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58 サケ(シロザケ) 日本系

Chum Salmon

Oncorhynchus keta

                                                                          
PIC

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最近一年間の動き

2011年度漁期(8月〜翌年2月)の沿岸におけるサケ漁獲尾数は3,909万尾、河川捕獲数は435万尾であり、両者を合わせた来遊数は2010年度の88.0%となる4,344万尾(速報値)であった。これは平成(1989年)以降で最も少ない来遊数である。2012年10月末までの全国の来遊数は3,751万尾(対前年同期比107.5%)であり、前年を若干上回ってはいるものの、2011年にひき続き低調な来遊となっている。2011年3月11日の東日本大震災で甚大な被害を被った本州太平洋沿岸のサケ漁業及び増殖事業の現場では復旧が進んでいるが、福島県沿岸では福島第一原子力発電所事故の影響により、海面漁業の自粛が現在も続いている。


利用・用途

サケは生鮮・冷凍食材として利用されるほか、毎年、決まった季節に沿岸や川で大量に獲れるため、昔から薫製、塩蔵、乾物、缶詰、練製品など、様々な加工・保存方法が発達してきた。塩蔵品としては、山漬け、新巻、定塩フィレなどがあり、魚卵はスジコやイクラ、腎臓はメフン(塩辛)として加工される。乾物にはサケトバ、サケ節がある。その他の加工品として、お茶漬けの具材として使われるサケフレーク、魚肉を米や麹で漬け込んだ飯寿し、塩蔵した魚介類を長期間熟成させた魚醤油などがある。サケの皮は、かつて北方先住民族であるアイヌが衣装や靴として加工していたが、現在ではコラーゲン抽出の原材料として注目されている。また精巣(白子)は、食材として消費されるだけでなく、核酸や塩基性タンパク質(ヒストンやプロタミン)を取り出して健康補助食品や機能性素材として利用される。


図1

図1. 日本系サケの分布(黄色:産卵地域、青色:漁場海域、赤色:分布海域、緑色:索餌(夏季)海域)


図2

図2. サケの耳石温度標識
受精卵の発眼期からふ化までの期間に飼育水温を人為的に制御してバーコード状の輪紋を施標する。写真右下のバーは50 µmを示す。


図3

図3. 日本系サケ幼魚のオホーツク海における分布。遺伝的系群識別により推定されたCPUE(トロール網1時間曳きあたりの採集個体数)を示した。(Urawa et al. 2004)


図4

図4. 8〜9月における日本系サケ未成魚の海洋分布。遺伝的系群識別により推定されたCPUE(トロール網1時間曳きあたりの採集個体数)を示した。日本系サケは大部分がベーリング海に分布する。(Urawa et al. 2009)


図5

図5. 北太平洋におけるサケ未成魚の7月における平均尾叉長(Ishida et al. 1998)


図6

図6. 夏季ベーリング海におけるサケの年齢別CPUE(トロール網1時間曳きあたりの採集個体数)年齢は海洋年齢1〜5歳(1+〜5+)で示してあり、回帰時の年齢では2〜6年魚に相当する。(Sato et al. 2012)


図7

図7. 夏季ベーリング海で採集されたサケの尾叉長400 mmで標準化した場合の体重。誤差線は95%信頼区間を示す(Sato et al. 2012)。


図8

図8. サケの来遊数(沿岸漁獲と河川捕獲の合計)と放流数


図9

図9. 日本各地におけるサケの回帰率の推移
回帰率とは、各年級群の2〜6年魚の来遊数を合計し、その年級群の放流数で除したパーセント。


図9

図10. 沿岸で漁獲されたサケの平均目廻り(平均体重)の推移


漁業の概要

サケ漁業の歴史は古く、縄文時代の遺跡からはエリと呼ばれる川を遮ってサケを獲る漁労施設の痕跡が、東日本各地の貝塚からはサケの骨が見つかっている(Ishida et al. 2009)。江戸時代中期(1800年頃)までのサケ漁業は、もっぱら河川(河口周辺)内で行われ、漁具としてヤナ、ウライ、鉤、ヤス、四つ手網、曵き網などが使われた。江戸末期になると曵き網のほかに建網も使われるようになり、サケ漁業は河川から沿岸へと発展していった(秋庭 1988、小林 2009)。

