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49 ツチクジラ 太平洋・日本海・オホーツク海

Baird's Beaked Whale, Berardius bairdii

                                                       
PIC
洋上でジャンプするツチクジラ

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最近の動き

2016年は、年間73頭の捕獲枠(前年からの繰り越し7頭を含む)の下に操業が行われ61頭を捕獲して操業を終了した。


利用・用途

鯨肉は、房総半島周辺ではタレと呼ばれる乾肉として利用され、他の地域では一般の鯨肉と同様、生鮮肉、缶詰加工用肉等として流通している。また、脂皮も汁物などの食用に利用されている。


図1

図1. 和田浦に水揚げされたツチクジラ


図2

図2. ツチクジラの分布図


図3

図3. 日本周辺におけるツチクジラの分布と漁場及び水揚地(捕鯨基地)


図4

図4. 体長と年齢の関係(Kasuya et al. 1997より)


図5

図5. ツチクジラ捕獲頭数の経年変化
(1948〜1993年は粕谷(1995)、1994〜2016年は国際水産資源研究所データより作成)


図6

図6. ツチクジラの平均体長の経年変化(1991〜2016年)(木白、未発表データより)
横軸の90は1990年、116は2016年を意味する。


付表1

付表. ツチクジラの捕獲頭数(1948〜1993年は粕谷(1995)、1994〜2016年は国際水産資源研究所のデータより)


漁業の概要

本種の捕獲は、少なくとも17世紀には始まっており、江戸時代から明治時代初頭にかけて千葉県勝山沖を中心に手投げ銛を用いた捕獲が行われていた(Omura et al. 1955、Ohsumi 1983、金成1983)。その後、捕鯨船による近代的な漁法が本種の捕獲にも導入され、戦後、小型捕鯨業による捕獲が急増し、漁場も千葉県周辺から三陸、北海道、日本海沿岸まで広がった。小型捕鯨業は1947年に農林水産大臣許可漁業となり、1952年には年間300頭を超える捕獲がなされたが、その後、捕獲頭数は徐々に減少し、我が国の自主規制として1983年に年間捕獲枠40頭が設定された(IWC 1984)。本種は、国際捕鯨委員会(IWC)の管轄外であることから、ミンククジラの商業捕獲が停止された1988年以降、小型捕鯨業の主要な対象種の一つとなり、我が国政府の管理の下に、今日まで捕獲が継続している(図1)。

年間捕獲枠は1990年以降、54頭に設定され、北海道網走、宮城県鮎川、千葉県和田浦を根拠地(捕鯨基地)として捕獲されてきた(Kasuya et al. 1997)。主な漁場は、太平洋側沿岸(常磐から房総沖)とオホーツク海(羅臼から網走沖)である。また1999年から、別途、日本海のツチクジラを対象に、年間8頭の捕獲枠が設定され、函館を基地としての捕獲が開始された。これらの捕獲枠は、2005年に最新の系群情報に基づいて見直しが行われ、日本海系群10頭、オホーツク海系群4頭、太平洋系群52頭、計66頭の捕獲枠が新たに設置された。このうち太平洋系群については、その年の捕獲数が捕獲枠に満たなかった場合、10頭を上限に翌年への繰り越しが認められている。これらの操業は大臣許可を受けた小型捕鯨船5隻が従事している。


生物学的特徴

本種は、アカボウクジラ科最大の種であり、歯鯨類ではマッコウクジラについで体が大きい。房総沖の捕鯨によって得られた生物データの解析から、成長停止時の平均体長は、雄で10.1 m(9〜14歳)、雌で10.5 m(13〜15歳)、捕獲物の最高年齢は、雄で84歳、雌で54歳と推定されており、雌より雄の方が小さく(歯鯨類は、雄の方が大きくなる種の方が多い)、雄の方が30年近く長生きする(成熟個体の性比は雄に偏る)という特異な生物学的特性を有することが知られている(Kasuya et al. 1997)。これらの特性から、雄が育児に貢献するという極めて特異な社会構造を持っていることが示唆されている(Kasuya 1995)。洋上では、通常、数頭の群れで観察されることが多く、10〜25頭の群れで遊泳している場合もあり、群れ組成については明らかでない(Kasuya 1986)。

