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04 クロマグロ 太平洋

Pacific Bluefin Tuna

Thunnus orientalis

                                                          PIC

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最近一年間の動き

2007年の総漁獲量(暫定値)は1.8万トンで、2002から2006年の平均漁獲量2.3万トンの約7割に留まった。特に2007年の東部太平洋のまき網による漁獲が2006年の半分以下の約0.4万トンに減少した。資源評価は2008年5月のISCクロマグロ作業部会において更新され、2006年の親魚資源量は、1952から2005年に推定された親魚資源量の中間的なレベルにあるものの、現状以上の漁獲圧の増加は将来の資源水準の減少を引き起こす可能性が高いことが示された。この資源評価の結果を受けて、9月に行われたWCPFCの北委員会では、太平洋クロマグロへの漁獲努力量を現状以上に上げないことがWCPFC本委員会へ勧告され、12月のWCPFC年次会合では各国が自主的に漁獲努力量を拡大させない措置をとることが合意された。また、国内では、大中型まき網漁業の合理的な漁獲方策として2s未満の小型魚(養殖用種苗を除く)の漁獲の抑制、また、沿岸漁業・養殖からのデータ収集に取り組むこと等を骨子とする中間とりまとめが2007年12月に提案された。


利用・用途

我が国では主に寿司、刺身用の高級食材として利用価値が高い。外国による漁獲の多くは日本向けに輸出されている。


図1

図1. 日本周辺における太平洋クロマグロの主な漁場分布


表1

表1.


図2

図2. 太平洋クロマグロの国別漁獲量の推移(1952-2007)


図3

図3. 日本の漁法別漁獲量の推移(1952-2007)


漁業の概要

わが国におけるまぐろ漁業の歴史は古いが、記録としては1894年から農商務統計表に記載が現れる(岡本2004)。これにはまぐろ類として一括された漁獲量が少なからず認められている。初期の漁獲は定置網等の沿岸漁業によるものが大半であることを考えると、そのうちの多くをクロマグロが占めると推測される。1920年代からは、釧路沖で流し網による本種の漁獲が盛んになり、多い年で1万トン以上の漁獲を記録している。東部太平洋では1918年から漁獲量の記録が残されており、1935年にはすでに1万トンを越える漁獲が記録されているがその後、急速に漁業は消滅した。台湾沖の産卵場においても1930年代から第二次大戦中まで本種を主対象としたはえ縄が操業され,最大で3,000トンを越える大型魚の漁獲があった。

現在、本種の漁獲の大半はまき網漁業によるものであるが、まき網以外の様々な漁法でも、台湾東方沖から日本周辺および三陸沖において漁獲が行われている(図1)。沿岸では、ひき縄や定置網漁業により周年にわたって主に未成魚が、沖合では、まき網漁業により夏季から秋季に未成魚や成魚が、春季の台湾東方沖から奄美諸島周辺域にかけては、はえ縄漁業により大型の成魚が漁獲されている。1990年以降には、東シナ海から日本海南西部におけるまき網漁業の未成魚への漁獲が増加している。東部太平洋では5〜10月に主にメキシコがまき網により漁獲しており、そのほとんどがメキシコでの蓄養原魚となっている。

太平洋におけるクロマグロの年間総漁獲量は約9千トンから4万トンの間で大きく変動している(図2)。近年では1981年に3万5千トンを記録した後、1988年に9千トンまで落ち込んだ。このような漁獲量の大きな変動は、本種の加入変動が比較的大きいことに加えて、本種の漁獲の大半を占めるまき網やひき縄の漁獲が未成魚中心となっていることから、漁獲量の変動も高い加入変動の影響を受けていることが原因と考えられる。さらに、東部太平洋では、近年まで本種が主な漁獲対象種でなく、好漁のときにのみクロマグロを狙ったまき網の操業が増加していたことも一因と考えられる。

