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26 ニシマカジキ 大西洋

White marlin

Tetrapturus albidus

                                         PIC
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図1. 国別漁獲量


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表1. 近年の国別漁獲量(2005年の値は暫定値)


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図2. 海域別・漁業種類別漁獲量の年推移


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図3. 1956-2000年の四半期別平均漁獲量分布赤ははえ縄漁業による漁獲を、水色はその他の漁業による漁獲を表している。左上;第1四半期、右上;第2四半期、左下;第3四半期、右下;第4四半期。


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図4. ニシマカジキの分布


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図5. ニシマカジキの標識放流結果 赤は西部太平洋での放流再捕を、黄色はそれ以外の水域での放流再捕を示す(Prince et al., 2002より引用)。


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図6. 漁業別資源量指数


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図7. 複合資源量指数。日本、台湾、ブラジル、米国のはえ縄データを合体させ標準化 して推定した資源量指数。3つのラインは、異なる手法によって標準化した結果を示している。


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図8. プロダクションモデル解析結果。 2001年に行われた資源評価会合で推定された 各種パラメータ推定値を変えずに、資源量指数と漁獲量だけをアップデートしてある。今回の解析でアップ デートした部分を赤で、2001年の会合で推定した部分を青で示してある。実線は点推定値、点線は信頼限界 を示す。


最近一年間の動き

本資源の豊度が低水準にあり、多くの場合、混獲として漁獲されていることから、生きて漁獲された個体を放流する漁船が増えている。


利用・用途

刺身、寿司、切り身(ステーキ)、マリネ。


漁業の概要

本種を主対象で漁獲している漁業は米国、ベネズエラ、バハマ、ブラジル等のスポーツフィッシングとカリブ海諸国やアフリカ西岸諸国の沿岸零細漁業であるが、漁獲量の大部分は台湾、日本、ブラジル等マグロ類やメカジキを対象としたはえ縄漁業の混獲によるものである。近年、カリブ海諸国やブラジルの零細漁業の漁獲が増えている(図1、表1)。

ICCATには種不明のカジキ類の漁獲も報告されているが、この中にも本種の漁獲が含まれていると思われる。また本種は、便宜置籍船によっても漁獲されていると考えられるが、その漁獲を推定できる統計資料は存在していない。

本種は同水域で漁獲されるクチナガフウライ及び、その類縁種で最近新種として記載する作業が行われているroundsccale spearfishと外観が極めてよく似ており、これら3種の凍結製品は市場でも区別されない場合が多いため、本種を混獲物として漁獲している漁業では、統計報告の段階で種の混同が起きている可能性が高い。

2001〜2003年のカジキ類全体の漁獲量の12%は、その種類が特定されていない。この種不明カジキ類の種組成は、場合によっては資源解析に与える影響が大きいので、早急にその内容を明らかにしていく必要がある。 こうした漁獲統計における不備は、資源解析結果の信頼性を低下させてしまうため、今後オブザーバープログラムを拡充する等の手段で、統計精度を向上させる必要がある。

本種の総漁獲量は1960年代中旬に5,000トンまで達した後、1970年代に2,000トン前後に急減した。その後総漁獲量は緩やかな減少傾向を示し、近年は1,000トン程度となっている。ニシマカジキの漁獲量は近年減少を続けており、2006年5月の資源評価会合で、ICCATの漁獲統計を基に、種不明カジキ類や未報告分を補正して推定した2003年及び2004年の漁獲量は、それぞれ646トンと610トンであった。本資源の資源解析は、沖合域のはえ縄漁業と北大西洋沿岸域のいくつかの漁業のCPUEから推定した資源量指数に基づいて行われたが、沖合はえ縄漁業の総漁獲量のトレンド及び北大西洋の総漁獲量のトレンドは、概ね総漁獲量と同様の傾向を示している(図2)。

従来は台湾の漁獲量が最も多かったが、近年ブラジルの漁獲量が増加し、2001年以降はブラジルの漁獲量が首位を占めるようになった(表1)。日本の漁獲は、1990年代上旬までは100トンを上まわっていたが、それ以降減少を続け、近年では30トン以下となっている(表1)。


生物学的特徴

本種は大西洋の熱帯・亜熱帯域及びそれに隣接する水域に広く分布している(図3、図4)。本種は、インド・太平洋に分布しているマカジキとは、外部形態が明確に異なっており、平均漁獲サイズは20〜30sでマカジキよりも小型である。大西洋の熱帯・亜熱帯域に分布するクチナガフウライとは外部形態が極めてよく似ているが、本種の方が肛門の位置が臀鰭前端部に隣接していること、背鰭に複数の黒班が存在する事から区別することが出来る。

年齢、成長及び産卵生態に関してはほとんど知見がない。春から晩春にかけて熱帯・亜熱帯域で産卵し、夏に温帯域に回遊すると考えられている。他のカジキ類同様に成長が早い。雌は雄より成長が早く、最大体長も大きいと推察されている。標識再捕の結果から、最高寿命は少なくとも17から18年程度であろうと推測されている。

一般にマグロ類の様に濃密な群を作るのではなく、個々の個体が薄く広く分布していると考えられているが、少数の個体が群泳する様子も観察されている。主に外洋の表層混合層上部に分布し、魚やイカを餌としている。

かつて大西洋のニシマカジキ資源は北緯5°を境にした南北大西洋の2系群を仮定して解析が行われていた。しかしながら、@近年のDNA標本の解析結果では、大西洋の東西、南北を問わず標本採集地点間での遺伝子頻度に差が認められないこと、A北緯5°の境界線をまたぐ標識放流再捕の結果が得られていること(図5)から、現在では大西洋全体で1系群として資源解析が行われている。


