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02 漁業資源の変動と資源評価について

                                                           
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図1. 地中海の定置網によるクロマグロの漁獲量の変遷(Ravier and Fromentin 2001)。 この変化は、大西洋クロマグロの親魚量にほぼ100 年周期の自然変動があることを示している


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図2. クロマグロの加入量( 縦軸)と北太平洋の振動指数( 横軸) の相関関係 ( 植原ほか 2004)。クロマグロの加入量が北太平洋の水温変化と明瞭な関係があることが示されている。


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図3. 中西部太平洋のメバチの資源変動 (Hapmton et al.2005)。 実線は漁獲の影響下での変動。破線は、漁獲がなかった場合の変動。


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図4. 太平洋のクロカジキにおける異なる標準化方法(GLM とhabitat model)による CPUE の傾向の違い(Uozumi 2003)。GLM法では、現在の資源水準は、1950 年代の1/6となるが、 habitat modelではほぼ同じ水準となる。


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図5. プロダクションモデルにおける資源量と持続生産量との関係。 資源量が初期資源(飽和状態, K)の1/2になったときMSY( 最大持続生産量) が達成される。 多くの水産資源の管理目標は、この資源状態を目指している。


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図6. VPA による資源尾数の推定の基本原理。自然に死んだ量と漁獲量を5 歳はじめの 時点から1歳へ遡って積み上げてゆくとそれぞれの歳の資源尾数が求められる。


一般に魚をはじめとする水産生物資源は、漁業が利用しなくても自然に変動を繰り返すものが多い。例えば、日本周辺のマイワシなどはその良い例と言える。そして、この「自然変動」を繰り返す資源を漁業が利用することで更に資源が変化する。漁業資源を合理的に利用するためには、この「自然変動」と「漁獲の影響」を適確に把握する必要がある。

ここでは、どのような情報を用い、どのような方法で分析し、水産資源の変動や漁獲の影響を把握するのかについて概説する。この章はあくまでも概説であり、より詳細な点については、章末の参考文献などを参考にされたい。


1.漁業資源の変動とその要因

(1)自然変動要因

自然要因による変動は、漁業資源を取り巻く自然環境が変化したことが原因となった変動である。図1に地中海のクロマグロの長期的な資源変動を示した。この図は、1600年からの地中海の定置網の漁獲量の変動であるが、親魚の資源変動を大まかに示していると考えられる。少なくとも19世紀以前の漁獲のレベルが極めて低かったことを考えると、この変動は自然変動と考えても良い。このように寿命が20年を超えるクロマグロといえども、このような大きな自然変動を繰り返している。

自然要因による変動は、漁業資源を取り巻く自然環境が変化したことが原因となった変動である。図1に地中海のクロマグロの長期的な資源変動を示した。この図は、1600年からの地中海の定置網の漁獲量の変動であるが、親魚の資源変動を大まかに示していると考えられる。少なくとも19世紀以前の漁獲のレベルが極めて低かったことを考えると、この変動は自然変動と考えても良い。このように寿命が20年を超えるクロマグロといえども、このような大きな自然変動を繰り返している。

また、クロマグロの産卵場の水温と加入量の相関関係なども知られている。しかし、どのような機構でこのような相関関係になるかは証明されていない。この他、海洋環境と資源変動との相関関係は、北太平洋のビンナガなどでも知られており、また、カラフトマスでは降水量や気温との間で、アルゼンチンマツイカでは産卵場の水温との間に相関関係があることが知られている。水温などの変化が、産卵量や卵質、稚仔の生き残りなどに直接影響することが考えられるほか、稚魚が食するプランクトンなどの発生に影響し、その量が稚魚の生き残りに影響するなど、生態系における複雑な変化が影響する場合も考えられる。

