アブラツノザメ(日本周辺、Spiny Dog FishSqualus acanthias

最近一年間の動き

 2004年の沖合底びき網漁業(以下沖底)の漁獲量は太平洋では増加し、日本海では2004年より減少した。CPUEは太平洋の尻屋崎海区や日本海で減少し、その他の太平洋各小海区では若干増加したが依然低い水準にある。

 

利用・用途

東北地方では刺身や煮物、照り焼きなどで食されるほか、かまぼこ原料として利用される。また、肝油や軟骨エキス等の栄養補助食品の原料の一つになっている。

 

漁業の概要

 アブラツノザメは北日本の太平洋側や日本海側においてかなり古い時代から漁獲されていたものと思われる。しかし、本種が漁獲対象として注目されるようになったのは、明治30年代末頃からであり、北海道、青森、秋田、石川県などで当初はマダラやオヒョウなどを対象とした底はえ縄漁船の兼業として漁獲された。その後大正年間に至り、魚粕の高値に伴って一時的に発展したり、暴落により衰退したりを繰り返した。また、大正時代には北海道や青森県などで底さし網漁業が導入され、北海道では各地に普及して大きな漁業となっていったが、青森県では34年で再び底はえ縄に転換する漁船が多かった。(田名部ほか 1958)

 昭和初期になると、機船底びき網漁業でアブラツノザメを漁獲するようになった。しかし、第2次世界大戦頃には資材の不足により底はえ縄による漁獲が主体となった。戦後は食糧増産政策に伴い主に機船底びき網により積極的に漁獲されるようになり、急激に漁獲量が増加し、19521955年の平均漁獲量は42千トンに達した(表1)。

表1. 19521955年の海区別アブラツノザメ漁獲量(田名部ほか1958を改変)

海区

1952

1953

1954

1955

平均

総計

59,805

35,730

40,114

32,678

42,082

北海道総計

36,439

14,070

15,326

14,228

20,016

東北区

15,574

10,286

12,045

11,276

12,295

南区

3,698

2,445

1,493

1,331

2,242

西区

5,910

1,328

1,781

1,358

2,594

太平洋総計

23,051

14,201

16,024

11,779

16,264

北区

22,916

14,070

16,024

11,771

16,195

中区

56

83

0

0

35

南区

79

41

0

0

30

日本海総計

8,854

7,448

8,760

6,664

7,931

北区

7,185

6,113

8,258

6,105

6,915

西区

1,669

1,331

499

559

1,014

東支那海総計

0

4

0

0

1

瀬戸内海総計

0

0

0

0

0

 

 

 

 

 

単位トン

 

アブラツノザメは多くの統計資料でさめ類に含めて扱われているため、その後の漁獲量については明確ではない。太平洋北区については、1971年以降は沖合底びき網漁業(以下沖底)漁獲成績報告書にアブラツノザメとして漁獲量が記載されている。それによると太平洋北区におけるアブラツノザメの漁獲量は1970年代前期には1,000トン前後であったが、その後は増減しながら次第に減少し、2003年は123トンと過去最低となった(1)。2004年は130トン、2005年は231トンと若干増加した。太平洋北区を小海区別にみると、漁獲量が多いのは襟裳西海区および尻屋崎海区で、いずれも大部分が青森県船によるものである。

1 沖合底びき網漁業によるアブラツノザメの海区別漁獲量(1971年〜2005年)

 

日本海の沖底漁獲成績報告書ではサメ類として報告されているが、その大半はアブラツノザメである(南私信 200312月)。日本海における漁獲量も1970年代には1,000トン程度であったが、その後減少して2004年以降は100トン程度である。

なお、2005年の漁獲量は襟裳西海区を含む太平洋北区が213トンと増加したが、日本海は60トンで(図1)、1971年以降では最も低い値となった。

北海道所属の沖底船の漁獲成績報告書では、サメ・エイ類として報告されているため、アブラツノザメの漁獲量は明らかではないが、近年は10トン程度と推定される(八吹私信 200312月)。

 2005年における沖底船による緯度経度10分升目の漁獲量分布図をみると、太平洋側、日本海側ともに東北地方北部が漁獲の中心になっている(2)。

2 2005年の沖合底びき網漁業によるアブラツノザメの漁獲量分布。日本海ではサメ・エイ類、北海道ではサメ類の漁獲量であり、いずれも大部分がアブラツノザメと推定される。

 

