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61 カラスガレイ オホーツク公海

Greenland Halibut

Reinhardtius hippoglossoides

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最近一年間の動き

2008年5月から7月の漁期中に、1隻がオホーツク公海においてカラスガレイを対象とする底刺し網操業を行った。2008年のカラスガレイ漁獲量は2隻が操業した2007年の369トンから241トンに減少した。


利用・用途

切り身等に利用される。


図1

図1. オホーツク海カラスガレイ分布域(赤)および漁場(青)


図2

図2. オホーツク公海カラスガレイ漁獲量(上図)、努力量(中図)およびCPUE(下図)


図3

図3. オホーツク公海における近年の漁場位置


図4

図4. カラスガレイのBertalanffy成長曲線 (オホーツク海; 片倉他., 2008)


図5

図5. カラスガレイ漁獲物の体長組成


図6

図6. カラスガレイ漁獲物の体長(平均値±標準誤差)


図7

図7. カラスガレイ生殖腺重量指数


漁業の概要

オホーツク海の中央部にはロシア主張200海里水域(EEZ)に囲まれて公海が存在する。この公海は、概ね東経148〜151度、北緯51〜56度で囲まれる細長い海域で、ベーリング公海がドーナッツ・ホールと呼ばれるのに対して、その形からピーナッツ・ホールと称される。公海の北部では水深はおよそ500mと比較的浅く、南に向かい次第に急斜面となり、1,000m以深となるが、公海の南西部は大陸棚斜面に向いて比較的浅くなっている。

我が国は、2000年6月に「保存及び管理のための国際的な措置の公海上の漁船による遵守を促進するための協定」(フラッギング協定)を受諾したことから、オホーツク公海(図1)におけるカラスガレイ底刺し網漁業は本協定の対象漁業となり、それまでの北海道知事許可漁業から2000年度に大臣承認漁業となり、2007年度より特定大臣許可漁業に切り替えられた。

オホーツク公海におけるカラスガレイを対象とした底刺し網漁業は1986年に北海道の試験操業として始めて実施された(依田ほか 1988)。特別採捕の知事許可を得て、5〜6隻が22.7 cmの大きな目合いの底刺し網を使用して、カラスガレイ成魚を対象とした操業を開始した。オホーツク公海における漁期は4月から12月までで、冬期間は海氷に覆われるため漁は中断される。本漁業においては、混獲魚として、カスベ、キチジ等が漁獲される。2000年以前の漁業情報や生物情報は、北海道立水産試験場により集められており(北海道庁 2000)、本稿でもこれらの情報を利用している。

漁業開始時の漁獲量は概ね4,000トンを超えており、CPUEも20 kg/反を超えていたが(図2)、1992年からはロシアEEZでの操業が可能になったことから、漁獲努力は公海を離れてロシアEEZに集中した。このことが1992年以降の漁獲量の減少に影響している。しかしながら、ほぼ同時に公海におけるCPUEが1991年をピークとして急激に減少しており、1996年には3.1 kg/反とピーク時の1/10程度にまで落ち込み、資源水準が低下したことが示されている。この原因として、当時、ポーランド等のトロール船がスケトウダラを対象とした操業をこの海域で行っていた影響が指摘されている。

1992年から1999年までは本漁業は、公海とロシアEEZの両海域を利用しながら行われていたが、2001年よりロシアEEZでの操業ができなくなり、その後の操業は5月から12月の漁期中、公海での操業に集中することとなった。このような操業形態の変化を反映して、1990年代から2000年代初めまでのCPUEは10〜20 kg/反付近で経年的に大きく変動しており、一定の傾向を判断することは困難な状況にある。2002年以降のCPUEは比較的安定しており資源状況を反映している可能性も考えられるが、公海域での漁業形態が安定してからの経過年数がわずかであることから引き続きデータを収集することが必要と判断される。また、漁場においてはシャチによる漁業被害が頻繁に起こっているとの情報もあり、このこともCPUEの解釈を困難にさせる要因としてあげられる。2001年、2002年と操業が公海に集中したことを反映して漁獲量は一時的に増加に転じ、2002年には1,398トンの漁獲が得られたが、2003年以降、操業隻数が3隻から2隻に減船し、さらに2005年には操業隻数は1隻となった。2006年、2007年と2隻での操業となったが、2008年は1隻のみが操業を行った。近年は、操業を夏までで切り上げることが多く、その漁獲量は操業隻数の減少と、操業期間の短縮によって影響されており、2008年の漁獲量は前年から128トン減少して241トンとなっている。

