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65 アカイカ 北太平洋

Neon Flying Squid

Ommastrephes bartramii

                                                                       
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最近一年間の動き

日本沖合の冬春生まれ群を対象とする2012年漁期(1〜3月)の冬いか漁は、事前の貧漁情報や悪天候、日本海のスルメイカの豊漁が見込まれたことによって努力量が極端に低下して漁獲水準は激減した。しかし、2011年の沖合に分布する秋生まれ群を対象にした夏いか漁での漁獲は、漁獲の低かった前年から回復し2,600トン程度と見込まれている。本年(2012年)の調査流し網による中部太平洋の秋生まれ群の資源豊度は前年よりも大幅に増加し、また、冬春生まれ群の加入イカの豊度も増加傾向を示すという結果となった。これまで中型いか釣り漁船が西経海域(日付変更線より東側)で操業する場合には国土交通省の海技師免許による制約があったが、2010年より「船舶職員及び小型船舶操縦者法第20条」の乗組み基準の特例により、その条件が緩和されている。


利用・用途

大型のアカイカは肉厚で柔らかく、美味である。内臓・足・皮を除去して冷凍ロールイカ、惣菜、さきいか、燻製、イカ天ぷら等の加工原料になる。


図1

図1. 北太平洋アカイカ国別漁獲量
中国の漁獲量は、Chen et al.(2008a)による冬春生まれ群のアカイカ漁獲量とした(2006年以降は推定値)。また、FAO(2012)における中国による北西太平洋の不明イカ漁獲量の50%をアカイカ漁獲と見なした場合の値を■で示した。台湾のアカイカ漁獲量は、FAO(2012)の統計値における北西太平洋におけるその他のイカの値をアカイカと見なした。


表1

表1. アカイカの成熟外套長と最大外套長(谷津ほか1998)


図2

図2. アカイカ冬春生まれ群と秋生まれ群の分布と回遊(漁場は索餌域に形成される)


図3

図3. アカイカの成長曲線
左)親の成長(Yatsu 2000)、(右)生息する表面水温に依存する稚仔期の成長曲線(酒井ほか 2004)


図4

図4. アカイカに超音波発信器(Pinger)を付けたバイオテレメトリー手法によるイカの日周鉛直行動


表2

表2. アカイカ170°E以東の秋生まれ群のMSYレベル


図5

図5. 170°E以東のアカイカ秋生まれ群の我が国の漁獲量(2011年までの全漁連集計より)と調査流し網CPUE(10反当たりの採集尾数)の経年変化(1999年までの調査流し網データは北海道大学の北星丸による)


図6

図6. 170°E以西のわが国のアカイカ冬春生まれ群の漁獲量(全漁連集計1〜3月の水揚量から原魚換算)と調査船CPUE(尾/釣り機台数/時間)の経年変化(2007年を最後にそれ以降の調査はなくなった)、調査流し網CPUE(東経144度及び155度における10反あたりの採集尾数)による加入量予測値及び中国の漁獲量(2006年以降は資料なし)


図7

図7. 調査流し網による2006〜2012年における7月のアカイカの分布と量
(赤丸はCPUE:流し網1反当たりの漁獲尾数)各図の背景は7月中旬における表面水温


図8

図8. 調査流し網によるアカイカCPUE(10反当たりの採集された秋生まれ群とみなされる外套長34 cm以上の採集尾数)とアカイカ水揚げから換算した商業漁獲量(4〜9月にかけての全漁連集計水揚値から原魚換算)との間の関係。黒丸(○)は1993〜2011年までの関係。赤丸(●)は近年2006〜2011年にかけての関係を示した。


図9

図9. 7月の調査流し網で採集された冬春生まれ群アカイカ調査CPUEと翌年1〜3月に漁獲されるアカイカ商業漁獲のCPUEとの関係。2006年から調査を開始した調査ライン144°E及び155°Eの7月の調査CPUE値(冬春生まれ群とみなされる外套長34 cm未満の採集尾数)と商業漁獲のCPUE値(全漁連集計の翌年1〜3月にかけての水揚原魚換算値を出漁隻数で割った値)との間の重回帰分析による。縦棒は95%信頼区間。


図10

図10. 中層トロールで採集された未成熟のアカイカ秋生まれ群と考えられる加入群(外套長30 cm未満)の分布と密度
(1時間あたりの採集尾数、青は雄、赤は雌)と調査時期における海表面水温分布。


図11

図11. 商業流し網時代の秋生まれ群の逃避率とプロダクションモデルによる相対漁獲係数の経年変化(Ichii et al. 2006)


