--- 総説 ---

45 小型鯨類の漁業と資源調査(総説)

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図1

図1. 宮城県鮎川港に接岸中の小型捕鯨船


表1

表1.漁業形態および根拠地別の小型鯨類捕獲頭数(1999〜2008年)


図2

図2. 沖縄県の突きん棒(石弓)漁船


図3

図3. 和歌山県の追い込み漁業操業風景


図4

図4. 発見した鯨群の種類および群れ頭数を確認中の観察員(鯨類目視調査)


表2

表2. 漁業対象資源の資源量推定値


図5

図5. 太地漁協における漁獲物調査員



ここでは国際捕鯨委員会(IWC)の分類に従い、小型鯨類を「マッコウクジラとトックリクジラを除いた歯鯨類」と規定する。IWCは1982年に商業捕鯨モラトリアムを採択し、1987年度漁期を最後に全ての商業捕鯨が停止された。我が国政府は、小型鯨類はIWCの管轄外であることから政府の自主管理の下に小型鯨類の漁業が継続され、現在に至っている。小型鯨類漁業の管理は非常に慎重に進める必要がある。なぜなら、仮に小型鯨類の管理が失敗した場合、IWCにおける商業捕鯨再開の努力が阻害される可能性もあるからである。そうした観点から、小型鯨類は内外より関心を注がれている国際資源と考えてよい。

以下の項目では、こうした小型鯨類漁業の現状と国際資源調査等推進対策事業を中心とした小型鯨類資源の調査研究の概要を述べる。


1. 小型捕鯨業およびいるか漁業の現状

我が国の小型鯨類漁業は、農林水産大臣の許可漁業である「小型捕鯨業」と知事許可漁業である「いるか漁業」に分かれる。後者はさらに漁法によって二分される(後述)。

小型捕鯨業においては、7事業体(2008年に合併があった)5隻の捕鯨船(図1)が活動している。総トン数50トン未満で口径50mmの捕鯨砲を装備した小型捕鯨船には3〜8名の乗組員が乗り込み、主に距岸約50海里以内で操業している。捕獲個体は許可を受けた鯨体処理場に陸揚げして解体処理する(それまでは鮮度保持以外の処理はしない)。現在許可されている陸揚げ地は、北海道網走、北海道函館、宮城県鮎川(石巻市)、千葉県和田(南房総市)、和歌山県太地の5箇所である。小型捕鯨業の捕獲枠は表1にも示したが、ツチクジラ66頭(網走4頭、函館10頭、鮎川・和田52頭)、タッパナガ36頭(鮎川)、マゴンドウ36頭(太地・和田)、オキゴンドウ(2008年から)20頭(太地)である。捕獲実績も表1に示した。対象種のうちツチクジラについては魚種別解説に詳しい。

いるか漁業は、漁法によって突棒(沖縄県の石弓(パチンコ)漁法は行政上突棒漁業に分類)及び追い込み漁業に分類できる。突棒漁業は手投げ銛で突き取る漁法である。現在は、北海道、青森県、岩手県、宮城県、千葉県及び和歌山県の漁船が操業している。岩手県、北海道、宮城県及び青森県の突棒漁業については魚種別解説のイシイルカの項を参照されたい。和歌山県の突棒漁業は小規模な漁業であったが、1991年にハナゴンドウを多く捕獲して拡大した。

また、沖縄県(名護市)の突棒漁業は独特の漁法である。石弓を船首に取り付けて銛を飛ばすもので(図2)、別名パチンコとも呼ばれる。千葉県にはスジイルカを主対象とする突棒漁業があるが、1995年を最後に近年は捕獲実績がない。追い込み漁業は、鯨群を湾内に誘導し、網で仕切ってから水揚げするものである。本漁業は、和歌山県(太地町、図3)及び静岡県(伊東市富戸)が漁業者に許可を与えている。大部分の漁獲物は食用であるが、オキゴンドウの過半数、そしてハンドウイルカ・ハナゴンドウ・マゴンドウ及びマダライルカの一部は水族館の飼育展示用として生きたまま販売される。本漁業は飼育個体の重要な供給源となっている。いるか漁業の捕獲枠および捕獲実績は表1に示した。なお、2006年12月に、水産庁はカマイルカを新たにいるか漁業対象種として追加し、2007年に捕獲枠の配分を行った。2008年から2009年にかけての漁期においては、千葉県及び静岡県において活用されていなかったスジイルカの捕獲枠がこの年度に限って和歌山県及び沖縄県に割り当てられた(表1)。

上記漁業の動向に混獲、座礁・漂着を加えた小型鯨類の統計は、1999年(暦年)分までIWC提出文書( Japan Progress Report on Cetacean Researches)に含めて報告していたが、翌年分からは水産庁遠洋課捕鯨班のウェブサイトに公表されている。

