アルゼンチンマツイカ 南西大西洋

Argentine Shortfin Squid, Illex argentinus


 

最近一年間の動き

我が国のイカ釣船の2006年漁期におけるアルゼンチンEEZ内への入漁は、資源の悪化と沿岸国の漁業管理上の問題からわずか5隻、フォークランド海域への入漁はゼロであった(表1)。2005年には水産庁調査船「開洋丸」によるマツイカの幼イカの分布調査が実施され、陸棚域や外洋域にも高い密度で分布が認められ資源の回復が示唆された。実際に2006年漁期には加入量の明らかな増加が確認され(Brunetti 2006)、漁獲量も前年よりも増加した。しかし、好調な漁況による供給過多に加え、例年にないサイズの小型化によって国際市場での大幅な価格低下をもたらした。

1. 最近年における我が国大型いか釣り漁船の南西大西洋におけるマツイカ漁への出漁隻数状況(隻)

アルゼンチン

フォークランド

公海を含む総計

2001

28

13

41

2002

4

19

31

2003

14

13

24

2004

12

6

18

2005

4

0

5

2006

5

0

5

 

利用・用途

漁場が遠隔地にあるため活魚での利用はないが、その他の点では基本的に日本のスルメイカと同様である。肉質がスルメイカよりやや堅いため、刺身の需要は少なく、多くが加工品となる。干したスルメ、サキイカ、塩辛等の材料ともなる。食用以外ではまぐろはえ縄の餌としても利用されてきた。アルゼンチン海域で標識放流されたマツイカが北海道の浜でスルメ干しとして発見されたり、オーストラリア海域でまぐろはえ縄船で見つかることもある。

 

漁業の概要

本種は、南西大西洋のアルゼンチン200海里水域(EEZ)内、公海域及び英国領フォークランド(マルビナス)諸島周域150海里の暫定保護海域(FICZ)に主漁場を形成するストラドリングストックである。近縁種のスルメイカとならび世界最大のイカ資源の一つであり、日本、韓国、台湾、アルゼンチン、さらに最近では中国が主要な漁業国である。1970年代には、沿岸国であるアルゼンチンとウルグアイによって年間数千トンが漁獲されていたにすぎず、その大半はアルゼンチン北部の大陸棚上でメルルーサ類を目的としたトロール漁業の混獲物であった。1980年代に入ると本種を対象とした漁業は急速に発達し、ポーランド、日本等の遠洋漁業国のトロール船による本格的な操業が開始され、漁獲量は20万トンから30万トンへと増加した。1984年には台湾、1985年には日本と韓国のイカ釣船が操業を開始した。1987年には十数ヶ国の漁船が操業することになり、総漁獲量は倍増して70万トンに達した(1)。

1.各国のアルゼンチンマツイカ漁獲量の変遷(19812004年)

(データ:FAO 2006より)

 

 この1987年には、日本の漁獲量も前年比で2倍以上の19万トンに増加した(2)。この年以降、各国による本種の総漁獲量は、100万トンに急増した1997年までは50万〜70万トン前後で比較的安定していた。日本の漁獲量も1990年代は約10万トン前後を維持しており、1999年にはこれまでで2番目に高い漁獲量を記録した。しかし、それ以降は各国における総漁獲量の減少とともに日本の漁獲量も減少に転じ、2005年にはわずか約7,000トンへと激減した。一方、沿岸国のアルゼンチンの漁獲量は1990年代初頭から急増を始め、近年では2030万トンを維持していたが、ここ数年で漁獲量は10万トン前後に減少していた。

2. アルゼンチンマツイカ主要漁業国の漁獲量(万トン)の変遷(出典:FAO 2006

2005年以降の総計は推定値(日本は大型いか釣り業協会およびアルゼンチンはSAGPyA 2006より、空欄は未データ)

