--- 総説 ---

46 大型鯨類(総説)

                                                           
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背景

我が国にとって、鯨類資源は他の海洋生物資源と同様に漁業の対象であり、捕鯨は他の漁業同様に食料を確保する一つの手段となっている。そのため、資源が豊富で持続的な利用が可能な種は利用し、資源が少なく保護が必要な種には保護策を講じている。この立場のもと、我が国は、鯨類資源の適切な保存を図って捕鯨産業の秩序ある発展を目指すことを目的とする国際捕鯨委員会(IWC)の下で、鯨類資源の持続的利用を目指している。。

1972年に開催された国連人間環境会議に端を発した世界的な鯨類保護の機運は、時を経ずしてIWCを席巻するようになり、大型鯨種の相次ぐ捕獲規制やそれに続く母船式操業規制(ミンククジラを除く)を経て、IWCによる1982年の商業捕鯨モラトリアム採択に至った。この措置は、鯨類資源に関する科学的知見が不足している当時の状況を踏まえ、各鯨種・系群の資源状態に関わらず一時的に商業捕鯨を停止し、その間に最良の科学的知見を集めて、1990年までにゼロ以外の捕獲枠を検討する旨を規定したものである。つまり、商業捕鯨モラトリアムは反捕鯨国や動物愛護団体がしばしば述べるような捕鯨の永久禁止規定ではなく、科学的根拠に基づいた適切な資源管理を実現するための道筋の中の一つの過程であり、最終的には商業捕鯨の捕獲枠を設定することを規定しているのである。当初、我が国を含む数か国が異議を申し立てたものの、結果として1986年漁期にモラトリアムが適用され、我が国においても1987年漁期を最後に大型鯨類を対象とする全ての商業捕鯨が一時的に停止されることとなった。

ノルウェーは一時的に商業捕鯨を停止したが、モラトリアムへの異議申し立てを撤回していなかったことから1993年より商業捕鯨を再開した。また、一旦IWCを脱退したアイスランドも右モラトリアムに留保を付して2002年に再加盟し、2006年より商業捕鯨を行っている(図1)。これら以外に、現在IWC加盟国が行うことができる鯨類の捕獲活動は、国際捕鯨取締条約附表第13条に基づくアラスカ・イヌイット他に許された先住民生存捕鯨、同条約第8条に基づく特別許可の下での捕獲調査ならびにIWC管轄外の種を対象とする小型捕鯨業及びイルカ漁業のみである。

先述したとおり、1982年に採択されたこの商業捕鯨モラトリアムは、1990年までに“ゼロ以外の捕獲枠を検討する”ことを明確に規定している。しかし、反捕鯨国は、ゼロ以外の捕獲枠の検討ではなく、モラトリアムの維持自体を目的とするようになり、彼らが過半数を占めるIWCではモラトリアム実施の当初の趣旨がないがしろにされる状態が続いている。例えば、2014年の第65回IWC総会において、日本政府は2014年から2018年までの日本沿岸域におけるミンククジラ17頭の捕獲枠設定を提案したが、この捕獲頭数は、科学委員会で合意した試算値であり資源に悪影響を与えないことが証明されたものである。しかも、同提案には捕獲枠の遵守を確保するための監視、遵守、取締措置など幅広い管理措置が盛り込まれていた。しかしながら、捕鯨そのものに反対する反捕鯨国は商業捕鯨モラトリアムの維持に固執し、投票の結果、この提案は否決された。

このような根本的な立場の相違が存在するなかでも、モラトリアムの採択以降、我が国は捕獲調査を含む鯨類科学調査を実施して科学的情報を収集し、鯨類資源管理の発展に貢献してきた。なお、モラトリアムの導入以降、IWC総会ではゼロ以外の捕獲枠が検討される兆しはなかったが、1992年、IWC科学委員会は、鯨類の捕獲枠の算定を可能とする改訂管理方式(RMP:Revised Management Procedure)を開発し、1994年にはRMPをIWCによる鯨類資源管理措置とすることが合意された。さらに、調査から得られた知見が蓄積されるにつれて、IWCにおいて、鯨類の保護だけではなく生態系のバランスを考慮して資源を持続的に利用することの重要性に対する理解が深まってきた。IWCにおいて鯨類の持続的利用を支持する国が増加したのは、このような地道な調査とその成果の普及活動の成果である。近年では、我が国の鯨類資源研究はさらに多様化・複雑化してきている。研究のニーズは、対象鯨類・系群の資源管理にとどまらず、生態系モデリングや複数種一括管理、さらには環境変動のモニタリングや新海洋産業の管理などにまで広がっている。以下にIWCの対象種である大型鯨類におけるそれらニーズと背景、そして調査の現状について概説する。