1990年代をピークとした後の鯨肉の浜値下落は、おそらく歯鯨製品に共通の傾向と思われる。要因としては、鯨類捕獲調査の拡充(2000年に北太平洋のニタリクジラ・マッコウクジラ、2002年に北太平洋のイワシクジラ・我が国沿岸のミンククジラの調査開始)、省令改正による定置網混獲鯨の流通解禁(2001年7月)を受けてひげ鯨に需要が傾いたこと等が考えられる。


2. 鯨類資源調査のニーズ・現状

鯨類資源調査のニーズは、まず捕鯨対象資源の保護と管理を行うためである。このために、対象資源の系群構造を明確にし、資源量を正しく把握し、再生産率を求め、資源管理モデルを開発して、資源の持続的利用をはかってゆく。しかし、小型鯨類資源調査のニーズはこれらにとどまらない。かつて公海流し網の操業停止に至るほどに深刻化した鯨類の混獲問題への対処、漁業資源を巡る人間と鯨類の競合問題への対処にも鯨類資源研究の明確なニーズがある。また、近年では、水族館での展示生体の適切な利用、ドルフィン・ウォッチング、ドルフィン・スイムなどの管理にも対象種の資源調査が必要と考えられる。また、潜在的ニーズとして、海洋における生物多様性の保持と将来への継承のためにも希少種(現在の事業ではスナメリ調査事業が相当する)を含めた鯨類資源研究が必要であることは言うまでもない。

資源調査としてまず挙げられるのは、調査船を用いた鯨類目視調査である。(独)遠洋水産研究所(遠洋水研)が主体となり年間300日隻に及ぶ目視調査航海を行い、主要鯨類の資源量を分析している。実施体制としては水研センター用船による直轄調査(240日程度)を主体とする。これらの航海の多くは、予め定められたコース及び速度で航走しながら、捕鯨船甲板部経験者が双眼鏡あるいは肉眼によって調査船に装備された観察台(海面からの眼高15〜20m)から探索を行うものである(図4)。大型鯨類の資源量データ取得を目的とする航海においても、小型鯨類の分布および資源量についての情報を並行して収集している。また調査船では各種の実験等も行っており、系群研究のための皮膚組織のバイオプシー(1993年より)、同じくいるか用ダートタグ装着(1998年より)、ポップアップタグによる行動調査(2002年より)も可能である。これらは遊泳中の小型鯨類を捕獲することなく、突棒を用いて行うことができるユニークな調査手法である。また、目視調査中に撮影された写真を用いると個体識別による個体の消長、移動など解析可能であり、着実にデータを蓄積している。また、目視調査には航空機による調査もあり、対象資源の特性に応じて選択されている(適用例:スナメリ)。

資源調査のもう一つの柱は、漁獲物調査である。小型捕鯨業については水産庁遠洋課捕鯨班と連携して監督官兼任の調査員を捕鯨基地に派遣し、全漁獲物について詳細な生物情報を得ている(性別、体長、年齢(歯牙の計測と採取)、性成熟と繁殖状態(精巣、精巣上体、乳腺、子宮、卵巣、胎児の計測と採取)、脂皮厚の計測、外部形態計測、DNA試料(表皮、骨格筋、肝臓の各組織片)の採取、肋骨、脊椎骨の計数など)。胃内容物については近年専門調査員を別途に派遣して食性分析用試料を収集している。また、捕鯨船では操業努力量(探鯨時間、追尾時間等)、発見捕獲位置、時刻などの操業記録付けられている。

いるか漁業の漁獲物調査については、小型捕鯨業を手本としつつも各地の状況に応じた調査を実施している。突棒漁業のうち、イシイルカを対象とする漁業については1989年以来、水産庁の委託事業として財団法人日本鯨類研究所、東京大学海洋研究所大槌臨海研究センターなどを経て現在は岩手県に(再)委託して釜石魚市場における漁獲物の体長・性別の記録、写真撮影といった基礎的調査に加えてサンプル操業船1隻の操業実態を記録し、生活史・系群研究用の試料を採取する調査を実施してきた(サンプル船乗船調査は実施面の困難さから2007年に中断した)。捕獲頭数で岩手県に次ぐ北海道についても2ヵ年調査を委託したが、操業の頻度がやや低いため効率的調査を実施できず、中断している。なおイシイルカの突棒漁業では、食性分析用の胃内容物採取の調査も実施している。和歌山県の突棒漁業の調査は、1991年以降小型捕鯨調査員あるいは追い込み漁業の調査員が兼務してきた。それに加えて1998年に水産庁委託事業(現在の再委託事業に相当)として、和歌山県が漁業者の協力を得て漁獲物の捕獲日、捕獲位置、体長、性別を記録し、写真撮影するという調査を開始した。以来、試行錯誤を続けたが、やはり効率的な調査は望めず、再委託は停止された。沖縄県についても調査実施は懸案であった。1999年に水産庁が調査員1名を1.5ヶ月間操業船に派遣して予備的に調査を実施し、体長・性別の記録、生活史・系群・食性研究用試料を収集した。2001年には委託事業として国営沖縄記念公園水族館(現沖縄美ら海水族館)が操業記録と生活史・系群研究用試料の収集を開始したが、ここでも調査の効率は決して高くなかったため中断している(現在は沖縄県が漁業管理上の資試料を収集しており、一部の鑑定を当研究所に依頼している)。これら突棒漁業に比較すると各1船団が操業する追い込み漁業の調査は効率が高い。和歌山県の追い込み漁業においては調査員2名を盛漁期3ヶ月間配置している(図5)。静岡県の追い込み漁業については、捕獲があるときには遠洋水研調査員が急行できる体制を整備した(2004年に捕獲があったが、以後途絶えている)。なお、太地の追い込み漁業においては捕殺方法が残酷であるとの指摘を受けたことがある。これについては漁獲物調査の機会を利用しながら太地漁協の協力の下、デンマーク自治領のフェロー諸島で開発された捕殺方法(NAMMCO 1999)を2000年に取り入れた。この方法は脳への血流を支配する脊髄周囲の血管叢と脊髄を同時に切断するものであり、2004年の伊東市富戸の操業にも適用された。これにより動物の苦痛を小さくし、かつ作業者の安全性を高めることができたと言える。しかしながら対象種のうち、スジイルカ及びマダライルカについては波打ち際で狂奔するために、上記方法の適用に困難があった。しかし漁業者の努力により2008年にスジイルカに適用できた(カマイルカについては新たな対象種であるため捕獲が少なく、まだ適用例がない)。


