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10 ビンナガ 北大西洋

Albacore

Thunnus alalunga

                                                            PIC
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図

図1. 北大西洋ビンナガの漁法別漁獲量 (ICCAT 2008 SCRS Reportより)


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表1. 北大西洋ビンナガの国別漁獲量(トン)


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図2. 北大西洋のビンナガの分布と主な漁場


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図3. 北大西洋ビンナガの年齢と尾叉長(cm)の関係Bard(1981)より


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図4. 北大西洋ビンナガの資源評価に用いられた各国漁業のCPUE (ICCAT 2007 SCRS Reportより)


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図5. Multifan-CLモデルから得られた北大西洋ビンナガの1930〜2005年の加入量 (1歳魚)(上)および親魚資源量(下)(ICCAT 2007 SCRS Reportより)。 図では示されていないが、近年における加入量推定値の不確実性は、それ以前と比べ高くなっていること に注意が必要である。


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図6. 北大西洋ビンナガのMSYを基準とした相対親魚資源量(SSB/SSBMSY)および相対 漁獲係数(F/FMSY)の時系列(上)。 資源状態を表すSSB/SSBMSYとF/FMSYとの間の位置関係 (左下1930〜2005年、右下1990〜2005年)。下図の大丸は2005年における位置を示す。 (ICCAT 2007 SCRS Reportより)


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図7. 北大西洋ビンナガの2005年における資源状態を表すMSYを基準とした相対親魚 資源量(SSB/SSBMSY)と相対漁獲係数(F/FMSY)との間の位置関係(黄四角)、およびその推定誤差として のばらつきの度合い。(ICCAT 2007 SCRS Reportより)


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図8. 北大西洋ビンナガのMSYを基準とした相対親魚資源量(SSB/SSBMSY)の将来予測の 結果。毎年の漁獲量を一定にして獲り続けるとして、その漁獲量の大きさを変化させたとき、将来の相対親魚 資源量はどう変化するかを示している。(ICCAT 2007 SCRS Reportより)


最近一年間の動き

2008年9月にICCAT調査統計委員会(SCRS)が行われ、2007年の各国の漁獲量が報告された。本系群の漁獲量第1位および第2位のスペインおよびフランスの漁獲量は前年から4〜5割減、遠洋はえ縄国の台湾及び日本の漁獲量も同様に大きく減少した。その結果2007年の総漁獲量は1950年以降最低の2.2万トンとなった。


利用・用途

主に缶詰原料となっているほか、近海で漁獲されたものは鮮魚としても販売される。また、日本のはえ縄船が高緯度域で漁獲したものの一部は、日本において刺身用として利用されているようである。


漁業の概要

北大西洋のビンナガは、ビスケー湾周辺の海域でスペインのひき縄及び竿釣りによって、またアゾレス海域でスペイン及びポルトガルの竿釣りによって古くから漁獲されてきた。はえ縄漁業による漁獲は表層漁業による漁獲よりも小さく、台湾が多くを占める(図1)。これら伝統的な漁法以外にも、1980年代後半以降から、新しい表層漁業である流し網や中層トロールによっても漁獲されるようになった。

北大西洋における年間の総漁獲量は1960年代中頃(約6万トン)をピークに、多少の変動を繰り返しながら徐々に減少してきている。これらの減少は主としてひき縄、竿釣り及びはえ縄といった伝統的な漁法の努力量の減少による。総漁獲量は1999から2002年にかけてかなり減少し2.3万トンまで減少した。その後、表層漁業による漁獲量が増加して、総漁獲量は2006年に3.7万トンにまで回復した。しかし、2007年には表層漁業およびはえ縄漁業の両方の漁獲量が大きく減少し、2.2万トンと1950年以降最低を記録した。

スペインは北大西洋ビンナガの最大の漁獲国であり(表1)、古く(1950年代以前)からひき縄及び竿釣りで利用してきた。かつての勢力ほどではないが現在も活発に漁業を行っており、1950年代〜1980年代に1.5万〜3.5万トン、1990年代には1.3万〜2.5万トンを漁獲した。その後漁獲量はさらに減少し、2002年には過去25年間で最低の0.9万トンとなったが、2003年からは回復がみられ、2005年には10年ぶりで2万トンを越え、2006年にはさらに増加し2.5万トンとなった。しかし、2007年に再び大きく減少し1.5万トンとなった。フランスのひき縄及び竿釣りは、かつてはスペインと同程度を漁獲していたが、漁獲量は徐々に減少し、1970年代には約1万トンになり、1990年代にはごくわずか(多い年で100トン)になった。フランスは1990年以降それら漁業の代替として流し網及び中層トロールを行い、それぞれ2〜3千トンを漁獲した。さらに1998年からはまき網の試験操業を始めた。それでも漁獲量はさらに減少を続け2004年には合計で3千トンとなった。しかし2005年には漁獲量は大きく増加し8千トンと過去25年間で最高となったが、その後は減少している。アイルランドは1998年以降流し網から中層トロール網へ漁法を転換し、約4千トンを漁獲したが、その後減少し、2003年以降は1千トン以下となっている。

