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70 マジェランアイナメ・ライギョダマシ 南極海

Patagonian Toothfish・Antarctic Toothfish

Dissostichus eleginoidesDissostichus mawsoni

                                                           
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図1. マジェランアイナメ(Fisher and Hureau 1985)

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図2. マジェランアイナメ漁獲物 (CCAMLR HP)(C)B. Watkins

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最近一年間の動き

2010/11年漁期のCCAMLR(南極海洋生物資源保存委員会)水域内のメロ類(マジェランアイナメ及びライギョダマシ)の報告漁獲量は13,220(2009/10年漁期14,518)トンと、前年2009/10年漁期と比較して1,298トン減少した。我が国のCCAMLR水域における20010/11年漁期の漁獲量は246トン(マジェランアイナメ41トン、ライギョダマシ205トン)と、前年漁期の355トン(マジェランアイナメ73トン、ライギョダマシ282トン)より大幅に減少した(表1)。

なお、CCAMLRは、IUU(違法・無規制・未報告)操業による資源状態への悪影響に対し、輸出入に係る規制強化等積極的な対策を講じてきた。その結果、IUU操業による推定漁獲量は、2002/03年漁期10,070トンから2003/04年漁期2,622トンへと激減した。その後、1,000〜3,000トン台で推移し、2008/09年漁期には最低の938トンとなったが、2009/10年漁期は1,615トンと増加した。しかし、2010/11年以降はIUU船目視報告の精度が問題視され、IUU操業による漁獲量の推定は行われなくなった。


利用・用途

本種は冷凍切身として惣菜用とされるほか、みそ漬け等の加工品の原料となる。


表

表1. メロ類(マジェランアイナメ+ライギョダマシ)の2009/10 漁期の漁獲量(SC-CAMLR 2011)
なお、2010/11以降IUU(違法・無規制・未報告)による漁獲推定量の推定を行わないようになった。


図

図3a. CCAMLR水域におけるマジェランアイナメの漁獲量の海域別の年変化(CCAMLR 2012)

図

図3b. CCAMLR水域におけるライギョダマシの漁獲量の海域別の年変化(CCAMLR 2012)


図

図4. 我が国におけるメロ類の漁獲量の経年変化(SC-CAMLR 2012)


図

図5. メロ類の主棲息深度と漁獲枠設定の単位となる小海区(Subarea/division)
影の部分は、両種の主棲息深度500〜1,800 mの陸棚斜面域。太破線は2種の区分線
北側域;マジェランアイナメ、南側域;ライギョダマシ(CCAMLR保存管理措置)


漁業の概要

マジェランアイナメ(Patagonian toothfish, Dissostichus eleginoides; 図1、2)の地理分布は広く、本種を対象とした底はえ縄漁業はもともと、チリとパタゴニアの陸棚斜面域から始まり、1980年代中頃から南極海洋生物資源保存条約の適用水域内でも漁獲されるようになった。マジェランアイナメに対する高い市場価値が底はえ縄漁業を急速に拡大させた。1996/97年漁期以降には、近縁種で南極大陸沿岸域に生息するライギョダマシ(Antarctic toothfish、Dissostichus mawsoni)も漁獲対象となっている。

南大洋の魚類資源は、発見、開発、そして枯渇の時間サイクルが極めて短かった。南極海の魚類を対象とした漁業は、1969/70年のサウスジョージア水域と1970/71年のケルゲレン諸島水域で始まり、1977/78年以降はさらに高緯度域へ拡大したが、1980年代初期に急減した。この結果、ウミタカスズキ(Marbled Rockcod, Notothenia rossii)、コオリカマス(Mackerel Icefish, Champsocephalus gunnari)、ウロコノト(Grey Rockcod, Lepidonotothen squamifrons)等の底性魚類資源が枯渇した。その後、1982年に南極海洋生物資源保存条約が発効し、魚類を対象とした漁業に対して次々と規制措置がとられた。これら衰退した底性魚類に替わって、サウスジョージア水域やケルゲレン諸島水域においてメロ類を漁獲対象とした底はえ縄漁業が始まった。CCAMLR水域におけるメロ類の報告漁獲量の海域別の年変化を図3aと図3bに示す。漁獲域は、CCAMLR水域のインド洋区(58海区)と、大西洋区(48海区、そのほとんどは48.3海区)である。なお、マジェランアイナメ漁業の後発として急速に拡大したライギョダマシ漁業は、以前は漁獲域がロス海域(88海区)に集中していたが、2004/05漁期から48海区と58海区でマジェランアイナメとともに漁獲され、これら2種はメロ類として一括に扱われて漁獲制限枠が設けられている。