3. これまでの調査結果・推定資源量

2007年に改訂されたものを含む漁業対象種の資源量推定値を表2に掲げた。前回(1993年までに発表)の推定値はデータ取得から10年以上を経ており、改訂作業が求められていた。追い込み漁業の対象となる6種のうち、特にマゴンドウとハンドウイルカについては両種の資源量推定に目的を絞った目視調査が2006年および2007年に実施され、現在はデータを解析中である。目視調査に付随した実験からは、データロガーやポップアップタグによるツチクジラ、スジイルカ、オキゴンドウの潜水時系列データが得られている。g(0)(目視調査線上の発見確率)推定、摂餌生態解明のためにさらにデータを蓄積中である。

漁獲物調査から得られた試料によってツチクジラ、マゴンドウ、ハンドウイルカ、イシイルカの系群研究が進んでおり、ツチクジラ、イシイルカについては得られた知見が資源管理に適用されている。漁業対象資源の資源管理モデルの構築もまた必要度の高い課題である。種別の、しかも大胆な管理を可能にするには、再生産率についての精密なパラメータが必要である。2007年にはイシイルカの魚種別解説に示されたPBR(Potential Biological Removal, Wade 1998)の考え方が水産庁によって各資源に適用されつつある。


執筆者

鯨類グループ いるかサブグループ
遠洋水産研究所 鯨類生態研究室

岩ア俊秀(協力:同研究所 木白俊哉、宮下富夫、岡村 寛、南川真吾、島田裕之)

参考文献

  1. Anon.1992. Report of the Sub-committee on small cetaceans. Rep. Int. Whal. Commn., 42: 178-228.
  2. 岡村寛・岩ア俊秀・宮下富夫. 2007. シミュレーションモデルによる小型鯨類捕獲の影響評価.  平成19年度に本水産学会秋季大会講演要旨集. p.152.
  3. 南川真吾・島田裕之・宮下富夫・諸貫秀樹. 2007. 1998-2001年の目視調査データによる鯨類漁業対象6種の資源量推定. 平成19年度に本水産学会秋季大会講演要旨集. p.151.
  4. Miyashita, T. and Kato, H. 1993. Population estimate of Baird's beaked whales off the Pacific coast of Japan using sighting data collected by R/V SHUNYO MARU in 1991 and 1992. IWC/SC/45/SM6. 12 pp.
  5. Miyashita, T. 1990a. Population estimate of Baird's beaked whales off Japan. IWC/SC/42/SM28. 12 pp.
  6. Miyashita, T. 1990b. Stocks and abundance of Dall's porpoises in the Okhotsk Sea and adjacent waters. IWC/SC/43/SM7. 24pp.
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  8. 宮下富夫・岩ア俊秀・諸貫秀樹. 2007a. 北西太平洋におけるイシイルカの資源量推定. 平成19年度に本水産学会秋季大会講演要旨集. p.164.
  9. 宮下富夫・岩ア俊秀・諸貫秀樹. 2007b. 1992-96年の目視調査データを用いた日本周辺のカマイルカの資源量推定. 日本哺乳類学会2007年度大会プログラム・講演要旨集.p.129.
  10. NAMMCO 1999. REPORT OF THE NAMMCO WORKSHOP ON HUNTING METHODS Nuuk, Greenland 9 - 11 February 19 p2-3.
  11. Wade, P.R. 1998. Calculating limits to the allowable human-caused mortality of cetaceans and pinnipeds. Marine Mammal Science, 14(1): 1-37.