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70 マジェランアイナメ 南極海

Patagonian Toothfish

Dissostichus eleginoides

                                                            PIC1
                                                            図1. マジェランアイナメ. (Fisher and Hureau 1985)

                                                                   PIC2
                                                            図2. マジェランアイナメ漁獲物 (CCAMLR HP)(C)B. Watkins

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最近一年間の動き

南極海の魚類に対して、CCAMLR保存措置に基づく2006/07年漁期は13の漁業(コオリウオ、メロ類(マゼランアイナメ・ライギョダマシ)およびオキアミ)が実施された。メンバー国のEEZ内では他の漁業が実施された。CCAMLR水域内のメロ類の報告漁獲量は16,329(2005/06年漁期16,843)トンで、IUU (違法・無規制・未報告)漁獲量3,615(同3,420)トンを含めると総漁獲量は19,944(同20,263)トンとなる。2006/07年漁期は前年2005/06漁期と比較して319トン減少した。CCAMLR水域外の2006/07年漁期漁獲量は7,978(2005/06年漁期9,790)トンであり、前年漁期より1,812トン減少した。なお、これまで本漁業に対してIUU操業による推定漁獲量が多く、資源状態に悪影響を及ぼしていることが強く懸念され、管理措置上にも大きな問題を抱えていた。そのため、CCAMLRはIUU操業に対する強い対策を講じてきた。この成果が現れ、2002/03漁期10,070トンから2003/04漁期2,622トンおよび2004/05漁期は2,076トンへと激減した。しかし、2005//06漁期は3,420トンおよび2006/07漁期3,615トンへと増加し横ばい状態となっている。(表1)


利用・用途

本種は冷凍切身として惣菜用とされるほか、みそ漬け等の加工品の原料となる。


表

表1. メロ類(マジェランアイナメ+ライギョダマシ)の2006/07 年漁期の漁獲量 (SC-CAMLR. 2008a)
IUU(違法・無規制・未報告)漁獲推定量及び漁獲証明書(CDS)に基づくCCAMLR 水域外報告漁獲量を含む。


図

図3. (A) CCAMLR水域におけるマジェランアイナメの漁獲量の海域別の年変化 (CCAMLR. 2008b)
(B) CCAMLR水域におけるライギョダマシの漁獲量の海域別の年変化 (CCAMLR. 2008b)


図

図4. CCAMLR水域(黄色)とマジェランアイナメ主分布域(ピンク)、主漁場(青)


図

図5. マジェランアイナメ・ライギョダマシの新規・開発漁業の際に義務付けられる 小規模調査ユニット枠影の部分は、両種の主棲息深度500〜1,800mの陸棚斜面域。太破線は二種の区分線 北側域;マジェランアイナメ、南側域;ライギョダマシ(CCAMLR保存管理措置)


漁業の概要

マジェランアイナメ(通称メロ)(図1、2)の地理分布は広く、本種を対象としたはえ縄漁業はもともと、チリとパタゴニアの陸棚斜面域から始まり、1980年代中頃から南極海洋生物資源保存条約(CCAMLR)水域内でも漁獲されるようになった。本種に対する高い市場価値がはえ縄漁業を急速に拡大させた。1996/97年以降には、本種の近縁種で南極大陸沿岸域に生息するライギョダマシAntarctic Toothfish; Dissostichus mawsoniも漁獲対象となっている。

南極海における漁業の歴史は、1906年のサウスジョージアでの陸上基地捕鯨にまでさかのぼる。ただし、オキアミを除く、大きなスケールでの魚類漁業は、1969/70年のサウスジョージア水域と1970/71年のケルゲレン諸島水域で始まった。1977/78年以降、魚類漁業はさらにサウスオークニー諸島水域のような高緯度域へ拡大した。 ところが、これらの魚類漁場では高い漁獲量は長く続かず、1980年代初期に急減した。高緯度の南極大陸沿岸水域での漁業は、商業漁獲に対応できるだけの分布密度が見られなかった。これらの魚類漁業の形態はトロール操業であった。