図1

図1. 南極海捕鯨の捕獲変遷 (加藤 1991より)


図2

図2. IWC/IDCR・SOWER計画の調査航跡図


図3

図3. 北太平洋鯨類目視調査航跡図(1982〜1996年)


図4

図4. IWC/POWERの調査海域(実施年が入っている海域)(Kato et al. 2016より)
色付きの海域はIWC/POWER以外で最近カバーされた海域を示す。


図5

図5. 胃内容物分析のための耳石による同定マニュアル


図6

図6. 北西太平洋のEcopath型生態系モデル


図7

図7. 北西太平洋のMULTISPEC型生態系モデル


表1

表1. 主要な大型鯨類の資源推定量推定値(IWCホームページより改編)


大型鯨類資源研究のニーズ

大型鯨類資源研究の直接的ニーズは、まず捕鯨対象資源の適切な保存と管理を行うための科学的根拠を固めることにあり、科学的に持続可能なレベル(捕獲頭数)の下での捕鯨業の再開が目標である。このために、対象資源の系群構造を明確にし、資源量を正しく把握し、再生産率を推定し、資源管理モデルを開発して、資源の持続的利用を図っていくことが重要である。現在、大型鯨類を対象とする捕鯨業はIWCのモラトリアムにより操業を中断しているが、IWC自身が鯨類資源利用のための研究を放棄しているわけではなく、下部組織の科学委員会ではモラトリアム導入以降もRMPの開発や運用試験、資源量推定法の標準化、個別資源の評価等に取り組んでいる。

また、大型鯨類資源研究のニーズはこれらにとどまらない。かつて公海流し網の操業停止に至るほどに深刻化した鯨類の混獲問題への対処、鯨類を含む複数種一括管理を目指す生態系管理、漁業資源を巡る人間と鯨類の競合問題、鯨類の船舶との衝突問題への対処にも鯨類資源研究の明確なニーズがある。ホエールウオッチングなど新海洋産業の管理にも、対象種の資源・生態研究が必要とされている。さらに、潜在的ニーズとして、海洋における生物多様性の保持と将来への継承のためにも希少種を含めた鯨類資源研究が必要であることは言うまでもない。


大型鯨類資源研究の枠組み

大型鯨類資源の国際的管理はもっぱらIWCが担っており、下部組織である科学委員会(Scientific Committee)は、委員会の指示により商業捕鯨が行われていた時代には資源の診断、評価、捕獲枠の勧告を行い、またモラトリアムが実施されてからは包括的資源評価とRMPの開発、資源評価並びにRMP適用試験を行ってきた。科学委員会は、加盟国派遣科学者、招聘専門家、国際機関からのオブザーバーなど総勢百数十名から構成され、毎年5〜7月頃に、2週間強の年次会合を開き、必要に応じて作業部会や特別会合を開催する(大隅 1991)。2016年現在では、6分科会11作業グループが設立されている。

また、北大西洋海域では北欧諸国・地域による北西太平洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)が独自の鯨類資源管理の道を探っている(http://www.nammco.no/)。同委員会にも下部機関として科学委員会があり、親委員会に科学的助言を行っている。日本は、同委員会と科学委員会にオブザーバー参加している。太平洋海域の北太平洋海洋科学機関(PICES)は鯨類等高次捕食者が生態系に与える影響を評価しているが、資源管理は目指していない(http://www.pices.int/)。

我が国における大型鯨類資源研究については、水産庁が中心となり、旧遠洋水産研究所(遠洋水研)の鯨類関連の2研究室を経て、2011年9月1日に発足した水産総合研究センター(2016年4月より水産研究・教育機構)国際水産資源研究所(国際水研)の鯨類関連の1グループ(鯨類資源グループ)が、IWC対象種を含めた鯨類資源の管理に関する調査・研究を担っている。1987年に、旧(財)捕鯨協会と鯨類研究所を発展的に再組織化して設立された日本鯨類研究所(日鯨研)は、南極海及び北西太平洋における鯨類捕獲調査(調査捕鯨)をメインに広範に資源研究に取り組むとともに、社会科学的な研究や広報活動、さらに鯨肉の市場流通調査など幅広い活動を行っている(http://www.icrwhale.org/)。


