海亀類(総説)

御前崎海岸で産卵したアカウミガメ

 


海亀類と漁業の背景

  海亀類は、世界の熱帯域から温帯域にかけて広く分布しており、陸上で産卵・孵化が行われる以外、稚亀から成体亀までそのほとんどが海洋で生活している。海亀類と漁業の関係については、はえ縄漁業、定置網漁業、曳き網漁業、刺し網漁業等で海亀類が偶発的に捕獲される一方で、一部地域では人間の食料として海亀を対象とした漁業や採卵が行われている。このような漁業と密接に関係する海亀類の偶発的な捕獲を如何に減らしていくかが、漁業という人間活動と海亀類の種の存続に大きく関与してくる。また、海亀類の資源に影響を与える要因としては、漁業のみならず、産卵場の環境や海洋汚染など多くの要因が存在することも事実である。現在、水産庁と独立行政法人水産総合研究センターでは、まぐろはえ縄漁業における海亀類の偶発的捕獲の回避策を構築するべく調査研究を実施しており、海亀資源の保全管理と漁業との共存をめざしている。

 

生物学的特性

【種類】海亀類は、現在ウミガメ科56種、オサガメ科11種の計7種に分類されている。東部太平洋に生息するクロウミガメは、形態学的には種とするという意見(Pritchard et al. 1983)と遺伝学的に亜種に留めるという意見(Bowen et al. 1993)があり、種として独立していない。

  オサガメ(Dermochelys coriacea)

  Leatherback Turtle, Leathery Turtle

  アオウミガメ(Chelonia mydas mydas)

  Green Turtle

  アカウミガメ(Caretta caretta)

  Loggerhead Turtle

  タイマイ(Eretmochelys imbricata)

  Hawksbill Turtle

  ヒメウミガメ(Lepidochelys olivacea)

  Olive ridley turtle

  ケンプヒメウミガメ(Lepidochelys kempii)

  Kemp's Ridley Turtle

  ヒラタウミガメ(Natator depressus)

  Flatback Turtle

*クロウミガメ(Chelonia mydas agassizii)

  Black Turtle

【分布と回遊】海亀類は、熱帯域を中心にして世界中に広く分布するが、種によってその分布範囲や回遊経路に違いがみられる(12)。


アオウミガメ

 

オサガメ

 

アカウミガメ

 

タイマイ

 

1. オサガメ、アオウミガメ、アカウミガメおよびタイマイの分布域(濃赤,確実な分布域;薄赤,推定分布域;黄,繁殖場)(EuroTurtle 2006, Marques 1990, Seminoff and the Green Turtle Task Force 2004)

 


オサガメは遊泳能力が高く、高緯度帯にも分布することが知られている(Bleakney 1965)。これまでに明らかとなっている高緯度における分布記録は北緯71度、南緯47度である(Pritchard and Trebbau 1984)。近年、衛星追跡研究によりオサガメの移動経路について明らかになりつつある。日本近海でも定置網漁業等による偶発的捕獲や死亡漂着が確認されている。

  アオウミガメは熱帯域から亜熱帯域にかけて分布し、日本では小笠原諸島と沖縄県で産卵が行われている。アオウミガメは古くから研究されており、繁殖海域と索餌海域がアセンション島とブラジル周辺海域、小笠原諸島と日本沿岸など1,000km以上も離れている場合が多い。

  アカウミガメは亜熱帯域を中心に分布し、日本は北太平洋における唯一の繁殖地となっている。日本で孵化した稚亀は、太平洋を数年かけて横断し、カリフォルニア沖で成長し、繁殖のために日本に戻ってくることが証明されつつある。また、成熟した個体は、繁殖後東シナ海と太平洋に回遊する2グループが存在することが明らかになっている。

タイマイは熱帯域に分布し、日本でも沖縄県で産卵が行われている。近年、衛星追跡研究によりタイマイの移動経路について明らかになりつつある。



ヒラタウミガメ

 

ヒメウミガメ

 

クロウミガメ

 

ケンプヒメウミガメ

 
 

2. ヒメウミガメ、ヒラタウミガメ、ケンプヒメウミガメおよびクロウミガメの分布域(濃赤,確実な分布域;薄赤,推定分布域;黄,繁殖場)(EuroTurtle 2006, Marques 1990

 


  ヒメウミガメは熱帯域に分布するが、東部太平洋では沿岸から数千km離れた外洋でも生息している。本種の分布範囲や回遊経路はよくわかっていない。

  ケンプヒメウミガメはカリブ海を中心とした、限られた海域に分布する。繁殖地はメキシコのランチョヌエボのみであったが、1960年代から米国とメキシコによる本種の繁殖地を増やすための国際共同プロジェクトにより、テキサス州パドレ島においても産卵が見られるようになった。

