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05 大西洋クロマグロ 東大西洋

Atlantic Bluefin Tuna

Thunnus thynnus

                                                            PIC
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図

図1. 大西洋クロマグロ(東系群)の漁法別海域別公式漁獲量の推移(1950〜2007年)。 2007年の漁獲量は、未報告の国がある他、過小報告もあると考えられている


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表1. 東大西洋クロマグロの各年齢時体長(cm)と体重(kg)


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図2. 大西洋クロマグロ(西系群)の年齢あたり体長と体重、矢印は成熟体長(130cm) を表す


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図3. 大西洋クロマグロの分布域(赤)と主要漁場(青)、産卵場(黄)。 縦太線はストックの東西の区分。索餌場は産卵場を除く分布域。


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図4. 推定された親魚量、赤は公式の漁獲量を用いた場合、青は近年の実際の漁獲が 公式の漁獲よりも多かった場合。


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図5. 1〜5歳(左)および8歳以上(右)の漁獲死亡率。赤は公式の漁獲量を用いた 場合、青は近年の実際の漁獲が公式の漁獲よりも多かった場合。


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附表1. 大西洋クロマグロ(東系群)の海域別・漁法別漁獲量


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附表2. 大西洋クロマグロ(東系群)の海域別・国別漁獲量。0は、0.5トン未満を表し、 空欄は、未報告であることを表している。


最近一年間の動き

2007年のICCATに報告済みの漁獲量は約32,400トンであった(2008年9月25日時点)。一方、科学委員会は、報告された漁獲量は過小であり実際の2007年の漁獲量は約6,1000トンであったと推定している。 2008年11月に開催されたICCAT年次会合では2009年以降3年間の漁獲割り当て量を、22,000トン、19,950トン、18,500トンにそれぞれ決定した。


利用・用途

ほぼ、すべてが刺身やすし用途に用いられている。ヨーロッパでは、卵巣の塩漬け(からすみ)や背肉の塩漬けとしても利用される。


漁業の概要

主な漁業国はスペイン、フランス、日本、イタリア、モロッコ及びトルコであるが、最近はチュニジアやマルタの漁獲増が報告されている。日本の漁獲はすべてはえ縄漁業によるものである。スペインは定置網と釣り漁業、フランスは地中海でまき網、イタリアは定置網とまき網を行っている。東大西洋と地中海では小型魚が漁獲されており、特に後者の水域では漁獲量が多いことが知られているが、正確な統計は得られていない。

遺跡の発掘調査からは、紀元前7000年から地中海においてクロマグロが獲られていたことが明らかになっている(Desse and Desse-Berst 1994)。フェノキア人、その後、ローマ人によって西地中海一帯でクロマグロの漁獲が行われた(Doumenge 1998、Farrugio 1981、Mather et al. 1995)。この時代の主な漁法は手釣りと様々な種類の地引き網であった。クロマグロ漁業は中世に至っても盛んに行われていた。16世紀頃には地引き網は次第に定置網に置き換わっていった(Doumenge 1998、Ravier and Fromentin 2001)。また1950年から1965年にかけての時期にはおおよそ年間3万トンの漁獲が行われた。定置網漁では、およそ3000年から4000年前よりクロマグロの漁獲が行われており(Fromentin et al. 2000)、過去数世紀にわたって1万5千トンから2万トンの漁獲があった(Fromentin 1999)。地中海でのまき網を初めとするそれ以外の漁業は、1960年代に開始された。1995年から2003年の漁獲統計によれば北東大西洋における主な漁業は、はえ縄、定置網、釣漁業であり(図1、付表1)、地中海における主な漁業は、まき網およびはえ縄である。地中海においてはまき網の漁獲が、全体の6割から8割を占めている。

大西洋においてクロマグロを対象とした日本のはえ縄漁業は大西洋の熱帯域であるカリブ海からブラジル沖にかけて1963年頃から開始され、年間数万トンを漁獲していたが、原因は解明されないまま数年でその漁場は消滅した。この魚群がどちらの系群に属していたかは不明であるが、水域的には主に西大西洋であった。その後は地中海およびジブラルタル海峡付近が主要な漁場となった。漁期は地中海が4〜7月(6月は禁漁)、ジブラルタル海峡付近が3〜6月である。1990年以降新漁場が西経35〜45度、北緯35度以北(北大西洋中央部)に冬季に、更に1998年以降アイスランドやフェロー諸島付近に8〜11月にかけて形成され、年間千トンを越える漁獲が記録されている。

