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40 ネズミザメ 北太平洋

Salmon Shark

Lamna ditropis

ニシネズミザメ 北大西洋・南半球の亜寒帯域

Porbeagle

Lamna nasus

                                                  PIC PIC
                                                        ネズミザメ                                                             ニシネズミザメ
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最近一年間の動き

ネズミザメは我が国での水揚げ量が2001年頃までは緩やかな増加傾向にあったが、その後は横ばい状態が続いていて、資源が減少している兆候は見られていない。一方、ニシネズミザメは昨年6月にオランダのハーグで開催されたCITES第14回締約国会議において、附属書Uへの掲載提案が否決されたものの、北大西洋資源の減少傾向が懸念されている。


利用・用途

肉はソテーやみそ漬け、鰭はフカヒレ、脊椎骨は医薬・食品原料、皮は革製品として利用されている。


図1

図1. 日本の主要漁港へのネズミザメ水揚量


表1

表1. ネズミサメ・ニシネズミザメの年齢と尾鰭前長(cm)


図2

図2. ネズミザメ(左)とニシネズミザメ(右)の分布(Compagno 2001)


図3

図3. ネズミザメ(上の2本)・ニシネズミザメ(下の2本)の年齢と成長(田中1984、森信1996)


図4

図4. 北太平洋におけるネズミザメの標準化したCPUE


図5

図5. ミナミマグロ漁場におけるニシネズミザメの標準化したCPUE


漁業の概要

ネズミザメは北太平洋の亜寒帯域に生息し、沿岸から外洋まで出現する。主としてはえ縄漁業や流し網漁業によって混獲され、その多くが宮城県の気仙沼港を中心とした東北地方に水揚されている。さめ類の中では肉質が良好で比較的商品価値が高く、肉や鰭、皮が食用や工芸用に利用されている。また、これとは近縁種であるニシネズミザメが北大西洋および南半球の亜寒帯域に生息し、日本のまぐろはえ縄漁船が混獲しているが、日本へ持ち帰る程の価値は無いようで、多くは漁場近くの漁港で水揚されているようである。日本の主要漁港へのさめ類の種別水揚量については、水産庁の日本周辺クロマグロ調査委託事業(平成4〜8年度)および日本周辺高度回遊性魚類資源対策調査委託事業(平成9年度以降)で調査されている。それによると1992〜2007年におけるネズミザメのはえ縄漁業および流し網による日本の主要漁港への水揚量は、それぞれ1,000〜2,900トン、300〜1,300トン、全体では1,400〜4,400トンであった。何れも2001年頃までは緩やかな増加傾向が見られ、その後は横ばい状態であった。さめ類の合計値に占める割合は8〜22%であり(図1)、ヨシキリザメに次いで多かった。これに対し、ニシネズミザメは多くが外国の港で水揚されるものと考えられるが、その実態は不明である。


生物学的特徴

【分布】

ネズミザメは北太平洋の亜寒帯域の沿岸から外洋まで広く分布し、亜寒帯域出現種と考えられている(中野 1996)。ニシネズミザメは北大西洋および南半球の亜寒帯域に分布している(図2、Compagno 2001)。系群については、ネズミザメが1系群、ニシネズミザメは繁殖周期が大洋の南北で逆になることと、南半球における分布が連続していると想定されることから、北大西洋で1系群、南半球で1系群と考えるのが妥当であろう。


【産卵・回遊】

両種の繁殖様式は卵食・共食い型の胎生であり、産仔数の範囲と出生時の体長はネズミザメが4〜5、約70 cm (田中 1980a)、ニシネズミザメが1〜5、60〜75 cm (Compagno 2001)と報告されている。回遊については両種とも季節的な南北移動が示唆されている(田中 1980a、谷津 1995)。また幼魚はネズミザメの場合、亜寒帯境界付近を生育場にしていると推測されている(中野 1996)。交尾場、出産場等についての知見は乏しいが、出産期はネズミザメが3〜5月(田中 1980a)、ニシネズミザメが春〜夏 (Compagno 2001)と推定されている。


【成長・成熟】

脊椎骨に形成される輪紋から年齢が推定されており、その結果に基づいて田中 (1980a)がネズミザメ、森信 (1996)がインド洋 (ミナミマグロ漁場)のニシネズミザメの成長について報告している。成熟体長は、ネズミザメでは雌180 cm、雄140 cm、年齢ではそれぞれ8〜10歳、5歳と推定される (田中 1980a)。またニシネズミザメでは雌212 cm (尾叉長);14歳、雄175 cm;7歳と報告されている (Campana et al. 1999)。寿命は、ネズミザメの場合、雌が20歳、雄が27歳以上 (Compagno 2001)、ニシネズミザメが20歳 (Aasen 1963)とされている。

