--- 総説 ---

47 小型鯨類の漁業と資源調査(総説)


[HOME] [詳細版PDF] [戻る]

ここでは国際捕鯨委員会(IWC)の分類に従い、小型鯨類を、マッコウクジラ及びトックリクジラを除いた歯鯨類と規定する。IWCは1982年に商業捕鯨モラトリアムを採択し、1987年度漁期を最後に大型鯨類を対象とする全ての商業捕鯨を停止した。一方、小型鯨類はIWCの管轄外であることから、我が国では政府の管理の下に漁業が継続され、現在に至っている。これらの漁業に対し、近年、国内外の過激な環境保護・動物愛護団体等との軋轢が高まっているが、我が国の方針である鯨類資源の持続的利用を堅持し、さらにIWCにおける商業捕鯨再開に向けた努力を推進していく上でも、小型鯨類を捕獲する現行漁業と、その対象資源を慎重かつ適切に管理していくことが重要である。そうした観点から、実態としては、小型鯨類は国内外より関心を注がれている国際資源と考えてよい。


図1

図1. 宮城県鮎川港に接岸中の小型捕鯨船


表1

表1. 漁業形態及び根拠地別の小型鯨類捕獲頭数(2005〜2015年)
捕獲頭数は暦年、小型捕鯨・追い込み漁業は属地統計、突棒漁業は俗人統計。いるか漁業の捕獲枠の年度は、イシイルカ・リクゼンイルカは8月から翌年7月まで。和歌山県では2006年から9月から翌年8月まで。他は10月から翌年9月まで。表中の捕獲枠は、2015年度/2016年度。


図2

図2. 沖縄県の突きん棒(石弓)漁船


図3

図3. 和歌山県の追い込み漁業操業風景


図4

図4. 発見した鯨群の種類、頭数を観察台から確認中の観察員(目視調査航海)


図5

図5. 太地における漁獲物調査


表2

表2. 主な小型鯨類の資源量推定値



1. 小型捕鯨業及びいるか漁業の現状

我が国の小型鯨類漁業は、農林水産大臣の許可漁業である小型捕鯨業と知事許可漁業であるいるか漁業に分かれる。後者はさらに漁法によって二分される(後述)。

小型捕鯨業は、6事業体(2008年に一部合併、2014年に1事業体の撤退などがあった)5隻の捕鯨船(図1)で操業が行われている。総トン数50トン未満で口径50 mm以下の捕鯨砲を装備した小型捕鯨船には3〜7名の乗組員が乗り込み、主に距岸約50海里以内で操業している。捕獲個体は許可を受けた鯨体処理場に陸揚げして解体処理する(それまでは鮮度保持以外の処理はしない)。現在許可されている鯨体処理場は、北海道網走、北海道函館、宮城県鮎川(石巻市)、千葉県和田(南房総市)、和歌山県太地の5か所である。2015年の小型捕鯨業の捕獲枠は、ツチクジラ66頭(網走4頭、函館10頭、鮎川・和田52頭)、タッパナガ36頭(鮎川)、マゴンドウ36頭(太地・和田)、オキゴンドウ20頭(太地)である。このうちツチクジラ(太平洋系群)については、前年捕り残し分の繰越しが認められている。捕獲実績は表1に示した。対象種のうちツチクジラについては魚種別解説に詳しく説明されている。小型捕鯨業に従事する捕鯨船は、2002年よりミンククジラを対象とした鯨類捕獲調査に参加し、近年では春と秋に年間約4か月間、5隻中4隻の捕鯨船が沿岸域鯨類捕獲調査に専従している。このため、ゴンドウクジラ類に対する操業努力量は同時期に操業していた1990年代以前に比して低く、捕獲実績も少なくなっている。

