イシイルカ

(太平洋・日本海・オホーツク海Dall's Porpoise, Phocoenoides dalli)

イシイルカ型イシイルカ(左)とリクゼンイルカ型イシイルカ()(撮影:宮下富夫)

白斑部の長さの割合が異なることが明瞭に見て取れる。両型の分布域の境界付近では

このように混じった群れが見られることもある。なお、本文中では、

以後イシイルカ型およびリクゼンイルカ型と呼ぶこととする。

 

最近一年間の動き

 2005年のイシイルカ型の捕獲は2003年以前と差がないようで2004年の減少は一時的な傾向であったと考えられる。現在、調査データに基づいて資源量の改訂作業を進め、同時に捕獲枠の見直しも行っているところである。

 

利用・用途

 小型歯鯨のうちのいわゆるいるか類には、水族館等の展示用の生体として販売されるものがあるが、本種は飼育例も少なく、また生体を捕獲できる漁法ではないため、食用として捕獲されている。筋肉と脂皮が刺身用、煮物用、加工用などに利用される。

 

漁業の概要

本種は、第二次世界大戦前から三陸の突きん棒漁業によって捕獲されている。1970年代までは冬季に三陸沖で日帰り操業するのが主であったが、1980年頃に他県海域に遠出する船が現れ、1985年頃から北海道海域での操業が本格化した(粕谷・宮下 1989)。

現在も岩手県、北海道、宮城県及び青森県の漁船(20トン未満)が行っているが、岩手県船の捕獲頭数が約9割を占める。岩手県船の操業パターンは、114月に三陸の地先海域で日帰り操業し、5月半ばから6月末まで北海道の日本海沿岸、910月に北海道のオホーツク海沿岸あるいは道東太平洋沿岸の港を基地に日帰り操業(沖泊まりはしない)を行うものである。イシイルカ漁業者の多くは、時期と海域によってカジキ漁やイサダ漁なども行う兼業者である。

1993年には現在の捕獲枠が設定された。漁場と系群は三陸沿岸においてはほとんどがリクゼンイルカ型でわずかにイシイルカ型が混じり、北海道沿岸ではほぼ全数イシイルカ型である。

この漁業は岩手県においては1989年に県知事許可漁業となった。また省令改正により20024月までには他道県においても海区漁業調整委員会による承認漁業から知事許可漁業に移行した。

水産庁の統計によれば、大型捕鯨業がモラトリアムに入る前(1987年以前)は年間20,000頭以下の捕獲頭数であったが、モラトリアム以降は鯨肉の流通不足を補うためか、1988年に捕獲頭数が40,000頭以上へと急増した(1)。この年までの統計では、イシイルカ型とリクゼンイルカ型が区別されていない。捕獲頭数の推移は暦年で示したが、捕獲枠は8月から翌年7月までの1年を単位として管理されているため、見かけ上は捕獲枠を超えている年もある。また、探索は人の視力に依存しているため、捕獲動向は天候・海況に左右される。なお、捕獲統計のうち北海道沿岸における道内船の漁獲物の一部は洋上で製品に処理してから水揚げされている。こうした漁獲物については正肉50キログラムをイシイルカ型1頭として換算してある(端数切り上げ)。

1. イシイルカ捕獲頭数の推移(19792005)(水産庁遠洋課集計)

各年の捕獲頭数については、付表1を参照。

 

浜値は1994年頃の好況期には内臓抜きの鯨体(イシイルカ型190キログラム台、リクゼンイルカ型80キログラム台)1キログラムあたり600円台ということもあったが、近年は下落している。業界は魚価を300円台以上に維持するために生産調整を行っているように見受けられる。ここ数年の浜値下落は歯鯨製品に共通の傾向と思われる。要因としては、鯨類捕獲調査の拡充(2000年に北太平洋のニタリクジラ・マッコウクジラ、2002年に北太平洋のイワシクジラ・我が国沿岸のミンククジラの調査開始)、と省令改正による定置網混獲鯨の流通解禁(20017月)を受けてひげ鯨に需要が傾いたこと及びJAS法改正により製品名を「鯨」とすることができなくなったことが考えられる。