本種は、北太平洋温帯域の固有種である。カリフォルニア湾南端から北アメリカ西岸、アリューシャン列島、カムチャツカ半島、千島列島を経て日本近海にまで分布するが(図2)、特に大陸棚の外縁から大陸斜面にかけてのやや深い海域にみられることが多い(Balcomb 1989)。

日本近海では、夏季に、太平洋側では伊豆半島以東(北緯34度以北)、日本海側では北緯36度以北でみられ、特に房総、常磐沖では水深1,000〜3,000 mの大陸斜面に多くみられる(Kasuya and Miyashita 1997)。これに応じて、本種の漁場も、7〜8月にかけて房総、常磐沖に、8月下旬〜9月上旬には羅臼、網走沖に形成される(図3)。日本海側では5〜6月にかけて北海道沿岸檜山沖で捕獲がなされている。冬季の分布については明らかでない。

本種の系群については、分布(Kasuya and Miyashita 1997)、捕獲物の外部形態解析(Kishiro 2007)、mtDNA解析(吉田、未発表)の違いから、日本近海に3系群(太平洋系群、日本海系群、オホーツク海系群)がいると推定されている。

本種は、約4.5 m前後で出生し、雄は6〜11歳(9.1〜9.8 m)、雌は10〜15歳(9.8〜10.7 m)で性成熟に達する(図4)。交尾期のピークは10〜11月、妊娠期間は約17か月、出産のピークは3〜4月、年間排卵率は0.49と推定されている(Kasuya et al. 1997)。

胃内容物の解析から、餌生物は主として魚類と頭足類であり、特にソコダラ類やチゴタラ類、深海性イカ類などが主要な餌生物であることが知られている(Walker and Mead 1988、Government of Japan 2002、Ohizumi et al. 2003)。また、データロガーにより、本種が房総沖では少なくとも1,700 m以上の水深まで潜水することが明らかとなった(Minamikawa et al. 2007)。本種を捕食する生物についての知見はないが、シャチは天敵になり得る。


資源状態

太平洋側については1991〜1992年、日本海側とオホーツク海については1983〜1989年の目視調査データに基づき、各々以下の資源量が推定されている。太平洋側(北海道〜相模湾):5,000頭(95%信頼区間2,500〜10,000頭)(Miyashita and Kato 1993)、日本海東部:1,500頭(同370〜2,600頭)(Miyashita 1990)、オホーツク海南部:660頭(同310〜1,000頭)(Miyashita 1990)。なお、日本海の推定値には、北朝鮮、ロシア200海里水域が、またオホーツク海の推定値には南樺太東沿岸や千島沿岸などが含まれていない。これらの海域には本種が分布していることが知られており(Kasuya and Miyashita 1997)、上記の値は系群全体の資源量推定値としては過小推定となっている。近年も調査船目視調査を継続して行っているが、このような未確認の調査海域のカバレージの問題(日本海、オホーツク海側ではロシア200海里内の入域許可を得ることが難しい)が存在している。また、見落とし率推定上の問題(長時間潜水に伴う調査線上の見落とし率の取り扱いや、群れの密集に伴う二次発見の増加)が生じ、最新の妥当な資源量推定値を得ることが困難な状況となっていた。これらの問題を解決するため、2002〜2009年にかけて、見落とし率推定のため、データロガー装着による潜水行動の記録を収集した。また、分布、資源動向を把握するため、別途、本種を主対象とした目視調査を2008年に日本海と太平洋側沿岸で、2009年にオホーツク海南部と太平洋側沿岸で実施した。これらのデータを基に、長時間潜水による見落とし率を考慮した資源量推定法の開発を行った(Okamura et al. 2011)。さらに最新の資源状況を把握するため、2014年から太平洋側沿岸で、再び本種を主対象とした目視調査を開始した。今後、これらの調査データの分析を進め、資源量推定値の改訂に役立てる予定である。

