--- 総説 ---

46 大型鯨類(総説)

                                                           
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表1

表1. 表1. 主要な大型鯨類の資源推定量推定値(IWCホームページより改編)


図1

図1. 南極海捕鯨の捕獲変遷 (加藤 1991より)


図2

図2. IWC/IDCR・SOWER計画の調査航跡図


図3

図3. 近年の北太平洋鯨類目視調査航跡図


図4

図4. 胃内容物分析のための耳石による同定マニュアル


図5

図5. 北西太平洋のEcopath型生態系モデル


図6

図6. 北西太平洋のMULTISPEC型生態系モデル


背景

1972年に開催された国連人間環境会議に端を発した世界的な鯨類保護の機運は、時を経ずして国際捕鯨委員会(IWC)を席巻するようになり、大型鯨種の相次ぐ捕獲規制やそれに続く母船式操業規制(ミンククジラを除く)を経て、IWCによる1982年の商業捕鯨モラトリアム採択に至った。この措置は各鯨種・系群の資源状態に関わらない強引な取り決めで、数か国が異議を申し立てたものの、結果として1987年漁期を最後に大型鯨類を対象とする全ての商業捕鯨が停止することとなった。その後、ノルウェーはモラトリアムへの異議申し立てを撤回していなかったことから商業捕鯨を再開した。また、一旦IWCを脱退したアイスランドも右モラトリアムに留保を付して再加盟し、商業捕鯨を行っている(図1)。

現在、ノルウェー及びアイスランドを除くIWC加盟国が行うことができる鯨類の捕獲活動は、アラスカ・イヌイット他に許された先住民生存捕鯨、IWC管轄外の種を利用する小型捕鯨及びイルカ漁業、そして国際捕鯨取締条約第8条に基づく特別許可の下での捕鯨調査(捕獲調査)のみである。

1982年に採択されたこの商業捕鯨モラトリアムは、明確に1990年までに“0頭以外の捕獲枠設定につき検討する”ことを付帯条件としていた。当初、この見直しが実施される兆しはなかったが、1990年代以降変化が訪れた。1つには科学レベルでの改訂管理方式(RMP:Revised Management Procedure)の完成があり、2つには発展途上国のIWC加盟による持続的利用支持国の増加、そして漁業資源を巡る鯨類と人間の競合論争がある。これらを受けて、鯨類資源の利用を拒否するのではなく、資源的に問題がないことが科学的に明らかな種系群については持続的利用を支持する勢力が確実に存在してきた。例えば、2006年のIWC年次会合では、持続的利用支持国が、商業捕鯨モラトリアムはもはや必要ないとの見解を示すとともに、機能不全に陥っているIWCの正常化をIWCとして約束する旨を盛り込んだ「セントキッツ・ネービス宣言」を決議の形で提案し、賛成多数により可決された。また、ワシントン条約(CITES)締約国会議においても、ミンククジラの輸出入の規制緩和提案(ダウンリスティング提案)に対し、有効票の半数近くの賛成票が投じられるような状況さえ生まれてきた。しかしながら、その後の反捕鯨努力の巻き返しもあり、IWCは、徐々に鯨類資源管理機関として機能不全の状況に陥り、2008年のIWC年次会合では、正常化に向けて各国の関心事項を総合的に議論し、パッケージ合意案を作成するための小作業部会の設立が合意され、検討作業が開始された。同小作業部会は、2010年の年次会合での最終決着を目指し、作業を継続していたが結局合意に至らず、問題解決に向けた冷却期間がセットされた。しかしながら、2011年の会議でも合意に至らず、引き続く2012年会議でも合意に至らなかった。継続的な対話を通じて信頼関係を維持し、委員会活動に協力していくことが合意されたが、他方で、2012年会議で年次会合を隔年開催とすることが決定され、第65回年次会合は2014年9月に開催された。

