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49 クロミンククジラ 南極海・南半球

Antarctic Minke Whale

Balaenoptera bonaerensis

                                                       
PIC
図1.クロミンククジラの外形。(北半球産に見られる胸鰭付け根の白帯がないのが特徴)

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本種の呼称

ミンククジラはこれまでBalaenoptera acutorostrata(英名:Minke Whale)として、北太平洋、北大西洋及び南半球に分布するものを含め1種として考えられてきた。近年、遺伝学や形態学及び骨学的研究の進展に伴い見直しが行われ、南極海のミンククジラが北半球のミンククジラと異なる種として認められたため、学名B. bonaerensis、英名 Antarctic Minke Whaleとし(Rice 1998、IWC 2001)、加藤ほか(2000)は西脇(1965)の命名を復活させ、和名をクロミンククジラとした(図1)。本種はミナミミンククジラと呼ばれることもあるが、捕鯨業界での慣習も考慮し、ここではクロミンククジラを使用する。


最近の動き

2014年にスロベニアで開催された国際捕鯨委員会科学委員会(IWC/SC)では、インド洋と太平洋に分布するクロミンククジラの生物学的特性、資源量と分布、系群及び統計的年齢別捕獲頭数解析(Statistical catch at age analysis、SCAA)に関する検討が主に行われた。検討の結果、インド洋と太平洋に分布するクロミンククジラの詳細な資源評価は長期にわたり蓄積された情報を利用すれば可能と判断され、そのための作業グループが設立された。


利用・用途

鯨肉は主に刺身や大和煮として食されている。また、ヒゲ板は工芸品として利用される。商業捕鯨モラトリアム導入以前には、工業原料として鯨油が利用されていた。


図2

図2. 南極海母船式捕鯨による鯨種別捕獲頭数の変遷(加藤 1991を改変)
赤色がクロミンククジラを示す。


図3

図3. 耳垢栓変移相の観察に基づくクロミンククジラの成熟年齢の経年変化(Kato 1987を改変)
標本を年級群で分けた場合(上)と成熟年齢で分けた場合(下)


図4

図4. クロミンククジラの年級群別(出生年度別)成長曲線(Kato 1987を改変)
年級群は10年ごとにプールした。


付表

付表. 南半球におけるクロミンククジラの国別捕獲頭数
1990/1991年までは川島・加藤(1991)に、それ以降は国際捕鯨統計による


漁業の概要

母船式及び沿岸大型捕鯨業が盛んであった1970年代初めまでの主要捕獲対象は、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ及びマッコウクジラなどの大型鯨であり、小型のクロミンククジラは商業的価値も低く、IWCでも1972年以前は規制の対象ではなかった。しかし、IWCが1975年に新管理方式(NMP)を導入して以後、次々と主要鯨種の捕獲が禁止されるにしたがって、徐々に商業的価値が高まった(図2)。

国際捕鯨統計によると、1951/1952年度のソ連船団による9頭の捕獲が、統計上に見えるクロミンククジラの最初の捕獲記録である。1950年代後半には年間100〜500頭が捕獲されていたが、以後1970年代初頭になるまでの捕獲は極めて少なかった(付表)。

日本は1963/1964年度に少数の捕獲を行い、また1967/1968年漁期に仁洋丸船団による試験操業(597頭)を経て、1971/1972年度に3,000頭あまりを捕獲して本格的な捕鯨を開始した。翌1972/1973年度からBWU換算方式の廃止とともに鯨種別捕獲枠設定が開始されたほか、この漁期からソ連が本格的に本種対象の操業に参入し、捕獲数は6,500頭あまりに増加し、年々増加した。1975/1976年度からNMPの導入によって、捕獲枠設定が比較的スムーズに行われるようになった。また、1978/1979年度からはイワシクジラが禁漁となって、クロミンククジラの重要性がますます高まった。1979/1980年度にはクロミンククジラを除く母船式操業が禁止となり、この決定によりマッコウクジラも事実上捕獲不可能となって、南極海で捕獲できる鯨種はクロミンククジラのみとなった。一方、1978/1979年漁期からはIWC国際鯨類調査10か年計画(IWC/IDCR)(1996/1997年度からはIDCRを引き継ぐ形で南大洋鯨類生態系総合調査計画(SOWER)として実施)の下に本種の資源量調査が始まり、この調査の貢献によって科学的に充実した資源情報の下で管理が行われ、本種対象の捕鯨については6,500〜8,000頭の間で安定した操業が行われていった。つまり、クロミンククジラを対象とする操業は他種を対象とする場合と異なり、資源管理が強化されて以後に資源開発が始まり、また資源調査の充実や資源量に対する捕獲率が低いこともあって、資源の悪化を招くことなく比較的順調に操業が行われてきたと考えられる。しかし、IWCは1982年にこうした資源を含む商業捕鯨の全面モラトリアムを採択した。

