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57 トド 北太平洋沿岸・オホーツク海・ベーリング海

Steller Sea Lion, Eumetopias jubatus

                               
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最近の動き

本種の採捕上限頭数は、2007年より北海道に冬期来遊するトドの推定個体数に生物学的間引き可能量(Potential Biological Removal;PBR)の考え方を適用し決定されてきたが、2014年からは同年8月に策定された「トド管理基本方針」(以下、新基本方針)に基づき管理されている。新基本方針に基づき、2014〜2018年度の日本海来遊群のクオータ(混獲死亡を除く年間の採捕数)は501頭とされた。新基本方針の対象ではない根室(知床)来遊群のクオータについては、北海道が定めた直近の根室地区の採捕数を踏まえ15頭/年度とされた。2015年度は591頭の採捕枠に対し520頭(日本海来遊群505頭、根室(知床)来遊群15頭)が採捕された。

2016年4〜6月には北海道宗谷岬沖の弁天島において1,000〜2,000頭以上の上陸が継続して観察された(後藤ら 2016)。2015年までは最大360頭程度の上陸場であり、この多数長期滞在が単年の特異現象であるか注視する必要がある。


利用・用途

我が国では、戦前に択捉島等で商業的に捕獲され、皮、食道及び鰭は皮革、肉及び肝臓は食用及び餌料、脂肪は油、胆嚢は医薬品、精巣は強精剤等として利用されていた。現在も、肉を生肉、缶詰原料及び土産物等として利用しているが、その総消費量等は不明である。2014年8月に策定された新基本方針では、漁業被害軽減のために採捕された個体について、水産資源として食用等への利活用の促進を図ることが、トドの管理を円滑に行う観点からの配慮事項として示された。

米国では、先住民が自家消費として捕獲しており、皮や肉を衣服や食用に利用している。


表1

表1. 過去(1920〜1970年)と1981〜1985年の間に調査・報告されたトド上陸場と上陸数(山中ほか 1986)


図1

図1. トド採捕頭数の推移(1958〜2015年)(北海道庁、青森県)
揚収頭数は回収し陸上処理した頭数、海没頭数は死亡を確認したが回収できなかった頭数、傷害頭数(1993年度まで)は被弾したが死亡を確認できなかった頭数、損傷死亡頭数(2015年度から)は損傷を負わせ死亡させたとみなされる頭数を意味する。*トド年度(10〜6月)による集計


図2

図2. 体長と年齢の関係(磯野 1999)


図3

図3. トドの分布(Loughlin 1997に基づく)


図4

図4. アジア地域の繁殖場と上陸場の分布(Burkanov and Loughlin 2005に基づく)


図5

図5. 北海道沿岸のトドの食性(後藤 2011に基づく)


図6

図6. チュレニー島の個体数変化(Burkanov and Loughlin 2005、Burkanov et al. 2008、Burkanov et al. 2012に基づく)


図7

図7. 過去(1920〜1970年)と1981〜1985年の間に調査・報告されたトド上陸場の分布(山中ほか 1986)(番号は表1に対応)


図8

図8. 航空機目視調査の調査定線とトド発見位置(2012年)
(●;トド一次発見、○;トド二次発見、青線;海況2以下での探索、赤点線;海況3以上での探索)


図9

図9. 1980年代の回遊模式図(山中ほか 1986)


図10

図10. 近年の来遊状況と回遊模式図(星野 2004)


図11

図11. 漁業被害額の推移(1974〜2015年)(北海道庁)
*1:1984年以前は間接被害額の集計なし
*2:1997年以降はトド年度(10〜6月)による集計


図12

図12.海獣による漁業被害額の推移(2003〜2015年度)(青森県庁)
*トド年度(11〜5月)による集計
*トドまたはオットセイによる被害(海獣の種類を推定できない事後確認が多くあるため、区別しないで算出)