1970年代以降、大規模な北洋さけます流し網・いか流し網漁業によってイシイルカ型個体が混獲されており、年間3,000頭程度と推定された年もある(Anon 19921993)。しかしこれらの漁業は、国連決議に従って1992年を最後に停止された。これらの他、沿岸の刺し網、定置網への混獲が少数報告されている。

 

生物学的特性

 本種は北太平洋及びその隣接海域の固有種である。2の個体のように体側の白斑が背鰭近くから始まるのがイシイルカ型で、3の個体のように胸鰭基部から始まるのがリクゼンイルカ型である。まれに全身黒い黒化型や、その逆の白化型が見られる。分布域内を冬季に南下、夏季に北上する。本種は大きな群れは作らず、群れ構成頭数は概ね10頭以下である。繁殖は季節が限られており、晩春から夏に出産する(11仔)。冬季には成熟雄の精巣に精子が見られず、また成熟雌の排卵もほぼ夏季に限られる。妊娠期間は1年弱。両型ともに体長85100cmで生まれる。イシイルカ型の雄は45歳、体長190cm前半、雌は34歳、体長180cm後半で性成熟に達する。

2. イシイルカ型イシイルカの体側面

3. リクゼンイルカ型イシイルカの体側面

 

リクゼンイルカ型の雄は56歳、体長190cm後半、雌は34歳、体長180cm後半で性成熟に達する。成熟雌は12年に1回出産し、授乳期間は12ヶ月と考えられている。雌は出産後約1ヶ月で交尾できる。したがって授乳中に受胎することもまれではない。親子連れにもう1頭の個体が加わって遊泳する例が観察されるが、交尾の機会を窺う成熟雄であると推察できる。

寿命は1520歳といわれる(Kasuya 1978Kasuya and Shiraga 1985、仲松2000)しかし本種の場合、歯が極端に小さいため、高齢個体の年齢査定が非常に困難である。そのため正確には未解明である。両型の成長様式は、4、図5の様に推定されている(Kasuya 1978、仲松 2000)。

4. イシイルカ型イシイルカの成長曲線

(上;雄、下;雌) (仲松 2000

 

5. リクゼンイルカ型イシイルカの成長曲線

(上;雄、下;雌)(Kasuya 1978)

 

 夏季に親子連れが発見される海域の分離の様子からは、本種の系群は8個を数えられる(6:吉岡・粕谷 1991)。うち7系群はイシイルカ型の体色型である。日本の漁業に捕獲されるイシイルカ型系群のほとんどは、オホーツク海南西部で繁殖する日本海-オホーツク海系群である。この系群は、冬季には兵庫県沖まで南下し、夏季には日本海を北上して繁殖海域に入る他、道東の太平洋沿岸域にも現れる。一方リクゼンイルカ型の系群はオホーツク海中部を繁殖海域とする。冬季には三陸沿岸まで南下し、秋には道東太平洋沖合に分布する。道東太平洋においては両体色型が見られるが、混群を作ることはまれであり、上述のように沿岸と沖合に分布海域を分け合っている(岩ア・宮下 1992)7)。

6. 北太平洋のイシイルカの分布(吉岡・粕谷 1991を改変)

(繁殖海域にもとづくイシイルカの8系群を示す。1はリクゼンイルカ型系群、

2はイシイルカ型の日本海−オホーツク海系群、38はイシイルカ型他系群の各繁殖海域。)

 

7. 我が国周辺のイシイルカの分布(吉岡 1996

 

ミトコンドリアDNAの塩基配列を分析すると、両体色型間には差異が見られた。両者間では体色型も明確に異なるため、別個の系群として管理するのが妥当である。DNA塩基配列を比較したところ、日本海-オホ-ツク海系群のイシイルカ型と東方の太平洋沖合のイシイルカ型系群との間にも差が認められた(吉田 2002Hayano et al. 2003)。冬季に三陸沖で捕獲される個体には5%ほどイシイルカ型が含まれる。体色型の比較により、これらは太平洋沖合のイシイルカ型系群に属するものと考えられている

