると考えられているが、一部の親魚はさらに南方あるいは黒潮沿いに東方へ移動することがポップアップタグによる調査で示されている(伊藤 2006)。


【成長と成熟】

近年の耳石を用いた研究により年齢と成長に関する知見が蓄積され、高齢魚の年齢推定が大幅に改善された (Shimose et al. 2008、2009)。2013年11月には太平洋クロマグロと北太平洋ビンナガの年齢査定に関するワークショップが開催され、両種の年齢査定技術の確立が図られた(ISC 2013、Shimose and Ishihara 2015)。さらに、この年齢査定方法の妥当性については、放射性炭素同位体を用いた検証によって確かめられている(Ishihara et al. 2017)。以前から漁獲物測定データのモード(最頻値)と成長式から計算された5歳前後までの若齢魚の体長が一致しないことが指摘されてきたが、0歳魚耳石日輪データの導入とモデリングの改善及びデータの重み付けにより、観測値をよく再現できるよう成長式の改善が図られた(Fukuda et al. 2015)。本種は、若齢期に急激に成長して5歳で尾叉長約160 cmに達し、それ以降は成長速度が遅くなって8歳で約200 cm、12歳で極限体長の90%である226 cmになる(図6)。寿命は20歳以上と考えられる。漁獲物の最大体長は300 cm以上に達する。

本種は一産卵期に数回産卵する多回産卵魚であり、卵は直径約0.7〜1 mmである。産卵数は体長に伴って増加する(Chen et al. 2006)。個体ごとの産卵継続期間や産卵回数などは不明であるが、本種の産卵間隔は台湾〜南西諸島近海では平均3.3日(Chen et al. 2006、Ashida et al. 2015)、日本海では平均1.1〜1.2日(Tanaka 2011、Okochi et al. 2016)と報告されている。産卵水温は、台湾〜南西諸島近海では表層水温約26〜29℃と報告されている(Chen et al. 2006、Suzuki et al. 2014)。一方、日本海における産卵開始水温は20℃前後(Tanaka 2011、Okochi et al. 2016)と南西海域での水温より低いことが報告されている。成熟サイズについては、日本海では50%成熟サイズは約114 cm(おおよそ3歳魚に相当)、95%成熟サイズは約134 cm(おおよそ4歳魚に相当)と報告されているが(Okochi et al. 2016)、東部太平洋では同サイズの個体による産卵は確認されていない。また日本の南方〜台湾東沖で漁獲されるのは、ほとんどが体重60 kg以上(5 歳以上に相当)の成熟個体である。以上の知見に基づき、現在の資源評価では、3歳で20%、4歳で50%、5歳以上で100%を成熟割合としている(図7)。なお、南西海域の産卵群について、漁獲物の年齡組成に雌雄差は認められないものの、尾叉長230〜270 cmの大型個体では雄の割合が有意に高く、また雄が先に来遊する傾向が認められること(Shimose et al. 2016)、産卵は新月に活発になる傾向があること(Shimose et al. 2017)が報告されている。


【自然死亡係数】

本種の自然死亡係数は若齢魚で高く、その後低下すると考えられている。しかし、0歳魚の自然死亡係数について通常標識から若干の知見が得られている他は、信頼できる推定値がない(Takeuchi and Takahashi 2006)。そのため、資源評価で用いられる自然死亡係数は、若齢魚については、通常標識による推定値(0歳魚:1.6、Takeuchi and Takahashi 2006)、同様の水温帯に分布して生活史が類似しているミナミマグロで通常標識を用いて推定された値(1歳魚:0.386、Polacheck et al. 1997、ISC 2008) が用いられ、2歳魚以降については、Pauly(1980)の経験式から推定した値(0.25、ISC 2008)が用いられている(図7)。