資源状態

資源評価は2006年5月にICCATによって行われた。今回の資源評価では、新たな漁業の資源量指数の報告や、従来の資源量指数に関する新たな知見が得られた。しかしながら、近年のニシマカジキ漁獲が、従来の大規模遠洋はえ縄漁業船団によるものから沿岸国による小規模零細漁業等によるものへとシフトする傾向が明確化したため、こうした個々の船の規模は小さいが数が多いためにまとまった量の漁獲をしている零細漁業のデータから資源量指数を推定することが、今後の資源評価では必須となると予想される。

2004年に行われた中間会合で、1960年代前後に認められた日本のはえ縄CPUEの突然の減少が資源状態の変化を十分に表していない可能性が指摘され、且つ、その問題の解決には数年以上の時間がかかる事が予測されたことから、今回の資源評価は近年の資源量指数のトレンドを評価することで最近導入された規制の効果を判定することを主たる目的とした。

1990〜2005年について、7つの漁業から資源量指数が得られ、そのうち3つが2001年以降増加しており、3つは減少、残り1つはフラットなトレンドを示していた(図6)。また、これら7つは、どれもニシマカジキ分布域全体をカバーしていないので、これらのうち日本、台湾、ブラジル、米国のはえ縄漁業という主たる4つの漁業データを一つにまとめて標準化することで、複合資源量指数の推定を行った(期間は1990〜2004年)。この資源量指数は、ニシマカジキの資源豊度が、解析を行った期間全体を見れば減少しているが、最近年(2001〜2004年)を見ると資源豊度の減少傾向が僅かに反転し資源豊度が増加したことを示している。

近年の資源量のトレンドを確認するために、2000年に行われたプロダクションモデル解析で推定した各種パラメータと、2006年の資源評価会合で得られた近年の資源量指数及び漁獲統計を用いて、プロダクションモデル解析を行った。それによると、最近の資源量水準はBMSYよりもかなり低いと考えられるが、5月の資源評価会合で試験的に行われたプロダクションモデル解析では、近年のFは、2002年に推定されたFMSYよりは大きいものの減少傾向にある事が示唆された。しかし、個々の漁業の資源量指数と複合資源量指数では、近年のトレンドの傾向に多少差が見られており、前回の資源評価から4年しか経っていないため、漁業規制の効果を判定するには、少なくとももう4〜5年間のデータが必要であると思われる。


管理方策

現在導入されている大規模商業漁業を対象とした漁業規制によって、ニシマカジキ資源はBMSYレベルまで回復できる可能性はあるが、最近の(ブラジル、カリブ海諸国等の)零細漁業による漁獲量の増加は(その半数以上が、5月の資源評価会議より後に詳細が明らかになったために影響の詳細は判らないが)、現行のICCATによる資源回復計画を無効にしてしまう可能性がある。本年の資源評価では、2004年時に報告された漁獲量水準(複数の零細漁業による漁獲が含まれていない漁獲量)の下では、ニシマカジキ資源の回復速度は2000年の資源評価時の推定よりも速くなると予想されており、実際5月の資源評価会合に提出された複数の資源量指数が、最近年の資源量指数が水平になっていたことからも、その事は支持される。しかし、こうした傾向をしっかりととらえるには、少なくとも後4〜5年のデータが必要とされるであろう。

以上のことを勘案して、現時点では資源管理方策として以下のような事柄が勧告されている。

  1. 資源はまだ回復していないので、最低でも、現行の漁業規制は継続されるべきである。
  2. 将来の資源の回復の可能性についてより確かな情報を得るためには、生存放流された個体の生残率に関する情報及び死亡投棄個体と生存放流個体に関するデータを、科学オブザーバー等によって改善すべきである。また、幾つかの零細漁業の過去及び現在の漁獲についての情報についても確かめる必要がある。
  3. 資源の回復をより確かなものにしたいのであれば、@現行の規制の徹底方法の改善、A有効であると判っている漁業については、サークルフックの使用の徹底、B広範な禁漁区及び禁漁期の設定等によって死亡率を下げる必要があろう。
  4. 近年の、零細漁業による漁獲の重要性を鑑みて、資源回復の可能性をより確かなものにするには、これらの漁業による漁獲死亡をコントロール或いは減少させることを考えるべきである。
  5. MSY等の指標を直接推定するため、今回の資源評価では行うことが出来なかった歴史的な資源量指数の推定のために、ニシクロカジキのハビタット特性に関する研究を強力に推し進めるべきである。

ニシマカジキ(大西洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位
資源動向 増加
世界の漁獲量
(最近5年間)
390〜900トン
平均:630トン
我が国の漁獲量
(最近5年間)
20〜40トン
平均:30トン
管理目標 MSY
目標値 600〜1320トン
資源の現状 B2004 < BMSY
恐らくF2004 > FMSY
現行の規制でMSY水準まで回復する可能性は有るが、不明な点を十分吟味する必要がある。
管理措置 はえ縄・巻き網漁業は1996年か1999年の漁獲量の多い方の 33%以下に抑える(2005年まで)*。
生きて漁獲された個体は全て放流する。
資源管理・評価機関 ICCAT
*: この規制は各漁業に課せられており、はえ縄漁業全体の割当量は619トンとなる。 なお、仮に本規制を日本のはえ縄漁業だけに当てはめると、日本の割当量は56トンとなる。

執筆者

まぐろ・かつおグループ
熱帯性まぐろ類サブグループ
遠洋水産研究所 熱帯性まぐろ研究室

仙波 靖子

遠洋水産研究所 数理解析研究室

余川 浩太郎


参考文献