  ヒラタウミガメはオーストラリア北部を中心とした、限られた海域に分布する。

  クロウミガメは東部太平洋に生息している。繁殖地はガラパゴス諸島をはじめとした、中南米の太平洋岸である。

 

【成長・成熟】海亀類は、年齢とともに甲長等の体サイズが大きくなるが、確固たる年齢査定法は確立されていない。海亀類の上腕骨等に形成される輪紋が年齢形質として利用できるという報告はあるが、年齢査定に関しては未だ情報が不足しているのが現状である。飼育環境下における海亀類の成長に関する知見は多く存在するが、一般に飼育環境下における成長は、自然下における成長よりも速いということが知られている。そのため、海亀類の自然下における成長や成熟に関する知見はほとんど存在しない。

  海亀類の中でも、一般にオサガメが最も成長が速いと言われており、飼育下では1年で甲長40cm成長することが明らかとなっている。アオウミガメは、カリブ海のグランドケイマン島で養殖されており、成長が最も速いもので7年で成熟した例がある。アオウミガメやタイマイは、自然下では成熟するのに2030年はかかると推測されているが、ほとんど明らかにされていないのが現状である。

 

【食性】海亀類の食性は種によって異なる。オサガメは、クラゲやプランクトン等の低次栄養段階の餌生物を摂餌する。アオウミガメ、ヒラタウミガメおよびクロウミガメは、主に草食性であり海草類および海藻類等を摂餌する。アカウミガメやヒメウミガメ類は雑食性が強く、甲殻類や海藻類等を主に摂餌する。タイマイはスポンジ(カイメン)食という独自の摂餌生態を持つ。

 

資源の現況と管理策

【個体群の動向】海亀類各種の個体群動向は世界各国に点在する産卵地によって違いがあり、詳細について把握することは困難な状況にある。1に各種について、文中の以下に示す資料をもとに推定されている産卵雌個体数およびFAO水産報告(No. 738)をもとに個体群の増減についてまとめた。


 


1. 海亀類の個体群動向

種名

産卵雌個体数

太平洋

インド洋

大西洋

オサガメ

35,000

東部:減少
西部:減少

スリランカ:安定
ニコバル諸島:安定
クワズールナタール:増加

カリブ:増加
西部:増加
東部:不明

アオウミガメ

200,000以上

西部:安定
中央部:増加

セイシェル&他のインド洋諸島:安定
北西部:減少
ニコバル諸島:安定

メキシコ湾:増加
カリブ:増加

アカウミガメ

60,000以上

北部:減少(近年増加)
南部:減少

オマーン:安定
スリランカ:安定
クワズールナタール:増加

メキシコ湾:安定
西部:増加

タイマイ

8,000以上

マレーシア:安定
オーストラリア:減少
ハワイ:安定

セイシェル&他のインド洋諸島:減少
ニコバル諸島:安定

メキシコ湾:増加
カリブ:増加

ヒメウミガメ

800,000以上

東部:増加

中東部:減少

不明

ケンプヒメウミガメ

1,000

-

-

メキシコ湾:増加
北西部:増加

ヒラタウミガメ

5,00010,000

北部:安定
東部:安定

-

-

クロウミガメ

3,000以上

東部:減少

-

-

 


オサガメについては、マレーシア、メキシコ、コスタリカ等の太平洋における産卵個体数は減少傾向にあり、絶滅の危機に瀕している。その他の太平洋の産卵場では、インドネシア、パプアニューギニア等の西部太平洋に大きな産卵場が存在する。インドネシアの西イリアンジャヤ州においても減少傾向にあると言える。大西洋には、南米側の仏領ギアナ・スリナムとアフリカ側のガボンが、それぞれ世界で第1位と第2位の大産卵場となっており、個体数の動向は安定していると考えられている。インド洋では、南アフリカ共和国の北東部に位置するクワズールナタール州やスリランカ等に小規模ながら産卵場が存在する。本種の減少要因としてはえ縄や刺し網等の漁業による影響、卵の盗掘や海岸の開発等の産卵環境の破壊による影響が考えられている。現在、世界のオサガメの産卵雌個体数は、大西洋が約28,000個体、太平洋が約6,500個体、インド洋が約450個体で、合計で約35,000個体と推定されている(Spotila et al. 1996)

