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51 シロナガスクジラ 南極海―南氷洋

Blue Whale

Balaenoptera musculus

                                                           
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図1. 南極海母船式捕鯨によるシロナガスクジラの捕獲頭数の変遷 (加藤1991)


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図2. シロナガスクジラ(濃青色)とピグミーシロナガス(ピンク色)の分布 (Kato et al. 1995を改変)


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図3. 南極海での通常型シロナガスクジラ(Phot. by F. Kasamatsu)


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図4. オーストラリア南岸沖を泳ぐピグミーシロナガス(Phot. by H. Kato)


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図5. 通常型シロナガスクジラ資源低下とクロミンククジラの性成熟年齢の経年的低下(加藤 1998).


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図6. シロナガスクジラとピグミーシロナガスの鼻孔形態の亜種間比較(Kato et al.2002)


最近一年間の動き

2008年6月の国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会において、シロナガスクジラ(南半球産通常型)の1997年における資源量は2,280頭として合意し、2006年から開始された本種の包括的資源評価を終了した(IWC 2008)。


利用・用途

我が国では刺身など食用に利用されてきた。他国においては鯨油として利用されていた。


漁業の概要

1904年ノルウェーがフォークランドに捕鯨基地を設立し、南氷洋海域で近代捕鯨を開始したことによって本種の漁獲が開始された。開始当時からの主要鯨種であり、IWCが戦後暫く設定していた捕獲枠BWU単位もこの鯨種の産油量を基準に定められていた(シロナガスクジラ1頭を1 BWUとし、ナガスクジラでは2頭、イワシクジラでは6頭、ザトウクジラでは2.5頭で1 BWUと換算する)。

南氷洋捕鯨は1920年代に最初の隆盛期を迎え、この時期に南氷洋でのシロナガスクジラの捕獲頭数は年間2万頭を超えるようになり、1930/1931漁期には史上最高5ヶ国41船団が出漁し、史上最高の29,410頭のシロナガスクジラを捕獲した(図1)(加藤1991)。しかし、この漁期以降、第二次大戦中の休漁期はあるものの、シロナガスクジラの資源は大幅に減少した。1959年からは日本やソ連船団などが亜種のピグミーシロナガスの捕獲を始めたものの、資源状況の悪化は著しく、1964/1965年漁期からは南半球全域において捕獲が禁止され、現在においても捕獲が再開できるほどの資源量には回復していない。

なお、本種は絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)では附属書I に、また我が国の水産資源保護法でも保護対象種に認定されている。


生物学的特徴

シロナガスクジラは体長30メートル、体重180トンを越えることもある地球史上最大の生物であり、うち南半球の系群は最も体長が大きい。北半球産をB. m. musclus、南半球産通常型を B. m. intermediaの亜種に分類することが普通で、南半球にはこの他、矮小型のピグミーシロナガス(B. m. brevicauda)が分布する。以下本項では、特にことわらない限り、便宜上、通常型シロナガスクジラを単にシロナガスクジラ、矮小型をピグミーシロナガスと呼び、主としてシロナガスクジラについて述べる。

シロナガスクジラは冬季に繁殖のため低緯度海域(少なくとも南緯30度以北)に回遊し、夏季には南氷洋へ索餌回遊するが、繁殖場は特定できていない。南氷洋への索餌回遊では、クロミンククジラなどと共に最も高緯度にまで回遊し、氷縁付近やその中にまで分布することが知られている(図2)。また、ピグミーシロナガスの夏季の分布域は中緯度帯にあり、南緯52度で通常型と棲み分けている。

本種は冬季に低緯度で交尾し、約10ヶ月半〜11ヶ月の妊娠期間を経て、体長(上顎先端から尾鰭切れ込みまでの直線距離)約7 mの新生児を一頭出産する。6〜7ヶ月間授乳が続き、離乳時には体長13 mほどに成長している。雄22.6 m、雌24 mで成熟に達する。性成熟年齢は資源水準によって変動すると考えられ、初期状態で10歳前後、1960年代で5〜6歳程度と考えることが妥当と思われる。体長の伸長は25歳まで続き、その時の体長は平均で雄が25 m、雌が26 m程度である。繁殖周期は資源水準によって異なり、初期状態で4年、資源水準が低下した1960年代には2年程度に短縮していたと考えられる。自然死亡係数は0.046〜0.049、最長寿命は110〜120歳程度と推定される。

なお、商業捕鯨年代の標識再捕調査に基づき南半球のシロナガスクジラは6系群に分かれるとされており(Brown 1954、1962)、この海区区分が現在のIWC管理海区(I区120W-60W、II区60W-0、III区0-70E、IV区70E-130E、V区130E-170W、VI区170W-120W)となっている。音響データや我が国のJARPAにおける目視データなどの最新情報を取り入れて総合的に分析したところ、チリ沖のシロナガスクジラについては、分布、鳴音、体長分布が特有で、通常型シロナガスクジラともピグミーシロナガスクジラとも別に資源管理すべきあり、遺伝子解析が更に必要なことがIWCで合意された(IWC 2008)。図3と図4にそれぞれ通常型シロナガスクジラとピグミーシロナガスの遊泳時の写真を示したが、矮小型ピグミーシロナガスは通常型に比べ相対的に尾部が小さいなどの特徴があり、平均最大体長で雌雄共に4 mほど小さく、最も大きい個体でも24 mを越えない。


