カラフトマス 日本系

Pink Salmon, Oncorhynchus gorbuscha

200510月幌別川


 

最近一年間の動き

カラフトマスの2005年漁期の沿岸での漁獲量は820万尾で、前年度比160%であった。水揚げ単価は、前年度の1.3倍の177円/kgとなり2004年に引き続き上昇した。そのため、漁獲量が増加したことと相まって水揚げ金額は前年比88%増の21億円となった。6月末から始まった2006年漁期は前年度同期と比較すると漁獲量は減少している。1994年以降、偶数年が豊漁年で奇数年が不漁年というパターンがしばらく続いていたが、2003年以降にこの偶数・奇数年の関係が逆転し、2006年も不漁年となりこのパターンが継続している。

 

利用・用途

カラフトマスは塩蔵品のほか、生鮮でも利用されている。サケより小振りなことからチャンチャン焼きによく利用されている。加工品としては缶詰が多いが、魚卵製品として筋子がある。

 

漁業の概要

日本系カラフトマスは、我が国の河川と沿岸で先史時代から漁獲されてきた。北洋さけ・ます漁業では、日本系カラフトマス以外の系群も漁獲していた。しかし、系群識別が不可能なためその混合率の推定は困難で、そのため日本系カラフトマスの沖合域での漁獲量を確定することができない。我が国では1970年代以降、沖合域での漁獲量は徐々に減少し、近年では主に沿岸域で漁獲される(Eggers et al. 2003)。2004年のます類の海面での漁獲量(カラフトマスの他に若干量のサクラマスを含む)は17,100トン(海面漁業の0.38%)であり、漁業生産額は28億円(海面漁業生産額の0.26%)である(農林水産省統計部 2006)。また、2005年におけるカラフトマスの漁獲量は15,893トン(11,115千尾)であった(Fisheries Agency of Japan 2006)。なお、最近5年間の漁獲量は0.92.3万トン(615百万尾)である(図1)。

1. 日本の漁業によるカラフトマスの漁獲量経年変化(歴年)

 

生物学的特性

日本系のカラフトマスは、主にオホーツク海と根室海峡に流入する河川に産卵のため遡上する。産卵期は、810月であり、雌が河床の砂礫に穴を掘って産卵し、雄が放精した後、雌が再び埋没する。サケやベニザケと比較すると、流速が早い浅瀬で産卵する(小林1968Fukushima and Smoker 1998)。翌年の45月に尾叉長3cm強の稚魚が砂礫中から浮上し、河川ではあまり餌を捕食せず直ちに海へ下る。自然種苗の卵から海に下るまでの生存率は0.143.4%であり、年変動や河川間変異が非常に大きい(Heard 1991)。産卵床の掘り返しによる卵の流出が大きな死亡要因で、密度依存的に死亡率が高まると考えられている(Fukushima et al. 1998)。一方、人工孵化種苗の採卵から放流までの生存率は約80%である。採卵から翌年の春まで給餌飼育されたカラフトマス稚魚は、河川に放流されると速やかに降海する。降海したカラフトマスは、オホーツク海を経て北西太平洋に回遊する(高木ら 1982)(図2)。

2. 日本系カラフトマスの主たる分布域(高木ほか 1982

 

河川生活期中の摂餌は盛んではないが主に水生昆虫(ユスリカ等)や落下昆虫を捕食する。海洋生活期中には動物プランクトン(オキアミ類、端脚類、カイアシ類、翼足類、十脚類幼生等)とマイクロネクトン(幼稚仔魚、イカ等)を捕食する(小林・原田 1966、高木ほか 1982)。

カラフトマスは、サケと同様、幼魚期には海鳥(ウトウ、ウミネコ等)や魚類(ウグイ、マルタ、アメマス、アブラツノザメ、ホッケ、カラフトマス、サクラマス等)、未成魚・成魚期には大型魚類(ネズミザメ、ミズウオダマシ等)や海産哺乳類(ゼニガタアザラシ、オットセイ、カマイルカ等)に捕食される(Heard 1991 Nagasawa 1998Nagasawa et al. 2002)。沖合での自然死亡係数M0.20で(Heard 1991)、一年間の生存率はおよそ80%と推定される。