北洋のサケマス漁業は明治2年(1869年)に始まった。1907年の日露漁業協定によって旧ロシア領土内に漁業区を借りて漁業を行う権益が認められると、北洋のサケマス漁業は旧ロシア領沿岸、さらには沖合へと拡大した。その結果、第二次世界大戦前の昭和15年(1940年)までに、カムチャツカ半島(同沖合公海)・オホーツク・沿海州及びサハリン・北千島において、建網、母船式流網、基地式流網を用いたサケマス漁業が隆盛を極めた。しかし第二次世界大戦後、領土喪失とともにソ連邦における漁業権益も消失した(田口 1966)。昭和27年(1952年)にサンフランシスコ講和条約が発効し、日米加三国漁業条約が締結されると、北洋サケマスの沖取り漁業は再開された。この漁業は、母船式流網漁業と、北海道東部の漁港を拠点とした単船操業による基地式流網が主体であったが、出漁船団の増加や操業区域の拡大により沖取り漁業は飛躍的に発展し、漁獲量も増加の一途を辿った(田口1966、佐野1998)。このようなサケマス沖取り漁業の急激な発展から、他国起源のサケマス資源への悪影響が懸念されるようになり、昭和31年(1956年)には日ソ漁業条約が締結された。それ以降、沖取り漁業の操業条件は日米加三国漁業条約及び日ソ漁業条約の制約のもと、年々の操業が行われるようになった。1970年代に入り、200海里漁業水域の設定及びサケマス母川国主義(資源が生まれ、産卵のために回帰する母川を有する国がその資源について第一義的利用及び責任を有するという考え)が定着し、昭和52年(1977年)に米国及び旧ソ連において200海里水域が設定された。これにともない、翌年にはそれまでサケマス沖取り漁業を規制していた上記2つの条約が改廃され、操業条件はより一層厳しいものとなり、沖取りによるサケマス漁獲量は激減した(佐野1998)。さらに、昭和47年(1972年)に米国で制定された海産哺乳動物保護法の適応範囲が、昭和52年(1977年)に領海12海里から200海里に拡大されると、沖取りサケマス流網漁業による海洋哺乳類の混獲が大きな問題となった(佐野 1998)。その後、平成3年(1991年)の第46回国連総会において大規模な公海流網の停止が採択され、また平成5年(1993年)に200海里の外側水域におけるサケマス漁業の禁止を含んだ「北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約」(NPAFC条約)が発効したことにともない、公海における沖取りサケマス漁業は消滅した。現在、春〜夏にかけてロシア及び日本200海里水域においてサケマス流網漁業が実施されているが、当該漁業の漁獲物にはロシア起源のサケマスが含まれることから、操業条件等について、日ロ政府間協議及び日ロ漁業合同委員会で毎年協議が行われる(図1)。