一方で、1990年代以降の漁獲量を見ると、2万トン前後で比較的安定している(図2, 表1)。2003〜2007年の漁獲量は、西部太平洋で1万4千〜2万2千トン、東部太平洋で3.7〜9.8千トンと推定されている。1990年代以降の安定した漁獲は近年の加入の水準が良かったことと、メキシコおよび日本での蓄養(養殖)の発展等による需要の増加に支えられ、クロマグロを狙う努力量が増加したことが原因であると推測される。

各国の漁業概要は以下のとおりである。

【日本】

まき網、はえ縄、ひき縄、竿釣り、定置網等により漁獲しており、1993年以前には公海域で流し網によっても漁獲していた。1952年以降、年間漁獲量は6千〜3万4千トンの間を変動しているが、ここ10年は1万1千〜2万4千トンであり、その約6割はまき網により漁獲されている(図3)。まき網漁業の主な漁場は歴史的に三陸沖にあったが、1980年代初頭より日本海南西部でも成魚を対象とした漁場が形成され、さらに1990年代初頭からは同じ海域で未成魚を対象とした漁場が形成されている(図1)。近年は日本海のまき網による漁獲量が、太平洋でのまき網の漁獲量を上回る年も見られる。さらに、2000年以降では、養殖原魚とするためのひき縄漁業による0歳魚の漁獲も増加している。

【韓国】

主に済州島から対馬にかけて操業するまき網により漁獲しているが、表中層トロールによっても僅かに漁獲されている。漁獲量は1982年以降ISCに報告されている。漁獲量は、近年増加傾向にあり、最大漁獲量は2001年の2千トンである。

【台湾】

台湾東沖に広がる産卵場で小型はえ縄漁船が産卵親魚を主に漁獲している。また、過去においては、まき網漁業によっても稀に混獲されていた。過去10年の年間漁獲量は1千〜3千トンで、ここ5年間は1.1千〜1.9千トンで安定している。以前は日本へも輸出 していたが、近年はそのほとんどが台湾内で消費されている。

【米国】

漁獲量は大きく変動してきたが、1980年代はじめ以降メキシコが経済的排他水域を導入したことに伴い東部太平洋における本種の主漁場であるカリフォルニア半島沿岸から米国船籍のまき網船が閉め出されたことにより、近年は大きく落ち込んでいる。ここ10年の漁獲量は、1994年級群に支えられた1996年のピーク(4.7千トン)を最後に、2007年の58トンにまで顕著に減少した。漁獲は主にカリフォルニア南部からカリフォルニア半島にかけての沿岸でのまき網によるもので、近年はメキシコの蓄養種苗に利用されている。1998年以降スポーツフィッシングによる漁獲が増えており年間50〜700トンを漁獲している。まき網、スポーツによる漁獲物は主に体長60〜100 cmのもので構成されており、太平洋中部ではえ縄により漁獲されるものはこれより大きい。

【メキシコ】

キハダ、カツオを対象としたまき網がカリフォルニア半島沿岸で漁獲する。漁獲物全体に占めるクロマグロの割合は非常に小さいが、蓄養向けの需要が増加しているので、相対的重要度は増している。また、クロマグロの全漁獲量から見ると、近年のメキシコのまき網による漁獲量は、かなりの割合を占めるようになっている。漁獲量は、1980年代で60〜700トンと比較的安定しており、1989年以降、0〜9,700トンと変動している。特に2000年以降は、キハダの不漁に伴い、蓄養種苗向け専門にクロマグロを対象として操業する大型船が増加している。しかし、この漁獲量は、東部太平洋へのクロマグロの来遊量の年変動に左右されると考えられ、2005-2007年の最近3年で4.5千、1万、4千トンと、2倍以上の変動が見られる。


図4

図4. 太平洋クロマグロの主な分布(図中の黄色で示された領域)と 電子標識によって明らかになった回遊パターン


図5

図5. 太平洋クロマグロの体長・体重と年齢との関係。前回の資源評価では行縄・藪田(1967) を参照したが、最新の2008年の資源評価ではShimose et al. (2008) に基づく成長式を用いている