このような海洋環境の変化が資源動向に及ぼす影響以外に、他種の資源変動が資源動向に及ぼす影響があり、例として、南極海のシロナガスクジラとクロミンククジラの関係が挙げられる。シロナガスクジラの資源水準は乱獲により急激に低下し、1960年代には漁業による開発以前の100から200分の1という極めて低水準になってしまった。そのため、1964年から全面禁漁とされ、40年後の現在でも、資源は回復傾向を示しているものの、その速度は極めて遅い。これは、シロナガスクジラ資源が大幅に減少した後、生息環境や餌を同じくするクロミンククジラがそのニッチを奪い、資源量を急速に増大させたことが原因と考えられている。すなわち、クロミンククジラがシロナガスクジラの生態系で占めていた場所を横取りしたために、シロナガスクジラは、回復の機会を大幅に減らしてしまっていると推測されている。


(2)漁獲の影響

資源変動の他の原因として人間の影響がある。この中には、人間による環境破壊による影響なども挙げられるが、本書で取り扱うような沖合に主として分布するような漁業資源においては、二酸化炭素増大に伴う地球温暖化といったレベルでの影響は考えられるが、沿岸や淡水域でのそれと比べると環境破壊の影響は極めて小さい。やはり最も大きな影響を持つものは、漁獲の影響である。すなわち、漁獲することによって資源が減り、漁獲をやめることによって資源が増えるというものである。そして、現時点では漁獲レベルを増減することが唯一沖合資源を管理する方法でもあるので、この漁獲の影響を把握するのは極めて重要である。

図3に中西部太平洋のメバチ資源の動向を示した。赤い破線は、漁業が全くなかったときの資源変動で、これは上述した自然変動である。黒い実線は、実際の変動で、この2つの線の差が漁獲の影響ということになる。1970年代中頃までは、もちろん漁業によって資源は減少しているが、その変動は、自然変動とほぼ同じ傾向を示している。しかし、その後の変動は、両者で全く異なっている。これは、漁業の影響が大きくなり、資源は、自然変動に加え漁獲の影響も大きく受けるようになったことを示している。近年は、加入量が増大し、漁業がなければ、資源は1950年代の水準に戻っていたと予想されるが、実際は、漁獲の増大によって、資源は減少を続けている。漁獲の影響は、どんな資源でも同じように出るとは限らない。寿命までに自然の原因で死ぬことが少ない種類(自然死亡率が低い種類)、例えば、鯨類では、漁業の影響が出やすい。一方、漁獲しなくても、寿命が短く、多くが寿命により死亡したり、寿命までに他の魚に食べられたりしてかなりの量が死ぬ種類(自然死亡率が高い種類)、例えば、いか類やカツオなどは、漁獲の影響が出にくい。自然死亡率が高い種類では、漁獲で死んだ魚の中には自然要因で死ぬ予定であった魚も多く含まれているためで、いずれ自然に死ぬ個体を漁獲したと考えることができる。

一般に、いか類などの自然死亡の高い種類は、自然変動も大きく、漁業は、その自然変動に大きく影響される。一方、鯨類などの自然死亡率の低い種類は、自然変動も小さく、漁獲の影響が資源変動に大きく現れる。なお、クロマグロなどは、稚魚期を含む若齢期には自然死亡率が高いが、ある程度成長すると自然死亡率が低くなるため、自然変動も大きく、かつ、ある程度成長すると漁獲の影響も現れやすくなる。 どんな水産資源でも、多かれ少なかれ自然変動している資源を漁獲するため、この両者の影響をしっかりと把握しなければ、的確な資源管理はできない。


2.資源評価について

(1)資源評価とは

主として漁獲が資源へ与える影響を評価し、資源がどんな状態に現在あるのかを判断するために行われる。例えば、漁獲が過剰で資源が減少しているか否かなどを推定するのである。その結果、資源は、乱獲状態か健全な状態かが結論されるので、資源診断とも呼ばれる。この資源評価の結果を基に漁獲規制などを通じて資源管理が行われる。

(2)資源評価のために必要な情報

資源評価は、後で述べるさまざまな方法によって行われている。どのような方法を用いるかは、対象となる生物の特性にもよるが、どんな情報(データ)が利用可能かにもよる。ここでは、必要な情報の大まかな種類を紹介する。

