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53 シロナガスクジラ 南極海・南半球

Blue Whale, Balaenoptera musculus

                                                           
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図1. 南極海での通常型シロナガスクジラ(Photo by F. Kasamatsu)

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図2. オーストラリア南岸沖を泳ぐピグミーシロナガスクジラ(Photo by H. Kato)

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最近の動き

現在、国際捕鯨委員会科学委員会(IWC/SC)では、ピグミーシロナガスクジラの資源評価に向けた準備作業が進められている。通常型シロナガスクジラについては大きな動きはない。


利用・用途

我が国では刺身など食用に利用されてきた。他国においては鯨油として利用されていた。


図3

図3. 南極海母船式捕鯨によるシロナガスクジラの捕獲頭数の変遷(加藤 1991)


図4

図4. シロナガスクジラ(濃青色)とピグミーシロナガスクジラ(ピンク色)の分布(Kato et al. 1995を改変)


図5

図5. 通常型シロナガスクジラの資源低下(オレンジ色)とクロミンククジラの性成熟年齢の経年的低下(青色)(加藤 1998)


図6

図6. シロナガスクジラとピグミーシロナガスクジラの鼻孔形態の亜種間比較(Kato et al. 2002)


漁業の概要

1904年にノルウェーがフォークランドに捕鯨基地を設立し、南極海で近代捕鯨を開始したことによって本種の捕獲が開始した。本種は捕獲開始当時から主要対象鯨種であり、IWCが戦後しばらく設定していた捕獲枠BWU単位も本種の産油量を基準に定められていた(シロナガスクジラ1頭を1 BWUとし、ナガスクジラでは2頭、イワシクジラでは6頭、ザトウクジラでは2.5頭で1 BWUと換算する)。本種は1904〜1965年まで南半球の各国基地に加え、捕鯨工船の考案によって誕生した母船式捕鯨によって多く捕獲された。

南極海における捕鯨は1920年代に最初の隆盛期を迎え、この時期に南極海でのシロナガスクジラの捕獲頭数は年間2万頭を超えるようになり、1930/31漁期には史上最高5か国41船団が出漁し、29,410頭を捕獲した(図3)(加藤 1991)。しかし、この漁期以降、第二次大戦中の休漁期はあるものの、シロナガスクジラの資源は大幅に減少した。これらの捕鯨業の管理は、第二次大戦以降、IWCによって行われている。1959年からは日本やソ連船団などが亜種のピグミーシロナガスクジラの捕獲を始めたものの、資源状況の悪化は著しく、1964/65漁期からは南極海全域において捕獲が禁止されたが、現在においても捕獲が再開できるほどの資源量には回復していない。IWCが1982年に採択した商業捕鯨のモラトリアムによって、それ以降の商業捕獲も停止している。

なお、本種は絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)では附属書I に掲載されており、また我が国の水産資源保護法でも保護対象種に指定されている。


生物学的特徴

シロナガスクジラは体長30 m、体重180トンを超えることもある地球史上最大の生物であり、うち南半球の系群は最も体長が大きい。北半球産をB. m. musclus、南半球産通常型を亜種のB. m. intermediaに分類することが普通で、南半球にはこの他、矮小型のピグミーシロナガスクジラ(B. m. brevicauda)が分布する。以下本項では、特に断らない限り、便宜上、通常型シロナガスクジラを単にシロナガスクジラ、矮小型をピグミーシロナガスクジラと呼び、主としてシロナガスクジラについて述べる。

シロナガスクジラは冬季に繁殖のため低緯度海域(少なくとも南緯30度以北)を回遊し、夏季には南極海へ索餌回遊するが、繁殖場は特定できていない。南極海への索餌回遊では、クロミンククジラなどと共に最も高緯度にまで回遊し、氷縁付近やその中にまで分布することが知られている(図4)。また、ピグミーシロナガスクジラの夏季の分布域は中緯度帯にあり、南緯52度付近で通常型と棲み分けている。

本種は冬季に低緯度で交尾し、約10か月半〜11か月の妊娠期間を経て、体長(上顎先端から尾鰭切れ込みまでの直線距離)約7 mの新生児を1頭出産する。6〜7か月間授乳が続き、離乳時には体長13 m程に成長している。成熟体長は雄が22.6 m、雌が24 mである。性成熟年齢は資源水準によって変動すると考えられ、初期資源状態で10歳前後、1960年代で5〜6歳程度と思われる。体長の伸長は25歳まで続き、その時の体長は平均で雄が25 m、雌が26 m程度である。矮小型ピグミーシロナガスクジラは通常型シロナガスクジラに比べ相対的に尾部が小さいなどの特徴があり、平均最大体長で雌雄共に4 mほど小さく、最も大きい個体でも24 mを超えない。繁殖周期は資源水準によって異なり、初期資源状態で4年、資源水準が低下した1960年代には2年程度に短縮していたと考えられる。自然死亡係数は0.046〜0.049、最長寿命は110〜120歳程度と推定される。

なお、商業捕鯨年代の標識再捕調査に基づき、南半球のシロナガスクジラは6系群に分かれるとされており(Brown 1954, 1962)、この海区区分が現在のIWC管理海区(I区120W-60W、II区60W-0、III区0-70E、IV区70E-130E、V区130E-170W、VI区170W-120W)となっている。音響データや日本の南極海鯨類捕獲調査(JARPA)で得られた目視データなどの最新情報を取り入れて総合的に分析したところ、チリ沖のシロナガスクジラについては、分布、鳴音、体長分布が特有で、通常型シロナガスクジラともピグミーシロナガスクジラとも別に資源管理すべきであり、遺伝子解析が更に必要なことがIWCで合意された(IWC 2008)。