図6

図6. 太平洋クロマグロの資源評価で仮定した自然死亡係数(最新が実線に四角のマーク、 灰色点線が以前の2006年の資源評価で用いたもの)と、年齢別成熟率


図7a
図7b

図7. 2008年の資源評価で使用された太平洋クロマグロの資源量指数。 日本の沿岸・近海と台湾のはえ縄のCPUE(上)は高齢魚、日本海側ひき縄とアメリカの巻き網のCPUE(下)は 若齢魚の資源量のトレンドを示す。また、モデルによる推定値も同時に示した。


図8a 図8b

図8. 2008年の資源評価で推定された太平洋クロマグロの総資源量(白抜きの三角)と 産卵親魚量(黒の四角)(上図)、及び、加入量(白抜きの四角、下図)の推定値の中央値。上下の点線は推定値の 80%信頼区間、また緑色の実線は最尤法による点推定値。推定値の信頼区間及び中央値はパラメトリックな ブートストラップ法により計算した。


図9

図9. 2008年の資源評価で推定された太平洋クロマグロの産卵親魚量(X軸)と加入量(Y軸)の 関係


図10a 図10b 図10c

図10. 推定された年齢別漁獲死亡係数。1-3歳、4-20+歳の漁獲死亡係数は、年齢別漁獲尾数 の和を年齢別資源尾数の和で除したものから計算した。


図11

図11. 太平洋クロマグロで推定された年齢別漁獲尾数(1952-2007)。 尾数は、資源評価モデルStock Synthesis 2 による推定値


図12

図12. 将来予測で推定された将来の親魚資源量の中央値(プロット付実線)と90%信頼区間。 赤四角によるプロットは、2005年の加入を平均的なレベルとした場合の推定値。黒三角によるプロットは、 2005年の加入が低いレベルだったとした場合の推定値。


図13

図13. 生物学的管理基準を達成する漁獲係数(F)に対する現在のFの割合。33の感度分析から 推定された全ての値をプロットしている。


生物学的特徴

【分布と回遊】

これまで太平洋のクロマグロは大西洋に分布する大西洋クロマグロの地理的亜種とされていたが、分子遺伝学的研究等により両種を別種とする意見が多い(例えばCollette 1999)。そのため、ISC、IATTC、FAOにおいては、前者をPacific bluefin tuna、後者をAtlantic bluefin tunaと呼称し、別種として現在扱っている。

本種は主に北緯20〜40度の温帯域に分布するが、熱帯域や南半球にもわずかながら分布がみられる(図4)。本種の産卵は日本の南方〜フィリピン北方沖で4〜7月、日本海で7〜8月に行われる(米盛 1989)。0〜1歳魚は日本海、または太平洋側の日本沿岸を夏季に北上し、冬季に南下する(Itoh et al. 2003)。2〜3歳魚は北太平洋、特に北西太平洋を主な分布域とし、春季に黒潮続流域を西進、夏季に三陸沖を黒潮分派に沿って北上、秋季に親潮前線に沿って東進、冬季に日付変更線付近の黒潮続流域に向かって南下、という海洋構造に応じた時計回りの回遊パターンを示すことがアーカイバルタグ調査から示唆されている(Inagake et al. 2001)。しかし、個体によっては日付変更線付近まで移動しない場合や、半年〜数年間沿岸の同一箇所に滞在し続ける場合もあり、回遊パターンの個体による違いは大きいと考えられる。また一部は太平洋を横断して東部太平洋に渡り、北米西岸沖を南北に季節回遊をしながら数年滞在した後、産卵のために西部太平洋へ回帰する。親魚は産卵後、産卵場から南方あるいは黒潮沿いに東方へ移動する魚がいることもポップアップタグにより解明されている。


