トド 北太平洋沿岸・オホーツク海・ベーリング海

Steller Sea Lion, Eumetopias jubatus


 

最近一年間の動き

200523月および200634月には北海道日本海において広域の航空機目視調査が実施され、海域によっては沖合域に分布していることが確認された。

 

利用・用途

 我が国では、戦前に択捉島等で商業的に捕獲され、皮、脂肪、食道等様々な部位が利用されていた。それぞれ皮、食道及び鰭については皮革に、肉及び肝臓については食用、脂肪については油、胆嚢については医薬品、精巣については強精剤等の用途があった。現在は、肉が生食、缶詰原料、土産物等として利用される。その割合等については不明である。

 米国では、先住民が自家消費として捕獲しており、皮や肉を衣服や食用に利用している。

 

漁業の概要

【国内の状況】本種は、19101940年代に択捉島や千島列島において、オットセイやラッコの代替獣として捕獲されていた。年間捕獲数は最大4,0005,000頭に達し、皮、脂肪、肉等が利用されていた(宮武 1943)。その後の利用状況は明らかではないが、1959年より深刻な漁業被害を背景に有害動物としての採捕が始まった。従来、トドの採捕には特に制限が設けられていなかったが、国際的な野生生物保護の気運の高まりを背景に、水産庁は農林水産省告示第293号「野生動植物の保護に関する基本方針」に基づき、米国やロシアで個体数が激減している本種を希少種に指定した。これを受け、1994年度より漁業法第67条第1項に基づく北海道連合海区漁業調整委員会の指示により、採捕数の最高限度が年間116頭に制限された。採捕状況を1に示す。採捕されたトドの一部は食用として利用されている。

1. トド採捕頭数の推移 (北海道水産林務部資料)

 

【他国の状況】米国では、1972年の海生哺乳類保護法制定以来、商業的な捕獲は行われていないが、自家消費としての捕獲は主にアリューシャン列島やプリビロフ諸島で先住民によって行われている。Wolfe et al.2004によれば、資料のある1992年以降の年間捕獲数(海没を含む)は、1992年の推定549頭(95信頼区間452712頭)を最大に減少傾向にあり(最小値は1997年の推定164頭、95信頼区間132227頭)、2004年には推定216頭(95信頼区間:147335頭)であったWolfe et al. 2005)。なお、最近5年間(20002004年)の年平均捕獲数は推定約196171216頭)であるWolfe et al. 2005より)。

 

生物学的特性

本種は鰭脚目アシカ科最大の種である。雄で体長325 cm、体重1,100 kg、雌でそれぞれ240290 cm350 kgに達し、顕著な性的二型を示す。体の伸長は雌で5歳頃に停滞するのに対し、雄では10歳頃まで成長を続ける(磯野 19992)。雌雄とも37歳で性成熟に達し、雌は性成熟に達すると繁殖を開始するが、多くの雄はテリトリーを形成できる911歳まで繁殖を開始することはできない。寿命は雌で30歳程度、雄で18歳程度である(Calkins and Pitcher 1982)。雄は5月初旬から7月中旬までテリトリーを維持し、平均10頭前後の雌を囲い込んでハレムを形成する。出産は5月下旬から7月初旬にかけて行われ(ピークは6月中旬)、雌は出産後1114日で交尾を行う。34ヶ月の着床遅延があることが知られ、出産率は5563 %と推定されている(Pitcher and Calkins 1981Calkins and Goodwin 1988)。新生子は一般に1歳で離乳する。夏は繁殖場に集中し、秋から冬は拡散する。

2. 体長と年齢の関係 (磯野 1999)

 

本種は中央カリフォルニアから日本北部までの北太平洋沿岸域に分布する(3)。mtDNAの分析結果から、アラスカのサックリング岬(西経144度)を境界に大きく2つの系群、すなわち東部及び西部系群に分けられる(Bickham et al. 1996)。さらに、西部系群は、系群とするまでの遺伝的差異は認められないものの、中央集団とアジア集団に分けられるとされる(Bickham et al. 1998Trujillo et al. 2004)。アジア集団の分布域における繁殖場と上陸場の位置を4に示した。

3. トドの分布 (Trujillo et al. 2004にもとづく)

 

4. アジア地域の繁殖場と上陸場の分布 (Burkanov 2000にもとづく)

 