いるか漁業は、漁法によって突棒漁業(沖縄県の石弓(パチンコ)漁法は行政上突棒漁業に分類)と追い込み漁業に分類できる。突棒漁業は手投げ銛で突き取る漁法である。現在は、北海道、青森県、岩手県、宮城県、千葉県、和歌山県及び沖縄県が漁業者に許可を与えている。岩手県、北海道、宮城県及び青森県の突棒漁業については魚種別解説のイシイルカの項を参照していただきたい。沖縄県(名護市)の突棒漁業は独特の漁法である。石弓を船首に取り付けて銛を飛ばすもので、別名パチンコとも呼ばれる(図2)。千葉県にはスジイルカを主対象とする突棒漁業があるが、1995年を最後に近年は捕獲実績がない。和歌山県の突棒漁業も小規模な漁業であったが、1991年にハナゴンドウを多く捕獲して拡大した。追い込み漁業は、鯨群を湾内に誘導し、網で仕切ってから水揚げするものである。本漁業は、和歌山県(太地町、図3)及び静岡県(伊東市富戸)が漁業者に許可を与えているが、静岡県では近年、捕獲実績はない。大部分の漁獲物は食用となるが、オキゴンドウの過半数、そしてハンドウイルカ、ハナゴンドウ、マゴンドウ、マダライルカ及びカマイルカの一部は水族館の飼育展示用として生きたまま販売される。本漁業は飼育個体の重要な供給源となっている。

いるか漁業の捕獲枠及び捕獲実績を表1に示す。水産庁は2006年12月に、カマイルカを新たにいるか漁業対象種に追加し、2007年に捕獲枠の配分を行った。2008〜2009年にかけての漁期では、千葉県及び静岡県において活用されていなかったスジイルカの捕獲枠がこの年度に限って和歌山県及び沖縄県に割り当てられた。また、2010年より宮城県によるリクゼンイルカの捕獲には、県間の調整によって隣接する岩手県の枠も利用されている。

上記漁業の動向に混獲、座礁・漂着を加えた小型鯨類の統計は、1999年(暦年)分まではIWCへの提出文書(Japan Progress Report on Cetacean Researches)に含めて報告され、2000年分からは水産庁のウェブサイト(捕鯨の部屋)に公表されている。


2. 鯨類資源調査のニーズ・現状

鯨類資源調査のニーズは、まず対象資源の適切な保存と管理を行うための科学的根拠を構築することにある。このために、対象資源の系群構造を明確にし、資源量を正しく把握し、再生産率を求め、資源管理モデルを開発して、資源の持続的利用を図っていく。しかし、小型鯨類資源調査のニーズはこれらにとどまらない。かつて公海流し網の操業停止に至るほどに深刻化した鯨類の混獲問題への対処、漁業資源を巡る人間と鯨類の競合問題への対処にも鯨類資源研究の明確なニーズがある。また、近年では、水族館での展示生体の適切な利用、ドルフィン・ウォッチング、ドルフィン・スイムなどの管理にも対象種の資源調査が必要と考えられる。さらに、潜在的ニーズとして、海洋における生物多様性の保持と将来への継承のためにも希少種を含めた鯨類資源研究が必要であることは言うまでもない。

鯨類の資源調査では、漁業と独立した目視調査による資源量推定法が確立されている。国際水産資源研究所(国際水研)が主体となり年間延べ50〜100日に及ぶ船舶を用いた目視調査航海を行い、主要鯨類の資源量を分析している。実施体制としては、水産研究・教育機構用船による直轄調査を主体とする。これらの航海の多くは、予め定められたコース及び速度で航走しながら、捕鯨船甲板部経験者が双眼鏡あるいは肉眼によって調査船に装備された観察台(海面からの眼高15〜20 m)から探索を行うものである(図4)。大型鯨類の資源量データ取得を目的とする航海においても、小型鯨類の分布及び資源量についての情報を並行して収集している。調査船では各種の実験等も行っており、系群研究のための皮膚組織のバイオプシー(1993年より)やいるか用ダートタグ装着(1998年より)、ポップアップタグによる行動調査(2002年より)も実施されている。これらは遊泳中の小型鯨類を捕獲することなく、突棒を用いて行うことができる調査手法である。また、目視調査中に撮影された写真を用いた個体識別による個体の消長、移動などの解析を目的に着実にデータが蓄積されている。さらに、対象資源の特性に応じて航空機による目視調査が実施されている(適用例:スナメリ。魚種別解説に詳しい)。

