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39 アブラツノザメ 日本周辺

Spiny Dogfish

Squalus suckleyi

                                                                          
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最近の動き

2013年の我が国周辺のアブラツノザメの推定漁獲量は3,300トンであり、近年の漁獲量は横ばい傾向で推移している。沖合底びき網漁業(以下、沖底)及び底はえ縄の標準化CPUEは近年増加傾向にあり、アブラツノザメの主分布域である津軽海峡周辺では資源の増加傾向が認められる。


利用・用途

第2次世界大戦前後は、ビタミンA、肝油の原料としてかなりの需要があったが、合成ビタミンAの普及によりアブラツノザメ漁業は衰退した。東北地方では刺身や煮物、照り焼きなどで食されるほか、ちくわ等の練り製品原料として利用される。また、近年、肝油や軟骨エキスなど健康補助食品の原料の一つになっている。


図1

図1. さめ類漁獲量から推定したアブラツノザメの漁獲量


表1

表1. カナダ西岸のアブラツノザメの雌雄別海域別年齢−全長関係式(Ketchen 1975)


図2

図2. 2011年の沖合底びき網漁業によるアブラツノザメの漁獲量分布


図3

図3. 青森県におけるさめ類の漁獲量(まぐろはえ縄、流し網を除く、1971〜2013年)
1971〜2002年は青森県漁業の動き、2003年以降は青森県海面漁業に関する調査結果書(属地調査年報)より作成


図4

図4. アブラツノザメ類の分布(阿部 1986を改変)
オレンジ色: Squalus suckleyi、ピンク色: S. acanthias


表2

表2. アブラツノザメの雌雄別海域別年齢−全長関係式(Ketchen 1975)


図5

図5. カナダ西岸のアブラツノザメの雌雄別海域別年齢−全長関係(Ketchen 1975より作成)


図6

図6. 太平洋北区における沖底(かけまわし漁法)の標準化CPUE(標準化CPUEは1が平均値となるように基準化、破線は95%信頼区間の上限値と下限値)


図7

図7. 津軽海峡内で操業を行う底はえ縄のノミナルCPUE(標準化されていないCPUE)と標準化CPUE(各CPUEは1が平均値となるように基準化、破線は95%信頼区間の上限値と下限値)


図8

図8. 太平洋北区における沖底(かけまわし漁法)の有漁網数(アブラツノザメが漁獲された操業日の網数)の推移


図9

図9. 青森県主要港(三厩及び大間)における底はえ縄の延べ操業隻数の推移


漁業の概要

アブラツノザメは多くの統計資料でさめ類として扱われているため、単一種としての漁獲量は明確ではない。1953〜1967年の一時期にのみ都道府県別のアブラツノザメの漁獲統計が整備されていたことから、これらから都道府県別にさめ類の漁獲量に占めるアブラツノザメの割合を求め、各年のさめ類漁獲量からアブラツノザメの漁獲量を推定した(図1)。文献情報とあわせ、アブラツノザメの漁業及び漁獲の概要を以下にまとめた。

アブラツノザメは北日本の太平洋側や日本海側では、かなり古い時代から漁獲されていたものと思われる。本種が漁獲対象として注目されるようになったのは明治30年代末頃からであり、北海道、青森、秋田、石川県などで当初はマダラなどを対象とした底はえ縄漁船の兼業対象種として漁獲された(田名部ほか 1958)。大正年間に至り、同種を対象とした漁業は、魚粕の高値に伴って一時的に発展したり、価格の暴落により衰退したりを繰り返した。また、北海道や青森県などで底刺網が導入され、北海道では各地に普及して大きな漁業となっていったが、青森県では3〜4年で再び底はえ縄に転換する漁船が多かった。昭和初期になると、機船底びき網でアブラツノザメを漁獲するようになったが、第2次世界大戦頃には資材の不足により底はえ縄による漁獲が主体となった。太平洋戦争後は食糧増産政策に伴い主に機船底びき網により積極的に漁獲されるようになり、急激に漁獲量が増加して1952〜1955年の平均漁獲量は42,000トンに達した。その後、本種の漁獲量は、1950〜1960年代の合成ビタミンAの普及による国際取引の減少とそれに伴う魚種単価の下落により急激に減少した。現在、本種の主な漁獲は、以前に比べて同種を主対象とした操業が減少した沖底と本種を漁獲対象とする底はえ縄漁業により行われており、さめ類全体の漁獲量より推定した漁獲量は1990年以降、2,900〜4,600トンで比較的安定して推移している。このように、1950年代まではビタミンAの原材料として肝油を得るためにかなり積極的に本種が漁獲されてきたが、その後、合成ビタミンAの普及、価格低下などにより需要は大きく減少したと考えられ、アブラツノザメ漁獲量の増減は努力量の質的変化や操業パターンの変化によるものと思われる。近年の本種の漁獲は、アブラツノザメを漁獲対象として一部地域で行われている小規模漁業によるところが大きい。