漁獲された魚類は、ウミタカスズキMarbled Rockcod; Notothenia rossi、コオリカマスMackerel Icefish; Champsocephalus gunnari、ウロコノトGrey Rockcod; Lepidonotothen squamifrons、マルビナスノトセニアYellowfin Notothen; Patagonotothen guntheri、コオリウオ科のトゲコオリウオSpiny Icefish; Chaenodraco wilsoni及びハダカイワシ科のガンテンダルマハダカSub-Antarctic Lanternfish; Electrona carlsbergiであった。ほとんどの漁獲種は人間の食用とされ、一部の小型魚は魚粉原料に使われた。

南大洋の魚類資源は、発見、開発、そして枯渇の時間サイクルがきわめて短かった。CCAMLRが発効する前の漁業によって、ほとんどの底生魚類資源が枯渇していた。CCAMLRが1982年に発効し、魚類漁業に対して次々と規制措置がとられた。この衰退するトロール魚類漁業に替わって、サウスジョージア水域やケルゲレン諸島水域のメロ類を漁獲対象としたはえ縄漁業が始まった。CCAMLR水域におけるメロ類の報告漁獲量の海域別の年変化を図3aと図3bに示す。漁獲域は、CCAMLR水域のインド洋区(58海区)と、大西洋区(48海区、そのほとんどは48.3海区)である。なお、本種漁業の後発として急速に拡大したライギョダマシ漁業は、以前は漁獲域がロス海域(88海区)に集中していたが、2004/05漁期から48海区と58海区でマジェランアイナメ(ライギョダマシを含む)に割り当てられた漁獲制限量により、同海域でも漁獲されている。


生物学的特徴

マジェランアイナメは、スズキ目ノトセニア科の魚類で通称メロと呼称される。本種を含むノトセニア科の魚類は、南極周辺海域だけに分布する。本種はノトセニア科のうち、最も北に分布するものの一つである。全身に細かい鱗があるが頭頂部にはない。背鰭は2つあり、胸鰭は大きく扇状である。側線は2本あり、下のものは体の中央付近から始まる。体色は全身が黒褐色(図1, 2)。小型は色がやや薄い。

地理分布は、南緯30〜35度以南の南極大陸を取り囲んだ海域の陸棚の浅瀬から水深2,500〜3,000 mあたりの陸棚斜面に棲息する(図4, 5)。稚魚は海面近くでオキアミ類等を食べる。3才魚から餌の種類が変わり、成魚は魚類、いか類及び甲殻類を食べる。

6〜9年で70〜95 cmに成長、性的に成熟し、6〜9月に陸棚斜面上で産卵する。産卵数は、体長や地域によって変化が大きいが48,000〜500,000個の範囲である。卵の大きさは直径4.3〜4.7 mmで、一般に水深が2,200〜4,400 mの海域の500 m以浅で見つけられる。孵化は10〜11月くらいと見られている。最大の体長と体重は、238 cmと130 kgが観察され、40〜50歳まで成長すると言われている。

なお、本種と外見が非常に良く似たライギョダマシが南極大陸沿岸水域に分布するが、同種もCCAMLRの漁獲許可対象種である。


資源状態

南極海のCCAMLR水域全体のマジェランアイナメ資源量は、資源調査が行われていないため正確な値はわからない。ただし、本種の分布域は陸棚・陸棚斜面域であることから、図6で示すような影の部分の海底深度面積と得られた生物データとを組合せて小スケール毎の資源量変動を試算し、毎年の作業部会で検討され、管理措置に反映されることとなる。

これまで、本漁業に対してIUU操業による推定漁獲量が多く、資源状態に悪影響を及ぼしていることが強く懸念され、管理措置上にも大きな問題を抱えていた。そのため、CCAMLRはIUU操業に対する強い対策を講じてききており、その結果としてIUUによる漁獲量は一時期より低下したものの依然として大きな問題である。