我が国では、2002/03漁期より48海区でマジェランアイナメを対象とした漁獲が開始され、2006/07漁期から58海区にも操業されるようになり、また、ライギョダマシも漁獲対象となった(図4)。メロ類の漁獲量は、2002/03年に262トンであったが、翌2003/04年にはメロ操業船によるCCAMLR水域外の他魚種の開発操業実施に伴い7トンにまでに減少した。しかし、その後漸次メロ類の漁獲は増加し、2006/07漁期〜2008/09漁期は200トン台を示し、2009/10漁期は過去最高の355トンであった。

現在のメロ類の漁法は、大きくトロール、底はえ縄、籠漁業に分けられる。このうち、底はえ縄漁法は、オートライン、スパニッシュ、トロット漁法に分けられ、我が国の漁船はトロット漁法を採用している。トロット漁法の漁獲効率等の特性については他の2種に比べ不明な点が多く、このことがCPUE(単位縄長当たりの漁獲量)を用いたメロ類の資源状態の解析を難しくしている。


生物学的特性

マジェランアイナメとライギョダマシは、スズキ目ナンキョクカジカ科(ノトセニア科)の魚類でメロ類と総称される。両種を含むナンキョクカジカ科の魚類は、南極周辺海域を中心とする南半球高緯度海域に分布する。マジェランアイナメはナンキョクカジカ科のうち、比較的北方にまで分布するものの一つである。全身は細かい鱗で覆われるが、頭部背面には細長い無鱗域が散在する。背鰭は2つあり、胸鰭は大きく扇状である。側線は2本あり、下のものは体の中央付近から始まる。体色は全身が黒褐色(図1、2)。小型は色がやや薄い。ライギョダマシは、マジェランアイナメ頭部背面にみられる細長い無鱗域が無いこと、下方の側線がマジェランアイナメのものより顕著に後方より始まること、耳石の形がマジェランアイナメの卵形もしくは紡錘形と異なり、円板状もしくは正方形に近い形を呈することから明瞭に区別できる。

マジェランアイナメは、南緯30〜35度以南の南極大陸を取り囲んだ海域の陸棚の浅瀬から水深2,500〜3,000 mあたりの陸棚斜面に棲息する(図5)。ライギョダマシは、極前線より南側の約60度以南に生息し、ロス海では海深279〜2,210 mで漁獲されている。通常極前線より北側を主分布するマジェランアイナメと棲み分けるが、ロス海、サウスサンドウィッチ諸島周辺、バンザレバンク等幾つかの海域では極前線付近で分布が重なることが報告されている。日本漁船の主漁場の一つであるバンザレバンクでは深度によって棲み分けているが、一般に棲み分けの直接的要因は水温と考えられている。ライギョダマシは、体液中に不凍糖ペプチドを有し、-1℃を下回るような低水温の環境でも体の凍結を防止することができる。一方、マジェランアイナメは、不凍糖ペプチドを持たず、通常は1〜2℃未満の低水温には生息しない。マジェランアイナメの稚魚は海面近くでオキアミ類等を食べる。3才魚から餌の種類が変わり、成魚は魚類、いか類及び甲殻類を食べ、腐食性も示すようになる。ライギョダマシは、未成魚時には主に小型のナンキョクカジカ科魚類を食べ、マジェランアイナメと同様に成長に従って餌の種類とサイズの範囲が拡がる傾向を示し、ロス海では主にコオリウオ(Icefish)やソコダラ類(Macrourus属)を食べる。また、イカ類をよく食べることも知られている。

