アメリカオオアカイカ 東部太平洋

Jumbo Flying Squid, Dosidicus gigas


 

最近一年間の動き

FAO漁獲統計によると、2004年の全世界のアメリカオオアカイカ漁獲量は、中国とチリがそれぞれ20万トン前後まで漁獲を急増させたこともあり、82万トンとなり前年に比べ倍増し、いか・たこ類の中で世界一となった。

 

利用・用途

大型は皮を剥いだ切り身にサイの目に切れ目を入れ、シーズニングスパイスを添えるか、ピリ辛風ソースを絡めた「イカステーキ」に加工される。また、中型は冷凍ロールイカ等に加工される。

 

漁業の概要

 我が国のアメリカオオアカイカ漁業は、認可法人海洋水産資源開発センター(現独立行政法人水産総合研究センター開発調査部)が1971/72漁期(漁期の定義は5月から翌年の4月まで)にカリフォルニア半島周辺で開発調査を行ったことに端を発する。その後、マツイカ及びアカイカ漁業の補完的資源として注目されるようになり、同センターが1984/85漁期から本格的な調査を実施した(黒岩1998)。イカ釣り漁船も1989/90漁期頃から操業を開始し、1990/91漁期までは主にメキシコ200海里内で操業を行った。一方、1989/90漁期に同センターがペルー200海里内において本種の高密群を発見し、翌年からイカ釣り漁船40隻余りが同海域に出漁し、各漁期48万トンを漁獲し、南西大西洋に次ぐ重要な漁場となった。しかし、1996/97漁期からペルー海域は不漁となり、同年には漁船により北半球公海域(コスタリカ沖)において新漁場が発見された。1998/99漁期には本種を対象にした操業は行われなかったが、1999/2000漁期にはコスタリカ沖及びペルー沖で操業が再開された(一井 2002)。2000/01年は我が国によりペルー海域及びコスタリカ沖で約14万トンが漁獲された。その後は、主にペルー海域のみで操業し、25万トン程度の漁獲を上げている。

 FAO漁獲統計によると、全世界のアメリカオオアカイカ漁獲量は19901992年にかけて、約3万トンから11万トンに急増し、その後1998年を除いて2001年まで1430万トンを維持した(1)。なお、1998年は約3万トンにまで激減した。その後20022003年に約40万トンに増加し、2004年には80万トンまで急増し、いか・たこ類で世界一の漁獲量となっている。海域別にみるとペルー海域(チリ沖も含む)では、19921995年及び20002001年に計10万トン以上の漁獲が我が国、ペルー及び韓国により上げられ、20022003年に中国が加わり計約30万トンの漁獲が上げられ、2004年にチリも加わり計69万トンにまで急増している。また、カリフォルニア湾では、19961997年及び20022004年に約11万トンの漁獲がメキシコにより上げられている。

1. アメリカオオアカイカ国別漁獲量

 

生物学的特性

 本種は、熱帯・亜熱帯域の外洋−沿岸性種であり、カリフォルニア沖からチリ沖にかけての海域に分布する(2)。成熟体長により小型、中型及び大型に区分され、後者は外套長が120 cmに達するアカイカ科最大の種である(Nesis 1983)。小型は、赤道付近及びカリフォルニア海流域だけに見られ、中型と大型はそれぞれ南北半球に別れて分布する(Nesis 1983)。大型は、年によって出現したりしなかったりする。

2. アメリカオオアカイカの分布図

 

  中型の雌は生後約5ヶ月(外套長3040 cm)、雄は生後約4ヶ月(2030 cm)で成熟し、寿命は1年と推定される(1、図3)。体長は雌の方が雄より少し大きい(増田ほか1998)。大型の雌は外套長が6575 cm、雄は5565 cmで成熟する(増田ほか 1998Koronkiewicz 1988)。大型の成長は1年間で約80 cmと推定され(増田ほか 1998)、この成長率を採用すると、アメリカオオアカイカは約1年半で最大体長(120 cm)に達することになる(図4)。小型の雌は外套長2027 cmで、雄は1518 cmで成熟する(Nesis 1983)。日齢査定は全く行われておらず、成長や寿命については不明である。

 