まず、情報の入手先により、大きく下記の2つに分類できる。

  • 漁業から得られる情報(漁獲量や漁獲努力量など)。
  • 漁業から独立した情報 (調査船調査など)。

まぐろ漁業などでは、対象とする資源の分布域が広大なため、Aの調査船で資源全体を調査することは極めて困難であり、ほとんどの情報は漁業から得られるものに依存している。一方、ベーリング海のスケトウダラなどのように分布がある程度限られたものでは、調査船を使って資源全体の情報を得ることができる。また、鯨類では、沿岸捕鯨を除いて商業捕鯨が中断されているため、調査船などを用いた調査による情報を中心に資源評価を行っている。このように、得られる情報は、漁業や魚種によって異なる。


@漁業から得られる情報

漁獲量:1年間の総漁獲重量などで、漁獲の規模を知るための最も基礎的な情報である。もちろん、魚種ごとの漁獲量が必要である。ただし、混獲魚種のように魚種が区別されない場合や船上で記録される前に投棄される場合も多く、年間漁獲量でさえ定かでない場合も多い。

漁獲努力量:魚を獲るために投じた「努力」の大きさを定量化したものである。例えば、船の数などである。この情報は、後述する資源評価に極めて重要な資源量指数を求めるために必要な情報である。まぐろはえ縄漁業では、使った鉤の数が漁獲努力量として使われる。また、底びき網漁業では、ひき網回数や曳網時間などが用いられる。このように漁法によって漁獲のための努力に比例すると思われるものを努力量として使う。しかし、底びき網の場合、網の大きさや曳き網速度などによって、同じ時間曳網しても獲れる魚の量は異なってしまう。また、魚群探知機などの直接漁具とは関係ないが漁場や魚群発見に効果的な装置も漁獲量へ影響するので、これらの情報も漁獲努力量とともに収集する必要がある。はえなわ漁業の場合も鉤の設置水深などによって獲れ方が異なる。このように、漁獲努力量と一言で言っても、分析においてはかなり複雑な情報となる。

体長組成:漁獲量は、もちろん、漁獲物の量を示す極めて重要な情報であるが、更に、漁獲物の体長組成も加え、どの大きさの魚がどれくらい獲られているかを知ると、更に詳細に漁獲の影響や資源の状態を知ることができる。それは、魚の大きさから年齢を推定し、漁獲物の中に何歳の魚がどれくらい含まれるかを知ることができるからである。それによって、未熟な魚が多いか、高齢魚がどのくらいの割合か、その割合が年とともに減少しているかどうかといったことがわかり、資源評価に極めて重要な情報となる。

A漁業から独立した情報

漁業から独立した情報で最も重要なものは、調査船による調査で得られた情報である。調査船による調査には、様々なものが挙げられる。その一例として、鯨類の調査で行われている「目視調査」がある。これは、鯨が呼吸をするために水面に浮上し、目視で存在を確認できることを利用した調査である。一方、多くの魚類では、様々な漁具を用いての漁獲調査が主体となる。例えば、底魚では底びき網を用いた漁獲調査が行われる場合が多い。また、魚群探知機もベーリング海のスケトウダラや南極海のオキアミの調査などで用いられている。魚群探知機は、漁具を使った調査よりも広域の調査が実施可能で、調査用に開発された科学魚探と呼ばれるものを用いれば、現存量を直接推定することもできるという利点がある。

これら以外に、調査と漁業の両者の組み合わせによる、広く用いられる調査として、標識放流がある。これは、調査で標識をつけた魚を放流し、それを漁業が漁獲することにより、どこで漁獲されたか、どのくらい漁獲されたかという情報が得られ、それを基に魚の移動や資源量を推定することができる。


3.資源評価の方法

上記した様々な資料を用いて資源評価を行う。資源評価には様々な手法が考え出されているが、寿命の長短など生物学的な特徴や、どのようなデータが利用できるかという条件により、適用できる手法も変わってくる。ここでは、資源の変動傾向から資源状態を評価する方法、漁獲量と資源の変化の関係を用いる方法、更に、これらに加えて漁獲物の年齢組成の情報を用いて評価する方法の代表的なものを紹介する。


