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37 ヨシキリザメ

Blue Shark

Prionace glauca

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最近一年間の動き

昨年ウルグアイで開かれたデータ準備会合を受け、第2回目のサメ類資源解析会議が マドリードにあるICCAT事務局の会議室で開催された。解析結果は前回(2004年 東京)と同様で、 現在の資源量は南北共にMSYが生じる資源量以上のレベルであり、漁獲死亡率もMSYを達成するレベル 以下であると示された。しかし、前回と比べて使用するデータの質量共に向上したとは言え、未だ 使用可能なデータが不足しているため多くの仮定に基づいており、明確な結論を出す事は困難で あった。


利用・用途

肉はすり身など、鰭はふかひれ、皮は工芸品や医薬・食品原料、脊椎骨は 医薬・食品原料などに利用されている。


図1

図1. 日本の主要漁港へのヨシキリザメ水揚量


表1

表1. まぐろはえ縄漁業によるさめ類漁獲量(トン)


図2

図2. ヨシキリザメの分布(Compagno 1984より)


図3

図3. ヨシキリザメの年齢と成長 (中野1994)


図4a
図4b

図4. 北太平洋(上)および南太平洋(下)におけるヨシキリザメの標準化したCPUE


表2

表2. ヨシキリザメの年齢と成長(尾鰭前長cm)(中野1994)


図5a 図5b

図5. 各年代における標準化されたサメ類のCPUEの比較(上図は10S-50N、下図は10-20N海域で比較した)


図6

図6. 大西洋におけるヨシキリザメの標準化されたCPUE(上:北大西洋、下:南大西洋)


図7

図7. インド洋におけるヨシキリザメの標準化したCPUE



漁業の概要

ヨシキリザメは全世界の熱帯から温帯にかけて出現し、外洋性さめ類の中で最も資源豊度が高いと考えられ、まぐろはえ縄漁業によって数多く混獲されている。しかし、主要な漁業対象種ではなく、商品価値が比較的高い沿岸や三陸沖の漁場を除き、遠洋水域で混獲されるヨシキリザメは漁場近くの外国の港で水揚されるか投棄されている。なお、ここで言う投棄とは、生きたまま放流する場合を含んでいる。水揚は気仙沼港を中心に行なわれ、肉、鰭、脊椎骨、皮が食用や工芸用に利用されている。表1に農林水産省統計部発行の「漁業・養殖業生産統計年報」(農林統計)に記載されている、まぐろはえ縄漁業によるさめ類の実際に漁獲された数量を示した。農林統計では1971年以降、まぐろはえ縄漁業は、遠洋・近海・沿岸の3種類に分類されており、それらの合計は、13,000〜30,000トンで推移している。90年代後半まで、年々減少する傾向にあったが、近年再び増加する傾向が見られ、2005年は特に近海はえ縄の増加が顕著で、初めて3万トンを上回った。種別漁獲量は不明であるが、7〜8割程度を本種が占めているものと推定される(中野 1996)。

また水産庁では、まぐろはえ縄漁業等による日本の主要漁港へのさめ類の種別水揚量を調査している。それによるとヨシキリザメの水揚量は、1992〜2007年において9,900〜16,000(平均12,900)トンで、2001年をピークにやや減少傾向が見られている。さめ類の合計値に占める割合は63〜80%と最も多かった(図1)。漁法別に見ると、約93%近くがはえ縄によるものであった。


生物学的特徴

【分布】

本種は南北太平洋、南北大西洋、インド洋の熱帯から温帯域にかけて広く分布し(図2、Compagno 1984)、特に温帯域での分布豊度が高く、温帯域出現種と考えられている(中野 1996)。系群については、ほとんど知られていないが、繁殖周期が大洋の南北で逆になるので、南北太平洋で2系群、南北大西洋で2系群と考えるのが妥当であろう。そこで、今回はインド洋1系群を加え5系群が存在すると仮定して解析を進めた。しかし、赤道を越えて再捕された標識個体もあるので(Casey et al. 1989)、南北での交流も有り得る。また、分布の連続性を考慮すると、南半球では系群が1つである可能性も否定できない。