一方、日本沿岸及び河川において秋〜冬に行われるサケ漁業は、産卵のため母川を目指して回帰した日本系サケを対象としている。沿岸のサケは定置網や固定式刺網などで、河川のサケはウライ、捕魚車、引き網などで漁獲される。明治初期からの漁獲データが残る北海道についてみると、明治初期(1870年)から明治26年(1893年)頃までは漁獲尾数が1,000万尾を超える年があるなど、年500〜700万尾ほどの漁獲があったが、それ以降1970年頃までの80年間あまりは年300万尾程度の漁獲水準が続いた(小林2009)。日本で初めて人工ふ化放流が行われたのは明治9年(1876年)の茨城県那珂川であり、翌年には北海道でもサケの人工ふ化放流試験が実施された。その後、北海道では明治21年(1888年)に官営の千歳中央ふ化場が建設されると、民間のサケふ化場が次々と建設され、サケの資源維持は河川内サケ漁業を規制する産卵保護から人工ふ化放流へと転換していった。しかし、当時の民間ふ化場は経営が非常に厳しく、捕獲したサケ親魚の売却金が唯一の収入源であった(秋庭1988)。そのため、河川溯上量の減少がふ化場の経営悪化につながり、さらに捕獲親魚の売却で種卵(放流種苗)の確保が困難になるという悪循環が生じ、サケ資源は長期間低迷した。民間ふ化場の経営の行き詰まりから、昭和9年(1934年)に北海道のほとんどすべての民間ふ化場は官営となり、北海道のサケ人工ふ化が官営事業として実施されることになった。しかし、当時のふ化放流技術は未熟だったこともあり、その後も資源は回復しなかった。第二次世界大戦後、昭和27年(1952年)に水産資源保護法が施行されると、北海道のふ化場は国立ふ化場が主体となり、また本州の民間ふ化場にも補助金が支出されるなど、国の積極的な支援のもと、ふ化放流事業が実施される体制となった。その後、試験研究に基づいたふ化放流手法の実践及び1976/77年のレジームシフト以降の海洋環境の好転もあり、1970年代半ば以降、日本系サケ資源は飛躍的に増加し、平成8年(1996年)には史上最高となる26.6万トンの漁獲量を記録した。平成23年(2011年)の日本沿岸での漁獲量は13.1万トンであり(Sasaki et al. 2012)、最近10年間の漁獲量は13.1〜25.6万トンとなっている(Irvine et al. 2012)。


生物学的特性

日本系サケは秋から冬にかけて河川を溯上し、河川の湧水域など通水性の良い河床の砂礫を掘って産卵する。受精卵の発生速度は水温によって異なり、水温8℃では約60日でふ化する。ふ化した仔魚は、日光の遮断された砂礫中にとどまり、卵黄嚢を吸収しながら安静を保って成長する。卵黄嚢は水温8℃では約60日で吸収され、卵黄嚢の吸収がほぼ終わった個体は砂礫中から浮上して河川内で摂餌を開始する。摂餌を始めた稚魚は、河川を流下する水生昆虫や陸生昆虫を無選択に摂餌しつつ、多くの個体は活発な降海行動を示す(帰山 1986)。

一方、ふ化場で人工受精された受精卵は、第一卵割が始まる頃から発眼期まで、振動などの衝撃に極めて弱いため、安静を保って管理される。発眼期を迎えて、比較的衝撃に強い時期になると(水温8℃で受精後約40〜45日)、健全な受精卵と死卵を区別する検卵作業が行われる。近年、サケの標識方法として、耳石にバーコード状の輪紋を施す耳石温度標識(図2)が、NPAFC科学調査統計委員会における標識パターンの調整のもと、北太平洋の沿岸各国で行われている(NPAFC Working Group on Salmon Marking; http://npafc.taglab.org/default.asp)。我が国におけるこの標識の施標は、検卵後の発眼期からふ化までの間に、卵の飼育水温を人為的に制御することで作り出される。検卵や標識作業の終わった発眼卵は、小石や人工基質を敷き詰めた養魚池、もしくは浮上槽と呼ばれる孵化器に収容され、ふ化から仔魚期を過ごす。ふ化した仔魚は日光を嫌うため、卵黄嚢を吸収し終わって浮上するまで、遮光した環境で管理される。浮上したサケ稚魚は、人工配合飼料で尾叉長50 mm前後まで飼育されたのち、主に3〜5月にかけて河川へ放流される。

河川に放流されたサケ稚魚の大部分は、数日から10日前後ですみやかに降海する(眞山ら1983)。降海したサケ稚魚は、塩分が低く波浪の影響を受けにくい河口域や沿岸域に群泳し、橈脚類、カニ類幼生、陸生昆虫などを摂餌しながら成長する(入江1990)。尾叉長が70〜80 mmほどに成長すると遊泳能力が向上し、端脚類などのより大型の動物プランクトンや仔稚魚を摂餌できるようになる(帰山1986)。この頃になると広域探索型の摂餌方法をとるようになり(帰山1986)、おもに距岸20〜30 km以内の沿岸域を北上移動し、7月末頃までに日本沿岸域を離岸する(入江1990)。

