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55 スナメリ 日本周辺

Narrow-ridged Finless Porpoise, Neophocaena asiaeorientalis

                                                       
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スナメリ(鳥羽水族館提供)>

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最近の動き

商業捕獲は行われていない。混獲が報告されている。従来、世界各地に生息するスナメリは1種からなると考えられていたが、主として背面隆起部の形状の違いによりNeophocaena phocaenoidesN. asiaeorientalisの2種に分かれるとの説が提唱された(Jefferson and Wang 2011)。本報告では日本周辺のスナメリをN. asiaeorientalisとして扱う。


利用・用途

試験研究等。


図1

図1. スナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)の主な分布域(Jefferson and Wang 2011に基づく)


図2

図2. 日本におけるスナメリの主分布域(Shirakihara et al. 1992を改変)
仙台湾〜東京湾、伊勢湾・三河湾、瀬戸内海〜響灘、大村湾、有明海・橘湾。


図3

図3. スナメリの成長曲線(長崎崎県・関門海峡周辺の個体より)(Shirakihara et al. 1993を改変)


図4

図4. 航空目視調査に使用される小型飛行機


図5

図5. 飛行機から見たスナメリ(撮影 南川真吾)


漁業の概要

本種は現在、捕獲対象とはなっていない。しかし、戦後の一時期、瀬戸内海地方などで油を採取する目的で捕獲されたことがあった。また、水族館での展示に供するため、まき網による捕獲が行われたこともある(大隅 1998)。

西九州の橘湾では、かつて秋〜冬に小型定置網によって多くの個体が混獲されていた。1963年9月下旬〜10月下旬の1か月間に橘湾だけで50頭以上の混獲が記録されたが(水江ほか 1965)、漁法の変化により現在このような多数の混獲は認められない(Kasuya and Kureha 1979)。しかし、その後も混獲は続いており、1985年から92年にかけての8年間に、有明海・橘湾で67頭、大村湾で9頭、関門海峡周辺で8頭が混獲された(白木原2003c)。他の海域でも混獲は起こっている(石川 1994)。国際水産資源研究所のとりまとめによると、2006〜2013年の8年間に112頭の混獲報告があった(14.0頭/年、岩崎 2007-2011、木白 2012-2014)。

本種は水産資源保護法に基づく捕獲禁止対象種である。2004年11月に伊勢湾において、水族館における学術研究及び教育展示を目的に9頭の特別採捕が行われた。


生物学的特徴

スナメリは、頭が丸く、くちばしや背鰭がない。成体の体色は淡い灰色である。歯鯨亜目ネズミイルカ科に属し、台湾海峡以北の中国沿岸から朝鮮半島を経て日本にかけての沿岸海域に分布している(Jefferson and Wang 2011、図1)。中国には、揚子江に周年分布する淡水性の本種がいるが、我が国には淡水域に定住するものはいない。また、壱岐・対馬・南西諸島での出現情報は極めて乏しいことから、我が国と中国・韓国との間で個体の交流は稀なものと考えられている。南西諸島における初の出現報告が2004年2月に沖縄本島でなされ、遺伝解析の結果、当該個体は中国沿岸域から迷入したものと判定された(Yoshida et al. 2010)。日本において本種は、仙台湾〜東京湾、伊勢湾・三河湾、瀬戸内海〜響灘、大村湾、有明海・橘湾の5海域に主に分布し、その他の海域への出現は稀である(Shirakihara et al. 1992)。日本における主分布域を図2に示す。

各海域のスナメリに対し、様々な地方名が存在する。本種は、仙台湾〜東京湾ではスナメリ、伊勢湾・三河湾ではスザメ・スンコザメ、瀬戸内海〜響灘ではナメクジラ、ナミソ、デゴンドウ、大村湾や有明海・橘湾ではナミノウオ、ナミウオ、ボウズウオなどと呼ばれている(白木原 2003a)。

これら5つの海域間で、外部形態(白木原 1993)、骨格形態(Yoshida et al. 1995)、繁殖期(Shirakihara et al. 1993)、mtDNA塩基配列(Yoshida et al. 2001)に違いが見いだされており、本種は各海域で異なる5つの系群に分かれていると考えられている(Yoshida 2002)。近年の航空目視調査の結果、瀬戸内海で発見が不連続であることが報告されており、海砂の採取による生息域の分断化の可能性が指摘されている(Shirakihara et al. 2007)。

群れ構成頭数は概ね数頭以下で、2頭群れの多くは母親と新生仔からなると考えられる(Kasuya and Kureha 1979)。しかし、時に100頭にのぼる大きな群れを作ることもある(Yoshida et al. 1997)。