【産卵・回遊】

本種の繁殖様式は胎盤型の胎生であり、産仔数の平均と範囲は25.6、1〜135(中野 1994、Gubanov and Grigor'yev 1975)、出生時の体長(尾鰭前長)は30〜43cm(中野 1994)である。回遊については北太平洋においてモデルが提唱されている(中野 1994)。それによると、本種は北緯20度付近の海域で初夏に交尾し、雌は約1年の妊娠期間後に北緯30度以北の海域で出産する。幼魚は北緯40度付近の亜寒帯境界を生育場とし、成熟すると温帯域に移動する。


【成長・成熟】

脊椎骨に形成される輪紋から年齢が推定されており、その結果に基づいてCailliet and Bedford(1983)、田中(1984)、中野(1994)が太平洋における成長式を雌雄別に報告している。成長には性差が認められ、雄が雌に比べて早く、大きく成長する。成熟に達する体長は、北太平洋では雌雄共に140〜160 cm(須田 1953、中野 1994)、北大西洋では雌が約165 cm、雄が160 cm(Pratt 1979)と報告されており、年齢に換算すると雌6歳、雄5歳と推定される。また寿命は20歳以上とされている(Compagno 1984)。

以下に北太平洋で求められた成長式を示す。

       Cailliet and Bedford(1983):全長
             雌:Lt=241.9(1-e-0.251(t-(-0.795)))
             雄:Lt=295.3(1-e-0.175(t-(-1.113)))
       田中(1984):尾鰭前長
             雌:Lt=256.1(1-e-0.116(t-(-1.306)))
             雄:Lt=308.2(1-e-0.094(t-(-0.993)))
       中野(1994):尾鰭前長(表2、図3)
             雌:Lt=243.3(1-e-0.144(t-(-0.849)))
             雄:Lt=289.7(1-e-0.129(t-(-0.756)))

【食性・捕食者】

多獲性浮魚類やまぐろ類、いか・たこ類が主な餌料である(川崎ほか1962、谷内1984、Strasburg 1958)。海域、成長段階等によって異なった物を摂餌しており、特に選択的ではなく、生息域に豊富にいる利用しやすい動物を食べる日和見的な食性を示している。成魚に対する捕食者は知られていないが、幼魚は大型さめ類や海産哺乳類に食べられている可能性がある(Nakano and Seki 2003)。

資源状態

【資源の動向】

Nakano and Honma(1997)は、まぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書を分析し、さめ類の種組成とさめ類混獲報告率(航海あたりのさめ類混獲報告日の割合)の関係に基づき、報告率70%以上のデータがヨシキリザメのCPUE(1,000鈎当たりの漁獲尾数)の指標となり得ることを示した。この方法の妥当性が大西洋のオブザーバーデータを使って検証され、報告率80%以上のデータを用いるのが最も適当であると判断されている(Nakano and Clarke 2006)。そこで1971〜2007年における日本のまぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書から報告率80%以上のデータを抜き出し、GLM(一般化線形法)で標準化したヨシキリザメのCPUEを算出した。その結果、南北太平洋においてヨシキリザメの標準化されたCPUEは緩やかな増減を繰り返し、長期的には顕著な変化は見られなかったが、近年北太平洋では2004年まで増加した後に減少、南太平洋では2006年まで減少した後に増加する傾向が認められた(図4)。

またKleiber et al. (2001)は、北太平洋のヨシキリザメ資源に関して各国の漁獲量の総計を推定し、現行の漁獲量はそのMSYのどの程度の割合にあるかを算定した。その結果、現在の漁獲量はモデルで見積もられたMSYの1/4から1/2程度であり、当面ヨシキリザメ資源が著しく減少するような急激な変化は考えられないと報告している。

Ward and Myers (2005)は太平洋熱帯域において、漁業により大型まぐろ類やさめ類等の高次捕食者が間引かれて行った結果、それらの資源量と平均サイズの大幅な減少が見られると報告し、世界的に注目された。特にヨシキリザメは1950年代と比べ、1990年代では資源量で13%、平均体重が52 kgから22 kgにまで下がっているとの事であった。この様な現象が果たして太平洋全体で起こっているのかを確かめる為に、水産高校実習船や水産試験場調査船等により過去に実施された延縄調査資料と現在のデータを解析し、さめ類の資源状態を表すCPUE(漁獲率)とヨシキリザメの大きさの年代による変化を比較検討した結果、西部北太平洋海域では、1930、60、90年代において、まぐろ延縄で漁獲されるさめ類の標準化されたCPUEに顕著な差異は認められず、90年代はむしろ他の年代に比べて高い水準であったと考えられた(図5)。また、ヨシキリザメの平均サイズは、一部の海域で90年代に比べて40年代で有意な減少傾向が観察されたものの、多くの場合は差が検出されなかった。以上の結果から30年代のヨシキリザメを主体としたさめ類資源が、それ以降のまぐろはえ縄を始めとする漁業活動によって、少なくとも西部北太平洋海域においては大きな影響を受けていないものと考えられた。