IWCはこのように厳しい状況が続いているが、近年、とりわけ我が国の鯨類資源研究は多様化してきている。研究のニーズは、対象鯨類・系群の資源管理にとどまらず、生態系モデリングや複数種一括管理、さらには環境変動のモニタリングや新海洋産業の管理などにまで広がっている。以下に大型鯨類におけるそれらニーズと背景、そして調査の現状について概説する。


大型鯨類資源研究のニーズ

大型鯨類資源研究の直接的ニーズは、まず捕鯨対象資源の適切な保存と管理を行うための科学的根拠を固めることにあり、科学的に持続可能なレベル(捕獲頭数)の下での捕鯨業の再開が目標である。このために、対象資源の系群構造を明確にし、資源量を正しく把握し、再生産率を推定し、資源管理モデルを開発して、資源の持続的利用を図っていくことが重要である。現在、大型鯨類を対象とする捕鯨業はIWCのモラトリアムにより操業を中断しているが、IWC自身が鯨類資源利用のための研究を放棄しているわけではなく、下部組織の科学委員会ではモラトリアム導入以降もRMPの開発や運用試験、資源量推定法の標準化、個別資源の評価等に取り組んでいる。

また、大型鯨類資源研究のニーズはこれらにとどまらない。かつて公海流し網の操業停止に至るほどに深刻化した鯨類の混獲問題への対処、鯨類を含む複数種一括管理を目指す生態系管理、漁業資源を巡る人間と鯨類の競合問題、鯨類の船舶との衝突問題への対処にも鯨類資源研究の明確なニーズがある。ホエールウオッチングなど新海洋産業の管理にも、対象種の資源・生態研究が必要とされている。さらに、潜在的ニーズとして、海洋における生物多様性の保持と将来への継承のためにも希少種を含めた鯨類資源研究が必要であることは言うまでもない。


大型鯨類資源研究の枠組み

大型鯨類資源の国際的管理はもっぱらIWCが担っており、下部組織である科学委員会(Scientific Committee)は、委員会の指示により商業捕鯨が行われていた時代には資源の診断、評価、捕獲枠の勧告を行い、またモラトリアムが実施されてからは包括的資源評価とRMPの開発、資源評価を行ってきた。科学委員会は、加盟国派遣科学者、招聘専門家、国際機関からのオブザーバーなど総勢百数十名から構成され、毎年5〜7月頃に、2週間強の年次会合を開き、必要に応じて作業部会や特別会合を開催する(大隅 1991)。2014年現在では、6分科会8作業グループが設立されている。

また、北大西洋海域では北欧諸国・地域による北西太平洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)が独自の鯨類資源管理の道を探っている(http://www.nammco.no/)。同委員会にも下部機関として科学委員会があり、親委員会に科学的助言を行っている。日本は、同委員会と科学委員会にオブザーバー参加している。太平洋海域の北太平洋海洋科学機関(PICES)は鯨類等高次捕食者が生態系に与える影響を評価しているが、資源管理は目指していない(http://www.pices.int/)。

我が国における大型鯨類資源研究については、水産庁が中心となり、旧遠洋水産研究所(遠洋水研)の鯨類関連の2研究室を経て、2011年9月1日に発足した独立行政法人水産総合研究センター(2015年4月より国立研究開発法人)国際水産資源研究所(国際水研)の鯨類関連の1グループ(鯨類資源グループ)が、IWC対象種を含めた鯨類資源の管理に関する調査・研究を担っている。1987年に、旧(財)捕鯨協会と鯨類研究所を発展的に再組織化して設立された日本鯨類研究所(日鯨研)は、南極海及び北西太平洋における鯨類捕獲調査(調査捕鯨)をメインに広範に資源研究に取り組むとともに、社会科学的な研究や広報活動、さらに鯨肉の市場流通調査など幅広い活動を行っている(https://iwc.int/home)。


