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71 クサカリツボダイ

North Pacific Armorhead

Pseudopentaceros wheeleri

                                               
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図1. クサカリツボダイ(上は体高が高い個体、下は体高が低い個体)

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最近一年間の動き

近年の天皇海山海域におけるクサカリツボダイの全漁獲量は、1,000〜8,000トンと変動しつつも、2009年までは低いレベルに留まっていた。2010年の漁獲量は、我が国のみでも17,000トンと前年の10倍以上であったが、2011年の漁獲量は、2,785トンに留まった。また、2012年3月我が国において、クサカリツボダイの資源評価ワークショップが開催され、本種の資源評価には、生物特性や漁業に関する情報のさらなる充実の必要性が再確認された。


利用・用途

本種は冷凍ドレスとして塩竃、石巻、釧路で荷揚げされ、一夜干し、粕漬け、みそ漬け等の加工品の原料となる。


表1

表1. 日本、韓国、ロシアによる漁業種類別のクサカリツボダイの漁獲量(2012年条約科学者会議提出資料footprintより)


図2

図2. 北西太平洋に点在する海山群
(操業が行われる主な海山は、推古海山から南東方向にコラハン海山までとなっている)


図3

図3. クサカリツボダイの産卵場及び成育場(一部、小笠原諸島沖にも成育場が分布している


図4

図4. 我が国の底びき及び底刺し網漁業による天皇海山海域でのクサカリツボダイの漁獲量の時系列


漁業の概要

中部北太平洋には、天皇海山と呼ばれる海山群とハワイ海嶺と呼ばれる海山群があり、ここでは、これらの海山群を総称して、天皇海山と呼ぶ(図2)。海山の中にはギヨーと呼ばれる水深300〜500 mの広い平頂部を持つ海山があり、底びき網漁船の漁場となっている(Sasaki 1986、水産庁 2008a)。また、海山の斜面域や水深が深く底びき網漁船が操業できないような海域では、底刺し網漁業が行われている(水産庁 2008b)。過去に漁業が行われてきたのは北緯44度付近にある推古海山から北緯29度付近にあるハンコック海山にかけての海山である。ただし、現在、ハンコック海山は米国のEEZ内にあるため、外国漁船は漁業を行うことはできず、また米国漁船の操業も禁止されている。天皇海山における主漁獲対象種は、クサカリツボダイ、キンメダイ及びオオメマトウダイである。特にクサカリツボダイは、漁獲量が最も多く、重要な漁獲対象種になっている。

天皇海山海域のクサカリツボダイ資源は1967年に旧ソ連によって開発され、我が国は1969年から底びき網漁業を開始した。日本漁船の漁獲量の推移を見ると、1972年に35,000トンとピークに達した後、急速に減少した。1992、2004、2010年には一時的に10,000トンを超え、卓越年級群が加入したと考えられている(表1)。それ以外の年は、1,000トン前後と低位であったが、近年は1,000〜8,000トンと変動が大きい。2011年の我が国漁船の操業は、底びき網漁船5隻、底刺し網船1隻であった。2012年9月には、2006年の国連総会で採択された持続的漁業に関する決議(A/RES/61/105)に基づき、天皇海山海域の底魚漁業を含めた「北太平洋公海漁業資源の保存及び管理に関する条約」が最終化された。現在は、本条約が発効するまでの暫定的な措置として、禁漁期の設定、漁船隻数の制限等の管理措置を各国の自主的な取組として実施しているところである。韓国は2004年から本格的にこの海域における漁業を行っており、近年は底びき網漁船2隻で操業を行っている。2010年の漁獲量は、3,000トンであったが、それ以外の年は100〜900トン程度で推移している。ロシアも2002、2005、2006年にクサカリツボダイを漁獲していたが、漁獲量も少なく、近年は漁獲されていない(表1)。