Amano et al. 1996。このことから、冬季に三陸沖には北太平洋沖合からイシイルカ系群が流入することが示唆される。

イシイルカ型は、北海道の日本海沿岸では1980年代には主にマイワシを捕食していた。しかし1990年代には日本海系マイワシ資源の崩壊により、スケトウダラを捕食するようになった。スケトウダラにも資源減少の傾向が見られるため、本種による捕食がそれに追い討ちをかけている可能性がある。一方、三陸沖つまりリクゼンイルカ型は、ハダカイワシ類を主に捕食しており、この傾向には変化が見られない(大泉 2002)。

なお、捕食者としてはシャチが挙げられる(シャチの胃内容から本種が報告されている)。

 

資源状態 

イシイルカ型は1980年頃から開発された資源と考えられるが、リクゼンイルカ型は漁獲の歴史が長い。いずれも危急の状態とは判断されていないが、現在は各種調査データを検討している状況にある。

オホーツク海を含む海域で19891990年夏季に実施した目視調査を基に、イシイルカ型226,000(変動係数0.15)、リクゼンイルカ型217,000頭(変動係数0.23)と推定されている(Miyashita 1991)。しかし上記調査から10年余りを経ているので、現在再推定を進めているところである。新たな資源量推定値を得るには、夏季にオホーツク海のロシア200海里水域に入域できること、同時に実施するミンククジラ目視調査と調査設計上両立させることが鍵となる(宮下 2002)。2003年にはようやくロシア200海里水域に入域して調査できた。今後も適切な時期におけるロシア200海里水域内での調査継続が望まれる。

資源水準については、規制および操業形態等の変化があり、見定めることが非常に困難であり、調査継続中である。しかしながら、過去5年間の捕獲頭数がほぼ安定していることから近年の資源動向は横ばいと考えられる。

 

管理方策

 鯨類の再生産率は14%と経験的に考えられている。前述のように出産間隔から本種の再生産率が高い方(34%)であることが窺える。資源量と再生産率に捕獲実績等を加味して1993年に水産庁が捕獲枠を設定した。これは沿岸の漁業資源の一部に生物学的許容漁獲量(ABC)が導入されたのに先んじている。捕獲枠は体色型別、道県別に配分されており(1)、各道県はABCに準じた資源管理責任を有すると言えよう。

1. 型別・道県別捕獲枠(岩アら 2001

体色型

捕獲枠

イシイルカ型

イシイルカ

北海道1,500

青森県   20

岩手県7,200

宮城県  280

リクゼンイルカ型

イシイルカ

北海道  100

岩手県8,300

宮城県   20

 

現状においても本種は漁期、海域、捕獲枠を含む許可制によって管理されている。しかし、合理的かつ科学的な資源管理をさらに推し進めるためには、本種の生態・資源量、漁業の特性などを考慮した資源管理モデルの構築が求められている(岡村 2002)。本種については、注意深く条件を定めればPBRPotential Biological Removal; Wade 1998)の概念の適用が可能であると考えられる。

 

執筆者

鯨類グループ いるかサブグループ

遠洋水産研究所 鯨類生態研究室

岩ア俊秀(同研究所 吉田英可、宮下富夫、岡村 寛ら支援)

 

参考文献

Amano, M. and Miyazaki1, N. 1996.  Geographic variation in external morphology of Dall’s porpoise, Phocoenoides dalli.  Aquat. Mamm. 22: 167-174.

Anon. 1992.  Japan. Progress report on cetacean research, June 1990 to March 1991.  Rep. Int. Whal. Commn., 42: 352-357.

Anon. 1993.  Japan. Progress report on cetacean research, April 1991 to May 1992.  Rep. Int. Whal. Commn., 43: 277-83.

Hayano, A., Amano, M. and Miyazaki, N. 2003.  Phylogeography and population structure of the Dall’s porpoise, Phocoenoides dalli, in Japanese waters revealed by mitochondrial DNA.  Genes Genet. Syst. 78:81-91.

