--- 詳細版 ---

67 アメリカオオアカイカ 東部太平洋

Jumbo Flying Squid

Dosidicus gigas

                                                                            
PIC

[HOME] [詳細版PDF] [要約版PDF] [要約版html] [戻る]

最近一年間の動き

FAO漁獲統計によると、2010年の全世界のアメリカオオアカイカ漁獲量は78.7万トンとなり、そのうちペルーとチリがそれぞれ37万トンと20万トンの漁獲を揚げた。本種の総漁獲量は、頭足類の中で最大の漁獲を維持した。2009年の8月頃から中規模のエル・ニーニョ現象が発生し、その後の強いラ・ニーニャ現象の発生など、2011年初頭にかけての大きな海洋環境の変動によって沿岸・沖合の漁獲水準は低下する結果となった。このため、ペルー政府は200海里内の外国船の操業条件を離岸距離20海里から80海里の沖に制限し、沿岸零細漁民を優先する施策を取り始めた。さらに、近年の本資源の世界的な需要の高まりからアメリカオオアカイカは国際原料となり、日本はもとよりペルー沿岸での浜値の変動に大きく影響を及ぼすようになった。このような背景から、ペルー政府は浜値の低下に不満を持つ零細漁民対策に窮することになり、2011年7月、新しい大統領が就任し、同年10月、アメリカオオアカイカの漁業管理規則に係る新大統領令が交付され、入漁許可に関して従来の省令に加え、価格競争入札を導入することが決定された。しかしながら、その後も、入札等に係る制度が確立せず、2012年1月以降、当該水域での操業ができない状態となっている。


利用・用途

大型イカは皮をそいだ切り身にサイの目に切れ目を入れ、シーズニングスパイスを添えるか、ピリ辛風ソースを絡めた「イカステーキ」に加工される。また、中型は冷凍ロールイカ等に加工される。最近、イカ加工業者の長年の製品開発努力の結果、アメリカオオアカイカを原料としたイカ加工品は、従来のアカイカ系の主要用途である惣菜(天ぷら、フライ)加工分野に留まらず、ヒレ(耳)を使った塩辛やソフトタイプの乾燥珍味(さきいか、くんせい)、さらには海鮮風カップ麺のフリーズドライ製品(タコ風のゲソ)などの分野にも拡大している。これらの加工品としての利用には日本漁船によって漁獲された原料には原産地表示の義務はない。しかし、DNA分析の結果、大手量販店やコンビニエンスストアなどで販売されているイカ製品のうちスルメイカに次いで高い割合を占めていることが明らかになった(若林ほか2009)。また、半冷凍すり身ペースト、胴肉の打抜き式イカリング、フィレなどの加工品として世界的な用途が拡大し、国際原料となっている。


表

表1. 各国のアメリカオオアカイカの漁獲量の変遷(データ:FAO 2012、ただし2011年は、日本のデータは全国遠洋沖合いかつり漁業協会の操業状況週報よるいか釣り漁による漁獲量、ペルーはペルー国生産省、チリはチリ国漁業局の水揚げデータより推計した値である。)


図

図1. アメリカオオアカイカ国別漁獲量(データ:FAO 2012)
2011年のデータは推計値。


図

図2. アメリカオオアカイカの分布図


図

図3. アメリカオオアカイカの成長(酒井・若林 2010)


図

図4. アメリカオオアカイカの平衡石にあらわれた日輪紋
外套長105 cmの成熟した雌。


図

図5. ペルー海域における開発調査センター調査船によって採集された成熟した雌のアメリカオオアカイカの外套長の年変化(加藤ほか 2010)
赤い曲線は大型群の出現パターン、青い曲線は中小型群の出現パターン。


図

図6. アメリカオオアカイカの分布と主な海流
紫■の範囲はかつて報告されていた本種の分布範囲(Nesis 1983)。赤■は最近年に分布拡大したと思われる範囲(Hatfield and Hochberg 2006)。青■は主漁場。


図

図7. ボンゴネットで採集されたふ化して間もない卵黄を持った外套長1.4 mmのアメリカオオアカイカの稚仔


図

図8. 水産庁調査船『開洋丸』調査によって得られた2007年と2011/2012年におけるアメリカオオアカイカの稚仔の分布と量(水産庁2009、水産庁 印刷中)