  アオウミガメの産卵個体数は世界的に減少傾向にあり、オーストラリア個体群の減少が顕著であると考えられている。日本の小笠原諸島における産卵個体数は増加傾向にあり、漁獲対象種として利用されている。これは、1945年から1968年までのアメリカ占領時代における漁獲量の低迷と100年以上にわたる卵の保護が影響しているものと考えられる。現在、世界のアオウミガメの産卵雌個体数は、約20万個体以上と考えられている(Euro Turtle 2006)

  アカウミガメの日本産卵個体数の動向は、1980年代後半に増加傾向を示したが、1990年代では逆に減少傾向に転じ、その後は1997年を最小として近年増加傾向にある。地中海とオーストラリアの産卵個体数は減少傾向にあり、米国大西洋岸の産卵個体数は増加している。現在、世界のアカウミガメの産卵雌個体数は、約6万個体以上と考えられている(Euro Turtle 2006)

  タイマイは、かつてべっ甲材として大量に日本に輸入されたが、現在では海亀類全種がワシントン条約の附属書Tに掲載されていることにより、商取引は行われていない。本種の個体群は減少傾向にあるが、近年、カリブ海における本種の産卵巣数は増加傾向を示している(Marquez-M. et al. 2002)。現在、世界のタイマイの産卵雌個体数は、約8,000個体以上と考えられているが、詳細については不明である(Euro Turtle 2006)

  ヒメウミガメは、集団産卵(アリバダ)をすることで知られている。メキシコのラ・エスコビラ産卵場においては、1987年では57,000巣であったのが、2001年では100万巣以上とここ10年間で急増している(Marquez-M. et al. 2002)。コスタリカでは保護活動の成功により、本種の産卵個体数は増加傾向にある。インドでは産卵個体数は数十万個体に達するが減少傾向にある。東南アジアの個体群はほぼ絶滅状態にある。現在、世界のヒメウミガメの産卵雌個体数は、約80万個体以上と考えられているが、詳細については不明である(Euro Turtle 2006)

  ケンプヒメウミガメは、1970年代に絶滅の危機に陥ったが、米国沿岸域のエビトロール漁業の禁止、TED (Turtle Excluder Device:海亀排除装置)の開発と強制使用の法制化、米国による中南米諸国へのTED使用の圧力により、増加傾向にある。現在、世界のケンプヒメウミガメの産卵巣数は、約2,000巣と考えられており(Euro Turtle 2006)、これはおよそ1,000個体と考えられる。

  ヒラタウミガメの個体群の動向については不明である。現在、世界のヒラタウミガメの産卵雌個体数は、5,00010,000個体と考えられている(Euro Turtle 2006)

  クロウミガメは、減少傾向にあると言われているが、詳細な調査は行われていない。現在、世界のクロウミガメの産卵雌個体数は、約3,000個体以上と考えられる(Euro Turtle 2006)

 

【漁業による影響】陸上で産卵を行う繁殖個体に対する影響として、沿岸域における定置網漁業、まき網漁業、さし網漁業、底びき網漁業等による偶発的捕獲が考えられている。特に、大回遊を行うオサガメ以外の海亀類については、沿岸域の漁業活動が資源に大きく影響を与えているものと考えられている。しかし沿岸漁業による偶発的捕獲数は不明である。外洋域における影響としては、海亀類の索餌回遊水域により種によって違いがみられ、オサガメ、アカウミガメおよびヒメウミガメははえ縄漁業による影響が考えられている。また、一部地域では人間の食料として海亀類を対象とした漁業が行われている。沿岸漁業および遠洋漁業による海亀資源に対する定量的な影響評価についてはまだ明らかにされていない。

 

【漁業以外の影響要因】繁殖海岸では、光公害、人為的阻害、漂着物や廃棄物の産卵阻害、堤防等の人工建造物による産卵阻害および海岸の浸食による産卵条件の不適合等の海岸環境の悪化によって、産卵成功率の減少、ふ化率の減少、ふ化稚亀の入海数の減少、ふ化稚亀の沖合への遊泳行動への悪影響が存在する。産卵雌個体や卵の採取も発展途上国において、海亀類の資源に重大な影響を与えている。自然条件下では、台風や高波による卵の流失や卵の窒息死亡、高温化によるふ化時期の胚死亡がみられる。また、近年海岸でみられるようになった、タヌキやキツネ等の動物による卵の食害も問題視されている。海洋における漁業以外の影響要因として、海亀類が浮遊する人工ゴミを餌生物として誤飲することや環境ホルモンの影響も問題として考えられている。

 