日本

アルゼンチン

韓国

台湾

ポーランド

中国

その他

総計

1981

2.0

1.1

0.0

0.0

1.9

0.0

0.3

5.2

1982

3.7

3.9

0.0

0.0

10.9

0.0

0.4

18.9

1983

2.4

2.9

0.0

0.0

11.0

0.0

0.4

16.7

1984

6.3

2.9

0.0

0.0

11.3

0.0

1.4

21.9

1985

6.7

2.2

1.1

8.3

9.6

0.0

2.2

30.1

1986

7.4

1.2

4.8

9.4

2.8

0.0

3.2

28.9

1987

19.1

3.0

9.0

14.8

7.5

0.0

1.8

55.1

1988

19.6

2.1

9.9

12.9

5.7

0.0

6.3

56.4

1989

14.8

2.3

13.6

11.8

5.0

0.0

8.3

55.8

1990

8.7

2.8

11.1

8.8

2.5

0.0

7.1

41.0

1991

10.9

4.6

17.8

12.4

2.6

0.0

7.7

56.0

1992

9.9

7.8

21.1

11.7

1.7

0.0

8.8

61.0

1993

13.2

19.6

12.9

12.4

0.6

0.0

5.4

64.0

1994

9.3

19.9

7.9

10.4

0.2

0.0

3.0

50.8

1995

7.6

20.0

12.4

10.0

0.0

0.0

2.2

52.2

1996

7.4

29.4

14.5

10.1

0.0

0.0

4.4

65.8

1997

12.7

41.2

20.8

18.6

0.0

0.0

5.9

99.2

1998

7.7

29.1

9.2

16.3

0.0

3.0

4.7

70.0

1999

15.4

34.3

27.2

26.4

0.0

6.1

5.9

115.3

2000

12.0

27.9

15.0

23.8

0.1

9.3

5.8

94.0

2001

7.1

23.0

14.3

14.7

0.1

9.4

6.6

75.0

2002

2.7

17.7

9.9

11.1

0.3

8.5

3.9

54.0

2003

2.3

14.1

9.1

12.4

0.0

9.6

2.8

50.4

2004

1.0

7.6

2.0

1.0

0.0

1.3

0.9

14.0

2005

0.7

13.4

 

 

 

 

 

 

2006

0.9

26.2

 

 

 

 

 

 

 

 いか釣船による本種の主漁場は、フォークランドFICZ内、アルゼンチンEEZ内及び水深200 m等深線が公海に張り出した南緯45度付近の大陸棚縁辺のわずかな海域である。FICZ内における我が国を初めとする遠洋漁業国のいか釣船による操業は、フォークランド政府に入漁料を支払って許可されてきた。一方、アルゼンチンEEZ内での操業は、1993年からチャーター制度によって入漁料・漁業振興負担金・現地水揚げ割合等の条件付で入漁が許可されてきた(酒井2001)。しかし、2002年以降になるとこの制度は同国の経済危機とマツイカ資源水準の低下によって中止され、我が国を含めた外国いか釣船のアルゼンチンEEZ内での操業は厳しい制約を受ける裸用船契約(船舶所有者が船体だけを用船者に貸与する契約)による入漁制度となった。2006年漁期における我が国大型いか釣り漁船の同海域への入漁は、アルゼンチンのフラッグでの形式用船方式でわずか5隻のみとなった。また、フォークランド海域でも資源の悪化に起因する入漁問題の影響で2005年漁期から入漁していない。このように南西大西洋海域においては、2001年以降我が国のいか釣り漁船の出漁は減少の一途をたどっている。

 本種の盛漁期は、南半球の夏から秋(26月頃)であり、漁場は季節とともに南北に移動する。漁獲対象となる親イカは、春には南緯3645度の大陸棚縁辺部とその斜面にかけて分布し(2)、しだいに南方へと回遊する(Hatanaka 1988)。夏には南緯4552°の大陸棚上に分布が見られ、大陸棚斜面への分布の移動が観察されている。秋には南緯3852度の南北に広い範囲の大陸棚縁辺部とその斜面にかけて分布し、しだいに大陸棚斜面から深みにかけての北東方向への移動を開始する(Hatanaka 1986)。冬には親イカの分布は南緯3742度の縁辺部及び大陸棚斜面に分布し、北東への移動が示唆される。