【成長と成熟】

本種の年齢と体長に関しては、1960年代後半に鱗の輪紋や漁獲物の体長組成を基にした成長式が提案されていた(行縄・藪田1967)。しかし、この成長式における10歳を超える高齢部分の体長は外挿値が用いられていたため、高齢部分の成長式の信頼性は低いことが問題であった。それに対して、大型個体からの耳石を用いた最近の年齢査定の研究結果は、本種の10歳以降の成長が、行縄・藪田(1967)の推定よりも遅くなることを明らかとした (Shimose et al. 2008、図5)。これにより、今まで約280 cm (行縄・薮田 (1967) による外挿値)と考えられてきた20歳魚の平均体長は約240 cmであることがわかった。2008年に行われた資源評価は、Shimose et al. (2008) による新しい成長式を用いている。しかし、新しい成長式では、若齢魚の平均体長が行縄・薮田(1967)の推定値よりも大きく推定されている。この推定値は漁獲物に見られる体長組成のモード(最頻値)の推移に基づく推定値と必ずしも一致しない (Ichinokawa 2008) ことから、若齢魚の成長については今後さらに研究する必要がある。

本種の産卵様式は多回産卵で、太平洋では体重60 kg(5歳頃、体長150 cm前後)で成熟すると考えられていたが、最近の組織学的研究によると、年変動があるものの日本海では体長100 cm超 (3歳頃)で8割程度が成熟していることが明らかとなった(Tanaka 2006)(図6)。ただし、太平洋(南西諸島周辺等)の産卵場における若齢魚(5歳魚以下)の成熟スケジュール(年齢別成熟割合や性比等)に関する情報がほとんど得られていないため、この海域での成熟スケジュールや産卵場間の親魚の移動・回遊関係等の資源構造に関する解析を含め、本資源全体としての成熟・産卵過程に関するさらなる研究が必要である。年齢査定の研究結果では、200 cm以上の大型魚の中に20歳以上の個体も認められていることから、本種の寿命は少なくとも20歳以上と考えられている。また、報告された漁獲物の最大体長は300 cm以上に達する。


【自然死亡係数】

自然死亡係数は若齢魚で高く、その後低下すると考えられている。前回(2006年)と今回(2008年)の資源評価に用いられた自然死亡係数は図6に示した。最新の資源評価で用いられた自然死亡係数は、本種の通常標識による推定値(0歳魚)、同様の水温帯に分布するミナミマグロで通常標識を用いて推定された値(1-3歳魚)、ミナミマグロおよび大西洋クロマグロで用いられている値(4歳以上)を参照している。

【食性】

仔稚魚は日中にかいあし類や枝角類をよく摂餌し、若齢魚はカタクチイワシ、スルメイカをよく摂餌している。成魚の胃袋からは、いか類の他、とびうお類、きんときだい類、カツオなど魚類が多く見られる。いずれにしても特定の魚種を選択的に捕食するのでなく、その海域に多い生物を機会的(日和見的)に捕食しているのではないかと考えられている。一方で、東北・北海道域で本種を漁獲している漁業者の中には、本種が季節的にスルメイカやサンマ等特定魚種の群れを追って回遊していると指摘する声もある。また幼魚のときには他のまぐろ類に捕食される、大型魚はごく稀にシャチやさめ類に捕食される(山中 1982)。しかし、本種をめぐる食物網の詳細については山中(1982)以降、ほとんど科学的な知見がなく、今後の詳細な研究が求められている。


資源状態

【資源解析】

本種の資源評価はISCで行われている。前回2006年の資源評価ではチューニングVPAが用いられたが、2008年に行われた最新の資源評価では統合モデル(Stock Synthesis II, SS2)が用いられた。資源評価結果はAnon. (2008a, 2008b) によって報告されており、以下に示す結果も特別に引用文献名をつける場合以外は、Anon. (2008a, 2008b) からの引用とする。