漁業の概要

【国内の状況】

本種は、1910〜1940年代に択捉島や千島列島において、オットセイやラッコの代替獣として捕獲されていた。年間捕獲数は最大4,000〜5,000頭に達し、皮、脂肪、肉等が利用されていた(宮武 1943)。その後の利用状況は明らかではないが、1959年より深刻な漁業被害を背景に有害動物としての採捕が始まった。従来、トドの採捕には特に制限が設けられていなかったが、国際的な野生生物保護の気運の高まりを背景に、水産庁は「野生水産動植物の保護に関する基本方針」(平成5年4月1日付農林水産省令第293号)に基づき、米国やロシアで個体数が激減している本種を希少種に指定した。これを受け、1994年度より漁業法第67条第1項に基づく北海道連合海区漁業調整委員会の指示により、採捕数の最高限度が年間116頭に制限された。2006年までこの最高限度が適用されてきたが、2007年8月に管理措置が見直され、北海道に冬期来遊するトドの推定個体数にPBRの考え方(Wade 1998)を適用し、人為的死亡頭数(混獲など全ての人為的要因による死亡を含む)を227頭とした。2010年8月に水産庁はPBRを過去5年間の調査に基づく資源量の推定値をもとに309頭(採捕数の上限は漁獲死亡を除き206頭)とし、さらに管理方策にブロック・クオータ制を導入し5年ごとのブロック内で採捕枠を管理することとした。2014年には新基本方針が出され、従来のブロック(2010〜2014年度)の期間を1年前倒しして新たなブロック(2014〜2018年度)が開始された。新基本方針に基づく本ブロックにおける日本海来遊群のクオータは501頭とされた。また、根室(知床)来遊群の採捕数の上限は、北海道が定めた直近の根室地区の採捕数を踏まえ15頭とされた。新基本方針に基づく2015年度(2015年9月〜2016年8月)の採捕数の上限は591頭(日本海来遊群576頭、根室(知床)来遊群15頭)のところ、採捕実績は520頭(日本海来遊群505頭、根室(知床)来遊群15頭)であった。2016年度は日本海来遊群に対し2015年度未消化分の71頭を加え、北海道連合海区漁業調整委員会で587頭(2016年9月1日〜2017年6月30日を対象、根室(知床)来遊群の採捕数15頭を含む)、青森県東部海区漁業調整委員会及び青森県西部海区漁業調整委員会で合わせて8頭(2016年12月1日〜2017年5月31日を対象)と定められた(なお、日本海来遊群は、北海道、青森県の両道県で572頭以内になるよう採捕される)。混獲死亡を除く採捕状況を図1に示す。同時期の混獲については北海道で46頭の報告が得られた。採捕されたトドの一部は食用等として利用されている。


【他国の状況】

米国では、1972年の海生哺乳類保護法制定以来、商業的な捕獲は行われていないが、生存捕獲は主にアリューシャン列島やプリビロフ諸島で先住民によって行われている。Wolfe et al.(2006)によれば、資料のある1992年以降の年間捕獲数(海没を含む)は、1992年の推定549頭(95%信頼区間:452〜712頭)を最大に減少傾向にある。2015年の資源評価(米国)では、最近5年間(2004〜2013年の利用可能なデータによる)の年平均捕獲数は米国全体で210.3頭(西部系群;199+東部系群;11.3)であった(Muto et al. 2016)。カナダでは1912〜1968年まで駆除及び商業捕獲の対象であり、この間に55,000頭が捕殺された(DFO 2008)。現在は少数の生存捕獲が行われているが、その実態は不明である。また、米国・カナダでの漁業活動に伴う混獲の最近年の推定値は年間83.8頭(西部系群;32.2+東部系群;51.6)で、上記以外の人間活動に伴う死亡(密猟、科学活動に伴うものなどを含む)を含めた合計死亡数は325.7頭(西部系群;233.4+東部系群;92.3)であった(Muto et al. 2016)。なお、ロシアの状況は不明である。


生物学的特徴

本種は鰭脚目アシカ科最大の種である。雄は体長325 cm、体重1,100 kg、雌は体長240〜290 cm、体重350 kgに達し、顕著な性的二型を示す。体の伸長は雌で5歳頃に停滞するのに対し、雄では10歳頃まで成長を続ける(磯野 1999、図2)。雌雄とも3〜7歳で性成熟に達し、雌は性成熟に達すると繁殖を開始するが、多くの雄はテリトリーを形成できる9〜11歳まで繁殖を開始することはできない。寿命は雌で30歳程度、雄で18歳程度である(Calkins and Pitcher 1982)。雄は5月初旬から7月中旬までテリトリーを維持し、平均10頭前後の雌を囲い込んでハレムを形成する。出産は5月下旬から7月初旬にかけて行われ(ピークは6月中旬)、雌は出産後11〜14日で交尾を行う。3〜4か月の着床遅延があることが知られ、出産率は55〜63%と推定されている(Pitcher and Calkins 1981、Calkins and Goodwin 1988)。新生子は一般に1歳で離乳する。夏は繁殖場に集中し、秋から冬は拡散する。