日本沿岸域を離岸したサケ幼魚は、夏から秋にかけてオホーツク海に分布し(浦和2000、Mayama and Ishida 2003、図3: Urawa et al. 2004)、端脚類、橈脚類やオキアミ類を主体とした動物プランクトンを摂餌しながら(関、未発表データ)、短期間で尾叉長200〜280 mm程度に成長する。オホーツク海におけるサケ幼魚は、8月には海水表面水温(SST)が 10℃を超える海域にも分布するが、9月以降になるとSST 5〜10℃海域に分布が集中するようになり、オホーツク海の水温がSST 5℃以下に低下する11月にはオホーツク海から西部北太平洋へと南下する(Mayama and Ishida 2003)。その後、日本系サケは西部北太平洋のSST 4〜8℃海域で最初の越冬を行う(Nagasawa 2000、浦和 2000)。

6月になると、西部北太平洋で越冬していた日本系サケ若齢魚(海洋年齢1年魚)は北上し、アリューシャン列島から中部ベーリング海の海盆付近にかけて広く分布するようになる(図4: Urawa et al. 2009)。そして、クラゲ類、翼足類、オキアミ類、端脚類などを摂餌し(Davis et al. 2000)、初秋(9月)頃には尾叉長360〜390 mm程度に成長する。水温が低下する11月頃までに、日本系サケ若齢魚はベーリング海を離脱し、アラスカ湾の水温が4〜7 ℃の海域で2度目の越冬を行う。その後、日本系サケ未成魚は索餌海域(ベーリング海)と越冬海域(アラスカ湾)の間を季節的に移動し、成熟したサケ成魚は主にベーリング海を経由して産卵のため母川へ回帰する(浦和 2000)。7月における未成熟魚の年齢別平均尾叉長を図5に示す(Ishida et al. 1998)。

日本系サケの成熟年齢は2〜8年と幅があるが、通常4年魚(海洋年齢3年)の回帰が最も多い。成熟年齢や成熟サイズには日本海や本州の河川群では2〜3年魚といった若齢の成魚が比較的出現しやすいなど(水産総合研究センター 2008)、地域的な特徴も認められるものの、河川群ごとに変異が存在する。成熟年齢及び成熟サイズの決定には、河川群ごとの遺伝的差異のほかに、沖合海域での成長が影響している(Morita et al. 2005)。さらに、成魚の河川溯上時期や繁殖形質(孕卵数や卵径)にも、河川群による違いが認められる(例えば、水産総合研究センター 2008)。このように様々な形質に河川ごとの差異が存在するのは、サケが母川回帰性を有するために、各々の河川群がそれぞれの河川や沿岸環境に適応したためと考えられる。サケは一生に1度だけ産卵する1回繁殖の繁殖様式をとり、雌親魚は卵をいくつかの産卵床にわけて産卵し、雄は雌をめぐって雄間で攻撃行動をとる(Salo 1991)。産卵を終えたサケは雌雄ともにすべて死亡する。

サケは、河川から海洋におよぶ全生活史にわたり、様々な動物に捕食される。産卵のため河川に溯上したサケ成魚は、ヒグマなどの陸上大型哺乳類に捕食される(Gende and Quinn 2004)。また、河川での卵・仔稚魚期には魚類(カジカ類、アメマスやサクラマスなどのサケ科魚類、ウグイなど)、降海後の幼稚魚期には海鳥(ウトウ、ウミネコ等)や魚類(ウグイ、マルタ、アメマス、ヒラメ、スズキ、アブラツノザメ、ホッケ、カラフトマス、サクラマス等)、未成魚・成魚期には大型魚類(ネズミザメ、ミズウオダマシ等)や海産哺乳類(ゼニガタアザラシ、オットセイ、カマイルカ等)に捕食される(Fiscus 1980、河村 1980、久保 1946、Nagasawa 1998a、1998b、Nagasawa et al. 2002)。これら被食による日本系サケの死亡率に関する知見は極めて少ない。


