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06 大西洋クロマグロ 西大西洋

Atlantic Bluefin Tuna

Thunnus thynnus

                                                            PIC
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図

図1. 大西洋クロマグロの分布域(赤)と主要漁場(青)、産卵場(黄)。 索餌場は産卵場を除く海域。縦太線は東西の系群の区分。


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表1. 大西洋クロマグロ(西系群)の国別暦年漁獲量(データ:Anon. 2008)


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図2. 大西洋クロマグロ(西系群)の年別漁法別漁獲量(上)と年別国別漁獲量(下)。 漁獲量には投棄分も含まれる。(データ:Anon. 2007)


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図3. 大西洋クロマグロ(西系群)の成長曲線。図中の矢印は成熟体長を示す。


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図4. 大西洋クロマグロ(西系群)の親魚資源重量の経年変化


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表2. 大西洋クロマグロ(西系群)の各年齢時体長(cm)と体重(kg)(ICCAT 1997)


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図5. 大西洋クロマグロ(西系群)の加入量(1歳の尾数)の経年変化


最近一年間の動き

大西洋クロマグロ西系群(西大西洋クロマグロ)の漁獲量は、1982年に漁獲規制が導入されたが、それ以降の最大の漁獲量(3,319トン)となった2002年を境に減少し続けており、2007年の漁獲量は1,623トンとなった。これは、米国の漁業の不振によるものである。2009年と2010年のTACはそれぞれ、1,900トンと1,800トン(日本は330トンと311トン)である。

大西洋まぐろ保存委員会大西洋クロマグロ資源評価会議が2008年6月にスペイン、マドリッドで行われ、本会議において本種の資源評価が行われた。


利用・用途

ほぼすべてが刺身やすし用途に用いられている。


漁業の概要

主な漁業国は、米国、日本およびカナダである。日本の漁獲は、すべてはえ縄漁業によるものであり、米国およびカナダはRod and ReelもしくはTended Lineと呼ばれる釣り漁業が主体で、はえ縄漁業やまき網漁業も存在する。小型魚を漁獲する漁業は米国のスポーツフィッシングのみで、他の漁業は全て中・大型魚を漁獲する。大西洋クロマグロを対象とした我が国のはえ縄漁業は、大西洋の熱帯域であるカリブ海からブラジル沖で1963年頃から開始され、年間数万トンの漁獲量に達したが数年でこの漁場は消滅した。その後はメキシコ湾が主要な漁場であった。1970年代の中頃からはニューヨークからカナダのニューファンドランド沖合(北米沖)が漁場に加わり、1982年にメキシコ湾が操業禁止となって以来主要な漁場となっている(図1)。漁期はメキシコ湾が1〜5月、北米沖が11〜3月である。米国の漁期は主に7月から11月で、カナダの漁期はやや遅れて8月から11月である。

西大西洋クロマグロの漁獲量は、1981年までは5,000トン前後の水準にあったが、1982年以降厳しい漁獲規制が行われ、1983年以降はほぼ2,500トン前後となっている(図2、表1)。2001年の西大西洋における総漁獲量は、2,785トンでほぼ1998〜2000年と同等であったが、2002年には3,319トンと1982年以降で最大に達した。その後、漁獲量は毎年減少し、2006年、2007年はそれぞれ、1,811トンと1,623トンで日米加3国の漁獲割当量(2,700トン)の6〜7割にとどまっている。この減少の大部分は、米国漁業の不漁が原因であり、カナダと日本の漁獲量は安定している。他の国については変化がなく、未報告漁獲の存在もないことが統計証明データや輸出入データから示されている。近年の米国における漁獲の不振は、米国北東岸沖で釣り漁業のCPUEが低下したためである。一方、カナダの漁獲量は安定しているが、セントローレンス湾で漁獲される魚の平均サイズが小さくなっていることが報告されている。2003年において日本の漁獲量は、57トンと著しく減少するが、これは前年までの漁獲枠超過分の調整によるものであり、2004年には2002年までと同じ程度に戻った。2009年と2010年のTACはそれぞれ、1,900トンと1,800トンで、そのうちの日本の割り当ては、330トンと311トンである。日本はこのクォータ管理に、8月〜翌7月の漁期年を用いている。


生物学的特徴

本種の成長は、これまで標識放流結果から推定されていた。本種は、大きくなると性別による成長の差が認められ、尾叉長255 cm以上の個体の60〜70%程度が雄であることが報告されている(Maguire and Hurlbut 1984)。最大体長(尾叉長)は3 m以上、寿命は20年以上と考えられている(ICCAT 2003b)。成長曲線と各年齢の体長を図3と表2に示す。一方で、大型個体の耳石からの年令査定の結果が、耳石の核に含まれる放射性同位体比による年齢査定の検証結果と共に新たに示された(Nielsen and Campana 2007) 。これによれば、大西洋クロマグロの最大体長はこれまで考えられていたよりもかなり小さく、年令査定を行った個体の最大年令は31歳で、寿命も従来考えられていたよりも長いと考えられる。