(1)資源量指数

これは、資源量の変化を相対的に示す指標で、資源が半分になれば、この資源量指数も半分になる。この指数の変動のみから資源状態を推定する場合もある。資源量指数としては、漁船からの情報を用いる以外に調査船を用いたトロール調査や魚群探知機を用いた調査などで得られた指数が挙げられる。これらの調査結果から条件が整えば資源量の絶対値が得られる場合もあるが、多くの場合は、資源量の相対値すなわち資源量指数として用いられる。

まぐろ類のように調査船調査が困難な場合は、漁業の情報を用いて資源量指数を求める。一般に「単位努力量あたり漁獲量」と呼ばれるものである。これは、英語の「Catch Per Unit Effort」の頭文字をとってCPUEと呼ばれている。まぐろはえ縄では、鉤1000本あたりの漁獲量が用いられる。底びき網では、曳網時間1時間あたりの漁獲量などが代表的なCPUEである。ただし、このCPUEが資源の変化を表しているか否かを充分検討しなければならない。それは、CPUEには、資源の変化ばかりではなく、漁場や漁期、漁具などの変化も影響するからである。一般に漁具はより効率よくたくさんの魚が獲れるように年々工夫される。そのため、資源が変化しなくてもCPUEは上がる場合なども考えられる。CPUEを資源量指数として用いる場合は、このような影響を排除しなければならない。この影響を排除し資源変動のみが現れるようにすることを「標準化」と呼んでいる。 CPUEの標準化の方法も色々とあり、手法によって結果が異なってしまう。図4は、太平洋のクロカジキの2つの異なる方法で得られた資源量指数(標準化されたCPUE)である。2つの資源量指数が示す資源動向の傾向は全く異っている。当然、これらを用いた資源評価の結果も全く異なってしまう。そのため、CPUEに関する分析は極めて注意が必要である。

この資源量指数の動向により、資源が減少しているか増大しているかを判断することができる。資源評価の最も単純な方法といえる。しかし、この指数は、資源の変動を把握するためには極めて良い情報であるが、この指数からは、この変動が自然要因によるものか漁獲の影響によるものかは知ることはできない。


(2)プロダクションモデル

余剰生産モデルとも呼ばれるこの評価手法は、他の手法に比べ比較的少ない情報しか必要としない。基本的には、以下に示す2つの情報を用いる。
     必要なデータ @年々の漁獲量, A資源量指数

情報が少なくてよいため、多くの魚種に適用されてきた。現在も、まぐろ類や鯨類などでも幅広く用いられている。この手法には、PRODFIT、非平衡プロダクションモデル(ASPICなど)をはじめ多くの種類がある。

情報をあまり必要としないということは便利な反面、様々な仮説(前提)の上で資源状態を推定していることに注意しなければならない。以下に基本的な仮説を示した。
     モデルの仮説(前提)
     @ 対象生物の生産力は環境によって影響を受けない。
     A 資源変動の原因は漁獲によるものである。

もちろん、基本的なもので、モデルの種類によっては、仮説も異なってくる。また、比較的長い期間の情報が必要で、その期間の中で、資源が漁獲によって大きく変化していないとその結果はあまり信頼できない場合が多い。さらに、自然変動が大きい場合は、このモデルの仮説に適合しないことになり、解析結果は信頼できないものとなる。

最も単純なプロダクションモデルにおける資源変動の推移を図5に示した。左の図は資源が何らかの原因で減少したときからの回復の推移を示している。S字状の回復経過を示し、最後には、飽和状態になって安定する。右の図は、各資源水準のときの生産量で、もし、この量と同じ量を漁獲すれば、資源はその資源水準で安定する。そのことから持続生産量ないし余剰生産量と呼ばれている。この量を推定することがこの手法のポイントである。そして、最大の生産量が最大持続生産量(Maximum Sustainable Yield)と呼ばれ、略してMSYと呼ばれる。この図では、資源が飽和水準の半分になったときにMSYが得られる。このMSYの考え方は、資源管理の際の管理目標としてよく使用されている。