 沖底以外の漁獲量については、一部未集計の地域等があるが、1999年以降の青森県による漁獲量が整備されつつある。これによると、1999年以降の沖底を除いたアブラツノザメの漁獲量は1999年は540トン、20002003年は400トン前後で沖底の漁獲量を上回ったが、2004年は250トン、2005年は190トンに減少した(3)。さし網、定置網、はえ縄・一本釣り等で漁獲されているが、はえ縄・一本釣りが漁獲量の大部分を占めている。

 

3 青森県におけるアブラツノザメの漁獲量(沖底を除く、19992005年)

      太平洋側の漁獲量が含まれていない数値

 

 

生物学的特性

【分布】北太平洋の全域、東西の北大西洋、地中海、オーストラリアの南岸、アフリカ大陸の南端および南アメリカ大陸の南部など、熱帯、亜熱帯地方を除くほぼ全域に広く分布する(阿部 19864)。日本周辺では東北、北海道に多く、太平洋側では千葉県以北、日本海側では日本海の西部まで生息している(吉田 1991)。東北地方の太平洋側では水深150300 mに分布する。

4 アブラツノザメの分布

 

【産卵・回遊】本種は卵胎生で、妊娠期間は2022ヶ月と長く、25月に全長30 cm程度の稚魚を産む(吉田 1991)。回遊についての詳細は不明であるが、北太平洋で実施されたサケの調査(流し網とはえ縄)において本種が混獲されているとともにカナダ太平洋岸で標識放流されたものが、東北地方で再捕された例が少なくとも12個体ある(稲田 1992)。また、19857月にバンクーバー付近で標識放流されたアブラツノザメが、20039月に青森県下北半島沖で再捕された。詳細はあきらかではないが、このほかにも数例以上の再捕報告があるようである。以上のことから、本種は北太平洋で広く交流があると推定される。

【成長・成熟】カナダのブリティッシュコロンビアでは生後30年で雄は全長90 cm、雌は1 mに達し、雌は60歳以上になる。成熟年齢は、雌では生後23年(全長約90 cm)、雄では生後14年(全長約70 cm)である(Ketchen 1975)。北日本の沿岸域でも産卵すると推定されるが、産卵場は特定されていない(5、表2)。

5 アブラツノザメの雌雄別海域別年齢−全長関係(Ketchen 1975より作成)

 

2. アブラツノザメの雌雄別海域別年齢−全長関係式

Ketchen 1975

Hecate Strait 

F

Lt=125.1(1-e-0.031(t+10.6))

M

Lt= 84.7(1-e-0.092(t+3.7))

Georgia Strait

F

Lt=129.1(1-e-0.034(t+7.3))

M

Lt= 96.1(1-e-0.067(t+5.0))

Washington coast

F

Lt=152.9(1-e-0.036(t+6.7))

M

Lt=101.8(1-e-0.071(t+5.2))

 

【食餌・捕食者】主に魚類および頭足類を補食する。本種の捕食者は不明である。

 

資源状態  

【資源の動向】アブラツノザメの資源の動向を、太平洋北区および日本海における沖底のCPUEの動向によって判断した。

太平洋北区の沖底網漁業では3つの漁法による操業が行われている。青森県ではかけまわし、岩手県では2そうびきとかけまわし、宮城、福島、茨城、千葉の各県ではオッタートロールである。また、日本海では、島根県で2そうびき、その他の県ではかけまわしにより操業が行われている。それらのCPUEをみると、太平洋北区ではいずれの海区・漁法においても近年は大きく低下している。2005年のCPUEは襟裳西海区が37.0 kg/網、岩手海区の2そうびきでは10.2 kg/網と2004年より増加し、尻屋崎海区が8.6 kg/網、岩手海区のかけまわしが2.0 kg/網と減少した。オッタートロールでは、金華山海区で11.7kg/網、常磐海区で6.1kg/網、房総海区で2.8kg/網と、2004年よりも増加した。しかし、1970年代および1980年代前半の12割程度の低い値となっている(6)。

6 沖合底びき網漁業による太平洋北区および日本海(かけまわし)におけるアブラツノザメのCPUE。太平洋北区は19722005年、日本海は19712005年。

 

日本海のかけまわしによるCPUE1970年代の3050 kg/網から大きく減少し、1980年代には10 kg/網程度となった。1990年以降は4.715.7 kg/網で変動しながらほぼ横ばい傾向である。2005年は前年よりもさらに減少して5.2 kg/網で、1970年以降では過去2番目に低い値となった(6)。

 漁獲量およびCPUEの動向から、近年のアブラツノザメ資源は極めて低い水準にあるといえる。

【漁獲圧の動向】太平洋北区におけるアブラツノザメに対する漁獲圧を沖底によるアブラツノザメの有漁網数としてその動向をみると、襟裳西海区および尻屋崎海区では1990年以降はほぼ横ばいの状態で推移している。2005年はそれぞれ2,044回および4,253回で、前年よりも増加した(7)。