管理方策

CCAMLRの科学委員会(SC-CAMLR)の魚類資源評価作業部会が、魚類の資源管理のための科学的検討を行っている。検討方法は海区ごとに異なり、漁獲量とCPUEの動向から判断する場合と、資源動態モデルを用いたシミュレーションによって判断する場合がある。後者の方法は、一般生産モデル(推定された加入量を基に、漁業開始以降の資源動態のシミュレーションし、適切な資源管理を行う方法)により、資源量が将来ある特定の基準を下回らないような漁獲量を許容漁獲量として勧告するものである。


メロ類の資源の現況(要約表)

資源水準 中位
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
CCAMLR水域1.2〜1.6万トン
平均:1.3万トン
世界全体:2.1〜3.4万トン
平均:2.4万トン
我が国の漁獲量
(最近5年間)
CCAMLR水域7〜262トン
平均:137トン
管理目標 CCAMLR水域7〜262トン
平均:137トン
目標値 予防的漁獲制限量
資源の現状 IUU操業による過剰漁獲懸念
管理措置 CCAMLR分割海区・EEZ毎に毎年漁獲制限量を決める
資源管理・評価機関 南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)

執筆者

外洋資源グループ
南極オキアミサブグループ
遠洋水産研究所 南大洋生物資源研究室

永延 幹男


参考文献

  1. CCAMLR. 2008a. Report of the twenty-sixth meeting of the scientific committee. CCAMLR, Hobart, Australia. 702 pp. http://www.ccamlr.org/pu/e/e_pubs/sr/07/toc.htm (2008年12月)
  2. CCAMLR. 2008b. Statistical Bulletin, Vol. 20 (1998-2007). CCAMLR, Hobart, Australia. 236pp. http://www.ccamlr.org/pu/e/e_pubs/sb/sb-vol20.pdf (2008年12月)
  3. Fishcher, W. and J.C. Hureau (eds.). 1985. FAO species identification sheets for fishery purpose. Southern Ocean (Fishing area 48, 58 and 88). With the support of CCAMLR, FAO, Rome, Vol. 2, 233-470.
  4. Gon, O. and P.C. Heemstara. 1990. Fishes of the Southern Ocean. J.L.B. Smith Institute of Ichthyology, Grahamstown, South Africa. 462 pp.
  5. 岩見哲夫・川口 創・永延幹男. 2001. 南極海およびその周辺海域より報告のある魚類の標準和名のリストならびに新和名の提唱. 遠洋水産研究所研究報告, 38: 29-36. http://www.enyo.affrc.go.jp/bulletin/38/so.pdf (2007年12月)
  6. Kock, K.H. 1992. Antarctic fish and fisheries. Cambridge Univ. Press, Cambridge, UK. 359 pp.
  7. Kock, K.H. (ed.). 2000. Understanding CCAMLR's approach to management. CCAMLR, Hobart, Australia. 63 pp.
  8. Moller, P.R., J.G. Nielsen and I. Fossen. 2003. Patagonian toothfish found off Greenland. Nature, 421: 599.
  9. 永延幹男. 1999. 南大洋の生物資源利用と生態系保存-南極海洋生物資源保存条約とその展開を中心にして-. 水産振興, 382: 1-93.
  10. 中村 泉 (編). 1986. パタゴニア海域の重要水族. 海洋水産資源開発センター, 東京. 369 pp.
  11. SC-CAMLR. 2008a. Report of the working group on fish stock assessment. Part 1-Text, tables and figures. SC-CAMLR-XXVII/4. CCAMLR, Hobart, Australia. 405 pp.
  12. SC-CAMLR. 2008b. Report of the twenty-seventh meeting of the Scientific Committee. SC-CAMLR-XXVII, CCAMLR, Hobart, Australia.