地中海西部すなわちスペイン、モロッコでは定置網の漁期が3〜7月、フランスのまき網が6〜9月、イタリアの各種漁業も主に6〜9月が盛漁期である。トルコでは10〜2月、チュニジアでは1〜5月がまき網漁業の盛漁期となっている。

公式漁獲量は1990年代以降、1996年の約50,000トンまで急増し、それ以降ICCATが設定した漁獲割当量前後で近年まで推移してきた。その増減の大部分が地中海での漁獲によるものである。ICCATに報告済みの2007年の公式漁獲量は約32,400トンであった(2008年9月25日時点(図1))。しかしながら科学委員会は、最近の公式漁獲量が大幅な過小報告の疑いがあることを報告しており、現在でも地中海だけで、おそらく漁獲が最も多かった1990年代半ばと同じだけの漁獲(約43,000トン)が実際には行われており、2007年には地中海で約47,800トン、東大西洋で約13,200トン、東大西洋全体で約61,000トンの漁獲が行われているとの推定を行っている(Anon. 2008)。

ICCAT科学委員会の漁獲量推定の根拠は、クロマグロの市場流通量のデータで、米国および日本市場への輸出量は、ICCATへ報告された漁獲量を超過していると結論している。ICCAT科学委員会は、漁獲量規制が明らかに遵守されず、漁獲が報告されていない問題は、クロマグロ資源に明らかな悪影響があると警告している。


生物学的特徴

年齢は背鰭棘の輪紋から推定されており、西大西洋クロマグロと同様に、 成長につれて雄が雌より大きくなる。成長式は
      Lt = 318.85 (1-e-0.093(t+0.97)) (Cort, 1991)
体長(尾叉長)体重関係式は、
      体重=0.0000295体長2.898958 東大西洋
      体重=0.000019607体長3.0092 地中海
(東大西洋:Rey and Cort 未発表、地中海:Arenas 未発表、表1)である。

最大体長は約3.5 m、寿命は25〜30年である。各年齢時の体長および体重は、1歳で53 cm(3 kg)、3歳で98 cm (18〜19kg)、5歳で136 cm (45〜51 kg)、10歳で204 cm (146〜176 kg)である(Cort 1991)(図2)。

本種の成長は最近になって耳石の輪紋を読むことによる再評価が行われている。予備的な結果からは高齢魚の成長は従来よりも遅いという結果が出されている。しかしながら最終的な結果が得られていないために資源評価では、従来通りの成長式が使用された。

卵は分離浮性卵で、受精卵の直径は約1 mmである。産卵場はマジョルカ島からシチリア島にかけての地中海で、産卵期は6〜8月である。近年、東地中海でも卵稚仔が確認されており従来考えられていたよりも広い範囲で産卵が行われているものと思われる。全ての雌が産卵を開始する年齢は5歳(130 cm)と、西大西洋系群に比べてかなり小さい。産卵数は尾叉長200〜250 cmの成魚で2,000〜3,800万粒と報告されている。

大西洋クロマグロは他のまぐろ類に比べて沿岸性が強く、北緯30度から45度にその主分布域がある(図3)。地中海で孵化した稚魚は索餌水域を目指して移動を始め、地中海に広く分散する。一部はジブラルタル海峡を経てビスケー湾などの東大西洋に回遊する。ビスケー湾からは西大西洋の北米沖へ移動した例が通常型の標識放流結果から知られている。

現在まで20年以上にわたり、大西洋クロマグロは西経45度線で2つの区域に分けて管理されてきた。1990年代に入って通常標識放流再捕による推定結果や、電子標識再捕の結果から若齢魚は移動範囲が狭いが、高齢になるにつれ回遊域が広がり、東西系群は北大西洋において混合して広く回遊を行うと主張がされるようになってきた(Block et al 2005)。一方で最近の耳石核中の酸素の安定同位体比の分析結果によれば、クロマグロを漁獲する米国漁業の主漁場である米国東岸沖の索餌場で漁獲された未成魚(平均3.5歳)のクロマグロの61%が地中海生まれであり米国漁業は東系群に大きく依存しているという結果が得られている。一方、地中海で漁獲された大型のクロマグロは、ほとんどすべてが地中海生まれであるという結果(Rooker et al. 2008)が得られている。いずれにせよ現在まで行われている西経45度線で2つの区域に分けた管理に対する警鐘となりうるものであろう。