日本近海には繁殖場はなく、冬季115月に、北海道日本海側と根室海峡を中心に来遊が見られる。これらの個体は、千島列島とオホーツク海沿岸の繁殖場から来遊すると推察される。ロシアでは1987年から現在までに7ヶ所の繁殖場で新生子への標識付けが行われており、北海道周辺では58頭の標識個体が確認されている (Isono et al. 2004)。その多くは千島列島のブラッドチルポエフ島(45 %、4-A)、スレドネバ岩礁(31 %、4-B)で標識された個体であったが、他の千島列島の全ての繁殖場及びイオニー島(オホーツク海北部、4-C)で標識された個体も少数観察された (Isono et al. 2004)。しかし、チュレニー島(サハリン、4-D)では標識付けが行われておらず、北海道沿岸での混合割合は不明である。

 本種は、日本近海で繁殖活動は行わないものの、その滞留中、繁殖に備えてエネルギーを蓄積するための索餌海域として重要と考えられる。北海道日本海側にはいくつかの上陸場が存在し、大規模なものとして、雄冬(おふゆ)岬(図4-E)と神威(かむい)岬(4-F)が知られている。一方、根室海峡に上陸場はなく、羅臼沿岸で遊泳個体が観察される。また、近年、下北半島周辺への来遊も確認されており、2004年度には最大同時確認が6頭であった。

本種の北海道沿岸における食性は、胃内容物の解析から底棲魚類や頭足類であることが明らかとなっている。1970年代には利尻・礼文島周辺及び内浦湾での食性調査が行われ(加藤 1976、伊藤ほか 1977)、同海域の23月の餌生物としてホッケとホテイウオが重要であった。その後、1990年代に北海道各地で行なわれた食性調査ではスケトウダラ、マダラ、タコ類等が卓越していた(後藤 1999)5)。主要餌生物は年代、季節及び地域により大きく異なり、本種はその場で得やすいものを捕食する(機会的捕食者)と推察される。また、羅臼沿岸域におけるトド1頭(平均体重325kgの場合)あたりの1日の摂餌量は17.924.6kgと推定されている (後藤 1999)

5. 北海道沿岸のトドの食性 (後藤1999にもとづく)

 

一方、本種の捕食者としてシャチやオンデンサメが報告されている(Matkin et al. 2002Hulbert et al. 2002)

 

資源状態

【資源の動向】本種は、繁殖場及び上陸場での直接観察に基づき、1950年代後半から1960年代前半には、世界的に24万〜30万頭が生息していたとされる(Kenyon and Rice 1961Loughlin et al. 1984)が、1970年代より個体数は減少し、1989年には116,000頭と推定された(Loughlin et al. 1992)。減少は主に西部系群で起こり、過去20年に75 %以上が減少したとされる(Calkins et al. 1999)。一方、東部系群は地域的な差異はあるものの、全体としては1980年以降増加傾向にある。西部系群についても20002004年には約3%/年で増加傾向にあることが報告されている(National Marine Fisheries Service 2006)。西部系群の1970年代以降の減少要因として、レジームシフトに関連した環境変化や漁業との競合に起因する餌生物資源の量的・質的変化が有力視されている(Loughlin 1998)。また、1990年以降の減少は栄養的ストレス以外の要因による可能性があり、捕食や人間活動、病気、汚染等の影響が指摘されている(DeMaster and Atkinson 2002)。

米国では、1990年にEndangered Species Actの下、本種を危急種に指定したが、1997年には西部系群を絶滅危惧種に格上げした。また、ロシアでも絶滅危惧種に指定されている。

アジア集団について過去の資源量は、1960年代半ばに約40,00050,000頭(過去の異なる年代の記録から推定、Perlov 1991Loughlin et al. 1992)とされている。その後、1989年に近年では最も包括的な個体数調査が行われ、観察個体数はロシア全域で約10,000頭であった(Loughlin et al. 1992)。この観察頭数に基づきLoughlin et al. (1992)は、資源量を17,112頭と推定している。また、Burkanov and Loughlin (in press)2005年の資源量について、約16,000頭と推定しているが、その方法及び確からしさは不明である。

