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56 さけ・ます類の漁業と資源調査(総説)

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図2. 世界のさけ・ます類魚種別漁獲量(データ:FAO 2009a)


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図3. 界のさけ・ます類魚種別養殖生産量(データ:FAO 2009b)


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図4. 世界のさけ・ます類国別生産量(1950?2006年) (データ:FAO 2009c)


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図5. さけ・ます類の国別輸出量(上段)および輸入量(下段)(1976?2007年)(データ:FAO 2009d)


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図6. 日本の種別水域別さけ・ます漁獲尾数


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図7. ロシア沿岸におけるサケ漁獲量


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図8. ロシア沿岸におけるベニザケ漁獲量


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図9. ロシア沿岸におけるカラフトマス漁獲量

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付表1. 世界のさけ・ます魚種別漁業・養殖業生産量(千トン、FAO漁業統計より)


世界のさけ・ます漁業

さけ・ます類(サケ属及びタイセイヨウサケ属)のうち、北大西洋沿岸に天然分布するのはタイセイヨウサケ及びブラウントラウトの2 種であり、北太平洋沿岸に天然分布する種は、ベニザケ、カラフトマス、サケ(シロザケ)、ギンザケ、マスノスケ、ニジマス(スチールヘッドトラウト)、サクラマス及びカットスロートトラウトの8 種である。世界のさけ・ます類漁獲量の経年変化を見ると、1983 年以降60 万トン以上の高い水準で推移しており、2007年の漁業生産量は100.1 万トンであった。カットスロートトラウトを除く9 種が主な漁獲対象となり、ベニザケ、カラフトマス及びサケの太平洋さけ・ます類3 種で大半を占める(図2)。

さけ・ます類を代表とする溯河性魚類に関しては、1993 年に発効した「北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約(NPAFC 条約)」により、原則として北緯33 度以北の北太平洋公海におけるさけ・ます類の漁獲が禁止されている。さらに、北大西洋では、「北大西洋におけるさけの保存のための条約」により、原則として領海基線から12 海里以遠の水域ではタイセイヨウサケの漁獲が禁止されている。また、国連海洋法条約では、溯河性魚類資源の母川の所在する国は、当該資源について第一義的利益及び責任を有することが規定されている。

さけ・ます類の漁業による漁獲量は1983年以降高い水準を維持しているものの,近年では養殖によるさけ・ます類の生産量の増加が著しく,2007 年の世界のさけ・ます類の養殖生産量は約218 万トンと漁獲量の2倍以上になっている。養殖生産量が多いのはタイセイヨウサケ、ニジマス(サーモントラウト)及びギンザケの3 種で,特にタイセイヨウサケの海面養殖生産量は1980〜1990 年代に急速に増大し、2001 年以降100 万トン台で推移している(図3)。

世界のさけ・ますの国別生産量(漁業生産+養殖生産)を見ると1990 年以前は北太平洋沿岸の漁業生産国である日本、米国、ソ連(ロシア)、カナダ等が主体であったが、それ以降は急激に養殖生産を増やしたノルウェー、チリ等が大きな割合を占めている(図4)。また、さけ・ます類の国別輸出入量は,米国、カナダ等の漁業国からの輸出量はあまり大きな変化がないのに対し、ノルウェー、チリ等の養殖生産国からの輸出が1990 年代に増加した(図5)。輸入は従来より日本、ヨーロッパ、北米等の先進国で多く、流通や冷蔵・冷凍技術の発達に伴って貿易量が増加してきた。また、近年では中国やサウジアラビア等を含むその他の国の輸入量も増加傾向にある。このように、さけ・ます類の流通国際化は確実に広がっており、その中身も変化していて,1970 年代にはウエイトの高かった缶詰の比率が低下する一方で、冷凍製品の割合が増加し、さらに近年では生鮮・冷蔵等が主体となってきた。