日本、ソ連、ノルウェー(北大西洋のみ)などはその後異議申し立ての下に捕鯨操業を継続し、南極海では1984/1985年漁期以降も年間5,000頭あまりのクロミンククジラが捕獲されていた。しかし、日本とソ連は対外関係を考慮して、1986/1987年漁期を最後に操業を取りやめた。なお、日本は1987/1988年度からは国際捕鯨取締条約第8条で締約国に認められた自国民への特別許可発給の権利を行使し、資源管理強化に不可欠な生物学的特性値を得るために南極海鯨類捕獲調査(JARPA)を開始した。この計画は当初の2シーズンを予備調査とし、1989/1990年度より本格的調査に移行した。JARPAは南極海のIV区とV区を毎年交互に調査しており、初期には本種の計画標本数を300頭±10%として捕獲していたが、1995/1996年より系群の東西方向の広がりを調べる目的から調査海域にIII区東半分とVI区西半分を追加して拡大し、計画標本数も400頭±10%に増加させた。その後、2004/2005年度で18年にわたった長期調査を終了した。JARPAにより得られた情報の解析を通して、鯨類を中心とする南極海生態系の構造が現在もなお変化し続けていることが示唆されたため、このような変化を検証するために、第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPA II)を2005/2006年度より開始した(本種の計画標本数を850頭±10%として捕獲。その他、ナガスクジラ及びザトウクジラも捕獲対象に加わった)。しかしながら、日本は2014年の国際司法裁判所「南極における捕鯨」訴訟判決を受け、JARPAIIを取りやめた。2015/2016年以降の調査については、判決で示された基準を反映させた新南極海鯨類科学調査(New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean:NEWREP-A)計画案を策定し、IWC科学委員会へ提出した(2014/2015年は目視調査のみを実施)。

この他、過去には南半球の中低緯度において、ブラジル(1971〜1983年)と南アフリカ(1972〜1975年)が共に自国の沖合で本種を対象とした捕鯨操業を行っていた。


生物学的特徴

クロミンククジラは、南半球の夏季に南極海の索餌場まで南下回遊し、冬季には中低緯度の繁殖場まで北上回遊していると考えられている。1回の妊娠で1頭を孕むことが普通で、多胎は稀である。本種の妊娠期間は10.5〜11か月と推定されており(Lockyer 1984、加藤 1990)、出生体長は2.80〜2.85 m(Ohsumi 1966、加藤 1990)と推定されている。授乳期間に関する直接的な情報はないが、おおよそ3〜4か月程度と考えられている(Williamson 1975、Best 1982、Kato and Miyashita 1991)。

他のナガスクジラ科種の妊娠周期が2〜3年周期であるのに対し、クロミンククジラは平均で1.28年周期(Best 1982)と短い。こうした短い妊娠周期を維持し、かつ交尾のタイミングを逃さないために、授乳中にすでに次の妊娠に入る個体がおり、低緯度海域で新生児を離乳したものから随時、索餌のために南下回遊する方式をとり、繁殖周期と回遊周期の調整を行っていると考えられている(Kato and Miyashita 1991)。一般に、ひげ鯨類は性成熟に達した後は生涯にわたって妊娠し続け、老齢になっても妊娠率は低下しないと考えられているが、本種では性成熟後35年以上経過すると、見かけ上では妊娠率が低下する傾向が見られている(Kato et al. 1984)。

クロミンククジラは雄が体長7.9 m、雌が8.2 mで性成熟に達する(Kato 1987)。性成熟体長は生息密度や環境の変動によっても変化しない(Kato 1987)。一方、性成熟年齢は密度依存的に変化することが知られており、耳垢栓変異相(性成熟年齢の指標;Lockyer 1972、Kato 1982;図3)を用いた解析から、クロミンククジラの平均性成熟年齢は、1940年代には11〜12歳であったが、商業的捕獲が開始された当初の1970年代初頭には7歳前後にまで若齢化した事が判明した(Masaki 1979、Kato 1987、Kato and Sakuramoto 1991)。この(商業的捕獲開始以前の)変化は、生態的競争種のシロナガスクジラやナガスクジラの資源が減少したため、個体あたりの摂餌量が増加して成長が速まり、結果として性成熟年齢が若齢化したと解釈されている(Kato 1987;図4)。この若齢化現象については、本種の資源管理上に大きな影響があるため、その真偽を巡りIWC/SC では長期にわたって激しい議論が交わされてきたが、1997年のIWC/SC年次会議において、若齢化現象が真実であることが証明され、15年間に及ぶ論争に決着がついた(IWC 1998、Thomson et al. 1999)。