本種は中央カリフォルニアから日本北部までの北太平洋沿岸域に分布する(図3)。mtDNAの分析結果から、アラスカのサックリング岬(西経144度)を境界に大きく2つの系群、すなわち東部及び西部系群に分けられる(Bickham et al. 1996、Loughlin 1997)。西部系群はさらに、コマンダー諸島西側を境に「中央系群」と「アジア系群」に細分されるとする報告もあるが(Baker et al. 2005)、核DNAの分析では支持されていない(Hoffman et al. 2006)。そのため現状では繁殖場の地理的関係によって2つの集団(group;中央集団とアジア集団)という表現にとどめておくのが妥当であろう。Phillips et al.(2009)は形態学及び遺伝学的データに基づき系群を亜種とする提案をし、それに基づき海棲哺乳類学会(The Society for Marine Mammalogy)はこれまで1種2系群としていた本種を2亜種(Western Steller sea lion; E. j. jubatus、Loughlin's northern sea lion; E. j. monteriensis)とした(Committee on Taxonomy 2012)。ここでは便宜的に系群名称を使用する。アジア集団の分布域における繁殖場と上陸場の位置を図4に示した(Burkanov and Loughlin 2005)。我が国にはアジア集団の一部が来遊する。日本沿岸に繁殖場はなく、11〜5月に北海道日本海側と根室海峡を中心に来遊が見られる。これらの個体は、千島列島とオホーツク海沿岸の繁殖場から来遊すると推察される。ロシアでは1989〜2016年までに10か所の繁殖場で新生子への標識付けが行われており、北海道周辺では2003〜2006年に合計42頭(重複を含めず)の標識個体が確認されている(Isono et al. 2010)。その起源は中部千島列島のブラッドチルポエフ島(35.7%、図4-A)、スレドネバ岩礁(11.9%、図4-B)やオホーツク海北部のイオニー島(19.0%、図4-C)、ヤムスキー諸島(16.7%、図4-D)で多く、他の千島列島の全ての繁殖場で標識された個体も少数ながら観察された(Isono et al. 2010)。2009年以降チュレニー島(サハリン、図4-E)でも標識付けが行われており、チュレニー島生まれの個体も北海道周辺で観察されている。標識個体の再確認調査を通じて系群構造と北海道来遊個体の起源のさらなる解明が期待される。

本種は、日本沿岸で繁殖活動は行わないものの、その滞留中、繁殖に備えてエネルギーを蓄積するための索餌海域として重要と考えられる。北海道日本海側にはいくつかの上陸場が存在し、大規模なものとして、雄冬(おふゆ)岬(図4-F)と神威(かむい)岬(図4-G)が知られていた。近年、神威岬への上陸数はほとんどなく、新たに磯谷(図4-H)や弁天島(図4-I)などで比較的まとまった数の上陸が確認されるようになった。一方、根室海峡に上陸場はなく、羅臼沿岸で12月中旬から1月下旬を中心に遊泳個体が観察される(石名坂ほか 2009)。また近年、下北半島周辺への来遊も確認されており、2004年度には最大同時確認が6頭であった。

本種の北海道沿岸における食性は、胃内容物の解析から底生魚類や頭足類であることが明らかとなっている。1970年代には利尻・礼文島周辺及び内浦湾での食性調査が行われ(加藤 1976、伊藤ほか 1977)、同海域の2〜3月の餌生物としてホッケとホテイウオが卓越していた。1990年代に北海道各地で行われた食性調査ではスケトウダラ、マダラ、タコ類等が卓越していた(後藤 1999)。2000年代に行われた調査では、ホッケ及びタコ類(主にミズダコ)が卓越しており、それ以外に積丹半島ではマダラ、石狩湾ではニシン、利尻・礼文島ではマダラ及びイカナゴ属魚類が卓越していた(後藤 2011)(図5)。主要餌生物は年代、季節及び地域により大きく異なり、本種はその場で得やすいものを捕食する機会的捕食者(opportunistic feeder)である。また、羅臼沿岸域におけるトド1頭(平均体重325 kgの場合)あたりの1日の摂餌量は17.9〜24.6 kgと推定されている(後藤 1999)。