季節性を考慮したvon Bertalanffy成長曲線は、

で示され(Haddon 2001)、極限体長は68.9cm、成長係数は0.0722である。図3は表1に示す年齢ごとの尾叉長及び体重にこの成長式をあてはめたもので、海洋生活期において、成長と停滞が何回も繰り返されていることが判る。

 

1.カラフトマスの月別平均尾叉長と平均体重(Ishida et al. 1998より抜粋)

年齢

尾叉長(p)

体重(s)

07

13.9

0.03

8

14.6

0.04

9

17.4

0.06

10

23.5

0.14

11

24.3

0.15

12

25.4

0.17

11

25.4

0.15

2

31.7

0.32

3

34.9

0.41

4

38.2

0.58

5

41.0

0.78

6

42.7

0.92

7

45.0

1.13

8

47.5

1.32

9

49.9

1.52

 

3.カラフトマスの月別平均尾叉長±標準偏差(Ishida et al. 1998より抜粋)と成長曲線.

 

カラフトマスは、ほとんど全てが満2年で成熟する。そのため、偶数年と奇数年で繁殖集団が分かれており、資源量は隔年で変動を示している。アロザイム分析によると、同じ河川で産卵する偶数年と奇数年のカラフトマスよりも、同じ年に産卵する日本とアラスカのカラフトマスの方が遺伝的には近縁であり(Hawkins et al. 2002)、他のさけ・ます類と比較すると、母川回帰性が低く、河川間の遺伝的分化は大きくない。カラフトマスは、810月になると産卵のために沿岸域へ近づき、漁獲対象となる。遡上親魚の多くは人工ふ化放流のために捕獲されるが、自然産卵も多い。成熟時の体サイズは年により変動し、平均尾叉長は概ね4661cm、平均体重は1.12.1kgである。性比はほぼ11、平均孕卵数は1,3001,700粒である(独立行政法人さけ・ます資源管理センター 2002)。

 

資源状態

1990年代以降の北太平洋全体のさけ・ます類の資源状態は歴史的に高い水準にあり(Eggers et al. 2003)、日本沿岸で漁獲される日本系カラフトマスの資源量も最も高い水準にあるが、その変動幅は大きい。このことは、1952年からロシア、カナダ及び米国との共同で実施している北太平洋での、流網によるさけ・ます類の分布・資源量のモニタリング調査の結果でも明らかになっている。すなわち1990年代以降、日本系カラフトマスの主分布域である西部北太平洋では、カラフトマスのCPUE10種目合い調査流網30反当り漁獲尾数)が高い水準にある(図4)。

4.調査船によって得られたカラフトマスCPUEの経年変化(Nagasawa et al. 2006).

 

我が国における19692005年の日本系カラフトマスの沿岸漁獲数、河川捕獲数及び稚魚放流数を図5に示す(付表1)。稚魚放流尾数は、1970年代には5,000万尾前後で大きく変動したが、1980年代以降約1.4億尾で安定している。それに対し、沿岸漁獲数と河川捕獲数の合計である回帰数は、1970年代後半から1980年代前半には約100万尾であったが、1990年代にはほぼ500万尾以上となった。1994年から2002年までは、偶数年が1,500万尾、奇数年は700万尾前後と偶数年が多かったが、2003年以降、回帰数の偶数年と奇数年のパターンが逆転している。

5.日本系カラフトマスの来遊数と放流数の推移(歴史的データは付表1参照)

 

現在、カラフトマスの資源量は、高位水準、横ばい傾向にあるといえる。カラフトマスの回帰数は、成熟年齢が満2歳ということから、2年前の回帰数と強い相関関係がある。また、網走市における1年前の12月の気温及び2年前の910月の降水量との間にも有意な相関があり、次の重回帰式が得られた(図6)。

 回帰数=0.693×(2年前の回帰数)640220×(1年前の1-2月平均気温)21465×(2年前の9-10月降水量)1919585n35r20.800

6.日本系カラフトマスの回帰数の予測値と実測値の関係

 