本種の胃内容物には魚類や甲殻類、頭足類等幅広い生物が見られ、特定の餌料に対する嗜好性はないようである。稚仔魚時代には、魚類に限らず多くの外敵がいるものと思われるが、あまり情報は得られていない。遊泳力が付いた後も、まぐろ類を含む魚食性の大型浮魚類による被食があるが、50 cm以上に成長すると、大型のかじき類、さめ類、歯鯨類等に外敵は限られるものと思われる。


資源状態

生物学的特性で述べた近年の標識放流や耳石核の安定同位対比の研究結果は西経45度線で西大西洋系群(西大西洋クロマグロ)と東大西洋・地中海系群(東大西洋クロマグロ)に分けたICCATにおける管理に対する疑問を投げかけているが、漁業データをより正確に東西系群に分ける方法も見つかっていないため最新(2008年)の資源評価は従来の西経45度線で東西系群に分けるやり方を踏襲した。

ICCATクロマグロ資源評価部会は、最新(2008年)の資源評価に使われた漁業努力量および漁獲物体長組成データは時空間的に十分な量が無く、漁獲量も明らかに過小報告がされており、信頼出来る資源評価結果を得るのは困難であると不満を表明している。漁獲データが不十分であることは、とりわけ近年の資源状態の推定を非常に困難にしており、ICCAT本会議の要求にあるように2年おきに資源評価を繰り返すのは無駄であると断じている(Anon. 2008)。

上記に述べた様に最新(2008年)の資源評価の結果は、最近(2006年、2007年)に出された資源状態に関する科学委員会の結論と大きく変わら無かった。親魚資源量は急速に減少しており(図4)、一方で全年齢(特に大型魚の)漁獲係数の大幅な上昇を示している(図5)。大型魚の漁獲死亡率の大幅な上昇は、畜養に振り向けられるクロマグロの漁獲がより大型魚を狙うようになってきていることとも符合している。

資源量推定はICCATで公認されたVPAプログラムであるVPA-2BOX (Porch 2002)により行なわれている。最新の資源評価では、3種類の異なったモデルの仮定と公式の漁獲量が正しかった場合と、近年の実際の漁獲量が公式統計よりも多かった場合、さらに資源評価を1950年以降と1970年以降のデータで行う2通りの計12個の計算結果から資源状態を検討している。これらの結果によれば最新年(2003〜2007年)の親魚資源量は資源評価で資源量の推定の対象にした期間の最大の親魚資源量の40%まで減少している。特に最近の親魚資源量の減少は顕著である(図4、上記12通りの内の代表的な2個の結果を示している)。推定された親魚量と漁獲死亡率の絶対値は、様々な資源評価のモデルの仮定によって異なっているが、どの結果においても近年の大型魚の漁獲死亡率の急上昇とそれにともなう親魚量の急減少という共通の傾向を示している。従って、資源は低位水準で、資源の動向は減少傾向にある。


管理方策

近年の漁獲の大半は、地中海での畜養向けである、信頼出来る資源評価結果を得るには地中海の畜養に向けられる漁獲の漁獲量、体長組成を含む正確なデータを収集することは不可欠である。しかしながら、現実は全く逆の方向に向かっている。近年の漁獲の過小報告と不十分な漁業データにより資源評価結果の信頼性は非常に低く資源状態が本当はどれほど悪いか把握するのは非常に困難である。現在の不正確な漁業データに依存せざるを得ない資源評価では資源状態が危険な状況に陥ったとしても、それを見過ごしてしまう危険性が多分にある。現状の漁獲が継続されるとすると親魚量は漁業が無かったときの6%まで将来低下する危険性がある。

最新(2008年)の資源評価では、現行の2006年に本会議が決定した規制が一定のレベルで遵守された場合にICCAT本会議が求めている2023年まで50%の確率でMSYを達成出来る資源水準まで親魚資源を回復させるという資源回復目標を達成出るか検討した。その結果、良好な加入量が将来続か無ければ、資源回復目標は達成出来ないことが分かった。

ICCAT科学委員会はさらに漁獲死亡率の引き下げ、最小漁獲体重規制、地中海での禁漁期のオプションを様々に変えた現在よりも厳しい管理方策の効果を検討した。その結果によれば、どの場合でも現在の規制を続けた場合よりも資源が回復する確率は高くなり、資源が崩壊する危険性は減らすことが出来ることが分かった。科学委員会が検討した漁獲死亡係数の引き下げのシナリオは2009年から数年間の漁獲量を15,000トンかそれ以下に引き下げることに相当していた。