漁業の概要

1970年代初頭に激減したスルメイカ漁獲を補うために、1974年頃から三陸・道東沖合でアカイカ釣り漁業が始まり、1977年には最高漁獲量(12万トン)をあげた。一方、いか流し網漁業は1978年に三陸・道東沖で始まったが、アカイカ釣り漁業と競合したため、1979年から170°E以西を釣り漁場、以東を流し網漁場とすることで規制が実施された。その後、いか釣り漁業は縮小したが、いか流し網漁業は1980年代には毎年12〜22万トンを供給する重要な漁業となり、韓国と台湾も参入した(図1)。しかし、公海域における流し網漁業は、混獲を主因とする国連決議により1992年末をもってモラトリアム(操業停止)となった。

流し網が禁止になった1993年以降、アカイカの強い需要を反映して日本近海でアカイカ釣り漁業が復活し、1994及び1995年にはともに約7万トンを漁獲した。170°E以東の旧流し網漁場においても、いか釣り漁船が出漁するようになり、1995年以降0.2〜2万トンを漁獲して重要度が増している。170°E以西の漁業の主体は、沖合で操業する中型いか釣り漁業である。1994〜1998年は6万トン以上の漁獲量を示したが、資源が急減した1999年以降は1〜3万トンまで漁獲量が減少した。最近は漁業の主力である中型いか釣り船の減少及びスルメイカ等との兼業もあり漁獲量は多くない。

最近は、中国や台湾の釣り漁船が我が国200海里付近でアカイカを漁獲しており、中国船の隻数は1996年には年間約350隻、その後は約400〜600隻(一井 2002)に増加した。しかし、その後、資源水準の低下に伴い出漁隻数はやや減少して、中国現地での聞き取り調査などからここ数年は150〜250隻程度が出漁していると考えられる。これらの外国船による漁獲は、1995〜2005年には8〜11月にかけて冬春生まれ群を対象に7〜13万トンが報告(Chen et al. 2008a)されている一方で、秋生まれ群を対象とする漁獲量は全く報告がない。Chenら(2008a)の報告による1998〜2002年までのアカイカ漁獲量とFAO統計の同期間における北東太平洋の不明イカ漁獲とは、ほぼ完全に一致している。しかし、FAO統計における中国の北東太平洋における不明イカ漁獲量は、2003年以降にそれまでの10万トンレベルから50万トンレベルへと急増した。この値をただちにそのままアカイカの漁獲量と考えるには過大推計であるが、5〜8月頃に漁獲対象となる未報告の秋生まれ群の漁獲を含めると、中国漁船によるアカイカ漁獲量はChen et al.(2008a)の報告では過小推計と考えられる。一方、北太平洋では中国船籍とみられるいか釣り漁船が公海で禁止されている流し網を積載しており、その使用が疑われている(NPFC Annual report 2009)。2006年以降、米国沿岸警備隊による違法操業の取締まりが強化され、2007年には中国漁船が拿捕されている(Alaska Report 2007)。なお、FAO統計資料におけるアカイカ漁獲量の記載に関して、前述の中国統計もさることながら、これまで記載されていた台湾や韓国漁船の集計がまったく記載されなくなっていることには注意を要する。


生物学的特徴

アカイカは外洋性種で、季節的な南北回遊を行う。漁業が行われている北太平洋では、産卵場は日本(南西諸島〜小笠原諸島)や米国(ハワイ諸島)の200海里水域を含む表面水温21〜25℃の範囲の亜熱帯海域であり、索餌場は亜寒帯境界〜移行領域である(図2)(村田 1990、村田・中村 1998、谷津 1992)。北太平洋における系群は、発生時期、外套長組成、稚仔の分布及び寄生虫相により秋生まれ中部系群、秋生まれ東部系群、冬春生まれ西部系群及び冬春生まれ中東部系群の4系群に分けられる(谷津ほか 1998、長澤ほか 1998)(ただし、秋生まれの中部系群と東部系群は、商業流し網CPUEの経年変化が酷似しており、同一系群である可能性がある)。

寿命は1年で、最大外套長は雌で60 cm、雄で45 cm程度であり(図3左)、秋生まれ群が大型となる。成長は発生時期や海域により異なるが、雌は生後6か月程度で外套長30 cmになり生後約10か月で成熟に達する(表1)。ふ化稚仔は表層に分布し、表面水温に依存した指数関数的な成長をする(図3右、酒井ほか 2004)。

