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57 カラフトマス 日本系

Pink Salmon

Oncorhynchus gorbuscha

                                                            PIC
                                                            2005年10月幌別川

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最近一年間の動き

カラフトマスの2006年漁期の沿岸での漁獲量は465万尾で、前年度比57%であった。水揚げ単価は、前年度の1.27倍の255円/kgとなり2005年から引き続き上昇した。水揚げ金額は漁獲量が減少したため前年比12%減の29億円となった(北海道庁 2008)。1994年以降、偶数年が豊漁年で奇数年が不漁年というパターンがしばらく続いていたが、2003年以降にこの豊漁・不漁年の関係が逆転し、2007年は豊漁年となり、前年度と比較すると漁獲量は増大し、1,344万尾となったが、2008年は11月中旬で602万尾(速報値)と不漁で、現在も豊漁・不漁年のパターンが継続している。


利用・用途

カラフトマスは塩蔵品のほか、生鮮でも利用されている。サケより小振りなことからチャンチャン焼きによく利用されている。加工品としては缶詰が多いが、魚卵製品として筋子がある。


図1

図1. 日本の漁業におけるカラフトマスの漁獲量経年変化(歴年)


表1

表1. カラフトマスの月別平均尾叉長と平均体重(Ishida et al. 1998より抜粋)


図2

図2. 日本系カラフトマスの主たる分布域(高木ら 1982)


図3

図3. カラフトマスの月別平均尾叉長±標準偏差(Ishida et al. 1998より抜粋)と成長曲線


図4

図4. 日本系カラフトマスの来遊数と放流数の推移(歴史的データは付表1参照)


図5

図5. 日本系カラフトマスの回帰数の予測値と実測値の関係


表2

付表. 日本系カラフトマスの回帰数と放流数(万尾)


漁業の概要

日本系カラフトマスは、我が国の河川と沿岸で先史時代から漁獲されてきた。北洋さけ・ます漁業では、日本系カラフトマス以外の系群も漁獲していた。しかし、系群識別が不可能なためその混合率の推定は困難で、そのため日本系カラフトマスの沖合域での漁獲量を確定することができない。我が国では1970年代以降、沖合域での漁獲量は徐々に減少し、近年では主に沿岸域で漁獲される(Eggers et al. 2003)。2007年のます類の海面での漁獲量(カラフトマスの他に若干量のサクラマスを含む)は24,700トン(海面漁業の0.56%)であり、漁業生産額は35.4億円(海面漁業生産額の0.32%)である(農林水産省 2008)。また、2007年における沖合でのカラフトマスの漁獲量は2,345トン(1,956千尾)であった(Fisheries Agency of Japan 2008)。なお、最近5年間の漁獲量は0.9〜2.5万トン(6〜15百万尾)である(図1)。


生物学的特徴

日本系のカラフトマスは、主にオホーツク海と根室海峡に流入する河川に産卵のため遡上する。産卵期は、8〜10月であり、雌が河床の砂礫に穴を掘って産卵し、雄が放精した後、雌が再び埋没する。サケやベニザケと比較すると、流速が早い浅瀬で産卵する(小林1968、Fukushima and Smoker 1998)。翌年の4〜5月に尾叉長3cm強の稚魚が砂礫中から浮上し、河川ではあまり餌を捕食せず直ちに海へ下る。自然種苗の卵から海に下るまでの生存率は0.1〜43.4%であり、年変動や河川間変異が非常に大きい(Heard 1991)。産卵床の掘り返しによる卵の流出が大きな死亡要因で、密度依存的に死亡率が高まると考えられている(Fukushima et al. 1998)。一方、人工孵化種苗の採卵から放流までの生存率は約80%である。採卵から翌年の春まで給餌飼育されたカラフトマス稚魚は、河川に放流されると速やかに降海する。降海したカラフトマスは、オホーツク海を経て北西太平洋に回遊する(高木ら 1982)(図2)。