卵は分離浮性卵で、受精卵の直径は約1 mmである。産卵場は、メキシコ湾にあり、5月から6月が産卵シーズンである。成熟年齢は8歳で、東大西洋クロマグロの4〜5歳と比較してかなりの違いがある。産卵数は、体長200〜250 cmの成魚で約3,400万粒と報告されている。大西洋クロマグロは、他のまぐろ類に比べて、やや沿岸性が強く、北緯30度から45度が主な分布域である(ICCAT 2003b)。

メキシコ湾で孵化した稚魚は、沿岸に沿って北へ移動し、夏にはコッド岬あたりに達する。その後、季節ごとの水温変動に応じて北米沿岸からやや沖合域に分布し、冬期には南下(南限は約北緯30度)、夏期には北上(北限は北緯50度)を繰り返す。標識放流の結果から一部(数%)が、東大西洋(ヨーロッパ沿岸、ノルウェー沖合)・地中海へ渡洋回遊を行うことが知られている。近年、アーカイバルタグ、ポップアップタグ等の電子標識を用いた移動・回遊行動の研究が進展し、従来考えられていた以上に東西の移動が生じていることが示されているが、正確な移動率の算出には至っていない(ICCAT 2002)。

本種の胃内容物には魚類や甲殻類、頭足類等幅広い生物が見られ、特定の餌料に対する嗜好性はないようである。稚仔魚期には、魚類に限らず多くの外敵がいるものと思われるが、あまり情報は得られていない。遊泳力が付いた後も、まぐろ類を含む魚食性の大型浮魚類による被食があるが、50 cm以上に成長すると、大型のかじき類、さめ類、歯鯨類等に外敵は限られるものと思われる。

現在まで20年以上にわたり、大西洋クロマグロは西経45度線で2つの区域に分けて管理されてきた。1990年代に入って通常標識放流再捕による推定結果や、電子標識再捕の結果から若齢魚は移動範囲が狭いが、高齢になるにつれ回遊域が広がり、東西系群は北大西洋において混合して広く回遊を行うと主張がされるようになってきた(Block et al. 2005)。耳石核中の酸素の安定同位体比を用いた最近の研究によると、米国のクロマグロ漁業の主漁場である米国東岸沖の索餌場で漁獲された未成魚(平均3.5歳)の61%が地中海生まれであり、地中海で漁獲された大型のクロマグロのほとんどが地中海生まれであることが報告されており(Rooker 2008)、米国漁業が東系群に大きく依存している可能性が示唆されている。これらの結果は、現在まで行われている西経45度線で2つの区域に分けた管理に対する警鐘となりうるものであろう。


資源状態

本種の資源評価は、ICCATのSCRS(科学委員会)において、加盟国の研究者の共同作業で実施される。評価手法は、年齢別漁獲尾数を基本データとし、資源量指数をチューニングに用いるADAPT VPAが主に用いられている。2008年に実施した資源評価では、1970年から2007年までの年齢別漁獲尾数(1〜10+歳)と、はえ縄CPUE等12種類の資源量指数をデータとし、ICCATで公認されたVPAプログラムであるVPA-2BOX (Porch 2002)によって評価が行われた。

生物学的特性で述べた近年の標識放流や耳石核の安定同位対比の研究結果は、西経45度線で西大西洋系群(西大西洋クロマグロ)と東大西洋・地中海系群(東大西洋クロマグロ)に分けたICCATにおける管理に対する疑問を投げかけているが、漁業データをより正確に東西系群に分ける方法も見つかっていないため、最新(2008年)の資源評価は従来の西経45度線で東西系群に分ける従来の方法を踏襲した。

推定された親魚資源量(8歳以上)と加入尾数(1歳魚)をそれぞれ、図4と図5に示した(ICCAT 2008)。親魚資源量は、1970年から1990年代初頭にかけて減少した。1998年以降わずかに減少傾向が見られたが、1985年以降はほぼ横ばいで推移し、2007年の親魚資源量は9,700トンで、1975年の24%となった。加入は、1970年代初頭では高い水準にあり、1976年以降低い水準で推移している。これらの結果から、資源水準は低位、資源動向は親魚資源量が減少傾向にあるものの、わずかな変化にとどまるので横ばいとした。