2.漁場の季節的な分布(黄色)

主漁場は赤色で示した(Brunetti et al. 1998bより)

 

生物学的特性

本種の寿命は他のスルメイカ類と同じく1年であり、成熟して産卵した後には死亡する。魚の耳石に相当する平衡石には日輪が観察され、この輪紋は日輪であることがわかっている。本種の成長は日齢と外套長との関係で表される。ふ化後、およそ100日目以降から急速に成長する。成長した親イカは外套長がおよそ25 cmとなり(3)、35 cm以上に達するものもある。加入前の外套長510 cmの幼イカの日齢は150200日で、漁獲対象となる親イカの日齢は200日から寿命近くの350日までの範囲におよぶ(3)。

3.“夏季産卵系群”の雌の成長曲線

各点は生まれ月および幼稚仔期(◇)を示す(Brunetti et al.1998aより)

 

3. アルゼンチンマツイカの日齢と体長

 

外套長(cm

幼イカ

150-200

5-10

親イカ

200-350

20-35

 

 雌雄には若干の成長差があり、雄は雌より成長が遅く平均外套長で21 cmにとどまり、雌より早く成熟する。これに対し、雌は雄より大きく平均で外套長25 cmに達し成熟は雄より遅い。月ごとに分けて成長過程を見ると、生まれ月が遅くなるにつれて成長速度が高まる傾向がある(Uozumi and Shiba 1993Brunetti et al. 1998a)。

 本種には産卵期と産卵場及び回遊分布経路の違いにより34の季節発生群が想定されている。このうち、南半球の秋〜冬に産卵ふ化する“秋冬生まれ群”は国際漁業にとって最も重要であり、索餌回遊期にはアルゼンチン沖の大陸棚上の南部に広く分布する。この南部海域の大きな資源をアルゼンチンでは“南パタゴニア系群”と呼び、その他の比較的小さな資源で北部に出現する“北ブエノス系群”、“春季産卵群”及び南緯4648度の沿岸寄りの陸棚上に出現する小型の“夏季産卵群”とは区別して扱っている(Brunetti et al. 1998b)。

 本種の産卵に関しては、ふ化間もない幼生が秋〜冬(38月)に南緯3536°の大陸棚斜面域に出現分布することから(Brunetti and Ivanovic 1992)、主産卵場は同海域で(4)、主産卵期は秋〜冬であると考えられている。このことは、南部海域で漁獲対象となる秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)のイカ平衡石を用いた日齢分析で推定された生まれ月からも検証されている。また、これ以外にも南緯43°の沿岸から沖合で123月に稚仔が出現し、夏季産卵群の産卵場となっている。

4.アルゼンチンマツイカのふ化稚仔の分布と想定される産卵場(楕円)

Brunetti et al. 1998bより)

 

 産卵場となる適正水温は、人工ふ化手法を用いてふ化してくる稚仔(5)の生残実験から1523℃と考えられ、これまで野外での観察結果と一致していた(Sakai et al. 1999)。

5.人工授精によるふ化寸前のアルゼンチンマツイカの幼体

 

 本種の食性は、北に分布する群(北ブエノス系群等)ではハダカイワシ等、中深層性魚類を主体とするのに対して、南に分布する群(南パタゴニア系群等)ではオキアミ類や端脚類が主体となり、魚食はまれとなる(Ivanovic and Brunetti 1994)。

 本種の被捕食については、幼イカ時にメルルーサ(アルゼンチンヘイクMerluccius hubbsi)、ノトセニア(オオノトセニアPatagonotothen ramsayi)等の底魚に捕食されている(Brunetti et al. 1998b)。また、ワタリアホウドリ(Diomedea exulans)等の海鳥による親イカの捕食が報告されているが、多くが漁船から投棄されたものであると考えられる(Xavier et al. 2003)。

