アカイカ 北太平洋

Neon Flying Squid, Ommastrephes bartramii

 

最近一年間の動き

2006年は、沖合に分布する秋生まれ群の資源に顕著な回復傾向がみられた。日本近海のアカイカ資源については、それを獲る漁業自体が縮小しているため漁獲量は少ない。特に、主力の中型船は高騰しているスルメイカに狙いを絞っているため、漁獲量が増えない。

 

利用・用途

大型のアカイカは肉厚で柔らかく、美味である。内臓・足・皮を除去して冷凍ロールイカ、惣菜、さきいか、くん製等の加工原料になる。

 

漁業の概要

 1970年代初頭に激減したスルメイカ漁獲を補うために、1974年頃から三陸・道東沖合でアカイカ釣り漁業が始まり、1977年には最高漁獲量(12万トン)を上げた。一方、いか流し網漁業は1978年に三陸・道東沖で始まったが、アカイカ釣り漁業と競合したため、1979年から東経170度以西を釣り漁場、以東を流し網漁場とすることで規制が実施された。その後、いか釣り漁業は縮小したが、いか流し網漁業は1980年代には毎年1222万トンを供給する重要な漁業となり、韓国と台湾も参入した。しかし、流し網漁業は、混獲を主因とする国連決議により1992年末をもってモラトリアムとなった。その後、アカイカの強い需要を反映して日本近海でアカイカ釣り漁業が復活し、1994及び1995年にはともに約7万トンを漁獲した。一方、170°E以東の旧流し網漁場においても、いか釣り漁船が出漁するようになり、1996年以降約12万トンを漁獲している。最近は、中国や台湾の釣り漁船が我が国200海里内外でアカイカを漁獲しており、中国船の隻数は1996年には約350隻、その後は約400600隻、ここ数年は数100隻に達すると言われ、漁獲量は少なくとも我が国に匹敵すると推定される(1)(一井 2002)。

1. 北太平洋アカイカ国別総漁獲量

中国の漁獲量は1994年以降我が国と同程度と仮定(過小推定の可能性大)。

 

 流し網が禁止になった1993年以降、重要度が増している170°E以西の漁業の主体は、沿岸で操業する小型いか釣り漁業ではなく、沖合で操業する中型いか釣り漁業である。19941998年は推定7万トン以上の漁獲量を示したが、資源が急減した1999年以降は1万トン前後まで漁獲量が減少した。最近は漁業の主力である中型いか釣り船の減少や魚価の低迷及びスルメイカ等との兼業もあり漁獲量は回復していない。

 

生物学的特性

 アカイカは外洋性種で、季節的な南北回遊を行う。漁業が行われている北太平洋では、産卵場は日本(南西諸島〜小笠原諸島)や米国(ハワイ諸島)の200海里水域を含む亜熱帯海域であり、索餌場は亜寒帯境界〜移行領域である(2)(村田 1990、村田・中村 1998、谷津 1992)。北太平洋における系群は、発生時期、外套長組成、稚仔の分布及び寄生虫相により秋生まれ中部系群、秋生まれ東部系群、冬春生まれ西部系群及び冬春生まれ中東部系群の4系群に分けられる(谷津ほか 1998、長澤ほか 1998)。(ただし、秋生まれの中部系群と東部系群は、商業流し網CPUEの経年変化が酷似しており、同一系群である可能性がある。)

2. アカイカ春冬生まれ群()と秋生まれ群()の分布と回遊

漁場は索餌域に形成される。

 

 寿命は1年で、最大外套長は雌で60 cm、雄で45 m程度であり(3)、秋生まれ群が大型となる。成長は発生時期や海域により異なるが、雌は生後6ヶ月程度で外套長30cmになり生後約10ヶ月で成熟に達する(1)。

3. アカイカの成長曲線(Yatsu 2000

 

1. アカイカの成熟外套長と最大外套長(谷津ほか1998

 

成熟外套長

3035cm

4045cm

(生後710ヶ月)

最大外套長

45cm

60cm

(生後1年)

 

 春期の北上回遊や夏期の索餌場でのアカイカは、ハダカイワシ類を中心とする魚類、頭足類、甲殻類等を捕食しており、特に前2者が主要な餌生物となっている(Seki 1993、有元・河村1998 保正ほか 2000 Watanabe et al. 2004)。これらの餌生物は日周鉛直移動をすると考えられる(4)。ハダカイワシ類には夜間に表層に浮上する日周鉛直移動性種以外に、オオメハダカやセッキハダカのように昼夜とも中深層に留まる非移動性種も含まれており、アカイカは、夜間の表層のみならず、昼間の中深層でも摂餌することが示唆される(有元・河村1998 保正ほか 2000)。また、索餌場に入る直前のアカイカはキュウリエソを多食している(Watanabe et al. 2004)。一方、アカイカの捕食者として代表的なものはメカジキである(Seki 1993)。

4. 7月のアカイカ漁場でのアカイカの餌と想定される魚探反応の日周鉛直移動

昼間は300600m、夜間は0500

 