一方、本種の捕食者としてシャチやオンデンサメが報告されている(Matkin et al. 2002、Horning et al. 2014)。


資源状態

【資源の動向】

本種は、繁殖場及び上陸場での直接観察に基づき、1950年代後半から1960年代前半には、世界に24万〜30万頭が生息していたとされる(Kenyon and Rice 1961、Loughlin et al. 1984)が、1970年代より個体数は減少し、1989年には116,000頭と推定された(Loughlin et al. 1992)。減少は主に西部系群で起こり、過去20年に75%以上が減少したとされる(Calkins et al. 1999)。一方、東部系群は1970年代以降年率約3%で増加している(Pitcher et al. 2007)。西部系群中央集団についても2000年以降増加傾向に転じたが、サマルガ海峡以西(西経170度、アリューシャン諸島中部及び西部)では依然減少傾向にある(Muto et al. 2016)。西部系群の1970年代以降の減少要因として、気候レジームシフトに関連した環境変化や漁業との競合に起因する餌生物資源の量的・質的変化が有力視されており(Loughlin 1998)、特に若齢獣の生存率の低下が観察されている(Holmes et al. 2007)。また、1990年以降の減少は栄養的ストレス以外の要因による可能性があり、捕食や人間活動、病気、汚染等の影響が指摘されている(DeMaster and Atkinson 2002)。

西部系群アジア集団について過去の資源量は、1960年代に約27,000頭と推定されている(Burkanov and Loughlin 2005)。その後、千島列島を中心に個体数は急減し、1980年代後半には13,000頭となった(Burkanov and Loughlin 2005)が、1989年以降増加傾向(年率1.2%)に転じ、2005年の資源量は約16,000頭と推定され(Burkanov and Loughlin 2005)、2012年には27,000頭と推定(新生子数と生命表に基づく)された(Muto et al. 2016)。

アジア集団の資源量の動向は地域によって一様ではなく、1960〜1980年代の減少は生息数の大半を占める千島列島で主に起こっており、この時期ベーリング海西部やサハリン島の資源量は安定、オホーツク北部では緩やかな増加傾向を示した。また、1980年代以降、サハリン東部のチュレニー島(図4-E)が繁殖場となり、サハリン島周辺の個体数は顕著な増加傾向を示している(図6、Burkanov and Loughlin 2005、Burkanov et al. 2008、Burkanov et al. 2012)。また、近年サハリン島南部のモネロン島(図4-J)でもわずかながら繁殖が確認されている(Burkanov et al. 2012)。千島列島でも2000年代初頭より増加傾向に転じた(Burkanov and Loughlin 2005)。一方、西部系群中央集団との境界に近いカムチャツカ半島東部・ベーリング海西部の個体群は1980年代以降減少トレンドが続いている(Muto et al. 2016)。

国際自然保護連合(IUCN)は2012年に行ったレッドリストの見直し(2012.version2)において、本種のランクをVulnerable(絶滅危惧II類に相当)からNear Threatened(準絶滅危惧に相当)に下げた。その根拠には、全体として3世代を通じて28%の資源量減少が認められるが、Vulnerableの要件(3世代間に30%以上の減少)を満たしていないことを挙げた(The IUCN Red List of Threatened Species, http://www.iucnredlist.org/details/summary/ 8239/0)。ただし、我が国に来遊するアジア集団が属する西部系群は3世代を通じて57%の減少であり、Endangered(絶滅危惧IB類に相当)の要件を満たしているが、アジア集団については先述のとおり個体数は増加している。米国では、Endangered Species Actの下、西部系群を絶滅危惧種とし、東部系群については2013年12月に指定解除された(2013年11月4日Federal Register 78 FR66139参照)。また、ロシアでも絶滅危惧種(カテゴリー2)に指定されている。

国内では、環境省版レッドリストにおいて「絶滅の危険が増大している種」として絶滅危惧II類(VU)にランクされていたが、2012年に行われた見直しで、準絶滅危惧(NT)にランクを下げた(環境省 2012)。その理由として、平成21年度の水産庁調査でおよそ5,800頭が我が国に来遊していると推定されること、起源となるアジア集団は1990年代以降個体数が増加傾向にあることが挙げられている(環境省 2012)。