生物学的特徴

【種名】

天皇海山海域で漁獲されているクサカリツボダイは、スズキ目カワビシャ科に属し、当初Pentaceros richardsoniと考えられていたが(Borets 1981)、Humphreys et al.(1989)によってP. richardosoniとは別種のPseudopentaceros wheeleriであることが明らかになった。また、天皇海山海域のクサカリツボダイには体高が高いものと低いものの二型が見られるが(図1)、Humphreys et al.(1989)はそれらのアイソザイム分析を行い、遺伝的に差がないことを示した。一般に、漁業者及び加工業者は体型の違いによって、ツボダイ、本ツボ、クサカリツボダイなどの呼び方で取引を行っているが、すべて同種のクサカリツボダイである。


【分布と回遊】

天皇海山海域のクサカリツボダイ成魚は水深300〜500 mに最も多く分布しているが、カルフォルニア沖、伊豆・小笠原諸島周辺、九州、パラオなどの海山海域にも個体数は少ないが分布している(図3)。後述するように、海山上で11〜2月に産卵を行い、卵仔稚魚は1〜3月には海山上の表層域に分布している(Mundy and Moser 1997、水産庁 1997)。その後、幼魚は北緯40〜50度、西経140〜180度付近の表層域に移動して約2年間浮遊生活する(Boehert and Sasaki 1988、Uchiyama and Sampaga 1990、Humphreys 2000)。クサカリツボダイが浮遊期を終えて海山海域に着底するのは、着底生活でのみ見られる鰓の寄生虫の付着状況から、5〜7月の初夏と考えられている(Humphreys et al. 1993)。


【産卵】

雌の生殖腺指数(GSI)の月別変化(佐々木 1973, 1974)や肉眼による生殖腺の観察(井口 1973)から、クサカリツボダイは冬季に産卵すると考えられている。Yanagimoto and Humphreys(2005)は生殖腺の組織学的な観察から、11〜2月頃に産卵することを報告している。


【食性】

クサカリツボダイ成魚の主な餌生物はヒカリボヤやサルパであり、ウキビシガイなどの翼足類、ムネエソ類などの魚類、オキアミ類などの甲殻類も捕食する(Seki and Somerton 1994)。


【系群】

天皇海山海域の各海山から収集したクサカリツボダイのmtDNA分析によれば、海山間での遺伝的差異は認められなかった(Martin et al. 1992)。柳本ほか(2008)は天皇海山海域、太平洋の表層域、八丈島からサンプルを採取し、mtDNAのPCR-RFLP分析を行ったが、遺伝的差異は検出されなかった。前述の通り、冬に各海山海域で生まれた仔稚魚は3月頃まで海山上の表層域に留まっているが、幼魚期になると北東太平洋に広く分布するようになり(Yatsu et al. 1993)、2〜3年後に海山海域に回帰すると考えられている(Boehert and Sasaki 1988)。mtDNA解析の結果、海域間及び海山間で差異が認められなかったことから、北太平洋海域に生息するクサカリツボダイは、全体として一つの系群と考えられている。


【年齢と寿命】

クサカリツボダイは、幼魚期には耳石の日周輪によって、孵化日を推定することが可能である。しかし、耳石や鱗による成魚の年齢査定は難しい。また、クサカリツボダイは海山へ回帰すると、体軸方向の成長はほとんどしなくなる(Humphreys et al. 1989)。そのため、体長組成による成魚の年齢推定や年級群の識別はできない。着底したクサカリツボダイは、産卵のために浮遊期に蓄えた脂肪分を消費することで徐々に痩せて体高が低くなっていくので、前述したような体型の差異を生じる(図1)。Somerton and Kikkawa(1992)は体高を体長で割った値(Fatness Index、以下FI)を用い、FIの経年変化から年級群の動向について推測している。すなわち、ある年に体高の高い個体(FI値が高い個体)が多ければ、クサカリツボダイの加入が多かったと考えられ、その後、FI値が年々小さくなっていく過程を調べることによって、その年に加入した群が何年間生きたかを推測した。その結果、自然死亡係数(M)は約0.5と非常に大きい値であり、海山着底後、5年程度で死んでしまうと推定され、寿命は8年前後と考えられている。