資源状態

1976/77年のレジームシフト以降、北太平洋のさけ・ます類の漁獲量は増加し、1990年代に入っても比較的安定した高水準が続いている。2009年には史上最高の114万トンの漁獲量を記録したほか、2011年にも2007年及び2009年に続いて100万トンを越える漁獲量が記録されるなど、北太平洋のさけ・ます類は高い資源水準にある(Irvine et al. 2012)。アジア側のさけ・ます類では、カラフトマスとサケが卓越し、1989年のレジームシフト以降、これらの漁獲量が増加し、現在も高水準が続いている。特に2000年代半ば以降、ロシアのカラフトマスとサケの漁獲量は急激に増加している。また、ロシアのさけ・ます類(サケ、カラフトマス、ベニザケ)の放流数も近年15年あまり増加傾向にある。日本及びロシアのいくつかの地域では、放流手法の改善や海洋環境の好転により、ふ化場産サケの生残率が向上しており、そのことが近年のアジア側における高い資源水準と関連していると考えられる(Irvine et al. 2012)。北太平洋に分布するさけ・ます類の分布・資源量をモニタリングするため、1952年から流し網を用いた米国等との国際共同調査が行われてきた。1990年代以降、NPAFC加盟国による海洋でのさけ・ます類の資源量調査では、表層トロール網が標準的なサンプリングギアとして用いられるようになり、我が国でも2007年以降(2007〜2009年及び2011〜2012年)、夏季ベーリング海において表層トロール網によるさけ・ます類の分布・資源量モニタリングを実施している(Sato et al. 2012)。表層トロール網では、海洋年齢1歳の未成魚(尾叉長400 mm未満)が多数採集されており、年齢別CPUE(5ノット1時間曳網あたりの漁獲尾数)が推定されている(図6:Sato et al. 2012)。また、尾叉長400 mmで補正した場合のサケ未成魚の体重が2011〜2012年には過去に比べて小さくなっており(図7:Sato et al. 2012)、沖合海域で成長低下の可能性が示唆される。今後、モニタリングデータの蓄積が進み、漁獲物について遺伝的手法等による系群組成の推定が実施されることで、日本系サケの資源評価の精度向上、他国起源のさけ・ます類との分布様式や生息状況の評価が可能になると期待される。

我が国におけるサケの放流数は、1960年代から1970年代にかけて増加し、1980年代以降は約18〜20億尾に維持されている(図8)。第二次世界大戦後に再開された北洋サケマス漁業は、1960年頃になると操業条件の厳しさが増し、国内の資源増大を図る機運が高まったこと、さらに昭和37年(1962年)から始まったサケの給餌飼育放流が放流後のサケの生残率を向上させ、回帰資源量が増加したことなどの理由から、放流数の増大が可能となった(小林 2009)。しかし、1970年代の半ば頃から、増加の一途をたどる日本のサケ放流数に対して国外から懸念が示され、昭和55年(1980年)以降、放流数は一定に維持されるようになった(小林 2009)。なお、平成23年(2011年)春に放流された2010年級群の放流数の集計値は約12億尾であり、前年の約64.8%まで減少した。この減少は、2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波被害で、本州太平洋側からの放流数が特定できず、当該地域の放流数が含まれていないためである。一方、サケの来遊数(沿岸漁獲数と河川捕獲数の合計)は、1960年代後半の約500万尾から1990年には6,000万尾を超えて10倍以上に増加した(図8)。このように来遊資源が飛躍的に増加したのは、給餌・適期放流(給餌して大型に育てたサケ稚魚を、沿岸域の水温が上昇して餌生物の生産が高くなった時期に放流すること)の実践や、1976/77年のレジームシフトに伴う海洋環境の好転が影響したと言われているが(例えば、Mayama 1985、Kaeriyama 1998)、北洋サケマス漁業の終焉や河川環境(すなわち、産卵環境)の改善による効果も指摘されている(Morita et al. 2006)。1990年代以降の来遊数は4,400〜8,900万尾と年変動が大きく、1970年以降の来遊状況からみた場合、現在の資源水準は中〜高位に位置する。しかし、平成16年(2004年)以降の来遊数は漸減傾向を示しており、平成23年(2011年)は平成以降で最も少ない来遊数(全国で4,344万尾)を記録した。平成24年(2012年)も10月末時点で前年度と同程度の低調な来遊状況となっており、資源の減少傾向が懸念される。