以下に示すのが北太平洋とインド洋で求められた両種の成長式 (尾鰭前長)である (図3、表1)。

       ネズミザメ:田中 (1980a) 北太平洋
             雌:Lt=203.8(1-e-0.136(t-(-3.946)))
             雄:Lt=180.3(1-e-0.171(t-(-3.628)))
       ニシネズミザメ:森信 (1996) インド洋
             雌:Lt=214.0(1-e-0.082(t-(-4.43)))
             雄:Lt=250.0(1-e-0.066(t-(-4.64)))
      
【食性・捕食者】

ネズミザメの食性は、48°N以北の大型魚がサケ・マス類やイカ類、48°N以南の小型魚が多獲性浮魚類 (いわし類、サンマ等)やいか類を多く摂取している (川崎他1962、佐野1960、1962、田中1980b)。海域、成長段階等によって異なった物を摂餌しており、特に選択的ではなく、生息域に豊富にいる利用しやすい動物を食べる日和見的な食性を示している。ニシネズミザメも多獲性浮魚類を多く摂取する (Compagno 2001)。また、捕食者については両種共に良く知られていない。

資源状態

【資源の動向】

ネズミザメについては、Nakano and Honma (1996)が提案した、まぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書から、さめ類混獲報告率(航海あたりのさめ類混獲報告日の割合)によって、信頼性の高いデータを選別する方法を用いた。具体的には、1993年から2007年にかけてのまぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書から報告率80%以上のデータを抜き出し、一般化線形法(GLM)で標準化したネズミザメのCPUEを算出した。その結果は予備的ではあるが、1993〜2007年にかけて増減を繰り返し、一定の傾向は認められなかった(図4)。


南半球のニシネズミ系群に関しては、南アフリカ沖やオーストラリア沖のミナミマグロ漁場において、科学オブザーバー調査によって得られたさめ類混獲データから、GLMで標準化されたCPUEが得られている(Matsunaga & Shono 2007)。その結果をみると、1992年から2005年のCPUEは、増減を繰り返し、一定の傾向は見られなかった(図5)。

北大西洋のニシネズミザメ系群については、東西海域における漁獲量やカナダ沿岸の資源豊度は減少傾向にあると報告されているが(FAO 2006、Campana et al. 1999)、日本漁船による漁獲は少なく、漁獲成績書のデータからは資源の傾向は明らかでない。

以上の結果をまとめると、北太平洋におけるネズミザメは、標準化したCPUEに顕著な増減傾向は認められないことと、日本の漁港への水揚量がやや増加傾向を示していることから、この約10年間でネズミザメの資源は安定的又は漸増的に推移していたものと推定された。また、南半球 (ミナミマグロ漁場)におけるニシネズミザメの標準化したCPUEも顕著な増減傾向は認められないことから、この約10年間で南半球のニシネズミザメ資源は安定的に推移していたものと推定された。一方、北大西洋のニシネズミザメは資源が減少傾向にある可能性を否定はできない。


【資源水準・動向】

資源水準については両種とも不明である。CPUEの変動と水揚量の推移から、両種の資源動向は北大西洋を除いて横ばい傾向にあるものと推測される。

管理方策

北大西洋以外では資源状態に顕著な変化は観察されていないため、保護・管理に対する特別な勧告は必要ないと考えられるが、引き続き観察していく必要がある。北大西洋では今後、保護・管理に対する特別な勧告が必要となってくる可能性がある。しかしながら、資源評価のための種別漁獲量の統計資料がないのが最大の問題である。水産庁では近年、まぐろはえ縄漁業における漁獲成績報告書の提出フォームを変更し、6種のさめ類の漁獲量を報告するようになっているが、さめ類を漁獲しても正確に記入されていない場合があり、種別投棄量も含め実態を把握することが困難である。まぐろはえ縄漁船で漁獲されるさめの種類、あるいは投棄量を正確に推定するためには、オブザーバプログラム等の、漁業者に依存しない方法での資料収集の推進を含め、今後、資料収集方法の改善を検討していく必要があろう。


ネズミザメ(北太平洋)資源の現況(要約表)

資源水準 調査中
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
調査中
我が国の漁獲量
(最近5年間)
3,400〜4,400トン
(水揚量)
平均:3,800トン
管理目標 検討中
資源の現状 検討中
管理措置 モニタリング
資源管理・評価機関 無し

ニシネズミザメ(北大西洋・南半球の亜寒帯域)資源の現況(要約表)

北大西洋 南半球
資源水準 調査中 調査中
資源動向 調査中 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
調査中 調査中
我が国の漁獲量
(最近5年間)
調査中 調査中
管理目標 検討中 検討中
資源の現状 検討中 検討中
管理措置 モニタリング モニタリング
資源管理・評価機関 ICCAT ICCAT, CCSBT

執筆者

まぐろ・かつおグループ
混獲生物サブグループ
遠洋水産研究所 混獲生物研究室

松永 浩昌

業務推進部

中野 秀樹


参考文献

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