大型鯨類資源研究の個別テーマと実態

(1)大型鯨類資源の包括的評価と詳細評価

IWCが1982年に採択した商業捕鯨モラトリアムには、商業目的の鯨の捕獲頭数をゼロとすることと同時に、鯨類資源の包括的評価を行い、ゼロ以外の捕獲枠の設定を検討することが明示されている。この規定の下に、IWC科学委員会は


  1. 資源分析及び評価手法の見直し
  2. 最良のデータと手法に基づく個別資源の包括的評価
  3. RMPの開発

を開始した。

資源量分析手法としては目視調査法が支持されその基準化が進み(Anon. 1994)、さらに資源評価法としていわゆるHitter/Fitter法が標準的方法として一般化するようになった(de la Mare 1989)。また、個別資源の包括的評価は、1990年のコククジラ資源評価から始まり、以後クロミンククジラ(ミナミミンククジラ)、北太平洋ミンククジラ、北大西洋ミンククジラ、北大西洋ナガスクジラ、北太平洋ニタリクジラ、北大西洋ザトウクジラなどが終了し、現在は南半球ヒゲクジラ類について詳細評価を実施している。

RMPの開発は、IWC科学委員会が最も力を入れた活動の一つで、提起より16年に及ぶ比較検討の結果、情報の不確実性に強いRMPが完成し、1992年に合意を見た(田中 2002)。現在は、北太平洋のミンククジラとニタリクジラで実際のデータを用いた運用試験が終了した。2013年には、北太平洋ミンククジラについては2回目の運用試験が完了した。

しかしながら、科学委員会によりRMPが完成した後も、IWC本委員会において反捕鯨国側がその運用を補完する管理取締制度の必要性を主張し、IWC本委員会はこれらを実際に運用するための改訂管理制度(RMS:Revised Management Scheme)の制定に着手した。ただし、反捕鯨国の執拗な抵抗によってRMSは完成に至らず、本件に関する議論は2006年に事実上打ち切りとなっている。また、2013年の北太平洋ミンククジラのRMP運用試験の結果を用いて、我が国は2014年の本委員会で北太平洋におけるミンククジラ17頭の捕獲枠設定を提案したが、反捕鯨国の反対により否決された。

なお、我が国が関係する鯨類種の捕獲実績の統計については、本書の魚種別解説(クロミンククジラ、ミンククジラ、シロナガスクジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ)中の統計を参照されたい。


(2)IWC国際プロジェクト(IDCR国際鯨類調査10か年計画/SOWER南大洋鯨類生態総合調査))

IDCRは、実質的にはIWCが1978/79年度に各国の捕鯨船団と独立した目視調査船団を組織し、クロミンククジラを対象とした資源調査航海を行ったことによりスタートした。初期には6年間で南極を一周するペースで開始され、2003/04年度で3周目が終了した。1996/97年度よりSOWERに移行しており、この調査航海によって、鯨類目視法が著しく発展した(図2)。

1991年のクロミンククジラの包括的評価では、これらの航海からのデータを基に資源量が76万頭と推定された。我が国は、1978年の第1回調査航海より調査船及び乗組員を拠出するなど、積極的にこの計画を支援している(松岡 2002)。2005年度からは、調査船が1隻に減少したことを受け、クロミンククジラの目視調査に関連する実験、大型鯨類のバイオプシーによる表皮採取、ザトウクジラ・セミクジラなどの個体式別調査を主に実施してきた。その後、SOWERは、一定の成果を得て役割を終えたと判断され、2009/10年度をもって終了した。これらIDCRとSOWERの目視調査結果に基づくクロミンククジラ資源量推定については、10年以上の検討を経て2012年のIWCで決着を見た。それによると第2周目と第3周目の資源量推定値(95%信頼区間)はそれぞれ720,000(512,000-1,012,000)、515,000(361,000-733,000)で合意された。2010年からは北太平洋においてIWCと日本による国際共同目視調査(POWER:Pacific Ocean Whale and Ecosystem Research program)が実施されている。