今回の資源評価において推定された再生産関係は、1976年以降親魚資源量が減少しているにもかかわらず、加入量は低位でほぼ一定という関係を示した。このため、再生産関係として、親魚資源量が増加した場合、1)加入尾数は低位で一定、2)加入尾数も増加、という2つの関係を仮定した。回復目標となる資源量SSBMSYは、仮定する再生産関係に依存しており、1)の低い加入を仮定した場合、現在のF(2004〜2006年)はFMSYの1.3倍で、現在の親魚資源量はFMSYの57%となる。一方、2)の高い加入の仮定の下では、現在のFはFMSYの2.2倍で、現在の親魚資源量はBMSYの14%となる。

前回(2006年)の資源評価では、親魚資源量の将来予測の結果がよくわかっていない親子関係に依存することから、5年間の短期の将来予測を行った。今回の資源評価では、前述の2通りの再生産関係を仮定し、2019年までの将来予測を行った。1)の低い加入の下では、毎年2,400トンおよび2,000トン以下の漁獲を行った場合、前者では50%の確率で、後者では75%以上の確率で親魚資源量が2019年までに回復目標に到達すると予測された。一方、2)の高い加入の場合、親魚資源量の回復目標が高くなるため、たとえ漁獲を0にしたとしても回復目標を達成できないが、毎年1,500トン以下の漁獲により直ちに乱獲状態を脱し、資源動向は回復傾向に転じると予測された。


管理方策

1998年に、ICCATは2018年までに50%以上の確率で最適な資源状態に回復させるという計画を決定した。しかし、2008年の資源評価において、親魚資源量の回復ペースは当初の計画よりも遅く、2007年の親魚資源量は目標の7%であることが示された。また将来予測では、仮定する再生産関係により今後のTACが0から2,400トンまでの値を取りうることも示された。同科学委員会は、将来予測では加入やその他の不確実性が考慮されていないため、今後これ以上TACを増加させないことを強く勧告した。さらに、2019年までに親魚資源量が回復目標に達する確率が50%よりも高くなるような(例えば75%)TACを採用することを推奨した。2008年の年次会合において、本種の資源回復計画に関する追加勧告がなされ、2009年と2010年のTACはそれぞれ、1,900トンと1,800トンと決定された。他の規制は、115 cm(または30 kg)未満の漁獲量制限(国別に10%、経済行為禁止)を併せて実施中である。


大西洋クロマグロ(西大西洋)資源の現況(要約表)

資源水準 低位
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
1.6〜2.3千トン
平均:1.9千トン
(投棄を含む)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
57〜470トン
平均:311トン
管理目標 2018年までに50%以上の確率で親魚資源量をMSYレベルに回復
MSY:2,852トン(低い加入)
6,201トン(高い加入)
資源の現状 SSB_2007/SSB_MSY:0.57(低い加入)0.14(高い加入)
F_2007/F_MSY:1.27(高い加入) 2.18(低い加入)
管理措置 TAC:1,900トン(2009年)(日本枠:330トン) 1,800トン(2010年) (日本枠:311トン)
115 cm(または30 kg)以下の魚の漁獲量制限(10%以下、国別)、 漁業証明制度
資源管理・評価機関 ICCAT

執筆者

まぐろ・かつおグループ
クロマグロサブグループ
遠洋水産研究所 温帯性まぐろ研究室

大島 和浩

遠洋水産研究所 数理解析研究室

竹内 幸夫


参考文献

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  4. ICCAT. 1999. Recommendation by ICCAT to establish a rebuilding program for western Atlantic bluefin tuna. Report for biennial period 1998-99 part I (1998)-vol.1, 67-69.
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  6. ICCAT. 2003a. Recommendation by ICCAT concerning conservation of western Atlantic bluefin tuna. Report for biennial period 2002-03 part I (2002)-vol.1, 165-166.
  7. ICCAT. 2003b. Report of the 2002 Atlantic bluefin tuna stock assessment session. Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 55(3): 710-937.
  8. Maguire, J.J. and T.R. Hurlbut. 1984. Bluefin tuna sex proportion at length in the Canadian samples 1974-1983. Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 20(2): 341-346.
  9. Neilson, J. D. and S. E. Campana, 2007. An update on bluefin tuna age validation, and plans for further age and growth research, SCRS/2007/135, ICCAT調査・統計常設委員会提出文書、2007年9月、マドリード(スペイン)
  10. Porch,C.E. 2002. VPA-2BOX (Ver. 3.0) Assessment Program Documentation, ICCAT. (配布終了, 現バージョンのダウンロード先: http://www.iccat.int/en/downloads.htm (2009年1月19日))
  11. Rooker, J,R., Secor, D.H., De Metrio, G., Schloesser, R., Block B. A. and Neilson J.D. 2008. Natal homing and connectivity in Atlantic bluefin tuna poputations. Science, 322:742-744.