図

図9. アメリカオオアカイカ、アルゼンチンマツイカ、トビイカの胚発生速度。一定飼育水温(20℃)で飼育した受精卵のふ化までの胚発生速度の比較。(水産庁 印刷中)


図

図10. 日本のいか釣り漁船によるペルー海域(200海里内及び公海)におけるアメリカオオアカイカCPUE(トン/日/隻)の月別変化及び南方振動指数の月別変動


図

図11. 表中層トロールで採集されたアメリカオオアカイカの若齢イカ


図

図12. 水産庁調査船『開洋丸』調査によって得られた2007年と2011/2012年におけるアメリカオオアカイカの若齢イカの分布と量(水産庁2009、水産庁 印刷中)


図

図13. 水産庁調査船『開洋丸』調査によって得られた2007年と2011/2012年におけるアメリカオオアカイカの成熟雌イカの分布と量(水産庁2009、水産庁 印刷中)


図

図14. ペルー沿岸零細漁業による2010〜2012年にかけてのアメリカオオアカイカCPUE(トン/出漁回数/船)の月別変化(FRAほか 印刷中)


図

図15. 南方振動指数による環境変動後のペルー200海里内におけるアメリカオオアカイカCPUE変動の時間遅れ(若林 2012より)


図

図16. チリ海域での漁獲量が増加した2001年以降におけるペルーのアメリカオオアカイカ漁獲量とチリの漁獲量との比較(FAO 2012ほか)


図

図17.DMSP夜間可視域センサの画像(2011年8月3日、農林水産研究情報総合センターからの提供)によるペルー・チリ海域の公海域で操業するいか釣り漁船(矢印)


図

図18.アメリカオオアカイカの需要曲線
ペルーEEZ海域で日本漁船が漁獲した ペルーEEZ海域で日本漁船が漁獲したアメリカオオアカイカの八戸における水揚げ量と価格との関係。曲線は資源が増大した2000年からの関係に当てはめた。(酒井ほか2010)


漁業の概要

我が国のアメリカオオアカイカ漁業は、海洋水産資源開発センター(現独立行政法人水産総合研究センター開発調査センター)が1971/72漁期(漁期の定義は5月から翌年の4月まで)にカリフォルニア半島周辺で開発調査を行ったことに端を発する。その後、マツイカ及びアカイカ漁業の補完的資源として注目されるようになり、同センターが1984/85漁期から本格的な調査を実施した(黒岩1998)。我が国いか釣り漁船も1989年頃から操業を開始し、1991年までは主にメキシコ200海里内で操業を行った。一方、1989年に同センターがペルー200海里内において本種の高密度群を発見し、翌年からいか釣り漁船40隻余りが同海域に出漁し、各年4〜8万トンを漁獲し、南西大西洋に次ぐ重要な漁場となった。その後1996年からペルー海域は不漁となったが、同年にペルー海域から帰路につく漁船団により北半球公海域(コスタリカ沖)においてアメリカオオアカイカの高密度群が発見され、新漁場として開拓された。1998年には本種を対象にした操業は行われなかったが、1999年にはコスタリカ沖及びペルー沖で操業が再開された(一井 2002)。我が国は2000〜2002年にペルー海域、コスタリカ沖で年間約6〜8万トンを漁獲した。しかし、2006年以降には入漁隻数が4隻程度となり、さらに2011年にはペルー領海内での操業海域を80海里以遠に制限されたことから漁獲量は0.7万トンに減少した。