【海亀類の保全管理策】海亀類は、種別の個体群の大きさやその動向にかかわらず、全種がワシントン条約の附属書Tに掲載されている。

  漁業に関しては、エビトロール漁業による海亀類の偶発的捕獲が問題となっているが、米国による中南米や東南アジア諸国等の他国へのTED強制使用と回避措置なしで漁獲されたエビ類の輸入規制が実施されている。また、2001年より米国は北太平洋や北西部大西洋における自国のメカジキを主体としたはえ縄漁業を規制している。はえ縄漁業による海亀類の偶発的捕獲の回避策を構築するために、通常のまぐろ鈎と異なるサークルフック(3)による混獲率の解明、はえ縄餌の種別混獲率の解明などが日本と米国が中心となり操業試験が実施されている。アカウミガメにおいては、サークルフックの方が飲み込みによる喉掛かりの割合が低くなるため生体へのダメージが軽減されること(4)、イカ類を餌とするよりも魚類を餌とした方が偶発的捕獲の割合が約4分の1になることが確認されている。また、日本でははえ縄漁業により捕獲された生存海亀類については、適切な保護放流ができるように海亀用鈎外し器具の開発(5)や漁業者に対する啓蒙普及を実施している。全ての海亀類は産卵のため沿岸域に集結するため、定置網、さし網などの沿岸漁業による偶発的捕獲も大きな問題となっているが、現状ではほとんど対策が行われていない。現在、日本では、エビトロールのTEDを応用して定置網における海亀排除装置の開発および試験を行っている。


3. 通常まぐろ鈎(左)とサークルフック(右)

4. 通常まぐろ鈎とサークルフックによるアカウミガメに対する鈎掛かり位置の割合

 

図5. 海亀用鈎外し器具

 

  産卵場の環境に関しては、護岸や居住等の人工建造物による海岸の開発、海岸浸食、外敵による食害、観光による産卵阻害など多くの問題が存在する。一部の地域では養浜等の保護活動が実施されているが、その活動は世界各国に多くの産卵場をもつ海亀類にとって十分であるとは言えない。また、一部の地域では産卵個体や卵の捕獲が行われており、このような人々にとっては貴重な水産資源として利用されている。メキシコにおいては、1990年より海亀を対象とした漁業や採卵を禁止するなど海亀類の保護を実施し、ヒメウミガメの急増はその効果の現れであるとされている。世界的に海亀類にとって最適な産卵環境が減少している中、海岸の環境に関する定量的な情報は不足しているのが現状である。

  現在、遠洋漁業による海亀類の偶発的捕獲に焦点が集中しがちだが、海亀資源を保全管理するためには、遠洋漁業のみならず沿岸漁業も含めた産卵場周辺の環境についても、包括的かつ継続的な調査の実施と適切な保全管理体制の構築が必要不可欠である。

 

執筆者

  (NPO)エバーラスティング・ネイチャー

  菅沼弘行

  混獲生物サブグループ

  遠洋水産研究所混獲生物研究室

    浩史


参考文献

Bowen, B.W., Nelson, W.S. and Avise, J.C. 1993. A molecular phylogeny for marine turtles: Trait mapping, rate assessment and conservation relevance. Proc. Natl. Conserv. Biol., 1: 103-121.

Bleakney, J.S. 1965. Report of marine turtles from New England and eastern Canada. Canadian Field Nat., 79: 120-128.

Euro Turtle. 2006. Sea Turtle Outlines. http://www.euroturtle.org/outline/outline.htm (24 October 2006)

FAO. 2004. Report of the expert consultation on interactions between sea turtles and fisheries within an ecosystem context. FAO Fisheries Report No. 738.

Seminoff, J. and the Green Turtle Task Force. 2004. Green turtle (Chelonia mydas), red list assessment. Marine Turtle Specialist Group, the World Conservation Union (IUCN). 34 pp.

http://www.iucn-mtsg.org/red_list/cm/MTSG_Chelonia_mydas_Assessment_April-2004.pdf (1 November 2006)

Marquez-M., R., Carrasco-A., M.A. and Jimenez, M.C. 2002. The marine turtles of Mexico: an update. In Kinan, I. (ed.) Western Pacific Sea Turtle Cooperative Research & Management Workshop. Western Pacific Regional Fishery Management Council, USA. 281-285 pp.

Pritchard, P.C.H., Bacon, P., Berry, F., Carr, A., Fletemeyer, J., Gallagher, R., Hopkins, S., Lankford, R., Marquez-M., R., Ogren, L., Pringle, W. Jr and Witham, R. 1983. Manual of sea turtle research and conservation. Techniques. Second Edition. In Bjorndal, K.A., and Balazs, G.H. (eds.) Center for Environmental Education. Washington D.C. 1-126pp.

Pritchard, P.C.H. and Trebbau, P. 1984. The turtle of Venezuela. SSAR Contrib. Herpetology 2: 1-403.