近年の沖底船による緯度経度10分升目の漁獲量分布をみると、太平洋側、日本海側ともに東北地方北部に漁獲の多い場所が集中しており、なかでも青森県の津軽海峡周辺での漁獲が多い(図2)。このことから、近年の本種の主分布域は津軽海峡周辺と考えられる。

近年の漁獲量の半分程度を占める青森県の漁獲統計では、さめ類にまとめられているものにアブラツノザメが多く含まれている。そこで、漁獲統計資料の漁業種別魚種別漁獲量から、まぐろはえ縄など表層性のさめ類を多く含むと考えられる漁法を除いた数値をアブラツノザメの漁獲量として集計した(図3)。これによると、1971年以降、アブラツノザメと考えられるさめ類の漁獲量は増加し、1976年には3,300トン程度となった。1980年代及び1990年代の漁獲量は若干減少して1,100〜2,500トン程度でほぼ横ばいで推移し、2004年には740トンに減少した後、2005年以降増加に転じている。2013年の漁獲量は合計1,770トンで、沖底で490トン(28%)、底はえ縄で1,090トン(61%)の漁獲があり、アブラツノザメを狙って操業している底はえ縄の漁獲量が大きな割合を占めている。


生物学的特徴

【分布】

北太平洋のアブラツノザメについて、形態学的・遺伝学的な比較により北太平洋以外のSqualus acanthiasと別種のS. suckleyiであるとする報告がなされたため(Ebert et al.. 2010)、本報告では日本周辺のアブラツノザメをS. suckleyiとして扱った。

北太平洋の陸棚域全域に広く分布し(阿部 1986、図4)、日本周辺は本種の分布の西端にあたる。東北、北海道の沖合に多く、太平洋側では千葉県以北、日本海側では日本海の西部まで生息している(吉田 1991)。東北地方の太平洋側では水深150〜300 mに分布する。


【産卵・回遊】

本種は胎生で、妊娠期間は20〜22か月と長く、全長30 cm程度に成長した胎仔は2〜5月に産出される(吉田 1991)。日本周辺では、1950年代以前に日本海側と太平洋側のそれぞれにおいて、秋冬に南下し、春夏に北上する群れが存在したとの報告がなされているが(田名部ほか 1958)、近年の移動回遊が昔と同じかは明らかとなっていない。北太平洋では、1978〜1998年にカナダ太平洋岸で標識放流されたアブラツノザメ約71,000個体のうち、30個体が日本周辺海域で再捕されており(McFarlane and King 2003)、本種は北太平洋を広範囲に移動していると推定されるが、日本周辺から標識放流した個体の北米西岸での再捕記録は現在のところ得られていない。そのため、日本周辺と北米を往来しているのか、北太平洋で1つの系群なのか東西で異なるのかなどは明らかではない。

北日本の沿岸域でも出産すると推定されるが、繁殖場は特定されていない。


【成長・成熟】

カナダのブリティッシュコロンビア州沿岸水域では生後30年で雄は全長90 cm、雌は1 mに達し、雌は60歳以上になる(図5、表1)。成熟年齢は、雌では生後23年(全長約90 cm)、雄では生後14年(全長約70 cm)である(Ketchen 1975)。


【食餌・捕食者】

主に魚類及び頭足類を捕食し、サケやマダラ等の有用魚種も捕食する(Sato 1935、三河 1971)。我が国周辺では東北地方沖の太平洋でマダラの胃内容物として出現していることが報告されている(橋本 1974)。