 つまり、カラフトマスは、親魚数が多く、卵期が暖冬で、産卵期の降水量が多いほど、その回帰数が多くなることを意味している。なお、放流数と回帰数にも正の相関が認められたが、統計的に有意ではなかった。このような環境要因とカラフトマスの資源変動の相関関係は、北米等では古くから報告されている(Wickett 1958Heard 1991)。

日本系カラフトマスの回帰数は、1980年代後半から急激に増加したが、その原因として1980年代後半から1990年代前半にかけての暖冬が関与していた可能性がある。また、1992年級群及び2001年級群の再生産効率が著しく高かった理由として、産卵期の降水量が著しく多かったことが考えられる。なお、上記の重回帰式から求められた2006年の回帰数は過去15年間の中で2番目に低くなることが予測され、実際の資源の年変動パターンと回帰数はほぼ予測通りで、そのレベルは2004年度と同様に低かった。

 カラフトマスを含むさけ・ます類の資源変動は、エルニーニョの発生や、アリューシャン低気圧勢力の強弱による北西太平洋での餌生物量の増減などの沖合の海洋環境の影響が指摘されている。また、生活史の中では海洋生活初期の沿岸滞泳期での減耗が最も大きいと考えられている。したがって、カラフトマスの資源変動の予測精度をさらに向上させるためには、沿岸・沖合を通じた海洋生活期で影響を受ける環境変動要因を考慮する必要がある。

 

管理方策

日本系カラフトマスの再生産関係は、2003年に位相のずれが観察されたが、偶数年と奇数年による顕著な周期性を有しつつ推移してきた。そこで、奇数年である2007年の回帰数を1989年以降の奇数年の平均値である689万尾とおいて現状を維持できる水準の河川捕獲数を1989年以降の平均値の97万尾とすると、河川遡上数をその水準で獲り残すという、産卵親魚量一定方策(とり残し管理閾値管理ともいう)を採用したとき、2007年の持続的漁獲量は689 – 97 = 592万尾と計算される。

現在、日本系カラフトマスの人工ふ化放流は、増殖計画に従って実施されている。今後も資源の持続的利用を図るため、水産庁、地方自治体、漁業団体及びさけ・ます増殖団体の緊密な連携協力が必要である。その一方で、自然産卵の重要性が示唆される研究結果が出ており(Morita et al. 2006)、ふ化放流に使用しない親魚の再放流及び自然産卵河川の環境整備等も考慮に入れた管理を行なうことが望ましい。カラフトマスの放流効果については不明であり、近年実施された標識放流の結果からは、放流魚の添加率がそれほど高くない可能性もある。今後は、放流魚の資源への寄与度合いを明らかにするとともに天然魚の再生産量に対応して人工孵化放流魚の数をコントロールする管理手法の開発を検討することが課題としてあげられる。そのためにモデル河川での実証的実験手法を用いてデータの集積を図る必要がある。

また、北太平洋では他の沿岸国起源のカラフトマスが混合して分布するため(高木ほか 1982)、国際資源管理の対象となっている。このことから、沿岸各国と協同して海洋域における環境収容力や高次生物生産の調査研究を進め、索餌域である北太平洋の生物生産を考慮した資源管理方策を開発する必要がある。

 

執筆者

北西太平洋グループ さけ・ますサブグループ

北海道区水産研究所

森田健太郎・福若雅章・東屋知範・永澤

さけますセンター

関 二郎・長谷川英一

 

カラフトマス(日本系)の資源の現況(要約表)

資源水準

高位

資源動向

横ばい

我が国の

漁獲量

(最近5)

0.92.3万トン

平均:1.6万トン

管理目標

現在の資源水準の維持

目標値

平均回帰数(過去10年)

10.4百万尾

資源の現状

目標値に対する2006年の回帰数の比率=0.97

管理措置

持続的漁獲量5.9百万尾

稚魚放流1.4億尾

幼魚,未成魚期,成魚期EEZ外,成魚期河川内禁漁

資源管理・

評価機関

NPAFC(北太平洋溯河性魚類委員会)・日ロ漁業合同委員会

 

参考文献

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