資源状態

【秋生まれ中部系群及び秋生まれ東部系群】 旧流し網漁場における盛漁期(7月)のアカイカ調査CPUE1992年末の流し網停止以降、顕著に増加した(5の黒丸実線)。これは、秋季発生系群を対象とした流し網漁業(年間1018万トンの漁獲圧があった)により低下していた調査CPUEが、1993年以降流し網の停止により資源が急速に回復したことを示唆する(Yatsu et al. 2000)。

5. 東経170度以東のアカイカ秋生まれ群の我が国の漁獲量とCPUEの経年変化

北海道大学の北星丸による1999年までの調査流網データ

 

 秋生まれ群の資源量は、商業流網データと調査流し網データを用いて、次の3つの方法で推定できるが、いずれの方法でも非常に似た推定値が得られる (Ichii et al. 2006)

(1)面積密度法 CPUEが最も高くなる7月についてみると、この時期に漁獲対象となるのは索餌北上群である。北上期の移動速度はアカイカ適水温帯の北上速度に一致すると仮定すると、19821992年の平均は0.41 km/時と推測される。この値は標識アカイカの再捕データからの推定値0.39 km/時(新谷 1987)とほぼ同様である。7月の漁場の夜の時間は9時間で、アカイカのバイオテレメトリー調査によると、夜には表層に浮上し、流し網の水深(7 m)以浅の滞在時間割合は平均25%である(田中 2001)。以上より、まず19821992年の1回の操業での1反当たりの有効面積(流し網の長さ×アカイカ移動速度×浸漬時間)は平均185,000uとなる。7月における1反あたりの漁獲量(すなわちCPUE)は平均8.1kgであることより、分布密度は平均0.19g/uと計算される。19821992年の7月の旧流し網漁場(170°E145°W)における適水温帯の面積は平均203万㎢であるので、資源量は平均38万トンと推定される。なお、アカイカの羅網率は100%と仮定している。ちなみに、さけ・ます類については70%と推定されている(Ishida, 1986)

(2)除去法 秋生まれ群は78月には索餌域となる移行領域に分布する。漁獲が集中するこの時期、CPUEの推移に減少傾向がみられるので、この時期の6旬のデータを用いて、71日のアカイカ資源尾数(N0)を推定できる。なお、CPUEは日本のデータを用い、漁獲量Cは日本、韓国、台湾の合計を用い、努力量はC/CPUEから求めた。また、自然死亡率(M)と漁具効率(q)は年によらず一定と仮定した。資源尾数を重量に換算すると19821992年の7月初めの資源量は平均37万トンと推定される。M0.09/10日と推定され、qは次に述べる手法による推定値とほぼ同様の値であった。

(3)非平衡プロダクションモデル イカ類への本モデルの適応例はサハラバンクやカナダイレックスの例がある(Hendrickson et al. 1996 Anon. 1999)。基本的な仮定は次の通りである(田中1999)。@閉じた漁場である、A資源の反応に時間遅れがない、B漁獲開始年齢に変化がない、C年齢組成の変化と資源の増減に関係がない、Dq(漁具効率)、r(内的自然増加率)、K(環境収容力)は一定である。単年性アカイカの場合はA、B、Cの仮定には問題がないと考えられる。Dについては、スルメイカの場合、レジームに応じてパラメータを変化させて本モデルが適用されている(谷津・木下 2002)。そこでアカイカについて、19791998年のデータに基づき解析した。1999年以降のデータを除いたのは、この時期は低い漁獲圧にもかかわらず、低い調査CPUEとなっており(図5)、レジームによる影響が考えられるためである。CPUEに観測誤差を仮定したモデルで解析したところ、19821992年の盛漁期(7月)における資源量は平均33万トンと推定される。

以上、3つの方法で推定した資源量は平均値ばかりでなく、経年変化も同様の傾向を示し(6)、これら推定値は信頼性が高いと考えられる。

6. 面積密度法、除去法およびプロダクションモデルにより推定した、商業流し網時代の秋生まれ群の資源量の推定値 (Ichii et al. 2006)

 

【冬春生まれ西部系群】 本系群は170°E以西に分布し、釣り漁業の主対象となっている。資源変動についてみると、10万トン以上の漁獲量を上げた1970年代後半から、我が国のいか釣り漁業の漁獲量及び調査船のCPUE(尾//時間)が1990年初めまで低下している(7)。さらに、資源量指数の低下と外套長の小型化も指摘されている(村田 1987)。この原因として、@過大な漁獲量(日本の釣り漁業による10万トン以上の漁獲量+韓国・台湾及び170°E以西での我が国の過去の違法な流し網による数万トン以上と推定される漁獲量)及びA環境収容力の低下(親潮域の寒冷化による動物プランクトン現存量の減少; Nagasawa 2001)の可能性が考えられる。

7. 170°E以西のわが国のアカイカ冬春生まれ群の漁獲量とCPUEの経年変化

 