日本のはえ縄は1960年代に1万数千トンを漁獲したがすぐに大きく減少し、1970年以降はクロマグロやメバチの混獲として数百〜2千トンを漁獲しているに過ぎない。2007年には1960年以降最低となった(261トン、暫定値)。台湾のはえ縄も同様で、1970年代〜1980年代に1〜2万トンを漁獲したが、対象種の変化により減少し、1990年代は3千〜6千トン、2000年代には減少傾向は止まらず2007年には1千トン台となった。日本・台湾以外に、米国やベネズエラのはえ縄漁業によってそれぞれ数百トン程度が漁獲されている。


生物学的特徴

大西洋のビンナガは、大型魚の漁獲される海域及び稚魚の分布海域が南北でかなり明瞭に分かれていること、また、標識放流結果においても南北をまたいだ記録がないことから、南北で別々の系群が存在すると考えられている。ICCATでは、北緯5度線を南北両系群の境界として、それぞれを資源管理しており、北大西洋のビンナガはおよそ赤道〜北緯50度の広い海域に分布している(図2)。表層漁業(ひき縄、竿釣り、流し網)は、夏季にビスケー湾を中心とした海域及びアゾレス諸島海域で、索餌群(尾叉長50〜80 cmが多い)を対象としている。これらの魚群は、夏季に表層域を北東方向又は北方へ回遊し、冬季には南西方向へ回遊する。近年ビンナガを主対象としたはえ縄漁業は行われていないが、かつては北緯15〜25度で産卵群を周年、北緯25度〜40度で索餌群を秋冬季に漁獲していた。産卵域ははっきりしないが、西部では北緯25度〜30度で、中部から東部では北緯10〜20度で稚魚が出現した(西川ほか1985)。なお地中海でも産卵が見られる。索餌域は北緯25度以北と考えられる。

食性に関しては、胃内容物から魚類、甲殻類が多く出現しており、そのほかに頭足類も出現しているという報告がある(Ortiz 1987)。捕食者についてははっきりしないが、さめ類、海産ほ乳類のほか、まぐろ・かじき類によって捕食されているものと思われる。

資源評価には、第一背鰭切片に見られる年輪を用いた年齢査定(Bard and Compean- Jimenz 1980)によって得られた成長式
     L(t)=124.7(1−e-0.23(t+0.9892))
         L:尾叉長(cm)、t :年
がよく用いられる(図3)。これによれば3歳で尾叉長75 cm、5歳で93 cm、7歳で104 cmに達する。尾叉長90 cmで50%が成熟するとされている。体長体重関係はSantiago (1993)により
     w=1.339×10-5 ×l3.107
         w: 体重(kg)、l :尾叉長(cm)
が示されている。

寿命ははっきりしないが、少なくとも10歳以上と思われる。

資源状態

本資源の資源評価はICCATで行われてきた。ビンナガ北大西洋系群の最新の資源評価は2007年に、これまで使用されてきたVPA-2BOXモデルに加え、新たにMULTIFAN-CLモデルを使用して行われた(Anon 2007a)。以下に、2007年10月のSCRS全体会合でとりまとめられた報告書(Anon 2007b)を中心として資源評価の内容示す。

【資源評価】

2007年の資源評価では体長別漁獲尾数から年齢別漁獲尾数への変換が改善された。また、これまで使用されてきたVPA-2BOXモデルは年齢別漁獲尾数に誤差がないという仮定であったが、そのような仮定をおかないMULTIFAN-CLモデルも用いられた。VPA-2BOXモデルについては、これまでのように1975年以降が資源評価の対象とされたが、MULTIFAN-CLモデルについては、それよりもさらにさかのぼり1930年代以降のデータが用いられた。また両者とも2005年までのデータが用いられた。

スペインひき縄(年齢別、2歳および3歳)およびフランスのひき縄、ならびに台湾、日本および米国のはえ縄のCPUEが動態モデル(VPA-2BOXおよびMULTIFAN-CL)への入力データとして用いられた(図4)。スペインひき縄の2歳のCPUEからは最近年卓越年級群が加入した様子が見られるが、3歳魚では2歳で見られたほど高くはなかったことから、卓越年級群なのかどうかはっきりしない。はえ縄のCPUEは全般的に見て減少傾向を示しているが、1990年代後半以降のCPUEの傾向が、台湾船団では減少傾向を示すが、日本および米国では増加傾向を示すというように両者間で異なっており、このためはっきりした結果が出にくい状況となっている。

MULTIFAN-CLの結果では、親魚資源量は1930年代から減少し、現在ではピーク時(1940年代)の4分の1となっている(図5)。加入量は変動するものの1950年代から60年代は高く、その後2004年まで減少した。しかし2005年級は、不確実ではあるものの、1960年代に見られた程度の高い加入であったと推定された。