(3) 鯨類捕獲調査

我が国は、国際捕鯨取締条約第8条に基づき、科学的研究を目的とした鯨類捕獲調査を南極海及び北西太平洋で行っている。

南極海では、1987/88年度からクロミンククジラの生物学的特性値の取得を主目的とした南極海鯨類捕獲調査(JARPA)を実施した(クロミンククジラを年間440頭まで捕獲)。JARPAは2005年3月に18年間の計画を終了したが、18年間の調査により得られた情報の解析を通して、鯨類を中心とする南極海生態系の構造が現在もなお変化し続けていることが示唆された。そのため、このような変化を検証するために、第2期調査(JARPA II)が2005/06年度より開始された。JARPA IIでは、クロミンククジラ(850頭±10%)に加えて資源が大幅に回復しつつあるナガスクジラやザトウクジラも調査の捕獲対象に加える等(それぞれ50頭ずつ。ただし、当初2年間はナガスクジラのみ10頭捕獲)、調査の内容を拡充した。なお、ザトウクジラについてはIWCの正常化プロセス進行中は捕獲が延期された。

2010年5月に、豪州は、我が国のJARPAIIが国際捕鯨取締条約(ICRW)に違反しているとして、国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。ICJは、2014年3月、以下を要点とする判決を出した(http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/w_thinking/index.html#10)。@JARPAIIは、調査の計画及び実施が調査目的を達成するために合理的なものと立証されておらず、 国際捕鯨取締条約第8条1に規定する科学目的の調査とは言えない。A日本は、将来、第8条1に基づく許可証の発給の可能性を検討する際は、この判決に含まれている理由付けと結論を考慮することが期待される。本判決は、鯨類捕獲調査そのものを否定したものではないことや将来的に考慮すべき種々の点が指摘されていることを踏まえ、日本政府は、「国際法及び科学的根拠に基づき、鯨類資源管理に不可欠な科学的情報を収集するための鯨類捕獲調査を実施し、商業捕鯨の再開を目指すという基本方針を堅持。」することを表明した。

一方、北西太平洋では、1994〜1999年にかけて、ミンククジラの系群構造解明を目的とした捕獲調査(上限は年間100頭)が行われてきたが、2000年度からは漁業と鯨類との競合問題の解明を目指した総合的生態系調査に移行している(JARPN II ;2008年度の捕獲計画頭数は、ミンククジラ沖合域100頭、同沿岸域120頭、ニタリクジラ50頭、イワシクジラ100頭、マッコウクジラ10頭)。沿岸域調査は2004年度までは釧路沖(2002、2004年度)と仙台湾(2003年度)を隔年で実施していたが、2005年度からは両海域において毎年実施している。沿岸での捕獲計画標本数は2004年度より各海域ミンククジラ50頭から60頭に増加しており、2005年度からは年間合計120頭となった。

従来、南極海及び北西太平洋での調査は日本政府による許可発給の下、日鯨研が主体となって行ってきたが(藤瀬 2002)、北西太平洋沿岸域調査については2010年から一般社団法人地域捕鯨推進協会へ許可が発給され、同協会が主体となって行っている。各捕獲調査の計画立案と分析は、日鯨研のほか、国際水研や大学等が共同して行っている。調査は、JARPA(JARPAII)とJARPN II沖合域調査を日鯨研が実施し、JARPN II沿岸域調査(2002年より)と餌環境調査に国際水研が参画している。なお、調査計画については事前にIWC科学委員会のレビューを受け、毎年結果を同委員会に報告している。