FAO漁獲統計によると、全世界のアメリカオオアカイカ漁獲量は1990〜1992年にかけて、約3〜12万トンに急増し、その後1998年を除いて2001年まで14〜30万トンを維持した(図1)。なお、1998年は不漁のため操業を行わなかった。その後2002・2003年に約40万トンに増加し、2004〜2006年には80万トン前後まで急増し、いか・たこ類で世界一の漁獲量となっている。海域別にみるとペルー海域(チリ沖も含む)では、1992〜1995年及び2000・2001年に計10万トン以上の漁獲が日本、ペルー及び韓国により漁獲が揚げられた(表1)。2002・2003年に中国が加わり計約30万トンの漁獲が揚げられ、2004〜2006年にチリも加わり年間計70万トンにまで急増している。また、カリフォルニア湾では、1996・1997年及び2002〜2004年に約10万トンの漁獲がメキシコにより揚げられている。近年、アメリカオオアカイカを中心とした世界的なイカの需要拡大にともなって(三木・若林 2010)、本種の漁獲が増加した沿岸国のペルー、チリ、メキシコでは、沿岸の零細漁民による日帰りの手釣り漁業が発展している。ペルーでの2003年から2005年にかけての調査によると、アメリカオオアカイカ漁は魚倉容量平均4.35トン(最小2トン〜最大10トン)の小型船が主体であり、日帰りでの操業純コストは平均117米ドル(最小19ドル〜最大379ドル)であった(Estrellaほか 2010)。しかし、最近年は漁場が遠くなり、2〜3日の操業になることが多いという(IMARPE、未発表)。後述する“資源状態”の項目で示すように、最近年はペルー沖やチリ沖公海において中国船を主体とする外国いか釣り漁船による操業が増加している。2006年から2008年にかけてチリ沖公海上の南緯40度/西経80度では試験的ないか釣り操業が行われている(Liuほか2010)。


生物学的特徴

本種は、熱帯・亜熱帯域の外洋−沿岸性種であり、カリフォルニア沖からチリ沖にかけての海域に分布する(図2)。成熟体長により小型、中型及び大型に区分され、後者は外套長が120 cmに達するアカイカ科最大の種である(Nesis 1983)。小型は、赤道付近及びカリフォルニア海流域だけに見られ、中型と大型はそれぞれ南北半球に分かれて分布する(Nesis 1983)。大型は、年によって出現したりしなかったりする。

中型の雌は生後約5か月(外套長30〜40 cm)、雄は生後約4か月(20〜30 cm)で成熟し、平衡石を用いた日齢査定の結果、寿命は1年と推定される(図3)。体長は雌の方が雄よりやや大きい(増田ほか1998)。大型の雌は外套長が65〜75 cm、雄は50〜65 cmで成熟する(増田ほか 1998、Koronkiewicz 1988)。大型の成長は1年間で約80 cmと推定され(増田ほか 1998)、この成長率を採用すると、アメリカオオアカイカは約1年半で最大体長(120 cm)に達することになる。小型の雌は外套長20〜27 cmで、雄は15〜18 cmで成熟する(Nesis 1983)。また、メキシコのカリフォルニア湾で採集された外套長80 cmの成熟した雌の日齢は450日と推定されたことから、産卵を終え寿命を全うするイカでは1.5〜2年に達するものもあるのではないかと示唆されている(Markaida and Sosa-Nishizaki 2004)。また、最近ペルー海域で漁獲された外套長105 cmの成熟した雌のイカを平衡石による日齢査定をした結果、輪紋数は300〜330本程度であり(図4)、外套長1 mを超えるイカでも寿命は約1年と推測された。

本種の外套長サイズは一定しているわけではない。ペルー海域で商業いか釣り漁船によって採集された成熟した雌のアメリカオオアカイカの外套長は、1999年以前には平均で30〜40 cm前後であったが、それ以降は大型化して2004年には90 cmを超えるようになった(図5)(加藤ほか 2010)。

本種は2001年以降分布拡大や海岸への大量打ち上げが報告され、2005年にはアラスカ沖の海氷域にも出現した(図6)。ペルー海域とコスタリカ沖の個体は、DNA解析により別系群であることが明らかにされた(和田 未発表)。また、メキシコからカリフォルニアにかけての北半球の個体群とペルー及びチリの南半球の個体群とでは弱いながらも有意な遺伝的隔離が認められ(Sandoval-Castellanosほか 2010)、南北両半球間では個体群の交流はないことが示されている。