1989年級群(1989年に回帰した親に由来し、翌1990年春に放流された年級群)以降の日本各地の回帰率を図9に示す。サケの成熟年齢(すなわち回帰年齢)は2〜8年と幅があるため、日本の主な河川に回帰したサケの鱗から年齢組成を求め、それを河川捕獲数で重み付けすることにより、特定地域に回帰したサケの年齢組成を算出し、それを河川近傍の沿岸漁獲物の年齢推定にも使用している。このようにして得られた年齢別の沿岸漁獲数及び河川捕獲数を年級群ごとに集計し、当該地域から放流された年級群の放流数で除して回帰率(パーセント)を算出する。なお、同一年級群でみると7年魚以上の高齢魚は通常5%にも満たないことから、ここでは2〜6年魚の回帰尾数を使って回帰率を算出した。北海道では、1995年級群の回帰率が2%台まで大きく落ち込んだものの、1997年級群までは概ね4.5%ほどを維持していた。しかし1998年級群以降、回帰率は約4〜7%と大きな隔年変動を示しながら低下している。本州太平洋では、1994年級群までは平均2.5%程の回帰率を示したが、1995年級群で約1%まで大きく落ち込み、それ以降2%前後の回帰率が続いている。一方、本州日本海は1%を切る状態が続いているものの、1999年級群まで平均0.3%だった回帰率は、2000年級群以降では平均0.7%に向上している。

資源状態の質的な指標のひとつとなる、サケ成魚の沿岸での平均目回り(漁獲尾数とその重量から求めた1尾当たりの平均体重)は、北海道、本州太平洋及び本州日本海の3地域で増減傾向が類似する(図10)。最近10年をみると、平成14年(2002年)あるいは平成15年(2003年)をピークとして平均目廻りは漸減し、平成23年(2011年)には3.30 kgと、2000年以降では最も目廻りが小さかった平成19〜20年(2007〜2008年)の水準まで減少した。

北太平洋のさけ・ます類資源が依然として高水準にあること、我が国のサケ放流数が過去30年あまりにわたって毎年ほぼ一定に維持されていることなどの背景から、日本系サケは中位から高位の資源水準を維持するものと考えられる。しかし、1998年級群以降、多獲地域である北海道のサケを中心に、回帰率が大きな変動を示しながら漸減していることから、年あるいは地域によって来遊数に例年以上の偏りが生じる可能性がある。


管理方策

日本系サケの放流数は1980年代はじめからほぼ一定に維持されてきたために、放流数と来遊数の間には密度依存的な関係が観察されず、最大持続生産量とそれに必要な最適放流数は算出されていない。現在の日本系サケの資源水準は変動しながらも中位から高位であることから、現在の資源水準(過去10年の平均来遊数6,387万尾)を維持するための管理方策を講じることが望ましい。そのためには、ふ化場の施設数・規模の制約を考慮しつつ、日本系サケ資源は産卵親魚量一定方策により管理し、近年の放流数である約18億尾を維持する必要がある。