資源評価のためにSS2で用いられる漁獲データは、暦年で1952年7月から2006年6月末までの四半期別・漁業別漁獲量、各漁業による漁獲物の体長頻度分布、標準化された資源量指数である。資源量指数は、日本の沿岸(1994年〜)・近海(1952〜1993年)はえ縄、台湾のはえ縄(1998年〜)が大型魚、東シナ海・対馬海峡で漁獲が行われるひき縄が0歳魚、米国の東部太平洋でのまき網(1960〜1982年)が2-4歳の資源量に対応している(図7)。生物学的パラメータとしては、年齢と体長・体重の関係式 (Shimose et al. 2008、Kai 2007、図5)、年齢別の自然死亡係数や成熟率(図6)等をあらかじめ与えている。SS2モデルでは、漁獲物の体長頻度分布から漁業別の体長に対する漁業選択曲線を推定し、それに既与の成長式を適用することで年齢別漁獲尾数を推定している。さらに、資源量指数や推定された年齢別漁獲尾数を基に、年齢別の個体群動態式等から最尤法により資源量などを推定している。また、推定パラメータの信頼区間は、パラメトリックなブートストラップ法により求めた。

上述したパラメータ・データを基にした基本となるモデル(モデルベースケースモデル)から推定された総資源量と親魚資源量(図8)には、1960年前後、1970年代後半、1990年代中ごろに親魚資源量がピークを迎える周期的な変動が見られた。特に、親魚資源量が歴史的に最大となったのは1960年代で、これは日本の沿岸で操業するはえ縄の資源量指数(図7)をよく説明している。1990年代中ごろの親魚資源量のピーク以降、ここ10年の親魚資源量は2000年まで若干減少し、その後は横ばい傾向である。最近年(2005年)の親魚資源量は約2万トンで、これは、歴史的に推定された親魚資源量(8千〜6万2千トン)の中央値(2万トン)とほぼ一致する。加入量は年によって大きく変動し(図8下)、親魚資源量との間で明確な親子関係は見つかっていない(図9)。

漁獲死亡係数は、1-3歳に対する係数が歴史的に高く、また、近年は0歳、1-3歳に対する漁獲死亡係数が増加傾向にある(図10)。若齢魚に対する漁獲死亡係数が近年増加傾向である一方で、親魚資源量に減少傾向が見られないのは、1994年以降、比較的高水準の加入が続いているためと考えられる。0-3歳に対する高い漁獲死亡係数により、モデルで推定された全漁獲尾数のうち3歳以下の魚が占める割合は、90%以上になることが推定された(図11)。

2002年から2004年に推定された平均的な漁獲圧が今後も続くと仮定した場合の20年間の将来予測の結果を図12に示した。レトロスペクティブ解析等の結果から、現行の資源評価では、資源評価の最近年となる2005年の加入と漁獲死亡係数の推定値の不確実性が非常に高いことが示されたため、将来予測では2005年の加入尾数が平均的なレベルであった場合と、悪かった場合の二つの場合を検討した。これより、2010年前後の近い将来の親魚資源量は、2005年の加入のレベルに大きく依存していることが示唆された。一方で、それ以降の親魚資源量は、2005年の加入のレベルに依存せず、2〜2.5万トンを平均として変動すると予測された。但し、この予測は加入量変動を考慮したシミュレーションの平均値であり、将来の親魚資源量が2〜2.5万トンで一定となることを意味しない。個々のシミュレーション結果では、たまたま加入が悪い年が何年か続くような場合、将来の親魚資源量が過去に推定された親魚資源量の最低値を下回ることもある。シミュレーションの結果では、将来の親魚資源量が2027年初めまでに過去最低の資源量を一回でも下回る確率は、2005年の加入が悪いと仮定した場合に2.6%、平均的な加入を仮定した場合に0.4%であった。また、漁獲死亡係数を今の1.1倍に増加させると、これらの確率はそれぞれ13%、5%に増加した。