【食性】

後期仔魚は、カイアシ類 (卵、ノープリウス幼生を含む)を主な餌とするプランクトン食性である。主に日中に摂餌し、夜間は摂餌を休止するという、顕著な日周変動がみられる(米盛 1989、Uotani et al. 1990)。全長5 mm未満の仔魚はカイアシ類のノープリウス幼生を主に摂餌するが、全長5 mm以上では遊泳力の向上に伴ってより大型のカイアシ類を摂餌するようになる(Uotani et al. 1990)。全長7〜8 mm程度になると魚類仔魚を捕食し始め、それに伴って魚体は急激に成長する(Tanaka et al. 2014)。20〜60 cmの当歳魚は、日本海ではホタルイカモドキからキュウリエソに、太平洋では甲殻類幼生からいわし類へと、成長に伴い食性を変化させる(Shimose et al. 2013)。成魚の胃袋からは、いか類の他、トビウオ類、キントキダイ類、カツオなど魚類が多く見られる。いずれにしても特定の魚種を選択的に捕食するのでなく、その海域に多い生物を機会に応じて捕食しているとされている(山中 1982)。また幼魚のときには他のまぐろ類に捕食され、大型魚はごく稀にシャチやさ め類に捕食される(山中 1982)。


資源状態

2016年3月、ISC太平洋クロマグロ作業部会で行われた資源評価が最新であり、その結果は同年7月のISC年次会合で承認、公表された(ISC 2016)。以下の記述はその結果に基づく。


【資源解析】

資源評価では、統合モデルのStock Synthesis ver. 3.24F(SS、Methot and Wetzel 2013)を用いた。使用したデータは、漁期年で1952年(1952年7月)から2014年(2015年6月末)までの四半期別・漁法別漁獲量、各漁業による漁獲物の体長頻度データ、及び標準化された年別の資源量指数である。資源量指数として、大型魚については日本の近海はえ縄CPUE(1952〜1973年、1974〜1992年)、沿岸はえ縄 CPUE(1993〜2014年)、台湾のはえ縄 CPUE(2000〜2014年)、並びに0歳魚については五島周辺・対馬海峡で漁獲が行われるひき縄 CPUE(1980〜2014年)を使用した(図8)。

生物学的パラメータとして、成長式(ISC 2016)と体長・体重関係式(Kai 2007)(図6)、年齢別の自然死亡係数や成熟率(図7)等を使用した。SSでは、最尤法により漁獲物の体長頻度分布、漁獲量、資源量指数から漁法別の選択曲線、年齢別漁獲尾数、年齢別の個体数、産卵親魚量等の資源量を推定している。


【資源状態】

親魚資源量は、1960年前後、1970年代後半、1990年代中頃をピークとする変動傾向を示している(図9上)。親魚資源量が歴史的に最大となったのは1960年代で、日本のはえ縄の資源量指数(図8上)と同じ傾向を示している。近年の親魚資源量は、1990年代中頃のピークから2010年まで徐々に減少した後、依然として歴史的低水準にあるものの、現在では減少傾向に歯止めがかかっている。最近年(2014年)の親魚資源量は約1.7万トンで、評価期間(1952〜2014年)の最低値(1984年;約1.1万トン)に近い水準となった。加入量は2009年以降低水準が続いているが(図9下)、親魚資源量とは独立に年変動している(図10)。直近年(2014年)の加入の推定値は低水準であり、直近5年間の加入量平均値も評価期間を通じた平均値を下回ると推定された。

漁獲尾数で見ると、2歳以下の魚が全漁獲の95%以上を占めていると推定され、1991年以降高い水準で推移している(図11)。

以上を踏まえ、本種の資源状態は1)最近年(2014年)の親魚資源量は歴史的最低水準近くまで減少しており、2)最近年(2014年)の加入も低水準である、とされた。以上を踏まえ、資源水準は「低位」、資源動向は「横ばい」とした。


【将来予測】

WCPFC及びIATTCの保存管理措置(WCPFC CMM15-04、IATTC Resolution C14-06)、小型魚/大型魚の判別基準の変更、サイズ毎(小型魚削減/大型魚削減/両方削減)の更なる漁獲削減、及び最近年の漁獲率(F2011-2013)を仮定した漁獲シナリオ毎の親魚資源の将来予測を実施し、2017年以降の保存管理措置を検討した。その結果、低水準の加入(1980年代の10年間の平均加入尾数の約820万尾)が今後継続すると仮定した場合でも、30 kg未満の小型魚の漁獲量を2002〜2004年平均水準から半減させる現行管理措置の元では、2024年までに歴史的中間値以上に親魚資源が回復する可能性が高いことが示された(図12上)。また、サイズ毎の漁獲削減については、大型魚を削減するよりも小型魚を削減する方が資源回復に効果的であることが明らかとなった(図12下)。