アジア集団の中でも日本への来遊起源であると考えられている千島列島及びオホーツク海沿岸(オホーツク北部及びチュレニー島)の近年の個体数の変遷(Nikulin 1937Klumov 1957Perlov 1977Merrick et al. 1990Loughlin et al. 1992Burkanov 2000)6に示した。調査域が年代によって大きく異なっているため、千島列島においては全年代を通じて比較可能な現存する5カ所の繁殖場の個体数のみを、オホーツク海北部においては2ヶ所の繁殖場のみの値を示した。千島列島及びオホーツク海北部の繁殖場においては、1980年代までの急激な減少の後、1990年代初頭以降多くの地域で増加傾向を示している(Burkanov and Loughlin, in press)。一方、チュレニー島の個体数は、1989年まで200頭程度であったが(Perlov 1991)、近年顕著な増加傾向を示し(7Kuzin 2004)、19891999年には年平均24.8%の割合で増加した(Burkanov 2000)。また、1974年以降は繁殖がしばしば確認されるようになり、現在、繁殖場として認識されている(Burkanov 2000)

6. 千島列島及びオホーツク沿岸域の個体数の変遷 (Nikulin 1937Klumov 1957Perlov 1977Merrick et al. 1990Loughlin et al. 1992Burkanov 2000にもとづく)

 

7. チュレニー島の個体数変化(Kuzin 2004にもとづく)

 

【来遊の動向】北海道周辺への来遊動向は年代ごとに大きく変化している。19201970年代には54ヶ所の上陸岩礁が北海道全域に分布しており(山中ほか 1986)、来遊頭数は定かではないが、過去の採捕実績(1960年代は平均870/年、1)から、少なくとも1,000頭以上は来遊していたと推察される。1980年代になると上陸岩礁への上陸数及び上陸岩礁の数ともに多くの海域で減少した(山中ほか 1986)8)。特に、回遊域の末端部で来遊数の著しい減少と回遊路の短縮が起こっていると考えられ、太平洋側では襟裳岬や新冠、内浦湾への来遊が激減し、日本海側では積丹以南への来遊が見られなくなった。根室海峡側では、200頭以上の群れが観察されていた (山中ほか 1986)8)。

8. 過去(192070)198185年の間に調査・報告されたトド上陸場の分布 (山中ほか 1986)

(番号は1に対応)

 

1. 過去(192070)198185年の間に調査・報告されたトド上陸場と上陸数 (山中ほか 1986)

 

 

過  去

 

調査時(198185年)

番号

名  称

年  代

平年最多上陸数(頭)

 

平年最多上陸数(頭)

1

種島

1970年代後半まで

150

 

まれに数頭

2

平島

1970年代後半まで

150

 

1020

3

海馬島

 

0

4

タタキ島

 

0

5

ゴロタ岬

1920年代前半まで

 

0

6

弁天島

-

5060

 

5060

7

鬼志別トド岩

-

150

 

150

8

天売島屏風岩

1960年代中頃まで

100

 

0

9

雄冬

1950年代前半まで

10

 

まれに12

10

群来岬トド岩

1920年代前半まで

30

 

0

11

室津島

1920年代前半まで

30

 

0

12

新冠トド岩

1950年代後半まで

100

 

0

13

襟裳岬

1960年代後半まで

30

 

まれに12

14

ユルリ島

1970年代前半まで

100

 

0

15

デバリ

1960年代前半まで

2030

 

0

16

知床岬

 

0

 

近年、日本海への来遊頭数は1980年代よりも増加し、奥尻島や下北半島まで南下する個体も少数ある。また、雄冬岬周辺や積丹半島周辺に特に集中し、これらの地域では長期滞留傾向を示している。19992003年度に北海道日本海沿岸で実施された航空機及び陸上からの目視調査では、138390頭が観察されている(桜井 2003)。

2004年度より、我が国におけるトドの来遊量及びその生物学的特性を明らかにし、更に生態系における位置付けを明確にすること及びトドによる被害を受けにくい強化漁具の開発により、トドと漁業の共存を可能ならしめる持続的利用方策の策定に資することを目的に、国際資源調査等推進対策事業の中でトドの資源調査が開始された。その一環として、独立行政法人水産総合研究センター北海道区水産研究所では、2004年度から資源量推定を目的とした飛行機目視調査を開始した(9)。200523月および200634月には北海道日本海(積丹半島から宗谷海峡)の広域調査を実施し、海域によっては沖合域に分布していることを確認した(9)。一方、根室海峡側では航空機を用いた調査はほとんど行われておらず、来遊傾向を把握できるデータは乏しい