この方針に基づき、判決で示された基準を反映させた南極海における新たな鯨類調査計画(NEWPEP-A:New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean)案をIWC科学者委員会へ提出し、科学委員会の検討を経て、最終化し、2015年冬期より調査を実施している。新南極鯨類科学調査計画(NEWREP-A)は、日本の調査プログラムであり、その目的の一つは、将来的なミンククジラの商業的捕鯨枠の算出に貢献するため、RMPで用いる生物学的・生態学的情報(例えば、資源の年輪組成、性成熟年齢やそれらの変動)を高精度に把握することである。調査では目視による資源量推定、捕獲を通じたクロミンククジラの年齢組成・性成熟・系群等の把握、その他鯨種の皮膚サンプルの収集、衛星標識・データロガーを用いた回遊・接餌行動の観察等を行い、より精度高く資源の動態メカニズムを把握する。もう一つの目的は、鯨に加えてその餌環境を調査することで、鯨類を中心とした南極海生態系モデルを構築し、その構造や動態を研究することである。鯨類の栄養状態の解析やオキアミ資源量の把握はその一環である。生態系モデルの構築は、持続可能な捕獲頭数の算出にとどまらず、南極海生態系の理解促進という科学的に重要な課題にも対応することができる。また、調査では、非致死的な調査手法の実行可能性、有用性を検証し、より適切な手法の組み合わせを模索していくことにしている。また、2014年JARPAIIについては、ICJ判決に照らし、調査目的を限定するなどして、規模を縮小して実施したほか(沿岸:ミンククジラ102頭、沖合:イワシクジラ90頭、ニタリクジラ25頭)、非致死的方法(バイオプシーを用いた表皮採取、脱糞行動の観察と糞採取)の実行可能性調査も合わせて実施している。


(4)北太平洋鯨類目視調査

商業捕鯨再開に向けたIWC科学委員会の包括的鯨類資源評価及びRMP運用試験に供するため、我が国では引き続き主要大型鯨類資源の情報を取得していく必要があり、またIWC管轄外鯨種を対象に日本が自主管理している小型捕鯨業及びいるか漁業の対象種についても資源状態を把握しつつ適切に資源管理を実施する必要がある。このため、国際水研が主体となり目視調査航海を行い、主要鯨類の資源量を推定している(図3)。実施体制としては水産総合研究センター船並びに用船による調査である。また、近年では東シナ海や日本海南部において韓国と、また日本海北部やオホーツク海、カムチャッカ半島近辺ではロシアと共同調査を実施するなど、国際的な研究協力も行われている(宮下 2001)。前述のように、IWC及び日本によるPOWERが、大型鯨類資源に関する情報収集を目的に2010年から北太平洋で実施されている。

なお、目視調査で得られた情報に基づく資源量推定値がRMP運用試験において正式データとして採用されるためには、IWC科学委員会のRMP分科会に計画書を提出してレビューを受ける必要があり、またIWCが選任した監視員が乗船することが求められる。


(5)複数種一括管理モデルについての取り組み

複数種一括管理については国際連合食糧農業機関(FAO)などの国際機関で検討が進められており、IWCでも餌生物をめぐる鯨類と漁業の競合が論議されている。北大西洋ではNAMMCOを中心に、捕鯨を含む漁業国であるノルウェーやアイスランドによりMULTISPECと言われる高次捕食者と漁業資源からなるモデルの開発と応用が進められている(Bogstad et al. 1997)。我が国では1997年に種別のTACによる資源管理が始まったばかりで、複数種一括管理については研究段階にある。しかし、現実の海洋生態系では生物の間の捕食・被食関係が個々の資源の変動に大きく関わっており、鯨類や魚類の資源管理においても当然考慮すべきものである。そのためには、生態系モデルの構築が不可欠となっている。

2000年に始まったJARPNIIの主要な目的は、鯨類の捕食量や餌への嗜好性の推定、そして複数種一括管理に向けたモデルの構築にある(Government of Japan 2000)。これまでの調査により、鯨類の捕食量は、例えば道東沖ではカタクチイワシ、サンマ、スケトウダラ、スルメイカでそれぞれ、1万〜1.5万トン、3,500〜5,000トン、0.6万〜1万トン、1,600〜2,500トンと推定され、右漁場における漁業との競合は十分考えられる(Tamura et al. 2004)。鯨類の餌への嗜好性についても、例えば道東沖の秋季のミンククジラは大陸棚上と親潮域に生息し、大陸棚上ではカタクチイワシ、オキアミ、スケトウダラ、スルメイカを捕食し、親潮域では半数の個体がサンマを捕食していた。海中の餌の組成と比較すると、ミンククジラは一般に豊富な餌を食べると言えるが、スルメイカやカタクチイワシへの嗜好性が高かった。JARPNIIの対象外である鯨類以外の高次捕食者については、漁業などから標本を収集し、耳石の同定マニュアル(図4)などを用いて胃内容物の分析を進めている。