本種については、1950〜1970年代初頭にかけて年間100頭を超える捕獲が行われてきたとされる(図5)。当時の捕獲統計には別種の捕獲も混在していた可能性も示唆されており(粕谷 1995)、これらの捕獲が初期資源に与えた影響については明らかでない。

本種はIWCの管轄外であるため、資源状態についての国際合意はないが、近年の年間捕獲頭数は推定資源量の1%前後であり、捕獲物の性比、体長組成の経年変化から見た限り、現在の捕獲レベルが資源状態に悪い影響を与えているという兆候はみられていない(図6)。ただし、本種の推定資源量は、1980〜1990年代初頭にかけて得られたものであり、近年の系群ごとの資源量推定値は得られていない。資源動向を正しく把握するために、目視調査を継続し推定値を更新していくとともに、その動向をモニタリングしていくことが必要不可欠である。


【資源水準】

各系群の資源量推定値は1,000〜5,000頭程度と小さく、分布範囲も限られていることから、資源水準は中位とした。


【資源動向】

漁獲物組成の動向には資源の増加ないし減少を示す兆候がないことから、資源動向は横ばいと考えられる。


管理方策

本種を捕獲する漁業は、農林水産大臣の許可漁業である小型捕鯨業のみであり、海域ごとに年間捕獲枠、操業隻数(5隻)、水揚地(日本海:函館、太平洋:鮎川、和田浦、オホーツク海:網走)を定めている。なお、2011年は、東日本大震災で鮎川の捕鯨基地が被災したため、その代替として、太平洋系群を7〜8月に釧路沖で捕獲し、釧路の鯨体処理場で解体処理することが許可された。その後、同年11〜12月には、再建した鮎川の鯨体処理場を使用して、同地を基地とした操業が再開され、2012年以降は、例年通り鮎川での操業が行われている。本種の資源については、資源状態のモニタリングと操業の監視を行うため、全操業期間を通して各水揚地に調査員を派遣し、全ての捕獲個体を対象に漁獲物調査を行っているが、資源量の現状把握と推定値更新のための目視調査の実施も急務とされる。本種はIWCの管轄外であり、国内管理の下に漁業が継続されており、IWC科学委員会に参加する専門家らのコンセンサスに基づき歯鯨類の一般的な再生産率からみて安全なレベルとされる推定資源量の約1%を目安とした捕獲枠や、PBR(Potential Biological Removal:混獲動物の管理に米国で採用されている資源量、増加率等の不確実性を取り込んだ捕獲枠算出モデル)による試算値などを参考に、水産庁が捕獲枠を設定している。本資源の管理目標としては、現在の資源水準の維持が望まれる。今後も本資源を適切に管理していくために、歯鯨類や種の特性を考慮したより適切な管理方式モデルの開発が望まれる。


ツチクジラ(太平洋・日本海・オホーツク海)の資源の現況(要約表)

資源水準 中位
資源動向 横ばい
世界の捕獲量
(最近5年間)
なし
我が国の捕獲量
(最近5年間)
57〜71頭
最近(2016)年:61頭
平均:64.2頭(2012〜2016年)
管理目標 現在の資源水準の維持
資源の状態 太平洋沿岸(北海道〜相模湾):5,000頭(2,500〜10,000頭、1991〜1992年)
日本海東部:1,500頭(370〜2,600頭、1983〜1989年)(過小推定の可能性大)
オホーツク海南部:660頭(310〜1,000頭、1983〜1989年)(過小推定の可能性大)
管理措置 年間捕獲枠66頭
(日本海10頭、オホーツク海4頭、太平洋52頭)
洋上解体禁止と水揚地の限定
(日本海:函館、太平洋:鮎川、和田浦、オホーツク海:網走)
操業許可隻数(延べ数)
(日本海:1隻、太平洋:4隻、オホーツク海:3隻)
管理機関・関係機関 農林水産省
最新の資源評価年 2012年
次回の資源評価年 未定

執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

前田 ひかり

水産研究・教育機構 本部 研究推進部 研究開発コーディーネーター

木白 俊哉


参考文献

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