(3)VPA

Virtual Population Analysisの略で、コホート解析とも呼ばれる。この中には、チューニングVPAやADAPT-VPAといったものも含まれる。必要なデータは、以下の3つである。      @ 年齢別漁獲尾数 (各年の各年齢の漁獲尾数)      A 自然死亡率 (漁獲以外の死亡)      B 資源量指数 (必須ではないが、重要で、できれば年齢別が望まれる)

このモデルが出始めた頃は、資源量指数や漁獲努力量といった情報が不要で、漁獲物の年齢組成がわかっているだけでよいということで注目を浴びた。しかし、やはり資源量指数も用いないと信頼できる結果が得られない。 この解析法は、年級群に注目する。年級群とは、同じ年に生まれた魚を意味する。例えば、2002年に生まれた魚を2002年級群と呼ぶ。VPAは、それぞれの年級群を経年的に追いかけてゆく解析法である。そのため、必要なデータのひとつとして、年級群別の年々の漁獲尾数が必要となる。すなわち、例えば2002年級群の2003年、2004年‥‥の各年の漁獲尾数が必要となる。

このような漁獲量がわかっていて、更に、自然に死ぬ量(自然死亡率)もわかっていると、この年級群が最高齢(例えば5歳)で死に絶えるときから資源量を逆算してゆくことができる(図6)。すなわち、5歳で死に絶えるのであるから、その一年前のこの年級の資源尾数、すなわち4歳はじめの資源尾数は、4歳時の1年間の自然死亡量(図6では90尾)にその年の漁獲量(180尾)を加えた270尾である(図6)。3歳はじめの個体数は、この270尾と自然死亡の210尾と漁獲死亡の420尾を加え900尾であることがわかる。このように逆に遡って行くと、1歳時の加入量(10,000尾)まで求めることができる。これがVPAの最も基本的なところである。実際は、例えばまぐろ類など国際漁業資源における解析では、資源量指数なども用いて計算機による繰り返し計算で最適解を求めるという複雑なものとなっている。

VPAでは、一般に寿命が長く、自然死亡が少なく、そして漁獲割合が高い場合に精度良く資源量などが推定できる。タラなどの寿命の長い底魚類やまぐろ類などへの適用例が多いのはそのためである。

また、ここで示したように高齢から若齢へ逆算する場合、若齢になるほど相対的に誤差が小さくなる。また、この解析法は、プロダクションモデルのように、資源の変化は全て漁獲の影響といった仮説を使わないため、環境などの変化に推定値が影響を受けないと言う長所もある。

一方、自然死亡を推定することは極めて困難で、多くの場合、寿命などの情報から大まかな自然死亡率を推定して用いている。また、漁獲物年齢組成の誤差が大きいと信頼できる結果は得られない。 近年、まぐろ類の資源評価に関して、更に複雑な解析法が開発されてきている。基本的な考え方は、VPAとほぼ同じであるが、この包括的モデル(Multifan-CL、ASCALARなど)とも呼ばれる複雑なモデルは、漁獲データや標識放流データなど様々な情報を入力して、資源量をはじめとして極めて多くのパラメーターを一括して推定するモデルである。現在、これらのモデルは、太平洋のキハダやメバチ、カツオなどに適用されているが、大西洋やインド洋にも拡大されつつある。


4.資源評価の精度

調査船による調査は、統計学的な理論を基に推定精度がより高く、偏りのない推定値が得られるように設計され実施される。一方、漁業から得られるデータは、このような設計の上で得られたものではないため注意深く解析しないと推定値に偏りが入ってしまう。漁船のデータを用いたCPUEの標準化の作業などはこのことに充分配慮して行われなければならない。しかし、この偏りを取り除くことはきわめて困難な場合が多いため、可能な限り漁業から独立した統計学的に設計された調査、例えば調査船を用いた調査を実施することが望まれる。