資源状態

南半球産シロナガスクジラは最も資源が減少した系群の一つである。IWCが実施した南大洋鯨類生態系総合調査(SOWER)における目視調査によるデータが再解析され資源量が改訂された。初期資源量256,000頭(95%信頼区間; 235,000〜307,000)の0.15%(95%信頼区間; 0.10〜0.28)である395頭(95%信頼区間; 235〜804)まで減少した通常型シロナガスクジラは、年率6.4%(95%信頼区間; 2.4〜8.45%)(Branch 2008)で資源が増加しており、1997年時点の資源量は2,280頭(95%信頼区間; 1,160〜4,500)であることが、2008年にIWCで合意された(IWC 2008)。もっとも、このような改訂が行われたとしても、現在資源レベルは初期資源レベルのわずか0.9%(95%信頼区間; 0.7〜1.0%)であり、本種の資源水準が非常に低いことに変わりはない。一方、シロナガスクジラと生態的に競合するクロミンククジラ(B. bonarensis)は、シロナガスクジラの減少に伴って相対的に栄養環境が向上して成長が早まり、性成熟年齢が若齢化した結果、資源量が増大したと考えられている(図5)。また、近年では、大型ひげ鯨類の資源回復に伴いクロミンククジラ資源に影響が現れつつあるという意見もあり、日本は鯨種間の競合関係を更に明らかにすることを目的の一つとした第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)を2005/06漁期から2013/14漁期にかけて実施した。2015/16漁期より開始された新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)においても、生態系モデルの構築を通じた南極海洋生態系の構造及び動態の研究が1つの目的となっており、本種を含む鯨種間関係に関する検討が進められる。


管理方策

1996年にIWC年次会合において本種の資源回復をはかることが合意され、1996/97〜2009/10漁期にかけて国際共同調査プログラムであるSOWERにおいて、シロナガスクジラの生態調査を実施した。この調査は、@シロナガスクジラの生息頭数の分析、A繁殖場の探索、B南極海における種間競合の解明を目的とし、生息頭数の改善に必要な通常型とピグミーシロナガスクジラの洋上識別調査を優先課題として、外部形態、行動、鳴音などの観点から多角的に行われ、相対的な体型と外鼻孔の形態に亜種間での差が明瞭に認められることを明らかにし(図6)、これらの形質を基に種の洋上識別がある程度可能になった。

現在は資源状態にかかわらず全てのひげ鯨類、マッコウクジラ、キタトックリクジラ及びミナミトックリクジラの商業捕獲は停止状態にあり、IWCは商業捕鯨のモラトリアムを行う一方で、対象資源の包括的資源評価を実施している。南半球産の本種については、2006年から同作業が開始され、2008年にサンティアゴ(チリ)で開催されたIWC年次会合において一旦終了した(IWC 2008)。現在、IWC/SCでは、ピグミーシロナガスクジラの資源評価に向け、系群構造の検討といった準備作業が進められている。通常型シロナガスクジラについては大きな動きはないが、近年の調査から得られた新たな知見の検討が行われている。今後の本種の資源評価に向け、日本が南極海で実施している調査で副次的に得られるシロナガスクジラの分布、個体識別データの活用による貢献が期待される。


シロナガスクジラ(南極海・南半球)の資源の現況(要約表)

資源水準 極めて低位
資源動向 年率6.4%で増加
世界の捕獲量
(最近5年間)
なし(商業捕鯨モラトリアムが継続中)
我が国の捕獲量
(最近5年間)
0頭
管理目標 商業捕鯨モラトリアムが継続中であり、未設定
資源の現状 1997年時点で2,280頭であったことがIWCで合意
管理措置 商業捕鯨モラトリアムが継続中
管理機関・関係機関 IWC
最新の資源評価年 2008年
次回の資源評価年 未定

執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

佐々木裕子・村瀬 弘人

参考文献

  1. Branch, T.A. 2008. Current status of Antarctic blue whales based on Bayesian modeling. Document SC/60/SH7 submitted to the Scientific Committee of IWC. 10 pp.
  2. Brown, S. 1954. Dispersal in blue and fin whales. Discovery Rep., 26: 355-384.
  3. Brown, S. 1962. The movement of fin and blue whales within the Antarctic zone. Discovery Rep., 33: 1-54.
  4. International Whaling Commission. 2009. Report of the Scientific Committee. Report of the 60th scientific committee of IWC. Santiago. J. Cetacean Res. Manage 11(Supplement ) 1-74p.
  5. Kato, H., Y. Honno, H. Yoshida, E. Kojima, A. Nomura and H. Okamura. 2002. Further developments on morphological and behavioral key for sub-species discrimination of southern blue whales, analyses from data through 1995/96 to 2001/02 SOWER cruises. Document SC/54/IA8 submitted to the Scientific Committee of IWC. 16 pp.
  6. Kato, H., T. Miyashita and H. Shimada. 1995. Segregation of the two sub-species of the blue whale in the southern hemisphere. Rep. Int. Whal. Commn., 45: 273-283.
  7. 加藤秀弘. 1991. 捕鯨小史. In 櫻本和美・加藤秀弘・田中昌一(編), 鯨類資源の研究と管理. 恒星社厚生閣, 東京. 264-268 pp.
  8. 加藤秀弘. 1998. ミンククジラの性成熟年齢若齢化が意味するもの- 南極海大型鯨類の動態と新たな調査計画の展開-. 海洋と生物, 20(3): 197-208.