これらの結果に基づ2008年11月にマラケシュ(モロッコ)で開催されたICCAT年次会合で以下の規制が決定された。漁獲割当量については2009年から2011年までの漁獲可能量を、2008年の28,500トンからそれぞれ22,000トン、19,950トン、18,500トンにそれぞれ決定した。禁漁期については、現行のはえ縄が6月1日〜12月31日(地中海及び東部大西洋の一部(西経10度以東、北緯42度以南))、まき網が、7月1日〜12月31日であったのが、はえ縄は6月1日〜12月31日(ただし、地中海及び東部大西洋の一部(西経10度以東、北緯42度以南)以外は2月1日〜7月31日)、まき網は6月15日〜4月15日に変更された。またまき網操業・蓄養事業の管理強化を目的としてまき網漁船及び蓄養施設を対象とするICCATオブザーバー制度の創設が決定された。また、クロマグロの生け簀への移し替えに際して、水中ビデオカメラによる記録とモニタリングが義務づけられた。さらに2008年6月に開始されたクロマグロ漁獲証明制度について、実施上の問題点の改善が行われた。このほか、来年3月に遵守委員会中間会合を開催し、大西洋クロマグロ漁業・蓄養業に関係する加盟国について、各国の関係規制措置の遵守状況を評価し、不適切と判断された場合は漁獲割当の一時凍結や削減などの措置を講じることとされた。

この他の規制として従来からある小型魚の漁獲を削減するため30kg未満の採捕、保持、陸揚の禁止(ビスケー湾の竿釣り、曳き縄、中層トロール、アドリア海の蓄養向けについては8kg未満)、魚群探査のための航空機の利用禁止等がある。


大西洋クロマグロ(東大西洋)の資源の現況(要約表)

資源水準 低位
資源動向 減少
世界の漁獲量
(最近5年間)
3.1〜3.6万トン
平均:3.3万トン
(2002〜2006年公式漁獲量)
6.1万トン(科学委員会が推定した近年の漁獲量)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
2.5〜3.0千トン
平均:2.8千トン
管理目標 MSY
目標値 SSB_2000-2004/SSB_1970-1974=0.48
F_2004/F_MAX=3.1
資源の現状
管理措置 2009年 TAC:2.2万トン (日本:1,871トン)
まき網禁漁期、はえ縄禁漁期、漁獲証明制度(CDS)、航空機禁止、蓄養魚管理強化、 30g未満の小型魚の採捕等禁止(一部例外あり)
資源管理・評価機関 ICCAT

執筆者

まぐろ・かつおグループ
熱帯性まぐろ類サブグループ
遠洋水産研究所 数理解析研究室

竹内 幸夫

参考文献

  1. Anon. 2008. Report of the Standing Committee on Research and Statistics (SCRS)(Madrid, Spain, 29 September to 3 October, 2008). (1)+iii+238 pp. http://www.iccat.int/Documents/Meetings/Docs/2008_SCRS_ENG.pdf (2009年1月17日)
  2. Block BA, Teo SLH, Walli A, Boustany A and others (2005) Electronic tagging and population structure of Atlantic bluefin tuna. Nature 434:1121-1127
  3. Fromentin J.M. 1999. Bluefin tuna stock assessment in the Northeast Atlantic. Problems related to data, methods and knowledge. SCRS/98/74. Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 50: 388-399.
  4. Fromentin, J.M., A. Fonteneau and H. Farrugio. 2000. Biological reference points and natural long-term fluctuations: The case of the eastern Atlantic bluefin tuna. SCRS/99/54. Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 51: 2072-2084.
  5. Matsumoto, T. 2005. National Report of Japan, Scientific Advisory Committee (SAC), GFCM (地中海漁業一般委員会), Oct 2005. 6 pp
  6. Porch,C.E. 2002. VPA-2BOX (Ver. 3.01) Assessment Program Documentation, ICCAT. http://www.iccat.int/Documents/SCRS/Catalog/vpa-2box%20vers%203_01.zip (2009年1月17日))
  7. Rooker, J.R., D. H. Secor, G. DeMetrio, A. J. Kaufman, A. B. R?os, V. Tic?ina. 2008 Evidence of trans-Atlantic movement and natal homing of bluefin tuna from stable isotopes in otoliths , Mar Ecol Prog Ser., Vol. 368: 231-239