1. アメリカオオアカイカの成熟体長と寿命(増田ほか1998Koronkiewicz 1998Nesis 1983

 

成熟外套長

 

寿命

 

 

 

小型

1518cm

2027cm

 

中型

2030cm

3040cm

1

 

大型

5065cm

6575cm

ほぼ1

 

3. 中・大型アメリカオオアカイカの成長(増田ほか1998

 

4. 大型・小型アメリカオオアカイカ

(水産総合研究センター水産情報展示室提供)

 

 アメリカオオアカイカの食性は発育段階により異なり、小型個体は主にオキアミ類等のプランクトン、中型及び大型個体はハダカイワシ科等の魚類及びイカ類(共食い)を主餌料とする(ヤマシロほか 1998)。特に、外套長20 cm以上のアメリカオオアカイカの胃内容物からは、ハダカイワシ類が最も多く出現する。一方、アメリカオオアカイカの捕食者としては、キハダ、イルカ、マッコウクジラ等が挙げられる(Perin et al. 1973)。

 本種は、大規模な回遊を行わないと考えられる。ペルー沖では、高密分布域は周年にわたって南緯310度にあり、そこでは常に成熟した雌雄が活発な索餌活動を行っている。この高密域は沿岸湧昇域であり、産卵場と索餌場が一致するため大規模回遊を行う必然性はない(5)。また、コスタリカ沖でも、高密分布域は北赤道海流と北赤道反流の間の湧昇域(北緯810度)に相当し、生産力が高く、産卵場と索餌場が一致する。

5. 漁場分布

712月における表面流と太平洋東海岸赤道域の20℃等温線の深度。湧昇域付近に漁場(赤丸囲み)が形成される。

 

資源状態

 ペルー海域とコスタリカ沖の個体は、DNA解析により別系群であることが明らかにされたため(和田 未発表)、海域別に述べる。

ペルー海域では、1991/921994/95漁期は好漁であったのが、1995/96漁期から漁獲量・CPUEとも減少している(6)。ちょうど前者の漁期は、エルニーニョ傾向の温暖期で亜熱帯表層水がペルー沖へ広がっていたのが、後者の漁期からラニーニャ傾向で寒冷期に転じた。さらに、1994/95漁期には総漁獲量が19万トン(日本、韓国及びペルー)に達したことから、1995/96漁期の不漁の原因として、海況(ラニーニャ現象)と乱獲の両方の可能性が考えられる。1997/98年には大規模エルニーニョが発生したものの、好漁にはならず引き続き不漁であったが、2000/2001漁期以降は好漁に転じた。なお、ペルー政府は2003年の資源量を90万トンと非常に大きく見積もっているがその根拠は公表されていない。

 コスタリカ沖の沖合漁場では、1996/97漁期 (平常年)及び1997/98漁期(エルニーニョ期)には好漁であったが、1999/2000漁期(ラニーニャ期)には不漁であった(6)。ラニーニャ期に漁場形成が未発達であった原因として、北赤道反流と北赤道海流間の湧昇が弱まり、また、北赤道反流の塩分フロントも弱まったことが挙げられる(Ichii et al. 2002)。ペルー海域同様、2000/01漁期以降(平常年)は好漁となった。しかし、2001/02漁期以降、当海域での操業はほとんどない。

 以上、本種の資源は2000/01年以降、高水準にある。

6. わが国のアメリカオオアカイカ漁獲量 と CPUEの変遷とエルニーニョ・ラニーニャ現象の相対的規模

 

最近の研究によると、ペルー沖のアメリカオオアカイカのCPUEと前年の9月のコスタリカ沖の海洋環境との間に高い相関(r2=0.74)が見出されている(7)。この海洋環境というのは、表面水温に占める本種の孵化適水温(24-28℃)の割合(%)である。ペルー沖とコスタリカ沖の本種は別系群であるので、この高い相関は、ペルー沖の海洋環境がテレコネクションによってコスタリカ沖の海洋環境に反映された結果と考えられる。従って、この相関を用いて、ペルー沖の本種の加入をコスタリカ沖の海洋環境から予測することが可能かもしれない。

7. ペルー沖のアメリカオオアカイカCPUEと前年9月のコスタリカ沖の表面水温において孵化適水温(24-28℃)が占める割合との関係(Waluda and Rodhouse 2006