 本種は索餌場が主な漁場となり、主な産卵場と漁場とは分布が異なる(6)。

6.アルゼンチンマツイカの分布図

 

資源状態

1980年代後半から1997年までのマツイカ総漁獲量は60万トン前後で安定していた(7)。しかし、1999年にこれまでの最高水準となる115万トンに達してから総漁獲量は急激に減少に転じ、2004年には15万トンと激減した。アルゼンチンのEEZ内の正確な漁獲量が把握されるようになった1993年以降では、同国EEZ内と英国FICZ内でのマツイカ漁獲量は常に前者の方が高いが、漁獲量の毎年の増減傾向はほぼ同様であった。

7.管理海域別の漁獲量の変遷

 

 資源水準の経年変化を見ると、日本のいか釣り漁船のCPUE(トン/日)は、1980年代中頃から毎年の多少の変動を含みながら増加傾向にあり(8)、2000年(平成11/12年)漁期には漁船あたり120トンを超える最も高いCPUEを記録した。しかし、その後、CPUEは急激に減少し、2004年(平成15/16年)漁期には統計の整備された1986年以降で最も低い水準(漁船あたり15.9トン以下)にまで低下した。アルゼンチンの200海里内に本格的に出漁した日本のいか釣船の漁場形成を平成4/5年漁期以降で見ると、北側(パタゴニア水域)よりも南側(フエゴ島水域)に漁場が形成された漁期ほど総漁獲量が概して高い傾向が見られた(9)(酒井・一井2006)。最近年2002年(平成13/14年)漁期では上記の割合が最も低い値に近く、日本船によるマツイカの漁獲量はこれまでで最も低い水準にある。しかし、2005年漁期、2006年漁期にはCPUEは連続して増加しており(10)、日本漁船のCPUEの変化からは資源の回復がうかがわれた。

8.日本のいか釣船のCPUE(トン/日)の経年変化とアルゼンチン調査船による

秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)の加入量(トン)の経年変化

 

9.日本漁船によるパタゴニア水域(北側)でのCPUEに対するフエゴ島水域(南側)でのCPUEの割合と日本漁船によるアルゼンチンマツイカ総漁獲量との相関関係

平成12/13年(2001)および平成14/15年(2003)漁期(□)は入漁に問題があったため除いた

 

10. 過去5年間(20022006年)の漁期ごとの日本のイカ釣り漁船の週平均のCPUE(一隻あたりの日間漁獲量、トン)

 

 いか釣り漁業は、パッチ状となるイカの群を探索するため、そこから推定される資源量指数と呼ばれるCPUE値は、漁場形成と密接に関連する海洋構造に影響される。さらに、探索技術や漁獲の年々の進歩も考慮しなければならない。したがって、商業データによるCPUEの値では本当の資源量や変動の傾向を正しく把握することが難しい。そこでアルゼンチン政府は、最も重要な資源である南パタゴニア系群の毎年の初期資源量(加入量)を漁業と独立した方法によって推定するため、1992年から自国EEZ内で英国と共同で着底トロールを用いた掃海面積法による調査を始めた。

 この調査結果によると、毎年の漁期初めの初期資源量(加入量)は、1992年には比較的高い水準にあったが、その後、減少し始め、1994年から1996年にかけて低水準となった(8)。そして、資源水準は急速に回復に転じて1999年にピークに達した。しかし、翌年には急激に資源量は減少を始め、最近では1994-1996年と同様にきわめて低い水準期にあり(酒井2004)、特に2004年には南方資源の加入量は激減し、夏生まれ群を含めた加入尾数は2.1億尾と推定され、翌年の資源のために取り残された産卵親イカ量も計算上はゼロと見積もられた(Brunetti et al. 2004)。

 秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)の産卵親イカ量と翌年の加入量との間には、一定の再生産関係(親子関係)は見られない。しかし、この親子関係には周期的な変動が観察される(11)。1998/1999年漁期には産卵親イカ量及び加入量ともに高い水準にあったが、1999/2000漁期には産卵親イカ量の水準は高いにもかかわらず、翌年の加入量は低い状態(産卵成功率が低い)へと移行している。ここ数年間は、産卵親イカ量及び加入量とも低い水準期にあった(酒井2004)。2004年漁期には翌年に残された産卵親イカ量が4.8万トンと推定され(Brunetti et al. 2003)、今後この低水準にとどまるのか、あるいは回復に向かうのかが注目された。結局、上述したように2004年漁期の加入量は極めて低く、これまでにない危機的な水準に陥った(11)。翌2005年には若干の資源の回復を見せ、秋冬生まれ群の初期資源量(加入量)は12.1万トン(4.7億尾)と推定されたが(Brunetti 2005)、低水準の危機は続いた。

11.アルゼンチンマツイカの秋冬生まれ群(南パタゴニア産卵系群)の再生産関係

 

 このような資源の枯渇が危惧される中で、アルゼンチン政府の要請により水産庁調査船「開洋丸」による若齢イカの分布調査が実施された。アルゼンチンEEZ内の広大な大陸棚と陸棚斜面に高密度に若齢イカ(漁業加入前の外套長510cm前後)(12)が分布し、さらに外洋域に形成される北からのブラジル海流起源の暖水塊張り出しと南からのマルビナス海流起源の冷水塊との前線付近にも若齢イカが分布することが明らかになった(13a)。ほぼ同様な海域で1989年に旧開洋丸による調査を行った時の若齢イカの分布(図13b)と比べても、2005年の若齢イカの分布は外洋域で際だっていた。陸棚と外洋域とでかなり連続的な分布をしていることから、外洋域からの加入もあることが示唆され、1990年漁期に比べて2006年漁期の方が高水準の加入が見込まれるのではないかと予想された(酒井2005)。実際に、2006年漁期はじめのアルゼンチンによる加入量調査では前年の約3-4倍の初期資源量推定値35.1万トン(20.3億尾)が得られた(Brunetti 2006)。さらに、実際の沿岸国アルゼンチンの漁獲量は2004年(7.6万トン)から2006年(26.2万トン)にかけて着実に増加したことから(1)、本資源は枯渇の危機を脱して回復に向かったと判断された。ここ15年間の秋冬生まれ群の加入尾数および加入量の平均はそれぞれ15.6(億尾)および36.7(万トン)であり、2006年の加入量推定値はここ15年間のほぼ平均値に匹敵する。これより、資源水準は中位に移行したと考えられる。しかし、2006年漁期の資源水準を見る上で注意すべき点がある。この年の秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)の加入群の体重平均値がここ15年間で最も少ないことである(14)。これが何を意味するのかは現段階で不明であるが、2006年漁期としての資源水準は回復したものの、個体群としては状態の不安定さを残しているのかもしれない。

12. 表中層トロールで採集された若齢マツイカ

 

A.B

13. 若齢マツイカの分布と量

A2005年の開洋丸調査 B1989年の旧開洋丸調査

 

14. 秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)の加入群の平均体重の経年変化(19922006年)

 

 最近の研究(Waluda et al. 1999)によると、フォークランド海域におけるマツイカに関して、7月におけるマツイカ産卵場の衛星データから得られた表面水温と年明けの漁期における資源豊度との間には逆相関が見いだされている。産卵期の表面水温とこの関係を用いれば、次年漁期のおよその資源水準が予想可能となる。一方、我が国のいか釣り漁業船の漁獲資料を用いた解析では(酒井2004)、南緯4244度、西経5658度の海域の衛星データから得られた6月の平均表面水温と我が国のいか釣り漁船のフエゴ島海域におけるCPUE(トン/日)との関係において正の関係が見いだされた(15)。すなわちこの海域では、前年の水温が高ければ翌年のいか釣り船CPUEが高くなるわけである。今後、このような海洋環境を用いて単年性のイカ類の資源量水準との関係を分析する手法は、いか釣り漁船の配船計画に役立つ中期的な資源水準の予測に貢献すると考えられる。