本種の食性は発育段階により異なり、小型個体は主にオキアミ類等のプランクトン、中型の個体は中深層性魚類のハダカイワシ科やウキエソ類(Vinciguerria lucetia)及びイカ類(共食い)を主餌料とする(ヤマシロほか 1998、Arguelles et al. 2008)。特に、外套長20 cm以上のアメリカオオアカイカの胃内容物からは、上記の中深層性魚類が最も多く出現し、60 cmを超える大型の個体は共食いをしている(Markaida and Sosa-Nishizaki 2003)。ペルー海域は生産力が高く、アンチョビー(カタクチイワシ類)だけで1,200万トンも漁獲されたことがある。しかし、アンチョビーは沿岸に分布するため、沖合に分布するアメリカオオアカイカの主餌料とはなっていない。また、チリ海域ではアメリカオオアカイカによるメルルーサ(タラ類)やチリマアジの食害が指摘されている(Ulloa ほか2006、Cubillosほか2004)。しかし、いずれもターゲットとなる魚種を対象としたトロールやまき網漁船で得られた混獲標本から食性分析を行ったため、網内での偶発的な摂餌による大きな偏りが生じていて、実際にはニシン類やハダカイワシ類が多いと指摘されている(Ibanezほか 2008)。一方、アメリカオオアカイカの捕食者としては、キハダ、イルカ、マッコウクジラ等が挙げられる(Perinほか 1973)。

本種は、大規模な回遊を行わないと考えられる。ペルー沖では、高密度分布域は周年にわたって南緯3〜10度にあり、そこでは常に成熟した雌雄が活発な索餌活動を行っている。この高密度分布域は沿岸湧昇域であり、産卵場と索餌場が一致するため大規模回遊を行う必然性はない。また、コスタリカ沖でも、高密度分布域は北赤道海流と北赤道反流の間の湧昇域(北緯8〜10度)に相当し、生産力が高く、産卵場と索餌場が一致する。

本種の適正産卵水温は24〜28 ℃の比較的高い温度帯が想定されてきた(Waluda and Rodhouse 2006)。最近では、メキシコカリフォルニア湾において25〜27 ℃の海域で直径が数mもある卵塊が見つかっている(Staafほか 2008)。その一方で、ペルー海域ではこれまで産卵場に関する情報は極めて少ない。これは、産卵場の指標となるふ化稚仔が採集されても、アメリカオオアカイカと同所的に生息する近縁種のトビイカとの形態的な識別が極めて難しかったためである。しかし、近年、DNA分析手法を用いて迅速かつ簡便に識別する手法が開発され、調査船上などでも応用できるようになった(若林ほか 2008)。この手法により、平成19年度(2007年11月から2008年1月にかけて)に水産庁調査船『開洋丸』で実施された、アメリカオオアカイカふ化稚仔分布調査において、採取されたふ化稚仔がアメリカオオアカイカのものであることが確認された(水産庁2009、図7)この結果ペルー海域では、これまで想定されていた上記の水温帯(24〜28 ℃)よりもかなり低い水温帯(18〜20℃)で産卵していることが明らかになった。これは、この年は比較的明瞭なラ・ニーニャ傾向にあり、ペルー海域は水温が低い環境にあったことと関係があると推測される。また、稚仔の出現密度は沿岸よりもやや沖合の方が高いことが示された(図8)。一方、水温の高い(23〜27 ℃)コスタリカドーム海域ではふ化稚仔は全く採集されなかった。本種の適正産卵水温の幅は、これまで考えられていたよりもかなり広い(18〜28 ℃)と考えられる。2012年に『開洋丸』の船上で、受精卵のふ化が観察された(水産庁 印刷中)。これは、船上に設置した水槽で飼育していた交接した成熟雌が飼育水槽内で卵塊を放出したもので、その卵塊の中の受精卵を20℃に保った孵化器で飼育した結果、6.5日でアカイカ科のふ化ステージ30に到達した(図9)。アメリカオオアカイカのふ化までに要する時間は、同じアカイカ科の冷水に適したアルゼンチンマツイカや暖水に適したトビイカの胚発生速度と大きな差は見られなかった。