こうした情報を用いて、まず静的なモデルで生態系全体を把握するのに役立つEcopath型モデルで生態系の基本的な構造を解析した(図5)。その結果、北西太平洋の沖合域では鯨類と漁業の間に漁業資源を巡る競合が起きている可能性が高いと判断された(Okamura et al. 2002)。次に基礎的なMULTISPEC型モデル(生態系の一部である高次捕食者や漁業資源に焦点を当てて、個々の種を年齢別尾数で扱う個体群動態モデルに捕食・被食などの種間関係を組み込んだ生態系モデル)を構築しテストランを行った。対象種はミンククジラ、オキアミ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラ(後に追加)で、漁業も考慮されている(図6)。月単位の計算は、対象種の海域間の移動、捕食・被食、漁獲による減少、自然死亡(被食と漁獲以外)による減少、成長の順序で行われる。テストランの結果では、餌への嗜好性に加えて、捕食者と餌の分布の重なりが重要であることが判明している(Kawahara and Hosho 2004)。一方、仙台湾ではイカナゴ、ミンククジラ及びオットセイを対象種としたベイズ型生態系モデルが構築されつつある(Okamura et al. 2009)。

JARPNIIは、種間関係や鯨類と漁業の競合に関する仮説を検証しようとしている(Government of Japan 2002)。具体例としては、@鯨類は漁業の漁獲量と比べて大量の漁業資源を消費しているか、A鯨類による消費は餌生物の自然死亡や加入に重大な影響を与えているか、B逆に、餌生物の豊度や分布は鯨類の回遊様式、加入あるいは性による地理的分離に影響しているか、C鯨種間あるいは鯨類とオットセイ、まぐろ類、さめ類と言った他の高次捕食者に直接的あるいは間接的な競合はあるか、Dマッコウクジラは表層生態系に影響を与えるか、という5つが挙げられる。今後の調査研究によりこうした仮説への回答が得られることが期待されている。

IWCでは2009年1月に、JARPNIIの中間的な成果に関する独立専門家によるレビュー会合を開催した。その結果、当初の目的に向かって着実に進捗しているとの評価がなされた。2回目のレビュー会合が、2016年2月にJARPNIIの成果のレビューが予定されており、その結果は2016年6月の第66b回IWC科学委員会に報告される。


(6)新海洋産業管理及び希少生物管理

近年では、小笠原、座間味、土佐湾、笠沙等でのホエールウオッチング、また伊豆諸島や小笠原などドルフィンスイムなどの新海洋産業の発展が著しい。これら新産業は行政管轄のはざまにあり、必ずしも産業として適切に管理されていない。したがって、これらの管理にも対象資源の管理研究が必要であるばかりでなく、沿岸性鯨類の分布や移動、系群構造などに関する情報のニーズも高く、これを受ける形で国際水研が現地機関と連携しつつ土佐湾で分布調査や生息数調査を実施している。


(7)その他

その他、海洋汚染、混獲問題などへの対処に関する調査研究が行われている。また、市場に流通する鯨肉のDNA鑑定に関する研究も行われている。


主な大型鯨類の資源量

大型鯨類の資源量推定値については、IWCのウェブサイト(https://iwc.int/estimate)に主要なものがまとめられている(表1)。


執筆者

国際水産資源研究所 国際海洋資源研究員

宮下 富夫


参考文献

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