資源状態

【資源の評価方法】

前述したように、本種は耳石や鱗に基づく成魚の年齢査定が困難であり、海山への着底後、 体軸方向の成長をほとんど示さないため、体長から年級群を判別することもできない。このため、齢またはサイズ構成モデルを用いた資源解析を行うことができない。また、不定期的な卓越年級群の発生が見られることや、産卵親魚量と2年後の加入量との間に明瞭な相関関係が認められないことから(Somerton and Kikkawa 1992)、プロダクションモデルによる資源解析も適していない(Yonezaki et al. 2012)。さらに、開発当初からの操業形態や漁業規模が大きく変化しており、CPUEの長期的なトレンドを資源量指数として捉えるには不確実性が伴う。以上のことを踏まえて、資源の状態及び動向は、暫定的に漁獲量の経年変化から判断した。


【資源の水準・動向】

初期の漁獲量に比べ、近年の漁獲量は低下しており、数年から10数年に一度現れる卓越年級がない年は、数千トンレベルの漁獲に留まっていることから、開発当初の状態と比べると、資源量は低いレベルにあると判断される。特に1993〜2003年までの10年間は、卓越加入が現れず、非常に低いレベルにあった。しかし近年の漁獲量をみると、2004年と2010年に卓越加入が発生しており、資源動向は変動が大きいが、1990年代に比べると上昇傾向にあると判断される(図4)。


管理措置

天皇海山海域におけるクサカリツボダイの資源管理については、TACなどの漁獲量制限(出口規制)による管理方策は適していないと考えられている。なぜなら、当該海域に生息する本種は、加入変動が著しく大きく親魚量と加入量の間に相関が認められないことや年級群が判別できないこと等から、一般的な資源動態モデルの適用が難しいからである。そこで、同所的に分布し漁獲されているキンメダイの管理措置を準用した努力量制限(入口規制)が導入されている。キンメダイのプロダクションモデル解析から、1997〜2006年の平均漁獲努力量は、FMSYに対して20〜28%過大であるとの結果が得られた(水産庁 2008c)。このため、当該海域の漁業は資源状態によりキンメダイとクサカリツボダイの両方を対象としていることから、1997〜2006年の平均漁獲努力量(底びき網漁操業時間)を20%削減した年間5,600時間を最大漁獲努力量とすることとし、さらに、本種の産卵時期である11〜12月を禁漁にする資源管理措置を実施している。この管理措置は、クサカリツボダイの産卵親魚量を確保することで、卓越年級の発生を促進する効果も期待される。この他、公海域の一番南に位置するC-H海山(図2)を暫定的な漁業禁止海域とすることや、漁船数を現状より増加させないことなどの管理措置も併せて行われている。本種の資源管理においては、再生産の確保と加入の促進が重要であり、そのためには資源構造や再生産機構、資源変動メカニズムの解明が必要である。


クサカリツボダイ(天皇海山海域)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位
資源動向 卓越年級群が発生する等変動が大きい
世界の漁獲量
(2011年までの
5年間)
1,259〜20,554トン
平均:5,824トン
我が国の漁獲量
(過去5年間)
1,085〜17,153トン
平均:5,824トン
管理目標 産卵親魚の確保による加入の促進
目標値 管理目標に対して具体的な数値目標は設定していない
資源の現状 調査・検討中
管理措置 北太平洋海域における公海漁業管理に関する政府間協議の科学作業部会の議論に基づく暫定的管理措置
・科学オブザーバーを原則100%乗船させ、@操業のモニター、A合意されたデータ収集様式に従い必要なデータ及び標本の収集、を行う。
・C-H海山及び光孝海山南東部を暫定的に閉鎖
・1,500 m以深における暫定的操業禁止
・北緯45度以北における暫定的操業禁止
・操業許可漁船数の増大防止
・年間漁獲努力量(操業時間)を5,600時間以内とする(底びき網漁業)
・禁漁期を11〜12月とする
管理機関・関係機関 北太平洋公海漁業資源の保存及び管理に関する条約(未発効)

執筆者

外洋資源ユニット
外洋底魚サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 外洋生態系グループ

米崎 史郎・奥田 武弘


参考文献

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