河川生活期中の摂餌は盛んではないが主に水生昆虫(ユスリカ等)や落下昆虫を捕食する。海洋生活期中には動物プランクトン(オキアミ類、端脚類、カイアシ類、翼足類、十脚類幼生等)とマイクロネクトン(幼稚仔魚、イカ等)を捕食する(小林・原田 1966、高木ほか 1982)。

カラフトマスは、サケと同様、幼魚期には海鳥(ウトウ、ウミネコ等)や魚類(ウグイ、マルタ、アメマス、アブラツノザメ、ホッケ、カラフトマス、サクラマス等)、未成魚・成魚期には大型魚類(ネズミザメ、ミズウオダマシ等)や海産哺乳類(ゼニガタアザラシ、オットセイ、カマイルカ等)に捕食される(Heard 1991、 Nagasawa 1998、Nagasawa et al. 2002)。沖合での自然死亡係数Mは0.20で(Heard 1991)、一年間の生存率はおよそ80%と推定される。

季節性を考慮したvon Bertalanffy成長曲線は、
で示され(Haddon 2001)、極限体長は68.9cm、成長係数は0.0722である。図3は表1に示す年齢ごとの尾叉長及び体重にこの成長式をあてはめたもので、海洋生活期において、成長と停滞が何回も繰り返されていることが判る。

カラフトマスは、ほとんど全てが満2年で成熟する。そのため、偶数年と奇数年で繁殖集団が分かれており、資源量は隔年で変動を示している。アロザイム分析によると、同じ河川で産卵する偶数年と奇数年のカラフトマスよりも、同じ年に産卵する日本とアラスカのカラフトマスの方が遺伝的には近縁であり(Hawkins et al. 2002)、他のさけ・ます類と比較すると、母川回帰性が低く、河川間の遺伝的分化は大きくない。しかし、日本系のカラフトマスでは、形態的な地域変異が指摘されている(星野ら 2008)。カラフトマスは、8〜10月になると産卵のために沿岸域へ近づき、漁獲対象となる。遡上親魚の多くは人工ふ化放流のために捕獲されるが、自然産卵も多い。成熟時の体サイズは年により変動し、平均尾叉長は概ね46〜61cm、平均体重は1.1〜2.1kgである。性比はほぼ1:1、平均孕卵数は1,300〜1,700粒である(さけ・ます資源管理センター 2002)。


資源状態

1990年代以降の北太平洋全体のさけ・ます類の資源状態は歴史的に高い水準にあり(Eggers et al. 2003)、日本沿岸で漁獲される日本系カラフトマスの資源量も高い水準にあるが、その変動幅は大きい。

我が国における1969〜2006年の日本系カラフトマスの沿岸漁獲数、河川捕獲数及び稚魚放流数を図4に示す(付表1)。稚魚放流尾数は、1970年代には5,000万尾前後で大きく変動したが、1980年代以降約1.4億尾で安定している。それに対し、沿岸漁獲数と河川捕獲数の合計である漁獲数は、1970年代後半から1980年代前半には約100万尾であったが、1990年代にはほぼ500万尾以上となった。1994年から2002年までは、偶数年が1,500万尾、奇数年は700万尾前後と偶数年が多かったが、2003年以降、漁獲数の豊漁年と不漁年のパターンが逆転している。

現在、カラフトマスの資源量は、高位水準、横ばい傾向にあるといえる。カラフトマスの漁獲数は、成熟年齢が満2歳ということから、2年前の漁獲数と強い相関関係がある。また、網走市における1年前の1〜2月の気温及び2年前の9〜10月の降水量との間にも有意な相関があり、次の重回帰式が得られた(図5)。

漁獲数=0.693×(2年前の漁獲数)+640220×(1年前の1-2月平均気温)+21465×(2年前の9-10月降水量)+1919585、n=35、r2=0.800

つまり、カラフトマスは、親魚数が多く、卵期が暖冬で、産卵期の降水量が多いほど、その漁獲数が多くなることを意味している。なお、放流数と漁獲数にも正の相関が認められたが、統計的に有意ではなかった。このような環境要因とカラフトマスの資源変動の相関関係は、北米等では古くから報告されている(Wickett 1958、Heard 1991)。