アカイカは、後述するように餌生物の日周鉛直移動と密接に関わる明瞭な日周鉛直移動を行う。秋生まれ群は春から夏にかけて索餌しながら北上回遊し、秋以降は南下回遊して産卵場に達するが、いずれも昼間は300〜600 m水深層を回遊し、夜間は0〜50 mの表層を回遊する(図4-A〜C)(酒井ほか2006)。一方、冬春生まれ群は冬季漁場において夜間は表層を回遊し、昼間の遊泳層は上述の秋生まれ群よりも浅い120 m程度である(図4-D)(酒井・加藤 2011)。

春期の北上回遊や夏期の索餌場でのアカイカは、ハダカイワシ類を中心とする魚類、頭足類、甲殻類等を捕食しており、特に前2者が主要な餌生物となっている(Seki 1993、有元・河村1998、保正ほか 2000、Watanabe et al. 2004)。これらの餌生物は、昼間は300〜600 m、夜間は0〜50 mの水深層を日周鉛直移動すると考えられる。一方、アカイカの捕食者として代表的なものはメカジキである(Seki 1993)。


資源状態

【秋生まれ中部系群及び秋生まれ東部系群】

1992年末の公海流し網の停止以降、旧流し網漁場における盛漁期(7月)のアカイカ流し網調査の資源量指数(10反当たりの捕獲尾数、CPUE)は、1年間の時間遅れを伴って約6倍に増加した(図5の黒丸実線)。これは、秋季発生系群を対象とした流し網漁業(年間10〜18万トンの漁獲圧があった)により低下していた資源が、1993年以降流し網の停止により急速に回復したことが示唆されている(Yatsu et al. 2000)。しかし、1997年に一度水準が低下し、その翌年1998年に高水準に復活したものの、その後1999年に再び低水準となり、これが2003年まで続いた。2008年に漁獲水準が増加したが、それ以降2011年まで低水準の状態で減少傾向が見られ、大きな資源変動が繰り返されている。秋生まれ群の流し網全盛期1982〜1992年における7月における資源量は、商業流し網データと調査流し網データを用いて3つの方法で推定され、いずれの方法でも非常に似た推定値(33〜38万トン)が得られた(Ichii et al. 2006)。

2001〜2011年までの11年間の調査流し網による秋生まれ群の平均CPUE(10反あたりの漁獲尾数)は10.2であり、2012年のCPUEは3.6であり平均より低かった。また、この11年のCPUEを最低値と最高値の差の3分の1で分けて低い方から低位、中位、高位の3等分にした場合、2012年の値は低位に相当する。一方、ここ3年間で見ると、2010年(CPUEは1.21)、2011年(CPUEは0.1)に比べて2012年は明らかに高い値であることから、資源は増加傾向にあると考えた。


【冬春生まれ西部系群】

本系群は170°E以西に分布し、釣り漁業の主対象となっている。資源変動についてみると、1970年代後半には10万トン以上の漁獲量をあげていたが、その後1990年初めにかけて、我が国のいか釣り漁業の漁獲量及び調査船のCPUE(尾/台/時間)は低下している(図6)。この原因として、@過大な漁獲量(日本の釣り漁業による10万トン以上の漁獲量+韓国・台湾及び170°E以西での我が国の流し網による漁獲量)及びA環境収容力の低下(親潮域の寒冷化による動物プランクトン現存量の減少;Nagasawa 2001)の可能性が考えられる。

8〜9月に北西太平洋で実施しているいか釣り調査の平均CPUEによると、最近の日本近海域におけるアカイカの資源変動は下記の通りである。流し網が行われていた期間を含む1979〜1993年まで平均CPUEは低水準(0.7〜9.4)であった(図6)。その後、1994〜1998年まで平均CPUEは1996年を除いて高水準(10.9〜14.9)が続いた。しかし、1999年に資源水準は顕著に低下し、2000年を除いて2002年まで低水準(0.5〜3.9)であった。そして、2004年前後に高い水準を示したが、その後、我が国の調査船によるCPUEは調査が終了する2007年まで変動しながら徐々に低下している傾向が見られ、過剰漁獲の影響も示唆される。