資源調査のもう一つの柱は、漁獲物調査である。小型捕鯨業については水産庁国際課捕鯨班と連携して監督業務を兼ねた調査員を捕鯨基地に派遣し、漁獲物について詳細な生物情報を得ている(性別、体長、年齢(歯牙の計測と採取)、性成熟と繁殖状態(精巣、精巣上体、乳腺、子宮、卵巣、胎児の計測と採取)、脂皮厚の計測、外部形態計測、DNA試料(表皮組織片)の採取、肋骨、脊椎骨の計数など)。また、専門調査員を別途に派遣して胃内容物から食性分析用試料を収集している。また、捕鯨船では操業努力量(探鯨時間、追尾時間等)、発見捕獲位置、時刻などの操業に係る情報が記録されている。

いるか漁業の漁獲物調査については、小型捕鯨業の調査に準じ、各地の状況に応じて調査を実施している。和歌山県の追い込み漁業については、国際水研が小型捕鯨業に準じて詳細な調査を実施している(図5)。追い込み漁業は生体を得られる漁業であるため、国際水研は、衛星標識など各種の標識を装着して放流し、移動範囲を把握する調査も実施している。沖縄県では漁業管理施策の一環として、漁業者から漁獲物の体長・性別や年齢系群研究用の試料を収集し、分析を国際水研に依頼している。


3. これまでの調査結果・推定資源量・資源管理

前回(2007年までに公表)の推定値は、データ取得から10年以上が経過しており、特にマゴンドウとハンドウイルカについて推定値の改訂作業が求められていた。そこで2014年に、分布状況の把握と資源量推定値の更新を目的に、複数船舶を利用した広域一斉目視調査が実施された。現在、得られたデータの詳細解析が行われているが、暫定的推定結果を表2に掲げた。今後、順次、公表を目指す。目視調査に付随した実験からは、データロガーやポップアップタグによるツチクジラ、スジイルカ、カマイルカ、オキゴンドウの潜水時系列データが得られている。g(0)(目視調査線上の発見確率)推定、摂餌生態解明のためにさらにデータを蓄積中である。

漁獲物調査から得られた試料によってツチクジラ、マゴンドウ、ハンドウイルカ、イシイルカ、カマイルカの系群研究が進んでおり、ツチクジラ、イシイルカについては得られた知見が資源管理に適用されている。2007年にはイシイルカの魚種別解説に示されたPotential Biological Removal(PBR)(Wade 1998)の考え方が水産庁によって導入され、以降の資源管理に活用されている。


執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

吉田 英可


参考文献

  1. Anon.1992. Report of the Sub-committee on small cetaceans. Rep. Int. Whal. Commn., 42: 178-228.
  2. 南川真吾・島田裕之・宮下富夫・諸貫秀樹. 2007. 1998-2001年の目視調査データによる鯨類漁業対象6種の資源量推定. 平成19年度に本水産学会秋季大会講演要旨集. p.151.
  3. Miyashita, T. and Kato, H. 1993. Population estimate of Baird's beaked whales off the Pacific coast of Japan using sighting data collected by R/V SHUNYO MARU in 1991 and 1992. IWC/SC/47/SM6. 12 pp.
  4. Miyashita, T. 1990. Population estimate of Baird's beaked whales off Japan. IWC/SC/42/SM28. 12 pp.
  5. 宮下富夫・岩ア俊秀・諸貫秀樹. 2007a. 北西太平洋におけるイシイルカの資源量推定. 平成19年度日本水産学会秋季大会講演要旨集. p.164.
  6. 宮下富夫・岩ア俊秀・諸貫秀樹. 2007b. 1992-96年の目視調査データを用いた日本周辺のカマイルカの資源量推定. 日本哺乳類学会2007年度大会プログラム・講演要旨集. p.129.
  7. Wade, P.R. 1998. Calculating limits to the allowable human-caused mortality of cetaceans and pinnipeds. Marine Mammal Science, 14(1): 1-37.