日本系カラフトマスの漁獲数は、1980年代後半から急激に増加したが、その原因として1980年代後半から1990年代前半にかけての暖冬が関与していた可能性がある。また、1992年級群及び2001年級群の再生産効率が著しく高かった理由として、産卵期の降水量が著しく多かったことが考えられる。なお、上記の重回帰式から求められた2007年の漁獲数は723万尾で、過去15年間の中で2番目に低くなることが予測された、しかし、2007年の漁獲傾向は上述のパラメータのみでは十分に説明出来なかった。2008年の漁獲予測は重回帰式での予測値が580万尾で、河川遡上数をその水準で獲り残すという産卵親魚一定方策では605万尾となった。実際の漁獲数は602万尾で、不漁年の2006年よりも25%多く、産卵親魚一定方策の予測に近い値となった。

カラフトマスを含むさけ・ます類の資源変動は、エルニーニョの発生や、アリューシャン低気圧勢力の強弱による北西太平洋での餌生物量の増減などの沖合の海洋環境の影響が指摘されている。また、生活史の中では海洋生活初期の沿岸滞泳期での減耗が最も大きいと考えられている。したがって、カラフトマスの資源変動の予測精度をさらに向上させるためには、沿岸・沖合を通じた海洋生活期で影響を受ける環境変動要因を考慮する必要がある。


管理方策

2009年の持続的漁獲量を上述の回帰式で求めると1,416万尾となる。2008年の予測実績から産卵親魚量一定方策を用いて2009年の持続的漁獲量を求めると、2009年の来遊数(沿岸漁獲数+河川捕獲数)を1990年以降の豊漁年の平均値である1,222万尾とおいて、現状を維持できる水準の河川捕獲数を1990年以降の豊漁年の平均値の138万尾とすると、2009年の持続的漁獲量は1222-138=1084万尾と計算される。

現在、日本系カラフトマスの人工ふ化放流は、増殖計画に従って実施されている。今後も資源の持続的利用を図るため、水産庁、地方自治体、漁業団体及びさけ・ます増殖団体の緊密な連携協力が必要である。Morita et al.(2006)はカラフトマス資源に対する自然産卵の重要性を示唆しており、最近の調査研究結果でも、天然産卵が資源再生産に寄与していることが指摘されている(宮越 2006)。また、近年実施された標識放流の結果からも、放流魚の添加率がそれほど高くない可能性が考えられている。これらを考慮すれば、ふ化放流に使用しない親魚の再放流および自然産卵河川の環境整備等を含め、多面的な方法で再生産のための資源管理を行なうことが望ましい。カラフトマスの放流効果については不明であり、今後は、放流魚の資源への寄与度合いを明らかにするとともに、天然魚の再生産量に対応して人工孵化放流魚の数をコントロールする管理手法の開発を検討することが課題としてあげられる。そのためにモデル河川での実証的実験手法を用いてデータの集積を図る必要がある。

また、北太平洋では他の沿岸国起源のカラフトマスが混合して分布するため(高木ほか 1982)、国際資源管理の対象となっている。このことから、沿岸各国と協同して海洋域における環境収容力や高次生物生産の調査研究を進め、索餌域である北太平洋の生物生産を考慮した資源管理方策を開発する必要がある。


カラフトマス(日本系)資源の現況(要約表)

資源水準 高位
資源動向 横ばい
我が国の漁獲量
(最近5年間)
0.9~2.1万トン
平均:1.4万トン
管理目標 現在の資源水準の維持
目標値 平均回帰数(過去10年) 9.5百万尾
資源の現状 目標値に対する2007年の回帰数の比率=1.55
管理措置 持続的漁獲量10.8百万尾
稚魚放流1.4億尾
幼魚,未成魚期,成魚期EEZ外,成魚期河川内禁漁
資源管理・評価機関 NPAFC(北太平洋溯河性魚類委員会)・日ロ漁業合同委員会

執筆者

北西太平洋グループ
さけ・ますサブグループ
さけますセンター

関 二郎・長谷川 英一

北海道区水産研究所

森田 健太郎・福若 雅章・永澤 亨


参考文献

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