マジェランアイナメは、6〜9年で70〜95 cmに成長して、性的に成熟し、6〜9月に陸棚斜面上で産卵する。産卵数は、体長や地域によって変化が大きいが48,000〜500,000個の範囲である。卵の大きさは直径4.3〜4.7 mmで浮遊性を示し、一般に水深が2,200〜4,400 mの海域の500 m以浅で見つけられる。孵化は10〜11月くらいと見られている。最大の体長と体重は、238 cmと130 kgが観察され、寿命は40〜50歳程度と言われている。ロス海におけるライギョダマシは、雌は16.6年で133.2 cmに成長し、全体の50%のものが産卵を行うようになると推定されている。また、産卵期は6〜11月で、海深1,000〜1,600 mの海台や海嶺で産卵していると考えられている。産卵数は500,000〜1,700,000個、卵の大きさは4.0〜4.3 mmである。ライギョダマシの卵はマジェランアイナメと同様に浮遊性を示すと考えられているが定かでない。孵化の時期は、耳石輪紋数の解析より11〜2月(最盛期12月)と推定されている。ライギョダマシの体長と体重は大型で200 cm以上、100 kg以上で、寿命はマジェランアイナメと同様に40〜50歳程度である。


資源状態

南極海のCCAMLR水域内において、日本漁船が主漁場とする南東大西洋区や南極海インド洋区ではメロ類の資源量については十分な資源調査が行われていないため正確な値は不明である。現在、標識放流調査並びに耳石等生物データの収集の実施が行われており、これらのデータをもとに、近い将来、より正確な資源評価が行われる予定であるが、上述のように、1990年代〜2000年代初めの活発なIUU操業による乱獲とメロ類の高寿命による資源回復の遅れから、メロ類の資源の水準は低位〜中位にあると考えられる。また、最近のIUU操業の鎮静化や日本漁船のトロット漁法に基づくCPUEの経年変化から、資源動向は横ばいと考えられる。一方、48.3海区やロス海等十分な資源調査が行われている小海区(Subarea/division;図5)では、資源状態はほぼ横ばいと考えられ、持続的利用が図られている。これらの海域では、現在主にCASAL(後述)により資源量が推定されており、2年毎の作業部会で検討され、管理措置に反映されている。資源の情報が少ない中で行われる南東大西洋区や南極海インド洋区のメロ漁業は、CCAMLRでは“データプア漁業(data poor fisheries)”と位置づけられ、今後標識放流法等を用いた資源状態の把握が急務となっている。