現存量についてはいくつかの推定値があるが、不確実性が大きく、信頼性のある値は得られていない。まず、1984〜1988年夏季の千島列島南部水域において、夜間の灯火観測点で実施された目視調査では、アカイカの平均密度が337〜1,172尾/km2と推定されている(スロボッコイ 1990)。アカイカの平均体重を500 gとし、この密度を170°E以西の西部北太平洋に引き伸ばすと、14〜40万トンとなる。また、村田・嶋津(1982)はDeLury法により、1979年の西部北太平洋(冬春季発生群)の初期資源量の推定値を最大2億8千万尾(体重500 gとして14万トン)と見積もった。継続的な加入と移出を考慮すると、ある時点における現存量と初期資源量は単純には比較できないが、両者は数十万トンと概ね一致している。一方、1983〜1995年の40〜45°N、140〜165°Eの西部北太平洋において、浮魚類を対象とした表中層トロールにより、アカイカ現存量が推定されており(Belayev and Ivanov 1999)、その結果を170°E以西に引き伸ばすと、105〜300万トンとなる。ただし、表中層トロール調査の場合、現存量の推定値は漁獲効率(曳網した海水中に分布する生物のうち漁獲される割合)の仮定値により大きく影響される。

近年の三陸沖合のアカイカ冬春生まれ群を対象とする冬漁では、2001〜2011年にかけての漁獲量の平均値は1.2万トンであったが、2012年はわずか2トンの漁獲量だけであり、漁獲量水準から見た資源状態は極めて低い水準であった(図6)。しかし、漁獲量が少なかった最も大きな原因は、アカイカ漁への努力量(延べ出漁日数)が極端に減少した(2日)ことにある。これは、事前に代替資源である日本海でのスルメイカが豊漁で逆にアカイカ冬漁は不漁となるとの情報があったこと、さらに西部北太平洋での冬場の海況が悪かったことなどによる。2008年に水揚量が15,600トンを記録してから本年まで毎年減少をたどり、資源の悪化が懸念された。しかし、実際の漁業で獲られるアカイカ成魚は、夏から秋にかけて黒潮北上暖水や三陸沖・釧路沖暖水渦を利用して北上索餌回遊(為石2002)を行っている間に、北西太平洋での中国を中心とする外国船による漁獲圧にさらされる。さらに、その後に産卵のための南下回遊を行いながら複雑な海洋構造を持つ三陸沖の漁場に到達する。このため、この漁場がどのように形成されるかは資源水準だけではなく海洋構造に起因し、漁獲量水準はその漁場探索能力に左右される。したがって、必ずしも冬漁の漁獲量水準が資源量水準を表す指標とはならない。2006年から本資源を対象として始めた調査流し網による翌年冬漁を予測する加入量調査では(図6)、2007〜2011年までの平均CPUE(10反あたりの採集尾数)は28.3であり、2011年度の加入量調査では2012年のCPUEは28.2と見積もられ、調査流し網CPUEで見ると2010年以降の冬春生まれ群の加入量はむしろ増加傾向にある(図6)。このように、加入量調査の評価と実際の漁獲量の水準には大きな差が見られた。しかし、本稿では、調査流し網の実施と解析が始まって間もなく、更なるデータの蓄積が必要であることから、資源の動向は漁獲量水準に依拠して減少傾向とした。


【近年の資源調査結果】

アカイカ秋生まれ群及び冬春生まれ群ともに、最近年は資源量水準及び漁獲量の変動が大きい(図5、6)。また、年魚であるため毎年の加入量や資源量の予測も難しく、北太平洋に広く分布する資源であることから、漁海況予測の調査体制にも制約がある。このような状況の中で、水産庁の委託事業として毎年7月に漁獲サイズ選択性の少ない調査流し網(10〜12種の目合)を用いて、2001年から大型の秋生まれ群の資源状況及び中小型の冬春生まれ群の加入状況を調べてきた(図7)。沖合の調査ライン(155°E及び175.5°E)では大型の秋生まれ群(外套長34 cm以上)と中小型の冬春生まれ群(外套長34 cm未満)が混獲され、近海沖合の調査ライン(144°E)では主として冬春生まれ群が漁獲される。調査流し網データから商業漁獲の資源水準を予測する試みを行った。秋生まれ群アカイカについては、北海道大学の北星丸調査(1993〜1999年)を加えた長期間(1993〜2011年)で見ると、調査CPUE値(秋生まれ群とみなされる外套長34 cm以上の採集尾数)と商業漁獲量(4〜9月にかけての全漁連集計水揚値から原魚換算)との間には緩やかな相関が認められた(図9、黒○)。しかし、近年の6年間(2006〜2011年)で見ると、調査網CPUEと商業漁獲量との間には有意な相関は見られず(図8、赤○)、漁獲水準が低い場合には調査流し網による推定精度は低いと考えられる。一方、冬春生まれ群アカイカを対象とした冬漁では、2006年から調査を開始した調査ライン144°E及び155°Eそれぞれにおける7月の調査CPUE値(冬春生まれ群とみなされる外套長34 cm未満の採集尾数)と商業漁獲のCPUE値(全漁連集計の翌年1〜3月にかけての水揚原魚換算値を出漁隻数で割った値)との間で重回帰分析を行った結果、2本の経度ラインでの調査CPUEから翌年冬の資源水準との間に相関が確認された(図9)。これによって、7月の流し網調査結果から翌年1〜3月の冬イカ漁の漁獲レベルを予測できることが示唆された。