南北大西洋の系群に関しては、日本、米国、ブラジル、台湾、ベネズエラ、スペイン、アイルランド、ウルグアイ、カナダと多くの国のまぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書データ等から標準化されたCPUEが得られている(ICCAT 2008、)。図6はこれらをまとめたもので、何れも北太平洋の場合と同様に緩やかな増減を繰り返し、顕著な増減傾向は見られなかった。また様々なモデルを使った資源解析が試みられており、多くの場合、現在の資源量は南北共にMSYが生じる資源量以上のレベルであり、漁獲死亡率もMSYを達成するレベル以下であると示された(ICCAT 2008)。しかし、前回と比べて使用するデータの質量共に向上したとは言え、未だ使用可能なデータが不足しているため多くの仮定に基づいており、明確な結論を出す事は困難であった。更に日本の漁獲成績報告書から報告率で選別したデータを使って、漁獲量の推定が行われている(Matsunaga 2008)。それによると、1994年から2006年にかけて、11〜36(平均約23)万尾、2,900〜9,700(平均5,900)トンのヨシキリザメが日本のはえ縄漁船によって漁獲され、その多くが放流されていたものと推定された。

インド洋系群に関しては、日本のまぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書データから、標準化されたCPUEの経年変化が得られており、他の系群と同様にCPUEは増減を繰り返す傾向が認められた(図7、Matsunaga 2007)。

以上の結果をまとめると、1971年以降の30年間以上に亘り、何れの系群においてもヨシキリザメのCPUEに顕著な増減傾向は認められなかった。従って、この約30年間でヨシキリザメの資源は安定的に推移していたものと推定されたが、南北太平洋における近年の動向には注意を払う必要があろう。

【資源水準・動向】

北太平洋ではKleiber et al. (2001)の推定から、資源水準は高位であると考えられるが、他の系群では不明である。また、CPUEが最近の30年間において顕著な増減傾向が見られないことから、何れの系群においても長期的な資源動向は横ばい傾向にあるものと推測されるが、南北太平洋における近年の動向には注意が必要である。


管理方策

資源状態に顕著な変化は観察されていないため、保護・管理に対する特別な勧告は必要ない。ただし、資源状態については引き続き観察していく必要がある。しかし、資源評価を行うための種別漁獲量の統計資料がないのが最大の問題である。水産庁では近年、まぐろはえ縄漁業における漁獲成績報告書の提出フォームを変更し、6種のさめの漁獲量を報告するようになっているが、さめを漁獲しても正確に記入されていない場合があり、種別投棄量も含め実態を把握することが困難である。まぐろはえ縄漁船で漁獲されるさめの種類、あるいは投棄量を正確に推定するためには、オブザーバプログラム等の、漁業者に依存しない方法での資料収集の推進を含め、今後資料収集方法の改善を検討していく必要がある。


ヨシキリザメの資源の現況(要約表)

北太平洋 南太平洋 北大西洋 南大西洋 インド洋
資源水準 高位 調査中 調査中 調査中 調査中
資源動向 横ばい 横ばい 横ばい 横ばい 横ばい
世界の漁獲量 調査中 調査中 調査中 調査中 調査中
我が国の漁獲量
(最近5年間)
1.0〜1.5万トン
(水揚量)
平均:1.3万トン
調査中 調査中 調査中 調査中
管理目標 検討中
資源の現状 検討中
管理措置 モニタリング
資源管理・評価機関 IATTC, WCPFC WCPFC ICCAT ICCAT IOTC, CCSBT

執筆者

まぐろ・かつおグループ
混獲生物サブグループ
遠洋水産研究所 混獲生物研究室

松永 浩昌

業務推進部

中野 秀樹


参考文献

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