【保存勧告】

これらを踏まえISCは、1)1996年から2010年まで減少を続けた親魚資源量は、近年下げ止まったと考えられるが、2)依然として歴史的最低水準付近にあり、殆ど全ての生物学的基準値を超えた高い率で漁獲されている、3)様々な加入の仮定と漁獲のシナリオの組み合わせの元で将来予測を行った結果、現行の管理措置が確実に実行されれば、WCPFCの暫定回復目標(資源評価期間における歴史的中間値4.1万トン)である、2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで回復することについては達成可能であり、親魚資源量が歴史的最低値を割り込むリスクは低い、4)小型魚の漁獲削減は、大型魚の漁獲削減よりも効果が大きい、5)小型魚/大型魚の漁獲上限が遵守されるよう注意深くモニタリングすべき、6)親魚資源量が低水準にあること、加入の不確実性並びに資源量への影響の重要性を考慮し、加入と親魚資源量の動向を把握するためのモニタリングを強化すべき、等を内容とする保存勧告をまとめた(ISC 2016)。


管理方策

ISCの資源評価を受け、中西部太平洋水域においては、2014年のWCPFCで、1)親魚資源量を2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで回復させることを「暫定回復目標」とする、2)30 kg未満の小型魚の漁獲量を2002〜2004年平均水準から半減させる、3)30 kg以上の大型魚の漁獲量を2002〜2004年平均水準から増加させない、等を内容とする保存管理措置が採択された。2017年8月に韓国で開催されたWCPFC第13回北小委員会(全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)との合同作業部会)において、ステークホルダー会合の結果やWCPFCの要求に対するISCの回答を踏まえ、次期回復目標や長期管理方策についての議論が行われ、「次期回復目標」として現在の目標である「暫定回復目標」を達成した後、10年以内に60%以上の確率で「初期資源量の20%(約13万トン)」まで資源を回復させることが合意されるとともに、漁獲制御ルールとして、資源評価の結果、「暫定回復目標」の達成確率が、(ア)60%を下回った場合、60%に戻るよう、管理措置を強化、(イ)75%を上回った場合、(a)「暫定回復目標」の70%以 上を維持、かつ(b)「次期回復目標」の60%以上を維持する範囲で増枠の検討が可能となることも合意された。これを踏まえ、2017年12月に開催されたWCPFC第14回年次会合では、北小委員会が勧告した太平洋クロマグロの管理戦略と、それを実施するために修正された保存管理措置案が、多くの国から評価する旨の発言とともに、全会一致で採択された。管理戦略の中では、MSE(管理戦略評価:「03. まぐろ類の漁業と資源調査(総説)」を参照)を2019年に開始し、2024年までに完了する方針も示されている。

東部太平洋水域においては、2016年10月のIATTC第90回会合(再開会合)において、1)親魚資源量を2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値まで回復させることを暫定回復目標とする、2)商業漁業については2017年及び2018年の年間漁獲上限3,300トンを原則とし、2年間の合計が6,600トンを超えないように管理する、3)漁獲のうち、30 kg未満の小型漁の漁獲の比率を50%以下とするよう努力し、2018年の年次会合において2017年の操業結果のレビューを行う、4)2030年までの次期中間目標を、2018年の年次会合で作成すること、5)遊漁については商業漁業と同等の削減措置を取り、委員会に報告する、等を内容とする現行保存管理措置の継続が採択された(水産庁 2016c)。