漁場は、オホーツク公海の北部に見られるが、これは500〜1,000mの水深帯に概ね一致する(図3)。ロシアEEZでの操業が行われていた時期には、公海東側の大陸棚斜面域周辺で漁獲が得られていたことを考えると、オホーツク公海資源は、隣接するロシアEEZ大陸棚斜面に分布する資源と連続しているものと考えられる。ロシアでは、オホーツク海の大陸棚周辺海域において80年代まではトロールにより、また、90年代に入ってからは、はえ縄または底さし網によりカラスガレイ漁業が行われている。オホーツク海北東海域における1991〜2001年の平均漁獲量は4,300トンで、近年のロシア北オホーツク小海区におけるカラスガレイTACはおよそ5,000トンとされている。


生物学的特徴

カラスガレイは日本海、オホーツク海からベーリング海を含む北太平洋を経て北大西洋にまで広く分布することが知られているが、これらの資源構造は明らかになっていない。オホーツク海の大陸棚上及び大陸棚斜面を索餌海域として利用しており、スケトウダラ等魚類やイカ類を餌として利用していることが知られているが、この海域における産卵場についての知見はない。

目合い22.7 cmの底刺網を漁具として使用していることから、漁獲される魚体はおよそ500 mm以上の成魚が主体となっている。大西洋における既往の知見によると、耳石年齢査定及び体長分解により500 mm以上のカラスガレイは5〜7歳以上であろうと考えられる(Bowering 1983、Bowering and Nedreaas 2001)。寿命は明らかではないが、10年以上と考えられており、ベーリング海のカラスガレイについては、耳石切断切片の観察結果から成長曲線が得られている(Gregg et al., 2006)。オホーツク公海のカラスガレイについても耳石を用いた年齢査定の試みがなされており、耳石の最も肥厚した部分を含む薄切横断面の観察により、年輪様の構造を観察することが可能となっている。この構造を年輪と仮定すると、2006年に採集された470-650mm(66尾)のカラスガレイの年齢は8-23歳の個体を含むものと推定され、その大部分は11-13歳の個体であると推定された(片倉他、2008)。本種は雌雄で成長様式が異なることが示唆されており(図4)、今後年輪様構造の形成周期の確認とともに、年齢・体長関係を集積することで資源生態に関して有用な情報が得られることが期待される。

1990年代始めの雌の漁獲物組成をみると600 mm以上の魚が多くみられており、大型で比較的高齢の魚が漁業を支えていたものと考えられる。CPUEは1996年に激減し、その後再び1998年に増加したが、この間の漁獲物は600 mm以下の小型の魚が主体となっており(図5及び図6)、1980年代に高い豊度で加入した魚が漁獲と自然死亡でいなくなった後に、新たな年級が加入してきた可能性が示される。このような豊度の高い年級の加入と生き残りが、この海域での漁獲を支えているものと考えられる。2000年以降の雌の平均体長はおよそ640 mmと大型で、2002〜2004年の漁獲物からは高い豊度での小型/若齢魚の加入の兆候はみられていなかったが、2005〜2007年の漁獲物の雌の平均体長は約590 mmと小型化しており、新たな年級群が海域に加入している可能性が示唆された。

本種の産卵期は依田ほか(1988)によると9月以降とされている。過去の漁獲物調査で得られた雌標本魚を材料として、生殖腺重量指数GSI(生殖腺重量/魚体重×100)の体長に対する変動を調べると、GSIは体長550 mm前後から増大し始め、およそ600 mm以上になると大きくばらつき、GSIの高い個体では、生殖腺が大きくなるとともに、卵径も大きく成熟に向かっていた。このことから、この海域における雌魚の成熟の開始は体長550 mm以降(8から9歳頃)に起きるものと推定された(図7)。したがって、500 mm以下の魚は未成魚としてこの海域に分布しているものと考えられる。