大型鯨類資源研究の個別テーマと実態

(1)大型鯨類資源の包括的評価と詳細評価

IWCが1982年に採択した商業捕鯨モラトリアムには、商業目的の鯨の捕獲頭数をゼロとすることと同時に、鯨類資源の包括的評価を行い、ゼロ以外の捕獲枠の設定を検討することが明示されている。この規定の下に、IWC科学委員会は


  1. 資源分析及び評価手法の見直し
  2. 最良のデータと手法に基づく個別資源の包括的評価
  3. RMPの開発

を開始した。

資源量分析手法としては目視調査法が支持されその基準化が進み(Anon. 1994)、さらに資源評価法としていわゆるHitter/Fitter法が標準的方法として一般化するようになった(de la Mare 1989)。また、個別資源の包括的評価は、1990年のコククジラ資源評価から始まり、以後クロミンククジラ(ミナミミンククジラ)、北太平洋ミンククジラ、北大西洋ミンククジラ、北大西洋ナガスクジラ、北太平洋ニタリクジラ、北大西洋ザトウクジラなどが終了し、現在は南半球ヒゲクジラ類について詳細評価を実施している。

RMPの開発は、IWC科学委員会が最も力を入れた活動の一つで、提起より16年に及ぶ比較検討の結果、情報の不確実性に強いRMPが完成し、1992年に合意を見た(田中 2002)。現在は、北太平洋のミンククジラとニタリクジラで実際のデータを用いた運用試験が終了した。2013年には、北太平洋ミンククジラについては2回目の運用試験が完了した。

しかしながら、科学委員会によりRMPが完成した後も、IWC本委員会において反捕鯨国側がその運用を補完する管理取締制度の必要性を主張し、IWC本委員会はこれらを実際に運用するための改訂管理制度(RMS:Revised Management Scheme)の制定に着手した。ただし、反捕鯨国の執拗な抵抗によってRMSは完成に至らず、本件に関する議論は2006年に事実上打ち切りとなっている。また、2013年の北太平洋ミンククジラのRMP運用試験の結果を用いて、日本政府は2014年の本委員会で北太平洋におけるミンククジラ17頭の捕獲枠設定を提案したが、反捕鯨国の反対により否決された(「背景」の章を参照)。

なお、我が国が関係する鯨類種の捕獲実績の統計については、本書の魚種別解説(クロミンククジラ、ミンククジラ、シロナガスクジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ)中の統計を参照されたい。


(2)IWCとの国際共同調査プロジェクト(IDCR国際鯨類調査10か年計画/SOWER南大洋鯨類生態総合調査、POWER北太平洋鯨類生態総合調査)

IDCRは、実質的にはIWCが1978/79年度に各国の捕鯨船団と独立した目視調査船団を組織し、クロミンククジラを対象とした資源調査航海を行ったことによりスタートした。初期には6年間で南極を一周するペースで開始され、2003/04年度で3周目が終了した。1996/97年度よりSOWERに移行しており、この調査航海によって、鯨類目視法が著しく発展した(図2)。

1991年のクロミンククジラの包括的評価では、これらの航海からのデータを基に資源量が76万頭と推定された。日本政府は、1978年の第1回調査航海より調査船及び乗組員を拠出するなど、積極的にこの計画を支援している(松岡 2002)。2005年度からは、調査船が1隻に減少したことを受け、クロミンククジラの目視調査に関連する実験、大型鯨類のバイオプシーによる表皮採取、ザトウクジラ・セミクジラなどの個体式別調査を主に実施してきた。その後、SOWERは、一定の成果を得て役割を終えたと判断され、2009/10年度をもって終了した。これらIDCRとSOWERの目視調査結果に基づくクロミンククジラ資源量推定については、10年以上の検討を経て2012年のIWCで決着を見た。それによると第2周目と第3周目の資源量推定値(95%信頼区間)はそれぞれ720,000(512,000-1,012,000)、515,000(361,000-733,000)で合意された。