【資源状態】

本資源の資源状態を評価するための客観的な指標となる生物学的管理基準については、未だISCで合意されたものはなく、現在検討中である。2008年の資源評価では、一般に用いられているいくつかの生物学的管理基準値を計算した。管理基準値として、最大持続生産量(MSY)を達成するため漁獲死亡係数(Fmax、F0.1、F20%、F30%、F40%、Fmed; 目標管理基準値)と、将来の資源量が減少傾向とならず、歴史的に観察された資源水準内で安定するための漁獲死亡係数(Fmed; 限界管理基準値)を計算した。図13は、これらのFに対する現状の漁獲死亡係数(2002〜2004年の平均、Fcurrent)の比を示している。但し、これらの値は、資源解析モデル内で用いられる不確実性の高い様々なパラメータの影響を受けることが考えられる。従って、資源解析の項で示したベースケースモデルからの推定値だけでなく、自然死亡係数や成長のパラメータ、また、用いる資源量指数等を可能な範囲で変化させた場合の33通りの感度分析の結果から得た推定値を全て示すこととした。

限界管理基準となるFcurrent/Fmedはパラメータの影響をあまり受けず、また、1を下回るか1に近い値を示した(図13)。これは、現在の漁獲圧が、今後も資源量が安定して存続していくための限界となる漁獲圧に近いレベルにあることを示している。つまり、これ以上の高い漁獲圧は、将来的の資源が現行レベルを下回って減少する可能性を高くすることが示唆された。同様の結果が将来予測(図12)においても示されたことから、本種の現行の資源状態は、歴史的に見ると中位レベルであるが、今後、現状以上に漁獲圧が増加すると、将来の親魚資源量は減少し、歴史的に観察された資源水準以下のレベルにまで低下する可能性も高くなることが明らかとなった。

一方で、目標管理基準値を基にしたFの比(Fcurrent/Ftarget)は1を大きく上回る場合が多く、さらに、その値は他のパラメータの影響を受けやすいことが判明した(図12)。これらの指標が漁獲量を最大化するための目標管理基準値であることを考えると、本結果は現状の資源が漁獲により成長乱獲状態にあることを示している。しかし、これらの値が1を上回る程度がモデルで仮定したパラメータに依存して大きく変動していることから、現行の漁獲圧がFtargetをどの程度上回っているか、つまり現況の成長乱獲の度合いの推定については、大きな不確実性を含むことが同時に明らかとなった。この高い不確実性は、本資源の漁獲圧が資源評価開始当初年の1952年から比較的高いレベルで維持されており(図10)、そのため、低漁獲圧に対しての本資源の応答を現行の資源評価モデルがうまく評価・再現できないことに由来する。


管理方策

以上の資源評価の結果を受けて、2008年7月のISC本会議は、本資源に対する漁獲死亡率をこれ以上増加させないことを最低限の予防措置とすべきことを、2008年9月に開催されたWCPFC北委員会に勧告した(Anonymous 2007c)。WCPFC北委員会は、これらの結果に基づいて、クロマグロの漁獲死亡率を現状以上に上げないことを当面の管理目標とし、それを実現するために、漁獲努力量をこれ以上増大させないために必要な措置をとるという本資源の保存管理措置案をまとめた。この案は、2008年12月に行われるWCPFCの本会議で議論される予定である。また、国内では、2007年12月に我が国周辺クロマグロ資源の利用に関する検討会が行われ、大中型まき網漁業の合理的な漁獲方策として2s未満の小型魚(養殖用種苗を除く)の漁獲の抑制、また沿岸漁業・養殖からのデータ収集に取り組むこと等を骨子とする中間とりまとめが提案・了承された。


クロマグロ(太平洋)資源の現況(要約表)

資源水準 中位
資源動向 横ばい
世界の漁獲量
(最近5年間)
約18,000〜27,000トン
平均:約22,000トン (2003〜2007年)
我が国の漁獲量
(最近5年間)
約11,000〜20,000トン
平均:約14,000トン (2003〜2007年)
管理目標 漁獲死亡率を現在以上増加させない
資源の現状 現状の漁獲圧は、MSY等で代表される望ましい漁獲量を達成するための 漁獲圧よりも高いが、資源が存続していくための漁獲圧を超過してはいない
管理措置 各国が自主的に漁獲努力量を拡大させない措置をとる。
資源管理・評価機関 WCPFC, ISC, IATTC

執筆者

クロマグロサブグループ
遠洋水産研究所 数理解析研究室

市野川 桃子・竹内 幸夫

参考文献

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