資源状態

ペルー海域における我が国いか釣り漁業は1991〜1995年の期間は好漁であったが、1996〜1997年にかけてCPUEが減少した(図10)。ちょうど前者の漁期は、エル・ニーニョ傾向の温暖期で亜熱帯表層水がペルー沖へ広がっていたのが、後者の漁期からラ・ニーニャ傾向で寒冷期に転じた。1997/98年には全盛期最大規模のエル・ニーニョが発生し不漁となったが、2000年以降は好漁に転じた。日本漁船のペルー200海里内での操業によるCPUEの変動を見ると、一時的に2007〜2008年にかけて減少が見られたが、2000年以降では比較的高い値で推移してきた(図10)。しかし、2010年から日本漁船のCPUEの減少が観察された。この減少はペルー沿岸零細の釣り漁業のCPUE(トン/出漁回数/船)でも観察され2011年以降も低く推移した。2011年のCPUEの減少は“漁業の概要”で前述したようにペルー政府が外国船の入漁許可水域を80海里以遠に制限した影響と見られる。しかし、沿岸零細漁民のCPUE水準で見ると2011年中頃からCPUE水準は回復し、2012年1月以降にさらに増加して資源は高位となった(FRAほか 印刷中)。

コスタリカ沖の沖合漁場では、1996年 (平常年)及び1997年(エル・ニーニョ期)には好漁であったが、1999年(ラ・ニーニャ期)には不漁であった。ラ・ニーニャ期に漁場形成が未発達であった原因として、北赤道反流と北赤道海流間の湧昇が弱まり、また、北赤道反流の塩分フロントも弱まったことが挙げられる(Ichiiほか 2002)。ペルー海域同様、2000年(平常年)以降は好漁となった。しかし、2001年以降、ペルー海域での安定した漁獲が続いているため当海域での操業はほとんどない。

水産庁調査船『開洋丸』による2007年及び2011/2012年の調査によって、ペルー沖を中心に漁業加入する前の外套長10 cm未満の若齢イカ(図11)の分布と量を明らかにした(水産庁2009、水産庁 印刷中)。若齢イカはペルー海域に広く分布し、南緯10度付近を境に南北に分断されている(図12)。2007年に比べて2011/2012年では分布量が明らかに高く沖合まで分布していることが示された。また、同様に2007年及び2011/2012年における調査船での釣り調査によって、潜在的な本種の再生産力の指標となる成熟雌イカの分布と量を明らかにした(図13)。ここでも、2007年に比べて2011/2012の調査で成熟雌の分布量が高いことが示された。2011/2012年の加入前の若齢イカ及び成熟雌の分布量がともに高いことから、資源水準が低下傾向にあったペルー沖のアメリカオオアカイカ資源は回復する高い潜在力を有すると判断された(水産庁 印刷中)。

日本のいか釣り漁船による漁獲データや開洋丸による資源調査の結果、本種の資源は2000年以降、2009年前半までは高水準にあったといえる。しかし、2009年の8月頃から中規模のエル・ニーニョ現象が発生し、翌年4月には解消されたが、6月には一転して中規模のラ・ニーニャ現象となり、海域の水温が低下した。2011年の初めにいったん解消されたラ・ニーニャ現象が11月に発生した。これらのエル・ニーニョとラ・ニーニャ両現象が連続発生したことに起因すると考えられる資源水準の低下が生じ、前述したように2010年から2011年にかけてペルー沿岸零細漁船によるCPUEも減少傾向となった(図14)。しかし、2012年にはCPUEは増加に転じたことから、『開洋丸』調査の結果から示唆されたペルー海域のアメリカオオアカイカ資源回復の予想と一致した(FRAほか 印刷中)。

図10に示しているように、南半球のアメリカオオアカイカの資源水準と南半球における海洋環境(エル・ニーニョと同様のSOI(Southern Oscillation Index;南方振動指数))における時系列の変動は必ずしも一致していない。しかし、2000年以降で交差相関を調べると、正の値をとる南方振動指数の発生から7〜9か月ないしは12〜13か月遅れで資源水準が高くなる関係が見られ(図15)、海洋環境の変動から時間遅れの影響が現れていることが示された(若林ほか 2012)。

一方、ペルー海域は南半球の東部太平洋におけるアメリカオオアカイカの主要漁場となっているが、図1で見たように隣国のチリでは2004年から本種の総漁獲量の中で主要な漁業国となって漁獲量を増加させてきた。両国のアメリカオオアカイカ漁獲量の関係を年別に比較すると、1998年以前には両者の関係は不明瞭であったが、チリにおける漁獲量が増加する2001年以降には高い相関関係が認められている(図16)。1998〜1999年を境に、成熟した雌の外套長の明瞭な増大が起こり(図5)、いか釣り漁船の南北それぞれの海域でのCPUEの関係が変化し、さらにペルーとチリにおける漁獲量の関係が大きく変わったこと(図16)など、海洋環境に大規模な変化が生じたことが示唆される。南半球の分布の南端となるチリにおける漁獲量の動向は、今後のアメリカオオアカイカ資源の拡大・縮小を予測する上で重要であろう(酒井 2004)。