本種の(標本中の)最高年齢は62歳であるが(加藤 1990)、これは異例に高く、通常は50歳前後が寿命と考えられる。本種の自然死亡係数は、かつては近縁種間の類推から0.086(Ohsumi 1979)から0.088(Kato 1984)程度と一応の合意があったが、現在では年齢依存的に変化するものと考えられており、この年齢依存的自然死亡係数の推定がJARPAの主目的の一つであった。

食性は、ナンキョクオキアミヘの依存度が高く、選択的に同種を捕食する傾向が強い(Ichii and Kato 1991、Tamura and Konishi 2009)。1日の摂餌量は体重の5%強に達する(Kato and Shimadzu 1983)。


資源状態

IWC/IDCR-SOWERによる国際資源調査の結果、クロミンククジラ資源量推定値が得られている。同調査プログラムでは6年以上もの年月を費やして南極を1周する周極目視調査が計3周行われた。2012年のIWC/SCにおいて、OKモデルと呼ばれるモデルの結果をベースに、SPLINTRと呼ばれる空間モデルからの結果を補正に使った資源量推定値が提示され、最終的にIWC/SCで合意された資源量推定値となった(岡村 2012)。合意された資源量推定値は、2回目の周極目視調査(1985/86-1990/91)の推定値は72万頭、95%信頼区間は[512千頭、1,012千頭]となった。3回目の周極目視調査(1992/93-2003/04)の推定値は52万頭、95%信頼区間は[361千頭、733千頭]となった(IWC 2013)。1回目の周極目視調査(1978/79-1983/84)では、調査線上の見落とし確率を推定するための独立観察者実験が行われなかったため、1回目の周極目視調査の個体数は推定されなかった。2015年以降、IWC/SCによって、長期にわたり十分なデータが蓄積されているインド洋と太平洋に分布するクロミンククジラの詳細な資源評価が完了する予定である。インド洋と太平洋以外の海域については、情報が不足しているため、詳細資源評価が行えるかどうか予備的に検討される予定である。


管理方策

クロミンククジラの資源は、1990年の包括的評価によって、利用可能な資源であることが明らかとなり、改定管理方式(RMP)の運用のための適用試験が開始されようとしたが、1994年に科学的根拠を有さない「南大洋サンクチュアリー」がIWCにおいて採択され、これによりおおよそ南緯60度以南の海域が保護区とされた。これに対して我が国は、本種について「南大洋サンクチュアリー」に対する異議申し立てを行っており、本種に関する限り、その効力は我が国には及ばない。

国際捕鯨取締条約のうたう鯨類資源の持続的利用を推進している我が国としては、締約国の使命として資源調査を積極的に行い、正しい情報のもとに適切な判断が下されるよう、関係国と協調しながら継続的モニタリングを行っていく必要がある。


クロミンククジラ(南極海-南半球)の資源の現況(要約表)

資源水準 作業中
資源動向 検討中
世界の捕獲量
(最近5年間)
なし(商業捕鯨モラトリアムが継続中)
我が国の捕獲量
(最近5年間)
JARPA IIにより年間103〜679頭
(2009/2010年〜2013/2014年)
管理目標 商業捕鯨モラトリアムが継続中であり、未設定
資源の状態 2012年のIWC/SC で合意された資源量推定値は、2回目の周極目視調査(1985/1986-1990/1991)の個体数推定値72万頭、3回目の周極目視調査(1992/1993-2003/2004)の推定値52万頭。南緯60度以北、海氷域内にも相当数が分布。
管理措置 商業捕鯨モラトリアムが継続中
管理機関・関係機関 IWC
最新の資源評価年
次回の資源評価年

執筆者

東京海洋大学 海洋科学部 海洋環境学科

加藤 秀弘

財団法人 日本鯨類研究所

藤瀬 良弘

外洋資源ユニット
鯨類サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 鯨類資源グループ

村瀬 弘人

参考文献

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