日本のさけ・ます漁業

日本では、主にサケ、カラフトマス、サクラマス及びベニザケ(ヒメマス)が河川、湖沼及び沿岸で先史時代から漁獲されてきた。1870 年以降の日本によるさけ・ます漁獲数を図6 に示す。1929年にさけ・ます流し網漁法が開発され、沖合域での漁獲が可能となった。第二次世界大戦中には沖合漁業は休止となり、戦後しばらくはマッカーサーラインにより制限されていたが、1952 年の同ライン撤廃に伴い、沖合さけ・ます漁業が再開された。ほぼ時を同じにして,これら沖合さけ・ます漁業について、1953 年に「北太平洋の公海漁業に関する国際条約(INPFC 条約)」が,1956 年に「北西太平洋の公海における漁業に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約」が発効し、操業規制の強化が始まった。1970 年代以降、沖合域における漁獲量は徐々に減少したが、沿岸域における定置網の漁獲量が増加した。その後、1989 年の国連での大規模公海流し網禁止決議の採択及び1993 年のNPAFC 条約の発効に伴い、北太平洋における沖合さけ・ます漁業は公海域での操業が完全に禁止されることになり、その結果、日本漁船に残された漁場は、日本及びロシア200 海里水域内のみとなった。現在、日本系サケ、カラフトマス及びサクラマスは主に日本沿岸域で漁獲されている。2008 年のさけ・ます類の海面漁獲量は18.3万トン(海面漁業全体の4.1%)であった(農林水産省 2009)。

日本のさけ・ます養殖業は,海面では主にギンザケを対象にしているが、近年生産量は減少傾向にあり、2008 年の生産量は約12.8千トンであった。内水面ではニジマスを主対象としており、その2008 年の生産量は9.9千トンであった(農林水産省 2009)。

日本EEZ 内のサケとカラフトマスを対象とする流し網漁業は、ロシアとの二ヵ国間協議により漁獲可能量が決定され、2008 年には漁獲可能量3,005 トンに対し漁獲量2,630トンであったが、2009年には日本海への流し網漁船の出漁が取り止められたため、可能量2,855トンに対し、漁獲量は2540トンといずれも減少した。また、ロシア200 海里内における漁獲割当量はロシア政府と日本との協議によって決定されており、2009年の漁獲量はさけ・ます全魚種で5,896 トンとこちらも2008年(8,296トン)に比較して減少した。


日本漁業に関連するロシアのさけ・ます類資源

ロシア系のさけ・ます類は、主にロシア沿岸で定置網、曳き網、刺し網等により漁獲されるが、その一部はロシア200 海里水域内や日本EEZ水域内の流し網漁業の対象としても利用されている。ロシアでのサケ沿岸漁獲量は1960 年代から1970 年代にかけて大きく減少したが、1975 年以降増加に転じて1980 年以降は2 万トン以上、2006年以降は4万トンを越える水準となっている(図7)。地域別に見ると、1960年代はオホーツク海北部及びアムール地方の漁獲が多かったが、近年ではサハリン・千島及び東カムチャッカでの漁獲増が顕著である。また、低迷していたアムール系の漁獲量も2006年以降増加傾向にある。ロシア系ベニザケの沿岸漁獲量は、1970 年代には5 千トン未満の低水準であったが、その後増加に転じ2000年以降は、1.5万トン以上の漁獲量で変動しながらも高位増加傾向にある。地域別に見ると、アジア側最大規模の産卵場があるオゼルナヤ川水系(クリル湖)やボルシャヤ川水系を含む西カムチャッカ等の沿岸漁獲量が多く、カムチャッカ川系を中心とする東カムチャッカ沿岸の漁獲も比較的安定している(図8)。ロシア沿岸のカラフトマスは、1960 年以降、奇数年と偶数年間の変動はあるものの、1990 年頃まで一貫して増加し,1993 年以降は10〜26 万トンの高い水準で推移している(図9)。地域別に見ると、近年ではサハリン・千島の漁獲量増加が著しい一方で、日本海に索餌回遊するカラフトマスが多く回帰するアムール地方や沿海州では漁獲の低迷が続いている。なお、速報データによると、2009年のロシア沿岸カラフトマス漁獲量は東サハリン沿岸のみで22万トンを越え、全体では42万トンと史上最高の漁獲量となる見込みである。