出産期は海域で異なる。伊勢湾・三河湾や瀬戸内海では4月をピークとした春から夏にかけて出産するのに対し、有明海・橘湾では秋から春にかけて出産する(白木原 2003c)。平均出生体長は80 cm程度である(白木原 2003c)。妊娠期間は11か月程度であり(Kasuya et al. 1986)、その後6〜15か月ほどの授乳期間が続く(Kasuya and Kureha 1979)。ただし、生後6〜12か月頃から摂餌を始める(Jefferson et al. 2002)。繁殖周期は通常2年(2年に1回仔を産む)である(Kasuya 1999)。

性成熟は、太平洋岸及び瀬戸内海に生息するスナメリについて、雄が3〜9歳(体長145〜155 cm)、雌が4歳以下(体長140 cm以下)で到達する(Kasuya 1999)。また、有明海・橘湾の本種については雄で4〜6歳(体長135〜140 cm)、 雌で5〜9歳(体長135〜145 cm)である(Shirakiharaet al. 1993)。

体の伸長は14〜23歳の間に止まる(Yoshida et al. 1994)。今までに観察された最大体長は、太平洋岸及び瀬戸内海に生息するスナメリの雄で207 cm(中村ほか 2003)、雌で180 cmで(Kasuya 1999)、有明海・橘湾で観察された値(雄175 cm、雌165 cm)(Shirakihara et al. 1993)よりも大きい(図3)。

有明海・橘湾では、雌雄ともに23歳の個体が得られている(Shirakihara et al. 1993)。伊勢湾で捕獲された体長161 cmの雄個体がその後28年10か月の間水族館で飼育された例のあることから(古田 2003)、環境によっては30年以上生きる個体もあるものと考えられる。

スナメリの食性研究は、主として大村湾及び有明海・橘湾で行われている(Shirakihara et al. 2008)。本種は、大村湾ではハゼ類やトウゴロウイワシなど魚類を主に捕食する一方、有明海・橘湾では、イワシ類、テンジクダイ科、ニベ科、コノシロなど魚類とあわせタコ類、コウイカ科、ジンドウイカ科など頭足類も多く摂餌していた。また両海域では、エビ類やシャコなど甲殻類も利用されていた。伊勢湾・三河湾では、本種はイカナゴ、イカ類、甲殻類を摂餌していたとの報告がある(片岡ほか 1977)。飼育下における本種の1日平均摂餌量は、体重60 kg程度の雌雄各1個体に対する観察例から体重の5.2〜5.8%と見積もられている(片岡ほか 1967)。

本種を捕食する生物には、さめ類があげられる。沖縄近海で捕獲されたホホジロザメの胃内から2頭のスナメリが発見された(Kasuya 1999)。また漁業者によると、シャチが出現すると付近からスナメリが姿を消すとのことから、シャチも捕食者となっていると考えられる。


資源状態

国際的に合意された資源状態に関する情報はない。我が国では、主分布域を対象に、資源量推定を目的とした目視調査が行われてきた。瀬戸内海においては、1976〜1978年にかけて主としてフェリー上から目視調査が実施され、その結果4,900頭との推定値が得られた(Kasuya and Kureha 1979)。また、伊勢湾・三河湾では、1991年〜1995年にかけて小型調査船による目視調査がライントランセクト法に基づき実施され、1,046頭(CV=28.0%)との推定値を得ている(宮下ほか 2003)。さらに、大村湾と有明海・橘湾では1993〜1994年にかけて小型飛行機を用いた航空目視調査が実施され、資源量は各々187頭(CV=20.1%)と3,093頭(15.7%)と推定された(Yoshida et al. 1997、1998)。その後、他の生息域においても航空目視調査が行われ(白木原 2003b)、仙台湾から房総半島東岸にかけての海域で3,387頭(32.7%、調査年は2000年)(Amano et al. 2003)、瀬戸内海において7,572頭(17.3%、2000年)(Shirakihara et al. 2007)との推定値が得られている。

国際水産資源研究所でも、2002年秋から全国の主分布域において航空目視調査を開始し(図4、5)、仙台湾から房総半島東岸にかけての海域で2,251頭(39.1%、2005年)(小川ほか 2013)、伊勢湾・三河湾で4,620頭(29.0%、2014年)(小川ほか 2015)、瀬戸内海で10,441頭(15.1%、2015年)(吉田ほか 2016)、大村湾と有明海・橘湾でそれぞれ168頭(39.3%、2012年)と3,000頭(24.5%、2012年)(吉田ほか 2013)と推定しており、我が国周辺には少なくとも20,000頭程度は生息しているものと見込まれる。