【来遊の動向】

北海道周辺への来遊動向は年代ごとに大きく変化している。1920〜1970年代には54か所の上陸岩礁が北海道全域に分布しており(山中ほか 1986)、来遊頭数は定かではないが、過去の採捕実績(1960年代は平均870頭/年、図1)から、来遊数は相当にあったと推察される。1980年代になると上陸岩礁への上陸数及び上陸岩礁の数ともに多くの海域で減少した(山中ほか 1986)(図7)。特に、回遊域の末端部で来遊数の著しい減少と消失が起こっていると考えられ、太平洋側では襟裳岬や新冠、内浦湾への来遊が激減し、日本海側では積丹以南への来遊が見られなくなった。根室海峡側では、200頭以上の群れが観察されていた(山中ほか 1986)(図7)。

近年、日本海への来遊頭数は1980年代よりも増加し、奥尻島や下北半島まで南下する個体も少数ある。また、雄冬岬周辺や利尻島・礼文島周辺に特に集中し、これらの地域では長期滞留傾向を示している。1999〜2003年度に北海道日本海沿岸で実施された航空機及び陸上からの目視調査では、138〜390頭が観察されている(桜井 2003)。

2004年度より、我が国の水域に来遊するトドの年間のPBRの算定に必要な科学的根拠を得ることを主な目的として、国際資源調査等推進対策事業の中でトドの資源調査が開始された。その一環として、国立研究開発法人水産総合研究センター北海道区水産研究所では、2004年度より北海道積丹半島から宗谷海峡に至る日本海で資源量推定を目的としたライントランセクト法による広域航空機目視調査を開始した。2008年度には本調査は大日本水産会委託事業「有害生物被害軽減実証事業」に引き継がれ(2009年度より特定非営利活動法人 水産業・漁村活性化推進機構に移管)、対象海域を拡大し実施された(図8)。本調査により、トドが沿岸域から沖合域にかけ広範囲に相当に分布していることが明らかとなり(Hattori et al. 2009)、また、2012年4〜5月の調査では、北部の武蔵堆周辺に多く滞留していることが確認された(図8)。一方、根室海峡側では2007年1〜2月に航空機を用いた調査を行い、沿岸域を中心に少なくとも64頭の観察があった。日本海への来遊量は広域航空機目視調査と北海道庁が集計する「来遊目視状況資料」に基づき、第1期(2005-2009年)5,800頭(CV=14.4%)、第2期(2010-2013年)6,237頭(CV=12.3%)と推定された。


【回遊様式】

北海道沿岸において本種は、性別と年齢により異なる回遊様式を示すとされ、1980年代の模式図(山中ほか 1986)を図9に示した。それによると、サハリンからの集団は主に日本海側を南下し、雄成獣や雌、幼獣はサハリン南部や北海道北部にとどまるが、雄の若齢獣は積丹半島まで到達する。一方、千島列島からの集団は根室海峡から太平洋岸に来遊するが、雌は根室海峡で滞留し、雄成獣は襟裳岬、雄の若齢獣は内浦湾まで到達するとした。また、両者の集団は北海道沿岸で交流していないと考えられていたが、最近年の来遊個体の性比・年齢構成から、従来とは異なる回遊様式が提案されている(星野 2004)(図10)。すなわち、根室海峡には従来どおり千島列島からの雌主体の群れが滞留するが、太平洋側に到達する集団はほとんどない。千島列島とサハリンの集団は北海道日本海側で合流し、北部には雌雄混合群、道央から北桧山には成熟雌及び若齢雄を含む成熟雄主体の群れが滞留する。

日本の来遊起源であるロシアの個体群動態と北海道への来遊動向の変遷との関係は不明であるが、前述したようにチュレニー島では1989年頃より個体数が急増しており、このことは日本海側へのトドの来遊傾向(来遊数の増加及び成熟個体の滞留)と関連している可能性がある。


管理方策

【漁業被害】

北海道沿岸では深刻な漁業被害があり、年によって被害範囲は青森県にまで拡大している。北海道における漁業被害額の推移を図11に示す。被害は主に刺網と底建網で発生している。被害額は漁具被害と漁獲物被害に分けて集計されている。漁具被害額は漁具そのものが破損され、その修理及び新規購入に掛かった金額であり、漁獲物被害額は漁具の破損によって起こる漁獲の損失推定額とされる。漁業被害金額は最近20年間連続して10億円を超えており、その大部分が北海道日本海側で計上されている。なお、青森県では定置網及び底建網にトド等の海獣によると思われる被害が発生しており(図12)、2015年度(2015年11月〜2016年5月)の被害額は234.5万円であった。