9. 航空機目視調査の調査定線とトド発見位置

 

【回遊様式】北海道沿岸において本種は、性別と年齢により異なる回遊様式を示すとされ、1980年代の模式図(山中ほか 1986)を10に示した。それよると、サハリンからの集団は主に日本海側を南下し、雄成獣や雌、幼獣はサハリン南部や北海道北部に留まるが、雄の若齢獣は積丹半島まで到達する。一方、千島列島からの集団は根室海峡から太平洋岸に来遊するが、雌は根室海峡で滞留し、雄成獣は襟裳岬、雄の若齢獣は内浦湾まで到達するとした。また、両者の集団は北海道沿岸で交流していないと考えられていたが、最近年の来遊個体の性比・年齢構成から、従来とは異なる回遊様式が提案されている(星野 2004)(11)。すなわち、根室海峡には従来どおり千島列島からの雌主体の群れが滞留するが、太平洋側に到達する集団はほとんどない。千島列島とサハリンの集団は北海道日本海側で合流し、北部には雌雄混合群、道央から北桧山には成熟雌及び若齢雄を含む成熟雄主体の群れが滞留する。

10. 1980年代の回遊模式図 (山中ほか 1986)

 

11. 近年の来遊状況と回遊模式図 (星野 2004)

 

日本の来遊起源であるロシアの個体群動態と北海道への来遊動向の変遷との関係は不明であるが、前述したようにチュレニー島では1989年頃より個体数が急増しており、このことは日本海側へのトドの来遊傾向(来遊数の増加及び成熟個体の滞留)と関連している可能性がある。

 

管理方策

【漁業被害】本種の世界的な減少傾向にも関わらず、北海道沿岸では深刻な漁業被害があり、近年、被害範囲は青森県にまで拡大している。被害は主に刺し網と底建網に発生している。被害額は漁具被害と漁獲物被害に分けて集計されており、漁具被害額は漁具そのものが破損され、その修理及び新規購入に掛かった金額並びに漁獲物被害額は漁具の破損によって起こる漁獲の損失推定額とされる。北海道における漁業被害額の推移を12に示す。近年、10億円を超える被害額が報告されており、その被害は北海道日本海側に集中している。また、深刻な漁業被害のため漁家によっては休漁も余儀なくされているが、その機会損失額は計上されていない。

12. 漁業被害額の推移 (北海道水産林務部資料)

 

【被害対策】漁業被害を軽減し、漁業と本種の共存を図るべく、強化定置網の普及、強化刺網の開発、猟銃による採捕及び生態調査を行っている。

小型定置網等に対する被害対策としては、ベクトランを用いた強化網を使用することで一定の効果が得られている。刺網については、通常のナイロン製の1枚網の両側に、強化繊維(2003年度まではダイニーマ、2004年度からテトロンを使用)の保護網を取り付けた網(強化網)の開発と実証化試験が行われている。過去には、音波や臭気等を用いた忌避システムの開発が試みられたが、本種の高い学習能力のため、継続的な効果を得ることはできなかった。本種の採捕は、年間116頭を上限に行われている。

【管理上の提言】本種の管理方策は、トド資源の維持と漁業被害の軽減という双方の観点から議論する必要がある。この管理方策は科学的知見に基づいたものであるべきだが、現状では十分な知見が得られているとは言い難い。特に、1)アジア集団内の個体群構造や回遊様式、2)来遊起源及びその資源量、3)我が国への来遊個体数等に関する知見が必要とされている。

また、採捕は、資源量と生物学的特性に基づき科学的に行われるべきであり、同時に採捕の影響と効果を評価することも必要である。

本種を国際資源として管理する取組は緒についたばかりであり、漁業と本種の共存を目指した管理方策の策定に向け、科学的知見の充実を図る必要がある。

 


トド(北太平洋・オホーツク海・ベーリング海)の資源の現況(要約表)

資源水準

調査中

資源動向

調査中

世界の漁獲量

(最近5)

(米国のみ)

171216

平均:196

我が国の漁獲量

(最近5)

91109

平均:100.6

管理目標

検討中

資源の状態

検討中

管理措置

(日本)

年間116頭に捕獲制限

管理機関・

関係機関

北海道連合海区漁業調整委員会

 

執筆者

北太平洋グループ・トドサブグループ

北海道区水産研究所 生態系研究室

服部 薫・山村織生

 

参考文献

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