ペルー・チリ沖公海域の各国の200海里(EEZ)ラインの近くにおいては、中国船と見られるいか釣り漁船が多数操業している。これらの漁船は集魚灯が使われていることから米軍軍事気象衛星(DMSP)の夜間可視域センサの画像(農林水産研究情報総合センターからの提供)によってその操業位置を観察することができる(図17)。この手法によって、2010年及び2011年に中国船とみられる130隻ほどの漁船団が漁場形成をしているのが観測された。2006年から2008年にかけてこの海域行われた中国のいか釣り調査船調査によると(Liuほか 2010)、1隻当たりの漁獲量は1日0.1〜32.0トン、平均で4.9トンであった。これより、1日の漁獲が5トンとするとこの海域において半年間で約12万トンの漁獲を揚げたと推測される。

資源が増大した2000年以降において、日本漁船が漁獲した本種の水揚量(八戸)と単価との間には反比例する明瞭な需要曲線が認められる(図18)(酒井ほか 2010)。近年、本種は資源が比較的高水準で安定しているが、漁獲量の増減によって単価は大きく変化し、かつ商品価値が高い中型サイズのイカの出現は大型サイズに比べて不安定である。このため、大型いか釣り漁船の経営も不安定となりがちである。漁況及びサイズ組成の予測手法の確立が重要な課題である。


管理方策

ペルー政府は、自国のEEZ内における本種の資源管理をプロダクションモデルによるMSYに基づいて行っている。それによると2001年から2011年にかけての平均現存量は2.51〜2.96百万トン、MSYは85.4万トンと推定され、2012年の漁獲割り当てを50万トンとした(ペルー生産省 2012)。現在、ペルー国内では専用いか釣り漁船などの大型いか釣り漁業は承認されていない。しかし、唯一外国漁船についてはペルーへの技術・開発協力を条件に20海里以遠のペルーEEZにおいて大型いか釣漁船の操業を沿岸から漁獲割り当て枠内で認めてきたが、昨年から資源水準の低下に伴う沿岸零細漁民への優遇的措置として操業海域が80海里以遠へのEEZ内へと制限されることになった。さらに、2012年にペルーの政権が交代して、新しい大統領の下、新しい入漁制度の導入を検討するとのことから現在のところ外国漁船への入漁許可が発給されていない。一方で、ペルーやチリ沖の公海域では、中国船を中心とする外国のいか釣り漁船が制限なく操業を行い、かなりの漁獲を続けている。


アメリカオオアカイカ(東部太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準
(ペルー海域)
高位
資源動向
(ペルー海域)
増加傾向
世界の漁獲量
(最近5年間)
63.1〜86.4万トン(全域)
平均:76.0万トン(2006〜2010年)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
0.7〜2.7万トン(ペルー海域)
平均:1.6万トン(2007〜2011年)
管理目標
(ペルーEEZ海域)
漁獲割り当て:50万トン(2012年ペルーEEZ内)
資源の現状
(ペルーEEZ海域)
ペルー政府は最近年のMSYを85万トンと見積もった
管理措置
(ペルーEEZ海域)
国漁船の80海里までの入漁制限(2011年)、外国漁船の入域停止状態で新たな入漁施策の検討中(2012年)
管理機関・関係機関 ペルー政府

執筆者

外洋資源ユニット
いか・さんまサブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 外洋いか資源グループ