さけ・ます類の流通

従来、日本ではさけ・ますの利用は塩蔵物を主流として定着していたが、1970年代の日本経済の急成長に伴う、核家族化、嗜好の変化、外食産業の発展により、さけ・ますの利用形態は塩蔵物から生鮮物へと変化した。国際的な資源管理が趨勢となり日本の北洋漁業が衰退した時期に,孵化放流技術が確立してわが国沿岸でのサケ漁獲量が増加した。同じ時期に北洋漁業の代替としてアラスカの天然さけ・ます(ベニザケなど)が輸入されたためこれらの量的増加の影響を受け国産さけ・ます価格が低下した。1990年代になるとさけ・ますの海面養殖技術が確立され、チリやノルウェーから養殖さけ・ます(ギンザケ、タイセイヨウサケ、ニジマスなど)が輸入された。これらの養殖さけ・ますは高脂質食品への嗜好の変化、外食産業の発展による流通段階での規格製品の需要増大と需要周年化によって日本に受け入れられた。養殖さけ・ますの輸入増加によって、国産さけ・ますは一部の塩蔵熟成さけ・ますといくら等を除く需要が減少し、価格がさらに低下した。近年は国産さけ・ますの漁獲量と輸入さけ・ますの供給量はほぼ均衡し、塩蔵さけ・ますよりも生鮮・冷凍さけ・ますに需要が傾いている。

日本でのさけ・ます需要は既に飽和に達していると見られるが、サケの価格はいまだに沿岸漁獲量の増減によって変動する。また、さけます取引のグローバル化により、国際価格の影響も強く受けるようになった(佐野2003)。一方、BSEや鳥インフルエンザ問題で水産物への需要が国際的に高まり、特に食品に対する安全・安心や天然物への関心の高まりを受けて天然さけ・ますの需要が欧米で増加してきた。また日本のサケを原料として中国の安い労働力で加工した製品を欧米に輸出するビジネスが中国で始まったことにより90年代以降国産サケの輸出が増加した。日本のサケが輸出されるきっかけとなった要因には、輸出可能な低価格になっていたこと、国内向けの供給量を減少させて価格低下に歯止めを掛けようとした動きがあったことも背景にあった。近年はより安価なロシア産のさけ・ますの国際市場への供給をうけ、日本の輸出量は頭打ち状態にある。2008年には沿岸,河川合計で全国で千トンのサケが漁獲されたが、そのうち45千トン(うち、中国34.6千トン)が輸出された。これらのサケの多くは中国やタイ等で加工された後に欧米や中東等に輸出されており、日本産サケも海外に広く出回っている。


さけ・ます類の資源管理と資源調査

NPAFC には北太平洋の母川国である日本、ロシア、カナダ、米国及び韓国の5 カ国が加盟し、さけ・ます類の調査研究を行っている。NPAFC の資源評価作業部会によると、太平洋さけ・ます類の天然及び孵化場産資源は、1990 年代以降高水準にあり、漁業資源としては良好な状態にある。それに対し、養殖を除く大西洋さけ・ます類の資源量は一般に低水準であり、いくつかの地域個体群は絶滅が危惧されている。現在のさけ・ます類の資源管理は、沖合域での漁業を規制した上で、産卵回帰してきた成魚の沿岸及び河川での漁獲可能量を設定して、産卵親魚量を確保することにより行われている。回帰資源尾数の推定には、降河する幼魚数に海洋生存(回帰)率をかけて推定する平均回帰率法や同年級の一年前の回帰数から当年の回帰数を推定するシブリング法などが用いられている。