15.南緯4244度、西経5658度における6月の表面水温と翌年の日本のいか釣り漁船CPUEとの関係(酒井2004

 

資源管理方策

本資源の大部分はアルゼンチンEEZ内及び英領フォークランド諸島暫定保護海域(FICZ)内に分布し、両政府による資源管理が実施されている。前述したように、本種には3ないし4の季節発生群があるが、管理上は便宜的に南緯44度線で区切って南方資源と北方資源とに分けてそれぞれ異なる管理方策をとっている(16)。

 北方資源(北ブエノス系群及び春季産卵群)は実際にはアルゼンチンのみが管轄し、固定した漁期(51日から831日まで)と入漁隻数を制限する努力量管理方策である。

16.本種の季節発生群(系群)と南緯44度を境とした資源分割管理

 

 一方、資源規模の大きい秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)を主体とする南方資源は、英ア二国間の「南大西洋漁業委員会」(SAFC, South Atlantic Fisheries Commission)に基づき、両国が共同で管理(入漁隻数制限、解禁日21日、再生産管理)している。本種は単年性(年魚)であり、世代が重複することがないため、ある年の資源はすべて前年の産卵親イカから生まれてきた子である。このため、いわゆる親子関係(再生産関係)が想定されるが、実際にはある漁期に獲り残された親魚量と翌年の加入量との間の再生産関係は希薄である(Csirke 1987)。

 しかし、管理の面ではある程度においては再生産関係が成立すると仮定し、「来漁期の資源にまわす親を一定量確保する施策」が採用されている。これを相対逃避率による再生産管理と呼ぶ。南方資源は、この逃避率が一定の40%(経験値)となるように目標値を設けている(17)。目標値に達すると終漁措置をとる等、南方資源ではリアルタイムで漁業をコントロールする管理施策が執られている。

17.相対逃避率40%となる漁期と個体数との関係

Fは漁獲死亡係数、Mは自然死亡係数を表す。

 

 逃避率の算出には、漁業が存在しない場合の仮想的な親魚の量(自然死亡係数だけで生き残って産卵に参加)を基準の100%とする。ある時点での逃避率は、この基準に対する“実際の漁業から逃避する親魚量”の割合として算出される。実際の相対逃避率の算出方法は英国とアルゼンチンでは若干異なる。

 英国FICZ内では比較的古くから本種の資源管理を実施してきた。具体的には、同海域で許可されて入漁して操業する全てのいか釣船から週単位で報告される日別操業データ(漁獲量と努力量)を得る。この操業データのCPUEを用いてLeslie-DeLury法によって加入量N0や漁具能率qを推定し、仮定した自然死亡係数(M=0.06/週)に基づき相対逃避率が算出される(Rosenberg et al. 1990)。

 一方、アルゼンチンでは、相対逃避率の算出過程において、商業データとして漁獲量のみを用いる。資源尾数は漁獲死亡係数と自然死亡係数により減少するという漁獲方程式を仮定し、次式(1)のように単位時間間隔の中間点毎で漁獲が行われるとする近似的なVPA漁獲方程式(Pope 1972)と同様に表わされる(Brunetti et al. 2000)。

Ni+1 = [Ni e (-M/2) - Ci] e (-M/2)・・・・・(1

ここで、Nii週の初めにおける資源尾数、N i+1i週の終わりにおける資源尾数、Cii週における漁獲尾数(週の中間点)、Mは自然死亡係数で実際には経験的モデルから推計されたM = 0.06/週を仮定している。