通常、サケの来遊数予測にはシブリング法が用いられる。シブリング法とは、同一年級群を対象に、ある年にt年魚で回帰した回帰数と翌年にt+1年魚で回帰した回帰数に関するデータを複数の年級群について集積し、両者の間に認められた関係式を用いて、今年のt年魚の回帰数から来年のt+1年魚の回帰数を推定する方法である。2012年度漁期の来遊数と年齢組成が出揃わない現時点(2012年10月)では、シブリング法による2013年度漁期の来遊予測はできない。そこで、2013年度漁期の来遊数を過去5年平均の5,539万尾程度と仮定すると、採卵に必要な河川捕獲数(親魚数)は過去5年平均から478万尾と見積ることが出来るので、持続漁獲量は両者の差である5,061万尾となる。これに過去5年の全国平均目廻りである3.35 kgをかけると、漁獲重量は17.0万トンと計算される。

現在、我が国のサケの増殖計画策定や主要漁業である定置網の漁獲管理などの資源管理措置は、道県あるいはその中の地域単位で実施されている。この資源管理の基礎となる地域単位ごとの来遊数は、沿岸漁獲魚の起源が当該地域の河川であるという前提で計算されている。しかし、これまでの親魚標識放流や沿岸漁獲魚における耳石温度標識の確認から、沿岸漁獲魚には当該地域以外から放流された魚も含まれることが知られているので(例えば、高橋 2009)、計算された地域単位の来遊数はこれらの誤差を含んだ値である。この誤差を正しく評価するためには、漁獲された魚の起源推定に必要な生物学的知見の蓄積が重要である。そのためには、水産庁、水産総合研究センター、地方自治体、漁業団体及びさけ・ます増殖団体の緊密な連携協力が重要である。また、溯河性魚類は国際資源管理の対象となっており、母川国である我が国は適正な資源管理を実施することが肝要である。

海洋域でのさけ・ます資源調査は、放流直後の沿岸域(沿岸調査)と索餌回遊中の沖合公海域(沖合調査)で実施されている。特に沖合調査では、採集したサケの系群識別、さけ・ます類の分布と成長の変化、さらに餌生物や海洋環境などが調べられている。日本系サケの資源評価を充実させるためには、2007年から開始された表層トロール網による沖合調査を継続し、来遊資源との関係を検討できる時系列データを構築することが重要である。また、海洋域では他の沿岸国起源のさけ・ます類が混合して分布しており(小倉 1994、Sato et al. 2009、Urawa et al. 2009)、海洋域における密度効果は様々な地域を起源とするさけ・ます類の体成長や成熟年齢に作用する(Bigler et al. 1996、Helle et al. 2007)。ある特定の資源が卓越した場合(例えば、奇数年のアジア系カラフトマス)、その資源が他の沿岸国起源のさけ・ます類の成長のみならず、生残にまで影響を及ぼすことが報告されている(Ruggerone and Nielsen 2004)。したがって、今後も海洋域における環境収容力や高次生物生産などの調査研究を沿岸各国と協同で進め、索餌域である北太平洋の生物生産を考慮した資源管理方策を開発する必要がある。


サケ(シロザケ)(日本系)資源の現況(要約表)

資源水準 高位
資源動向 変動
我が国の漁獲量
(最近5年間)
暦年漁獲重量:13〜20万トン
平均:16.9万トン
管理目標 現在の資源水準の維持
資源の現状 2011年の回帰数/目標値:0.70
(目標値:漁期年漁獲数;最近10年平均6,235万尾)
管理措置 持続的漁獲量:5,061万尾(17.0万トン)
稚魚放流数:18億尾
幼魚・未成魚・成魚期EEZ外、成魚期河川内禁漁
(成魚期日本EEZ内のみ漁獲可能)
管理機関・関係機関 NPAFC(北太平洋溯河性魚類委員会)・日ロ漁業合同委員会

執筆者

北西太平洋ユニット
さけ・ますサブユニット
北海道区水産研究所 さけます資源部 資源評価グループ

斎藤 寿彦・渡邉 久爾・佐々木 系・高橋 史久


参考文献

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