Houck, W. J. and Jefferson T. A. 1999.  Dall’s porpoise Phocoenoides dalli (True, 1885).  In Ridgway, S. H. and Harrison, R. (eds.), Handbook of Marine Mammals volume 6: The second book of dolphins and the porpoises.  Academic Press.  443-472 pp..

岩ア俊秀・宮下富夫. 1992.  三陸・道東海域におけるイシイルカの夏季の体色型別棲み分け.  平成4年度日本水産学会春季大会講演要旨集. p.108.

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Kasuya, T. 1978.  The life history of Dall’s porpoise with special reference to the stock off the Pacific coast of Japan.  Sci. Rep. Whales. Res. Inst, 30: 1-63.

Kasuya, T and Shiraga, S. 1985.  Growth of Dall’s porpoise in the western North Pacific and suggested geographical growth differentiation.  Sci. Rep. Whales Res. Inst. 36: 139-152.

粕谷俊雄・宮下富夫. 1989.  日本のイルカ漁業の資源管理と問題点.  採集と飼育, 51: 154-160.

Miyashita, T. 1991.  Stocks and abundance of Dall’s porpoises in the Okhotsk Sea and adjacent waters.  43回国際捕鯨委員会科学委員会提出論文 (SC/43/SM7).  24 pp.

宮下富夫. 2002.  2.イシイルカの資源は今−目視調査船による資源量調査結果.  In 遠洋水産研究所(), 平成14年度国際資源調査等推進対策事業岩手県イシイルカ調査報告会抄録. イシイルカの資源と生態. 遠洋水産研究所, 静岡.  7-10 pp.

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大泉 . 2002.  3.イシイルカの生物学. 3-3.イシイルカの食性−胃内容物分析から.  In 遠洋水産研究所(), 平成14年度国際資源調査等推進対策事業岩手県イシイルカ調査報告会抄録. イシイルカの資源と生態. 遠洋水産研究所, 静岡.  18-21 pp.

岡村 . 2002.  4.イシイルカの科学的管理に向けて−資源管理モデルの分析.  In 遠洋水産研究所(), 平成14年度国際資源調査等推進対策事業岩手県イシイルカ調査報告会抄録. イシイルカの資源と生態. 遠洋水産研究所, 静岡.  22-26 pp.

Wade, P.R. 1998.  Calculating limits to the allowable human-caused mortality of cetaceans and pinnipeds.  Mar. Mam. Sci., 14(1):1-37.

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吉岡 . 1996.  イシイルカ.  In 日高敏隆 (監修), 日本動物大百科. 2. 哺乳類U.  平凡社, 東京.  86-87 pp.

吉田英可. 2002.  3.イシイルカの生物学. 3-2.三陸沖と他海域の交流−遺伝性科学による系群分析.  In 遠洋水産研究所(), 平成14年度国際資源調査等推進対策事業岩手県イシイルカ調査報告会抄録. イシイルカの資源と生態. 遠洋水産研究所, 静岡.  10-12 pp.

 

付表1. イシイルカの捕獲頭数(19792005年)

西暦年

イシイルカ型

リクゼンイルカ型

型不明

1979

-

-

6,872

1980

-

-

6,718

1981

-

-

9.803

1982

-

-

12,833

1983

-

-

12,776

1984

-

-

9,764

1985

-

-

10,378

1986

-

-

16,515

1987

-

-

25,600

1988

-

-

40,367

1989

18,953

13,095

-

1990

9,360

12,442

-

1991

4,671

6,457

6,506

1992

3,394

8,009

-

1993

5,731

8,587

-

1994

8,093

7,854

-

1995

7,002

5,394

-

1996

8,038

8,062

-

1997

8,533

10,007

-

1998

5,303

6,082

-

1999

6,379

8,428

-

2000

7,513

8,658

-

2001

8,430

8,422

-

2002

7,614

8,335

-

2003

8,308

7,412

-

2004

4,614

9,175

-

2005

6,880

7,784

-

 

(水産庁遠洋課集計)