国内においては、未成魚の漁獲を抑制・削減し、大きく育ってから獲ることにより、太平洋クロマグロの資源管理を推進すること、資源変動の大きい本種の親魚資源量が中長期的(5〜10年)に適切な変動の範囲内に維持され、これまでの最低水準を下回らないよう管理していくこと、を基本的な対応とする「太平洋クロマグロに係る資源管理の実施について」等に基づき、1)ひき縄等の沿岸漁船の承認制及び漁獲実績報告の義務化、2)クロマグロ養殖場の登録制及び実績報告の義務化、3)天然種苗を用いるクロマグロ養殖場の数・生け簀の規模の拡大防止、4)等の管理措置が導入されている(水産庁 2010、2011)。これに加え、WCPFCの決定を受け、2015年1月から小型魚は4,007トン、大型魚は4,882トンの漁獲管理に取り組んでいる。2017年7月以降(第3管理期間)は、大中型まき網漁業については1,500トン、その他の沿岸漁業等(ひき縄、定置網、近海竿釣り等)については1,845.2トン、留保78.3トンとしている。2016年と2017年には法的担保を念頭に置き、「クロマグロ型TAC」の試験実施が行われた。この中では知事 許可漁業(ひき縄、定置網)に対して、都道府県単位の管理を設定して各都道府県に漁獲枠を割り当てているが、本種の漁獲の特性として時期や地域、漁法ごとの漁獲状況に著しい偏りが生じることがあるほか、都道府県の漁獲枠が極めて小さい場合も都道府県単独での管理が難しいと考えられることから、全国規模の管理体制も併用されている(水産庁 2017)。2017年4月には資源管理法の対象魚種に指定されると共に、「海洋生物資源の保存及び管理に関する基本計画」が変更され、クロマグロのTACが定められた。資源管理法による管理は2018年1月から開始される。また、「まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法」に基づき国内の流通業者(輸入業者、卸売業者)から韓国産及びメキシコ産の太平洋クロマグロの輸入情報を収集する取組が行われている。


クロマグロ(太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
1.1万〜1.7万トン
最近(2016)年:1.3万トン
平均:1.4万トン(2012〜2016年)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
0.6万〜1.0万トン
最近(2016)年:0.8万トン
平均:0.7万トン(2012〜2016年)
管理目標 親魚資源量を2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値(約4.1万トン)まで回復させることが暫定回復目標となっている。
さらに、暫定回復目標を達成した後、10年以内に60%以上の確率で「初期資源量の20%(約13万トン)」まで資源を回復させることが次期回復目標とされた。
資源評価の方法 統合モデル
資源の状態 1)最近年(2014年)の親魚資源量(約1.7万トン)は、歴史的最低水準(約1.1万トン)近くまで減少しており、2)最近年(2014年)の加入も低水準である。
管理措置 WCPFC:1)30 kg未満の小型魚の漁獲量を2002〜2004年平均水準から半減させる。2)30 kg以上の大型魚の漁獲量を2002〜2004年平均水準から増加させない。

IATTC:1)親魚資源量を2024年までに、少なくとも60%の確率で歴史的中間値(約4.1万トン)まで回復させることを暫定回復目標とする。2)商業漁業については、2017年及び2018年の年間漁獲上限3,300トンを原則とし、2年間の合計が6,600トンを超えないように管理する。3)漁獲のうち、30 kg未満の小型魚の漁獲の比率を50%まで削減するよう努力し、2018年の年次会合において2017年の操業結果のレビューを行う。4)2030年までの次期中間目標を、2018年の年次会合で作成する。5)遊漁については、商業漁業と同等の削減措置を取り、委員会に報告する。

日本国内:1)ひき縄等の沿岸漁船の承認制及び漁獲実績報告の義務化、2)クロマグロ養殖場の登録制及び実績報告の義務化、3)天然種苗を用いる養殖場数・生け簀の規模の拡大防止、等。2015年1月から漁獲枠を小型魚は4,007トン、大型魚は4,882トンとし、沿岸漁業の小型魚の漁獲管理は基本的に都道府県別に行われている。ただし、地域や時期、漁法ごとの漁獲の偏りや、漁獲上限が極めて小さく都道府県別の管理が難しい場合などに対応するため、全国規模の管理体制も併用されている。2018年から「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」に基づく漁獲管理が開始される。
管理機関・関係機関 WCPFC、IATTC、ISC
最新の資源評価年 2016年
次回の資源評価年 2018年(データアップデート)

執筆者

くろまぐろユニット
くろまぐろサブユニット
国際水産資源研究所 くろまぐろ資源部 くろまぐろ資源グループ

中塚 周哉・境 磨
国際水産資源研究所 くろまぐろ資源部 くろまぐろ生物グループ

鈴木 伸明

参考文献

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