2010年からは北太平洋においてIWCと日本による国際共同目視調査(POWER:Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research program)が実施されている。POWERは、主にイワシクジラとニタリクジラの資源量推定と系群構造解明を目的に開始され、2016年にこれら種類の主要分布域である沖合域における調査を一旦終了した。本調査の結果は、IWCの詳細解析やRMP適用試験に際して,重要な情報をもたらすことが期待されている。なお、2017年以降は3年に亘り、これまで大規模な目視調査が実施されていなかったベーリング海を調査する予定である。


(3)我が国の鯨類科学調査

我が国は、国際捕鯨取締条約第8条に基づき、科学的研究を目的とした鯨類捕獲調査を南極海及び北西太平洋で行っている。


(a) 南極海

南極海では、1987/88年度からクロミンククジラの生物学的特性値の取得を主目的とした南極海鯨類捕獲調査(JARPA)を実施した(クロミンククジラを年間440頭まで捕獲)。JARPAは2005年3月に18年間の計画を終了したが、18年間の調査により得られた情報の解析を通して、鯨類を中心とする南極海生態系の構造が現在もなお変化し続けていることが示唆された。そのため、このような変化を検証するために、第2期調査(JARPA II)が2005/06年度より開始された。JARPA IIでは、クロミンククジラ(850頭±10%)に加えて資源が大幅に回復しつつあるナガスクジラやザトウクジラも調査の捕獲対象に加える等(それぞれ50頭ずつ。ただし、当初2年間はナガスクジラのみ10頭捕獲)、調査の内容を拡充した。なお、ザトウクジラについてはIWCの正常化プロセス進行中は捕獲が延期された。JARPA IIの成果は2014年に科学委員会によりレビューされ、系群構造や生物学的特性値など資源管理に資する重要な情報が得られたことが評価されるとともに、鯨類を中心とする南極海生態系の変化が継続していることが認識された。

その一方で、2014年3月、国際司法裁判所(ICJ)は、豪州がJARPAIIが国際捕鯨取締条約(ICRW)に違反しているとして2010年5月に我が国を提訴した裁判について、JARPA IIがICRWの規定の範囲に収まらないとして、その中止を命じる判決を出した。しかし、ICJは、捕獲(致死的)調査自体は禁止しておらず、むしろ、将来日本が捕獲を伴う調査を計画する際には発給計画策定にあたり判決の指摘事項を考慮することを期待する旨を示した。(パラグラフ246)(判決文はhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/shihai/を参照)。この判決を踏まえ、日本は、2014年4月、「国際法及び科学的根拠に基づき、鯨類資源管理に不可欠な科学的情報を収集するための鯨類捕獲調査を実施し、商業捕鯨の再開を目指すという基本方針を堅持」することを表明した。この方針に基づき、判決で示された基準を反映させた新たな南極海鯨類科学調査計画(NEWPEP-A:New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean)の案をIWC科学者委員会へ提出し、科学委員会の検討を経て最終化し、2015年冬期より調査を実施している。NEWREP-A策定にあたって、日本は、ICJ判決の主な指摘事項に具体的に対応し、また、上記のICJ判決で示された期待にも応え、NEWREP-Aは判決に整合したものとなっている。

NEWREP-Aの調査目的の一つは、将来的なクロミンククジラの商業的捕鯨枠の算出に貢献するため、RMPで用いる生物学的・生態学的情報(例えば、資源の年輪組成、性成熟年齢やそれらの変動)を高精度に把握することである。調査では目視による資源量推定、捕獲を通じたクロミンククジラの年齢組成・性成熟・系群等の把握、その他鯨種の皮膚サンプルの収集、衛星標識・データロガーを用いた回遊・接餌行動の観察等を行い、より精度高く資源の動態メカニズムを把握する。もう一つの目的は、鯨に加えてその餌環境を調査することで、鯨類を中心とした南極海生態系モデルを構築し、その構造や動態を研究することである。鯨類の栄養状態の解析やオキアミ資源量の把握はその一環である。生態系モデルの構築は、持続可能な捕獲頭数の算出にとどまらず、南極海生態系の理解促進という科学的に重要な課題にも対応することができる。また、調査では、非致死的な調査手法の実行可能性、有用性を検証し、より適切な手法の組み合わせを模索していくことにしている。