酒井 光夫・若林 敏江・加藤 慶樹


参考文献

  1. Arguelles, J., Tafur, R., Taipe, A., Villegas, P., Keyl, F., Dominguez, N., and Salazar. M. 2008. Size increment of jumbo flying squid Dosidicus gigas mature females in Peruvian waters, 1989–2004. Progress in Oceanography, 79: 308-312
  2. Cubillos L.S., Ibanez C.C., Gonzalez, C.A., and Sepulveda, A.O. 2004. Pesca de jibia (Dosidicus gigas) con red de cerco entre la V y X Regiones, ano 2003. Informe final. Inst.Invest.Pesq. VIII Region, Talcahuano (Chile). pp.48.
  3. Estrella, C. Fernandez, J. Castillo, G. Benites, C. 2010. Informe general de la segunda encuesta estructura de la pesqueria artisanal peruana 2003-2005. Regiones Tumbes, Piura, Lambayeque, La Libertad, Ancash, Lima, Ica, Arequipa, Moquengua, Tacna. Informe IMARPE, 37: 1-57.
  4. FAO. 2012. Capture production 1950-2010. FAO Yearbook, Fisheries Statistics. http://www.fao.org/fi/statist/FISOFT/FISHPLUS.asp
  5. FRA, IMARPE, 水産庁.印刷中.Informe Final “Crusero de investigacion conjunta del calamar gigante Dosidicus gigas” (eds Sakai y Yamashiro), pp77. (スペイン語)
  6. Hatfield, E.M.C.and Hochberg, F.G. 2006. http://www.soest.hawaii.edu/pfrp/nov06mtg/hochberg_hatfield.pdf
  7. Ibanez, C. M., Aranchiba, H., and Cubillos, L.A. 2008 Biases in determining the diet of jumbo squid Dosidicus gigas (D’Orbigny 1835) (Cephalopoda: Ommastrephidae) off southern-central Chile (34S-40S). Helgol. Mar. Res.62:331-338.
  8. 一井太郎. 2002. 東部太平洋海域. In 奈須敬二・奥谷喬司・小倉通男 (共編), イカ-その生物から消費まで-(三訂版), 成山堂書店, 東京. 209-219 pp.
  9. Ichii, T., Mahapatra, K., Watanabe, T., Yatsu, A., Inagake, D., and Okada, Y. 2002. Occurrence of jumbo flying squid Dosidicus gigas aggregations associated with the countercurrent ridge off the Costa Rica dome during 1997 El Niño and 1999 La Niña. Mar. Ecol. Prog. Ser., 231: 151-166.
  10. 加藤慶樹・酒井光夫・若林敏江. 2010. 1-3サイズと分布(アメリカオオアカイカの生活史と資源変動の基礎).平成18-20年度 交付金プロジェクト研究.研究成果報告「アメリカオオアカイカの利用拡大に関する提案」、独立行政法人水産総合研究センター.p.11-12
  11. Koronkiewicz, A. 1988. Biological characteristics of jumbo flying squid Dosidicus gigas caught in open waters of the Eastern Central Pacific from October to December 1986. ICES C. M. 1988, K: 42, 6 pp.
  12. 黒岩道徳. 1998. 海洋水産資源開発センターによる南東太平洋海域のアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas)資源に関するイカ釣調査の変遷. In 奥谷喬司(編), 外洋性大型イカ類に関する国際シンポジウム講演集. 海洋水産資源開発センター, 東京. 85-102 pp.
  13. Liu, B., Chen, X., Lu H., Chen, Y. and Qian, W. 2010. Fishery biology of the jumbo flying squid Dosidicus gigas off the Exclusive Economic Zone of Chilean waters. Scientia Marina 74, 687-695
  14. Markaida, U. and Sosa-Nishizaki, O. 2003. Food and feeding habits of jumbo squid Dosidicus gigas (Cephalopoda: Ommastrephidae) from the Gulf of California, Mexico. J. Mar. Biol. Ass. U.K.,86: 4162/1-16.