7 沖合底びき網漁業による太平洋北区および日本海(かけまわし)におけるアブラツノザメの網数。太平洋北区は19722005年、日本海は19712005年。

 

岩手海区のかけまわしでは大きく減少しているが、これはかけまわしから2そうびきへの転換が進んだためである。

岩手海区の2そうびきでは1990年代前半までは3,000回以上の高い水準であったが、1998年以降は急激に減少して2002年以降は1,0001,400回で推移しており、2005年は1,120回であった(7)。

金華山および常磐のオッタートロールでは年による変動は大きいが、1990年代以降網数は増加しており、2005年はそれぞれ5,872回および2,830回であった。

日本海(かけまわし)における網数(有効努力量)は1980年代後半の40,000回台から大きく減少し、2003年、2004年と10,000回を下回ったが2005年は11,531回と増加した(7)。

以上のことから、日本海におけるアブラツノザメへの漁獲努力量は減少しているが、太平洋北区での漁獲努力量は1990年以降も依然として減少していないと判断される。

【資源水準・動向】アブラツノザメの漁獲量は1952年には約6万トンに達したが、その後大きく減少し、1993年以降は太平洋北区および日本海を合わせても1,000トン以下となり、さらに減少傾向にある。1950年代は近年に比べてかなり積極的に本種を漁獲していたと考えられるため、漁獲量の差が資源水準の差を単純に反映しているとは考えられないが、資源水準には大きな差があると推測される。また、1970年代以降の沖底の漁獲量は減少し、襟裳西海区、尻屋崎海区および日本海におけるCPUEも大きく減少している。

以上のことから、アブラツノザメの資源水準は低位で、減少傾向であると判断される。

 

管理方策

本種の寿命が極めて長いこと、および成熟に達するのに雌で23年、雄で14年を要することを考えると、1950年代の資源水準への回復は極めて困難であると思われる。しかし、これ以上の資源の減少を防ぐためには、努力量を現状よりも増加させないことが望まれる。

2004年のワシントン条約第13回締約国会議において、ドイツが附属書Uに提案する予定であったが、各国との事前協議の結果、本会議には提案されなかった。2007年のワシントン条約第14回締約国会議での附属書Uに提案に向けた動きが再燃している。

 

 

執筆者

 まぐろ・かつおグループ

混獲生物サブグループ

 東北区水産研究所 八戸支所

 伊藤正木

 

アブラツノザメ(日本周辺)の資源の現況(要約表)

資源水準

低位

資源動向

減少

世界の漁獲量

(最近5年)

我が国の漁獲量

(最近5年間)

469935トン※

平均:673トン

管理目標

検討中

資源の状態

検討中

管理措置

検討中

管理機関・

関係機関

なし

※漁獲量は沖底(太平洋北区、日本海、北海道)と沖底以外による青森県の漁獲量の合計

 

参考文献

阿部宗明 (編・監修). 1986.  決定版生物大図鑑 魚類.  世界文化社, 東京. 431 pp.

稲田伊史. 1992.  カナダ太平洋のアブラツノザメ (総述).  In 東北区水産研究所(), 12回東北海区底魚研究チーム会議報告.  東北区水産研究所, 塩釜.  40-43 pp.

菅野嘉彦. 1954.  あぶらつのざめの生態について.  対馬暖流開発調査 1 回シンポジウム発表論文. 209-211 pp.

Ketchen, K.S. 1975.  Age and growth of dogfish Squalus acanthias in British Columbia waters.  J. Fish. Res. Board Can., 32: 43-59.

日本海区水産研究所(). 19692006.  日本海区沖合底びき網漁業漁場別漁獲統計資料.  日本海区水産研究所, 新潟.

大内 . 1956.  重要魚族の漁業生物学的研究 アブラツノザメ.  日本海区水産研究所報告, 4: 141-158.

田名部正春・福原 章・菅野嘉彦・鵜川正雄・遊佐多津雄・小島伊織・長峰良典. 1958.  対馬暖流開発調査報告書. 第4号. 水産庁, 東京. 84 pp.

東北区水産研究所八戸支所 (). 19712006.  太平洋北区沖合底びき網漁業漁場別漁獲統計資料. 東北区水産研究所, 塩釜.

吉田英雄. 1991.  アブラツノザメ.  In 長澤和也・鳥澤 (), 北のさかなたち.  北日本海洋センター, 札幌.  6-7 pp.