親魚資源量は2000年にはMSYレベルを50%下回っており、その後やや改善したものの、2005年には依然としてMSYレベルを20%下回っていた(図6)。漁獲係数は近年MSYレベルを上回っており、2005年では50%上回っているとされた。MSY推定値は、漁獲する成魚・未成魚の割合によって影響されるが、年代によってその割合が変化するためMSYを実現する資源量の値も年代によって変わってくる。現在(2003〜2005年の平均)のMSYは3.0万トンと推定されたが、解析した年代の中では2.6万〜3.4万トンの範囲で変動した。もし加入量が1960年代に見られた高いレベルになるとすればMSYも高くなると考えられた。1950年代から1980年代にかけて総漁獲量の平均値は5万トン程度であったが、これは現在のMSY推定値3.0万トンよりも高い。2005年における漁獲係数推定値および資源量推定値まわりの不確実性は図7のとおりであった。


【将来予測】

VPA-2BOXの結果から、ベバートンホルツ型の親子関係を仮定し、漁獲量一定で500回の繰り返し計算による将来予測が行われた。その結果、今後2005年レベルの漁獲が続けば、親魚資源量は減少すること、および漁獲量が30,000トン以上では親魚資源量は乱獲状態から回復できないことが示された(図8)。またこの将来予測は、資源評価での2003年級は卓越しているという結果を利用して計算しているが、それは信頼性が高くはなく、実際の2003年級群の強さによっても親魚資源量の挙動が影響を受けることとなるであろうとされた。


【勧告】

上記の結果から、コミッショナーへ次のような勧告がなされた。漁獲量が30,000トン以上では親魚資源量は乱獲状態から回復できないため、現在のTACを削減すべきである。ただし近年の卓越年級群の出現が確かだとすれば、回復はより早いものとなるだろう。


管理方策

1998年までは努力量規制やTACによる規制等の管理措置は講じられてこなかったが、1998年の年次会合では1999年から当該資源を対象とする漁船を登録し、入漁隻数を1993〜1995年の平均隻数に制限することが決められた。さらに2000年の年次会合からTACおよび国別クォータが設定されるようになった。2007年の年次会合では、乱獲状態にあるという資源評価の結果を受けて、2008年および2009年のTACはそれまでより4,300トン少ない30,200トンと決定された。主要国については、EU25,462トン、米国538トン、台湾3,950トンと国別の割り当てが決められ、また日本については、ビンナガを目的とした操業を行なっていないので、漁獲量が大西洋全体におけるはえ縄によるメバチの漁獲量の4%以下になるよう努力するというこれまでと同様の規制が課せられた。なお1998年の漁獲能力をこれ以上上げないする勧告は継続されている。


ビンナガ(北大西洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位
資源動向 増加
世界の漁獲量
(最近5年間)
2.1〜3.7万トン
平均2.9万トン
我が国の漁獲量
(最近5年間)
261〜1,336トン
平均796トン
管理目標 MSY:30,200トン
[26,800〜34,100トン]
資源の現状 B_2005/B_MSY 0.81 [0.68〜0.97]
F_2005/F_MSY 1.5 [1.3〜1.7]
F_2005/F_max 1.0 (2.6 [1.1〜3.5]) F_2005/F_0.1 2.0 (5.5 [2.4〜6.8])
管理措置 入漁隻数の制限
TAC:30,200トン
日本については漁獲量を大西洋全体におけるはえ縄によるメバチの漁獲量の4%以下とする
資源管理・評価機関 ICCAT
資源の状態における[]は80%信頼限界、()はブートストラップVPAによる推定値を示す。

執筆者

まぐろ・かつおグループ
カツオ・ビンナガサブグループ
遠洋水産研究所 かつお・びんなが研究室

魚ア 浩司

参考文献

  1. Anon. (ICCAT) 2007a. Report of the 2007 ICCAT albacore stock assessment session. (Madrid, Spain - July 5 to 12, 2007). 84pp. http://www.iccat.es/Documents/Meetings/Docs/2007_ALB%20STOCK%20ASSESS%20REP_AUG_07.pdf (2007年11月1日)
  2. Anon. (ICCAT) 2007b. 8.4. Albacore. In ICCAT (ed.),Report of the Standing Committee on Research and Statistics (SCRS) (Madrid, Spain - October 1 to 5, 2007). 42-56. http://www.iccat.es/Documents/Meetings/Docs/SCRS_REPORT_ENG_ALL_OCT_16.pdf (2007年11月1日)
  3. Anon. (ICCAT) 2008. 8.4. Albacore. In ICCAT (ed.),Report of the Standing Committee on Research and Statistics (SCRS) (Madrid, Spain - September 29 to October 3, 2008). 54-70. http://www.iccat.es/Documents/Meetings/Docs/2008_SCRS_ENG.pdf (2009年1月5日)
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