資源評価は、様々なデータを使用し様々なモデルで行われるが、そこから得られる推定結果の精度も様々である。もちろん、そのモデルの前提にその資源が合っていなければ、その推定結果には大きな偏りが持ち込まれる。また、データの質が悪く、漁獲量や努力量に誤差が大きいとやはり推定値の精度は悪くなる。資源評価結果を示す際、多くの場合は、推定結果ばかりでなく、その精度も示される。管理措置などを検討する場合は、推定結果ばかりでなく、その精度がどのくらいあるのかにも十分配慮する必要がある。また、用いたモデルによって推定結果の精度にも特徴がある。以下にその特長を示した。

上述したプロダクションモデルは、過去の漁獲量と資源量の変化から平均的な「生産力」を推定する。モデルの仮説が現実に近ければ、その推定は信頼が置けるが、例えば、環境変動の影響が大きい場合は、推定結果の信頼度は極めて低い。そして、資源管理や漁業者の最も興味のある将来予測についても「平均的」な将来しか示せない。

VPAなどの手法は、上述したように若齢の方の推定精度が良い。このことは翻せば、高齢の資源量の精度、そして、最近年の若齢魚の推定値の精度が良くないことを意味している。これは、年級を高齢から遡るという方法の弱点で、最新年の若齢魚の資源量については遡るデータが無いためである。最も知りたい最新の状況の精度が悪いのである。

また、資源が将来どうなるかは、もちろん漁業の動向にもよるが、将来の加入が多いか少ないかという自然変動にも大きく左右される。しかし、これも本章の冒頭で示したように、大まかな水温などの環境要因との相関関係は知られているが、それを基に将来の加入を予想することができる段階にまで達しているものは少ない。多くの資源で将来の加入もはっきりとはわからない。

これらを克服するには、できるだけ最新年の情報まで資源評価に用いる努力をすることが重要となる。例えば、まぐろはえ縄漁業では、しっかりした漁獲データが完成するのは2年後というのが現状である。これは、最新情報は2年前の漁獲情報であることを意味している。ミナミマグロ漁業では即時報告システムが作られ、この問題を克服している。

また、調査船調査や若齢魚を漁獲する漁業からの情報などからどの程度の加入があるのかをいち早く知る方法も重要となる。更に、将来の加入量については、加入量と環境との関係のメカニズムを明らかにし、加入量を予測する手法を開発することが重要といえる。

資源管理方策の決定は、当然これからの資源をどう管理するかを目的に設定されるものであるから、現在の資源状態がどのようなもので、これからの資源がどうなってゆくのかが特に重要となる。それ故に、資源評価で最も重要なのは、最近年の資源状態である。しかし、上述したようにその推定精度が悪いという弱点がある。この弱点を克服するために、直近の漁業の状況など利用できる限りの情報を用いて最新年の加入量のレベルを含めた最新年の資源量指数の推定を行うなどで補う努力がなされている。


執筆者

遠洋水産研究所 所長

魚住 雄二

参考文献

  1. Hampton, J., Kleiber, P., Langley, A., Takeuchi, Y. and Ichinokawa, M. 2005. Stock assessment of bigeye tuna in the western and centralPacific Ocean. WCPFC.SC1 SA WP.2, 70pp. http://www.wcpfc.org/sc1/pdf/SC1_SA_WP_2.pdf (2005 年10 月31 日)
  2. 松宮義晴. 2000. 魚をとりながら増やす. ベルソーブック 001. 成山堂書店, 東京. 174pp.
  3. Ravier, C. and Fromentin, J.-M. 2001. Long-term fluctuations in the eastern Atlantic and Mediterranean bluefin tuna population. ICES J. Mar. Sci., 58: 1299.1317.
  4. 桜本和美. 1998. 漁業管理のABC .TAC 制が良くわかる本.. 成山堂書店, 東京. 200 pp.
  5. 植原量行・稲掛伝三・岩橋雅行・岡崎 誠・亀田卓彦. 2004. 太平洋クロマグロ加入量変動と海洋物理場との関係. 2004年度水産海 洋学会研究発表大会講演要旨集. 36 p.
  6. 魚住雄二. 2003. マグロは絶滅危惧種か. ベルソーブック 015. 成山堂書店, 東京. 178pp.
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