資源状態

【資源の動向】

資源密度の指標値として、1972年以降の沖底漁獲成績報告書から集計した太平洋北区のかけまわし(1そうびき沖底)のCPUEと、主要な漁場である津軽海峡における1979年以降の青森県の底はえ縄による漁獲量及び延べ操業隻数から求めたCPUEを用い、資源の動向を検討した(図6、図7)。各漁法のCPUEにおいて、季節及び海域の特異的な影響を除去して資源状態の年トレンドを抽出するため、一般化線形モデル(GLM)による標準化を行った。なお、太平洋北区のかけまわしでは、様々な魚種を漁獲対象として操業するため、標準化の際に狙い操業の影響も考慮した。また、東日本大震災前後で操業実態が変化している可能性があるため、2010年以前と2011年以降に分けてCPUEを解析した。

太平洋北区の沖底では3つの漁法による操業が行われている。青森県ではかけまわし、岩手県では2そうびきとかけまわし、宮城、福島、茨城、千葉の各県ではオッタートロールであるが、アブラツノザメの漁獲が多いのは襟裳西〜尻屋崎海区で操業する青森県のかけまわしである。近年のかけまわしによるCPUEは2000年代前半の約150 %程度を示している(図6)。また、分布域の中心にある津軽海峡内の底はえ縄ではアブラツノザメを狙った操業が行われているが、近年の底はえ縄のCPUEも2000年代前半の約140 %の水準を示しており(図7)、本資源は2000年代中頃から明確な回復傾向にあると考えられる。さらに、底はえ縄の1979〜2013年のノミナルCPUE(標準化されていないCPUE)は、1954〜1956年に比べて高い水準にある。

以上のように漁獲量、沖底及び底はえ縄のCPUEの動向から、日本周辺における近年のアブラツノザメ資源は悪い状態にあるとは言えず、比較的安定しており、2004年以降は増加傾向にあると判断される。また、現在の漁獲量水準は持続可能であると判断される。


【漁獲圧の動向】

本種を対象とした漁獲統計が未整備であることから、我が国周辺のアブラツノザメに対する漁獲圧の全体像を把握することは困難である。ここでは、太平洋北区のかけまわしの有漁網数及び津軽海峡で操業する青森県の底はえ縄漁船の延べ操業隻数の推移から漁獲圧の動向を調べた。

尻屋崎海区のかけまわしでは、1980年以降のアブラツノザメの有漁網数は増減を伴いながら横ばい傾向で推移している(図8)。襟裳西海区では、1998年以降、減少傾向にある。2013年の有漁網数は、尻屋崎海区で6,000回と前年より増加し、襟裳西海区では700回とやや減少した。岩手海区のかけまわしの有漁網数は大きく減少しているが、これは、かけまわしから2そうびきへの転換が進んだためである。1999年以降は1,000回前後で安定していたが、2011年には東日本大震災の影響により390回に減少した後、2012〜2013年には760〜900回に回復した。以上のことから、近年の太平洋北区のかけまわしの漁獲努力量は、増減を伴いつつ全体としては横ばい、あるいはやや減少傾向と判断される。

底はえ縄の努力量は、三厩では1996年の1,100隻から減少傾向にあるが、大間では近年増加しており(図9)、全体としては1978年以降、増減を伴いながらほぼ横ばいと考えられる。


管理方策

漁獲量が比較的多い青森県三厩の底はえ縄漁業者は、小型魚や出産への貢献度が高いと考えられる高齢魚を再放流しており、さらに、漁獲量の上限を設定するなど、資源保全に向けた取り組みを行っている。なお、2007年のワシントン条約第14回締約国会議においてドイツから、2010年の第15回締約国会議においてスウェーデンから附属書Uへの掲載が提案されたがいずれも採択されず、2013年の第16回締約国会議へ向けた掲載提案は行われなかった。


アブラツノザメ(日本周辺)資源の現況(要約表)

資源水準 悪い水準ではない
資源動向 増加
世界の漁獲量
(最近5年間)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
2,905〜4,576トン※
平均:3,625トン(2009〜2013年)
(近年の漁獲量は持続可能)
管理目標 検討中
資源の状態 検討中
管理措置 検討中
管理機関・関係機関 なし
最新の資源評価年
次回の資源評価年
※漁獲量は全国のさめ類漁獲量と過去のさめ類に占めるアブラツノザメの平均的な割合から推定した値(2013年は暫定値)

執筆者

かつお・まぐろユニット
かじき・さめサブユニット
東北区水産研究所 資源海洋部 資源管理グループ

服部 努・伊藤 正木・矢野 寿和


参考文献

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