管理措置

CCAMLRの科学委員会の魚類資源評価作業部会が、魚類の資源管理のための科学的検討を行っている。検討方法は海区毎に異なり、漁獲量とCPUEの動向から判断する場合、標識調査の結果から判断する場合、資源動態モデルを用いたシミュレーションによって判断する場合がある。資源動態モデルを用いた方法は、一般生産量モデル(推定された加入量を基に漁業開始以降の資源動態の将来予測を行い、将来資源量がある特定の基準を下回らないような許容漁獲量を推定する手法)やCASAL(年齢や体長の不確実性を考慮した包括的な資源評価モデル)等が用いられている。現在、資源に関する情報が豊富な海区(48.3海区、48.4海区、58.5.1海区、58.5.2海区、88.1海区、88.2海区)では資源動態モデルを用いた方法が頻繁に用いられ、資源パラメータを個々に推定する一般生産量モデルよりも、初期資源量を含む多くのパラメータを一括して推定する統合モデルCASALの方が一般的に用いられている。2010/11漁期のCCAMLR水域内では14の小海区で操業が行われている(表1)。そのうち8つの小海区では標識放流調査と体長や耳石等生物データ採集を義務付けられる新規・開発漁業(48.6海区、58.4.1海区、58.4.2海区、58.4.3a海区、58.4.3b海区、88.1海区、88.2海区)と、禁漁区における資源状態を明らかにするための調査漁業(58.4.4海区と88.3海区)が行われ、毎年資源評価に基づき漁獲枠が決定されている。我が国は1隻の漁船の操業が認められており、ロス海域(88.1海区と88.2海区)を除く新規・開発操業域と調査漁業域(58.4.4海区)で操業を行っている。なお、58.4.3b海区では豪州のEEZに近接することなどから、IUU操業による資源枯渇を前提とした予防措置に基づく厳しい漁獲枠が提唱され、2009/10漁期以降調査操業に準じた厳しい保存措置のもとで操業を行ってきたが、標識再捕の成果が上がらないことなどから2012/13漁期以降禁漁となった。その他の我が国の操業域の許容漁獲量については、48.6海区では漁業の動向、58.4.1海区と58.4.2海区ではCPUEの動向(CPUE比較法と除去法)、58.4.3a海区では標識調査の結果(標識再捕データを組み込んだPella-Tmlinsonモデル)に基づき各々2007/08〜2008/09漁期に設定されたが、その後は資源評価に必要なデータの不足により毎年の許容漁獲量はほとんど更新されていない。2012/13漁期における許容漁獲量は、48.6海区で400トン、58.4.1海区で210トン、58.4.2海区で70トン、58.4.3.a海区で32トン、88.1海区で3,282トンと設定された。なお、58.4.3a海区の許容漁獲量は日本によるPetersen法に基づく暫定的な資源量推定によりそれまでの86トンから32トンに減少した。また、88.1海区は保存管理措置上は入漁可能であるが、地理的条件により実際の入漁は難しい。今後、これらのデータプア海域において標識放流調査や耳石等の生物データの収集を図り、メロ類の生活史を解明していくとともに、CASALを用いた資源評価が必要である。特に、CASALモデル構築のためには標識放流調査の成功が鍵となっている。2012年のCCAMLR年次会合において日本はデータプア海域(開発操業域)においてこれまで放流された標識魚の再捕増を目的として計11の調査ブロックを設定し、日本を含む5漁業国に対して各ブロック内での操業限定を提案し、CCAMLR加盟国のコンセンサスで採択された。2012/13漁期以降標識魚再捕の成果が期待される。また、禁漁区である58.4.4海区では、日本によるPetersen法に基づく資源量推定値と豪州の提案した予防措置的な開発率をもとに漁獲枠50トン(前年度70トン)での我が国の調査漁業が認められた。ただし、適切な開発率については十分なコンセンサスは得られていない。2012年のCCAMLR年次会合では、58.4.4海区について日本からデータプア海域としては初めてCASALを用いた予備的な資源解析を行い報告した。今後、体長‐年齢関係の正確な把握などにより本モデルの改善が求められる。


マジェランアイナメ・ライギョダマシ(南極海)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位〜中位
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
CCAMLR水域1.3〜1.6万トン
平均:1.5万トン
我が国の漁獲量
(最近5年間)
CCAMLR水域200〜355トン
平均:243トン
管理目標 安定した加入を確保する水準への資源の回復と維持及び関連種との生態学的関係の維持
目標値 以下のうち、達成の要件が厳しい(許容される漁獲量が少ない)方:35年間漁獲を続けた場合の産卵親魚量(推定値)が、
@いずれの年も、漁獲を行わない場合の産卵親魚量(推定値)の20%以下とならないこと
A35年後に、漁獲を行わない場合の産卵親魚量(推定値)の50%以上となること
資源の現状 調査・検討中
管理措置 CCAMLR分割海区・EEZ毎に毎年または2年に1回予防的漁獲制限量を決める。2012/13年漁期の我が国の新規・開発漁業予定の小海区は4つで、48.6海区で400トン、58.4.1海区で210トン、58.4.2海区で70トン、58.4.3.a海区で32トン、88.1海区で3,282トンの漁獲枠が設定されている。また、禁漁区である58.4.4海区では我が国に漁獲枠50トンの調査漁業が認められている。
管理機関・関係機関 CCAMLR

執筆者

外洋資源ユニット
外洋底魚サブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 外洋生態系グループ

瀧 憲司

国際水産資源研究所 国際海洋資源研究員

一井 太郎


参考文献

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