近年、資源量推定を目的とした調査が盛んに行われるようになった結果、資源の動向を見るための情報も集まりつつある。瀬戸内海では1999〜2000年に、1970年代に実施されたと同様の方法で船舶目視調査が行われ、その結果、生息密度の減少と生息域の縮小が認められた(Kasuya et al. 2002)。しかしその後、10年の間隔を置いて、同様の海域と方法で実施された2回の航空目視調査の結果を比較したところ、これらの傾向は止まった可能性がある(吉田ほか 2016)。大村湾、有明海・橘湾では、ほぼ20年の間隔を置いて再調査された結果から、生息密度の違いは見いだせていない(吉田ほか 2013)。伊勢湾・三河湾では2014年の夏季に11年ぶりに航空目視調査が行われ、前回を上回る資源量推定値が得られた(小川ほか 2015)。一方、仙台湾から房総半島東岸にかけての海域で行われた航空目視調査では、東日本大震災前には生息密度の減少は認められなかったものの(小川ほか 2013)、震災後の調査では、震災前に比べ資源量の減少が報告されている(白木原ほか 2013)。他の海域も含め、現在の資源水準は中位、横ばいとした。大村湾については、資源量推定値が数百頭程度と小さく、生息環境の変化の影響を受けやすいと考えられることから低位とした。


管理方策

現在、スナメリを対象とする漁業はないが、定置網、刺し網による混獲が発生している。混獲個体の資源量推定値に対する割合は、大村湾及び有明海・橘湾において年1%程度との見積もりがある(白木原 2003c)。この値は、鯨類に対し経験的に考えられている再生産率1〜4%よりも低い。しかし、計算に用いた混獲個体数と資源量推定値はともに過小に偏っているものと考えられる。資源量は調査線上の全ての個体を見落とすことなく発見するとの仮定のもと推定されており、また全ての混獲個体が計上されていないためである。より偏りのない値の入手に努めるとともに、混獲を減らす努力も必要である。

本種の生息域は、水深50 m以浅域の発達した遠浅で砂泥質の卓越する水域という地形的特徴を持っている(白木原2003a)。これらの海域は人間活動が盛んな場所であり、埋め立てや海砂の採取などが古くから行われてきた。スナメリの分布を制限する要因は明らかでないが、これら地形的特徴が関わっている可能性は高い。海砂の採取などが過度に行われれば、生息域の縮小や分断を招く恐れもある。瀬戸内海では海砂の採取による生息域の分断化の可能性が指摘されている(Shirakihara et al. 2007)。また、仙台湾から房総半島東岸にかけての海域では、生息域の環境変化に加え、東日本大震災の影響も懸念される。目視調査を通じ、出現状況の変化についても情報を収集する必要があろう。

沿岸域では環境変動が外洋よりも激しいものと予想される。また、陸に近接することから、陸上由来の病気に接する機会もより高いものと考えられる。日本周辺の本種に対し免疫機能に関わるMHC遺伝子の多型の解析(Hayashi et al. 2006)によると、他の鯨種に比して多様性が特に低下しているとの結果は認められなかったものの、今後も遺伝的多様性のモニタリングに努める必要がある。

本種はごく沿岸海域に生息しているため古くから人々になじみの深い鯨類であり、水族館での飼育の歴史も長い。かつて国内の18園館で飼育されていたが 、飼育数は年々減少する傾向にあった(古田 2003)。しかし、2004年11月に水産資源保護法に基づく採捕許可を受けて、学術研究及び教育展示を目的に9頭の特別採捕が行われた。その後、研究の進展に伴い、飼育下出産は計6頭となった。スナメリという生き物を間近で観察し、理解を深めることができれば、本種の資源管理に対する社会的関心も高まるであろう。飼育下における学術研究及び教育展示も意義あるものと思われる。


スナメリ(日本周辺)の資源の現況(要約表)

資源水準 中位(大村湾系群は低位)
資源動向 横ばい
(東日本大震災の影響が懸念される仙台湾から房総半島東岸にかけての海域及び資源量推定値の小さい大村湾では要注意)
世界の捕獲量
(最近5年間)
詳細は不明
各地で混獲あり
我が国の捕獲量
(最近5年間)
商業捕獲はないが混獲あり
(15.0頭/年:2010〜2014年の国際水産資源研究所とりまとめによる)
管理目標 現在の資源水準を維持(仙台湾から房総半島東岸にかけての海域ではもとの水準への回復)
資源の現状 仙台湾〜東京湾系群のうち仙台湾〜房総半島東岸:2,251頭(CV=39.1%、2005年)
伊勢湾・三河湾系群:4,620頭(29.0%、2014年)
瀬戸内海〜響灘系群のうち瀬戸内海:10,441頭(CV=15.1%、2015年)
大村湾系群:168頭(39.3%、2012年)
有明海・橘湾系群:3,000頭(24.5%、2012年)
管理措置 水産資源保護法の対象種
商業捕獲は禁止
管理機関・関係機関 農林水産省
最新の資源評価年
次回の資源評価年

執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット 国際水産資源研究所・外洋資源部

吉田 英可


参考文献

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