【被害対策】

漁業被害を軽減し、漁業と本種の共存を図るべく、強化定置網の普及、強化刺網の開発、猟銃による採捕・追い払い及び生態調査が行われてきた。

小型定置網等に対する被害対策としては、袋網(魚溜まり)にダイニーマ・ベクトラン等の強化繊維を用いることで破網を防止する効果が得られている。刺網については、通常のナイロン製の1枚網の両側にダイニーマなどの強化繊維を用いた保護網を取り付けた強化刺網が開発され、実証化試験が続けられている。過去には、音波や臭気等を用いた忌避手法の開発が試みられたが、本種の高い学習能力のため、継続的な効果を得ることはできなかった。


【管理方針・措置】

本種の採捕は、年間の上限を定めて行われている。国内では2007年よりトドの個体数回復を図るためPBR法に基づく採捕枠管理を行ってきたが、近年の本種個体数の回復及び日本海を中心とした本種による漁業被害の深刻化を受け、2014年度より新基本方針(水産庁2014)に基づき採捕枠管理を行うこととなった。新基本方針では、トドの西部系群(アジア集団)のうち、北海道及び青森県の日本海に来遊する分集団(日本海来遊群)を対象に、順応的管理の考え方のもと本種の絶滅の危険性がない範囲で本種による漁業被害を最小化することを目標とし、管理目標を「日本海来遊群の個体数を10年後(2023年)に現在(2010年)の水準の60%となるまで減少させること」とした。ただし不確実性を考慮し、(1)30年後の来遊群の個体数が現在の水準の20%以下となる確率が5%未満(2)100年以内に来遊個体群が絶滅する確率が10%未満の基準に該当することを条件とし、過去の採捕数、来遊資源量推定値に基づき作成されたトドの個体群動態モデル(北門ら未発表)により双方の基準を満たした採捕数として2014〜2018年度の間の日本海来遊群の採捕数604頭/年度から混獲死亡個体数(103頭)を減じた501頭/年度をクオータとして設定した。なお、5年後の再評価(後述)において、管理目標の水準を下回らないことを管理目標決定の条件として示されている。

新基本方針では本種の管理を的確に行うため、留意事項として@来遊個体数の正確な把握、A採捕数の正確な把握、B漁業被害情報の把握、C効果的な採捕方法の採用、D被害軽減効果の検証方法の検討、E揚収可能な方法による採捕、F関係資源の資源状態の分析、ならびに配慮事項として、ハンター間の技術交流促進、非致死的被害防止対策の推進、採捕個体の利活用の促進、が提示された。

また、新基本方針に基づく管理を開始して5年後に採捕数、来遊個体群の個体数の変化や、繁殖状況、漁業被害などの状況を点検・評価し、本方針に関する所要の見直しを行うこととされている。

根室(知床)来遊群のクオータについては、北海道が定めた直近の根室地区の採捕数を踏まえ、15頭/年度とされた。


トド(北太平洋・オホーツク海・ベーリング海)の資源の現況(要約表)

資源水準
資源動向 増加傾向
世界の捕獲量
(米国のみ)
(最近5年間)
275.8〜330.0頭
最近(2015)年:トン
最近(2015)年:330.0頭
(人為的要因による死亡を全て含む)
我が国の捕獲量
(最近5年間)
195〜520頭
最近(2015)年:520頭
平均:326.6頭(2011〜2015年)
(混獲死亡を除く)
管理目標 10年後(2023年)に来遊個体群の個体数が現在(2010年)の水準の60%になるまで減少させる(日本海来遊群)
資源の現状 検討中
管理措置(日本) ・日本海来遊群;2014〜2018年度の間、年間の採捕数(混獲死亡を含む)を604頭とする
・根室(知床)来遊群;年間の採捕数(混獲死亡を除く)を15頭とする
管理機関・関係機関 北海道連合海区漁業調整委員会
青森県東部海区漁業調整委員会
青森県西部海区漁業調整委員会
最新の資源評価年
次回の資源評価年

執筆者

北西太平洋ユニット
北西漁業資源サブユニット
北海道区水産研究所 資源管理部 高次生産グループ

服部 薫・磯野 岳臣


参考文献

  1. Baker, A.R., Loughlin, T.R., Burkanov, V., Matson, C.W.,Trujillo, T.G., Calkins, D.G., Wickliffe, J.K., and Bickham, J.W. 2005. Variation of mitochondrial control region sequences of Steller sea lions: the three-stock hypothesis. J. Mammal. , 86: 1075-1084.
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