  15. Markaida, U. and Sosa-Nishizaki, O. 2004. Age, growth and maturation of jumbo squid Dosidicus gigas (Cephalopoda: Ommastrephidae) from the Gulf of California, Mexico. Fisheries Research 66: 31-47.
  16. 増田 傑・余川浩太郎・谷津明彦・川原重幸. 1998. 南東太平洋海域におけるアメリカオオアカイカDosidicus gigasの成長と資源構造. In 奥谷喬司(編), 外洋性大型イカ類に関する国際シンポジウム講演集. 海洋水産資源開発センター, 東京. 103-114 pp.
  17. 三木克弘・若林敏江. 2010. 資源利用構造(総括と展望).平成18-20年度 交付金プロジェクト研究.研究成果報告「アメリカオオアカイカの利用拡大に関する提案」、独立行政法人水産総合研究センター.p.39-42
  18. Nesis, K.N. 1983. Dosidicus gigas. In Boyle, P.R. (ed.), Cephalopod life cycles Vol. 1. Academic Press, London. 215-231 pp.
  19. Perrin, W.F., R.R. Warner, C.H. Fiscus and D.B. Holts. 1973. Stomach contents of porpoise, Stenella spp., and yellowfin tuna, Thunnus albacares, in mixed - species aggregations. Fish. Bull., 71: 1077-1092.
  20. ペルー生産省.2012.2012年のアメリカオオアカイカ資源の漁獲割り当ての制定.生産省省令No.036-2012-PRODUCE, p.36-37(スペイン語)
  21. 酒井光夫. 2004. チリ海域のアメリカオオアカイカは漁業資源となるか.遠洋、114:10-12
  22. 酒井光夫・若林敏江. 2010.生活史の概要(アメリカオオアカイカの生活史と資源変動の基礎).平成18-20年度 交付金プロジェクト研究.研究成果報告「アメリカオオアカイカの利用拡大に関する提案」、独立行政法人水産総合研究センター.p.5-8
  23. 酒井光夫・若林敏江・加藤慶樹. 2010. 他魚種・他資源・他海域への事業展開(総括と展望).平成18-20年度 交付金プロジェクト研究.研究成果報告「アメリカオオアカイカの利用拡大に関する提案」、独立行政法人水産総合研究センター.p.43-44
  24. Sandoval-Castellanos, E., Uribe-Alcocer, M. and Díaz-Jaimes, P.2010. Population genetic structure of the Humboldt squid (Dosidicus gigas d'Orbigny, 1835) inferred by mitochondrial DNA analysis. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 385: 73–78
  25. 水産庁. 2009. 日本・ペルー共同アメリカオオアカイカ資源調査.平成19年度国際資源調査等推進対策事業、水産庁漁業調査船『開洋丸』第5次調査航海 報告書、水産庁.pp.177
  26. Staaf, D., Camarillo-Coop, S., Haddock, S., Nyack, A., Payne, J., Salinas-Zavala, C., Seibel, B., Trueblood, L., Widmer, C. and Gilly, W. 2008. Natural egg mass deposition by the Humboldt squid (Dosidicus gigas) in the Gulf of California and characteristics of hatchlings and paralarvae. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 88: 759–770.
  27. Ulloa P, Fuentealba M, and Ruiz V. 2006. Haibitos alimentarios de Dosidicus gigas (D’Orbigny, 1835) (Cephalopoda: Teuthoidea) frente a la costa centro-sur de Chile. Rev. Chil. Hist. Nat. 79:475-479.
  28. 若林敏江・酒井光夫・加藤慶樹.2012.平成22年(2010年)アメリカオオアカイカ資源評価資料、海外いかつり漁場図ー補遺No.13、pp.20
  29. 若林敏江・柳本 卓・酒井光夫・一井太郎・小林敬典. 2008. アメリカオオアカイカの船上での迅速種判別法.スルメイカ資源評価協議会報告(平成19 年度)p.13、北海道区水産研究所
  30. 若林敏江・柳本 卓・酒井光夫・一井太郎・三木克弘・小林敬典. 2009. DNA解析結果に基づくアメリカオオアカイカの利用実態.スルメイカ資源評価協議会報告(平成20 年度)p.74、日本海区水産研究所
  31. Waluda, C.M., and P.G. Rodhouse. 2006. Remotely sensed mesoscale oceanography of the Central Eastern Pacific and recruitment variability in Dosidicus gigas. Mar. Ecol. Prog. Ser., 310: 25-32.
  32. ヤマシロ, C., L. マリアテギ, J. ルビオ, J. アルグレス, R. タフー, A. タイベ, M. ラビー. 1998. ペルーにおけるアメリカオオアカイカ漁業. In 奥谷喬司 (編), 外洋性大型イカ類に関する国際シンポジウム講演集. 海洋水産資源開発センター, 東京. 115-122 pp.