資源状態

【資源量調査の経過及び結果】

資源量の指標として使用可能な情報は、漁獲成績報告書に基づく漁獲量及びCPUEの経年変化と、操業船標本から得られる生物情報である。CPUEの経年的な変動を見る限り、資源水準は1990年代始めにみられたような高い水準から、1990年代中頃に低い水準に落ち込んだ後、1998年に中位に向けて回復している兆候がみられた。1990年代後半に魚体の小型化に続いてCPUEが増大し始めたことから、この時期、公海漁場に若齢魚が加入した可能性が考えられる。1990年代後半から2002年まではCPUEは中位から低位水準を経年的に変動していたが、2002年以降のCPUEは安定している。2008年のCPUEは前年の1.5倍に増加しているが、漁期始めの1隻の操業情報に依っているデータであり、一般に漁期始めのCPUEは高くなることから、この増加は必ずしも資源量の増大を反映したものとは判断できない。2000年以前のCPUEは、ロシアEEZと公海漁場への漁獲努力の配分が経年的に一定ではなかったことにより、漁期や操業期間が変動しており、そのために不安定な挙動をしている可能性も考えられる。また、近年の操業形態となった2002年以降のCPUEは安定し始めているが、近年シャチによる食害が指摘されており、このことがCPUEの挙動に及ぼす影響は把握しきれていない。これらのことを考慮すると、1990年代からのCPUEの変動傾向をもって資源状況を判断することには困難が伴う。今後も漁業形態が安定した中でのCPUEモニタリングを継続して判断する必要があるが、2002年以降のCPUEの挙動を見る限り、資源量水準は低位から中位を経年的に変動しており、その動向は横ばいと判断される。


管理方策

我が国によるカラスガレイ底刺し網漁業はロシアEEZに囲まれた狭い公海のみで行われている。公海資源は隣接するロシアEEZ大陸棚斜面に分布する資源と連続していることから、この公海域の漁業管理のみによる資源保全は現実的ではない。操業隻数が2隻以下と限られており、また冬期間には結氷のため漁業ができないことにより、実質的に漁獲努力量が制限されている。

今後、フラッギング協定対応の調査において、対象漁業についての漁業実態と漁獲物についての経年的なモニタリングを継続していく中で、努力量の急増あるいは資源水準及び動向に変化が生じる兆しがあれば、それを捉えることが可能である。資源状況に関するモニタリングを継続しつつ、極端にCPUEを低下させることのないような適正な漁獲努力の配分を行うことで、資源を将来にわたり持続的に利用することが可能と思われる。


カラスガレイ(オホーツク公海)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位から中位を経年的に変動している
資源動向 横ばい
我が国の漁獲量
(最近5年間)
2006年455トン(2隻) 、2007年369トン(2隻)、 2008年241トン(1隻)
管理目標 資源水準の維持
資源の現状 調査中
管理措置 操業船隻数承認
目合い22.7cm
冬期間結氷のため休漁
資源管理・評価機関 水産庁・水産総合研究センター

執筆者

北西太平洋グループ
北西底魚サブグループ
北海道区水産研究所 亜寒帯漁業資源部

西村 明


参考文献

  1. Bowering, W.R. 1983. Age, growth and sexual maturity of Greenland halibut, Reinhardtius hippoglossoides (Walbaum), in the Canadian northwest Atlantic. Fish. Bull., 81: 599-611.
  2. Bowering, W. R. and K. H. Nedreaas. 2001. Age validation and growth of Greenland halibut (Reinhardtius hippoglossoides (Walbaum)): A comparison of populations in the Northwest and Northeast Atlantic. SARSIA, 86: 53-68.
  3. Gregg, J. L., D. M. Anderl, and D. K. Kimura. 2006. Improving the precision of otolith-based age estimates for Greenland halibut (Reinhardtius hippoglossoides) with preparation methods adapted for fragile sagittae. Fish. Bull., 104: 643-648.
  4. 北海道水産林務部・根室支庁・釧路水産試験場. 2000. 平成11年度オホーツク公海の底刺し網漁業試験操業調査概況. 北海道庁, 札幌. 14 pp.
  5. 依田 孝・井上 卓・下田隆利・晴山義範. 1988. オホーツク公海のカラスガレイについて. 釧路水試だより, 62: 1-6. http://www.fishexp.pref.hokkaido.jp/exp/kushiro/kpress/kdayori/061-070/062/062(01-06).pdf (2008年11月4日)
  6. 片倉靖次・濱津友紀・西村 明, 2007.Age and growth of Greenland halibut in the Okhotsk Sea (オホーツク海のカラスガレイの年齢と成長), 第23回国際シンポジウム「オホーツク海と流氷」要旨集, 12-15.