さけ・ますの再生産は,日本及び米国アラスカ南東部では主に人工孵化放流によって行われているが、その他の地域では天然産卵が主である。さけ・ます人工孵化技術は1763 年にオーストリアのヤコビーにより開発され,日本では1876 年に米国から人工孵化技術を導入した。人工孵化放流事業は北大西洋よりも北太平洋沿岸で盛んであり、2007 年に放流された太平洋さけ・ます類の幼魚は5,039百万尾に達する。日本で増殖対象となっている溯河性さけ・ます類は、サケ、カラフトマス、ベニザケ及びサクラマスの4 種であり、2007 年には合計で約20 億尾の稚魚を放流している。そのうちサケが18.7 億尾で大部分を占め、漁獲対象となる日本のサケ系群のほとんどは人工孵化放流事業によって維持されているものと考えられている。また,さけ・ます類の自然再生産は産卵・生育場は淡水域であり、資源状態は人類活動の影響を受けやすいため,人工孵化放流、自然再生産のいずれにしてもさけ・ます資源の管理には淡水域の産卵・生息環境の保全と修復が不可欠である。日本のさけ・ます類の北太平洋における調査は、沖合漁業の発展とともに実施され、1953 年以降はINPFC 条約の下で北太平洋におけるさけ・ます資源調査が行われてきた。この間のさけ・ます資源調査は、公海漁業漁獲物の系群組成を推定するための系群識別、資源を適正に管理するための資源動態等に重点が置かれていた。公海におけるさけ・ます漁業が禁止された現在では、NPAFC 条約の下で、日本を含む加盟国はさけ・ます資源の保存のために、北太平洋公海域及び各国EEZ において系群識別や資源動態解明に焦点を当てた調査を行っている。北太平洋沿岸のさけ・ます資源は、海洋域での成長と分布密度との関連が高いことが報告されていることから、海洋域における環境収容力、高次生物生産、種間関係等を明らかにし,索餌域である北太平洋の生物生産を考慮した資源管理方策を開発する必要がある。NPAFC 科学統計小委員会では,2002年から5 年間にわたり,ベーリング海・アリューシャンさけ・ます国際共同調査計画(BASIS)による、加盟国共同調査を実施した。我が国も水産庁漁業調査船開洋丸等により、日本系サケの資源量とその他のさけ・ます系群も含めた分布、資源量、環境収容力等の調査を実施してきた。2008年秋にBASISに関するシンポジウムが開催され、ベーリング海におけるさけ・ますに関する知見がレビューされた。今後これらの成果を含め,生態系を考慮した資源管理方策の開発が試みられることになろう。また,ベーリング海が夏季における日本系サケの主要な分布海域となっていることから(Urawa et al. 2005),この海域での長期的なモニタリング調査を行う必要がある。


執筆者

北西太平洋グループ
さけ・ますサブグループ

永澤 亨・加賀敏樹・岡本康孝


参考文献

  1. FAO. 2009a. Capture production 1950-2007.Download dataset for FAO FishStat Plus. http://www.fao.org/fi/website/FIRetrieveAction.do?dom=fopicafid=16073&lang=en(2009 年12月20日)
  2. FAO. 2009b. Aquaculture production: Quantities1950-2007. Download dataset for FAO FishStat Plus. http://www.fao.org/fi/website/FIRetrieveAction.do?dom=fopicafid=16073&lang=en(2009 年12月30日)
  3. FAO. 2009c. Total production 1950-2007. Download dataset for FAO FishStat Plus. http://www.fao.org/fi/website/FIRetrieveAction.do?dom=fopicafid=16073&lang=en(2009 年12月20日)
  4. FAO. 2009d. Fisheries commodities production and trade 1976-2007. Download dataset for FAO FishStat Plus. http://www.fao.org/fi/website/FIRetrieveAction.do?dom=fopicafid=16073&lang=en(2009 年12月20日)
  5. INPFC. 1952-1992. INPFC Statistical Yearbooks 1952-1992.
  6. 農林水産. 2009. 平成20 年 漁業・養殖業生産統計(概数). 農林水産省大臣官房統計部、東京. http://www.maff.go.jp/www/info/bunrui/bun06.html (2009年12月17日)
  7. NPAFC. 1993-2003. NPAFC Statistical Yearbooks 1993-2003.
  8. 佐野雅昭. 2003. サケの世界市場−アグリビジネス化する養殖業−. 成山堂書店, 東京. 277 pp. 北海道定置漁業協会.2008.平成19年度サケマス流通状況調査報告書.札幌.100 pp.
  9. Urawa, S., M. Kawana, T. Azumaya, P. A. Crane, and L. W. Seeb. 2005. Stock-specific ocean distribution of immature chum salmon in the summer and early fall of 2003: estimates by allozyme analysis. (NPAFC Doc. 896) 14 pp.