 89月に北西太平洋で実施しているいか釣り調査の平均CPUEによると、最近の日本近海域のアカイカの資源変動は下記のとおりである。流し網が行われていた期間を含む19791993年まで平均CPUEは低水準(1.19.4)であった(図7)。その後、19941998年まで平均CPUE1996年を除いて高水準(10.914.9)が続き、資源水準も高かったと推定される。しかし、1999年に資源水準は顕著に低下し、2000年を除いて2002年まで低水準(0.42.3)であった。そして、2003年に再び回復し(6.7)、2004年も前年を上回る高い水準(12.6)を示した。その後、再び低水準となっている。以上のように、近海域の資源は比較的短い期間(数年〜10年)で大きな変動を示していた。

 現存量については幾つかの推定値があるが、不確実性が大きく、信頼性のある値は得られていない。まず、19841988年夏季の千島列島南部水域において、夜間の灯火観測点での目視に基づき、平均密度が3371,172/km2と推定されている(スロボッコイ 1990)。アカイカの平均体重を500 gとし、この密度を170°E以西の西部北太平洋に引き伸ばすと、1440万トンとなる。夜間に海表面に分布するのは全資源の一部であるため(中村 1995、田中 2001)、この点では過小評価であるが、灯火による集魚効果と考えると過大評価である。また、村田・嶋津(1982)はDeLury法により、1979年の西部北太平洋(冬春季発生群)の初期資源量の推定値を最大28千万尾(体重500 gとして14万トン)と見積もった。継続的な加入と移出を考慮すると、ある時点における現存量と初期資源量は単純には比較できないが、両者は数十万トンと概ね一致している。一方、19831995年の4045°N140165°Eの西部北太平洋において、浮魚類を対象とした表中層トロールにより、アカイカ現存量が推定されており(Belayev and Ivanov 1999)、その結果を170°E以西に引き伸ばすと、105300万トンとなる。ただし、表中層トロール調査の場合、現存量の推定値は漁獲効率(曳網した海水中に分布する生物のうち漁獲される割合)の仮定値により大きく影響される。

 

管理方策

 170°E以東の秋生まれ群については、商業流し網による1020万トンの漁獲量は、プロダクションモデルの相対漁獲係数(F/Fmsy)でみるとほぼMSYレベルに相当する(2)。特に漁獲が最も多かった1987-1990年頃にMSYレベルとなっている(8)。また相対逃避率(漁獲せずに残した親イカ量の割合)も漁獲が最も多かった頃にほぼ40%となっており、これはイカ類の資源管理の目標値に相当する。すなわち、商業流網による漁獲は適正レベルであったと考えられる。従って、当面の妥当な漁獲量目標は、秋生まれ中部系群及び秋生まれ東部系群については約16万トン程度である。ただし、19992002年に調査CPUEが非常に低くなっており(5)、この原因としてレジームシフトによる本系群の産卵場である亜熱帯前線域の基礎生産の低下(Bograd et al. 2004)が考えられる。その後、資源レベルは回復傾向にあるので、この漁獲目標を採用しても大きな問題はないと考えられる。

 

2. アカイカ170°E以東の秋生まれ群のMSYレベル

期間

19791998

MSY(万トン)

15.9

K(環境収容力;万トン)

53.4

r(内的自然増加率)

1.19

BMSY

K / 2

FMSY

r / 2

 

8. 商業流し網時代の秋生れ群の逃避率とプロダクションモデルによる相対漁獲係数の経年変化 (Ichii et al. 2006)

 

 170°E以西の冬春生まれ系群の管理方策については研究途上のため、「経験的にCPUEを連続して減少させないようにする」ことである。CPUEの経年変化より、10万トン以上の漁獲は過剰の可能性がある。冬春生まれ西部系群を漁獲しているのは日本、中国、韓国及び台湾と考えられ、近年では釣り漁法及び違法な流し網漁法により、中国が最も多い漁獲を行っていると考えられている。近年の日本漁船は、アカイカを専獲する漁業形態を取っておらず、資源に対する漁獲圧は小さいと考えられる。しかし、他の国の漁業実体が明らかではないため、漁業全体が資源に与えている影響は不明である。なお、1999年から2002年にかけてみられた資源減少については、その後の資源回復も確認されていることから、海洋環境など非人為的要因が大きいと考えられる。

 

アカイカ(北太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準

低位

資源動向

横ばい

世界の漁獲量

(最近5年)

1.17.7万トン(秋生れ系群及び冬春生れ西部系群)

平均4.5万トン

我が国の漁獲量

(最近5年)

0.53.3万トン(秋生まれ系群及び冬春生まれ西部系群)

平均2.0万トン

管理目標

MSY15.9万トン

(秋生まれ系群)

経験的にCPUEを連続的に減少させない:10万トン

(冬春生まれ西部系群)

資源の状態

検討中

管理措置

大規模流し網禁止(国連決議)

管理機関・

関係機関

北太平洋の海洋科学に関する機関(PICES

 

執筆者

 外洋資源グループ

 遠洋水産研究所 外洋いか研究室

 一井太郎

 

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