北太平洋の中央部における漁業加入前の若齢アカイカの分布と量を明らかにするため、2010年1〜2月にかけて水産庁調査船『開洋丸』による表中層トロール調査が実施された(酒井ほか2011)。155〜170°Eにかけてのアカイカ秋生まれ群の加入群の分布密度(単位曳網時間あたりの採集尾数)を図10に示した。本調査では北緯27〜38度にわたって加入前の若齢イカが採集され、この海域ではほぼ雌雄ともにほぼ同じ割合(雄18個体、雌21個体)で分布していることが明らかになった。一般的に、夏期のアカイカ釣りの主漁場は北緯40度以北に形成される。漁場で漁獲されるのは雌のみで、秋生まれ群の雄は漁場まで北上しないため漁獲されない。この調査では、加入前の1〜2月において調査海域において雄のアカイカが漁獲されたことから、雄はこれ以上北上せずにこの海域にとどまるものと想定された。


管理方策

本種の管理方策については現時点では確立されていないが、これまでにいくつかの管理方策に向けた研究が報告されている。

170°E以東の秋生まれ群については、商業流し網による10〜20万トンの漁獲量は、プロダクションモデルの相対漁獲係数(F/FMSY)でみるとほぼMSYレベルに相当する(表2)。特に漁獲が最も多かった1987〜1990年頃にMSYレベルとなっている(図11)。また、漁獲が最も多かった頃の相対逃避率(漁獲せずに残した親イカ量の割合)はおよそ40%となっており、これはフォークランドのアルゼンチンマツイカの資源管理に採用されている資源管理の目標値に相当する。科学者の間で評価されているフォークランドの管理の例にならえば、アカイカの商業流し網による漁獲は適正レベルであったと考えられる。ただし、1999〜2003年に調査CPUEが非常に低くなっており(図5)、この原因としてレジームシフト(Bograd et al. 2004)による本系群の産卵場である亜熱帯前線域の基礎生産の低下が考えられる(Ichii et al. 2006)。その後、資源レベルはやや回復傾向を見せたが、大規模な公海流し網を行っていた時代以前のレベルには至っていない。

一方、170°E以西の冬春生まれ系群については、2000〜2005年の中国のいか釣漁業データを用いて除去法に基づき資源評価がされ、適正漁獲量(相対逃避率40%)は8〜10万トンと推定されている(Chen et al. 2008b)。しかし、1994年以降、北太平洋において中国による漁獲量が急増し、1995年以降毎年およそ10万トンの漁獲をあげている(Chen et al. 2008a)。

前述したように、中国による秋生まれ群の漁獲についての詳細は報告されておらず、冬春生まれ群と合わせたアカイカの漁獲量はかなりの量に達すると考えられ(上野・酒井 2010)、アカイカの資源水準の低迷と中国との漁獲の関係についても詳細な調査が必要である。


アカイカ(北太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位
資源動向 増加傾向(秋生まれ群)・減少傾向(冬春生まれ西部系群)
世界の漁獲量
(最近5年間)
0.8〜7.4万トン
平均:3.6万トン(2006〜2010年)
中国の不明イカを除くFAO秋生まれ群及び冬春生まれ西部系群の推計)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
0.7〜4.2万トン平均:1.8万トン
(2007〜2011年)
(全漁連水揚げ統計の原魚換算)
管理目標 MSY:15.9万トン(秋生まれ系群)(秋生まれ系群)
相対逃避率40%:10万トン(冬春生まれ西部系群)
資源の現状 低位(秋生まれ群)・低位(冬春生まれ西部系群)
管理措置 大規模流し網禁止(国連決議)
管理機関・関係機関 北太平洋漁業委員会(設立準備中)

執筆者

外洋資源ユニット
いか・さんまサブユニット
国際水産資源研究所 外洋資源部 外洋いか資源グループ

酒井 光夫・若林 敏江・加藤 慶樹


参考文献

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