資源状態

南半球産シロナガスクジラは最も資源が減少した系群の一つである。IWCが実施したSOWER(南大洋鯨類生態総合調査計画)目視調査によるデータが再解析され資源量が改訂された。初期資源量256,000頭(95%信頼区間; 235,000〜307,000)の0.15%(95%信頼区間; 0.10〜0.28)である395頭(95%信頼区間; 235〜804)まで減少した通常型シロナガスクジラは年率6.4%(95%信頼区間; 2.4〜8.45%)(Branch 2008)で資源が回復に向かっており、1997年時点の資源量は2,280頭(95%信頼区間; 1,160〜4,500)であることがIWCで合意された(IWC 2008)。もっとも、このような改訂が行われたとしても、現在資源レベルは初期資源レベルの僅かに0.9%(95%信頼区間; 0.7〜1.0%)であり、本種の資源水準が非常に低いことに変わりはない。一方、シロナガスクジラと生態的に拮抗するクロミンククジラ(B. bonarensis)は、シロナガスクジラの減少にともなって相対的に栄養環境が向上して成長が早まり、性成熟年齢が若齢化、この結果資源量が増大したと考えられている(図5)。また、近年では大型ヒゲクジラ類の資源回復に伴いクロミンククジラ資源に影響が現れつつあるという意見もあり、鯨種間の種間関係を更に明らかにするため、JARPAUの調査目的の一つとして日本が実施している。


管理方策

1996年にIWC総会において本種の資源回復をはかることが決議され、IWC科学委員会では1996年よりSOWERの下で、シロナガスクジラの生態調査を国際的枠組みで実施している。この調査では、@シロナガスクジラの生息頭数の分析、A繁殖場の探索、B南極海における種間競争の解明が命題になっている。生息頭数の改善に必要な通常型とピグミーシロナガスの洋上識別調査が優先課題となり、外部形態、行動、鳴音などの観点から多角的に行われている。研究は第一ステージを概ね終了し、相対的な体型と外鼻孔の形態に亜種間での差が明瞭に認められることが判明し(図6)、これらの形質を基に種の洋上識別がある程度可能になった。

現在は資源状態にかかわらず全てのヒゲクジラ類とマッコウクジラの商業捕獲は停止状態にある。IWCは商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を行う一方で、対象資源の包括的資源評価を実施している。現在、南半球産ヒゲクジラ類について進行中で、2006年から開始されたシロナガスクジラについては、2008年6月にサンチャゴで開催された国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会においての包括的資源評価を終了した(IWC 2008)。


シロナガスクジラ(南極海-南氷洋水域)の資源の現況(要約表)

資源水準 極めて低位
資源動向 増加
漁獲量
(最近5年間)
IWCによって捕獲停止中
管理目標 初期水準の62〜75%
資源の現状 1997年に2,280頭であることがIWCで合意
管理措置 IWCによって1964年以来捕獲停止
資源管理・評価機関 IWC

執筆者

鯨類グループ
鯨類目視サブグループ
遠洋水産研究所 鯨類管理研究室

島田 裕之

東京海洋大学海洋科学部

加藤 秀弘


参考文献

  1. Branch, T.A. 2008. Current status of Antarctic blue whales based on Bayesian modeling. Document SC/60/SH7 submitted to the Scientific Committee of IWC. 10 pp.
  2. Brown, S. 1954. Dispersal in blue and fin whales. Discovery Rep., 26: 355-384.
  3. Brown, S. 1962. The movement of fin and blue whales within the Antarctic zone. Discovery Rep., 33: 1-54.
  4. International Whaling Commission. 2008. Report of the Scientific Committee. Report of the 60th scientific committee of IWC. Santiago. 82 pp.
  5. Kato, H., Y. Honno, H. Yoshida, E. Kojima, A. Nomura and H. Okamura. 2002. Further developments on morphological and behavioral key for sub-species discrimination of southern blue whales, analyses from data through 1995/96 to 2001/02 SOWER cruises. Document SC/54/IA8 submitted to the Scientific Committee of IWC. 16 pp.
  6. Kato, H., T. Miyashita and H. Shimada. 1995. Segregation of the two sub-species of the blue whale in the southern hemisphere. Rep. Int. Whal. Commn., 45: 273-283.
  7. 加藤秀弘. 1991. 捕鯨小史. In 櫻本和美・加藤秀弘・田中昌一 (編), 鯨類資源の研究と管理. 恒星社厚生閣, 東京. 264-268 pp.
  8. 加藤秀弘. 1998. ミンククジラの性成熟年齢若齢化が意味するもの- 南極海大型鯨類の動態と新たな調査計画の展開-. 海洋と生物, 20(3): 197-208.