 上記(1)式で、加入尾数に相当するNiは(i=0時における)、漁期初めに行われる漁業と独立したトロール調査船による掃海面積法から推定される。この加入尾数(N0)と全漁船から週毎に報告される漁獲量(尾数に変換)を代入して行き、次週の資源尾数が逐次前進計算されて行く。こうして漁業の進行とともにその時点で生残している資源尾数Ni+1、すなわち産卵親イカ尾数がリアルタイムで算出される。同時に、i週目における相対的な産卵親イカの割合を示す逃避率(Ei)を、漁業がない場合に自然死亡だけで生き残る産卵親イカ尾数に対する漁獲後に獲り残された産卵親イカ尾数(Ni+1)の割合として次式(2)で計算される。

Ei = Ni+1 / (N0 e -iM) 100 ・・・・・(2

 漁期の終了は、ここで計算される相対逃避率が40%を割った時点でアルゼンチン国立漁業研究所(INIDEP)が出す禁漁勧告に基づいて行われる。この逃避率の算出には漁獲努力量データやCPUEを必要とせず、漁船の努力量データを用いた加入量と漁具能率の推定値から逃避率を算出する英国フォークランド方式と異なる。

 以上のように、南方資源の主体である秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)については、英ア両国で相対逃避率による資源管理を実施してきた。しかし、毎年必ずしも逃避率40%が実現されてきたわけではない。1994年から1997年にかけて相対逃避率は40%を大きく割り込んだ(18)。特に、1996年ではわずか11%であった。わずかしか翌年の資源へ残さなかったわけである。この時の絶対逃避量(残した産卵親イカ量)はわずか2.6万トンに過ぎなかった。

18.実際の相対逃避率(%)および絶対逃避量(万トン)の年推移

青の横棒は相対逃避率40%のライン、赤色の破線は絶対逃避量4万トンラインを示す(Brunetti et al. 2003より)

 

 このような秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)の絶対逃避量の減少を避けるため、SAFC2001年に相対逃避率による制限に加え、最低限の親魚量の確保するための絶対的な逃避量として4万トンを勧告した。ちなみに英国は、SAFCが設立される以前(19871991年)の漁業データから得られる逃避親魚量と翌年の加入量との再生産関係から、最低限残すべき産卵親イカ量(SSBmin)を3.2-6.4万トンと試算している(Basson et al. 1996)。

 アルゼンチンのみで管理する北方資源及び同国と英国とが共同管理する南方資源は、ともに漁期を制限する努力量管理方式である。外国漁船の入漁許可隻数等の決定には政治的要素も含まれるが、基本的には1隻のいか釣船が漁獲できる能力は一定と考え、前年の資源量水準から推察して当該漁期の入漁隻数が決められている。

 

執筆者

外洋資源グループ

遠洋水産研究所 外洋いか研究室

酒井光夫

 

アルゼンチンマツイカ(南西大西洋)の資源の現況 (要約表)

資源水準

中位

資源動向

増加

世界の漁獲量

(最近5)

14.094.0万トン

平均:57.5万トン

我が国の漁獲量(最近5年)

1.012.0万トン

平均:5.1万トン

管理目標

逃避率一定となる再生産管理:相対逃避率40%(ただし、資源水準が低い近年の場合は、絶対逃避量4万トンを適用)

資源の状態

2006年秋冬生まれ群(南パタゴニア系群)の加入量:35.1万トン

 

管理措置

アルゼンチンEEZ及びFICZが管理対象(公海は除く)

【南方資源(FICZを含む)】入漁隻数制限、解禁日(21)及び終漁期(逃避率管理によってアルゼンチンEEZ内及びFICZ内それぞれリアルタイムに決定)

【北方資源】入漁隻数制限及び漁期制限(51日〜831)

管理機関・

関係機関

【資源管理】SAFC

【資源評価】アルゼンチン政府及び英国政府がそれぞれの自国管理水域内で実施

 

参考文献

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