 

管理方策

 最近、ペルー政府は、自国のEEZ内における本種の資源管理をSchaeferモデルによるMSYに基づいて始めた。2003年のTAC20万トンで、そのうち7万トンが外国への割当量であった。実際には、外国による漁獲量は2.7万トンに留まり、ペルーによる漁獲量も10.1万トンで、TACを計7万トン余らせた。2004年及び2005年のTACはそれぞれ20万トン及び25万トンとなっている。また2006年については、16月のTAC15万トンとなっている。本種は漁況のみならず、商品価値の高い中型の出現が不安定であるので、漁況及びサイズ組成の予測手法の確立が重要な課題である。

 

執筆者

外洋資源グループ

遠洋水産研究所 外洋いか研究室

一井太郎

 

アメリカオオアカイカ(東部太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準

高位

資源動向

横ばい

世界の漁獲量(最近5年)

18.579.9万トン(全域)

平均39.8万トン

10.330.8万トン(ペルーEEZ内)平均19.5万トン

我が国の漁獲量(最近5年)

3.714.0万トン(全域)

平均6.8万トン

1.810.9万トン(ペルーEEZ内)平均4.4万トン

管理目標

MSY25万トン(2005年ペルーEEZ内)

資源の状態

ペルー政府は2003年の資源量を90万トンと見積もった

管理措置

TAC25万トン(2005年ペルーEEZ内)

管理機関・

関係機関

ペルー政府

 

参考文献

FAO. 2002. Capture production 1950-2004. FAO Yearbook, Fisheries Statistics. http://www.fao.org/fi/statist/FISOFT/FISHPLUS.asp 2006126日)

一井太郎. 2002. 東部太平洋海域. In 奈須敬二・奥谷喬司・小倉通男 (共編), イカ-その生物から消費まで-(三訂版), 成山堂書店, 東京. 209-219 pp.

Ichii, T., K. Mahapatra, T. Watanabe, A. Yatsu, D. Inagake and Y. Okada. 2002. Occurrence of jumbo flying squid Dosidicus gigas aggregations associated with the countercurrent ridge off the Costa Rica dome during 1997 El Niño and 1999 La Niña. Mar. Ecol. Prog. Ser., 231: 151-166.

Koronkiewicz, A. 1988. Biological characteristics of jumbo flying squid Dosidicus gigas caught in open waters of the Eastern Central Pacific from October to December 1986. ICES C. M. 1988, K: 42, 6 pp.

黒岩道徳. 1998. 海洋水産資源開発センターによる南東太平洋海域のアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas)資源に関するイカ釣調査の変遷. In 奥谷喬司 (), 外洋性大型イカ類に関する国際シンポジウム講演集. 海洋水産資源開発センター, 東京. 85-102 pp.

増田 傑・余川浩太郎・谷津明彦・川原重幸. 1998. 南東太平洋海域におけるアメリカオオアカイカDosidicus gigasの成長と資源構造. In 奥谷喬司 (), 外洋性大型イカ類に関する国際シンポジウム講演集. 海洋水産資源開発センター, 東京. 103-114 pp.

Nesis, K.N. 1983. Dosidicus gigas. In Boyle, P.R. ed., Cephalopod life cycles Vol. 1. Academic Press, London. 215-231 pp.

Perrin, W.F., R.R. Warner, C.H. Fiscus and D.B. Holts. 1973. Stomach contents of porpoise, Stenella spp., and yellowfin tuna, Thunnus albacares, in mixed - species aggregations. Fish. Bull., 71: 1077-1092.

Waluda, C.M., and P.G. Rodhouse. 2006. Remotely sensed mesoscale oceanography of the Central Eastern Pacific and recruitment variability in Dosidicus gigas. Mar. Ecol. Prog. Ser., 310: 25-32.

ヤマシロ, C., L. マリアテギ, J. ルビオ, J. アルグレス, R. タフー, A. タイベ, M. ラビー. 1998. ペルーにおけるアメリカオオアカイカ漁業. In 奥谷喬司 (), 外洋性大型イカ類に関する国際シンポジウム講演集. 海洋水産資源開発センター, 東京. 115-122 pp.