(b) 北西太平洋

北西太平洋では、1994〜1999年度にかけて、ミンククジラの系群構造解明を目的とした北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)が行われてきたが、2000年度からは漁業と鯨類との競合問題の解明を目指した総合的な生態系調査としての第二期北西太平洋鯨類科学調査(JARPNII)に移行し、2016年度まで実施された。JARPNIIは、「複数種一括管理モデルについての取り組み」に関連するため、調査内容等についてはそちらを参照されたい。2013年におけるJRRPNIIは、胃内容物の種組成を一定の精度をもって把握するのに必要な標本数として、イワシクジラは100頭(2004年以降)、ニタリクジラは50頭(2000年以降)、ミンククジラは鮎川沖の春季調査、釧路沖の秋季調査それぞれ60頭ずつ(2005年以降)、沖合調査100頭(2000年以降)が設定されていた。2014年以降のJARPNIIについては、ICJ判決に照らし、調査目的を限定するなどして、規模を縮小したうえで非致死的手法の比較実験を行うこととし(沿岸:ミンククジラ102頭、沖合:イワシクジラ90頭、ニタリクジラ25頭の捕獲標本数)、非致死的方法(バイオプシーを用いた表皮採取、脱糞行動の観察と糞採取)の実行可能性調査も合わせて実施した。JARPNIIの成果は2016年のIWC科学委員会でレビューされ、系群構造の知見、鯨類と漁業との餌の競合に関する定量的な評価、海洋生態系における鯨類の役割の評価などの成果について、高い評価を得ている。 日本政府は、持続可能な商業捕鯨の再開のために解決すべき科学的課題を改めて検討し、2016年11月、JARPN及びJARPNIIの成果も踏まえ、新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEWREP-NP : New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific)の案を策定し、IWC科学委員会に提出した。NEWERP-NPについては、同科学委員会の手続きを経て最終化される予定であり、2017年からの調査開始を目指している。NEWREP-NPの調査目的は、日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出及び沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出である。調査項目には、系群構造仮説の検証や両種生物学的特性値の収集に加え、非致死的調査(目視調査、バイオプシーによる表皮採取、衛星標識による追跡など)や非致死的手法の検証(DNA分析による年齢査定の実行可能性検証)も含まれている。


(4)北太平洋鯨類目視調査

商業捕鯨再開に向けたIWC科学委員会の包括的鯨類資源評価及びRMP運用試験に供するため、我が国では引き続き主要大型鯨類資源の情報を取得していく必要があり、またIWC管轄外鯨種を対象に日本が自主管理している小型捕鯨業及びいるか漁業の対象種についても資源状態を把握しつつ適切に資源管理を実施する必要がある。このため、国際水研が主体となり目視調査航海を行い、主要鯨類の資源量を推定している(図3)。実施体制としては水産総合研究センター船並びに用船による調査である。また、近年では東シナ海や日本海南部において韓国と、また日本海北部やオホーツク海、カムチャッカ半島近辺ではロシアと共同調査を実施するなど、国際的な研究協力も行われている(宮下 2001)。前述のように、IWC及び日本によるPOWERが、大型鯨類資源に関する情報収集を目的に2010年から北太平洋で実施されている(図4)。

なお、目視調査で得られた情報に基づく資源量推定値がRMP運用試験において正式データとして採用されるためには、IWC科学委員会のRMP分科会に計画書を提出してレビューを受ける必要があり、またIWCが選任した監視員が乗船することが求められる。


(5)複数種一括管理モデルについての取り組み

複数種一括管理については国際連合食糧農業機関(FAO)などの国際機関で検討が進められており、IWCでも餌生物をめぐる鯨類と漁業の競合が論議されている。北大西洋ではNAMMCOを中心に、捕鯨を含む漁業国であるノルウェーやアイスランドによりMULTISPECと言われる高次捕食者と漁業資源からなるモデルの開発と応用が進められている(Bogstad et al. 1997)。我が国では1997年に種別のTACによる資源管理が始まったばかりで、複数種一括管理については研究段階にある。しかし、現実の海洋生態系では生物の間の捕食・被食関係が個々の資源の変動に大きく関わっており、鯨類や魚類の資源管理においても当然考慮すべきものである。そのためには、生態系モデルの構築が不可欠となっている。

2000年に始まったJARPNIIの主要な目的は、鯨類の捕食量や餌への嗜好性の推定、そして複数種一括管理に向けたモデルの構築にある(Government of Japan 2000)。これまでの調査により、鯨類の捕食量は、例えば道東沖ではカタクチイワシ、サンマ、スケトウダラ、スルメイカでそれぞれ、1万〜1.5万トン、3,500〜5,000トン、0.6万〜1万トン、1,600〜2,500トンと推定され、右漁場における漁業との競合は十分考えられる(Tamura et al. 2004)。鯨類の餌への嗜好性についても、例えば道東沖の秋季のミンククジラは大陸棚上と親潮域に生息し、大陸棚上ではカタクチイワシ、オキアミ、スケトウダラ、スルメイカを捕食し、親潮域では半数の個体がサンマを捕食していた。海中の餌の組成と比較すると、ミンククジラは一般に豊富な餌を食べると言えるが、スルメイカやカタクチイワシへの嗜好性が高かった。JARPNIIの対象外である鯨類以外の高次捕食者については、漁業などから標本を収集し、耳石の同定マニュアル(図5)などを用いて胃内容物の分析を進めている。

こうした情報を用いて、まず静的なモデルで生態系全体を把握するのに役立つEcopath型モデルで生態系の基本的な構造を解析した(図6)。その結果、北西太平洋の沖合域では鯨類と漁業の間に漁業資源を巡る競合が起きている可能性が高いと判断された(Okamura et al. 2002)。その後、北西太平洋沖合域では情報の蓄積に伴いより精緻なEcopath型モデルが新たに構築されている(Muraes et al. 2016)。

次に基礎的なMULTISPEC型モデル(生態系の一部である高次捕食者や漁業資源に焦点を当てて、個々の種を年齢別尾数で扱う個体群動態モデルに捕食・被食などの種間関係を組み込んだ生態系モデル)を構築しテストランを行った。対象種はミンククジラ、オキアミ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラ(後に追加)で、漁業も考慮されている(図7)。月単位の計算は、対象種の海域間の移動、捕食・被食、漁獲による減少、自然死亡(被食と漁獲以外)による減少、成長の順序で行われる。テストランの結果では、餌への嗜好性に加えて、捕食者と餌の分布の重なりが重要であることが判明している(Kawahara and Hosho 2004)。一方、仙台湾ではイカナゴ、ミンククジラ及びオットセイを対象種としたベイズ型生態系モデルが構築されつつある(Okamura et al. 2009)。さらに、仙台湾ではミンククジラとイカナゴの動態に関するdelay-difference モデルによる検討が行われている(Kitakado et al, 2016)。

JARPNIIは、種間関係や鯨類と漁業の競合に関する仮説を検証しようとしている(Government of Japan 2002)。具体例としては、@鯨類は漁業の漁獲量と比べて大量の漁業資源を消費しているか、A鯨類による消費は餌生物の自然死亡や加入に重大な影響を与えているか、B逆に、餌生物の豊度や分布は鯨類の回遊様式、加入あるいは性による地理的分離に影響しているか、C鯨種間あるいは鯨類とオットセイ、まぐろ類、さめ類と言った他の高次捕食者に直接的あるいは間接的な競合はあるか、Dマッコウクジラは表層生態系に影響を与えるか、という5つが挙げられる。今後の調査研究によりこうした仮説への回答が得られることが期待されている。

IWCでは2009年1月に、JARPNIIの中間的な成果に関する独立専門家によるレビュー会合を開催した。その結果、当初の目的に向かって着実に進捗しているとの評価がなされた。2回目のレビュー会合が、2016年2月にJARPNIIの成果のレビューが開催され、その結果は2016年6月の第66回IWC科学委員会に報告された。


(6)新海洋産業管理及び希少生物管理

近年では、小笠原、座間味、土佐湾、笠沙等でのホエールウオッチング、また伊豆諸島や小笠原などドルフィンスイムなどの新海洋産業の発展が著しい。これら新産業は行政管轄のはざまにあり、必ずしも産業として適切に管理されていない。したがって、これらの管理にも対象資源の管理研究が必要であるばかりでなく、沿岸性鯨類の分布や移動、系群構造などに関する情報のニーズも高く、これを受ける形で国際水研が現地機関と連携しつつ土佐湾で分布調査や生息数調査を実施している。


(7)その他

その他、海洋汚染、混獲問題などへの対処に関する調査研究が行われている。また、市場に流通する鯨肉のDNA鑑定に関する研究も行われている。


主な大型鯨類の資源量

大型鯨類の資源量推定値については、IWCのウェブサイト(https://iwc.int/estimate)に主要なものがまとめられている(表1)。


執筆者

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

宮下 富夫


参考文献

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